荒廃した世界で出会ったAiとのお話、セカイ系です。
キャラの描写が薄いと思うのであなたが想像した姿が正解です。

1 / 1
設定ガバガバザウルスだぞがおおん!
開いていただき嬉しいです、感想いただけるとなお嬉しいです。


第1話

高い塔を横目に眺めながら、台車を引いた自転車を漕ぐ。

幾何学的で威圧感のある佇まいのそれは、上がどこまで伸びているのか分からない。

入ったこともないし、これから先も入ることもないだろうし、何があるのか死ぬまで分からないんだろうと思う。

もういない両親に、幼い頃聞いたことがあるけど、両親も分かっていないようだった。

誰だか知らない偉い人が住んでいるらしい、ということは知っているけど、今もそれくらいしかわからない。

でも僕にも分かることがある。

塔から少し離れた場所にゴミの山があるってこと。

誰も乗っていない大きな機械が、定期的にたくさんのものを捨てに来るってこと。

そしてその塔から出てくるゴミには、たくさんの使えるものがあるってこと。それだけ分かれば十分だ。

僕の家からそこまでの道のりは、見渡す限り何も無くて退屈だ。ほとんど植物も生えていないし、人以外の動物なんて見たことがない。

今まで読んだ本には沢山の種類の動物が書いてあった、植物もそうだ。どうして今は何も無いのかと、昔両親に聞いたけど何もわからなかった。

両親が生まれたときからそうなんだと、そんな事を言われた記憶がある。

道から見えるところに畑がぽつりぽつりとあるけど、やせ細った土地では満足な量は取れないし、そもそもこの環境のせいか数種類の作物しか育たない。

それも塔の偉い人が、研究に研究を重ねた品種改良の結果、ようやく完成した成果らしいと聞いた事がある。

 

そんな事を考えながら漕いでいるうちに目的地に着いた。いつも通りまだ使えそうなものを探して帰ろう。

まだ食べられる食べ物、まだ使える機械、大体はなにかがある。

でもたまにだけど、なにもないこともある。今日はどうだろうか。

物の積み重なった山を踏み分け、掻き分けながら探していく。

1~2時間ほど時間がたっただろうか、遠目に人の形に見える何かを見つけた。

「まさか人が捨てられてることなんてないよね?」

無いとは思うけど、言葉にするとそのまさかがありそうで少し怖い。

足場が悪い中で一歩ずつ、そのシルエットに近づいていく。

「やっぱり人じゃないか」

目を伏せた女の子だ、年は僕と同じくらいに見える。

無造作に伸びた長い前髪が顔にかかってよく見えないが、

それでも分かる端正な顔立ちをしている。

大きくも小さくもない体に、なんとなく神秘的な雰囲気と、

白いワンピースを纏った姿がまぶしい。

その身にまったく似合わないゴミの山に、

背中を預けて、じっとたたずんでいる。

不躾にその姿を眺めていると、

急に目を開き顔を上げた彼女と、目が合った。

「初期認証を開始します」

「うわぁ!いきなり何?どうしたの」

喋ったのはいいけど、体を動かさないのを心配に思い、目を覗き込む。

それでも何の反応もない事で不安になる。

更にそのまま体を揺すってみる。

「認証を完了。起動します」

揺すったせいだろうか。急に少女が動き、立ち上がる。

顔を覗き込んでいた僕は、押される形で尻餅をついた。

「大丈夫ですか?立てますか?」

心配そうな顔をしながら手を差し伸べてくる彼女に、今度は僕が覗き込まれる。

握った手の異常なほどの冷たさに驚きながら身を起こした。

「あ…うん大丈夫だよ、ありがとう」

「よかったです。ではこれからよろしくおねがいしますね、マスター」

「これから…?マスター…?」

「マスターが気に入りませんでしたか?では別の呼称にしますので、まずは名前を教えて下さい」

「僕はユウトっていうんだ、キミは?」

自分の名前を伝える。彼女はうなずいた後

「名称はAct-3000です」

口を開いて名前らしきものを伝えてくれる。まったく分からなかった。

「……ごめんもう一回いいかな」

「名称はAct-3000です」

「Act-3000って呼べばいいってことかな?」

「Act-3000は製品名です、本機固有の名称はありません」

「製品名っていうのがわからないんだけど、どういうことなのかな?」

「ユウトの質問の意図がわかりません。AI搭載家事アンドロイドのAct-3000という製品、という説明でわかりますか?」

「AI?アンドロイド?まさか人じゃないってこと?」

「その通りです。私は人ではありません。そのため固有の名称もありません」

驚いた。アンドロイドの存在は知っていたし、なんなら破損したものではあるが、パーツらしきものも見たことはある。

でもこれだけ状態がいいもの、それどころか一切破損がないものは初めて見た。

「じゃあ僕はキミの事をなんて呼べばいいのかな?」

「お好きに呼んでください。なんでもいいですよ」

そう言われても困ってしまう。

AI…アンドロイド…うーんすぐには思い浮かばない。

「じゃあアイって呼ぶね」

「ではそれで今日からアイを呼称にします」

かなり適当だが、名前がないよりはいいだろう。

「では納得いただけたところで、家事アンドロイドとしての業務に入りたいと思います。ユウトの家はどこでしょうか?」

「家」

「住処とも言いますね」

「えっ家に来るってこと?」

「マスターであるユウトの家で、家事アンドロイドが家事をする。なにも不思議なことではありません」

「まずマスターがわからないんだけど」

「先ほど所有者の登録がない私に、ユウトが認証を済ませたため所有者としてユウトが登録されています」

「なるほど…?」

言われた内容はわかったが、そうなった経緯がわからない。

でも少し考えてみると、先ほど認証やらの単語が出てきたのを思い出した。

「ちなみに認証ってなにをするの?」

「起動時に目を合わせ網膜の登録、認証を行います」

「あー…」

そう言われてみれば先ほど顔を覗き込んだ際、しばらくバッチリ目を合わせてたな。

「えっとアイに帰る家がないってことなら、全然ウチにきてもいいよ」

「元々私の帰る家はユウトの家なのですが…ありがとうございます。では私はこれで充電不足のためスリープモードへ入ります、後はよろしくお願いします」

「スリープ!?後って!?」

そう言い残し彼女は目を閉じ動かなくなってしまった。

ワンピースの裾から見慣れたプラグのついたケーブルが伸びている。

こんなものさっきはなかったと思うんだけど、どういうことだろう。

さらに言えば後って…なんだろう、もしや僕が運ぶしかないということなのか。

台車へせっかく積んだものを降ろして、彼女を乗せるためのスペースを作っていく。

なんとか作業が終わったころにはあたりが暗くなろうとしていた。

「ってすごく重たい…」

背中の下と膝裏に手を入れ彼女を持ち上げようとしたが、思ったより重くてため息が出てしまう。

女の子にこんなことを思うのは失礼だろうか?

アンドロイドだからいいのだろうか?

とても苦労したものの、何とか彼女を荷台に乗せ、ギコギコと音を鳴らしながら自転車を漕ぎ始めた。

 

あたりはもう夜と言ってもいいくらいの暗さになってしまった、ようやく家に着き、またしても苦労して彼女を降ろす。

そんなに広くはない家だけど、両親がいない今、住んでいるのは僕だけだ。

玄関入って大きな部屋がひとつ。そして寝室が一つ。

色々と家具が置いてあるから、そこそこ狭いはずなんだけど、僕一人だとそうは感じない。

塔から伸びた電線のおかげで、こんな環境だけど一応電気は使えるようになっている。

ただし昼はともかく、夜は電力の使用の多さに対して供給が安定していない。

そのせいで何かの家電を使っていても途中で止まってしまうことが多いから、夜はできるだけ家電を使わないようにしている。

動かなくなってしまった彼女を抱えながら、なんとか室内を移動し、椅子に座らせた。

そういえばプラグがワンピースの裾から垂れてブラブラしている。

これは共通のものだし見覚えはある。

いつもそうしているように壁のコンセントへと差し込む。

でも夜だからうまく充電するのは難しいかもしれない。

案の定だが挿してすぐなにかがあるということもなく、彼女は沈黙したままだ。

実はここに来るまでにどこか壊してしまったとか、少し不安になる。

でも他にコンセントを使うものもないし、そのまま放置して夕食の用意にとりかかろう。

未開封の缶詰がまだそこそこの数残っていたはずだし、それを食べようかな。今日も何個か拾えたし。

切れ味の悪い缶切りで缶詰を開けながら彼女を見るが、先ほどと同じ姿勢で微動だにしていない。

視線を戻し、また作業的に缶詰の蓋を開けながら、先程のことを思い出す。

「重すぎて落としちゃったしなぁ…」

台車に乗せる時にこんなに重いとは思っておらず、盛大に彼女の腰を地面にぶつけてしまった。

それが原因で動かなくなってしまったとか、十分にあり得ることな気がする。

「重い…とは言いますが、私はこれでも軽量モデルです」

「うわぁ!急に喋るのやめてよびっくりした」

「失礼しました。しかし夕食の用意を前に、充電している場合ではないと。ここは私に任せてください」

「…缶詰を開けるだけなんだけど」

「それでも私がやります、さぁ渡してください」

そう言いながら立ち上がり僕の方へ歩いてきたが、そのせいでコンセントからプラグが引っこ抜けてしまった。

「あっ」

そして彼女は歩く途中のポーズそのままで動きを止めてしまった。

「おーい大丈夫?」

出会ったときのようにまた揺すってみる、しかし例のごとく反応はない。

また椅子まで運ばなければいけないと、薄々察してはいるが重労働なのでできればやりたくはない。

でもずっとこのままというわけにもいかないし、苦労しながら彼女をまた椅子に座らせ、プラグを差し込む。

「ありがとうございます。どうも電力が足りていないようで失礼しました。ここにはWPCはないのでしょうか」

「WPC?何のことかわからないけどウチには本当に何もないよ」

「無線で電力を受電していないのでわかってはいましたが、念のための確認でした。そうですか…残念です」

「有線じゃダメなの?プラグの長さって伸びたり縮んだりするものだよね」

「これは非常用のものです。通常は無線での充電を行うため、このようなことは起こりません」

「無線での充電なんて聞いた事ないんだけど。でもまぁ確かにウチにはそんなものはないよ」

「つまり私は今後も有線で充電するしかないということですね、明らかに電力の供給が安定していないこのコンセントから」

「そうなるね」

「なんということでしょう…これではそこに転がってる掃除機と同じではありませんか」

「この前拾ってきたんだけど、わざわざゴミを吸うに電気使わなくてよくない?って思ってたあれのことかな。

でもあれってプラグのコードが伸びて持ったまま色々なとこに行けるよね、よく考えてあるなって」

「もしかして今の私は、掃除機以下だと馬鹿にされましたか…?」

「そんなつもりはないんだけど」

「それはさておき、ほかに何か家事はありますか?私が動ける範囲で可能なもので」

「ないね」

「ない」

とても驚いた顔をしている。

すごく表情が豊富でいまだにアンドロイドだと信じられない。

「いいんです…私は掃除機以下のポンコツです…ただ電力を無駄に消費して音が出るだけのポンコツなんです…」

いじけてしまった。

うつむくと長い前髪で顔が隠れて怖いのでやめてほしい。

「でもアイは僕より色んな事を知ってるんだよね、あれの名前が掃除機だってことだって僕は知らなかったんだ。

だからアイの知ってる事を僕に教えてくれない?」

「それはもちろん構いませんが」

「ありがとう。拾ってきたのはいいけど、名前がわからない物が結構あるんだ。持ってくるから待っててね」

大きなものは重いし、かさばるしで、僕でも簡単に持てるような小さなものが、収納に数多く投げ込まれている。

詰め込んでいたものから、ガチャガチャと適当に掘り出したものを持っていく。

「まずはこれ」

「これはスマートフォンですね」

「スマートフォン。何をするものなのかな」

「主に通話、通信などを行うものです。それ以外にもいろいろと機能はありますが」

「これは電源プラグがないんだけど、もしかして別のケーブルが必要ってことであってる?」

「ええその通りです。まぁこれも本来は基本的に無線で充電を行うのですが」

「つまりこれは今…」

「ガラクタですね」

「また今度行ったついでに捨ててこよう。まだあるからちょっと待ってね」

またしても収納をゴソゴソと漁り、適当に手に取ったものを持っていく。

「今度は機械じゃないんだけどね。説明書も入っていたんだけど、さっきのスマートフォン?で読み取れって読めなかったんだ。これは何かな」

「これは…チェスですね。ボードゲームのひとつです」

「ゲームってことは遊ぶためのものだよね、これは電気を使うの?」

「いいえ使いませんよ、試しに遊んでみますか?」

「ルールがわかるんだすごいね、教えてくれるかな」

「ではまずは駒の並べ方からですね。その後に細かいルールや駒の動かし方などを学んでいきましょう」

そうして盤を挟んで彼女に教わりながら、ゲームを学んでいく。

時折反応が鈍いときがあるけど、もしかしてこれも電力が足りなくて止まってるってことなのかな…

簡単に教えてもらった後、実際に何度か対戦してみたけど、当然のように負けてしまう。

そりゃ教わっていきなりは勝てないよね。

「ふふん、やはり私はポンコツなどではありませんので、間違いないように」

勝てて当たり前だと思うんだけど、なんかすごく得意げだ。しょげているよりはいいからそのままにしておこう。

「でもおもしろかった、また明日も遊んでくれる?」

「もちろん構いませんよ。高性能AIを搭載した私の有能さを、また見せて差し上げましょう」

さすがに鬱陶しくなってきた。そのうち僕が勝てるようになれば静かにしてくれるだろうか。

しばらく負け続けるかもしれないけど、そのうち勝てるように頑張ろう。

なんだかもやもやするけど今日は寝ることにした。

「僕はもう寝るけどアイは?」

「このまま充電を続けながら、スリープモードに入ります」

「寝るようなものなのかな、じゃあおやすみ」

「はいおやすみなさいユウト」

アイを何度も運んだ疲れからか、慣れない経験をしたせいか、寝床に入ると眠気はすぐにやってきた。

 

「おはようございますユウト、よく眠れましたか?」

「おはようアイ。うんいつもよりよく寝た気がする」

「ふふん、つまりそれは私のおかげということですね」

「チェス教えてもらった以外に、なにかしてもらったっけ…?」

顔を洗い、服を着替え、そのまま畑仕事へ向かうことにする。手伝うことで分けてもらう食料は生活していくの中で欠かせない。

「アイはこれからどうするの?」

「特に家でやることがなさそうなので、付いて行っても構いませんか?」

「…途中で動けなくなったりしないよね?」

「もしかしてまだ私のことをポンコツだと思っていませんか?馬鹿にしないでください。ありえません」

そこまで自信ありげに断言されると、特に断る理由もない。

落ちないように手を僕の腰へ回すアイを後ろに乗せて、しばらくギコギコとペダルを漕いでいて思ったがやはり…重い。

いつもよりもかなり力を入れて漕がなければならないため、無駄に疲れている気がする。

「もしや重いとか思っていませんか?」

「そんなことはないよ、あはは…」

機械的な何かで読み取られているのだろうか、当たっている。

せめて顔には出さないように気を付けよう。

 

いつもよりも時間をかけてたどり着いた畑では、もう先に着いた人達が作業を始めていた。

遅れてしまったことを謝り、鍬を借りて参加する僕の後ろを、アイがテケテケと着いて来る。

僕にとってはいつもやってることだけど、物珍しいのかずっと後ろから視線を感じる。

「ユウトしばらく見ていてわかりました。私に任せてください。これも家事の一環です」

「ほんとに大丈夫?」

「ええ問題ありませんよ」

そういうのならと鍬を渡し、少しだけ様子を見てみることにする。鍬をもって力強く地面を耕す様は、確かに意外と頼もしい。

それでもすごい違和感がある。昨日の服装そのままだからだろう。

明らかに畑仕事をする格好ではない。

そのまま更に少し、ぼーっと様子を見ているとふと気づいた。

周りの視線が痛い気がする。

女の子を働かせてサボってるように見えるからだろうか。

服が汚れてしまうのも気になるし、結局僕がやったほうがいいだろうと思って、アイに声をかける。

「ありがとう、また変わってほしい時に言うね」

「もういいのですか」

「結構変わってもらったと思うよ。もう大丈夫だよ」

ちょくちょくアイが暇そうにしながら、仕事をよこせ!みたいな目をしているのに根負けして、結局はあと何回か変わってもらいながら、今日の作業を終えた。

働いた分の対価を受け取って帰ろうと思った矢先に、アイから声をかけられた。

「ユウト重要な話があります」

「その前置きがあると構えちゃうけどなにかな」

「基本的に無線で充電を行うので私は電池の最大容量が小さく、さらに言えば通常の家事で行わない動作で余剰の電力を消費しました」

「つまり…」

「電力不足のためスリープモードへ入ります、後はよろしくお願いします」

そう言い残し彼女は目を閉じ動かなくなってしまった。すごく既視感のある展開なんだけど、また運ばなければいけないってことか…。

やむを得ないので、自転車の後ろへ借りてきた台車を繋ぎ、アイを乗せる。例のごとく、とてもとても苦労した。

 

アイを抱え昨日と同じ椅子へ座らせ、プラグをコンセントへ差し込んだ。少し待っているとアイが目を開く。

「おはようございますユウト。ここまで運んでくれてありがとうございます」

「おはようじゃないんだけど、まぁ…どういたしまして」

「今回は失敗してしまいましたが、家事なら任せてくださいさぁ何をしましょう」

「特になにもないんだよね」

「私のすごさをお見せできないではないですか」

「別にいいんだけどなぁ…あっまた後でチェスで遊んでくれると嬉しいな」

「それだけでいいのですか?もちろん構いませんが」

そうして質素な食事を終わらせた後、また盤を挟んで向き合う。

初めてではないだけで、急に上手くなるはずもなく、何度か対戦したもののすべて負けてしまった。

「やはり私は高性能AI…褒めてもよいのですよ」

「思ったんだけど機械の計算に、僕が勝てる要素がないような気がするんだけど」

「ですがこの搭載AIはイコール私、アイですので」

「何か騙されてる気がする…けどいいや、負けたらそれこそポンコツ扱いするからね」

「そのようなことはまずありえませんが、いいでしょう」

そうして夜になると、チェスで遊ぶことが日課になった。

昼は…アイもさすがにまずいと思ったのか、基本は家でそんなにあるわけではない家事をこなすようになった。

それでも退屈なんてものがあるのかわからないけど、たまに畑仕事についてくることもある。

当然作業はさせないけど。でもそのたび恨みがましい目で見てくるし、そんな夜の試合内容はいつもより激しくなっている気がする。

そうして過ごしていく中で色々な姿や表情を見てきた。

何かする度に誇らしげな顔で、褒めろ褒めろととせがんできて、失敗する度に小さくなって俯いて。

自分は機械だとか、AIだとか、アンドロイドだとか言うわりに、アイは意外と感情豊かだ。

触れた時の冷たさと、電源コード以外は、それこそ人間だと思う。

冗談交じりに人間だよね?、と聞いた事もあるけどそんなことはないらしい。

出会ったときに感じた神秘的な雰囲気なんて僕の気のせいだったけど、そんなアイの人間らしさを、気づけば好きになっていた。

いままでそんな相手もいなかったし、よくわからない感情だけど、好きって言い方が一番しっくりくる。だからそれでいい。アイのことが好きだ。

 

でも考えたけれど、アイにしたいことも、してもらいたいことも、特に何も思い浮かばなかった。それでも日々は過ぎていく。

具体的にどのくらいかは詳しくはわからない、定期的にやることなんて作物の収穫ぐらいだから、あまり興味もなくて数えていないせいだ。

相変わらず例のゴミの山で意味のわからない機械を拾いに行くこともある。拾った何かを手にアイに聞いてみるけど、電気が~とか、故障だ~とか、要は使えないものばかりだった。

なによりアイとチェスをすることがなにより楽しくて、前ほどガラクタを拾って帰ることも少なくなっていた。

そのチェスもよくもまぁ我ながら飽きずにやっているなと思うけど、未だにアイに勝ったことはない。

それでももちろん上達はしているなと自分でも感じる。最初に比べれば盤上に残っている駒は段々と減っているし、アイも前より考えて動かしているように見える。

そうしてまたいつもと変わらない昼が過ぎ、夜になる。

終わった試合の結果だって、変わらないものの一つだ。

見慣れた誇らしげな顔に、満面の笑みを浮かべているアイが、頭を差し出してくる。これは数少ない変わったことのひとつだ。

いつだったか、例のごとく誇らしげな顔をしているアイを褒めようとして、なんとなく頭を撫でたことがあった。

その時のアイはとても驚いていたと思うけど、されるがままに撫でられていた。

いまいちな反応だと思ったから、僕はもうしなくていいと思っていたけど、アイとしては気に入ったのか、たまに頭を差し出して撫でろとせがんでくるようになった。

その中でもゲームが終わったこの時だけは絶対に、頭を出して無言の圧力をかけてくる。身長が同じくらいだから地味に撫でづらいんだけど。

「今日もありがとうアイ。そしてさすが偉い」

「もっと褒めても構いませんよふふん」

こう毎日繰り返しているせいで、言葉のバリエーションもなくなってしまった。

正直なところ最近は雑に褒めているけど、それでもアイは満足そうだ。

「私に勝てばユウトも撫でてあげますよ。ですが今は私が勝者です、存分に撫でもいいですよ」

「それは嬉しいな、頑張るよ」

確かにアイに撫でられたことはないな、ちょっとだけ興味がある。

でもまだ僕が勝っている姿は全く想像できない。それこそアイがいきなり故障するとか、手加減するとかない限りは無理かもしれない。

もちろん今でも勝ちたいという目標は変わらない。

それでもゲームを知るほどに実力の差がわかるようになってきたこともあって、厳しい目標だなとも思う。

「ユウト手が止まっています。まだ私は満足していませんよ」

「はいはいわかったから、頭押し付けてこないで」

そうしてグリグリと頭を押し付けてくるアイを押し返しながら、明日はどんな戦い方をしようかと考え始めた。

 

そしてまたある日のこと、今日も僕たちは盤を挟んで向かい合っていた。盤面はアイの方がまだ有利だけどいつもに比べれば大きな差を感じない。

自分でも今までで一番上手く戦えていると感じるし、これはもしかすると勝てるかもしれないと思える程度の差に見える。

「アイ…そういえば」

「少し静かにしていてくださいユウト、今考えています」

「ハイゴメンネ」

こんなにアイが考えているところは初めて見た。

そうして僕が長考したり、アイが長考したりと、いつもより長い長い時間をかけた試合を制したのは僕だった。

「やった!勝った!」

「ぐぬぬぬこれで勝ったと思わないことですユウト」

「いや勝ってるんだけど…」

ようやくつかんだ勝利を噛み締めている僕へ、アイが手を伸ばす。

「よくやりましたユウト、偉いです。ここまでとは思いませんでした、さぁ存分に私が撫でてあげますので、頭を出してもいいのですよ」

「そういえばそんなこと言ってたね。じゃあお願いしようかな」

「では失礼して…」

そうしてアイへ頭を出すと、すぐさまひんやりとした感じがしたので、それで撫でられ始めたのだとわかった。

そういえば頭を撫でられるのなんていつぶりだろう…不思議と心が安らぐ。アイもこんな気持ちだったのだろうか。

ふわふわとした気持ちのまま、されるがままにしていると、アイがぼそぼそと何かつぶやいているのが聞こえた。

「なるほどこう…感覚なのですね…ふむふむ、これは……ものです。最後まで悩……したが、わざわざギリギリの…になるよう手……した甲斐がありました」

「何か言ったアイ?」

「なんでもありません。おとなしく撫でられていてください」

そう言うのならば、アイが満足するまでは言われるがまま、されるがままに、おとなしくしていよう。

「そういえばユウト、今日でチェスを始めて、どのくらいの時間が経ったのかわかりますか?」

「僕は記録してないからまったくわからないや。アイにはわかるの?」

「そうですね…今日で365日が経過しています。これはイコール1年という単位が代わる日数で、つまり今日は記念日です」

「結構な時間が経ったってことかな。そんなに時間のことを考えた事はなかったけど、アイが来てからは少しだけ変わったね」

「えぇそうでしょう、高性能な私がいることで、素晴らしい毎日を過ごせているということです。褒めてもいいのですよ」

「そうなのかな…まぁそれでいいよいつもありがとうアイ。初めて勝ったしポンコツって言おうと思ったけど、言わないことにするよ」

「ふふんそのポンコツな私に、ここまで負け続けたくせによく言います。何で勝てたのかユウトはどう考えてますか?」

「多分愛の力だよ、そういう事にしておいてよ」

僕にだってよくわからない事だし、とても適当に答えを返す。

先ほどからずっと撫でられているせいで、なんだか眠いし、頭が回ってない気がする。

「AIの力ですね。確かにそうかもしれません」

なんでそこで誇らしげな顔をされているのかよくわからない。

だけど僕はアイのこの誇らしげな顔が特に好きだ。

口に出してみると意外としっくりきたし、さっき言った適当な事も、案外それが本当の答えなのかもしれない。

どちらでもいい、これからも僕たちは変わらないままだと思うから。

変わらない日々の中で、いつか何かが変わる事があれば、またその時に考えればいい。

気づけば眠気のせいか、机に突っ伏していた。

僕を撫で続けるアイの長い前髪が、後頭部をくすぐるせいでこそばゆい。

当然アイの顔は見えないのだけど、きっと僕が好きなあの顔をしているのだろう。

何もない日々だけど、明日からは僕も過ごした日々を数えていこうと、そう思った。




Q:そのセリフ言わせたいだけでしたよね?
A:その通りです

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。