職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件   作:やっくんYU

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めちゃ遅れてすみません!!
スゲー大変でしたので……………


頑張ります!


黒と白の大演舞

 

 

 

原生林に、獣の咆哮が轟く。

 

それは鳥の囀りを掻き消し、枝葉を震わせ、湿った大地をびりびりと揺らすほどのものだった。

木々の隙間から飛び立った鳥の群れが、一斉に空へ逃げていく。その直後に森の奥から、巨大な影が姿を現した。

 

 

四足。

隆起した筋肉を覆う灰黒色の体毛。

一本一本が短剣のように鋭い牙。

 

 

スネークヘルハウンド

Lv1500

 

 

肩から背にかけて並ぶ突起は赤黒く脈動し、そこから漏れ出す魔力が周囲の空気そのものを歪ませている。

何より。

その巨体から放たれる圧力は、これまでこの森で生きてきた魔物とは明らかに一線を画していた。

地面を踏み締める。

ただ、それだけ。

ただそれだけの動作で大地が沈み、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

 

 

「ひっ……!」

 

 

誰かが、小さく悲鳴を漏らした。

その場に集まっていた冒険者たち。ギルドより派遣された調査員。

そして、原生林の異常に対処するために編成されたギルドの冒険者たちである。

 

だが誰もが動けない。

逃げなければ死ぬ。

 

頭では理解している。

けれど、身体が言うことを聞かない。視線を外せない。まさに蛇に睨まれた蛙も同然だった。

 

それよりも遥かに絶望的だった。

その中のひとり。

《鑑定》を得意とする冒険者が、震える手を魔獣へ向けたから。

 

 

「……嘘、だろ……?」

 

 

声が震える。

見間違い。そうであってくれ。

何度も瞬きをして、もう一度確認する。

 

だが、現実は変わらない。

表示された絶望の数字は変わることは無かった。

 

 

「レベル……せ、1500……?」

 

 

その呟きに訪れるのは――静寂。

一瞬、ほんの一瞬だけ、森から音という音が消え失せたようだった。そして。

 

 

「1500だと!?」

「な、なんなんだ! そんな馬鹿げたレベルっ!!?」

「逃げろ!! 早く!!」

「撤退だ! こんなの俺たちでどうにか出来る相手じゃない!!」

 

 

堰を切ったように声が溢れ出した。

当然だ、エルフ種の成長限界上限はLv1000。

それはあくまでも理論上到達可能な限界であり、誰も彼もがそこまで辿り着けるわけではない。

一般的な冒険者ならばレベル300前後。

それでも十分に一人前。

名の売れた者であっても、そこから先へ行ける者など限られている。

 

 

そんな世界で――レベル1500。

 

 

戦う。

そんな選択肢など、最初から存在しない。

 

白の騎士団。

 

最低でも、国家最高戦力たる彼らを呼ばなければならない災害級の存在。

だからこそ、誰もが逃げようとした。

確かに危険度の高いクエストだと理解はしていたが、あの劣等種(ヒューマン)のパーティ、黒の道化師が幅を利かせているのが憎たらしくて、エルフ種最強冒険者とも名高い、ハクレンの評価も高く、それ故に嫉妬心もあり、それが目を眩ませた、と言えるかもしれない。

 

最早、一瞬のミスが死に、直結するような地獄。

 

一目散にに逃げるしかない、と思ったその時だった。

 

 

「――皆! 下がって!」

 

 

凛とした女性の声が響いた。

逃げようとしていた者たちの足が止まる。

知っている声だったから。

琥珀色の長髪。

美しく尖った耳。

冒険者として活動する者ならば、知らぬ者の方が少ないであろう女性が、人々を庇うように前へ出る。

 

 

ソロ冒険者。

占い師。

そして――エルフ種最強の冒険者とさえ呼ばれる女。

 

 

「ハ、ハクレン……!?」

「ハクレンさんだ!」

「でも、相手はレベル1500だぞ!?」

 

 

ハクレン。

その名を知らしめた功績はいくつもある。

だが、いくら彼女であっても無理だろう、と言える相手。何せ、ハクレンは確かに強いと言っても、Lvは1000以下。白の騎士団には及ばないが、冒険者の間では最強、と言える程度。

 

故に500も上の相手にはどうしようも────

 

 

「大丈夫です」

 

 

ハクレンは振り返った。

そして。

にこり。

普段と何一つ変わらない笑顔を見せると、その一瞬で防御壁を張る。広範囲、それも遥かに高い。スネークヘルハウンドの毒液攻撃も難なく防いだ。

 

術の初動があまりにも早く、いつ発動させたかもわからない。その上で、レベルが遥か上、格上相手の攻撃でさえ弾く堅牢さ。

 

 

「取り敢えず皆は私たちの後ろへ。出来るだけ距離を取ってください」

「わ、私……たち……?」

 

 

誰かが、その言葉に引っ掛かった。

 

 

――私たち。

 

 

つまり、ハクレンひとりではない。なぜならば彼女以外にも飛び出す存在がいたからだ。

この場に置いて、誰よりも輝きを纏っている男。

 

 

「ゴールドさん!」

「承知しておりますぞ!!」

 

 

ドンッッッ!!!

轟音。

ハクレンよりも前へ、誰よりも輝きを纏っている巨体が躍り出た。実際に輝いている。全身が金で出来ているような鎧を纏い、否が応でも目立つ存在だ。

 

体格に似合わない様な速度で大盾を地面へ叩き付ける。たったそれだけで、スネークヘルハウンドの蛇の形をした尾の一撃を防いでみせた。

 

人種(ヒューマン)パーティ

黒の道化師がひとり。

黄金騎士ゴールド参戦。

 

 

「なっ……」

「劣等種……が」

「何で……?」

 

 

ざわめき。

その蔑称が、当然のように口から零れる。

だが、それを訂正する暇さえ与えない。

あの魔獣が動いたのだ。それも一体じゃない。レベルの衝撃で、周りが見えてなかった。かの絶望の化身とも呼べる1500の魔物は、他に3体もいる。絶望どころの話じゃないのだ。

 

 

大地を蹴った。

 

 

巨体からは想像も出来ない速度で加速する。

その進路上にいるのは――ゴールド。

あまりにも体格差があり過ぎる。

押し潰される。

誰もがそう思った。

 

 

「ぬぅんッ!!」

ガァァァァァァァァンッッッ!!!

 

 

 

衝突。

耳をつんざく轟音。爆風が森を駆け抜け、木々が大きくしなる。

何人もの冒険者が腕で顔を庇った。

そして。

恐る恐る目を開ける。

そこにあった光景に――言葉を失った。

 

 

「……は?」

「止め……た?」

「嘘……だろ……?」

 

 

ゴールドの足元。

大地が大きく陥没している。その両足は地面へ深々と沈み込んでいた。

だが、あの男はそれでも立っている。

盾を構えたまま、真正面から。

レベル1500の魔獣の突進を――受け止めているのだ。

 

 

「わははははは!! 中々の力である!」

 

 

あろうことか笑っていた。

そこには苦悶はない。恐怖でもない。ただただ心の底から楽しそうに、だ。そしてその声を聞いた瞬間。

 

 

「ゴールドさん、そのまま!」

「応ッ!!」

 

 

ハクレンが駆ける。素早く唱えるはデバフの魔法。

大地に根を張るかのように動きが鈍足となる。ゴールドの力を前に、狼狽え、離れようとするスネークヘルハウンドは即座に動きが鈍くなった。

 

そしてほぼ同時、もうひとつの影が消えた。

 

 

「――遅い」

 

 

ネムム。

彼女の姿を視認した時には、既に魔獣の側面へ回り込んでいる。銀閃、刃が煌めいた。大きく仰け反った。あの化け物が、だ。

 

 

だが、實際のところは切り裂かない。紙一重。

魔獣の身体を掠めるように剣閃を走らせただけで、スネークヘルハウンドもそれを理解しつつまるで当たったかのようによろける。更には血液まで噴出させる。

水の魔法の応用である。

 

 

そう、これらは当然――演出。

 

 

これは討伐ではない。

目の前にいる魔獣は、黒の道化師の、そしてハクレンこと、ハクの敵ではない。

全てアオユキの指示に従っている――仲間なのだから。

故に。

 

 

全てが演技。

全てが演武。

 

 

だが。

それを知る者は、この場には四人しかいない。

 

 

「グォォォォォォォォォッ!!!」

 

 

束縛を逃れようと、スネークヘルハウンドはネムムへと前脚を振るう。

しかし。

そこにはもう誰もいない。

 

 

「ネムム! 離脱して!

「はっ! ダーク様!!」

 

 

ネムムともう一人、ダークの声。

それに反応して魔獣が振り返る。

その瞬間だった。

 

 

「今です! ダークさん!」

「はい!」

 

 

ダークが飛び込んだ。

真正面から。

そこに躊躇など欠片もない。

 

相手はLv1500の化け物。

 

エルフ種の限界すら遥かに超えた化け物へ向かって飛び込んだのだ。

 

 

「馬鹿な!」

「死ぬぞ!!」

 

 

誰かが叫ぶ。

だが、遅い。

魔獣の巨大な爪が振り下ろされる。

ダークは――避けない。

 

 

「リリース ファイアアロー」

 

 

カウンターのように掲げるはダークの魔術。カード魔術。

彼は本体とは違う分身体なため、威力は劣るが数では同等。瞬時に無数の魔法が放たれた事により、スネークヘルハウンドは後方へ高速跳躍をして距離を取った。放たれる魔法よりも早く。

 

 

「ギャオオオオオオッッッ!!!」

 

 

そしてスネークヘルハウンドが吼えると同時に、それが合図だったのだろう、使役していたの無数のダージウルフが飛び掛かった。

 

多角的であり、攻撃本数の多い炎の矢に対抗するため、だろう。

 

 

 

「(アオユキさんに操られてるだけじゃない、ね。賢い子だ)」

 

 

コンマ数秒レベル以下の判断が必要な戦闘で的確に最適を判断するのは見事のひと言。そして、使役している魔物はあのスネークヘルハウンドが操ってる言わば野生の魔物。殺さず魅せ続ける演武も重要だが、撃退し、迎撃し、そして殲滅させるのも必要になってくる。

 

見事な演出だ。きっとアオユキに褒めてもらえるだろう、とハクは内心褒める

 

 

そして――。

 

だからこそ。

この舞台に上がった以上、自分もそれに応えなければならない。

 

 

「――高みへと誘う白き旋律」

 

 

両の手を前に掲げ、美しい旋律が全てを包む。

それは無数の魔物も────ダークの炎の矢も。

旋律は三十の炎の矢を優しく包み込み、白き極光を以て、更なる高みを与えた。

 

 

「《白奏強化(ホワイト・レゾナンス)》」

 

 

三十の炎が、一斉に膨れ上がる。

全ては白へ還るが如き、輝きを纏った矢は、有象無象たる魔物を殲滅した。

余計な破壊はせず、ただ、悪しき魔物だけを灰燼にする。

 

 

ハクレンの両手が、ふわりと持ち上がる。

 

 

 

ドォンッッッ!!!

 

 

 

まるで音が後から来たかのように。気づけば、スネークヘルハウンドの前にいた魔物たちは消え去っていた。

 

巻き起こる土煙。

木の葉が舞い上がる。

人々は息を呑んだ。

 

何が起きたのか、理解出来た者はほとんどい。

ダークが放った炎の矢。それ自体も決して弱い魔術ではなかった。加えて詠唱破棄と三十に及ぶ数。それだけで驚嘆だ。

なのに、更にハクレンがあの旋律を奏でた瞬間、明らかに“別物”へと変貌させた。

 

一本一本が巨大化しただけではない。

 

威力を増しながら、それでいて木々を焼くことも、大地を無闇に抉ることもなく、標的となった魔物だけを正確に射抜いていたのだ。完全にオリジナルの魔術を魅せられた、と目を見開いたのである。

 

 

そして煙が晴れた時。

 

 

「流石です! ハクレンさん!」

「いえ、ダークさんこそ、お見事です」

 

 

肩が触れる程の距離で、隣り合わせに立つその姿は、太陽の光に照らされるその姿は、まるで二人の英雄が邪悪を払ってくれているかのよう。

 

 

「ワハハハハハ! お見事! いつみても見事なバフであるな!」

 

ハクレンが操る補助系の力が優秀なのは知ってるが、今のダークの魔術に合わせて、見た目的にも映えるような演出にしたのはおそらくはハクレンの、ハクの魔法の調節だろう。

威力、効力もさることながら、見栄えまでも操るとは感服である、とゴールドも頷くのだが、約一名は違う。

 

 

「ぐぬぬぬ、ラ、ダーク様のお隣……私が、立ちたかった……!」

 

 

大層悔しそうな様子で歯ぎしりをしているネムムである。

そんなネムムに、落ち着け、といつも通りのツッコミを入れるゴールドなのだった。

 

 

 

一連の攻防。

まさにあり得ない光景を目撃した生きた証人となったのが、エルフ種の冒険者たちだ。

 

 

認めたくない。

認められるはずがない。

あれは劣等種。

自分たちより劣る存在でなければならない。

 

 

それが、これまで疑う必要すらなかった常識だった。

だというのに。自分たちは、レベル1500という数字を見ただけで足を止めたのに。

戦うという選択肢すら浮かばなかったのに。

 

その怪物を――あの劣等種(ヒューマン)たちは真正面から押し返している。

 

しかも。

エルフ種最強の冒険者と呼ばれるハクレンは、その隣に立っている。

庇護する側でも、導く側でもない。

肩を並べて。

まるで、それが当然であるかのように。

 

 

「……なんなんだ、あいつら……」

 

 

誰かが、掠れた声で呟いた。

その問いに答えられる者は、もう誰もいなかった。

 

 

 

「さて────」

 

 

事は順調そのもの。

自分たちが演武をして、黒の道化師の認知度や実力を示すことが出来た。これで冒険者ランクも上がる材料となるだろう。

他ならぬエルフ種が、誇り高きエルフ種、と自称するような種族が認めざるを得ない状況を作り出した。

 

目標としては、最適だろう。

 

後は、いつまでこの演武を続けるのか? だ。

ハクレンとダークはアイコンタクトをして、各々理解し合おうとした、その時だ。

 

 

 

 

────バリッ!!!

 

 

 

 

 

黒き雷光が空に轟いたのは。

 

 

そして、目を見開くのはハクレン……否、ハクだ。

 

 

「な────ッ」

 

 

それら、想定外の事態が起きた瞬間だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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