昔、再会の約束をした少女が知らないうちに自分の国の皇帝になっていて、最終的に気づかぬうちに王室の中で人形みたいに愛されるだけになってしまう話くれよ 作:やゆゆゆゆ
「貴様が従事長補佐になるとはなぁ、この世の中とは不思議なことが多いものよ。明日、この国は滅ぶのかもしれん」
「いやぁ、それはちょっと酷いってもんですよ。僕だってねぇ、結構気合入れて毎日仕事してるっていうのに」
「ふん、気合だけあっても仕方がないのだ。大事なのは実際どれくらいの仕事ぶりが出来ているのかということ。日々鍛錬を惜しまないことだな」
あまりにあんまりな従事長の言葉にがっくりと肩を落とす。周りを見渡せば机に散らばった酒瓶に上手そうな料理の数々と酔っぱらったダメ人間たち。酒の場でお説教なんてこんなにつまらないこともないだろうに。
僕はちらりと逆の卓に座る同期の連中に助けを求める視線を送るが、連中もうずいぶんと飲んでやがって、というか呑んでやがって必死のSOSに「うへぇ、俺はまら大丈夫。まら全然飲んでない全然飲んでないのらぁ」だの如何にもなセリフを宣っていた。
「そうは言ってもですね、従事長。僕にも何が何だかまったくもって疑問なんですよ。おっしゃる通り、これはまぁ自分で言って辛いことではあるのですが僕はあんまり仕事の出来る方ではないですし。昨日も訓練で近衛の連中にこってり絞られたし・・・書類仕事が得意なわけではないし・・・。何が何だか分かっていないのは僕にとっても同じなんですよ・・・」
「ふん、毎度毎度そんなことを言っているがな。貴様の昇格については私が誰が良い誰が良いと上に申請しても毎度強権で通されるばかりなのだ。貴様、実はどこぞの貴族の息子やら隠し子だということはないのか?それならば、私も分かるのだが・・・」
「いや、まったくそんなことないですよ。父親は普通の兵士、母さんは普通の主婦。お貴族様の血筋なんて一滴も入ってない、ごくごく一般的な家庭でござんす。というか、万に一つもそんなことはないわけですが、ほんとに僕がお貴族様だったら従事長のセリフだって結構無礼じゃないです?」
酒交じりの僕の返答に「それもそうか、貴様の振る舞いを見る限り貴族ではないことは確かだ」と頷く従事長。というか、話の流れでさらっと聞き流してたがこの野郎、当然っちゃ当然だが補佐のポストにしれっと僕以外を申請してやがったのか。仕事の出来具合やら周りの家の生まれから考えてみたら至極全うではあるが、こう明け透けなく言われると悔しいものがあるな。
「というか、誰かの話で聞いたことがあるんですが従事長もどこぞの貴族の生まれってのは本当なんですか?ええっと、なんだったっけな。伯爵家かなんかの生まれって聞いたことがあるんですが」
「誰がそんな事言いふらしているのか大体の予想はつくがな・・・まぁ、いいだろう。不思議なことでもあるまい。一般には知られていないことではあるが、最近は侍従も家格を重要視してそもそも平民を取る枠を狭めている。私が伯爵の家の出であることもいたって普通なのだ。ほら、見てみろ。そこで酔いつぶれて寝てるサリエリは侯爵家、腹出して踊ってる馬鹿は子爵家。貴様のような平民の出など、全体の中の一割も行かないのだが・・・」
従事長の言葉を確かめるように僕も周りを見渡してみる。普段はそんなこと考えることもなかったしあまりそうは見えない、というか見たくはないが確かに酔いつぶれている従事の連中は身なりが良い。貴族と言われても納得できる絹仕立ての美しい羽織は着崩されたようでも美しかった。
「家格がなければ仕事が出来ないという訳ではない。しかし、家格があるということはそもそも代々、王家へと忠誠を重ねてきた証。それだけの信頼があり、その信頼があるからこそ任せられる仕事もあるのだ。従事長補佐の仕事ともなれば姿を見ることはなくとも陛下のお近くにあることも許される。どことも知れんものなど入れるなど・・・」
「本当に、なぜ貴様が取り立てられるのだろうな・・・」
酒に酔ったのだろうか、どこか呆然とした従事長の様子はいつもの毅然とした振舞い方とはどこか違っている気がした。誇りを持ち、それに見合うだけの努力、僕なんかよりも何倍もしてきただろう努力の大きさ。僕は彼の中にある確固とした常識と葛藤、過去がその表情の中にある気がしてただ、彼の空いたグラスにワインを注ぐことしかできない。
「だから・・・僕にも何がなんだか分かんないんですよ」
小さくつぶやいた苛立ちは周りの喧騒の中に溶け込んでいった。
ほんと、なんで能力もない平民なんかが従事長補佐にまでなったんだろうねぇ