スーパー五色旗に超栄光あれ! 作:戦え民主主義
いまは戦ふ時である
戦嫌ひのわたしさへ
今日此頃は気が昂る
「学生諸君」
コツ、コツと軍靴の音を鳴らして、集められた士官学校の生徒たちを前へ進み出た“彼”。
参謀本部の作戦部長と三軍合同会議(海軍と空軍が壊滅した今となっては、陸軍と空軍輸送機部隊の連絡会議である)の議長を兼任する、実質的に共和国軍を指導する男が、少年少女の域を出ない候補生たちに向けて口を開く。
「これから見せるのは国家の最重要機密だ」
ごくり、と誰かが唾を飲み込む音。
共和国の最重要機密とは、いったいなんなのか。
「(どうせ、アレだろうな)」
候補生たちが期待と不安の眼差しを向ける中、ダスティン・イェーガー候補生は冷めた視線を“彼”に注いでいた。
共和国はクソだが独裁国家ではない。情報統制も報道管制もない、都合のいい軍広報に誰もツッコミを入れないだけの無気力な国でほんの少しでも85区の外側に興味のあるものは誰もが知っていること。
「諸君らは実物をみるのは初めてだろう。偉大なる共和国の先進科学の結晶、自律型多脚式戦車M1A4〈ジャガーノート〉だ」
そして格納庫の隔壁が音もなく開いていく。
かつては共和国の空を護りし制空戦闘機を納めていた
それに悠々と近づいた“彼”は、そのメンテナンス・ハッチの開閉レバーを操作する。
「!」
あ、開けた! コイツやりやがった!!
共和国科学の結晶(笑)のメンテナンス・ハッチの先には、もちろん
そこには申し訳程度のクッションと4点式ベルト、それにジョイスティックにて構成された操縦席と呼ぶしかないモノが鎮座していた。
「現在MRIで開発、評価試験中のジャガーノートG型。〈ジャガーノート・ガンナー〉だ」
まあ詳細は教官などに聞いてくれと丸投げした“彼”は、そのままメンテナンス・ハッチに
本機は対人戦を想定し、それに伴う致死的戦闘行為におけるヒューマンインザループの実現を云々と一応の言い訳をしつつも、そこにあるのは有人式無人機に違いはないわけで……。
「さて。それでは特別講義を開始する」
戦前通りの陸戦カリキュラムの一環だと“彼”は言っていたが…………これは絶対違うだろとダスティンは思った。
『クソ、突破された!』
『後退しろ後退しろ、最終防衛ラインまで撤退!』
『統裁官より各位。グリッドC12から13に効力射、現時点で当該区域の塹壕外にいる人員は全員重傷判定とする』
『本部本部! 右翼に伏兵です、距離は』
『コラ! お前はもう死んだだろ死体が喋るな!!!』
ひどい。
たかが3個分隊12機の
それも先ほどのG型ではなく、型落ち機種と説明されたE型によって。
『学生諸君、君らは教範も読んでいないのか? 今やっているのは初歩的な対戦車戦闘だぞ。適切な障害と
とにかくこっちは時速60キロで突っ込んできたりワイヤーアンカーで横にすっ飛んだりする
しかしそれも、たちどころに突破される。
「と、いうわけだ学生諸君。共和国軍の保有するジャガーノートがいかに優秀か、これで理解できただろう」
「「「…………」」」
はい、と答える気力すら粉砕された候補生たち。
その一員になってしまったダスティンは、このとき初めて恐怖を覚えた。
「(これを、エイティシックスの人たちは運用している)」
地雷原があるから、迎撃砲があるから。
エイティシックスたちが共和国に歯向かわない理由をそう考えていたが、本当にそうだろうか?
この機体が一機でも
そんなダスティンの考えは、次に繰り出された“彼”の発言で肯定される。
それも、考えつく中で最悪の方向性で。
「共和国政府は最新型のG型を用い、
「!!!」
それは、つまり。
「……この機体を、85区防衛に……!?」
「ふむ。察しがいいのがいるな」
しまったと思うも後の祭り、口は災いの元。
ずんずん向かってくる“彼”にダスティンは後ずさり。
「候補生、申告せよ」
「っ! ダスティン・イェーガー候補生であります!!」
「結構。イェーガー学生、君は何のために学ぶ?」
「勝つためであります!」
“彼”は問いかけた訳ではない。
士官学校のモットー「彼ら勝つために学ぶ」を諳んじさせるためだ。
「そうだ。偉大なる共和国の勝利のために諸君らは学ぶ。85区防衛は勝利のために行われる」
「……!」
分かっていたことだ。
〈レギオン〉の全停止までカウントダウンが迫れば、共和国は戦後のことを考える。
戦後とはつまり、分断されていた各国との国交が回復し、共和国が
だから、その前に消してしまおうというのだ。全ての痕跡と、命を。
ジャガーノートG型、つまり最新型の……きっとまだエイティシックスたちには配備されていないジャガーノートで。
「(最低だ)」
自分たちは戦う気のない共和国も。
そんな共和国に従わなければ力を得られない、自分も。
革命大通り
『♪ラララ ラララララ ラララ ラララララ』
通り一面に並んだ五色旗。
偏執的な高度制限によりピタリと背丈の並んだ街区。
『♪ラララ ラララ ララララ ララ ララララ』
合唱団が歌うのは勝利の歌。
革命を、民主主義を讃える詩。
『♪胸に勲章をつけて 戦友たちが集まってきたよ』
『♪戦勝の喜びを抱いて 戦友たちが集まってきたよ』
大通りを行進する「戦友たち」の映像をみて、ウラディレーナ・ミリーゼは大きなため息。
「……普段は無人機扱いなのに、こんな時だけ戦友だなんて」
「なにいってんのレーナ、昔からある歌詞に文句言ってもしょうがないでしょ」
それよりほら、化粧崩れてないかチェックするわよと前に回り込んでくるアネットに、ぶすっとした表情を崩さずミーナは続ける。
「上級大将は話の通じる人だと思ってたのに」
「まだ根に持ってるの? G型の件」
「当たり前でしょ!?」
ジャガーノートG型。世界最高水準の傑作無人機〈ジャガーノート〉に射手を乗せる新型機。
その目的は、来るはずのない戦後にエイティシックス達と戦うため。強制収容に
きっと勤勉な“彼”のことだから、少しずつ弾薬補給を削ったり食糧供給を絶ったりするのだろう。それで弱って、耐えられなくなったエイティシックスをG型で
最大の敵は働き者の無能な味方とはよく言ったものである。
「私はむしろ安心したわよ? “彼”が共和国のバグじゃなくて共和国政府の正常な部品だと分かって」
「……信じてたのに」
「甘いわねぇ」
とはいえ。そんな甘さがあるからこそ。
理想が理想に過ぎないと知ってもなお、理想を諦めずに目指すからこそ。
この親友はエイティシックス達の信頼を勝ち得るのだろうとアネットは思う。
「でも正直、都合が良かったと思わない?」
「都合がいい? どこが……」
首を傾げるレーナに、アネットは指を立てる。
「戦後に『残った』エイティシックスを共和国がどうするつもりなのか、その答えが今回のG型なわけじゃない?」
ギアーデ帝国の無人殺人機械である〈レギオン〉には暴走を防ぐため時限式の安全装置がある。
このため〈レギオン〉は近々全ての機体が停止し、戦争は終わることになっている。
「でも、実際には戦争は終わらない」
なぜなら〈レギオン〉は人の脳構造を模倣することで延命を計るから。
「上級大将はそれを知らないから、呑気にあんなものを作ってるのよ!?」
「いいのよ知らなくて。そうと知らず、来ない戦後に備えてせっせと
それで戦争が終わらなければ“彼”はどうすると思う?
「……」
「レーナもわかってるでしょ。もう86区は保たない」
そう。色々な言い訳をつけて成立した86区行政府は限界を迎えつつある。
これまではなんとか、壁内への資源供給(主要輸出品:レギオンの残骸)や
なにより、もう次の世代がいない。
「だから、最後には“彼”の作った
「それは、そうかもだけど……」
納得いってませんと顔にデカデカと書いてある親友。その表情が2人きりでないと見れなくなっていることを知っているアネットには、目の前の彼女と“彼”が似ているように見えた。
迫りくる破滅的な未来を知ってなお諦めない。
それどころか不条理な現実に憤慨し、あらゆる手段で別の道を模索し続ける。
『♪8・25 我らの8・25 勝利の8・25』
『♪戦友よ あの日の我らの歌を 共に歌おう』
空虚な詩に大通りの映像が映る。
このパレードが終われば、大空に花火が打ち上がって革命祭は最高潮を迎えるだろう。
『♪一瞬も勝利への信念を失うことはなかったさ』
『♪時には勝利のために命を捧げることもあったさ』
そして、今日も共和国は滅亡への歩みを1日進める。
『♪燃える戦線の道と 溶鉱炉の前で』
『♪我らは心一つに この日のために力強く戦ったのさ』
次の革命祭は、きっと一緒に花火を観ようって約束したのに。
『♪8・25 我らの8・25 勝利の8・25』
『♪戦友よ あの日の我らの歌を 共に歌おう』
早くまた、あなたの声が聞きたい。
いつか会う日までと閉じた
そのレイドデバイスに凶報が飛び込むまで、あと少し。
グラン=ミュール内共和国の再武装に関する補足のようなお話でした。
この世界のレーナ嬢はスピアヘッド戦隊の面々と色々あった後、特別偵察作戦を立案して実行しています。
なお作戦の根拠である「他国の存在」を説明するためにシンの異能のことを大真面目に書こうとして皆に怒られた模様。