食堂と並んで多くのサーヴァントが利用する施設といえば、シミュレーションルームだ。
戦闘訓練だったり、趣味の空間作りだったり、たまに特異点を作るアホがいたり。とにかく用途が幅広い。
森長可に引っ張られていった秀千代を追って立香とノッブがやって来ると、千利休の茶室に二人はいた。
どうやら利休も秀千代の知り合いらしい。
まあ秀吉と利休といえばバリバリ因縁深いのだが、さっきから再会する知り合いがバーサーカーばかりなことに関して、立香は秀千代に同情を覚えていた。
「これはこれは。藤吉郎じゃない方の秀吉、秀千代はんではございませぬか」
「!?!?!?!?」
「お。秀の字が利休の姿にメチャクチャ驚いとるの。そりゃあのデカいジジイが美少女に化けとったらの〜」
茶室の横の自販機で買った抹茶ラテを立香と並んで飲みながら、ノッブは意外と表情豊かな秀千代を見守っている。
「この利休、後にも先にも出した茶を猫にやられたのは、秀千代はんだけに御座居ます故。サーヴァントの身となってもはっきり覚えとります。ほっほっほ」
「!!!!!!!!」
「ほっほっほ。これで本人だと解っていただけましたかな?」
本人達にしか分からない思い出話の傍らで、森長可(文化人モード)が立てた抹茶を秀千代に差し出す。
「ほら、飲めよ。気取った利休のジイさんより飲みやすいハズだぜ。当世風に言うならマイルドな口当たりってヤツだ」
「……、……!!!!!!」
「一気に飲むやつがあるかよ」
「ほっほっほ。……おや?」
利休の視線が茶室の狭い出入り口へ向き、一瞬遅れて全員もそちらへ顔を向けた。
顔を半分ほど差し入れてきたのは、加藤段蔵だ。クラスはアサシンで、人間を模した絡繰のニンジャだ。
段蔵は全員から注目されていることに対して僅かに身を引くが、すぐに気を取り直して口を開いた。
「あの、こちらに秀千代殿がいると聞いてきたのですが」
「なんじゃ、鳶加藤。うぬも秀の字と知己だったんか」
「これは信長様。はい、実は生前に忍術と手甲術の手解きを少々。弟子の中で明確に私を凌駕した唯一の方でありました」
「…………」
秀千代が、段蔵からの評価に頬を掻きながら、ズズッと彼女の前に座ったまま這い出ていった。
「…………」
「お久し振りですね、秀千代殿。貴殿もアサシンなのですか。……バーサーカーではないのですか」
「!!」
「ふふふっ。生前のあなたの暴れん坊っぷりを知っているなら誰でも……え? 本体は死んでない? 中陰の間……彼岸と此岸の間にいる? ……いや、スカサハ殿じゃないんですから」
喋れない秀千代と、普通に会話を広げる段蔵。ニンジャらしく読唇術でも用いているのだろうか。
探せばまだまだ知り合いが出てきそうだ。立香は、同じ戦国時代出身のサーヴァントにも声を掛けて見ようかと、携帯端末を取り出した。
「お。どうしたマスター、スケジュールでも詰まっておるのか?」
「ううん、そうじゃなくって。阿国さんとか、果心居士とか、他にも知り合いがいるかなって」
「信勝辺りも『うわあぁ〜! 僕の首を上げた女が廊下を練り歩いてる!?』とか面白いリアクションしてくれると思うぞ*1」
「ず、随分と色んな手柄を上げてるんだね、秀千代って」
「織田軍最強は伊達ではないっつーことじゃ。マスターも頼りまくってやるといい」
あの織田信長からここまで評価されるとは。山をパンチで動かしたとか、弓で大陸を割ったとかいうトンでもエピソードとは異なるが、分かりやすく凄さが伝わってくる。
ところが。この直後、立香はノッブとともに秀千代の真の凄さを知ることとなった。
「ふふっ、ふふふふっ。なんやいけすかん匂いがすると思うたら、見覚えのある半妖がおるやないの。ふふふふっ」
艶やかな声が茶室に響くと、室内の空気が一挙に濁った。露骨に顔をしかめた利休が、全身から黒く粘ついたオーラを放ちながら出入り口を睨む。
「この利休、茶室に招く客人を選り好みしませぬが。最低限の礼儀は弁えて頂きとう御座いますな。殺気を向けられては茶に集中することもままなりませぬ故」
「そう固いこと言わはるのはおよし。時代は違えども、同じ京の都の仲間やないの。ふふふふっ」
ひょっこり出入り口から顔だけで覗き込んで来たのは、美しい少女の貌に鋭利な角を生やした、カルデアでも屈指の危険人物。
酒呑童子。クラスはアサシン、時々キャスター。
日本三大妖怪の一角とされる彼女が、なぜ人理を守る側に立っているのか……それは鬼の気紛れに他ならない。生命の安全的にもマスターと二人でいるのが推奨されていないが、不思議と立香は彼女を信頼しているという。
……人理焼却に対抗するべく最初の
「ま、うちは茶の湯に用はありまへん。マスターはん、ちょいとその女の面借りたいんやけど。ええよね?」
「……予想出来るけど、一応理由を聞かせて」
「野暮なこと言いなんし。鬼と半妖の用なんて一つしかないよ。ちょうどここ、しみゅれぇたぁやさかい」
「…………」
酒呑童子は、普段のはんなりした手弱女っぷりを見せてはいる。絆されそうになるのをグッと堪えた立香は、秀千代の方へ顔を向けた。
「秀千代さんはどうする? 殺し合いまでしないなら、私は止めないけど」
「!!!!!! !?!?!?!?」
「酒呑童子、秀の字めっちゃ首振っとるんじゃが。つーかどういう関係じゃ、お主ら? 時代が大きく違うじゃろ? どこぞでぐだぐだしとったのか?」
ノッブは何の気無しに聞いたが、その途端。酒呑童子の表情が露骨に渋くなった。頼光相手でもここまでの顔はしないぐらいだ。
立香は一瞬躊躇したものの、マスターとしての責任感と、それ以上の好奇心を持って酒呑童子に尋ねた。
「……魔神柱、っておったやろ」
「え?」
酒呑童子の口から、予想とは全く違う単語が飛び出す。が、鬼の頭目は構わず続けた。
「マスターはん、素材やらQPやらが欲しゅうてパッキンパッキン魔神柱を圧し折ってたやろ。まさに物欲の権化、人が思い描く鬼そのものの姿やった」
「…………」
「うちはね、秀千代はんにとっての魔神柱やったの」
聞けば、平等院の地下深くに封じられていた酒呑童子を叩き起こしてはフルボッコにし、秘蔵の宝や武器の製造書やらをあるだけ奪い取られたそうだ。
「しかも! いっとう許せんのは一緒に封じられとった大嶽丸のアホがメインで、うちはついでやったんよ。分かる、マスターはん。牛女も金髪の小僧も、うちを倒すのに大軍率いとったのに! その女は単独で、もののついでにうちを何度も何度も殺し返して……あぁぁぁー! 勘弁ならん、この場でとろかしたる!!」
「あわわわっ! 酒呑っ、ストーーーーップ!!」
ヒートアップするあまり宝具展開までしようとする酒呑童子を止める為、立香は今日の令呪を一画浪費するはめになった。
「秀千代殿、まさか屍狂に飽き足らず、大妖怪を相手にドロップマラソンなどしていたとは。この利休、貴方様の器を測りそこねておりました」
「うん。猿の相棒だっただけあるわな」
「秀千代殿、よもや我が忍びの術をそのような事にも用いていたのですか?」
「戦首じゃなくて持ち物目当てって、盗賊と変わんね〜な!」
「……………………」
そして秀千代も、歴史の陰のそのまた裏で行っていた内職が身内にバレ、畳に突っ伏し恥辱に悶えていた。
タイミング的に駒姫と秀千代は面識が無いでしょう。
石田と明智のダブルミッチーとはウィリアムの方が付き合いが深いと思いました。