SRT特殊学園。連邦生徒会長が失踪したことで廃校となったその学校には、虎の名を持つ少女達がいた。

※SRTとヴァルキューレ周りが個人的な考察と設定で固められているので苦手な人はかなり苦手かもしれません。

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特殊部隊っていいよねって話です。


最低限の仕事さえしてればいいの

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 あの時の事は今でも夢に見る。

 

 

 突如として明かり一つ灯っていない廃工場が一瞬強く光った後に全ての窓ガラスが割れ、私がいる電波塔まで強く地響きが襲ってきた。

 

 

『TIGER2、TIGER3! 無事か! 返事をしろ!』

 

 

 無線に返事はなく、帰ってくるのは雑音ばかり。電波塔を飛び降りてワイヤーを解く事すらもどかしくナイフで無理やり叩き切り工場へと駆け寄る。周辺に伏兵がいる可能性がある事からこんな迂闊な真似をしてはいけないのだが、そんな事を考える余裕なんて無く。

 

「TIGER2! TIGER3! ……カノ! ネネ!」

 

 爆炎で前が見えない中必死に二人の名前を呼ぶ。取り押さえるはずだった倉庫内の武器類が誘爆したのか、工場内は火の海となっていた。黒煙を掻き分けて歩いているとふと人の唸り声のようなものが聞こえた。

 

「カノ! ネネ! 返事をして!」

「……ユリ?」

「いた……!」

「ユリ……か、カノ……カノちゃんが……」

 

 駆け寄っていった先。そこには血の気の引いた顔をした煤けて傷だらけのネネがいて。

 

「ば、爆弾を、抱えた人が、爆発して、わ、わたし、反応できなくて……そしたら、か、カノちゃ、カノちゃんが庇ってくれて……」

「……っ!」

 

 ネネを爆発から庇い至近距離で爆発を受け止める事となったのだろう。カノが愛用しているライオットシールドはひしゃげて吹き飛んでおり、カノ自身も頭やシールドを持っていた腕からかなりの血を流していた。胃の中から込み上がってくるものを耐えながら頭を動かす。

 

「ひとまず、ここから離れよう……立てる?」

「え、あ、うん、私は……」

「カノは私が背負うから、ネネは先行して援護を」

「わ、分かった……!」

 

 カノやネネの使っていた銃は駄目になっている。サイドホルスターのハンドガンを抜いてネネに渡し、カノを抱えて工場の外を目指す。煙や炎でまともに見えやしないがそれでも来た道は覚えている。

 

 工場の入り口まであと少し、といった所で再び爆発が起きた。

 

「ユリっ、危ない!」

 

 不愉快な金属音が鳴り響き頭上を見上げると天井を支えていた鉄骨の一部が今にも崩れようとしていた。急ごうとした足は爆発の揺れで挫け背負っていたカノと共に地面に倒れ込む事になる。ネネが駆け寄ってきているが、それよりも早く天井の鉄骨は重力に惹かれて落ちてきて。

 

「カノっ! ユリっ!」

 

 ネネの叫びを聞きながら死を覚悟して目を閉じた次の瞬間──

 

「起きろ!! いつまで寝ているんだ!!!」

 

 そんな言葉と共に頭に強い衝撃を受け、私は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 1

 

 

 

 

 

「いつまで寝ているんだ貴官は?」

 

 後頭部に軽い痛みを感じながら顔をあげればそこには怒り半分、呆れ半分といった表情のカンナ局長がいた。

 

「……すみません、ちょっとうとうとしていました」

「顔に痣をつけながらか?」

「……えぇまぁ」

 

 ちらりとデスクに置いてある鏡を見れば左頬が真っ赤になっている。昔教官から叩かれた時のことを思い出した。

 

 あの時は確かカノと2人で教官の昼食にタバスコを仕込む悪戯をしたんだったか。放課後訓練場を滅茶苦茶に走らされたのを覚えている。お互い罵りあって教官に叱られた責任を押し付けあいながら訓練場を走って息も絶え絶えになり、2人して寝ころび馬鹿らしくなって笑いあった。そんな所にネネが呆れながらスポーツドリンクを持ってきてくれるのだ。

 

「どうやら誰かにビンタでもされたみたいですね。公安局内で暴力沙汰が起きたようです、局長。第一容疑者としては今自分の目の前にいる方をあげたいのですが」

「馬鹿なことを言ってないで仕事しろ」

「あたっ」

 

 こつん、と片手に持っているファイルで頭を叩かれる。先程の後頭部の痛みもこれによるものだろう。あまり頭を叩かれると馬鹿になってしまうので程々にしてほしい……訓練生時代に散々叩かれたから今更か。

 

「随分と寝ていたようだが、貴官が先日担当した車両窃盗事件の報告書はできているのか?」

「局長のPCに送信済みですよ。問題なければ印刷してファイルに纏めておきます」

「……分かった」

「……? 何か言いたげですが」

「報告書や書類の作成と提出は早いのだから勤務中の居眠りや勤務態度が改善されればな、と考えていた」

「……それはどうも」

 

 昔はこんな居眠りが酷かったわけではない。環境の変化というのもあるだろうが、そもそも私が居眠りしている時はネネが気にかけて起こしてくれていた。任務で野営をした時には毛布を掛けてくれたり起きてすぐにホットミルクを作ってくれたりしていたっけ。ネネ特性のはちみつ入りホットミルクは美味しかった。そのせいで二度寝してしまいカノに怒鳴られて無理やり起こされたりもしたっけか。どれも懐かしい思い出だ。

 

 

「どうした」

「いえ、少々昔を思い出していただけです」

「?」

 

 顔に出ていたらしい。欠伸するふりをしながらにやけ顔を整え眼鏡をかける。ふと腕時計に目をやれば時刻は正午を指していた。書類をまとめて鞄に突っ込み、PCからUSBを抜く。

 

「どこか出るのか」

「今日は早上がりなので、昼食でも食べに行こうかと思いまして」

「1人でか?」

「一緒に行きたがる人もいないでしょう」

 

 そう話しながらちらりとフロアに目をやる。私と局長のやり取りに聞き耳立てていただろう複数人がさっと目をそらすのが見えた。気付かないわけがないってのに。

 

「しかしだな……」

「お気遣いだけありがたく頂戴いたしますよ、局長。お忙しい所申し訳ございません」

「……分かった。報告書は確認しておく」

「お願いします」

 

 椅子にかけていたジャケットを羽織り拳銃をホルスターへ納めマガジンをベルトのポーチへ。デスクの引き出しを開けて中から愛車の鍵と2つの物を手に取りポケットに入れる。

 

 先程私と局長の会話を盗み聞きしていたであろう人達の視線を背中に受けながら私はオフィスを後にした。

 

 

 

 ───

 

 

 

 オフィスを出ていく旋風を見送り、自身のデスクへと戻ろうとするとふと話し声が聞こえてきた。

 

「また寝ていたね、あの人」

「不眠症って聞いたけど」

「ただの寝不足じゃないの?」

「さぁ……私あの人の事よく知らないし」

 

 

「おしゃべりは満足したか?」

 

 

 話しかけられるとは思っていなかったのだろう。私が声を掛ければバツが悪そうな顔をしながら飛び上がるように驚いていた。先程私と旋風が話している時に視線を向けていた公安局内でもおしゃべり好きで噂好きな1年生の2人組だ。

 

「わっ、局長」

「喋っている暇があったら手を動かしたらどうだ」

「も、申し訳ありません」

 

 相方が謝りながら慌てて机上の書類を整理し始める中、もう1人の方はじっと私を見つめている。何かを言いたいらしい。私が口を開こうとした瞬間弾かれたように彼女が喋りだした。

 

「……旋風さんってどういう人なんですか」

「ちょ、お前」

「元SRT特殊学園生徒だというのは編入の際の挨拶で知っています。しかし大多数のSRT生が警備局へ配属されている中で彼女は数少ない公安局配属になった人です。

 

 公安局配属になるという事はそれだけ優秀な人な筈なんです。しかし普段の勤務態度を見ていれば業務中の居眠りは当然。見回りは誰かとではなく1人でいつもしています。

 

 協調性に欠けていて、勤務に対して不真面目なのかと思えば先日のように見回り中に車両窃盗を行おうとしている者を捕まえるなどはしています。

 

 しかし先日本官たちが見回りをしている時に見かけた際は補導対象であるスケバン3人組と仲良さげに談笑していました。

 

 正直、彼女に対する印象は滅茶苦茶でよく分かりません。どういう人物なのですか?」

「旋風の事を知りたいのか」

「教えてくださるのですか?」

 

 随分と旋風の事を見ているようだ。1年生にしてここまでの観察力を持ちそこそこの推理力もある。優秀な人間がヴァルキューレに入学してくれて、この公安局で働いてくれているという事実に僅かながら老婆心のようなものが動き話をしてやりたい気持ちが出る。しかし個人情報を本人の許可無くペラペラと喋るわけにもいかない。

 

 ……そういえばこの1年生は確か書類仕事が苦手で、提出される報告書もどこか杜撰だったり誤字が多かったりしたな。

 

「……その書類を書き終えたらな」

「そんな殺生な!」

「旋風の話を口実に仕事をさぼろうとしているだろう?」

「うぇえ!?」

 

 やはりか。自身の気になる事を知りつつ仕事をサボれたら一石二鳥とでも考えていたのだろう。

 

「あんたねぇ……」

「だ、だってぇ」

「……少なくとも、整理されていて分かりやすい読みやすい報告書をすぐさま提出してくれるという点では貴官らより優秀だな」

「うぅ……」

 

 多少嫌味を込めた言葉を吐けば彼女は轟沈しデスクへと顔を突っ伏するのだった。

 

「ほら、馬鹿な事言ってないで仕事するよ」

「書類仕事めんどくさいんだもん!」

 

 

「全く……居眠り常習犯もだが、噂好きのおしゃべりには参るな……」

 

 

 

 

 

 

 2

 

 

 

 

 

 ヴァルキューレ警察学校。日々様々な事件が起きる学園都市キヴォトスにおいて治安維持と市民の平和を守る正義の警察組織だ。

 

 といってもキヴォトスは各学園による自治が行われている為ヴァルキューレが介入できる範囲というのはあまり大きくなく、介入できたとしても自治区内での活動には大きな制限が常にかけられる為できる事というのは基本的に少ない。

 

 そんなヴァルキューレでは対応できない案件に対処・解決する為に連邦生徒会長直属の学園組織、SRT特殊学園という学校も過去にはあったのだが、連邦生徒会長の失踪によって宙ぶらりんとなったSRTはその武力の高さから脅威とされて解体が決定。SRTの生徒達の多くはヴァルキューレへと編入する事となったがヴァルキューレへの編入を断り、SRT再興の為にデモ活動を行っている生徒もいるらしい。

 

 連邦生徒会長の失踪が原因で荒れていたD.U.地区の復興も進み平和な街並みが並んでいる。なんでも"先生"と呼ばれる大人と、その先生が顧問を務める独立連邦捜査部"シャーレ"の活躍によるものと聞いたが真偽の程はどうなのやら。

 

「あれ、旋風じゃん」

「やっほー、つむつむ」

「つむつむ言うな」

 

 愛車を走らせているとふと見えたコンビニに見知った顔が見えたので立ち寄ってみればそこには以前補導したスケバン3人組の2人がいた。

 

「悪さしてないかー?」

「してないしてない……まだ」

「まだとか言うなっての」

「いずれするつもりって訳?」

「いやいやいや、マジでしないって」

「ほんとに?」

「「ほんとほんと!」」

「ならいいけどねぇ?」

「こえーよいちいちマジで!」

「ふつーに前補導されたときの事トラウマ気味になってんだからあんましいじらないでよ……」

「ごめんごめん。で、もう1人いないけどどうしたの」

「あー、あいつこの前の小テスト落としてさ、今日補習なんだよね」

「ありゃりゃ」

「可哀そうだからさ、あいつの好きなプリンでも持ってってやろうと思って」

 

 なるほどね、それでコンビニにいたわけだ。

 

「友達思いでいいね。そんじゃここはお姉さんがおごってあげよう」

「マジ!? いいの!?」

「つむつむ最高ふとっぱら!」

「つむつむ言うな。女の子に太っ腹とか言うな」

 

 これ見よがしに籠を取ってどっさりと物を詰め込んでいくスケバン二人。警察が高級取りで私も前職の貯金があるとはいえ流石に限度はあるので勘弁してほしくはある。

 

「合計で2480円になりまーす」

「あっ、じゃあ、カードで……」

「つむつむカードとか持ってんの?」

「大人だ。マジ社会人って感じ」

「うるせぇ……」

 

 こいつら。

 

「言っとくけどね、君らヴァルキューレ内じゃ補導対象としてマークされてんだから私がその気になればここでしょっぴく事もできんだからね」

「マジ?」

「マジマジ」

「こっわ。私達こんなに反省して心入れ替えてんのになー」

「過去の行いは付いてくるってこと。まぁほんとに何の悪さもしなきゃ補導される事もないでしょ」

「ま、ウチらはマジで心入れ替えたからだいじょぶっしょ!」

 

 お気楽というかなんというか。まぁ、実際本当に心入れ替えているっぽいしいいか。

 

「てかつむつむ見逃してくれてるって事じゃん。それ大丈夫なの?」

「何が?」

「ほら、汚職とか言われんじゃない? ヴァルキューレっつったらやっぱ犯罪を許さない正義の警察って感じするし」

「あー……」

 

 まぁ、ヴァルキューレはそういう人間が多く入学しているらしいし実際正義感の強い警官が圧倒的に多い。というか私が圧倒的少数派と言った方が正しいまである。本来であればこの2人にスイーツを奢るなど論外で、発見次第即補導するのが正しい警察官としての姿なのだろう。

 でも、それはあくまで"ヴァルキューレの正義"だ。私の正義じゃない。

 

「まぁ今は非番だしね。休みの時に働きたくないし、それにこうやって仲良く喋る関係地の人間を捕まえれる程非情じゃないから。私は最低限の仕事さえしてればいいの」

「ふりょーけーかんじゃん」

「その不良警官のおかげでこんだけのお菓子ただで食えるって事を忘れんなよー?」

「つむつむマジ神マジ感謝」

「うむ、よろしい」

 

 そんなこんなでお菓子が入った袋を片手に友達の所へと帰っていく2人を見送って、私は再び愛車を跨ぐのだった。

 

 

 

 ───

 

 

 

「お、ユリちゃんじゃないか。いらっしゃい!」

「やっほてんちょ。今日も来たよ」

「今日も食いに来てくれてありがとうな!」

「いやいや、気にしないで」

 

 比較愛車を走らせること十数分。的外れのほうにある定食屋さんの扉を開ければ猫店長が笑顔で迎えてくれた。店内は空いており、ピークを迎える前に来店できたようだ。

 定位置となったカウンター席に座ればニコニコと笑顔を浮かべた割烹着の似合う店長の妻さんが水を置いてくれる。以前見回りをしている際にスケバンに絡まれカツアゲされている猫店長を目撃し助けた所お礼がしたいと言われて訪れた定食屋さん。

 

 それ以降しばらくの間再びスケバンに絡まれていないかの確認もかねて通うようにしていたのだが、元気ではつらつとしている店長に優しくおっとりとしている女将さんとお店の雰囲気も良く、メニューもバリエーション豊かでボリューム豊富かつお値段もリーズナブルで私のような学生でも通いやすい事から懐に余裕がある時や忙しくないときはここで昼食を取るようになった。

 

 ちなみにその絡んでいたスケバンというのが、さっきの3人組だったりする。

 

「注文はいつもので大丈夫かしら?」

「うん、お願いね」

「あい任せな!」

「いつも食べに来てくれてありがとうねぇ。ヴァルキューレからここはちょっと離れているし、来るのも大変でしょうに」

「ここのご飯は美味し、いい息抜きにもなるから」

「お仕事は大丈夫なのかい?」

「いーのいーの、私は最低限の仕事さえしてればいいの」

「そうなのかい?」

「そーそー」

 

 コップの水を傾けながらそんな談笑を女将さんとしていると、私の目の前に店長特製の鮭定食が置かれた。

 

「へいお待ち! おかわりもあるから好きなだけ食いな!」

「ありがとね」

「ごゆっくりね」

 

 髭を引っ張りながら猫店長が笑みを浮かべる。早速食べようと手を合わせ。

 

 

「おらぁ! バチバチヘルメット団のお通りだぁ!!!」

「撃たれたくなかったら飯を食わせろぉ!!!」

 

 

 そんな名乗りと共に定食屋の扉が吹っ飛び、衝撃で私の定食が飛び散っていった……どうやら、私を本気で怒らせたいらしい。

 

 

 

 

 

 3

 

 

 

 

 

「へ、ヘルメット団……」

「そうだぜ店長、私たちは泣く子も黙る鬼のバチバチヘルメット団!」

「あらゆる飲食店で無銭飲食や食い逃げを繰り返してきた極悪非道の食通団だぜ!」

「と、いうわけで飯を食わせろ! さもなきゃこの店を滅茶苦茶にするぞ!」

「そうだそうだ!」

 

 バチバチヘルメット団。自分たちで名乗っている通り最近D.U.地区で様々な飲食店に出没し食い逃げや無銭飲食を繰り返す犯罪者集団だ。食い逃げした後には食レポアプリなどでその店をこき下ろす低評価レビューを書くというはっきり言って小物集団なのだが、何故ヴァルキューレがこいつらを捕まえられてないのかというとこのバチバチヘルメット団、異様に逃げ足が速いのだ。

 

 店員を脅迫して料理を出させ、食べて逃げるまでにかかる時間はなんと僅か8分程。通報を受けて直近にいるヴァルキューレ生が駆け付けた頃には既に現場にはおらず、監視カメラでの追跡も追いつかないという疾風迅雷ぶり。普通に意味分からん。

 

「さぁどうする店長!」

「……そこに座りな」

「あなた!」

「腹を空かせた人間が店に来たんならそいつがどんな人間であれ客には変わりねぇ! 嬢ちゃんら、何が食いたい!」

「おうおう、やけに物分かりがいいじゃねぇか」

 

 どうやら店長は料理を出すつもりのようだ。人が良いというかなんというか……

 

「店長」

「ん、わりぃなユリちゃん。飯がダメになっちまっているじゃねぇか。こいつらの飯作ったら作り直すからそれまで待っててくれるか?」

「いえ、お気になさらないでください」

「そうだそうだ! 私達を優先しろ!」

「それと」

「ん?」

「この人達に料理を出す必要もないですよ」

「あぁ!?」

 

 先程まで私に見向きもしていなかったヘルメット団がこぞって私へ視線を向けてくる。

 

「んだてめぇ! 私達が泣く子も黙る鬼のバチバチヘルメット団だって分かってんのかぁ!?」

「そうだそうだ!」

「今私は休憩時間なんだ。ここの鮭定食は絶品で、一日50品までしか作られない」

「何をごちゃごちゃと言ってんだ?」

「私達の食事を邪魔しようってのか!」

「この悪鬼羅刹のバチバチヘルメット団に盾突こうなんでいい度胸じゃねぇの!」

「そうだそう……だ?」

「ん? どした?」

「こいつどっかで見た事あるような気がしてさ……」

「気のせいじゃね?」

「うーん……それもそうか!」

「外に出よう。お店を滅茶苦茶にしたくない」

「何様だてめぇ!」

 

「ヴァルキューレだよ。あんたらの大嫌いなね」

 

 吹き飛んだ扉へ向けて手前のヘルメットを蹴り飛ばし、近くの椅子でヘルメット団を纏めて押し出す。外で構えていた仲間であろうヘルメット団達が騒めき立っている。5、6、7……10人か。そっとベルトのスモークグレネードに手をかける。

 

「ヴァ。ヴァルキューレだって!?」

「こいつ、一人でこの人数を相手にする気か!?」

「舐めやがって……! 袋叩きにしろ!」

 

 

「……SRT流を教えてやる

 

 

 スモークグレネードを投げホルスターから制式拳銃を抜き撃ち抜くと炸裂したスモークグレネードから煙幕が飛び散り一瞬で周辺を埋め尽くす。

 

「おわっ、煙幕!?」

「何も見えねぇ!」

「慌てるな。下手に撃ったら同士討ちに……痛ぁ!?」

「ちょ、撃つなって!」

「わ、私じゃないよ!」

「そうだそう……痛い痛い! 撃ってる撃ってる!」

 

 煙幕の中、お互いの位置もろくに分からない中で撃つなんてこうなるに決まっている……大体残っているのは6人程か。

 

「一人、二人」

「うぎゃっ!」

「あだっ!」

 

 ヘルメット団は分かりやすく倒れてくれるからありがたい。ヘルメットをアイデンティティとしているからそれが壊されると途端に戦意を無くしてくれるからね。

 

「こんにゃろっ!」

 

 銃のストックで殴り掛かってくるのを撃ち、体制を崩した所を掴んで足払いをかけ押し倒す。

 

「て、手心とか……」

「あるわけないでしょ」

「ですよねぇ……やんっ!」

 

 ヘルメットを撃ち抜く。これで3人。

 

「そこだ! 撃て撃て!」

「倒せ倒せ!」

 

 煙幕が晴れてきて私を視認できた生き残りの3人が発砲してくる。

 

「ちょうどいいか」

「え?」

 

 倒れていたヘルメット団を掴んで起こし、銃弾を防ぐ盾にする。これで撃つのをやめてくれれば良かったのだが、そこはキヴォトス人。一切銃撃の手を緩めずにそれどころか気持ち激しくなった。

 

「痛い痛い痛い! 私ごと撃たないでぇ!」

「……嫌われてんの君?」

「盾にしてる奴が気を使ってくんなぁ!」

 

 ちょっと可哀そうだがそれはそれ、これはこれ。盾にしているヘルメット団をそのまま撃ってきている三人に投げ飛ばせば二人が下敷きとなって倒れ込み藻掻いている所へグレネードを投げ込む。

 

「「「おわぁー!!!」」」

 

 さて、残りの一人は……

 

「う、動くな!」

 

 声がした方を見れば最後の一人でありリーダー格と思われる赤いヘルメット団が女将さんを掴んで銃を突き付けていた。

 

「こいつがどうなってもいいのか!?」

「ユ、ユリちゃん……」

「……成程ね」

 

 そういう事をしてくる訳だ。

 

「くっそ、こんな強いなんて……いいか、こいつを傷付けられたくなかったら私達を見逃せ! そうすれば私も何もしないから!」

「ユ、ユリちゃん! 私の事はいいから!」

「……おい、犯罪者」

「あ、そんなストレートに言われるとちょっと傷付くんだけど……」

「その人を放せ。これは最後通告だ」

「な、なんだと?」

 

 眼鏡を外して胸ポケットにかけ左足を下げて腕を伸ばし、右手を添えるように制式拳銃を構える。

 

「下手に動くなよ。動けばどこに当たるか分からないぞ」

「な、何をするつもりだよ」

「女将さん、すぐ助けるから」

「ユリちゃん……」

 

 こういう時、確か告げる警告があった筈なんだが……まぁいいか。

 

 

 呼吸が自然と浅くなり、世界が透き通っていく。ヘルメット団が何かを喋っているがその声も聞こえなくなり世界から音が無くなった。

 

 

 無音。世界の進みが何十倍にも遅くなったような感覚の中でそっと引き金を引いた。

 

 

 引き延ばされた銃声が甲高く響き、放たれた弾丸は吸い込まれるようにヘルメットへと飛び込んでいき。

 

 

「うぐぅ!」

 

 

 バイザーが砕け散り、ヘルメット団リーダーは衝撃で銃を手放しながら地面へ倒れこんだ。

 

「お前!」

「あんた!」

 

 解放された女将さんを猫店長が抱きしめる。仲睦まじい夫婦で何よりだ。二人に店内に入るよう目くばせをし倒れこんだヘルメット団リーダーに近寄る。

 

「うぅ……」

「午後15時52分。器物損壊及び傷害罪で逮捕する」

「こ、こなくそぉ……」

 

 ヘルメット団リーダーの手首に手錠をかければ彼女は力無くうなだれこんだ。

 

 

 

 

 

 4

 

 

 

 

 

「全く……以前の車両窃盗といい、今回の件といい……貴官は出かければ事件に当たる体質なのか?」

「本官としましては誠に遺憾であります」

「下手な芝居はよせ」

「失礼、猫かぶりなものでして」

 

 通報を受けたヴァルキューレ警備局員が駆け付け、身柄引き渡しを行っていると何故かカンナ局長も現場に訪れた。

 

「部下が事件に巻き込まれたんだ。当然局長である私にも連絡が来るに決まっている」

「心配して駆けつけてくれた訳ですか?」

「……はぁ」

 

 溜め息を吐かれた。解せん。

 

 

「ちくしょー……なんでヴァルキューレにあんなつよいやつがいんだよー……」

「そうだそうだー……」

「ねぇ、私の事皆嫌いなの? 実は仲がいいふりして裏で悪口言い合ってたの?」

「そんな事ないから! 確かに纏めて撃ったのは悪かったけど……」

「うぅー……皆の事なんて嫌いだー……」

「あぁ……げ、元気出して、ね?」

「そうだそうだ……そうだぁ!」

「おわっ、どうした急にでかい声出して」

「思い出した、あのヴァルキューレ! 確か元なんちゃら特殊学園の生徒で、牙の抜けた虎とか腑抜け者とか何とか言われていたような……」

「あれのどこが腑抜けだよ! 信じられるか!」

「思い出した内容も結局曖昧だし、ガセじゃないの?」

「で、でもヴァルキューレの人間が話していたから嘘じゃない……と思う」

「結局自信ないんじゃない」

「それもそうだぁ……」

 

 

「……とのことだが?」

「さぁ? 何のことやらさっぱりですね」

「そうか」

 

 どうやら随分と口の軽い警官もいるようだ。警察官として如何なものか。

 

「……ここからは独り言なのだが。

 

 公安局のみならずヴァルキューレ全体で旋風ユリの事を知りたがっている者は多数いる。

 

 大多数は編入生に話を聞くのだが、殆どの人間がお前の事になると口を噤んだりあるいはひどくこき下ろすような物言いをするらしい。

 

 共通しているのは、SRTの一部隊を率いる隊長を務めていた凄腕のスナイパー。犯罪を許さず、苛烈とも言える性格の持ち主だった。

 

 同時にある時を境に現場で見かけなくなり、学校にいるのかすら怪しい、何処で何をしているのか分からない謎の人間とも言われている」

 

 局長の独り言に無言で耳を傾ける。

 

「……私は旋風ユリが公安局に配属される際に旋風ユリについての書類を受け取り確認しているから、実際はどういう人物で何があったのかも全て知っている。

 

 だから旋風ユリがどんな人間なのかを聞かれる事は多いが、私が喋っていいものではないと判断してすべてはぐらかしてきた。

 

 これは私が話して良いものではない、本人の口から直接話すべき、聞くべきことだと判断してな」

「……局長は優しいですね」

「……誰にも言わないのか?」

「……知る必要はありませんし、知らなくても、知られてなくても業務に支障は出ません」

「ひとりで抱え込むよりは良いとは思わないのか?」

「抱え込まなきゃいけないんですよ」

 

 これは、私の罪で、罰で。私が一生背負っていかなきゃいけないものだ。

 ポケットの中の物を取り出す。SRTのワッペンと、TIGERのドッグタグ。もう付けることもない、だけど大事で、大切な私が私である為の証。

 

「だから、私は誰にも話すつもりはありません。私は私ができる最低限の事さえできればいいんですよ」

「……そうか」

 

 現場の接収が終わり、護送車に詰め込まれたバチバチヘルメット団が運ばれていくのを眺める。日が沈み辺りは薄暗くなり始めていた。

 

「ユリちゃん! それにそこのヴァルキューレの人!」

「ん?」

「猫店長」

 

 そろそろ帰ろうかと思っていると、ふと声をかけられる。

 

「ユリちゃんにゃまた助けられたな。本当にありがとよ!」

「気にしないでいーよ、こんなもん朝飯前ですし」

「前もそう言って助けてくれただろう?」

「ありゃ、そうだったっけ?」

 

 猫店長と話していると、局長が驚いた様にこちらを見ていた。

 

「? どうしました?」

「あぁいや、そういう喋り方をするのだな、と思ってな」

「はい? ……あぁ、なるほど」

 

 そういや職場じゃ常に敬語で割と突っ放すように喋ってるからこんな砕けた喋りしているの見せた事なかったんだった。

 

「どっちかと言えばこっちが素に近くはありますね」

「そうなのか……」

「んで、猫店長はどうしたの?」

「いや何、さっきあのヘルメット団のせいで飯が滅茶苦茶になっただろう? お礼も兼ねて食っていかないかと思ってさ。そこの刑事さんも一緒にどうだい?」

「本官もですか?」

「ユリちゃんの上司さんなんだろ? 恩人の知り合いもまた恩人だ!」

「しかし……」

「食べていったらどうです? 局長」

「貴官はいいのか?」

「構いませんよ。局長、ここのご飯は絶品なんで食べていった方がよろしいかと」

「そんなになのか」

「えぇ。大通りからは外れてますから落ち着いて食べれますし、雰囲気もいいですよ。元気はつらつな店長とおしとやかで接しやすい女将さんが名物です。どうします?」

 

 猫店長と女将さんを見れば、満面の笑みを浮かべていた。

 

「まったく……ここまでお膳立てされて断れる訳ないだろう。それに私は部下の誘いを断る程薄情な上司じゃない」

「よしきた! 手によりをかけて作るから楽しみにしてくれ!」

「さすが局長。話がわかるお方だ」

「代金は勿論お前持ちだよな?」

「へっ、あっ、それはちょっと話が違うかも……」

「冗談だ……なんだ、その鳩が豆鉄砲を食らったような顔は」

「局長って冗談とか言えるんですね」

「私をなんだと思っている?」

「鬼。狂犬」

「よく分かっているじゃないか。明日から覚悟しておけ」

 

 ……どうやら墓穴を掘ってしまったようだった。




続くかは分かりません。

SRTの廃校と先生がキヴォトスに訪れたのがどっちが先かよく分からなかったのでここでは廃校の後に先生が来たことにしています。

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