ヤンデレ達の夜~貢がれるYAMA育ち~   作:春玉サロン

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 『青子・有珠TRUEEND』最終話となります。
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 (9,662文字)






第15話 魔法使いの夜・後日談2青子・有珠END

 

 12月31日・21時45分・久遠寺邸

 

 居間で出来合いのお節料理に舌鼓しつつ怠惰を貪る三人。メイン料理も食べ終えた頃に草十郎が購入してきたケーキを冷蔵庫から取り出す。

 

 紙箱の中には三つのケーキが入っており、青子はオペラケーキを選び、有珠はギネスケーキを選択した。草十郎は最後に余ったショートケーキを食べ始める。

 

 本日三度目のお茶会を楽しみつつ、品のある甘味を堪能する。何処かソワソワしている彼女たちのことが気になるのだが、このケーキの前に他の事を考えるのは無粋。フォークで頂点のイチゴを突き刺そうとしたら──

 

「え、ウソ! 草十郎。

 アンタ、先にイチゴを食べる気なの!?」

「だって、邪魔だろ?」

「有り得ない…………

 普通は最後まで残しておくものでしょ? 

 有珠はどっち派? 先に? それとも最後?」

「………イチゴが飾ってある位置まで食べ進めて、

 一緒に食べるのがマナーよ。青子」

 

 フォークで小さくケーキを切り取り、口に運ぶ黒衣の少女。ケーキを飲み込むと────

 

「でも、どうしても邪魔な場合は別のお皿に移してもいいから、どちらが正確とかはないはずよ」

「へえー、でも私は最後に残しておくな。

 だって、ショートケーキのイチゴがメインでしょ?」

「ケーキなのに?」

「そうよ。

 日本人たるもの最後まで隠し玉は残さないとね」

 

 訳の分からない理屈に眉を潜める草十郎。

 しかし、突き刺したイチゴを口に放りこみ酸味を堪能する。イチゴの周りには水飴のような透明な甘味でコーティングされており、素材の甘みとマッチして唾液腺が更に活性化させる。

 

 正面で”勿体ない”と呟きながら自分のオペラケーキを堪能する青子。有珠がケーキを十分の九ほど食べ終えた時に青子は紅茶を飲み干して草十郎の方を見つめる。

 

「突然だけど、草十郎は神社って行ったことある?」

「神社って教会みたいな場所だろ? 

 知っているけど、見たことはないな」

「────、 物凄い勘違いをしてそうだけど…………

 まあ、いいや。

 この後、三人で初日の出を見に行かない?」

「────────」

 

 黒衣の少女は黙ったままケーキを食べ終える。

 

「すまない、青子。

 初日の出ってなんだ?」

「言葉の通りなんだけど、

 元旦の日に日の出を見ることよ」

「…………静稀君は嫌?」

 

 少女たちから強い意思を感じるのだが、

 草十郎としては疑問点があった。

 

「何でそんな無駄な事をするんだ? 

 日の出なら毎日見えるだろ?」

「無駄なことでも意味を与えるのが日本人なの。

 それでどうなの? 一緒に行くの? 

 草十郎が断るならこの話はなかったことにするけど」

 

「いや、別に嫌だから聞いたわけじゃないんだ。畏まりました。それで日の出を見るってどうすればいいんだ?

 このまま起き続けて、待てばいいのか?」

「だから、一緒に行くって訊いたでしょ? 

 さっきも言ったけど、今から神社に行って年越しするのよ。この時間でも大勢の人が集まっているからお祭り騒ぎよ。きっと」

 

 眼を見開き驚く草十郎。

 ”なるほど、祭りなのか”と一人で納得する。

 

「今から朝日を待つと八時間以上は起き続けることになるけど、ふたりは体力的に大丈夫か?」

「徹夜ぐらい丁度いい精神修行みたいなもんだし、

 今さらその程度の事で心配しなくても大丈夫よ」

「………私も大丈夫だから静稀君は気にしないで」

 

 ふたりの少女は行く気満々なのかやる気で満ちていた。

 

「分かったよ。みんなで一緒に行こう。

 それで神社はどこにあるんだ?」

「一度、坂を下って一駅先の別の坂を登るだけだし、

 神社は隣の山の中原にあるから

 そんなに遠くはないわ。

 それでも寒いと思うからちゃんと厚着してきて」

「────」

 

 少年は頷いて自室の屋根裏部屋に戻り、防寒着を着て階段を降る。居間に戻ると始めから準備をしていたのか、化粧もバッチリ決めた白いダッフルコートと黒いロングコートを着込んだふたりの少女がいた。

 

「草十郎も準備はできたようね」

「……なら、早く行きましょう」

 

 ふたりの少女の後に続き居間から出る。外は粉雪が舞い散り、手袋がない少年はコートのポケットに両手を入れた。幾度も下ったはずの坂だが、三人一緒に降りたことは今まで一度もなかった。

 

 コートの中もまだ保温性がなく手が冷たい。坂を降りながら手に吐息を当てて温めているとその様子を彼女たちがジッと観察している。

 

「どうしたんだ? 二人とも?」

「いや、別に……

 それよりも早く行きましょう。

 きっと、もう神社は参拝客で賑わっているはずよ」

「……そうね」

 

 煮え切らない態度が気になるのだが、温めた手をコートに納める。坂道を降るとそろそろ街灯も増えて参拝客とも遭遇するだろう。少年の頼もしい背中を眺めていると青子はあの夜の事を思い出した。

 

 黄金の人狼を圧倒する格闘能力、橙子に操られても最後まで抗い、一撃で自身の心臓を打つ抜く技術。あの夜の青子なら草十郎の記憶を借りたため理由を知っている。しかし、貸し借りを精算した今の彼女には知る由もない。

 

 今までも気になっていたのだが、結界の修復や霊脈の管理、協会への始末書などで忙しく終ぞ聞く暇がなかった。だから、参拝客と遭遇するまでのこの数分間に少し草十郎の過去を知ろうと考えた。

 

「待って、草十郎。

 ちょっと訊きたい事があるの。

 ─────、 アンタ、山で何をしていたの?」

 

 青子の問いに今まで見た事がないほど、

 辛そうな顔になる少年。

 

「────、 そうだな。

 つまらない話だけど…………

 それでも聴きたいか?」

 

「…………別に草十郎が言いたくないなら、

 これ以上は訊かないけど…………

 有珠もそれでいい?」

「私は────、知りたい」

 

 珍しく真っ向から否定する黒衣の少女。自身の知識欲なら聞かない選択肢もある。しかし、あの身体能力、殺害能力は異常であり、草十郎を育てた組織から足抜けした彼を襲う可能性は充分にある。

 

 黒衣の少女は未知の襲撃者に危惧していた。けれど、草十郎には有珠の庇護欲など終ぞ気が付かずにいる。

 

「そうか、有珠も知りたいのか…………

 そうだな、本当は話すことでもないけど、

 ふたりには返せない貸しもあるしな────

 …………うん。分かった。

 坂道を下る間の雑談に少しだけ話すよ」

 

 長身の少年は髪先をいじり何処か恥ずかしそうな様子。白い息が徐々に薄くなり、呼吸方法を変える。青子にとっては雑談、有珠にとっては敵の情報収集である。しかし、草十郎にとっては告解のように過去を語る。不出来な御伽話はここに始まる。

 

「ふたりは────、 明日って何だと思う? 

 俺は次の日とか、未来の話とかそういうモノだと今は思っている。でもね…………俺がそのことを知ったのは、山を降りてからなんだよ。それまでの山の暮らしは毎日が同じ事の繰り返し、同じ事だけを教えられた」

 

 三人で横に並びながら話を続ける。

 

「次の日が楽しみって感覚は青子に出会うまで知らなかった。君たちに出会うまでは────

 都会のルールに従わないといけないのに、これだけはどうしても馴染めなかった。振り返ると馴染む気もなかったのかも知れない。けど、屋敷で過ごしていく内にいつの間にか、夢を見る自分がにいた」

 

 草十郎の歩幅が小さくなる。

 ふたりに視線は向けずに夜に語りかけるように。

 

「目が覚めると昨日までいた誰かがいない日もあった。

 それは自分より小柄だったり、大柄だったり様々な肌色の人が消えていった。何故、消えたのか大人に尋ねても家から出ていったと説明されるだけだった。

 暫く経って、崖壁の塩を回収しているとその下に見覚えのある遺体が転がっていた。でも、あの時の俺はそのことに疑問にも覚えなかったよ」

 

 後悔を懺悔するように語り続ける。

 

「…………あれは異常なはずなのに誰も気にしなかった。

 他者と関わる程の余裕もないし、それぞれが完結した世界で暮らしていたからね。山の生活は厳しく、食べれる物も少なかった。飢えないために、他の人がよりつけない場所まで行く必要があった。

 互いの名前も知らずに山の中で生きてきた。他人から奪う発想もなく、犬や熊、鬼の相手をするだけで精一杯だった。兎も角、生活の半分はそれだけで済んでいたよ」

 

 少年の懺悔は続き、より険しい顔になる。

 

「もう半分は教育の時間だった。

 学校の授業よりも単純な事ばかりで難しい事はない。初めは話す事から始まり、次に自分がどうすれば体が動くのか教え込まれ、他の生き物はどうやって動けるのか仕込まれた。基本は観察と考察ばかりだからな。反復運動だからいつの間にかそれが当たり前になっていた」

 

「偶に試練があって、その試練は朝も夜もなく、ただ気がつくと終わっている。その試練を超えられない者はいつの間にか居なくなっていた。当時は何も考えずに最後までこなし続けたよ」

「…………静稀君」

 

 その異常さに口を挟む黒衣の少女。

 

「山を降りて初めて知った。

 あれは身を守るための知識ではないことを。

 もっと違う用途があったんじゃないかって────

 山にいた人間は山の土になったのではなくて、

 もっと他の理由で消えたんじゃないかって───」

 

 星も見えない夜空を見上げる。

 

「でも…………でもね。青子、有珠。

 ただ知らないければ、何も悩む事もなかったんだよ。

 外の事を知らなければ、俺はそこに居続けたと思う」

「貴方の…………

 貴方が嫌う生き死にが目の前にあるのに?」

 

 青子の問いに答えることが出来なかった。

 

 

 

 

 ”人殺しは、いけない事だ”

 

 

 

 

 少年は幾度も青子に言い続けた言葉。

 草十郎にとっては大切な言葉のはずなのに数々の矛盾が青子を苦しめる。有珠は無言のまま彼の告解を聴き続け彼の境遇を夢想する。少年の過去を知れば知るほど異常性が際立つ。

 

 例えば、この少年の教養のバランス。

 文明、文化や社会常識がない少年は基礎知識、また語学力だけは持ち合わせている。今の話を聞くとまともな人付き合いは皆無なのに対話能力だけは高い。

 

 それは偶然ではなく、少年にとって会話する技術も訓練の賜物。ヒトと、動物と意思疎通する手段として納めたモノだと理解する。

 

 少年はこれ以上は語らない。

 有珠には少し伝えたが母を名乗る女性が自分の首を絞めた時に自分の中で疑問を持ってしまったことを。疑問も変化もない日々に大きな亀裂が走る。その後、彼を引き取った老人が山から逃れる道を示し、その道をただ走り続けた。

 

 後ろから迫る追手を振り払い、後ろ髪を引くような怒号が聞こえたが、今は何も覚えていない。ただ前に進むことだけ考え、道も谷もない荒れた山そのものが少年を襲ってきた。少年は遮二無二に数日間走り続けると見た事のない場所で目が醒める。

 

 坂道も終わり、そろそろ参拝者が見えてくる。

 話を終えるため草十郎は独り言のように呟く。

 

「…………けれど、どうなんだろう。

 そこではそれが全てだった。

 完成された世界を壊してしまった────

 だから…………俺の方が間違っていたのかなって」

 

 少年の自戒は終了する。

 青子は悲しむ。少年の過去は行き詰った停滞した完成された世界。還ることのない赤子が集う箱庭なのだと。

 

 有珠は憐れむ。少年が世界から何処までも拒絶されていること。今後、どんな選択しても孤独は癒すことが出来ない壊れかけの自鳴琴なのだと。

 

 ふたりの少女はそれぞれの想いを胸に。

 少年を慈しむように呟く。

 

 

 

 

「────、私は…………

 私は草十郎に出会えて良かったと思っているわ」

 

「静稀君の家はここにあるでしょ?」

 

 

 

 

 少女たちは静かに返答した。

 気休めにもならない同情。それで少年の心に染み渡る。少年はその温かさを嚙み締めるように見上げた顔を二人に向ける。今のがどれだけ救いになったのか少女らは気が付くことはない。

 

「──── うん、そうだな。

 ありがとう。青子、有珠」

 

 倖せそうに微笑む。

 彼女たちにも分からない問題が山積みなはずなのにその瞬間だけは、全てを忘れて心の底から感謝を伝える。照れくさそうに頬を赤らめる少女らは無言のまま駅へと向かう。

 

 

 

 


閑話休題


 

 

 

 

 12月31日・22時45分・三咲駅前

 

 門松が飾られている住宅街を抜けると徐々に人とすれ違い和服姿の女性の参拝者が見えてきた。きっと、青子たちも似合うだろうなと口にはせずに心の中で思う少年。有珠は人の喧騒で騒がしくなると徐々に顔を顰めながら目的地へと向かう。

 

 ホームに着くと草十郎が経験したことのないほどの人溜まり、電車の中は人の洪水のようになっている。体を電車の中にねじ込むように侵入する。青子は兎も角、有珠にこの空間に耐えられるのか不安になり、少し前屈みになりながら前方にスペースを作る。

 

「ここが空いている。有珠」

「…………ええ」

 

 一駅先なので直ぐに下車するのだが、今はこの隙間にすっぽりと入る有珠。後ろで何か文句を言っている青子を無視してそのまま乗車する。次の駅までは八分もかからないが電車内は人混みで蒸し暑い。

 

 特に着込んでいた有珠の容態が心配になり、周りの人には悪いがスペースを広げた。周囲の反応を気にしつつ空間を広げていると黒衣の少女は草十郎に体を預けて注意する。

 

「私のことは大丈夫だから静稀君は気にしないで」

 

 有珠は少年の胸元に顔を埋めて苦しくないのか心配になる。しかし、これ以上スペースを開けるのは不可能だし、後ろから手を回している青子の表情が鬼のお面のようになっている。

 

 流石にここで暴れることはないだろうと思う反面、傍若無人の魔法使いならやりかねないと気持ちもあったのでここは有珠には我慢してもらうことにした。

 

 ”有珠め…………! ”

 

 後ろから呪詛のような声が聞こえてくるが揺れる電車に耐えているとやっと目的地へと到着した。ドアが開くと波のように一斉に出ていく乗客。ふたりの少女に挟まれていた長身の少年は迷子にならないように彼女たちの手を掴んだ。

 

「悪いけど、少しの間は我慢してくれ」

 

 無抵抗なまま少年に手を引かれる青子と有珠。右手で青子を掴み、左手で有珠を掴んだまま何とか駅のホームから改札口までくることができた。ここまで来れば少しはスペースが出来るので青子の手を離して右ポケットに入った切符を取り出そうとするが────

 

「私が駅員に渡すから草十郎は気にしないで」

 

 少年が自分の切符を取り出す前に青子が白いコートのポケットに空いている手を突っ込み、草十郎の切符を奪い取る。有珠は眉間を潜めて不満そうだが駅員に二人分の切符を渡して何とか神社の最寄りの駅に到着した。

 

 駅は賑わい、昼のように広場は明るい。着物を着た女性グループや子供を肩車をした家族連れ、腕を組みながら笑顔に新年を迎えるため神社に向かう人々。路上隅を見ると酒盛りを始めている大学生もチラホラ見える。

 

「凄いな。これが初日の出ってやつか。

 これだけの人が集まるのは初めて見た」

「そういえば、草十郎がここに来たの最近だったわね。

 夏祭りとかもこれ以上に騒がしいから

 来年は三人で遊びに行きましょう」

「…………静稀君が行くなら」

 

 学校一の宇宙系アイドルであり、三咲高校の高嶺の花。無敵の生徒会長こと蒼崎青子。世俗と隔絶された秘密の花園。その風貌は礼園女学院の中でも一線を画す漆黒の天使こと久遠寺有珠。両手に花の状態だったのが気がつくと二人は繋いでいた手を離しており、少年の逞しい両腕に自身の腕を組ませていた。

 

「えっーと……青子、有珠? 

 何で腕を組んでいるんだ」

 

 青子の豊満な胸の感触が厚手のコートの腕からも伝わり、戸惑う少年。その態度が気に入らないのか黒衣の少女も胸を擦り付けるのだが、残念ながらその感触は少年には伝わらない。

 

「別にいいでしょ? 腕を組むくらい。

 手を繋ぐより確実だし手元も自由になるでしょ?」

 

 確かに合理的だと納得する長身の少年。

 他にも腕を組んでいる参拝客もいるからこれが都会のルールなのだと間違った知識をつける。確かに腕を組んでいる恋人はいる。しかし、両腕を組んでいる人物はこの駅広場には誰もいない。

 

 納得した草十郎は寒さで頬が染まっている青子に行き先の道を確かめる。青子も詳しいことは分かってはいないのだが、この人混みの流れに乗れば着くだろうと三人で流れのまま歩き始める。

 

 除雪された歩道を進むと満腹なはずなのに食欲を刺激する香ばしい香りが人波の奥からしてくる。道なりに進むと数々の出店が並び、呼び込みの声が鳴り響く。一年の終わりにしては騒がしいと思う反面、活気溢れた笑顔が幸せを運んでくる。

 

 両腕に美少女を引き連れて渋滞の中央を歩く長身の少年。小柄な黒衣の少女が人混みに飲み込まれそうで心配だが何とか山の麓までたどり着いた。坂の両端には灯籠が道を照らしており、道なりに進む。

 

 夜風の冷たさは人の熱気で消え去り、賑やかな雪道を登り続ける。両隣にいる少女らは機嫌がよく登り続けると赤い鳥居を通り抜ける。その坂の先に大きな古い建築物が鎮座する。

 

「見えてきた! 

 アレが『大社木天宮』よ!」

「……随分とかかったわね」

 

 神社は想像以上に大きく、古びた柱は今まで見てきたどの大樹よりも生命力を感じる。黒塗りの屋根は光がライトアップされており、より神々しい光景であった。神社の両端では巫女服を着た従業員がお土産を売り出している。ここだけが太古の風景のようで息を吞む草十郎。

 

「すごいな────

 何と言うか……言葉に出来ない凄味がある」

「まあ、ここの神社の歴史も古いからね。

 まだ、年越しには数十分あるし、

 暇な時間に説明してあげましょうか?」

「ああ、頼むよ」

 

 魔法使いの少女はおまじないをするように語りだす。

 

 

 

 

『大社木天宮』は長い歴史がある。

 天保八年の大飢饉の最中、旧社木地区も例外なく飢饉で民は飢えで苦しんでいた。土地は冷害や暴風雨により荒れ果て、皮と骨の姿でぬかるむ田畑を無為に耕す百姓。豪族も貯蓄の底がつき、蔵の中は鼠一匹もいない。

 

 誰もが天保の大飢饉に苦しみ、この生き地獄が永劫に続くのかと絶望し、誰もが死ぬことだけ考える日々。

 

 しかし、突如として空から天女が現れた。

 

 その天女は白い装束を身に纏い、初雪より白く輝く長髪の天女はまるで高天原の住民。紅い瞳は飢えた民を眺め、右手を天高く腕を掲げる。天は割れ、陽射しが差し込み、冷害で死んだ土地に天照の力を与える。

 

 土地の余分な水分は蒸発する。だが、それでもこの土地が農作物が育つまで半年は掛かるだろう。天女は左手を土地に向けた。その土地は新緑が芽吹き、田畑は肥沃な土地に生まれ変わる。

 

 無駄と分かっていても植え続けた農作物は急速に育ち、民の腹を満たすべく、撓わに実る。全ての民は涙を流し、天女を崇める。使命を全うした天女は霧のように霧散した。

 

 しかし、彼女が起こした奇跡を讃えるために十数年後、豪族や豪商の出資により『大社木神宮』を創建する。その神社はこの街全体を一望できる付近の山の中腹に建てることにした。彼女が戻ってきた時に、民を、土地を、全てを救済してもらうために。

 

 

 

 

「それ────、 本当の話なのか?」

「さあね。昔話だし、眉唾物よね。

 ただ豊作を祈願して建築されたって話もあるし、

 当時の魔術師が何かしたのかもね」

「──、 当時の魔術師の逗留記録はないわ。

 でも、真相は闇の中よ」

 

 壮大な昔話を聴き、時間が経過する。

 ここは神社だから除夜の鐘はないと説明されるのだが、神社も寺も初体験の草十郎にとっては些細なこと。両腕に美少女らを引き連れて三人横一列で境内で新年を待つ。

 

 青子は少年の上腕筋の感触を堪能しつつ、にやけるのを必死に抑える。有珠は少年に頭を預けて微かに薫る温かな匂いを感じながら目を瞑る。草十郎は少女らのことも気にせずにこの空間を堪能する。来たこともないはずの光景に何処か郷愁を覚えて、青子にそっと質問する。

 

 

 

 

「────、 青子。

 君に後悔はあるのかな」

 

 

 

 

 遠い幻のように周囲に聞こえない声で呟く。

 

「……それ、真面目な話?」

「うん、そうだな……

 今、訊きたい────」

 

 消え入りそうな声でせがむ。どう答えても少年の中で何かを失うのだろう。しかし、どうなろうとも青子の答えは決まっていた。

 

 

 

 

「後悔はないようにする為に、今も頑張っているのよ。

 でもね。草十郎────

 もし、貴方に後悔があるなら────

 後悔を無くすために手助けする事なら出来るのよ」

 

「────────」

 

 

 

 

 ……ああ、と。

 この瞬間、溢れる想いが夜に溶ける。

 

 ここでは見えない、手も届かない星空に手を伸ばさずにはいられない。けれど、伸ばそうとした腕は黒衣の少女がギュッと握りしめていた。

 

 

 

 

「────、 私もいるわ」

 

 

 

 

 小さな憐れみなのかも知れない。

 ただ、少年のかすかな痛みも黒衣の少女の温もりと共に流れていく。自分にはない強さを持つ彼女たちに焦がれている。星を闇に捨てて、この景色を貴いと、美しいと思えるなら。

 

 焦がれた星もいつか届くのかと。

 そのいつか目指して生き続けるのか。

 

「…………今まで、山と比べる事しか出来なかった。

 こんな場所は本当に嫌いだった──────

 でも、いつかは街と比べる時が来るんだろうな」

 

 手を伸ばせば届く、星空を捨てた。

 それが後悔なのか少年にも分からない。無言で聴く二人の少女は痛ましい視線を向けている。それでも少年は瞼を閉じて頷いた。

 

「…………それが普通なんだ。

 でも、後悔しないために────

 それ以上に素敵な物を手に入れないといけないよな」

 

 騒がしい中で少年は告白する。

 郷愁は捨て去り、新しい門出に向かうために。喪失は新年と共に希望を探しに行こうと。新しい目標を胸に青子の答えを聞いた少年が手にした全てだった。

 

「そうね。倖せになろうとしないのは────、

 それだけは、間違っているって思うわ」

「────、 ええ」

 

 向けられた笑顔は柔らかく、瞳の奥の濁った色は澄んでいく。周囲の人々は利き手を宙に突き出し、指数と共にカウントダウンを始める。彼女たちの腕をほどき、少女らの正面に立つ。

 

 ただの挨拶、それでも大切な始まりの言葉。

 心を込めて、ほころぶように──────

 

 

 

 

「明けましておめでとう」

 

「──────、 新しい年だ」

 

 

 

 

 喜びに満ちた笑顔を向ける。

 周囲の人々も新年を祝うように歓声を上げる。別所の寺院からゴォーンと除夜の鐘が聞こえる。三人で祝う初めての新年は賑やかで熱気に包まれた境内だった。

 

 青子は思う。遠い昔に捨てたはずの────

 鐘の奇跡を信じていた少女が振り向いた気がした。

 

 有珠は願う。母との別れで失くした想い出を────

 夜の鐘に魅入られた霧の少女は俯く事を止めた気がした。

 

 零時の針が上を向き、少年少女らは微笑み返す。

 

 奇跡を望む三人は日の出までの時間を待ち続ける。

 

 境内のベンチに腰掛けていた老夫婦は年越しに満足したのか、そっと席から離れた。周囲を観察していた少年は誰にも気づかれずに、すぐに席を確保する。

 

 三人で座っていると青子が用事があると席を開ける。その少しの間、有珠と並んで待機する。数分後、背後から青子が温かい缶コーヒーを両手に持ち、二人同時に抱きしめる。 

 

 草十郎は気恥ずかしそうに青子の腕を受け入れ、コーヒーを受け取る。有珠は隣の少年が離れないように少年の太股に手を(かざ)す。青子はふたりの間から顔を出して、この瞬間を忘れないようにギュッと抱きしめる。

 

 この温もりを忘れないように────、

 

 魔法使いは未来に頬笑みかけ────、

 

 黒の魔女は夜空に誓いを刻み────、

 

 空虚な騎士は明日を夢見る。

 

 

 

 

少年は魔法使いと魔女と肩を並べて

 

明日への光を待ち続ける。

 

 

 

 


Ending


 

 

 

 

 星が瞬くこんな夜にひとりぼっちが二人

 抱えた痛みを分け合うように

 同じ空を見上げてたら

 何か言わなきゃって

 だけど何て言えばいいんだろう

 

「ねえ、流れ星が見たいな」

 冗談で振りかざした指先

 綺麗な尾を引いた

 それはまるで魔法のようで

 

 星が瞬くこんな夜に忘れてた事をひとつ

 言いかけてどくん、と跳ねる鼓動

 闇の中一瞬触れた手

 キミは気がついてる?

 これってきっと

 そういう事なのかな

 

 星が瞬くこんな こんな夜に

 

 

 

タイトル『星が瞬くこんな夜に』

著作者『RYO』

アーティスト『supercell』

作品コード『171-4876-6』

 

 

 


青子・有珠TRUEルート1・おしまい


 

 

 

 




 ご覧いただき、感謝いたします。
 初投稿の素人なので誤字や不備があると思いますが何卒宜しくお願い致します。

 感想、お気に入り登録、評価は凄くモチベーションが上がるので
 気軽にしていただけると嬉しいです!
 感想はひと言『面白かった』だけでも有頂天です!

 (感想は時間が掛かっても返信するのでよろしくお願いいたします)

 ソーシロー様、トライデントシルバーホーンカスタム様、よっちゃんイカ様、
 誤字・脱字報告ありがとうございます。大変助かりました。

 (誤字、脱字、誤植など、いっぱいあったので修正作業は大変だったと思います。
 皆様のお陰でとても良くなりました。本当にありがとうございます)

 食い過ぎた様、リク=ロック様、
 評価10ありがとうございます。とても嬉しいです!
 
 草十郎の過去話と激甘スイーツ回でした。

 次回投稿は未定となっております。
 (多分、1ヶ月以上かなと………)
 (活動報告は一週間に一度はするのでご確認ください………)


  
 ちょっと、おまけ劇場。

 なぜ、これが本編に含まないのか説明いたします。
 後日談ではどの選択肢を選んでも青子・有珠ENDは揺るぎないからです。

 例え、最悪な選択肢を選んでもTRUEENDじゃなくなるだけなので
 エンディングに大きな変更点はございません。

 本編では最後までどのルート分岐するのか不確定なので
 そこを境界線に致しました。

 (ただ、まだ幽霊爺や協会、草十郎の組織など問題は山積みですが………)
  

 これにて『魔法使い夜1 青子・有珠TRUE・END』はおしまいです!




 この後の話はIFストーリーです!
 まだ発売されていない魔法使い2,3の後日談となります。

 激々甘々ストーリーなので要注意です!

 まだまだ、『まほよワールド』が続くので
 
 楽しんで頂けると幸いです!




 
 今後とも応援やコメント、高評価を頂けると幸いです!




 では、またお会いしましょう!!!!



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八代透が令和の世から転生した先は、男が少なく、女性が男性の役割を果たしはじめた貞操逆転世界。▼男は希少なはずなのに、すでに世界ではあんまり男は求められておらず……モテモテのはずが振られてばかり。▼彼は前世では得られなかった男としての夢を掴むため、軽い気持ちで実家の芸能事務所の門を叩いたのだった。▼無断転載禁止 無断利用禁止


総合評価:67989/評価:9.22/完結:75話/更新日時:2025年06月24日(火) 19:56 小説情報

【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話(作者:スーパー巨大特濃葛根湯)(オリジナルファンタジー/コメディ)

突然神様に「魔王が次に地球攻めるっぽいから、その前の異世界で倒して」と異世界に集団で転移させられたけど、割り振られた天職が『ヒモ』だったので僕の冒険が始まる前に終わってしまう話。▼スケベ衣装エルフに変異しちゃった先生、デコ出し委員長、小動物系多動後輩、貞子風顔隠れコミュ障先輩、ド派手王子様女子、腹黒守銭奴商人などなど……のパーティのヒモとしてみんなにバフを振…


総合評価:20067/評価:9.04/連載:142話/更新日時:2026年05月13日(水) 22:28 小説情報

【書籍化】人類滅亡寸前ゲーム世界で自分を犠牲に敵を倒してたら、みんなが病んでいた (作者:雨雲ばいう)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:とっとと追放されて死にゲーから逃げたいモブ vs その輝きに瞳を焼かれて病んじゃったパーティー)▼伝説の死にゲー「妖精たちの狩人」のモブに生まれてしまったミッカネンは、ゲームの知識から己が生き残るためにはパーティーから「追放」されるしかないと考え、メンバーからのヘイトを集めることに努めてきた。▼だが、地獄のような戦地で暴れまわってきたミッカネンは英雄…


総合評価:14476/評価:8.53/連載:81話/更新日時:2025年12月19日(金) 19:05 小説情報


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