Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX-   作:LN58

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app17 君が望むなら それは強く応えてくれるのだ

 

 

――――――時刻は正午と呼ぶにはまだ早すぎる頃!

 

 

この日は我らが【真なるアビドス高等学校】の復活の狼煙を上げる重要な日であった。

 

原因不明の砂漠化によって忌々しい100年の租借契約(一時退避)を余儀なくされたことで、我らの故郷である麗しきアビドス砂漠が無能な管理業者と卑しい下層民共の手によって砂漠横断鉄道なる粗大ゴミ置き場となったことへの怒りの鉄槌を振り下ろす時が来たのだ。

 

かつてキヴォトス最大の勢力を誇った【真なるアビドス高等学校】の歴史と版図を正しく認識していれば、【アビドス高等学校】の近隣地域に存在する主要な学園【ゲヘナ学園】【トリニティ総合学園】【ヴァルキューレ警察学校】【ワイルドハント芸術学院】が古来から【真なるアビドス高等学校】の影響下に在り続けたことは誰でも推測できることだろう。

 

そう、それらの近隣地域に存在する大小様々な学園の全てが【真なるアビドス高等学校】の版図に組み込まれていた過去を憶え続けていれば、今も昔も学園都市:キヴォトスで随一の影響力を持ち続けているのが【真なるアビドス高等学校】ひいては【真なるアビドス生徒会】であることに思い至ることができることだろう。

 

故に、【真なるアビドス生徒会】は砂漠化の解決を未来に託して【トリニティ総合学園 アレキサンドリア分校】に首都機能移転を果たしてからは【アレキサンドリア財団】を隠れ蓑にして影からキヴォトスの歴史を操ってきたのだ。今も昔もキヴォトスの真の支配者で在り続けているのだ。

 

すなわち、昨今の学園都市:キヴォトスで銃犯罪が蔓延するようになったのも、自治区の一帯を丸ごと軍事演習場にしては市街地の建て直しを行って都市の新陳代謝を促す(スクラップ・アンド・ビルド)、キヴォトス随一の兵力と資金力だから成立していた【真なるアビドス高等学校】の慣習が()()()()キヴォトス全土に広まった結果であり、

 

それによって、【真なるアビドス高等学校】が歴史の表舞台から100年ほど姿を消している間に無能で腐敗しきった忘恩の徒である【連邦生徒会】による統制と支配が逆に揺らぐことになるように仕向けてきたのだ。

 

現在の【ヴァルキューレ警察学校】の腐敗と予算不足による練度の低さも我らが蒔いた種が芽吹いたものに過ぎず、原因不明の砂漠化への対応に奔走していた我らに今こそ恩返しすべき時に手を差し伸べるどころか嘲笑ってきたことへの報復である。そもそも、その予算の大半がどこから出ていたのかと言えば、元を辿れば【真なるアビドス高等学校】からの資金提供なのだから、国家権力の犬共の御主人様である我らが砂隠れした時点で取り残された駄犬共が衰亡するのは必定である。

 

思った通り、【真なるアビドス高等学校】が歴史の表舞台から姿を消した途端、腐敗しきった忘恩の徒である無能な【連邦生徒会】では学園都市:キヴォトスの秩序を維持し続けるのは不可能だったことが証明され、我らはそんな【連邦生徒会】に成り代わってキヴォトスに秩序と安寧をもたらすために返り咲く日を思い続けてきたのだ。

 

元から【キヴォトス連邦】への帰属意識の薄い【キヴォトス三大学園(BIG3)】の筆頭格が我らが【真なるアビドス高等学校】である。

 

キヴォトス最大の勢力である我ら【アビドス高等学校】の同意と支援がなければ【キヴォトス連邦】が成立することもなかったと言うのに、そのことを忘れて驕り高ぶってきたのが【メトロポリス(首都:D.U.)】の連中であり、砂隠れする前にそれまでのツケを払わせることに躊躇いはなかった。

 

 

――――――しかし、偉大なる決断によって我らが郷土を離れることになった100年間に新たな問題が醜く肥え太った姿を現したのだ。

 

 

そのことについては総帥と先生との間で十分に討議され尽くされたということでこの日を迎えたわけであり、私はいよいよ歴史の表舞台に返り咲くことになる【真なるアビドス高等学校】を導く“次期総帥”としての立居振舞を考える必要があった。

 

すでに総帥は100年間の租借契約(一時退避)で積み重ねてきた過去の過ちを清算するために自ら作戦の指揮を執っており、私もまた“次期総帥”として何らかの形で関与するように言われて独自の行動を取っていた。

 

そう、【アレキサンドリア財団】総帥の地位は【真なるアビドス生徒会】生徒会長とイコールであり、【アビドス】復興の可能性が“シャーレの先生”の奇跡としか思えない活躍と功績によって現実味を帯びてきたからこそ、偉大なる我らが郷土への帰還事業の準備が進められることになり、

 

そんな歴史の転換点となる今代の総帥:金獅子 シブキが担う最終最後の役割というのが、忌まわしき100年間の租借契約(一時退避)で出来上がってしまった諸問題の清算であり、立つ鳥跡を濁さず、次代の総帥となる私への業務引き継ぎ(バトンタッチ)に他ならなかった。

 

だからこそ、前任者であるシブキ総帥と立役者である北条先生が成し遂げる偉業をこの目で見届けて、この新時代に私は【真なるアビドス高等学校】の復活を果たさなければならなかった――――――。

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

小鳥遊 ホシノ「わあ、人がいっぱいです!」

 

黒舘 ハルナ「ええ、そうですわね、ホシノさん」

 

室笠 アカネ「なるべく人混みは避けるようにしましょうね」

 

小鳥遊 ホシノ「はい!」

 

――――――

伊草 ハルカ「あ、アル様、護衛対象です。護衛対象を見つけました」

 

陸八魔 アル「そう、ありがとう、ハルカ(これは“シャーレの職員”からの依頼。しっかりと守り抜いてみせるわ)」

 

鬼方 カヨコ「警戒を緩めないで。新生徒会長に十六夜 ノノミが就任したわけだけど、小鳥遊 ホシノが副会長のままだから、記憶喪失になった小鳥遊 ホシノを誘拐してくる可能性がある」

 

浅黄 ムツキ「ねえ、あれって――――――」

――――――

 

 

井伏 ティト「――――――あれが“アビドスの英雄”小鳥遊 ホシノですか」ジー

 

 

――――――

陸八魔 アル「そうね。この辺じゃ、あまり見ない顔ね」

 

浅黄 ムツキ「やっぱり~?」

 

伊草 ハルカ「そうなんですか!?」

 

浅黄 ムツキ「そりゃあ、半分ぐらい新アビドス自治区の住民だもんね、私たち」

 

伊草 ハルカ「ど、どうしますか? い、今すぐに爆破してきましょうか、アル様?」

 

陸八魔 アル「落ち着きなさい、ハルカ。それには及ばないわ」

 

陸八魔 アル「カヨコ」

 

鬼方 カヨコ「大丈夫。しっかりと撮ったから」スチャ ――――――観測手(スポッター)の双眼鏡には通信カメラ!

 

陸八魔 アル「なら、ハルカは護衛対象の監視を続けて。引き続き、不審者の発見に集中するのよ(これが通ったら追加報酬ゲットよ!)」

 

伊草 ハルカ「わ、わかりました!」

 

陸八魔 アル「怪しい人物との接触は【C&C】が担当だから、私たちはここから監視を続けて警備員に報告を上げておけばいいから」

 

浅黄 ムツキ「だよね~! その方が楽でいいもんね~! じゃあ、もっと気合を入れていくよ~!」

 

鬼方 カヨコ「貯金もだいぶ増えてきたことだしね。先生には本当に感謝しないと」

――――――

 

井伏 ティト「……あれ、どうしたら近づけるかな?」

 

美甘 ネル「おい、そこのお前! そこで何をやっている?」ドン! ――――――警備員の腕章をした制服姿!

 

井伏 ティト「!!?!」ビクッ

 

井伏 ティト「あ、あの、私――――――」

 

美甘 ネル「所属は?」

 

井伏 ティト「――――――【ワイルドハント芸術学院】です」スッ ――――――学生証を差し出す!

 

美甘 ネル「なるほど、中等部3年か」フムフム

 

美甘 ネル「で、いったい何をしていた?」

 

井伏 ティト「……えと」

 

井伏 ティト「……よし」

 

井伏 ティト「私、井伏 ティトは“アビドスの英雄”小鳥遊 ホシノとお話がしてみたいです!」

 

 

次期総帥である私:井伏 ティトは考えに考え抜いて本来は賊徒として討つべき【偽りのアビドス高等学校】を継承してきた“アビドスの英雄”小鳥遊 ホシノと会うことにした。

 

どのみち、シブキ総帥が全ての清算をして卒業した後、100年間の租借契約(一時退避)で積もり積もった問題の対応をさせるために独立を承認した新アビドス自治区を預かる【偽りののアビドス生徒会】の面々とつきあっていくことになるのだから、早めに会って損はないと思ったからだ。

 

なお、なぜ私の素性が【ワイルドハント芸術学院】になっているのかと言えば、何を隠そう【ワイルドハント芸術学院】もまた【真なるアビドス高等学校】ひいては【アレクサンドリア財団】の影響下にある主要学園であるからなのだ。

 

そもそも、【トリニティ】や【ゲヘナ】に引けを取らない歴史を持つという“芸術の故郷”をどうやって成立させてきたのかと言えば、パトロンとなる【アビドス】が手厚く保護してきたからに他ならない。

 

当たり前の話だ。学園都市:キヴォトスの全ては【アビドス高等学校】から生まれてきた衛星都市(サテライト)なのだから、文明社会の発展のために都市ごとに特色や役割を持たせて独立支援をしてきたから、今日の主要学園の基礎が成り立っているのだ。

 

つまり、我ら【アビドス高等学校】からの公的支援がなければ、芸術鑑賞を楽しむ審美眼が育つ以前にちょっとしたことで銃犯罪を犯すような凶暴性を持つ下層民なんかに芸術分野に傾倒した学園の運営なんてできるはずがない。

 

実際、校則の厳しさに関しては【トリニティ総合学園】以上のものとなっているのも、パトロンとなる【真なるアビドス高等学校】からの要請によるもので、『学科の学びがそのまま芸術活動に繋がっているため、部活動をする必要はない』という方針から公認部活動というものが存在しないのも、パトロンからの支援金が部費という名の遊興費や反乱活動の資金源に使われるのを禁じているからでもあった。

 

つまり、近隣の【真なるアビドス高等学校】が伝統芸能の保護と文化の担い手の育成のために専心できる環境をわざわざ用意したという歴史的背景があり、【真なるアビドス高等学校】が歴史の表舞台から姿を消しても存続できているからには【アレクサンドリア財団】と名を変えて支援は未だに継続しているわけであり、

 

それだけに【真なるアビドス高等学校】ひいては【アレクサンドリア財団】の繋がりを隠すために、表向きは放置すると芸術家肌の生徒が破天荒な無茶をやらかしかねないという事情があるという理由で学外からの物品の持ち込みにはとても厳しく、敷地内に入る際に【寮監隊】が手荷物検査を必ず行うぐらいには極めて保守的かつ閉鎖的な環境が生まれることになったのだ。

 

もちろん、部費は絶対に出さないものの、趣味の合う者同士が集まるサークル活動ぐらいは黙認しており、他校との交流も別途許可を出せば認められているのだ。

 

それぐらいの自由は時代の流れとして当たり前となってきているが、重要なのはそれが我ら【真なるアビドス高等学校】が砂隠れしたことで犯罪天国(ゴッサムシティ)と化した学園都市:キヴォトスにおいて『今も昔も厳格なルールが適用されている』という一定の秩序が維持され続けた管理体制の証明になっているわけで、

 

だからこそ、本来は【真なるアビドス高等学校】の生徒であり、しかも【アレクサンドリア財団】の次期総帥であるこの私は【ワイルドハント芸術学院】の生徒として修養と修行の日々を送ってきているのだ。

 

要は、今も昔も【真なるアビドス高等学校】の影響下にある 歴史的にも安定した秩序の環境である【ワイルドハント芸術学院】で伝統を守ることの使命感や審美眼を培うと同時に、首都機能移転した先の超高級住宅街に存在する閉鎖環境【トリニティ総合学園 アレクサンドリア分校】を飛び出して見聞を広めるためにあった。

 

なにしろ、現在の本拠となる【アレクサンドリア分校】はトリニティ随一の超高級住宅街なので、金銭感覚が一般庶民と完全にちがうどころか、並大抵の金持ちですら一笑に付すぐらいの億万長者しかいないので、“夢があふれる黄金郷”を再興させるためには庶民感覚も持ち合わせていないといけなかった。

 

いや、ちがう。そもそも、弱者救済の教えを説きながら異端の迫害に悍ましいほどに情熱的だった【トリニティ総合学園】の牙を抜くために金の力で堕落させた結果が、清貧を謳いながら奢侈に溺れた お嬢様学校というわけであり、キヴォトスの真の支配者たる【真なるアビドス高等学校】の栄光ある生徒が偽物の楽園思想にどっぷり浸かるわけがない。

 

そう、経済的合理性を極めた“夢があふれる黄金郷”の住民としては 清貧を謳いながら奢侈に溺れた お嬢様学校【トリニティ総合学園】の価値観に完全に染まってはならないため、パトロンである【真なるアビドス高等学校】の庇護によって今も昔もまともな価値観と秩序が守られ続けている【ワイルドハント芸術学院】で世俗の高尚な価値観を学んでくるのは次期総帥になるための必修科目であった。

 

それだけ徹底した管理が行き届いた“芸術の故郷”の審美眼と芸術活動だからこそ他校から定評があるわけであり、その【ワイルドハント芸術学院】の生徒からも熱狂的なファンが続出している“シャーレの先生”はまさに地球文化の伝道師として自信に満ち溢れた眩しい存在だった。

 

移動遊園地(funfair):リトルプラネット【Ⅲ.ワールド・エクスポ(展示施設)】で大々的に披露された北条先生の文化財保護活動は言うまでもなく、それ以前の音楽フェスティバルで自らバンドマンを演じる等の文化活動の数々は“芸術の故郷”でも高く評価されており、そのフォロワーが【ワイルドハント】の内外で続出したのは言うまでもないことだろう。

 

そこから【ワイルドハント芸術学院】の真の支配者(パトロン)である【真なるアビドス生徒会】をも心服させてアビドス遠征に取り付けたというのだから、怪獣退治の専門家である“GUYSの先生”は間違いなく失踪した“連邦生徒会長”の実質的な後継者だった。

 

失踪した“連邦生徒会長”に関しては稀代の天才として少しは期待していただけに失望しかなかったが、その最大の偉業は間違いなく“GUYSの先生”を“シャーレの先生”として赴任させたことだと、歴史書で語られることになるだろう。

 

そんな歴史的な偉業の数々を現在進行形で成し遂げている北条先生と時を同じくすることができるシブキ総帥の後継者として、私は何を見据えればいくべきか――――――。

 

 

グツグツグツ・・・

 

 

小鳥遊 ホシノ「お、おいしいですぅ~」ハフハフ・・・

 

黒舘 ハルナ「本当ですわね、先生が作ったしぞーかおでん(静岡おでん)

 

室笠 アカネ「濃口醤油がベースの牛スジを煮込んだ真っ黒なダシ汁ですけど、見た目ほど味が濃くないので誰が食べても美味しいですね」

 

井伏 ティト「本当ですね!」

 

美甘 ネル「ああ。地球だと、これが駄菓子屋でおやつ代わりに食べられている地域があるんだとさ。それで味噌や練り辛子を好みでつけて味変を楽しむんだ」*1

 

美甘 ネル「で、お祭りの屋台にもなっているって話だから、まさにお祭り騒ぎの今日の抗議集会にお誂え向きで用意されたってわけだな。どれもこれも串に刺さっているしな」

 

黒舘 ハルナ「ええ! ええ! まさに先生のお心遣いが感じられる逸品ですわね!」

 

 

 

井伏 ティト「ああ、美味しかったです」

 

小鳥遊 ホシノ「はい。美味しかったです」

 

黒舘 ハルナ「どうでしたか、しぞーかおでん(静岡おでん)?」

 

井伏 ティト「はい。おでんというものを生まれて初めていただきましたが、フワや白焼きなど口にしたことのないものばかりで、そのどれもが本当に美味しかったです」

 

美甘 ネル「ああ。私たちでも今まで聞いたことがないような食材ばかりだったからな、実際。【Ⅰ.ショッピングモール(商業施設)】でキヴォトス中の食材を取り寄せてようやく再現できたって代物さ」

 

美甘 ネル「で、具材も重要だけど、この黒いダシ汁の味付けが物凄く重要で『駄菓子屋のおばちゃんでも作ることができるダシ汁を作れなかったら料理人失格』と言い放ったぐらいには先生が本気でレシピを用意した思い出の味ってやつだ」

 

室笠 アカネ「実際、コラーゲンたっぷりの牛スジや鶏皮をこれだけ美味しく手軽に食べることができますからね。これはおすすめです」

 

室笠 アカネ「さあ、ホシノちゃん、お膝にどうぞ」ポンポン

 

小鳥遊 ホシノ「わーい!」ドサッ ――――――室笠 アカネのお膝に寝転がって撫で回される。

 

黒舘 ハルナ「たまには私のお膝を使ってもいいのですよ、ホシノさん?」

 

美甘 ネル「さて、小腹も満たしたことだし、パトロールに戻ろうか」

 

井伏 ティト「………………」

 

井伏 ティト「あ、あの、ホシノ先輩……?」

 

小鳥遊 ホシノ「何、ティトちゃん?」

 

井伏 ティト「あの、ホシノ先輩としてはこういった毎日が続くと思いますか?」

 

小鳥遊 ホシノ「え?」

 

美甘 ネル「何だぁ、そりゃ?」

 

井伏 ティト「その、砂漠化が始まる前の最強校だった頃の【アビドス高等学校】ほどじゃないにしても、これだけ砂漠の街に人が集まるのは凄いことなんです」

 

井伏 ティト「ですから、アビドス遠征が終わっても【アビドス廃校対策委員会】は頑張ってくれるのかなって……」

 

井伏 ティト「あ、【ワイルドハント】でも注目が集まっているんですよ。【ワイルドハント】も【ゲヘナ】や【トリニティ】に負けないぐらい歴史がありますから、【アビドス】の芸術作品もいろいろあるんです。それで、かつて栄華を極めていた【アビドス高等学校】の文化財や芸術作品の再評価が行われるようになっていまして」

 

美甘 ネル「なるほど。だから、また砂漠に埋もれなくしてもらいたいわけか」

 

井伏 ティト「はい。アビドス遠征だけでも本当にいろんなものが世に送り出されることになりましたから」

 

井伏 ティト「私も【ワイルドハント】の課題のために北条先生の肖像画(ポートレート)を制作するために【アビドス】に足を運んでましたが、最初のゴールドラッシュの時にお会いした北条先生は本当に輝いていましたね」

 

井伏 ティト「それだけじゃないんです。砂漠化に呑まれた忘れ去られていたはずの街並みが見る見るうちに砂一つない綺麗な街並みに変わっていって――――――」

 

井伏 ティト「まあ、何やら大規模なテロ活動があったみたいで今は惨状が目立っていますけど……」

 

井伏 ティト「でも、卒業制作に“アビドス遠征”をテーマに選んだ先輩がいて、まだ制作途中なんですけど、それが超大作になっているんです」

 

井伏 ティト「ここでしか見ることができないものがたくさんあったんです」

 

井伏 ティト「だから、怪獣無法地帯だとか砂漠横断鉄道だとかいろいろ大変なことになってますけど、【アビドス高等学校】には頑張ってこれからも絵の舞台になっていて欲しいなって……」

 

小鳥遊 ホシノ「…………?」

 

室笠 アカネ「あ、眠たいですよね。お休みなさい、ホシノちゃん」

 

小鳥遊 ホシノ「う、うん……」スヤスヤ・・・

 

井伏 ティト「あれ……?」

 

黒舘 ハルナ「ああ、なるほど……」

 

室笠 アカネ「申し訳ありません。当事者である【アビドス廃校対策委員会】の者ではありませんが、アビドス遠征が始まった当初から付き合いがある私たちの見解を言えば――――――、」

 

室笠 アカネ「少なくとも、今の高等部1年の方が卒業するまでの2年間は独立支援を続けるというお約束です」

 

室笠 アカネ「ですので、これからの2年間次第となるでしょう。そこから歴史の表舞台に返り咲く【真なるアビドス高等学校】に併合されるか、独立を保ち続けるかを真剣に考えることになるはずです」

 

井伏 ティト「そうでしたか」

 

美甘 ネル「たしか、先生は“夢があふれる黄金郷”の再興を目指すなら、『経済的な豊かさを享受する中間層を拡充するための容れ物として、新アビドス自治区を再出発点として税制優遇措置やインフラ開発に加えて経済の多角化や貿易のハブ化を進めていけばいい』とか、言ってたか?」

 

美甘 ネル「まあ、今年で卒業のあたしには先のことはわかんねえけど、砂漠化を解決した後は寂れた街を景気よくまっさらにして再開発し放題なわけだから、砂漠化が始まった時から随分と時代が進んだことだし、未来都市の建設だなんて銘打つとかさ、やりようはいくらでもあると思うな」

 

井伏 ティト「――――――『未来都市の建設』!」

 

黒舘 ハルナ「そうですわね。かつてキヴォトス最大の勢力を誇った資金力と兵力を育んだ豊かな実りを感じられる食の宝庫が現代技術で蘇ったとしたら、それは最高に素晴らしいことだと思いませんか?」

 

井伏 ティト「そのアイデア、いいですね! 使わせていただきます!」

 

美甘 ネル「お、そうか? まあいいぜ」

 

黒舘 ハルナ「まあ! それは嬉しいですわ!」

 

井伏 ティト「そうだ! イメージしなくちゃ!」パラッ ――――――スケッチブックを開く!

 

美甘 ネル「本当にスケッチブックを持ち歩いているわけなんだなぁ、ワイルドハント生って」

 

井伏 ティト「あ」パサッ ――――――スケッチブックに挟まれていた紙が落ちる。

 

美甘 ネル「あ、落ちたぜ」ヒョイ

 

美甘 ネル「ん?」

 

井伏 ティト「あ」

 

美甘 ネル「おい、こいつは――――――」

 

 

チュドンチュドンチュドーーーーーーーーーーン!

 

 

小鳥遊 ホシノ「――――――!」パチッ

 

室笠 アカネ「!」

 

黒舘 ハルナ「これは――――――」

 

美甘 ネル「おい、外で何があった、防衛基地(HQ)!?」ピッ!

 

井伏 ティト「え、何?!」ハッ ――――――さり気なくネルに庇われている。

 

美甘 ネル「なにぃいいいい!? 駅に暴走列車が突っ込んできて、空からティルトローター機に吊るされたホバークラフトが空爆ぅ!?」

 

美甘 ネル「報告が遅いんだよ! 何をしていた!?」

 

 

ドン!

 

 

小鳥遊 ホシノ「――――――」シュッ!

 

美甘 ネル「ん」

 

室笠 アカネ「なっ」

 

井伏 ティト「あ、ホシノ先輩!?」

 

黒舘 ハルナ「あ、待ってください、ホシノさん!」

 

美甘 ネル「あ、おい、待て、ホシノ! 勝手に持ち場を離れるな!」

 

美甘 ネル「アカネ! ここは任せた!」ダダッ

 

室笠 アカネ「わかりました!」

 

黒舘 ハルナ「私も行きますわ! 今日はホシノさんのことを先生に託されています!」ダダッ

 

井伏 ティト「ああ……」

 

 

この襲撃は今日の抗議集会で予測されていた【セイント・ネフティス】名義で集まった【プライベートファンド】の薄汚い金の亡者たちが雇い入れた傭兵たちによるものではなかった。

 

それはシブキ総帥から連絡のなかった2人の“七囚人”による新アビドス自治区の襲撃――――――。

 

その混乱の中で【プライベートファンド】の総会で【アビドス生徒会】新生徒会長:十六夜 ノノミを救出するという大義名分から緊急避難を適応してシブキ総帥が発射した巡航ミサイルをレールガンで撃ち落とした“シャーレの職員”ロボット職員:マウンテンガリバーが【アビドス生徒会】の生徒たちを伴って凱旋してきた。

 

“アビドスの英雄”小鳥遊 ホシノが飛び出す直前まで一緒にいたというわけで参考人として事情聴取を受けることになった私は図らずも唯一の高等部3年である小鳥遊 ホシノが卒業した後に残る【偽りのアビドス生徒会】ひいては【アビドス廃校対策委員会】の生徒たちと言葉を交わす機会を得ることになった。

 

そして、私は将来的にこの【偽りのアビドス生徒会】の命運を握ることになる【アレクサンドリア財団】次期総帥であることを伏せながら、中等部卒業後の進路に【アビドス高等学校】を考えていることを伝えると、【アビドス廃校対策委員会】を自称する賊徒たちは喜んで私のことを仲間の輪に入れてくれたのだ。

 

 

――――――嘘は言っていない。私が進学するのは当然【真なるアビドス高等学校】なのだから。

 

 

もちろん、状況としては『偉大なる先輩が失踪した』ということでみんなが血相を変えて探し回っているわけなので喜んでいる場合じゃないにしても、貴重な入学希望者を囲い込むことを疎かにするわけにもいかないので、後方支援担当の【アビドス廃校対策委員会】書記:奥空 アヤネの側で捜索に協力してくれる人に呼び込みをかける係をしていた。

 

私は次期総帥である以前に“天上人(トップス)”なので、本来は下層民(サテライト)のクズ共が口を利いていい存在じゃないのだけれども、そうした屈辱の日々に耐える修行を課された【ワイルドハント】の生徒として積んできているので、私は決してぼっちというわけでもない。

 

そもそも、【ワイルドハント芸術学院】においても最高峰とされる『総合芸術』を専攻しているトップエリートであり、それ以外の専攻は全て『総合芸術』のために喜んで使われるために存在しているのだから、私が声を掛ければ何人だろうとすぐにでも駆けつけてくれる。

 

そんなわけで、いつでも使い捨てにできる手駒として確保していた【寮監隊】に睨まれている非公認部活動の生徒たちに連絡を入れると、規則破りの常習犯集団【オカルト研究会】が 全員 現地に居るということで指示を飛ばすと、案の定 現場とトラブルを起こして事態を悪化させる要因にしかならなかったので、私は声を掛けたことに後悔しながら見張りの指示をする他なかった。

 

結局、捜索活動と混乱の収拾は北条先生の半身と高く評価されている“シャーレの職員”ロボット職員:マウンテンガリバーの的確な指示で行われることになり、【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】の実力の高さを体感することになった。

 

とにかく、生徒一人一人の能力や適性を的確に見抜いて配置するのが上手く、あまり知らない生徒に関しては大局に影響しない場所に置いて、堅実かつ機敏に捜査網を機能させていくさまはまさに総合芸術の鮮やかな演出のようであり、『指揮者とはかくあるべし』と感銘を受けることになった。

 

そして、見つかったのが小鳥遊 ホシノをすぐに追いかけた美甘 ネルの息も絶え絶えの傷だらけの姿であり、『“アビドスの英雄”小鳥遊 ホシノが誘拐された』という報告が美甘 ネルを発見した黒舘 ハルナから報告されたのだった――――――。

 

 

砂狼 シロコ「え、ホシノ先輩がいない?」

 

 

十六夜 ノノミ「そんなッ! どこに行ってしまったんですか、ホシノ先輩!?」

 

 

ロボット職員「く、“黒服”ぅううううううううううううう! お前の仕業かあああ!?」

 

 

ロボット職員「ウタハ」ゴゴゴゴゴ

 

白石 ウタハ「な、何だい、“教父(せんせい)”?」ビクッ

 

ロボット職員「――――――<光の剣:デキサス>だ! 僕がやらなくちゃいけないんだ!」

 

白石 ウタハ「……“教父(せんせい)”!?」

 

美甘 ネル「なんだ、ガリバーさんよ? 殴り込みか? 犯人の目星がついているんだな? 水臭いじゃねえかよ、なあ?」

 

ロボット職員「いや、それは……」

 

美甘 ネル「だったら、あたしも気持ちは同じだ」

 

ロボット職員「え」

 

美甘 ネル「何もわからない状況だからこそ、ジッとしてられないってもんだ!」

 

ロボット職員「……ネル」

 

美甘 ネル「さっきの礼をしなくちゃな! あたしは“コールサイン:ダブルオー”! やられっぱなしで終わるのは名が廃るんだよ!」

 

美甘 ネル「てめぇら、ぶっ壊しに行くぞ!」

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 

 

黒舘 ハルナ「先生に申し訳が立たないです。先生からホシノさんのことを託されていたというのに……」シクシク・・・

 

井伏 ティト「泣かないでください、ハルナ先輩……」

 

奥空 アヤネ「そうですよ。自分から飛び出していっただなんて……」

 

黒見 セリカ「そ、そうよ! ネル先輩がすぐさま追いかけていって、ネル先輩を返り討ちにするほどの手練れが隠れていただなんて、2人の“七囚人”が襲撃してくる以上の予想外の展開よ!」

 

砂狼 シロコ「うん。このことを聞いたナグサがまた涙でグチャグチャになって【百花繚乱】のみんなが慰めるのに大変そうだった……」

 

十六夜 ノノミ「今日、【アビドス】が抱えている問題が大きな解決の一歩を踏めたというのに……」

 

十六夜 ノノミ「ホシノ先輩、今 どこにいるのですか?」

 

 

ドタドタドタ・・・!

 

 

十六夜 ノノミ「……ガリバーさん!」

 

ロボット職員「ノノミさん、このまま警戒態勢を維持してください」

 

十六夜 ノノミ「ガリバーさんは?」

 

ロボット職員「僕はこれから別行動をとります」

 

十六夜 ノノミ「――――――!」

 

黒見 セリカ「ま、待ってよ! もしかして、ホシノ先輩の居場所がわかった?」

 

砂狼 シロコ「だったら、私たちも救助作戦に加えて欲しい」

 

ロボット職員「確証がないので、それはないです」

 

黒見 セリカ「え? どういうことよ、それって?」

 

奥空 アヤネ「なら、この状況で『別行動をとる』というのは?」

 

ロボット職員「………………」クルッ

 

奥空 アヤネ「待ってください! 答えてください!」

 

十六夜 ノノミ「ガリバーさん!」

 

 

――――――もしかして相手が凶悪な()()()だから?

 

 

井伏 ティト「だから、連れていけない?」

 

ロボット職員「――――――!」ピクッ

 

井伏 ティト「あ、もしかして当たり?」

 

黒舘 ハルナ「ティトさん」

 

砂狼 シロコ「まさか――――――!?」

 

奥空 アヤネ「そうなんですか、ガリバーさん!?」

 

黒見 セリカ「私たちは足手纏にしかならないっての!? ねえってば!」

 

十六夜 ノノミ「………………」

 

 

ロボット職員「……僕のことを信じて、この場のことをお願いします、ノノミ生徒会長」

 

 

十六夜 ノノミ「わかりました!」

 

十六夜 ノノミ「だから、ホシノ先輩のことを託しましたよ、ガリバーさん」

 

ロボット職員「ありがとう、ノノミさん」

 

砂狼 シロコ「ノノミ」

 

砂狼 シロコ「ノノミが、私たちが選んだ生徒会長がそう言うのなら、今はそれに従う」

 

黒見 セリカ「わかったわ。それなら、私たちはホシノ先輩が帰ってくる場所を少しでも綺麗にしておくから」

 

奥空 アヤネ「はい。どうか、ご武運を」

 

ロボット職員「ああ、必ずホシノのことは連れ帰ってくる」

 

 

――――――待っていてくれ。ホシノ。みんな。今度こそ、全てを守ってみせる。

 

 

十六夜 ノノミ「じゃあ、先生の留守を預かったというより、ここが私たちの学び舎、自治区、住む場所ですから、私たちが【アビドス生徒会】として果たしていくべきことをしていきましょう」

 

奥空 アヤネ「はい。引き続き たくさんの方の協力が得られましたので、それを上手く割り振っていきます」

 

黒見 セリカ「そうね。まずはガリバーさんから引き継いだ進捗状況の確認よね」

 

砂狼 シロコ「あ、【便利屋68】が今日の支払いについて訊いて来ているけど――――――?」

 

 

バタバタバタ・・・

 

 

黒舘 ハルナ「本当にお願いしますわ、ガリバーさん……」

 

井伏 ティト「みんな、立派だね」

 

黒舘 ハルナ「?」

 

井伏 ティト「……リピアーもこんな気持ちだったのかな」

 

 

――――――そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。

 

 

黒舘 ハルナ「え」

 

井伏 ティト「映画の話。私たちワイルドハント生限定のね」

 

黒舘 ハルナ「そういった映画が【ワイルドハント】で上映されているのですか? 私も見てみたいですわ!」

 

井伏 ティト「そうですねぇ」

 

 

――――――君が望むなら それは強く応えてくれるのだ。

 

 

かつて怪獣退治の専門家という胡散臭い肩書を名乗る異邦人:北条 アキラが【ワイルドハント芸術学院】を初めて訪れたのは 最初の怪獣:クレッセントが首都:D.U.を直撃したXデーの前日譚となる いわゆるPre-Xデーと呼ばれる日々でのキヴォトス各地の異常現象の調査の日々であった。

 

生徒会に相当する【芸術評議会】は【ワイルドハント芸術学院】の生徒が生み出した作品の芸術的価値を評価・分類する組織であり、生徒会長に相当する評議会長:雲類鷲 マナミは自身以外は誰も入れたことのない個人博物館を所有しており、そこには伝説的な美術品が保管されていると噂されていた。

 

そのため、すでに行政府【連邦生徒会】の求心力と統制が失われ、群雄割拠となった学園都市:キヴォトスに数千と存在する学園の独立を守り続ける生徒会長たちが素直に調査に協力することは稀であった。

 

そこで調査に協力する見返りとして【ワイルドハント芸術学院】に対し、キヴォトスに赴任する際に持ち込むことができた携帯端末に保存してあった地球文化のデータファイルのコピーを譲渡する契約を評議会長:雲類鷲 マナミを交わしており、そのうちの何割かを自身が所有している個人博物館に収蔵して独占しているという噂で持ち切りとなっていた。

 

ただ、『これだけは絶対に上映して欲しい』として【ワイルドハント】での上映権を契約にねじ込んだものがあり、それのおかげで基本的には内向的かつ保守的な【ワイルドハント芸術学院】の生徒たちの“シャーレの先生”への支持と理解を逸早く取り付けることに成功していた。

 

 

その3本というのが庵野秀明監督 作『ウルトラマン』『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』『シン・ウルトラマン』ならびにそれらのメイキングビデオであった。

 

 

実は、異邦人:北条 アキラが芸術の故郷【ワイルドハント芸術学院】を訪れて真っ先に思ったのは、芸術大国:フランスにおける第九芸術:バンド・デシネはないのかということ、日本が世界に誇る特殊撮影技術(SFX)はないのかという不満であった。映像技術はテレビ番組の領分ということで報道学園【クロノススクール】の管轄なのかと思ったが、どうもちがうみたいで要領を得ないままだった。

 

なので、教育現場でウルトラマンの心を実践しようと奮闘していた地球人:北条 アキラとしては最後の直撃世代であるメビウス世代としてウルトラマンと地球人の絆を後世に語り継ぐ担い手としてウルトラマンの布教活動にも熱心であり、その聖典となるものが完成したのが西暦2022年のことであった。

 

1980年、昭和最後のウルトラヒーロー:ウルトラマン80が地球を守ってくれていた同時期、大阪芸術大学芸術学部映像計画学科に所属していた庵野秀明は自主制作映画作品として『ウルトラマン』『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』を制作していたわけであり、その遥かなる浪漫と憧れを胸に抱き続けた末――――――、

 

最終的に2022年にその決定版と言える超大作『シン・ウルトラマン』で、ウルトラマンが地球を去って久しい地球において再びウルトラマンと地球人の絆を思い出させ、一世を風靡したのである。

 

そして、その主題歌『M八七』もまた『一度ウルトラマンになってないと書けない歌詞』として【GUYS】でも大評判になっており、ウルトラマンの心を実践する者である北条 アキラは常にこの歌のことを思い浮かべながら、自分なりのウルトラマン像の理想を追い求めてきたのである。

 

なお、空想特撮映画『シン・ウルトラマン』は怪獣頻出期が収束した令和時代の軍縮期の映画作品ということで、地球防衛軍から資料提供の際に映画に憧れて軍縮の流れに逆らう世論が形成されないよう、『現存する英雄たちである防衛チーム【CREW GUYS JAPAN】を主役にしてはならない』という大人の事情があった。

 

そのため、地球防衛軍の所属ではない 国際科学警察機構の実働部隊である 科学特捜隊の活動記録【ドキュメントSSSP】を題材にして、地球人とウルトラマンの絆の原点たる初代ウルトラマンの活躍を メテオール:Much Extreme Technology of Extraterrestial ORigin(地球外生物起源の超絶技術)を抜きにした 令和時代の現行技術を主体にした SF映画として再構築させたのだ。

 

よって、ウルトラマンになりたかった地球人が想像(創造)したアイデアというのがベーターカプセルであり、

 

このため、Xデーに現れたウルトラマン80が誰かが変身しているものだとは思わず、それはあくまでも映画の話だとワイルドハント生は決まって笑うのだ。真似る人たちは続出したが。

 

実際、最先端科学の牙城たる【ミレニアムサイエンススクール】ですら再現が不可能どころか理論の実証ができるはずもないベーターシステムの基礎原理と高次元領域に関する関係式が登場する空想科学がこれでもかと敷き詰められた超本格派の空想特撮映画なのだから、そこに登場する数々の方程式や専門用語はもはや呪文の羅列のようであった。

 

そう、十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかないように、人知を超えた空想特撮は時として奇跡の幻出に他ならず。

 

だからこそ、メイキングビデオを追加料金を払うことで見ることができたとしても地球人:北条 アキラからもたらされた空想特撮映画『シン・ウルトラマン』に強烈なカルチャーショック(ヤックデカルチャー)を受けたワイルドハント生が続出することになったのである。もう何十回も映画館に足を運ぶ生徒がいるのだ。

 

なにより、SF超大作の長編映画『シン・ウルトラマン』よりもメイキングビデオも含めて安価に供給されている短編映画『ウルトラマン』『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』で手作り感満載の映画も上映されているのだから、これを見て『自分たちも作りたい』とか『やれるかもしれない』という創作意欲が無限に湧いてくるのだ。

 

そのため、ワイルドハント生の間では庵野秀明監督の名前は地球人:北条 アキラと同等の知名度を得ることになり、少しでも追加の情報を引き出したいという思いが【ワイルドハント芸術学院】の総意となったため、【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】の活動に協力する課外活動が奨励されることになり、妙な業務提携がPre-Xデーの段階で結ばれることになったのである。

 

その業務提携では【芸術評議会】から提供された専用の記憶媒体(ストレージ)に地球人:北条 アキラが所有している地球文化のデータファイルのコピーを作成して持ち帰ることが協力の対価となっており、最低でも業務遂行上で必要な諸経費は出すが、基本的には無料奉仕活動(ボランティア)でワイルドハント生が【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】に送り出されている扱いとなっていた。

 

そのため、【シャーレ】の業務を手伝うことで地球人:北条 アキラのことを間近で知り、報酬で庵野秀明監督の追加情報を持って帰ることがワイルドハント生の共通認識の任務になっており、【オカルト研究会】会長:白尾 エリが決してそれだけではない“シャーレの先生”の文化人としての圧倒的な才能と知識に深く尊敬の念を抱く裏で憧れの感情を抱くようになるのはすぐのことであった。

 

そして、そこで発掘されたのが庵野秀明監督と同じ大学時代を過ごした漫画家:島本和彦先生の自伝漫画『アオイホノオ』の第1部をテレビドラマ化したものであり、これをまとめて上映したものが芸大生:庵野秀明の凄さを身近に感じられるということでワイルドハント生の間でこれまた大ヒットを記録することになったのである。

 

一方で、そこまで大ヒットしたら『アオイホノオ』の作者である島本和彦先生にも注目が集まるわけであり、芋蔓式に漫画家:島本和彦先生が描いたヒーロー漫画『ウルトラマンG(初版発行: 2016年12月)』も知られることになったのである。*2

 

ところが、ウルトラマン80が活躍していた1980年当時の様子を知る資料として北条先生が『アオイホノオ』原作コミックスをきっちりと電子書籍で購入していたことが発覚すると、当然ながら原作『アオイホノオ』を読み漁ろうとワイルドハント生が【シャーレ】に殺到することになり、それに触発されて【芸術評議会】で『第九芸術(バンド・デシネ)』専攻を新設しないかという声が上がるまでになったのである。

 

そのため、最初の怪獣:クレッセントが出現したXデーが到来するまでには【ワイルドハント芸術学院】からは フランス芸術文化勲章をもじった ()()()()()()()()()()()()()が地球人:北条 アキラと庵野秀明監督と島本和彦先生の3人に勝手に授与されていたのである。

 

だからこそ、北条先生の調査報告を【連邦生徒会】が無視した結果、最初の怪獣:クレッセントへの対策が何もとられず、滅亡まで一直線となったXデーの時は決して少なくないワイルドハント生が避難所に指定されていた【シャーレ・オフィス】に駆け込んでいたのである。

 

 

――――――戦闘部隊が壊滅状態!

 

 

北条先生『もはや、これまでか! クレッセント相手に、まあ、よく持ち堪えた方だよ!』ガクッ

 

北条先生『――――――戦闘部隊が壊滅状態で最終防衛ラインの形成だなんて、そんなのはもう形だけの抵抗だ。組織的な抵抗なんて無理なんだから潰走しかないぞ』

 

北条先生『あんな程度の怪獣ッ! 本当だったら、映画なんか目じゃないメテオール満載の戦闘機:ガンフェニックストライカーで簡単に倒せるのに!』

 

北条先生『生きてさえ――――――、生きてさえいれば――――――、どんなに苦しくても明日があれば――――――』

 

白尾 エリ『ま、マスター! 本当にどうしようもないんですか!?』

 

白尾 エリ『映画のように怪獣が現れたら、光の星から銀の巨人が現れて人類のために戦ってくれる奇跡は――――――』

 

北条先生『……どうだろうねぇ?』ハハッ

 

 

――――――宇宙は広い。それこそM78星雲の光の国の巨人たちが宇宙中を飛び回っても見尽くすことができないぐらい大きい。

 

 

北条先生『まず、この星が光の巨人たちの目に留まっていないことには、そんな奇跡にすがることも……』

 

白尾 エリ『な、なら、()はあります!』

 

北条先生『…………?』

 

白尾 エリ『マスター、今日のタロット占いの結果は『XVII.STAR()』なんですよ。その暗示は『希望』『ひらめき』『願いが叶う』『絶望からの再生』……』

 

白尾 エリ『だから、マスター……、先生、あの――――――』

 

北条先生『……ガリバーさん』

 

ロボット職員『は、はい……』

 

 

北条先生『ここもどうなるかわからない』

 

 

白尾 エリ『!!!!』

 

北条先生『バスと避難所の確保は十分ですか? 食糧や燃料の備蓄も』

 

ロボット職員『進めてはいますが、サンクトゥムタワーそのものが破壊されたら、“連邦生徒会長”が失踪した時以上の混沌が――――――』

 

北条先生『だとしても、僕たちはここでは責任ある大人なのだから、最善だと思うことをし続けるしかない!』

 

白尾 エリ『あ……』

 

北条先生『いつでも避難できるように準備を完了させてください』

 

ロボット職員『先生は――――――?』

 

北条先生『僕は、わからない』

 

北条先生『けど、あの“連邦生徒会長”のことを未だに信じるのなら、まだ何か希望が残されているんじゃないかって……』

 

ロボット職員『……わかりました。必ずや避難の準備を終わらせておきます』

 

ロボット職員『だから、先生、必ず帰ってきてください』

 

北条先生『ありがとう、ガリバーさん。あなたが居てくれたおかげで、僕はここまで頑張ってこれたよ』

 

白尾 エリ『ま、待ってください、先生! 先生!』ギュッ

 

北条先生『………………』

 

ロボット職員『エリさん……』

 

 

白尾 エリ『ウルトラマンの心を誰よりも実践してきた先生になら、奇跡を起こすことができるって、信じてます!』ポタポタ・・・

 

 

白尾 エリ『だって、先生だって、遠くの星から私たちに愛と勇気を教えにきた素敵な人じゃないですかぁ……』グスン・・・

 

白尾 エリ『これからもいっぱい教えてくださいよ、先生のことや地球のこと、ウルトラマンのこと……』

 

白尾 エリ『そうだ、教えてくれたじゃないですか。『“夢”という魔法はもう心の中に宿ってる』って』

 

 

――――――だから、『ウルトラマンになりたい』って“夢”をあきらめないでください!

 

 

北条先生『――――――!』

 

ロボット職員『!!!!!!!!』

 

北条先生『………………』

 

ロボット職員『……………』

 

白尾 エリ『あ、あの…………』

 

北条先生『ありがとう、白尾さん。最後まで頑張ってみるよ、僕』

 

 

――――――それが僕がずっと追いかけ続けてきたウルトラマンの心だから。

 

 

ロボット職員『北条先生、絶対に、絶対に帰ってきてください!』

 

白尾 エリ『先生! 北条先生! マスター!』

 

ロボット職員『うぅ、どうして今の僕に力がないんだ……』

 

 

キヴォトスが誇る鋼鉄の軍団を平らげた先にあるのは、キヴォトスの中枢であり 象徴であるサンクトゥムタワーであり、サンクトゥムタワーを失えば“連邦生徒会長”失踪直後の混乱の比ではない破滅が待ち受けている。

 

そのため、サンクトゥムタワーの死守を命じて最終防衛ラインを形成させるが、もはや形だけの抵抗となりつつあった。部隊からの脱走者も続出。状況は最悪の一途をたどる。

 

もうどうすることもできない絶望的な状況を前に思わず駆け出していた青年は瓦礫の山となっていたD.U.への入口から大地を震わせる怪獣の背中を見上げて自分の無力さに慟哭した。

 

 

――――――その時、透き通るような世界観の青空にウルトラの星が瞬いた。

 

 

青年の手には今、避難所で配られていたカレーライスに付いていたスプーンではなく、大きなチョークホルダーのような何かが握られていたのだ。

 

そして、それが何なのか、それで何ができるのか、瞬時に理解することができた。たとえ、それがよくできた模造品(ウルトラレプリカ)であると頭で理解していても。

 

それはかつて“ウルトラマン先生”と共に地球を守ったUGMの名将:大山キャップの思い出話の中に出てきたもの――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金獅子 シブキ「――――――そう。ホシノが誘拐された。それで“シャーレの職員”がね」

 

金獅子 シブキ「――――――そう。連絡ありがとうございます、ティト」

 

金獅子 シブキ「こっちも後始末を終えたところですが、正午に射つ予定だった二発目のサーモバリック爆弾はどうするべきだと思います、後輩?」

 

金獅子 シブキ「なぜって? 現場に人喰い怪獣:ガゾートが降りてきちゃって、それを“シャーレの指導員”が退治して、そのまま人命救助活動に移られたのです」

 

金獅子 シブキ「この状況で二発目を射ったら、さすがの“シャーレの先生”も【真なるアビドス高等学校】を敵認定いたしますわよ」

 

金獅子 シブキ「これを機にあなたも“シャーレの先生”のことをよく知りなさい」

 

 

金獅子 シブキ「そして、これからは“お兄様”とお呼びするのよ」

 

 

金獅子 シブキ「――――――あら、親愛を込めて“お兄様”と呼んでおりますの、私」

 

金獅子 シブキ「つまり、この私の妹として紹介しますので、ただの生徒会長にはない親密な関係性を残していきますので、上手くお使いなさい」

 

金獅子 シブキ「それと、()()()()()()()()()()()()()も用意してあげないとですね」

 

金獅子 シブキ「――――――そうです。それはもう素晴らしい完成度でした」

 

金獅子 シブキ「さすがに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、当初の開発目的通りに『居ながらにして危険地帯の視察』を遂行することができました

 

金獅子 シブキ「これは使えますよ。自分で操作できる身代わり人形になるだけじゃなく、スオウ監督官が隠し持っていた<シェマタ>の起動キーになるというゴールドカード(十六夜 ノノミの)も検知できましたから」

 

金獅子 シブキ「――――――でしょう。欲しいでしょう。それで更なる運用法を研究なさい。私の方でもいろいろ試していますから」

 

金獅子 シブキ「では、手筈通りとはいきませんでしたが、概ね目的は達成しましたので、次の作戦に移ります。あなたは将来を見据えて動きなさい。邪魔なものは私が全て退かしておきますからね」

 

金獅子 シブキ「だから、またね、ティト」プツッ

 

金獅子 シブキ「……………」

 

金獅子 シブキ「…………フゥ」

 

 

金獅子 シブキ「お兄様。あなたはここから遥か遠くのアビドス砂漠で今も戦い続けているのですね」

 

 

金獅子 シブキ「メイア」

 

江ノ口 メト(えのぐち メイア)「ここに」シュタ

 

金獅子 シブキ「そう言えば、プレジデントの容態は?」

 

江ノ口 メト(えのぐち メイア)「まだ容態が安定したという報告はありません」

 

金獅子 シブキ「そうですか。まだ容態が安定してないですか」フフッ

 

金獅子 シブキ「ねえ、たしか【アビドス高等学校】の本校舎って――――――」

 

江ノ口 メト(えのぐち メイア)「はい。【カイザーPMC】の駐屯地になっています」

 

江ノ口 メト(えのぐち メイア)「現地の映像です」

 

金獅子 シブキ「さすがね、メイア」

 

金獅子 シブキ「あーあ、せっかく【アビドス】の中心地を貸し与えたというのに、こんなにも砂に埋れさせておいて、よく平気でいられますね」

 

金獅子 シブキ「これは貸主として一喝するのは当然ですよね?」

 

江ノ口 メト(えのぐち メイア)「当然のことでございます」

 

金獅子 シブキ「なら、私たちの自治区をここまで汚してくれたのだから、一応の行政指導の後に強制退去の手続きといこうかしら、ね」

 

 

――――――100年と経たずに砂に埋れてしまった私たちの本当の母校を取り戻しておきましょうか!

 

 

*1
海の幸豊かな静岡で、駄菓子屋さんのおばちゃんが勘定をわかりやすくするためにおでんに串を刺したのが始まりとされている。

*2
テレビマガジン(講談社)に1990年10月号~1991年11月号まで連載したものを26年の時を超え、新装版で復活!

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