ハーフボイルドとアイドル   作:日高昆布

6 / 6
後編です。
予告通り、これにて一旦終了とさせていただきます。

感想・批評・評価ありがとうございました!

次回作は未定ですが、なんか書くと思いますので、よろしくお願いします!


PでSな奴/2人で1人の仮面ライダー

 4人を乗せた大型バンは運転席と荷台の間に仕切りがあり、更に窓を全て鉄板で塞がれていることで光が差し込まない車内は3人の暗雲とした心を示しているように暗かった。

 事情も分からず、突然謎の女に迫られ怪人に襲われ、仮面ライダーに助けてもらったかと思えば、女が肉塊の化け物に変貌し仮面ライダーを圧倒。そうなってしまえば、ついて行く以外に選択肢はない。頼みの綱の仮面ライダーも大怪我を負い、眼を覚ます気配はない。

 一度助かったと思ってしまった分、落差によるダメージは大きい。誰も言葉を発せずにいた。特に自分が原因だと自覚しているあさひの落ち込み具合は酷いものだった。しかし啜り泣く声が聞こえても、あさひのせいじゃない、と言えるほど大人ではなく、あさひのせいだ、と言えるほど自己中心的にもなれない。

 速度が落ち、完全に停車。ここから出されてどこに連れて行かれるのか、と虚に考えていると、奇妙な振動と共に車両が降下し始めたことに気付く。2人も気付いており、何も見えない車内で頻りに視線を動かしていた。やがて降下が止まるとドアが開かれ降りるように命じられた。

 外は3人が予想していたより遥かに広大な施設であり、エレベーターも車が数台は纏めて乗せられるようなサイズであった。都会の地下にこんな空間があるなど想像したこともなかった。

 

「なに、ここ……」

 

「シュラウドの遺産よ。さ、芹沢あさひ、ついて来て。来なければどうなるかは、言わなくても想像できるでしょう?」

 

 何度も女と2人に視線を行き来させるが、俯き女と共に歩き出す。

 

「ま、待ちなさい! あさひに何するつもり!」

 

「酷いことする訳じゃないわ。人を超越するっていう素晴らしい体験をさせてあげるだけよ。心配しなくても、あなた達にも体験させてあげるわ。それまでは待っててもらうから」

 

 あさひを伴い、女は反対側の通路を行く。

 

「あさひ!」

 

「あさひちゃん!」

 

 追い掛けようとする2人を黒服が取り押さえる。不安と恐怖に揺れる瞳は鉄のドアに遮られる。

 伸ばされた手が力なく落ちる。黒服の男に威圧的に促され、歩き出す2人。

 

「こいつはいつまで気ぃ失ってんだよ。仮面ライダーって言っても大したことねえな」

 

 引き摺られる翔太郎を見て嘲笑する黒服。

 廊下を2〜3分ほど歩き、男が壁面のパネルを操作すると壁の一部が上にスライドし部屋が現れた。明かりさえもない暗い部屋。

 僅かな抵抗も許さぬ力で押し込まれる2人と、投げ捨てられる翔太郎。

 スライドドアが降りる。光が消え、完全な暗闇になるーー直前。軽いアラートと共にドアが数mmの隙間を開けて止まった。

 

「なんだ。何か挟んだのか?」

 

 自動的に上がっていくドア。その動きを目で追う男の顎を、突然強烈な衝撃が襲い一瞬で昏倒させた。

 

「なぁ?!」

 

 真後ろに倒れていく仲間を、間抜けに見詰める男のネクタイが強く引かれる。ゆっくりと流れていく中で最後に見たのは視界いっぱいに広がる膝だった。

 

 

 ドアと床に挟ませた指輪を拾い、付け直そうとするが、歪んでおり、仕方なくポケットにしまう翔太郎。

 

「悪いな2人とも、怖い目に合わせちまって」

 

「あ、アンタ意識あったの」

 

「あれだけ乱暴に扱われればな。だがドライバーもメモリも取られた状態じゃどうしようもなくてな」

 

 ノビている男2人の内ポケットからメモリを取り出すと、部屋の中に引き摺り、ドアをロック。

 

「! あさひちゃんを早く助けないと!」

 

「分かってる。だが無策じゃ突っ込めねえ」

 

「でも早くしないとあさひが怪物に!」

 

「落ち着けって。これがなきゃあの女の目論見は果たせねえ」

 

 これ見よがしに取り出したのは、『G』と書かれたガイアメモリ。あさひがどこかで拾い、知らぬ間にカバンに入れてしまっていたという代物。

 

「え、それ」

 

「な、なんでここにあるのよ」

 

「外から見られないために窓を塞いだんだろうが、コソコソ動くにも最適だったぜ。ついでに発信機も取り付けたから、あの子の場所も分かってる。だから落ち着け。必ず3人とも無事に返してやる」

 

 翔太郎が言ったように、ドライバーもメモリも敵の手に渡っている以上、戦力はガタ落ちという表現では済まない。

 しかし翔太郎の顔に不安や恐れはない。それが虚勢でないことが分かる。

 

「変身できないのに、どうやるって言うのよ」

 

「奴らはドライバーとメモリを奪ったってだけで油断して、こうして逆にメモリを奪われて、俺達に逃げられてる。偶然力を手に入れただけのズブの素人さ。いくらでもやりようはある」

 

 

「ガイアメモリって言うのはね、ある種の意思を持ってるの。自らと相性の良い使い手を見つけ、縁を手繰り寄せる。正直眉唾ものだとは思っていたけど、取引のトラブルで海に落ちたメモリをあなたが拾ったのを見たら、信じたくなったわ」

 

「……」

 

「そんなに怖がらないで。痛いことなんてないし、むしろメモリを使うととても気分がいいのよ。あなたが持っているメモリは『ジーニアス』。名前を聞いただけでもワクワクしてこないかしら」

 

 穏やかな口調に、愛しむような笑みを浮かべ、破滅の道へと手招きする。そんな女のことが、あさひはとにかく恐ろしかった。言葉も話も通じるのに、破滅への道こそが最良と信じる女のことが。

 

「さあメモリを出して。そして羽化の瞬間を見せてちょうだい」

 

「ーーい、いやっす……」

 

「聞き分けのない子ね。まあ良いわ、挿してしまえばいやでも分かるでしょう」

 

 傍のスクールバックの中身をぶち撒ける。勉強用具を足で退けていくが、肝心要のメモリが見当たらない。内外の小さなポケットも漁り、全て放り出すが、メモリはない。

 何故、という疑問はすぐに解けた。

 

「仮面ライダー……!」

 

 引き波のように消沈する昂りと、津波のように押し寄せる怒り。

 嬲ってメモリを出すだけでは済まさない。許しを乞うても、手足が折れても許さない。無様に泣き叫び、糞尿を漏らしても止めないーー。

 歯を剥き出しにしながら、その様を想像して少しでも溜飲を下げようとした時

 

「探偵共が逃げたぞ!」

 

「ベルトはないはずなのに変身しやがった!」

 

「エレベーターの方に向かってる! 逃すな!」

 

「ーーは?」

 

 慌ただしい声と騒がしい足音を聞いた女は、認めたくない事態に間抜けな声しか上げられなかった。

 ーードライバーもメモリは分析室にあるのに

 ーーあれだけの怪我でどうやって

 ーー片割れと合流されたら負ける

 

「させるかあ!」

 

 修理を終えたばかりのガントレット型のドライバーを手に取り、あさひには一瞥もくれずに部屋を出て行った。

 部屋は無人になり、施錠もされておらず逃げ出す絶好の機会ではあったが、3人がエレベーターに向かっているという事実にショックを受けていた。自分は見捨てられたのだ、と。今まで感じたことのない脱力感に上体を起こしておくことさえ億劫になり、倒れ

 

「あさひ! 無事?!」

 

「あさひちゃん!」

 

 中に敵がまだいるかもしれない、という翔太郎の静止を無視した2人が鬼のような形相で飛び込んで来た。

 

「まだ何もやってないっす冬優子ちゃん! ……あれ。2人とも逃げたって」

 

「左さんのおかげよ。ところで何で今冬にだけ謝ったの」

 

「あの機械でうちらの声を加工したんだ。凄くない?」

 

 あさひを立たせ、ぐるぐると回して怪我がないことを確認しながら、翔太郎を指差す。指名された翔太郎は、フロッグポッドを起動させ、先ほどのセリフを再生させる。

 

「探偵7つ道具の1つだ。さ、さっさと逃げようぜ。いつまでも騙されちゃくれないだろうしな。今度はちゃんと指示に従ってくれよ?」

 

 

 翔太郎を先頭に広大な地下施設を走る4人。光も必要最低限の数しかなく、全体的に薄暗い空間は気を滅入らせた。

 

「ねえ! 行きと違うように見えるんだけど、こっちであってるの?」

 

「そりゃ景色は違うさ。エレベーターには向かってねえからな」

 

「え。じゃあどこに向かってんの?」

 

「非常用出口だ。出入り口が電気で動くエレベーターしかなかったら、停電したら閉じ込められるからな。ただちょいと疲れるとは思うけどな」

 

「さっきから覗いてるそれで分かるんすか」

 

「ああ、こいつはデンデンセンサー。こいつで空気の流れを見れば、地上に通じる非常口が分かるって寸法よ」

 

「探偵さんは面白い物いっぱい持ってるっすね! 他にはどんなのがあるんすか?」

 

「地上に戻ったら見せてやるから楽しみをとっておきな。おっと」

 

 不意に足を止めると、壁面をじっと見詰める。その反応に、この壁の向こうが外に繋がっているのだと喜色を露わにする。

 壁面を弄っていると、一部がスイッチになっており、ひっくり返りタッチパネルが出現した。キーボードが表示されており、ここを開けるにはパスワードが必要だと示している。

 分かるはずがないと意気消沈していると3人を尻目に、人差し指でパネルを叩く。

 分かるはずのない答えを探して唸るより当てずっぽうでも入力すればもしかしたら。それを期待してるのか、と期待せずに見ていると、軽い電子音と共に壁が開く。延々と続く階段がある。

 まさかの一発正解にワーキャーと歓声を上げながら抱きつく3人。

 

「すごい! えらい!」

 

「これでうちら助かるんだよね?!」

 

「なんで分かったんすか?!」

 

「それは、って危ねえ!!」

 

 3人を抱えながら通路に身を投げる。直後、柱を破壊しながら巨大な鉄板が飛来。入口に突き刺さる。

 

「仮面ライダー!!」

 

 ドーパントに追い付かれた。一手でも間違えれば死ぬ。緊張から来る汗が肌を濡らす。

 ガジェットモードのスパイダーショックからハイメタル製のマイクロワイヤーを、廊下を横断させる形で射出。2mmの経で自動車を吊るせるほどの強度を持つワイヤーが何本もあれば、相手がドーパントとは言えバリケードとして十分な効力を持つ。

 

「ダメ押しだ!」

 

 最後の1本を、目眩しとしてドーパントの顔目掛け射出。

 

「3人とも走れ!」

 

 非常口を使うことはできない。一本道で隠れる場所もなく、そも階段を崩されればそれだけで終わりだ。

 再度3人を急かそうとすると、あさひが足を押さえていた。柱の破片が当たったのだろう、赤く腫れていた。度合いを計る時間はない。横抱きに抱え上げ、走り出す。

 

「どこに行けばいいの!」

 

「今はとにかく走れ! 一本道じゃ撒くこともできねえ! あさひ、ドーパントは?!」

 

「ま、まだ来てないっす!」

 

「少しは時間稼ぎできてるみたいだな。こいつを渡すから、後ろを見ててくれ」

 

 デンデンセンサーを渡す。

 背後のドーパントの存在が、左右の壁による閉塞感を強くしていた。走った距離以上の疲労に息を切らせる冬優子と愛依。

 一生続くのでは、と錯覚させた廊下の突き当たりが見えた。

 

「どっち! どっちに行くの?!」

 

「左だ!」

 

 スパイダーショックを放る。ワイヤーのバリケードはもう破られているだろうから、ガジェットで少しでも時間を稼ぐ必要がある。

 曲がった先の通路は、広大な空間に繋がっていた。今までは趣を異にする空間に、荒く喘ぎながらも周囲を具に見渡す。

 

「なにここ……」

 

 何に使用するのか、まるで想像できない機材が所狭しと並べられている。モニターの付いた高さ1m以上はあるコンソールや、ロボットアームなど。

 そして中央に鎮座する巨大な透明な箱には、そのサイズと比較してあまりに小さな台座のような機械が収められている。

 

「こいつは……」

 

 隣に並んだ翔太郎が苦々しく呟く。心当たりがあるようだが、その正体を知る必要も時間もない。

 

「ドーパントがこっちに来てるっす! あ」

 

 壁が吹き飛び、巨大な瓦礫が宙を舞う。機材の影に身を隠すが、自分と同じくらいの大きさが瓦礫が宙を舞い落ちてくる光景は、何かの冗談かと思ってしまう。

 散々邪魔されたことで取り繕う余裕さえなくなったのだろう、聞くに堪えない罵詈雑言と共に剛腕を振るっている。

 

「身を低くしたまま移動するぞ」

 

 デンデンセンサーを活用すれば、バレずに廊下に戻れるはず。その判断に誤りはない。

 

「……もういい。せっかく超人にしてあげようと思ってたのに。ここまで否定するのなら、手足を折ってからやらせてもらう」

 

ーーまずい……!

 

 無傷であさひを手に入れようという執着を吹っ切った言葉に、猛烈な悪寒を覚えた。

 頭上に掲げた拳を床目掛け振り下ろした。動作としてはただそれだけだ。しかしそれが齎す破壊は天変地異を思わせるほどのものだった。

 拳の着弾点は陥没し、そこを中心に全体に亀裂が走る。伏せていた体が浮き上がるほどの威力。

 周囲の機材が破壊され、火花が飛び散る。

 破壊の音に紛れ、自分が悲鳴を上げているのかさえ分からない。

 

「3人とも、大丈夫か」

 

 愛依は翔太郎の声が真上から聞こえることに気付いた。そして自分の横に、赤い液体が落ちていることにも。

 血、ということに気付き、慌てて振り返る。

 倒れた機材から愛依を庇い、頭から出血していた。

 翔太郎さん! と叫ぼうとした愛依の口を、翔太郎の手が塞ぐ。ヤケクソの範囲攻撃が行われただけで、居場所がバレている訳ではないのだ。愛依もそのことに気付き、コクコクと頷く。

 頷き返し、背中の機材をゆっくりと押し上げていく。しかし突然翔太郎が体のバランスを崩す。背中から機材をどかすこと自体はできたが、大きな音を立てて床に落ちてしまう。

 

「いたぁ〜」

 

「走れ!」

 

「どこに!」

 

「あっちだ!」

 

 指差す方には壁があるだけで何もない。しかし今はその言葉を信じるしかない。

 ドーパントもそこには何もないことを知っており、さっきまでの様子とは一転し、わざとゆっくりとした歩みで追い詰めていく。

 フロッグポッドが大音量でドーパントの周りを動き回り撹乱しようとしているが、目視できる範囲にいるのでは効果も薄い。

 

「行き止まりよ! どうすんの?!」

 

「そうだな……。フィリップ、そろそろいい頃合いじゃないか?」

 

 状況を正しく認識していないような落ち着き払った声。しかしまるでその言葉を待っていたかのようなタイミングで、巨大な何かが壁一面を破砕しながら進入。

 

「なにっ?!」

 

 けたたましいスキール音を部屋いっぱいに響かせターンしながら、ドーパントを撥ね飛ばす。コンソールをいくつも巻き込みながら、反対側の壁際まで吹き飛んでいく。

 急転直下の事態に理解が追いつかない中、それが巨大な車両であることに気付く3人。しかしタイヤがあるから車両と結びついただけで、既知の車両との共通点はほぼない。2つある赤のフルスモークガラス。そこから左右に伸びる長大なアンテナ。そして後部に付いている円形のユニット。

 どれもが目を引く特徴のそれを呆然と見つめていると、アンテナが左右に分かれる形でフロント部分が開いていく。

 

「やあ翔太郎」

 

「よおフィリップ。それと円香、助かったぜ。あとなんでパイセンもいるんだ?」

 

「フィリップの頼みごとで来たら、問答無用で巻き込まれたんだよ! てゆーか怪我! 大丈夫なのかよ!」

 

「……間に合ったから良いものの、あんな大役、ホイホイと任せないでください。……心臓に悪いです、本当に」

 

 T・ドーパントの狙いがダブルドライバーにもあることを看過した翔太郎は、敗北を悟ったタイミングでスタッグフォンにドライバーを運ばせ、現場の近くに円香に託したのだ。メッセージも何もなかったが、意図を正しく理解した彼女は探偵事務所へと走った。

 

「樋口円香にドライバーを託したことと言い、バットショットのビーコンを自分に付けて場所を知らせ続けたことと言い、急拵えのアイディアにしては大したものじゃないか」

 

「お褒めに預かり光栄だな」

 

 コンソールが音を立てて転がる。皆の視線が注がれる中、壁の穴からT・ドーパントが姿を現した。

 

「味方が現れて安心してるみたいだけど、メモリがこっちにあることを忘れてない?」

 

 そんなT・ドーパントの言葉に、翔太郎の返事は鼻息1つ。駄々っ子を見るような態度に違和感を覚える。

 

「お前の言うメモリってのはこいつのことか?」

 

 掲げて見せたのはジョーカーメモリだった。

 手元にあると思い込んでいたT・ドーパントは、動揺を露わにした。

 

「そんなに不思議がるなよ。お前も言ってただろ? メモリは適合率の高い使い手の元へ行くってな。こいつは俺の運命のガイアメモリさ。それに、知ってるか?」

 

 フィリップから投げ渡されたダブルドライバーを下腹部に当てがい、装着。フィリップの下腹部にも光と共にダブルドライバーが出現。2人の精神が繋がる。

 

「切り札ってのは、ハードボイルドな男が持ってこそ映えるモンなんだぜ? いくぜ、フィリップ」

 

「ああ、翔太郎。本当の2つで1つ、いや2人で1人の力を見せてやろうじゃないか」

 

ーーサイクロン!

ーージョーカー!

 

「「変身!」」

 

 転送されたサイクロンメモリを押し込むことで、フィリップの精神も転送。ジョーカーメモリを装填し、左右のスロットを展開。浮き上がったメモリのアイコンがぶつかり、砕け、混ざり合う。

 変身を妨害しようとしたT・ドーパントの足を止めるほどの風が吹き荒れ、その全てが翔太郎の体に収束していく。

 余韻の風が銀色のマフラーを靡かせる。

 疾風と切り札を纏う2色のハンカチ。

 その名を仮面ライダーWサイクロンジョーカー。

 

「アレが、仮面ライダーW……」

 

 手首をスナップさせ、真っ直ぐにT・ドーパントを指差す。

 

「「さあ、お前の罪を数えろ」」

 

 その言葉は罪の自覚と糾弾、そして開戦の狼煙。

 両者が同時に走り出す。

 サイクロンメモリが生み出した風がWを跳躍させ、空中にその身を置いたまま三連蹴り。軽技のように放たれる重量級の蹴りに、T・ドーパントの足が止まる。

 着地の瞬間を捕らえようと伸ばされた腕をブリッジで回避。床に手を付き体を支えながら、その体勢から回し蹴りを繰り出す。捕まえようとする動きで前傾になっていたT・ドーパントの顔面に直撃。間髪入れず更に体を捻り後ろ回し蹴りを放つ。風を纏った蹴撃は、巨体のT・ドーパントに膝を付かせる威力を持っていた。

 

「アレがWの力……」

 

 たったそれだけの攻防で如実に現れた彼我の戦闘力の差に3人は驚愕し、同様にT・ドーパントも戦闘力の差を痛感していた。故に既に思考は勝利から逃亡へと切り替わっている。

 床を粉砕し、それを3人目掛け投擲。

 

ーーサイクロン!

ーートリガー!

 

 しかし届かない。トリガーマグナムより絶え間なく吐き出される風の弾丸が、瓦礫を空中で全て撃ち砕き、塵さえ残さない。

 行動を読まれていたことに激昂し走るが、ダブルの視線が3人の方を向いていることを確認した上で行動する強かさはあった。

 

『実に単純だねえ』

 

ーーヒート!

ーートリガー!

 

 左手から右手へと投げ渡されたトリガーマグナムがT・ドーパントの胴体に押し付けられている。見えていなかったはずなのに何故、と驚愕に身を固まらせている間に、灼熱の弾丸を撃ち込まれる。体が水平に吹き飛ぶ。

 初めに感じたのは熱。弾丸を撃ち込まれた部分から煙が上がっている。

 

「お熱い弾丸の味はどうだいレディ」

 

 ガンスピンで口元に寄せたトリガーマグナムの銃口に息を吹きながら言う。

 T・ドーパントは愕然としていた。ジョーカー単体の戦闘力とここまで差があるのか、と。

 

『君の驚きが手に取るように分かるよ。ジョーカー単体とここまで違うのか、とね』

 

 心を覗かれたのかと戦慄する。

 

『君の戦い方を見れば、どうやって翔太郎を下したのかは容易に想像が付く。あの3人を庇ったことで大きなダメージを負ったのだろうね。君の卑劣な行動は、図らずも翔太郎の長所であり短所でもある、どんな状況でも庇護対象を見捨てないという部分を付いたのさ。そうでなければ、そんな不出来なダブルドライバー擬き以下の代物に遅れを取るはずがないからね』

 

「擬き以下、だと……?」

 

『2度も言わせないでくれ』

 

「そんなことあるものかあ!」

 

ーーヒート!

ーーメタル!

 

 生成されたメタルシャフトを背中から外し、見栄を切るように頭上で回してから構える。

 炎を灯した先端で顔を突く。怯んだ隙に足の間にメタルシャフトを差し込み、T・ドーパントの左膝を支点に右足を膝裏から掬い上げる。いとも簡単に背中から倒れ込む。

 

「オラァ!」

 

 すぐに立ち上がろうと上体を起こすが、顔面にメタルシャフトがフルスイング。

 

『双方のメモリの出力が全く調整されてなく、動きのバランスが悪いからこうも簡単に転ばされるのさ』

 

「く、くそ……こんなはずは……」

 

『妥当な結果さ。それは置いておいて、翔太郎。君、頭部以外に』

 

「あー待て待て待て。皆までいうなフィリップ」

 

『……全く。君の悪い癖だ。ならあまり時間を掛けるわけにはいかないね。少し過剰だがエクストリームを使おう』

 

「おわあ! フィリップが吸い込まれた!」

 

 フィリップをデータに変換し収納したエクストリームメモリが、ダブルドライバーとドッキング。

 翼が開かれ、タイフーンが起動。風を取り込み、極限にまで高められクリスタルとなったガイアメモリのパワーが、ダブルを中心に波紋のように広がる。

 

ーーエクストリーム!

 

 ドライバーより放たれた光が、ボディの中央にクリスタルを創り出す。無限の輝きを持ちクリスタルは、地球と繋がるサーバーであり、ガイアメモリの全てを瞬時に網羅する。

 仮面ライダーW最強の姿。その名をサイクロンジョーカーエクストリーム。

 初めて見るCJXは、何者にも砕けぬ力強さと、美しさを感じさせた。

 

「きれい……」

 

 クリスタルサーバーがプリズムビッカーを生成。

 

ーープリズム!

 

 柄頭のマキシマムスロットへプリズムメモリを装填し、プリズムソードを抜刀。

 CJXの威風堂々とした姿にT・ドーパントは気圧されるが、雄叫びと共に走り出す。しかしそれは自らを鼓舞する叫びではなく、発狂に近いものだった。

 

「敵の全てを閲覧した。行こうか、翔太郎」

 

「おうよ!」

 

 T・ドーパントと交錯する瞬間にソードが振るわれ、腕部から火花が散った。すぐに振り向き、追撃を行おうとしたが、T・ドーパントは自身に起きた異変にすぐに気付いた。振り向き様の遠心力に右腕が振り回されたのだ。

 

「何をした?!」

 

「雑な結合の上、雑な動きだったからね。筋肉を切断させてもらったよ。もう右腕は動かせない」

 

 咀嚼しても理解することができなかった。こんな短時間で身体構造を全て看破されたと言うのか。

 

「ぼーっとしてんじゃねえぞ!」

 

 咄嗟に左腕を振るった瞬間に、失策を悟る。

 見えたのはソードの軌跡だけ。それが消えた瞬間、振り切った腕を制止することもできずに体が引っ張られた。流れた方向に合わせ、飛び後ろ回し蹴りが顔面に叩き込まれた。

 耐えきれずに倒れ、床を滑る。

 まだ足は動くが、心が既に折れており、逃げることも、立ち向かうこともできなかった。

 

「こいつで決まりだ」

 

ーーエクストリーム!

ーーマキシマムドライブ!

 

 タイフーンから放出された黒と緑の風はやがて颶風となり、その中へと飛び込んだWを爆発的に加速させる。進路上の凡ゆるものを蹴散らしていく姿は、一条の流星のよう。

 

「「ダブルエクストリーム!!」」

 

 インパクトの瞬間に突き出された両足がT・ドーパントを撃ち抜く。

 女は己の肉体が崩壊していく衝撃に、一瞬のうちに意識を失った。

 爆炎の中、ガントレットごとメモリが砕け散った。

 

 

「勝った……。仮面ライダーが勝ったわ!」

 

「良かった、これでみんな無事に帰れるんだね!」

 

 抱き合い、仮面ライダーの勝利と自分達の無事を喜び合う愛依と冬優子。

 実力を知っていたので心配はしていなかった風を装いつつ、ホッと一安心する心と円香。

 

「さあ、さっさとこんな所からはおさらばしようぜ」

 

 足を負傷しているあさひを抱え、リボルギャリーに飛び乗る。

 

「わわっ。おお、カチカチっす」

 

「自慢の肉体だぜ?」

 

 床に下ろし、残りの2人も引き上げる。ついでにマイクロワイヤーで簀巻きにした女を床に転がす。

 ハッチを閉めようとしたところで、フィリップが声を上げた。

 

「待った、翔太郎。まだ一仕事残ってる」

 

「……いいのか?」

 

「もちろんだ。母さんも、シュラウドもここが悪用されることは望まない」

 

「分かった」

 

 以心伝心と言うのだろうか。言葉少なく、しかし齟齬なく理解しあっている様子に、長年の絆を垣間見た。

 ビッカーシールドを構え、サイクロン・ルナ・ヒート・ジョーカーメモリを装填。マキシマムスターターを作動させ、装填されたメモリ全てのパワーを一点に収束。CJXだけが可能とするクアドラプルマキシマム。

 

「「ビッカーファイナリュージョン!!」」

 

 プリズムマズルから虹色に輝く破壊の光が放たれる。

 後方で腕組んでいた2人も初めて見る、圧倒的な光景に言葉を失っていた。

 視界を埋めていくオレンジ色の光は、閉じていくハッチに遮られた。

 

 

 地面をぶち抜き地上へと帰還したリボルギャリー。開いていくハッチから見える慣れ親しんだ光景に気が抜け、座り込む2人。

 エクストリームメモリを閉じ、変身を解除。

 

「地下に突入する前に照井を呼んだから、直に警察が来るだろう。君達は保護してもらうといい。芹沢あさひの怪我も、ただの打撲だから入院の必要はないだろう」

 

 その言葉にホッとする一同。しかし続く言葉に、空気が一変する。

 

「前腕部と肋骨を亀裂骨折している翔太郎は病院に行く必要があるけれど」

 

「ちょっおま」

 

「庇護対象の前では徹底的に強がるのもいいけど、その結果サポートするのは僕になるんだ。僕は君のお手伝いさんじゃない。幸い、候補は選り取り見取りだ。好きに選ぶといい」

 

「できるかぁ!」

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曰く付きの妖刀を拾った凡人が、天才を曇らせる剣鬼になる話。(作者:白たくあん)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

▼ 曰く付きの妖刀を拾った凡人が、闇堕ちして天才達を曇らせる話です。▼ ※ご指摘が複数ありましたので、タイトルを変更しました!▼ 旧題:曰く付きの妖刀を拾ったので、闇堕ちした剣鬼の真似して遊んでる。


総合評価:9471/評価:8/連載:4話/更新日時:2026年02月23日(月) 06:54 小説情報


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