お願いします千織さんっ!こっち見てニコッてしてください!! 作:猫好きの餅
注意、この話には多大なキャラ崩壊要素があります。コーヒーを準備して覚悟ができた方のみお読みください。
「……鋏」
「はい、千織
「クレイ、次の準備を」
「了解です。どっちからやりますか?」
「下からで」
「わかりました」
「!?!?!?」
エローフェは、目と耳を疑った。目をこしゅこしゅ、指で軽く耳掃除をしてもう一度、裏で服を製作中のあの夫婦を見る。
「千織さん、ここは…」
「そうね、内側から鋏を入れてちょうだい」
「こうですか?」
「そうよ。……目がいやらしいわね」
「ちょっと今生地と千織さんの黒ストとで視界が忙しいので静かに」
「蹴るわよ」
エローフェは裏に向けていた目線を前に戻すと、コーヒーをひとくち啜った。なぜ突然クレイが敬語で話していて、千織がデレる前(言い方)の辛辣モードになってるのか。気になる。とても気になるが何故か口の中がジャリジャリしている。
エローフェは、もう一度コーヒーをひとくち。口の中の砂糖と共に喉へ流し込んだ。
「エローフェ、店番任せちゃって悪いわね」
「あ、千織さん。いえ、全然大丈夫ですよ。…クレイさんは?」
「買い出しに行ったわ」
千織がデレてからは、毎回の買い物を二人で行っていたのに、今回はクレイだけだと言う。喧嘩でもしてるのかと一瞬思ったが、千織の左手を見ると薬指に銀色のリングが煌めいていた。
そういえば、こうして千織とエローフェで2人きりになるのも久しぶりな気がする。エローフェは紅茶を淹れ、千織の前に置きながら尋ねた。
「それで、今日の千織さんとクレイさんはどんなプレ…んんっ、…………どんなイチャコラプレイ中なんですか?」
「…咳払いした上で言い直す人初めて見たんだけど」
2人が喧嘩するとか想像もつかないエローフェは、気づけば口が滑り倒していた。「すみませんっ」と白々しく口を抑え、来る糖分に備えてコーヒーを作り始める。
「いえ、おふたりの口調が昔に戻っていたので、気になっただけです」
「………少しね」
そう呟いた千織の表情は、少し不満そうだ。少なくとも千織の方は今の状態を好んで行ってはいないらしい。
千織は、湯気を立てる紅茶を見ながら、キュッとスカートの裾を握りしめた。ちょっと子供っぽい仕草にエローフェが撃ち抜かれた中、自分の仕草に気がついた千織は憂いを剥がすようにブンブンと顔を横に振った。その動きにつられてサイドテールもふりふりと揺れて、エローフェ、ツーダウン。
この店に入った当初は怖かった店主が、クレイの登場によってこんなにも可愛くなっている。八つ当たりの様に紅茶を一気飲みし、「仕事に戻るわよ」と職人の顔になって立ち上がりつつもスカートをちょっとつまんでる千織に、ノックアウトを決められたエローフェは人に見せられない表情で頷いた。
「…あー、ツンツンの千織もいいなぁ」
まさか、やってくれるとは思わなかった。俺は買い出しの帰り道を歩きながら、手で口元を抑える。
ことの発端は昨日の夜。お風呂上がりで俺の膝に跨り、クレイニウム(?)の補充にあたっていた千織は不満顔で俺に言い放った。
「ずっと、私のしたい事ばっかさせてくれるじゃない。…ふ、夫婦として不公平だわ。クレイも私にして欲しいこと、言って?」
セリフの途中の、夫婦って言う時ちょっとモゴモゴするのがクソ可愛いとか、クレイニウムってなんやねんとか、匂い嗅ぎつつも手がズボンのゴム紐にかかってますよとか言いたいことは沢山あったのだが、彼女の提案に俺は考えた。
して欲しいことがないかといえば嘘になる。…が、大抵の願いは既に叶っているし、何より千織とくっつきたいとかキスしたいとかは思った時にはもう向こうから抱き着いてくるしキスしてる。
構おうとしても既に膝の上ですりすりしてるから、ただ俺が無欲に見えるだけなんだよね(説明n回目)。
それ以外の願いとなると、……それが一つだけあったんだ。
俺はおもむろに千織の頬に手を伸ばす。
「……っ、……ん…♪」
千織は、吸い込まれるように俺の手のひらに頬を乗せた。そのまま目を細めてすりすりしてくる。猫かな?
手を離し、俺の膝の上から千織を退かそうとすると。
「……や。………ん」
千織はちょっとに俺を睨んで、背もたれに押し付けるように身体を擦り付けてくる。首筋に顔を埋められたと思ったら、リップ音と共に鎖骨あたりに柔らかい感触が。
……と、このように。2人きりの時の千織はもうずーーーっと俺にくっついてる。流石にトイレと食事の時は離れてくれるけど、それ以外はだいたい俺の膝の上か、隣で密着。もしくは俺が千織の膝枕状態。
外では普通なだけにキャップが凄まじく。甘々な千織に俺も幾度となく敗北してきた。こんな甘々を毎日体験しているとですね。久々に欲しくなってくるんですよ。昔のツンツン千織が。
「……千織」
「ん、…なぁに?」
「じゃあさ、1つやってみたいことがあるんだけど」
「ふふ、……なに?……また、着替えてするの?」
「違いますっ。……明日1日さ、昔の千織になって欲しいんだ」
「昔?」
「うん、出会ってすぐくらいの。俺に辛辣だった頃の千織に」
そう俺が言うと、千織は露骨に嫌そうな顔をした。
「……それって、私があなたを邪険に扱ったり、蹴ったりするってこと?」
「そう。俺も最初の頃みたいに敬語のさん付けで行くからさ」
「………」
千織は、じっと俺の目を見る。ストレートにものをいう千織らしくない、何かを訴えるようにじーっと見てくる。可愛い。
「……いいわよ」
「ほんと?」
「……クレイがそういうなら……1日だけ、昔に戻ってあげる」
「よしっ、ありがとうございます。千織さん」
「今はやだ」
ノリで言ってみたけどお気に召さないご様子。俺といる時「嫌」が「…や」に、「ダメ」が「やだ」に変わるこの嫁が可愛すぎるんだけどどうしよう。
俺はちょっとむくれる千織を撫でる。明日が楽しみだ。
「…ちょっと、…ち、近寄らないでくれる?」
「ハイ喜んでー」
「喜ぶな」
昨日のクレイのお願いから始まった、昔の私に1日だけ戻るというお願い。苦渋の決断だけど、彼の頼みならと了承した私は、早くも後悔していた。
「今日は斬れ味鋭いですね千織さん」
「…っ、べつに、いつもの事でしょ?」
なんでクレイはそんなに癒された顔してるの?実はドMとか?……でも、夜とかいつも…激しいし…そんなことは無いと思うんだけど。
昔の私というのはすなわち「クレイに恋に落ちる前の千織」ってことなんだろうけれど、どんな風に接してたかを思い出しながら、彼を罵倒してみると、クレイは清々しい顔をして仕事をしている。
でも、確かにあのころはこうやって阿吽の呼吸でポンポン話せるから、それは悪くない。…でも、やっぱり私の心に少し引っかかる。
「買い出し行ってきて」
「了解です」
彼が戻ったきてから2人で行ってた買い出しにクレイ1人を送り出し、私はため息を吐いた。
……もう、クレイニウムが足りない。朝起きて隣を見たら、もうクレイがいなかった。そのまま別々で千織屋へ行き、先に着いていたクレイの「おはようございます、千織さん」の声を聞いた私は、わかっていたのに少し動揺してしまった。
彼がどういうつもりでこの提案をしたのかはわかってる。私が、クレイに依存しきっていることを危惧してのこと。
仕事とプライベートはしっかり分けてはいるけど、やっぱり仕事の反動でクレイに甘えてしまう。家にいたら抱き着いて匂いを嗅がないと落ち着かないし、寝る前には溜め込んだ愛をクレイにぶつけないとぐっすり眠れない。
だから、味変というか、メリハリを付けるためのこの提案なんでしょうね。それは理解してるから頷いたけど、やっぱり寂しいものは寂しいわ。
エローフェが作ってくれた紅茶を飲み干し、裏にもどる。時計を見ると昼を過ぎた時間。
「……買い出しが昼だから、……クレイが昼を食べてないことに気づかなかったのね」
あの時。……私がクレイをただの変なヤツとしか思っていなかったあの頃。私はいつも、クレイの毎日求愛求婚をあしらいながら、仕事のことばかり考えていた。
「千織さん、好きです」
「生理的に無理」
「マジで結婚してください」
「寝言は寝て言いなさい。それとも、今寝かされたい?」
「千織さんに寝かしつけられるのはなかなか…っぶね!(回避)」
「…ち、避けられた」
さっきも言ったけど、クレイを邪険に扱っていたのは、ただ私目当ての変なヤツだと思っていたから。
そう。あの時の私は、彼の影の努力を何も知らなかったから。
だから辛辣なこと言えたし、蹴れた。でも今は違う。私は知ってしまった。彼は私に罵倒されて、変なヤツだ、やっぱ追い出すかなんて考えてた間もずっと裁縫の練習をしていた。そんなことを知った今、それにクレイのことが大好きで堪らない今の私が彼を邪険になんて扱えるわけないじゃない。
ふと裏の用具棚を見ると、綺麗に整頓されている。ホコリひとつ無いし、何がどこにあるかシールやペンで書き記してあって、クレイがやったんだと考えると胸が熱くなる。
もう、好き。彼離れのための昔の口調なのに、かえってクレイが好きになる。
「ただいま戻りましたー」
彼の声に私の身体がぴくっと反応する。抱きつきたい。キスしたい。この燃え上がった感情を彼にぶつけて、包んでもらいたい。
でも、もう少し我慢。
店に入ってきたクレイに飛びつきたくなる衝動を何とかこらえながら、私は仕事を続けた。
そして、帰宅。
先に帰ってるクレイの元へ、私は急ぐ。
会いたい、抱きしめたい、キスしたい。そんな衝動に突き動かされ早足で部屋に向かい、急いで扉を開ける。
部屋の中へ走って入った私は、机の前で立ち止まった。何やら置き手紙が書いてある。
「ごめん、呼び出されたから1回パレ・メルモニアに行ってくる」
そう書かれた紙を見つけた私は、よろよろとその場に座り込んだ。
「…お、…おあずけ……?」
こちとら、もうクレイに会いたくて会いたくて気が狂いそうなのに、このタイミングでお預けなの?
「……はぁ、………はぁ」
ダメだ。本当にダメだ。今日の1日でクレイのことがもっと好きになった。好きだって気がついた。本来なら2時間事に摂取が必要なクレイニウムをもう20時間も摂ってない。もうダメ。
私は立ち上がると、リミッターが外れた頭で体を動かす。…もうすぐで帰ってくるのに、そのもうすぐが待てないわ。……でも、クレイのせいだもん。……クレイが、私をこんなにしたんだから、責任を取って欲しい。
私は着物を脱ぎ出す。本当はシャワーを浴びたいけど、もう我慢できない。
着物をベッドに放り、スカートも落とす。ストッキングも脱いで、ショーツも紐を解いて落とす。
生まれたままの姿になった私は、クレイのクローゼットを開いた。その中にある彼がよく着る黒いワイシャツを取り出し、全裸の上に羽織った。
「……っ、…はぁ………ん…」
すごい、全身からクレイの匂いがする。袖を鼻に近づけるともう堪らない。私はさらに手を伸ばし、クローゼットの中から彼のズボンも出した。そのまま直接足を通して履く。当然彼の方が体が大きいのでサイズばブカブカ。夢中で履いたから、そのままバランスを崩して尻もちを着いた。
「…クレイ…」
私は彼の服を着て、襟や袖の匂いを嗅ぐと安心して、お腹の中がきゅんとする。
ああ、こうしてるとクレイに抱きしめられてるみたい。傍から見たら変態ね私。
そう他人事のように考えながら、私は夢中で服の中に手を入れ、まさぐり始めた。
「やべ、早く帰らないと」
パレ・メルモニアで書類の受け取りに呼び出され、そのまま結構待合室で待たされてしまった。帰ったあとの千織の様子を鑑みるに、恐らく怒られる。そんで襲われる。
パレ・メルモニアから出た途端ダッシュして家へ戻る。耳を澄ますと何も音がしない。……と見せかけて、微かに声が聞こえる。
俺は部屋に入った。
「ただいま」
中を覗くと千織の姿がない。あれ、どこ行ったんだろ。ベッドの上に千織の着物が置いてあるからシャワー中かなって脱衣所に行っても誰もいないし、家の中に気配はするんだけど。
耳を済ましていると、なにか音が聞こえる。声じゃない。なんだろ、とても小さいけど水音が聞こえる。雫でも落ちてる?
そして、その音が俺のクローゼットから聞こえて来るんだけども。
いや、いやいや。そんなわけないじゃん。
俺が苦笑しながらクローゼットを開け。
「……ん、……んっ………んぅ……」
閉じた。
俺は清々しい顔でソファに座り、足を組む。テーブルに置いてあるクレイたもとを膝に乗せた。
………ん?
いやいやいや。流石に見間違いだって。
俺はクローゼットをもう一度見る。確かにあそこには女の子一人くらいなら入れる隙間あるけど。ハンガーに掛けてある服の下には寝転がれるスペースもあるにはあるけど。あそこ俺の服しかないぞ?
俺はさっき幻視した、「俺の服に包まって、自家発電に励んでいる店主」の映像を頭を振って忘却しようとする。……うんむり。だってあまりにもエロかったし、俺のシャツを頭まで被ってたせいで俺がクローゼット開けたの気づいてなかったし。
俺は、意を決してもう一度クローゼットを開けた。
「……っ…………」
千織は、……いやほんと、なんと言えばいいか。こんな姿見たら彼女を知る人は全員ひっくり返るんじゃないか?現に俺が今ひっくり返りそうだし。
そもそも、千織は結婚してから明らかに色っぽくなった。でもこういう「現場」を見るのは初めてだ。
千織は多分四つん這い…なのかな?服が大きいせいでわからないけど多分四つん這いで顔を床につけてる体勢。
なんか、人の痴態見た時って逆に冷静になる。俺は、そっと千織顔にかかってたシャツを取った。
「……っ、…あ…………ああああああ」
「……ただいま」
俺と目が合った千織は、か細い声をあげた。顔色が赤と青を行ったり来たりしてるので、優しく頭を撫でる。
「……えっと、邪魔しない方が良かった?」
「…や、これ、……ち、ちが……くれい…」
「っ」
ダメだ。
千織の真っ赤になりつつも声を出そうとして、失敗して、泣き縋る子供のように俺の名前を呼んだその光景を見て、俺も理性が一撃で粉砕された。
俺も、クローゼットの中に入る。
「く、クレイ…?……あ、なんで入って…?」
「ちょっと、俺も我慢できないわ。それは流石に」
俺は千織が履いてたズボンを脱がす。見える肌と、水を零した音。
「…ぁ、ちょ、…ゃ……んっ」
数秒後、クローゼットのドアがぱたんと閉じた。