いっこまえ
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ーーーパチリ
僕は焚き木の爆ぜる音で目を覚まし、薄く目を開けて星の位置で時間を探った。
「…まだ、交代の時間じゃねぇぞ」
枯れた枝を二つに折り炎に放り込みながら、大柄の男ーーーケンシがぶっきらぼうに僕に伝える。
「うん…そうみたいだね」
薄暗い森の中での野営。
僕とケンシは二人で交代で見張りをする事になっていた。
ーーーパチリ
再び薪が爆ぜ、揺らいだ炎に照らされたケンシの横顔は出会った頃より少しやつれたように見えた。
「その…少し、話でもしない…? 目、覚めちゃって」
なんとなく、居た堪れない気持ちになりそう声をかけて身体を起こす。
「…話す事なんてねぇよ。ただでさえ見張りが少ないんだ。黙って寝ろ」
「それもそう…なんだけど…」
そう、僕達は四人パーティで旅をしているけれど野営の見張りは僕とケンシの仕事になっている。
勇者は…心が退行している彼女は、夜遅くまで起きて居られない。
いつも陽が落ちるとすぐに寝てしまうし、朝もなかなか起きて来ない。
無理に見張りをさせても勝手にどこかに行ってしまうかもしれない彼女に見張りをさせるのは無理だった。
ティゴはそんな勇者を側で見張ると言う名目で一緒にテントに入ってしまっている。
僕もケンシもそれが言い訳に過ぎないと分かっていたけれど、一度見張り中に寝落ちどころかガッツリ寝袋に入ってテントで寝ていた彼女を見て以来ティゴにも見張りをさせるのは諦めていた。
「じゃあ…ほら、見張り、変わるよ。ケンシも疲れてるみたいだし…」
「…あ?」
彼の負担を少しでも減らしてあげたいと思い出た言葉は、かえって彼のプライドを傷つけてしまったようだった。
「俺は幼い頃からずっと鍛えてる…!お前なんかに心配されるような…!」
「で、でも…ほら、このパーティで、ケンシが1番負担が…」
ーーーバチン
薪が強く爆ぜ、歯を食いしばる彼の顔を照らした。
「…っ!誰の、誰のせいで…俺が、俺が…こんな…っ!」
怒っているのか、泣いているのか。
よく分からない顔をする彼の手の中で、枯れた枝がぱきりと折れて地面に落ちた。
「…僕のせいだよね。ごめん、僕がもっと戦闘で役立てるジョブなら…」
目を合わせる事が出来ず、僕は視線を逸らしたまま謝る事しか出来なかった。
何度言い聞かせてもすぐに一人で突っ込んでいき、目を離すとすぐどこかへ行く勇者。
いつも不平不満ばかりで戦闘中もやる気のないティゴ。
そして、戦闘ではなんの役にも立てず忌む目がバレれば評判が一気に落ちる厄ネタ持ちの僕。
このパーティで1番真剣に魔王討伐を考えていて…そして、最も負担がかかっているのが彼なのは明らかだった。
ーーーパチリ
しばらく沈黙が続き、彼がぽつりと言葉をこぼす。
「…なあ、パーティを抜けてくれねぇか?」
「それ、は…」
「代わりの人材にアテがある…優秀な魔導士だ。ソイツがお前の代わりに入ってくれりゃあ…」
彼なりに今後を見据えての言葉なんだろう。
僕だって、その言葉にうなづきたい気持ちが山程ある。
けれど。
「………ごめん。勇者が、多分、それを認めてくれない」
「…んだよ、それは…!勇者だろ…それなのに、なんで、あんなに…!」
「ごめん。無理に引き離せば…きっと、もっと悪化すると思う…」
彼女が壊れている事は、冒険が始まってすぐ二人に伝えていた。
二人共、勇者の様子がおかしい事には薄々気が付いていたのだろうけど、それを伝えられたケンシは顔を青くしていたし、ティゴは完全にやる気を失っていた。
「…その、人数を増やすのは…」
「欠員が出た時以外は、基本四人でと言われてる…」
誰に、と言いかけて口を噤む。
ケンシの父親は僕や勇者の教育係の一人だった王国の偉い人だ。
当然、勇者の状態も知っていて…『勇者が壊れている事が明らかになれば、責任を取らされる人の一人』だ。
つまり、『知っている人間は最小限にしろ』という事で…上の方でまとまっているのだろう。
「ということは、ティゴも…」
「ティゴは実家が有力者だ…口止め出来る性格でもない。…簡単にパーティから抜けさせられない」
だろうね。
ああ、本当にこのパーティはーーーーー
ーーーパチリ
気が付けば、星は目覚めた時から大きく動いていた。
「そろそろ、交代の時間だよ。…代わるから、寝なよ」
「…何かあれば、起こせ」
彼は…ケンシは、そのまま荷物にもたれるように軽く背を預けて目を閉じる。
鎧姿のままなのは、非戦闘職の僕では敵の足止めも難しいからだろう。
僕達は、このパーティで、魔王に挑むらしい。
本当にーーー