たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
AFOのお迎えと、世論。
お待たせしました、転職してばたついていました。
何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770
眼を覚ましてすぐに自分を見下ろしたのは、赤い髪のやけどだらけの青年だった。
それに、転夜は一気に思考を覚醒させ、飛び起きる。
起き上がり、ベッドに座る転夜を荼毘は椅子に座って気だるそうに見つめている。
「あ、あ・・・・」
なんと呼べばいいのか分からずに、単語を切って転夜は目の前の青年を見つめる。それに青年は、前の狂気的な感情など忘れ去ったかのように、転夜に水の入ったペットボトルと差し出した。
「ん。」
それに転夜は迷うが、目の前の兄の感情を損ねることだけを嫌い、そうして、喉の渇きを自覚して水を喉に流し込む。
「・・・あの戦いから、大体二三日経った。」
「あ、あの、その・・・・」
なんと声をかければいいのかわからない。ただ、腹の中には、疑問がぐるぐると唸る。
父親、いいや、あれは確かに死柄木弔だったはずだ、に連れてこられた自分は今、どんな状況なのか。
父親や、ヴィランたち、そうして。
(・・・・燈矢、たちは。)
けれど、それを転夜には聞けない。赤い髪の、彼。目の前のそれを置いて逃げた自分。
ぶつけられる感情を怖れて、転夜は黙り込む。
残ったペットボトルの水を眺める転夜をじっと見た後、荼毘は小さく息をつき、そうしてごそごそと何やら部屋の中を漁る。
「安心しろ、エンデヴァー及び、あの場にいた奴らは無事だ。セントラルで治療を受けて、回復した。」
ばっと荼毘を見る転夜に、彼は何かを投げる。ぱさりとベッドの上には服が落ちる。
「着替えろ。俺は、外に出てるから。」
「あ、兄貴!」
慌てて呼びかけた転夜に荼毘は振り返ることもなく部屋を出て行った。転夜は、置いて行かれた服を見つめた。
ヒーロースーツを脱ぎ、そうして、渡されたパーカーを着た転夜が部屋の外を出ると、そこは、やはり気だるそうな様子の荼毘がいた。
転夜は何を言えばいいのか分からずにじっと目の前のそれを見る。寝起きで混乱した思考は大分落ち着き、そうすれば、頭も回り始める。
逃げなくては。
自分の父親が誰であれ、ヒーロー側である自分がヴィラン側にいることはまずいのだ。
(・・・・ヒーロー、もう、肩書き、だけ、でも。)
例え、自分が、オールマイトと敵対している存在の娘でも。それでも、建前があるはずだ。
けれど、体が重い。
目の前の人を前にすれば、転夜は何も出来ない。
いつかに、転夜は目の前の人を置いて逃げ出したのだ。
何よりも。
(帰って、どうすんだろ。)
「帰りたいのか?」
「え?」
思わず言い返した転夜に荼毘は、ああそうかと納得したように頷いた。
「そう言えば、お前は何も知らないんだったな。」
「何もって、どういうこと?」
「父親については知ってるんだ?」
「・・・しって、る。」
「いや、そうか。そうだな。まあ、いいか。そっちのほうが都合がいい。」
「え?」
その言葉の後、転夜を嫌な臭いのする泥に襲われた。
気づくと、先ほどまでの無機質な廊下ではなく、どこかの路地裏らしくすえた臭いがした。
「108番、選択肢をやるよ。」
「選択肢って・・・・」
「帰してやってもいい。お前はヒーローとして生きてきたんだ。今更、父親だろうが、俺がいようが、こっちに来いって言われても難しいだろ?」
「なら、なんで、わざわざ私のことを連れていったんだよ!?」
「・・・・お前に、現実を見せるため。」
「現実って。そんなの、もう知ってるよ!」
その言葉に、荼毘はぐいっと無理矢理に転夜のことを引っ張った。
「いいや、知らないな。」
その言葉の意味が、転夜にはよくわからなかった。
(ここは、どこだろう?)
そこは未だ、人通りの多い通りだった。大きなモニター付きのビルなど、栄えているらしいそこで、何故か、やたらとスマホをのぞき込む人間が多い印象だった。
荼毘は、転夜と同じようにフードを目深にかぶり、そうして、スマホを取り出した。
「丁度良いな、ほら、見ろよ。」
そう言って、転夜に無理矢理イヤホンを入れて、スマホを見せる。
『・・・・全て、真実です。』
オールマイトの声がした。画面には、会見の形でベスト・ジーニストやホークス、そうして、エンデヴァーとブルーフレイム。
オールマイトが、並んでいた。
その言葉に、ざわりと、周りでスマホを見つめていた誰かが言った。
「うーわ・・・・・」
その声に気づくと同時に、さざ波のように広がっていく。
「まじかよ。」
「はっ、やっぱりじゃん。」
「オールマイトの件も、実はさ。」
「行方不明って言ってるけど。」
あ、そうか。
(ばれてるんだ、もう、私のこと・・・・)
そのまま、会見の声が耳の中で響く。
『彼女、夢意転夜は死柄木の血縁ではありますが、幼い頃から虐待を受け、その後人身売買の組織に流れ、私が保護をする形になりました。』
『それは、ヴィランの子どもを匿っていたと!?』
『あくまで!彼女の過去は最近分かったことです!』
『彼女は、オールマイトにとっての恩人の孫に当たるということですが!そのために庇われていたと!それは、死柄木自身とオールマイトが関係があるということでしょうか!?』
『死柄木は私が元々追っていたヴィランに誘拐された形です!』
『だからといって、あんな凶悪なヴィランの身内をヒーローにするなんて!』
がなり立てる声がする。
『エンデヴァー!あなたが長年アシストを支援していたのは周知の事実!あなたこそ、彼女のことは知っていたのですが!?』
『・・・いいえ、ですが、彼女の個性に目に付けていたのは事実です。自分のヒーローとして、サイドキックに欲しいと思い、支援をしていたのは事実です。』
淡々と語る中、一人の女性の声が滑り込む。
ギガントマキアの縦断によって母親が被害に遭ったという女性は怒りにがなり立てる。
全て、聞きたくなかった。
(そうか。)
あれを、したのは転夜の身内なのだ。転夜の、赤い繋がりによって紐付けられた縁がある誰か。
それが、あの、瓦礫の山と、死体の山を、築いて。
『今回の全ては、ヴィランが行いました!ですが、ヒーローアシストは、本当に、ヒーローだったんですか!?』
あ、と、何かが軋むような音がした。
『オールマイトの件も!今回も!全て、アシストが深く関わっています!故に、世間ではどう扱われているか分かっていますか!?』
アシストは、ヒーローの裏切り者だったんだと!
わんと、頭の奥でその言葉がこだまするように響き渡った。
それと同時に、荼毘はスマホを切る。
「・・・・帰るのか?」
その言葉に、喉の奥に張り付いたように、すかすかと息だけが漏れる。けれど、それでも、転夜はそのまま一歩踏み出す。
「・・・・さんど、ばっく、ぐらいには、なれるから。」
そうだ、帰るんだ。
例え、もう、何も出来ないとしても。
画面の、沈んだ顔の、燈矢や炎司、そうして、オールマイトのことを思い出す。
そうだ、彼らを、支えなくては。
ヒーローでは、もう、ないとしても。もう、ヒーローにはなれないとしても。
せめて、せめて、彼らの辛さを、肩代わりぐらいしなくては。
(わたしが、わるい、から・・・・)
自分が、ヴィランの子どもだから。自分が、そう、産まれてしまったから。
自分が、ヒーローになんて、なりたいと思ってしまったのが悪いから。
石のように重い足を引きずって、それでも、最後に残った恩義のために、悪意の肩代わり程度はしなくては。
(そうだ、私は、人にはなれなくても。せめて、恩義を知る、犬、なんだから。)
それに、目深に被ったフードの下で、荼毘は呆れたように息をついた。
(まあ、最初から、こうする気だったしな。)
荼毘はふらふらと歩く転夜に近づき、そうして、転夜のパーカーを無理矢理に剥ぎ取り、そうして転がした。
白いTシャツになった転夜に荼毘は微笑む。
「・・・いや、帰っても無駄なんだよ。」
「え?」
「分かってるだろ?施設でも、あの人売りの組織でも、ずっと同じだ。」
役に立たない家畜は、殺処分されるだけなんだよ。
荼毘は息を吸い込み、叫ぶ。
「うわあああああああああ!?アシストだ!?おい、アシストがいるぞ!?」
その叫びと同時に、荼毘は怖れるように人混みに紛れ込む。それと同時に、その場に倒れ伏した転夜に市民の視線が向かう。
「アシストだ・・・・」
慌てて立ち上がる転夜は、それに、気づく。
自分に向けられる目。
それを、彼女は知っている。
それは、不信の瞳だ。
転夜は、いつもどおり振る舞おうとした。
そうだ、ヒーローだろう?
笑って、愛想を振りまいて、いつも通り、すればいい。そうだ、アンチの対応なんて慣れたものだろう?
なのに、なのに、転夜は茫然と立ちすくむ。
大勢の、不信の目が、転夜に注がれる。そうして、聞こえてくる。ひそひそと、けれど、確実に、転夜に言葉が降り注ぐ。
アシストって。
裏切り者だろう?
行方不明ってうそじゃないか?
違うって、ヴィランだから町を探るために。
次はこの町ってことか?
おい、アシストが、この町を襲うって!
知っている。
それは、輪から自分をはじく目だ。
それは、自分のことを否定する目だ。
それは、どう足掻いても、自分のことを拒絶する目だ。
(いいや、違う。私は、これから、おっちゃんたちの代わりに、この目に。)
この目に、ずっと、晒されて。
自分が、ヴィランの、あの、悲劇を起した存在と、血が繋がっている、から。
だから、仕方が、なくて。
軋む音がする。
何かが、軋んで。
立ちすくんで。
ひゅんと、何か、音がしたと同時に、硬いものが額に当たる。
ずきずきと痛む額に茫然とすると同時に、だらりと何かが垂れてくる。鉄臭いそれに思わず額を押さえれば、痛みが走る。
目の前に転がったのは石に、ああ、投げられたのかと理解する。
「おい!」
「離せよ!どうせ、こいつヴィラン側なんだから!」
「でも・・・・」
「こいつが、死柄木と血が繋がってるのは事実だろ!?俺の兄貴、ギガントマキアの縦断で大けが負ったんだぞ!?」
その言葉をかわぎりに、ささやきは段々と広がっていく。
「そうだよ、もう、ヒーローじゃないだろ!?」
「あの戦いで行方がわからなくなるなんてあやしいって思ってたんだ!」
「オールマイトのことだって、こいつが誘い出したんだろ!?」
「恩知らず!」
「ブルーフレイムのことだってたぶらかしたのか!?」
「エンデヴァーだって騙されてたんだ!」
がん、とまた、何かがぶつかった。石ではない、軽いそれが何かであるかも確認できなかった。
ただ、自分に降り注ぐ、悪意だけを感じていた。
どうしてだろうか?
間違っていたのだろうか。
死にたくなくて自分と同じ家畜を殺し、燃える施設を逃げ出して、人買いたちに媚びを売り、そうして、それでも、生き延びて。
ただ、救ってくれた誰か達と同じように。
輝かしい生き物になれなくても、せめて、太陽になれなくても、月のように生きることができたのなら。
「ヴィランの身内のくせに!」
誰もお前の事なんて必要なんてしてねえんだよ!!
がんと、今度は後頭部に何かが叩きつけられた。それに、転夜は無気力にその場に跪く。
痛みが広がる、目の前が額から流れ出る血で赤く染まる。
「おい、通報しろ!」
「捕まえろ!!」
騒がしいそれに、転夜は、彼女の口から、笑い声が漏れ出た。
どこかで、何かが軋んで、砕ける音がした。
「ふ、ふふふふふふふふふふうふふふふ、あはははははははははははははははははははははは!!!」
哄笑じみたその声と共に、転夜は、ゆっくりと立ち上がる。それに、市民達は逃げるのかと転夜に近づく。
そんな中、転夜はあーあと息をつき、そうして、自分に石を投げつけてきただろう方向に微笑みかけた。
にこりと、遠い昔、全てを放棄して隠れた家畜の子どもの代わりをしていた誰かのような、そんな、醒めきった笑みを浮かべて。
「うん!そうだった!そうだったね!私、忘れてた!」
私、産まれてきちゃ、だめだった!!
叫ぶような声の後に、転夜はそのままきびすを返して走り出す。それに茫然としていた市民達は動けず固まる。
転夜はそのまま、自慢の健脚で、市民達の隙間を縫い、路地裏に逃げ込んだ。
慣れたものだ、当たり前だ、ドブネズミの、家畜の子どもには逃げるなんて朝飯前で。
それで、どこに、逃げるんだろうか?
ぺたりと、その場に座り込めば、だくだくと血液が流れて地面に水溜まりを作るのが見えた。
それで、なんだというのだろうか?
(・・・・このまま。)
「ほら、傷が出来ているよ。」
自分の額に誰かがハンカチらしきものを押し当てる。突然現れたそれに、転夜は特別抵抗もせずに受入れた。
その声に覚えがあった。
その、低くて、落ち着いた声を知っていた。
仰ぎ見たそこにいたのは、ただれて、まるで子どもが作った粘土細工のような顔をした大柄な男だった。
それを恐ろしいとは思わなかった。
もう、それを感じるほどの心が残ってはいなかった。
その男が誰か分かって、理解して、転夜はやっぱりけらけらと涙を流しながら笑った。
「は、ははははははは!よう!くそったれの親父殿!今更、私に何のようだって!?」
「迎えに来たんだ。」
「迎え!?ははははは!おお、いいねえ!処分したはずのガキが、思った以上に利用価値があったって?さっきの、私が誰の血縁かをばらしたのもあんただろ!?なあ、いい気分か!?いーい、気分だろうな!」
男の手を振り払い、転夜はけらけらと笑う。
「廃棄処分寸前だった娘が、こうやってヒーロー側にダメージ与えて、心証も最悪にさせたんだ。これ以上無いほどの掘り出し物だったろ!?ははは、あの時、施設が燃えて、私が生き残ってラッキーだな!?それで!?ヒーローにも戻れない、私を・・・・」
語尾になっていくにつれてどんどんささやかになっていく声は、最後に、消える声で言った。
「個性も、使えない、私は・・・・」
誰も、いらない、だろう。
せめて、と思った。
ヒーローに戻れなくても、せめて、やれることがあると思った。だから、必死に目をそらした。
目をそらして、けれど、守るべき無辜なる誰かの言葉に、転夜の中で何かが砕け散ったのだ。
そうだ、自分は望まれていない。
誰も、自分を必要としない。
いらないものは廃棄処分、見向きもされずに消えていく。
そんなものだ。
ヒーローだろうと、ヴィランだろうと、どこにでも産まれた子どもだろうと。
それは、変わらない。
ヴィランの子どもだから。
ヒーローにふさわしくないから。
自分は、もう、何者でもない。
オールマイトの元に戻る?
彼を害した娘であるのに?
轟家に帰る?
個性も使えない、サポートアイテムにもなれない自分が?
必死に、生きるために、自分に生きてもいいと願えるように、多くの繋がりを作って、輪の中に入れるように生きてきた。
けれど、今はどうだ?
たった一つの繋がりが、その全てを断ち切った。
ようやく、転夜は逸らしていた事実に目を向けた。
個性を望まれて、自分は、必要とされたのだ。
エンデヴァーと、ブルーフレイムのサポートアイテムとして、役目を果して。
そうでない自分は、どこに、行くんだろうか?
社会とは、人が義務を果すことでその輪に加われるのだ。
転夜は、オールマイトの保護を受ける哀れな子どもだったから社会の輪に入れた。
なのに、転夜はもう、保護の必要な子どもではない、役割であったヒーローにも戻れない、燈矢が望んでくれた個性はもう存在しない。
「・・・・約束しただろう。」
静かな声が頭上が降ってきて、優しい手つきの、大きな手が、そっと転夜の額の傷をハンカチで押さえる。
「娘を、迎えに行くって。」
今更だ、そう、叫ぼうとした。けれど、その声は、やっぱり優しい声なのだ。
嘘だなんて思えなかった。
だって、その声は、いつかにオールマイトやエンデヴァーが散々に転夜にかける声とよく似ていたものだから。
そうだ、酷いことをされたのだ、出生だって目の前の存在にばらされて、だから、こんなに酷い目にあって。
「すまなかった・・・・」
「捨てたんだ、あんたが、私を・・・・」
「お前の、母親が死んだ時、お前が殺したように思えた。」
絞り出すような声で、それは、転夜の傷にハンカチを当てて、そうして、その顔を撫でるような手つきで指でなぞる。
大柄な体を転夜に合わせるように屈み込んだ。もう、顔も分からない。記憶の中で見た顔立ちなんて残っていない。
けれど、思い出す。あの、己とよく似た目元。それが、ああ、どうしようもなく血のつながりを思い出す。
拒絶も出来ずに、暗い路地裏で、転夜は男を見つめる。
男は、まるで、本当に恐る恐るに、転夜のことを抱きしめる。
大きくて、暖かな体だった。冷え切った体に心地の良い体温だった。
「・・・赦せなかった、私から奪ったのだと。私のものを、奪ったと。だが、それでも、殺してしまいたいとさえ思った。」
「なら、殺せば良かったんだ。」
転夜はそれに言い返す。そうだ、殺してくれれば良かったのに。幸福を知らなくても、不幸さえも知らないならそれ以上の事なんてないはずだ。
そうだ、殺してくれれば、地獄を知らずともよかったのに。
「・・・・それでも、抱きしめたかったんだ。」
震える声でそう言った声と同時に、体が軋むほどに強く、抱きしめられた。
痛みがあった。けれど、転夜の目からぼたぼたと涙が零れる。
どんな表情でそんなことを言うのだろうか?
昔、公園で会ったおじさんは、自分が飛びついたとき、どんな顔をしていたいだろうか?
少しだけ、困った顔で。穏やかに笑っていて。顔も分からないくせに、分かった気になってしまう。
それさえも、全て嘘なのかもしれない。今でさえも、嘘なのかも知れない。
転夜は男の手を振り払うために暴れる。
「やめろ、やめろよ!離せよ!役立たずの私なんて迎えに来てどうするんだよ!?ヒーローたちの信頼も瓦解した!個性も使えない!私は、望まれていない!」
「何を言うんだ。」
その人は、これ以上のことなんてないような転夜の顔を、その大きな手で包んだ。
化け物のような見た目の男は、それでもまるで優しい父親のように転夜に触れる。
「娘を愛さない父親なんているはずがないだろう?」
この人は。
転夜は、すり切れて、ちぎれた心で、涙の張った目で男を見た。ゆらゆらと揺れる男の顔に、ゆっくりと目を見開く。
今、少なくとも、何も持たず、役立たずの、処分予定の転夜がいてもいい居場所なのだ。
帰れない、自分を受入れる余裕は、あちらにはない。
ならば、そうならば。
転夜はまっすぐに男を見た。
金と銀の瞳で、まっすぐに、人でなしでしかないそれを見た。
「帰ろう。」
そう言って、男は転夜を抱えるように立たせた。転夜は抵抗することもなく、されるがままだった。
(・・・・昔、こんな、夢、みたっけ。)
暖かくて、大きな何かが自分を背負ってくれる夢。
転夜は子どものように男のスーツの裾を掴んだ。
そうだ、昔、誰かがそんな風に、優しくて暖かな何かが自分をあやしてくれた気がする。
そのまま、二人は路地裏の奥に消えていった。
「・・・・・子守歌ですか?」
声をかけられたAFOはひどく上機嫌そうな顔で声をかけてきた義息子を見た。彼は淡々とした様子でじっと己の育ての親を見た。
AFOはこれ以上無いほどに愉快そうな声で荼毘に声をかけた。
「ああ、あれがよく、歌っていた。」
(それは、志村奈々が歌っていたものでは?)
そんなことを思いつつ、それを口にするほど愚かではない荼毘はそうですか、と軽く頷いた。
AFOは、ベッドの上で、怯える子猫のように丸まる娘に、あふれるような歓喜を感じて口元をひくつかせた。
AFOはずっと、求めるものは変わらなかった。
ただ、たった一組の目が、自分を見ていてくれれば良かった。
それは、自分に与えられたものなのだ。だから、ずっと自分の元にあるのだと信じて疑わなかった。
なのに、何故だろうか。
男の望むものはいつだって、その手のひらからすり抜けて、手の届かない場所に行ってしまう。
与一は、自分の元から逃げ出して、男の手で壊してしまった。
とある女は、自分の手からこぼれ落ちて、一つだけ残していなくなった。
(そうだ、真夜。お前だけだ。)
それだけだった。
男は、娘の回りを全て壊してしまった。それでもなお、与一のように逃げて、拒絶するわけでもなく、自分のことを受入れた。
自分を見た、その母親によく似た金と銀の瞳。
本当の意味で、自分を認識し、逸らされることなく全てを自分に委ねた娘。
ああ、そうだ。
お前は、あれと、そうして、私によく似ている。
ちゃんと、誰のものなのか、理解している。
「安心するといい、真夜。これから、全てがひっくり返る。お前に石を投げた全員が、お前に媚びを売るだろう。」
だから、それまで待っているといい。
上機嫌そうな男の声に、荼毘は目を細める。
種はまいていた。
世論というのは驚くほど、時として簡単に動き、人の心を折るのは容易い。
荼毘が男から学んだのはそういうことで、そのために芽吹いた全てを見て、荼毘は予定調和だとしらけた気分になる。
わざと、世論を付き付けて、帰り道を閉ざした。帰ったとしても、自分がどう扱われるのか、そうして、迷惑をかけるのか。
見せつけるために、ここまで築き上げたのだ。
人は、臆病な生き物で、少しけしかけるだけでこのざまだ。
それが荼毘には空しく、呆れ、そうしてこんなものだと諦めもついた。
「義父さん。」
荼毘は、わざと、そう呼んだ。それにAFOは荼毘の方をようやく見た。
「・・・約束、覚えておいでですか?」
「ああ、安心しなさい。覚えているよ。」
「そうですか、それなら結構です。」
荼毘はそれに納得したかのような顔で頷き、そのまま部屋を出ようとする。
「荼毘。」
「なんですか?」
「髪の色、染めないのか?」
それに荼毘は目の前の男が、赤い髪があまり好きではなかったことを思い出す。
「転夜にはこのままのほうがいいでしょう。」
それに男から不満の念を受け取るが、荼毘は呆れたように息をつき無視をして部屋を出た。
ねえ、転夜。
何、岳山ちゃん?
あんた、前から思ってたんだけど、あんはヒス系彼女ならぬ彼氏相手にしてて疲れない?
今、燈矢がこの場にいなくてよかったと思ったことはないよ、具体的には、歴代のなかで十の中に入るよ。
自分で発言しといてなんだけど、この発言でも、いて欲しくないランキング上位があるの?
まあ、色々ね。というか、ヒス系ってひどいな。確かに、ちょっと感情的なとこはあるけど。
あれを、ちょっとってよく言うわね。でも、面倒じゃないの?クラスメイトと遊ぶときだって干渉してくるし。
いやあ、それでも遊んでくれてありがたいです、岳山様。
よきにはからいなさい。それで、どうなの?
いや、別に。考えたことないなあ。
・・・・なんか、含みがない?
えーいやあ、その、美人に振り回されるのは楽しいし。それに。
それに?
ちょっと無視するだけで、不安になって、ぐずぐずになってる燈矢って、本当に可愛くてさあ。
・・・・あんたの趣味が悪いのか、轟の趣味が悪いのか。いや、どっちもね。
ていう話を昔、クラスメイトにしたんですよ、兄貴。
それ、絶対他人に話すものではないことは、兄貴でも分かるぞ、妹。
いやさ、こうやって自分の趣味とかを振り返るとさ。
うん。
どんどん、こう言った傾向、父親似なんだなあって。
108番。
何?
父親が、ブラコン極めて、白髪美少年集めおじさん、いや、ジジイ、だった時点で俺たちのその辺は期待するもんじゃない。
あまりにも自認が終わりすぎてる。
血のつながりがある時点で終わりだからねえ。
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも