聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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魔剣 ④

 

 白瀬の全身から噴き上がる血飛沫がジークにはやけにスローに見えた。それと同時に呆気ない、という感想が彼の中に浮かぶ。なんだ、こんなものだったのか。こんなのに怯えてたなんて馬鹿らしくなる、と。

 

「────くそ、」

 

 一瞬気を緩めたのが間違いだった。常人ならば間違いなく意識を失っているであろう負傷であったにも関わらず、白瀬は意識を失う様子がない。むしろ傷が逆戻しのように癒えていく。この現象には見覚えがあった。これは機関でも研究されていた技術の一つ。

 

再生者(リジェネレーター)…!」

「がああああああああ!!!!」

 

 ジークがそのことに気を取られた瞬間、ガラティーンが火を噴いた。白瀬の持つ聖剣から爆発的な炎が膨れ上がりジークに直撃、そのままはるか後方へと吹き飛ばす。吹き飛ばされたジークは着ていたコートを焦がしながら誰もいない、張りぼての建物へと窓ガラスをぶち破りながら突っ込んだ。そのまま勢いに任せてゴロゴロと転がり、受け身をとって立ち上がる。

 

「─ああ、やっぱりだ。やっぱりお前はこの程度では死なないよな。」

 

 白瀬が予想外の力を手に入れていたことに驚きながらも、それも想定内だと割り切った。それから自分が先ほどまでいた場所を見るも、そこに白瀬はいない。ついでにあの銀髪の女も。逃げたか、と小さく舌打ちする。

 

「まあいいさ。どこへ行こうと【絶霧(ディメンション・ロスト)】からは逃げられない。建物ごと壊して炙り出すとしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょいロスヴァイセさん…もうちょっと優しく…」

「そんなことを言ってる場合ですか!?できるだけ遠く逃げますよ!」

「いや逃げたってどうにもならんので…」

 

 一方で白瀬は戦乙女(ヴァルキリー)の鎧に身を包んだロスヴァイセに抱えられ、空を飛んでその場を離れていた。建物の間を縫うようにしてロスヴァイセが飛び、抱えられた白瀬は深刻そうに何かを考えている。

 

「完っっ全にやらかしました。いくらなんでもやらかすにも程がある、俺。」

 

 舌打ちしながら白瀬がぼやく。その呟きにロスヴァイセが反応した。

 

「本当ですよ!て言うかあれ、白瀬さんへの殺意云々以前に完全に魔剣に呑まれてませんか!?」

「…まだです。まだあの人は完全に呑まれてはない。」

 

 ジークの持つものよりランクは下がるとはいえ魔剣に完全に支配された人間の末路を知る白瀬が苦々しく頷く。

 

「魔剣の呪詛に完全に呑まれたら文字通り完全に言葉を失います。あれは理性と引き換えに暴走するものですからね。─言葉を話せてる以上、まだ完全には呑まれてない。自分の思考が暴走し易くはなりますが、あそこまで話せるならまだギリギリで戻って来れる範疇です。」

 

 というかそう考えるとなんでか最初から俺に殺意があったんだよな、と内心で首を傾げた。それが魔剣の呪詛で暴走し、今に至っているんだろうが…心当たりがない。そもそも接点がほぼなく、憎悪を抱かれるほどお互いのことを知らないのだ。最初から敵意を持たれていたなど予想できようもない。

 

 だからこそどこかで自分が魔剣を回収しに来たのを事前に知ったからだと思ったのだが、どうも違うらしい。明らかに口を滑らせた自分の発言を聞いて殺意の度合いが上がった。…あれは何も知らない者の反応だ。

 

「…わかりました。白瀬さん、これから一体どうするつもりですか?」

「ジークさんを倒します。」

 

 白瀬は即答した。幸い再生者の能力のおかげで傷はないに等しい。謎の結界内でも神器は問題なく作動する。聖剣も手元にある。万全といえる状態ではある。

 

「ジークさんを倒して、魔剣を回収します。…あれをこれ以上使うと、ジークさんの身が危ない。」

 

 そう言って一つため息をつくと、ちらりと眼下の街並みを見下ろした。その直後、幾つもの建物が吹き飛ばされて大きな煙が立つ。炙り出しに来たか、と白瀬は覚悟を決めた。

 

「ロスヴァイセさん、適当なところで降ろしてください。それから、さっき俺が護る、と言った身でありながら申し訳ないんですが…一つ頼みがあります。貴女の力が必要です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジークは自身の禁手である【阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)】を発動させたまま無人の街を歩いていた。それから適当なところで足を止め、無造作に魔剣を振るう。ピシリと音を立てて建物に切れ目が入り、それから音と砂埃を立てて崩れていく。

 

 何本もある魔剣のなかの一本の、そのただの一振りでこれだ。なら全てを使えば所詮は人間の強度でしかない白瀬は両断できるとジークはほくそ笑んだ。先ほどは微妙にずらされたせいで脇腹しか獲れなかったが、次は確実に殺してやると意気込む。

 

「………?」

 

 そう考えていた時、突然に空から光が差した。一定の光度しかないはずの結界内において、通常こんなことはあり得ない。だからこそ、原因は一つに限られる。─ビルの屋上から飛び降りてきた白瀬だ。あいつの持つ聖剣が、擬似太陽にとも言える光熱を放っている。

 

「来たな、白瀬ぇ!」

 

 狂笑を浮かべながら6刀全てを構えるジークを見下ろした白瀬が剣の切先をジークへと向けた。そこに莫大な熱量が集まっていき、巨大な火球を造り出す。そしてそれを一切の容赦なくジークへと撃ち出した。

 

 一切合切全てを焼き尽くす火球。ジークとてまともに当たれば危険なそれに彼は即座に対応した。

 

 まずはダインスレイブの氷で僅かとはいえ温度を下げる。一瞬で氷が蒸発し辺りが水蒸気で覆われた。次にディルヴィングから衝撃を放ち火球の勢いを抑え、そこにノートゥングで斬撃を放つ。無形の火ゆえに効果は薄いが仮にも魔剣の一撃。勢いを抑えることに成功した。それでも迫ってきた火球をバルムンクで押し留め、最後。火球そのものを太陽の魔剣(グラム)で両断する。中心から両断された火球はジークを避けるようにして後方へと流れていき、遥か後ろで爆発した。爆発の際の高熱でアスファルトが溶け、周囲が赤く染まる。

 

「その程度か白瀬!?」

 

 一瞬にして5本の魔剣を流れるように使用して火球をしのいだジークは笑う。そんなジークに白瀬本人が迫る。上段に剣を構え、全霊を持って叩き潰そうしている。それを見てジークも6本の剣全てを迎撃に回した。左右3本ずつの剣を交差させ、襲い来る衝撃に備える。

 

「さあ来い!」

「ジークさん…!」

 

 白瀬の身体が躍動する。【聖者の数字】によって限界まで強化された肉体が弓なりにしなり威力を高め、そこに落ちてきた時の重力全てを合わせた極限の一撃。外した時、を一切考えない攻撃偏重にも程がある構えから繰り出す大斬撃。

 

「おおおおおおっっっ!!」

「はあああああっっっ!!」

 

 両者の剣が今、ぶつかり合う。力の極致である一撃と、技の極致である六連。その二つがぶつかり合い、凄まじい轟音と共に火花が辺りに飛び散った。ジークの足がアスファルトを砕いて地面に沈み、蜘蛛の巣状の亀裂を造り出す。

 

 一瞬の膠着。2人にとっては永遠にも思われたそれがついに終わった。ジークが6本の腕で白瀬を吹き飛ばし、ビルに叩きつける。窓ガラスが割れる音と、ビルの内装が砕ける音が辺りに響いた。

 

「見たか白瀬。これが僕の禁手(バランス・ブレイカー)、【阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)】!これはただ腕が生えるだけじゃない。これは全てが【龍の手】。なら当然倍加の能力も持ち合わせる!今の僕の力はもとの16倍!お前の【聖者の数字】よりも力を出せるんだ!」

 

 それが示すことは『技の極致』に『力の極致』が合わさったと言うこと。高らかにそれを宣言するジークに、ビルの中でひっくり返っていた白瀬は苦い声を漏らした。

 

「いや技名長すぎでしょ…。まあ禁手(バランス・ブレイカー)に至ってない俺が言うのもなんだけどさあ…」

 

 誰かが聞いていたらそこじゃねえ、と言いたくなるようなことを呟いて白瀬は体を起こした。その顔には勝利を確信した笑みが僅かに浮かんでいる。

 

(でもま、今ので確信した。)

 

 ぐるりと肩を回して剣を持ち直す。白瀬が知りたかった情報は得た。─あれは『龍』だ。最強生物の力を持ちながらも『龍殺し』に蝕まれる因子だ。

 

 今のジークは魔剣グラムを使えない。

 

 グラムはジークの持つ剣の中で唯一太陽の聖剣(ガラティーン)の炎に正面から撃ち合える魔剣。それを封じれたのはでかい。先程の火球も、幾つもの魔剣の連携で漸く対応できていた。本来ならばグラムの一振りで打ち消せたであろうただの火球に、5本の魔剣を要していた。ならば。

 

(これなら、どうだ?)

 

 立ち上がった白瀬が剣を頭上に構えた。構えた聖剣から焔が上り、火柱を作る。火柱は勢いを増して太くなっていき、ビルを中から撃ち抜いて天へと昇っていく。

 

「ははっ…」

 

 その火柱を見てジークが笑った。そうだ、これが聖剣に愛された者の本領。自分では到底辿り着けなかった領域に立つ者にのみ許されなかった絶技。

 

 ただひたすらに聖剣の炎で焼き尽くすだけの絶対奥義。

 

「いいだろう。やってやろうじゃないか。」

 

 天を衝く火柱を見てジークが獰猛な笑みを浮かべる。これは白瀬の必殺技。ならそれを正面から打ち破って初めて自分は勝利できる。それを確信したジークがグラム以外の5本の剣を全て最大まで駆動する。

 

「─絶技、装填!」

 

 白瀬が吠える。自身の周りに溶けたコンクリートが落ちてくるのも厭わず、構えた聖剣を思いっきり下へと振り抜いた。

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!!

 

 その声と共に、火柱が倒れる。破壊の具現とかした太陽の焔が、ジークへと迫る。間違いなく人間の放つ火力としては最大の、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)すらも上回る一撃がジークを襲う。

 

「魔剣よ、僕に応えろ!」

 

 そしてジークもまた全ての魔剣を全開放して対抗した。一つ一つは火柱に対抗できるほどではない。だが、全てが合わされば相当な相乗効果を生み出す魔剣の連携。魔剣に愛された男だからこそできる人界の極致。だが、

 

「長い…!」

 

 あまりにもその焔は長すぎた。普通ならば一瞬撃つだけでも精一杯であろう大火力が10秒以上も続き、そして今も勢いが止む気配がない。

 

「お、おおおおお!!!」

 

 それでも、と。負けてたまるかとジークが吼える。魔剣から濃密な波動を生み出し、火柱に呑まれまいと足掻く。魔剣の波動が火柱を押し返そうとするが、徐々に火柱のほうがジークを追い詰めていく。そしてついに、限界が来た。

 

「嘘だ、嘘だこんなの…!」

 

 魔剣の波動を押し切り、ついに火柱がジークを呑み込む。魔剣が次々に砕け散り、辺り一面を染めた業火がジークの身を焼いていく。灼熱が辺り一面を真っ赤な大地へと変え、射線の全てを消し飛ばしていく。

 

 敗北。その思考がジークを埋め尽くす。これが聖剣に愛された男の力なのだと、自分では到底届かないと思わさせる。圧倒的な力の前に思わず膝をつく。

 

「……いやまだ、まだだ…!!」

 

 それでも、とジークは業火の中で立ち上がり、奥歯に仕込んだカプセルに力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロスヴァイセさん!今です!」

 

 ガラティーンによる火柱が勢いを潜め、辺り一面に焼けた臭いが立ち込める中で白瀬が自身の隣に降り立ったロスヴァイセに叫んだ。

 

「今ならいけます!今のジークさんは()()()()()()()。炎に対して高い耐性を持つ龍ならば、今の一撃で弱りこそしても死んではいない!なら今なら貴女の魔法が効く!」

「分かっています!」

 

 白瀬の声に応じてロスヴァイセが手元で幾つもの魔法陣を起動する。その全てが拘束術式。北欧(アースガルズ)戦乙女(ヴァルキリー)たちの中でも才女と称された彼女の放つ拘束術式が弱りきったジークへと向かう。

 

 戦うとなった時点で最初から白瀬はこれを狙っていた。ジークを殺さず、それでいて捕らえる方法を。その観点からすればジークが龍に寄る禁手を使ったのは幸いだった。あれならば自分の全力を使っても重傷を負うことはあっても死ぬことはない。そして自分が弱らせ、魔法に秀でたロスヴァイセが拘束する。それだけを目的に戦っていた。

 

 あれだけ派手な火柱を使ったのもジークの目を引くため。あんなに派手な攻撃ならば、ジークの目は確実に白瀬だけに向く。そうすればロスヴァイセへの被害は最小限に済むだろうと踏んでの判断だった。

 

 それはおそらく自分たちの目的を達成する上では最適解。そう信じた2人による連携だった。だが、

 

「それは困るな。」

 

 ロスヴァイセの魔法が、消える。魔法陣がかき消され、今まさにジークを拘束しようとしていた全てが光の粒子となって無に帰する。

 

「─え?」

 

 予想だにしなかった展開にロスヴァイセと白瀬の動きが固まる。まさかの横槍が入ったことに、自分たちの作戦が失敗したことが信じられずに目を見開いた。それから何度もロスヴァイセが魔法を起動しようとするも、魔法陣は光の霧となって消え失せる。この場で魔法は起動すらできなかった。

 

「まだジークは倒れていない。そして今限界を越えようとしているのに、それを邪魔されるわけにはいかないな。」

 

 その声はビルの上からした。2人がそちらを向くと、そこには4人の男女。その中の中心に立つ中国っぽい服装をした男が2人に語りかけていた。

 

「初めまして『現代のガウェイン』。俺は曹操。【禍の団(カオス・ブリゲード)】の一派、【英雄派】のリーダーを務めている。」

「【禍の団】、だと…?」

 

 白瀬はその名前を知っていた。ミカエルが会談に臨んだ際に現れた旧魔王の残党が名乗ったテロリスト組織だと、そう聞いていた。だが、そんな組織がなぜここに。そんな内心を読んだかのように曹操が笑う。

 

「そうだ。そして今君たちが戦っていたジークはうちの副リーダーでもある。」

「…え?」

 

 ジークさんが、テロリスト?その言葉に白瀬の思考が完全に止まった。そんな白瀬を放置して曹操は隣の眼鏡の男と話し始める。

 

「知らなかったのか。…にしてもジークが悩んでいたのに気づかなかったとは、俺もまだまだだな。」

「仕方ないさ。あれはジークの問題。彼を英雄たらしめる根幹の話なんだから。…だが、曹操。」

「ああ。ジークは立つぞ。」

 

 その言葉の直後、ジークのいた方向から圧倒的なオーラが溢れ出す。それは周囲にまだ残った熱で視界が霞んでいても存在がわかるほどに濃密で、暴力的な力。近づこうにもそれを許さないほどの、絶対的な力が溢れていた。

 

「知っての通りジークは龍殺しの魔剣に愛されていながら龍の因子を持つが故に全開で戦えないというジレンマを抱えていてね。本人もそれに悩んでいたんだが、解決策をいくつか見つけたんだ。今回使ったのはその中の一つ。」

 

 そのオーラを見ながら曹操が自慢げに語る。

 

「龍殺しの力が自分を蝕むと言うのならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その発想で彼は自分の龍の力を強化した。」

 

 それは逆転の発想。龍殺しを制御するのではなく、自身の方を途轍もなく強化することで無理矢理グラムを使えるようにしようという、荒唐無稽な発想。例え思いついたとしても、本来ならば絶対に辿り着けない考え。

 

 だが、彼らはそれを可能にする方法を知っていた。

 

 『オーフィスの蛇』。最強の無限龍の力を持つそれは龍の因子を持つジークと極端に相性が良く、彼の肉体に馴染んだ。その結果として生まれるのが『龍殺しの力に耐えられる龍の肉体』を持った人間。人の技能と龍の頑健さを併せ持った超級のハイブリッド。

 

「かつてジークフリートやシグルドは龍の心臓を食べてその力を得たと言う。ならばその子孫である彼が同じ道を歩んだっておかしくはない。そうは思わないか?」

 

 オーラが晴れる。そこにいたのはジーク、のはずだ。顔や体つきは間違いなくジークのそれ。だが、背中に生えた翼や長い尾、そして頭の角が今までとは違うことを如実に表している。

 

「…これが、仲間と得た新しい僕の力だ。」

 

 辺りに龍の気を撒き散らしながらジークがつぶやいた。その手には数々の魔剣などなく、持つのは魔剣グラムただ一振りのみ。それを見た白瀬は思わず舌打ちをした。

 

 白瀬は自身の強さの根幹がガラティーンであると認識している。そしてその上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 圧倒的な火焔に魔性を屠る聖なる光。聖剣の頂に君臨するに相応しい力を持ったガラティーンだが、それは突き詰めれば炎に過ぎない。だからこそ、炎も聖なる力も効かない相手、というものが天敵。

 

 そしてその存在の最たるものこそが、『龍』。

 

 それこそが炎に対する耐性を持ち、浄化の光が効かず、強固な鱗は刃を通さない。全てにおいてガラティーンの天敵になりうる唯一の存在。

 

「クソッタレ…!」

 

 コカビエルのように相性有利を取れない相手を前に白瀬は剣を強く握り締めた。

 

 

 





以前チラッと書いた白瀬の天敵が『龍』
ただし悪魔化したりしてたら話は別。



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