……目覚めは最悪だった。知らない場所で、落胆した視線と居づらい空気。知らない人ばかりの場所で、コミュ障の僕にとっては本当に最悪の目覚めだった。
そのまま、ふて寝していたかったけど床は痛いし。知らない人の中寝れる程図太く無い。仕方無く、立ち上がりもう一度周りを見渡した。正面には、王様と言う表現しか出来ない様な王冠を被り、髭を蓄えた恰幅の良い中年のおじさん、その横には王女様だろうか。綺麗なドレスでモデルの様なプロポーションの女性がそこに佇んでいた。
へぇー。綺麗な人だなぁと思ったけど、すぐ目を逸らした。何故なら、さっき感じた落胆した目線は彼女から向けられた物だったからだ。しかも最悪な事にその目線は彼女だけで無く、王様も同感だった様でじっとりとした視線がこちらに突き刺さる。
「貴様は勇者では無い。
そう言われ、訳も分からず僕は兵士に案内され城の外へ出た。さて、どうしようか。元の世界に戻るにしても、その方法を探すにしても。まずは今日一日を生きなければならない。
その為に僕自身は何が出来るか探した。冒険者をやろうかと思ったけれど、チートを貰った訳じゃないし無理だ。何かに優れてる訳でも無い僕に出来る訳が無い。と言うか、冒険者をするにしても装備が欲しい。でも、お金なんて持ってない。
そんな時、僕は王様が言った言葉を思い出した。アイドルの勇者……。何で城から追い出されたかも分からないけど、それが理由だとしたら。僕にはアイドルの素質があるのかもしれない。なら、今は藁にも縋るしか無い。
僕は道で人目を気にせず、踊りながら歌った。思った事、感じた事をそのまま口ずさむ様にしながら身体を動かせば段々楽しくなって来て。
疲れを感じず、そのまま時間も何かも忘れて踊っていると目が合った。
『最高の歌と踊り……最高でゲスナァ』
「……デゲス?」
『はっ、こ、声が出てたでゲスか?』
「うん、聞いてくれてありがとう。良かったら、感想聞かせて欲しいんだけどどうかな?」
『も、勿論でゲス!』
それから、デゲスさんと色々話すとこの世界の事が分かって来た。どうやら最近魔王が復活したらしく、それにより人類側は勇者を異世界から呼び出そうとしていたらしい。デゲスさんは、どんな勇者か気になって見に来たらしいけど会う事が出来なかったらしい。
まあ、多分その勇者は僕の事だろうから、会えてるんだけどね。それは言わなかった。それから僕の歌と踊りは、凄い上手い訳では無いけど目を引かれる何かがあるらしく、目に止まればきっと目立つ事が出来ると言われた。
「そうだ、最近掃除した時に出て来たアレなら目立つデゲスよ!」
そう言って渡されたのは女性物のアイドル衣装だった。しかもフリルスカート。流石にこれを僕が着るのは……とも思ったけど、折角貰ったものだし。身に付けて見ると凄い喜ばれた。
変な癖になりそうだ。その後、デゲスさんが帰った後も僕は踊った。取り敢えずその日は野宿で、パン的な物を買って食べた後地べたに寝転がった。布団の感触が懐かしいなぁ。
《お帰りなさいませ、魔王様。どうでしたか、新たな勇者は》
暫く外出していた魔王様にそう声を掛ける。少し興奮していた様子だし、何かあったのだろうか?
『いやーそれが会えなかったんデゲス。城の門番に塞がれて……でもその代わり、滅茶苦茶可愛い子を見つけたデゲス!』
《魔王様、方言が出てますよ。それでは貫禄が出ないので抑えて下さい》
たまに出る魔王様の悪い癖だ。リラックスしている時や興奮している時にたまに出るが、貫禄ゼロなので辞めて欲しいと常日頃言っている。
『あ、ああ。悪いな。にしても、あの子は可愛かったぞ』
ほぉ、何の話だろうか。まぁ適当に褒めておこう。そうすれば悪い事は起きないだろう。
《魔王様も見た目は悪く無い方だと思いますが》
『私の事なんか如何でも良い。今はあの子の話をしてるんだ、聞けちゃんと』
《ハイハイ何でしょうか魔王様》
やれやれ。長くなりそうだと、思いながら魔王様の話に耳を傾けた。