──闘いの中に、答えはある。
執筆欲肥大化症候群が再発したので(ry
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──夢は現実に。
世界の人口の8割が【個性】と呼ばれる超常を扱う特異体質となった超人社会。
そこでは、個性を悪用し、犯罪を犯す【
「ヒーローだと……? 笑わせるなっ! 貴様らのような雑魚共に、このベガ様と我がサイコパワーが破れるものか!!」
「きゃあああああ!!」
「ヒーローが……ヒーローがやられるなんて!」
「逃げろっ! 殺されるぞ!」
今日もまた、1人のヴィランが市民の平和と安寧を脅かしに現れた。ただ、今回はいつもと様子が違った。本来であれば騒ぎを聞いて駆けつけたヒーローたちによってヴィランが鎮圧されるところだが、このヴィランはそのことごとくを返り討ちにしてしまったのだ。
「ハッハッハッハ!! ここに集う愚か者どもよ! よく聞くがいいッ! 我はシャドルーが総裁、ベガ!! 我らが技術力は既に空間の壁すら超越した。さあ、我らに跪け! 今日はこの世界がシャドルーの手中に収まる始まりの日なのだからな!」
白日で赤色の軍服のような服装に身を固め、筋骨隆々としたヴィランはそう高らかに宣言する。その声色は、そうなる未来が確定しているものだと言わんばかりであった。
「しかし個性か。大した鍛練も無しに異能を扱えるとは興味深いではないか。幾つかこやつらをサンプルとして持ち帰るか……。」
「おい、デク! 何やってんだよ! 逃げるぞ!」
「ま、待ってよ、かっちゃん!」
「!」
地面に倒れるヒーローたちから声の方向にベガは目線を向ける。その先には2人の子供がいた。デクと呼ばれた緑髪の少年とかっちゃんと呼ばれた金髪の少年。10歳前後のように見える2人はヒーローたちを蹴散らしたヴィランから逃げるように必死に走っていた。
──ヒュン!!
「「!!」」
「フッフッフ……。同じ弱者であるなら子供の方がまだ将来性が見込める、か。」
2人の目の前に、先程まで自分達の後方にいたヴィランが現れた。
「い、いきなり目の前に現れた!? さっきヒーローと戦ってたときもワープみたいなことしてたし、空間転移系の個性……!? でも、さっき変なエネルギーみたいなので攻撃してたし、複合型……? もしくはエネルギーを移動に転用できる? でもエネルギーを使って移動するなら………」
「こんなときに個性の推測やってんじゃねぇよ、このヒーローオタクがぁ!!」
目の前に突如として現れたヴィランに驚きながらも、そのまま能力の考察を始めた"デク"に対して、ヴィランの目の前で自分の世界に入った友達に向けて"かっちゃん"は憤怒の如く叫びあげる。
「この力を"個性"だと……? フン、このサイコパワーをそんなものと一緒にするでないわ。なに、お前たちにも直に分かる。この力が───」
「誰もそんな説明聞いてねえってんだよ! このクソヴィランがぁ!!!」
──BOOOOOM!!!
自身の力を語りだそうとしたヴィランの言葉を遮るように金髪の子供は両手をヴィランの方に差し向けた。次の瞬間、子供の掌から爆発が起こり爆風がヴィランを飲み込んだ。
「ちょっ、ちょっとかっちゃん! いくら相手がヴィランでも勝手に個性を使っちゃった──」
「ほう、ただの子供が放つ力にしては及第点だ。」
──ガシッ!
「ぐぁ……!?」
「かっちゃん!?」
「言ったはずだぞ? このベガ様とサイコパワーは、その程度の力で倒せはしないと。」
爆煙の中から出てきた手によって、金髪の少年は捕らえられ宙に持ち上げられる。爆煙から姿を現したベガには傷1つ付いていなかった。
「ク、クソがっ……!」
「フッ、この状態でも我に反抗する態度を崩さぬか。良いだろう。今の我は気分が良い。特別にその非礼を許し、貴様を我がシャドルーに──」
──バシッ!
「むっ?」
「かっちゃんを離せっ!!」
ベガが下を向くと、緑髪の少年が彼の脚部を力一杯殴り付けていた。当然、先ほどの爆発にも傷1つかない彼に対してその程度の攻撃は無力でしかないのだが、少年はそれでもひたすらに殴り付けていた。
「このバカデクがっ……! 俺が敵わなェ相手に"無個性"のお前が敵うワケ無えだろうが!!」
「嫌だ! 友達を見捨てるなんて、そんなの……そんなのヒーローじゃない!!」
金髪の少年は必死になって逃げるように叫ぶが、緑髪の少年はそれを否定しながら更にベガを殴り続ける。
「フン、勇気と無謀を履き違えるか。無知を越えて愚鈍でさえあるな。……だが、愚かな子供に力量の差を示すもまた一興か。」
──ゴオッ……
「「!!」」
「確と見るがいい。これがサイコパワーだ。」
ベガはそう言うと、空いている左手を緑髪の少年の方に翳す。その手は紫色に近いオーラのようなもので覆われた。
──フワッ……
「がっ……!!」
「デ、デク! くそがっ、離しやがれ!!!」
「どうだ? 我がサイコパワーにかかれば子供1人を触れること無く宙に浮かべるなど造作もないことだ。」
そしてベガがその腕を持ち上げると、それに連動するように緑髪の少年の体が宙に浮かんだ。
それを見た金髪の少年も必死になって手を爆破させてベガに攻撃するが、それがベガに手傷を負わせることはなかった。
「どうしだ? 我がサイコパワーの真髄はこの程度では収まらぬぞ? ……ふむ、折角だ。我が直々に貴様らに栄誉をくれてやろう。我がサイコパワー、存分に堪能するがいい。」
──ゴォッ……!
宙に浮かべていた緑髪の少年を、ベガは自身の手で直接掴み直した。すると、手に掴んだ2人の体は先ほどベガが放ったオーラ、サイコパワーに包まれたのだ。
「うっ……!? き、気持ち悪い……!!」
「がああああああぁっ!!?」
「かっ、かっちゃん!? しっかりして、かっちゃん! くそっ、かっちゃんを離せ!!」
(むっ? 妙だな。双方に同じ程度のサイコパワーを流しているはずだ。この"デク"などという小僧、我がサイコパワーが苦しくないというのか?)
悶え苦しむ"かっちゃん"と、違和感を感じながらも"かっちゃん"を気遣う様子を見せる"デク"を見比べたベガは双方の違いについて考えを巡らせた。
──ジジジッ……
「「!?」」
「むっ、これは……時間切れか。」
そのとき、3人の体がまるでモニターに発生するノイズのように揺らぎ始めた
「まあ良い。時空の壁を超越し、異なる世界への干渉を可能にしたというだけで今は充分。後はこの小僧どもをシャドルーの手土産にするとしよう。」
「て、手土産!?」
「クソがっ……! 離しやがれっ」
手土産、という言葉に2人の子供は恐怖する。そして、拘束を解こうと必死で踠くが2人の力ではそれは不可能だった。
──スルッ……
「むっ!?」
「ぐがっ!?」
「かっちゃん!?」
そのときであった。ベガが掴んでいたはずの金髪の少年が彼の手から落下した。当然、ベガもそれに気付き再び掴みにいくが、彼の手は空を切るだけだった。結果的にベガから解放される形になった金髪の少年はそのまま地面に落下した。一方の緑髪の少年はベガの手にしっかりと掴まれていた。
「すり抜けただと? 何故だ? もしや我がサイコパワーが馴染まぬ者には───」
「かっちゃん……今のうちに早く逃げ───」
──フッ………
「…………えっ?」
そして、ヴィランと緑髪の少年は消滅した。まるでこの世界に元々存在しなかったかのように金髪の少年の前から消え失せたのだ。
「お……おい、デク? 何処に行っちまったんだよ? なあ、隠れてないで早く出てこいよ……。」
金髪の少年は声を震わせながら、目の前から消えた友人の名を呼ぶ。しかし、その声に応えるものは居なかった。
「デクッ………デクゥゥゥゥ!!!」
少年の悲鳴にも似た叫びが空しく響き渡る。それでも、その声に返事をする者は居なかった。
その後、救援に駆けつけたヒーローたちの手によって金髪の少年は無事に保護された。居なくなった友達の名を叫び続ける少年を、ヒーローたちは必死でなだめたという。
この事件は、事件を起こしたヴィランが自身をシャドルーの総帥と自称していたことから『シャドルーの惨劇』と呼ばれるようになる。ベガを名乗ったそのヴィランは空間転移系の個性持ちと推測され調査が行われたが、事件はその後暗礁に乗り上げた。そして、ヴィランとそのヴィランが連れ去ったとされる1人の少年もまた、発見には至らなかった。
【場所:???】
「ベガ様! お戻りになられましたか! ご無事で何よりです! お体の具合はいかがですか?」
「ああ、我はこの通りだ。それよりも、空間跳躍装置はどうなっている? 次なる運用は可能か?」
「はっ、それが……まことに申し上げにくいことなのですが、機械の中枢部に大規模なダメージが生じていまして、修理には時間がかかるかと。」
「時間がかかる? どのくらいだ?」
「技術班からの報告によりますと、1年以上は覚悟する必要があると。」
「ふむ……、まあ構わぬ。あちらの世界に暫しの猶予をくれてやるだけのことだ。急ぐこともあるまい。」
「はっ! ところでベガ様、そちらの気絶している子供は如何致しますか? ベガ様のご命令とあれば、我ら戦闘員としての教育を施して──」
「待て。この小僧は、我がサイコパワーに対しての親和性がかなり高かった。サイコパワーを存分に振るう戦闘員にするのも悪くはないが、この高さが何処に由来するのかを調べたい。もし、これが小僧の個人的なものではなく、あの世界の人間に由来するものであるのなら、それは面白いとは思わぬかね?」
「おお……!! では、医学班の方で生体実験を行うと言うことですね?」
「ああ、そうするが良い。……我は暫し休む。貴様らも成すべきことを首尾よく行え。」
「はっ、承知致しました。では以後のことは我らに任せ、ごゆるりとお休みくださいませ。」
───
──
─
【時は流れて………】
「走れっ! 追手がいつ来るか分からんぞ!」
研究所と思わしき施設内で白衣を纏った研究員と軍服らしき服装に身を固めた戦闘員が慌ただしく駆け巡っていた。
彼らが運ぶストレッチャー型の器具には、10代半ばほどの緑髪の少年が横たわっていた。
「おい、この検体はこっちのルートでいいんだよな!?」
「ああ、そうだ! それはあの平行世界からベガ様が直々に連れてきた特別な検体だ! 他の検体と別口で逃がすように手配がされている!」
『ほ、報告!! 西側は連中の手に落ちた! 同志は別の箇所より脱出、う、うわぁー!!!』
会話を遮るように彼らの通信端末より断末魔が響く。それは仲間が何者かに打ち倒されたことを意味していた。
「くそっ! 連中め!」
「とにかく急げっ! 出口まで行けば先行している同志が脱出の準備を既に……あそこの角を曲がればすぐだっ!!」
彼らはその会話の通りに通路を曲がる。非常用の経路なのもあって周囲は薄暗かったが、通路の先には1人の人影が立っているのが見えた。
「おお同志よ!! 検体を連れてき……!!」
その人影の姿がはっきり見えたとき、彼らは言葉を失った。その人物は赤い鉢巻きに白い胴着、赤の指ぬきグローブに素足という装いで、その体には長き年月をかけて鍛え上げたであろう筋肉を纏っていた。その服装とも相まって、まるで絵に描いたような武術家のような男がそこには居たのだ。
「そ、総員戦闘体制! 銃火器も使え! 奴は──」
「はあっ!!」
その男は気合いをいれてダンッ、と地面を力強く蹴るとそのまま彼らに向かって急接近する。
「ふっ!」
「ぐはっ!」
「とりゃっ!」
「がふっ……!」
「むんっ!」
「ごはあっ!?」
拳、手刀、蹴り。様々な体術を用いて、男は次々と彼らを無力化していく。しかも、ただ倒すだけではなく、銃火器を装備したものから優先して倒すという戦況の見極めも忘れていなかった。
「ええい、囲んで叩くぞ! 同士討ちを恐れて勝てる相手ではない!!」
「ならばっ…!」
彼らが周囲から一斉に飛びかかろうとするのが見えた男は、体を捻るように屈み、そして
「【竜巻旋風脚】!!!」
「「「「うわああああぁっ!!?」」」」
男は片足を地面と平行になるように上げると、自身の体幹を軸として回転した。その勢いは彼自身の体が浮き上がるほどであり、群がってきた相手をあっという間に一網打尽にしたのだった。そして、この一撃をもって男の勝利が確定した。彼は1対多数という圧倒的不利な状況を見事に制したのだった。
「よし、これでこの場にいる敵は全てか。後は……。」
敵の沈黙を確認した男は器具に寝かされている緑髪の少年の側に寄る。そして、彼の吐息や脈を確認した。
「……良かった。多少の衰弱はあるようだが、命が危険な状況ではないか。」
『リュウ、聞こえる!? こちら春麗! たった今施設の指揮系統の掌握に成功したわ! そっちはどう?』
男が少年の無事を確認したとき、彼が持っていた通信端末から女性の声が響いた。
「ああ、春麗か。こっちも無事だ。さっきこっちに向かってきたシャドルーの連中を倒したところだ。それと彼らが捕らえていたらしい少年を1人保護した。」
『子供が……! その子の容態は?』
リュウと呼ばれた男は通信越しに、その子供に命が差し迫った問題は見られないことを女性に伝えた。
「そう……。分かったわ。こっちももう少しで方が付くから、そうしたら浮いた人手をそちらへ回すわ。それまでの間、もう少しだけそこの死守と子供の保護をお願い出来るかしら?」
「ああ、分かった。任せてくれ。」
『ええ、ありがとう。本当にあなたがこの辺りに偶々来ていてくれて助かったわ。奴らに脱出経路が割れているのを悟られないためにも少数で対応したかったのだけど、可能な人材の確保にこっちも困ってたのよ。』
「気にするな。俺も人の世の善悪を語れるような人間じゃないが、少なくともシャドルーやその残党の非人道的な行いを許せないのは同じ思いだ。」
2人はその後、今後の細かい連絡を確認し合った。
『じゃあ、また後で。』
「ああ、そちらも油断するなよ。」
こうして通信が終わった後、リュウは無力化した戦闘員たちを改めて拘束し、それが終わると器具の上に横たわる少年の顔を覗き込む。少年の顔は安らかな眠りについているかのように穏やかだった。
「……君もシャドルーに人生を狂わされたというわけか。だが、挫けるなよ。どのような苦難に襲われようとも、それは逃げることも倒すことも出来ないものだ。それに向き合うなり対話するなりして、俺も君も答えを探して行くしかないんだ。」
緑髪の少年にリュウは力強く話しかける。当然、少年は意識が無く話を聞ける状態ではないのだが、それを承知で彼は諭すように語りかけたのだった。
「……ふっ、何を師匠面しているんだろうな俺は。ケン辺りに聞かれたら笑われてただろうな。」
話の最中、ふと我に帰ったリュウは1人静かに、そう呟く。
──まさか、本当に師匠面をすることになるなんて、世の中は分からないものだな。
後に彼はこう語ったという。
【時は流れて………】
「どうだ、デク。手がかりになりそうか?」
「………うん、やっぱり違います。この文字はこの辺りにあったとされる、どの文明のものとも合ってないんです。この遺跡は調べる価値があると思います。」
そこはアフリカ大陸中央部。緑豊かな木々が空高く生い茂る密林地帯。その密林の中にポツンと存在する遺跡群に2人の人物がいた。
片方は"デク"と呼ばれた少年。彼は各地に存在する未だルーツが特定されていない遺跡を求めて旅していた。それは自身が産まれ育った世界に帰るという途方も着かない目的を叶えるために、超古代文明の遺産を追い求めるためであった。
「師匠、改めてありがとうございます。僕の調査に同行してくれて。」
「気にするな。たまには誰かに付き従う旅も悪くはないさ。それと師匠と呼ぶのはよせ。俺はそんなに立派な人間じゃない。」
「そんなこと……いえ、ごめんなさいリュウさん。」
2人はそんな会話を繰り広げながら、周囲の遺跡を見て回る。
「今度こそ、ヒントが見つかるといいんだけど……。」
"デク"がヒントと言ったのは、彼が転移する要因ともなった装置にまつわる"何か"を探すためであった。
あの時空をも越える装置に関する捜査は難航した。シャドルー崩壊の最中で基地の放棄によって装置は元の姿が想像着かないほどに破壊され、資料などが散逸してしまったからだ。
しかし、彼がシャドルー残党の調査を手伝うなかで1つの手がかりを得た。それこそが超古代文明の出土品という情報だった。あの装置の中枢に使われた部品の中には、古代の遺跡にて発掘された未知なる機構が使用されており、その部品はシャドルーの解析によって、原理こそ不明なれど空間の壁を越えて異世界に通ずることが出来る現象を引き起こせるというものだった。
「サイコパワー……。それが人間の転移を可能にするほどの出力を起こした可能性が高い、か。僕の今のパワーで果たしてそれが起こせるのか……。」
そしてもう1つの鍵がサイコパワーだった。調査を続ける中で、サイコパワーが空間の超越に対して少なからず影響を与えているということも判明した。
しかし、それには高い出力のサイコパワーが必要とされ、分かっている範囲ではベガ以外の使い手でそこまでの領域に到達したものはいなかったという。
「……焦りは禁物だぞ、デク。分からないことに考えが行き過ぎると、足元すら覚束なくなるぞ。」
「! そうですよね。ありがとうございます、師匠……じゃなくてリュウさん。」
ブツブツと思考の沼に嵌まろうとしていたデクに、同伴していた人物が助言を告げる。彼こそ、かつて施設からデクを救出したリュウであった。
救出された後に意識を取り戻したデクに突きつけられた現実は非情なものであった。何せ、今まで平和な毎日を暮らしていた10歳前後の子供が親元どころか産まれ育った世界そのものから切り離されて異世界に来てしまったのだから。
そんな絶望にくれていた彼に手を差し伸べたのがリュウであった。彼はデクを養子として引き取り、自身の修行行脚に付き添わせたのだ。そして、その中で彼の友でもあり
「何度でも言うぞ、デク。分からないことだらけなのはお前だけじゃない。俺もそうだ。いや、皆がそうなんだ。足元の道が何処に至るか分からないながらも自分が求める"答え"を探して日々を生きている。そういう意味では元々この世界で産まれ育った俺も、異世界からやって来たお前もそこに違いは無いんだ。」
「はい、あの頃の旅でリュウさんが伝えようとしてくれたことですよね?」
「ああ、俺は思いを言葉にするのが上手くなくてな。話して理解してもらうより実際に世界を旅した方が良いと思ったんだ。この世界の日本はお前にとっては何処かで見たことがあるような異国でしかないとも思ってたからな。」
そして、その旅を続ける中でいつしかデクはリュウに師事することになった。正確にいえば、リュウだけではなくリュウを通じて知り合った数多くのファイターたちとだ。ときにはボコボコに打ちのめされながら技を覚え、世界中の様々な環境の中で体を鍛え、多くの師との交流の中で心を養っていった。
そうした中で、デクは自身が小さな頃から憧れであった"ヒーロー"と彼らファイターの姿を重ね合わせるようになっていた。もっとも、ファイターたちはヒーローとは違い必ずしも世のため人のために戦うというわけではないが、己の肉体と技能で戦い抜く姿は子供心にはヒーローと同じように映ったのだ。
そのような日々を経て、デクもまた彼らと同じファイターとなっていた。彼もいつの間にかファイター扱いされていたのには驚いたが、師匠たちと同じファイター扱いされて悪い気はせず、寧ろ彼らに追い付こうと更なる鍛練に励むようになっていった。
「……うん、本当に色々あったけど、僕はこの道を選んで良かったと思ってます。」
「そうか、お前がそう思えるなら何よりだ。俺も………っとデク、あの遺跡はどうだ?」
リュウは会話を打ち切ってある遺跡を指差す。その遺跡は門のような形状をしていた。高さは3~4mほどで、幅はデクとリュウが並んで入れそうな広さがあった。
「これは……ちょっと調べてみます。」
そう言ってデクが門に手を触れる。
──ゴォッ……
「「!?」」
反応があった。それは遺跡だけではない。デク本人からもサイコパワーが無意識のうちに溢れ出たからだ。
「デク、今までに行った遺跡でこういうことはあったか?」
「いえ、今回が始めてです。もしかして、今回こそ当たりを──」
──カッッ!!!
突如として遺跡から強大な光が放たれた。あまりにも突然だったその現象に2人ですら対応できず、彼らは光の奔流の中に飲み込まれていった。
───
──
─
「ううっ……。」
リュウが呻き声を上げながら意識を取り戻す。目の前の遺跡は始めに見かけたときと同じように静まり返っていた。
「! デクがいない……。」
ここでリュウは近くにいたはずのデクが居なくなっていることに気づいた。周囲を見渡しても姿はなく、地面を観察しても彼が連れ去られたような痕跡は見受けられなかった。
「おそらくはさっきの遺跡によるものだろうか。あれが空間跳躍装置の類いであったなら、デクは元いた世界に帰ったのか、この世界の別の場所に飛ばされただけなのか、それとも俺もデクも知らない全く未知の世界へ飛ばされたか。」
リュウは先ほどの遺跡の異変が原因だと考え、デクの行方を推測し始める。
「……いや、俺が悩んでも仕方がないことだ。デクの身に何かあったとしても今の俺が助けてやれるわけではない。なら、後はデク次第だ。」
だが、程なくして彼はその推測を打ち切った。それは薄情というわけではない。リュウはデクを1人のファイターとして認めていた。故に生き残れるだけの力と技を持っていると信じていたのだ。そして、リュウは遺跡に背を向ける。
「デク、恐れるな。俺もお前もまだ道半ばだ。俺が俺の道を行くように、お前はお前の信じる道を行け。もし、俺とお前の道が交わることがあるのなら、そのときは───」
この場に居ないデクに語りかけるように呟きながら、リュウはもと来た道を引き返し始めた。そして、
──拳で語り合おう。
樹木が空を覆えども、その木漏れ日はまるで未来を照らしているかのようであった。
【???】
「……!! こ、ここは……!?」
光に包まれて意識を失ったデクが目を覚ますと、そこにあった光景は先ほどまで居たはずの遺跡とはまるで違うものであった。
足元には砂浜、目の前には水平線まで続く海が広がり、反対側へ振り向くと街並みらしきものが見えた。
「さっきまでいた遺跡じゃないのは確かみたいだけど……。ってリュウさんが居ない!」
まず彼が気づいたことは一緒に光に飲み込まれたはずのリュウが近くに居なかったことだ。慌てて周辺を探索するものの、見つかるのは山のように積み上げられた粗大ゴミだけだった。
「探したけど居なかった。つまり、リュウさんは転移しなかったのか、別の場所に跳ばされたのか……。いや、リュウさんなら何処に行っても大丈夫な人だ。なら、先ずは僕のことを先に考えないと。」
デクはそう気を取り直すと、現状の確認のために周囲を探索し始めた。
「───待って!? この冷蔵庫のメーカーって……!!」
そして、その調査の最中でデクは驚きに震えた。彼の見た会社は、自身が先程までいた世界には存在しない、けれどもデクはそれを知っているものであった。高まる期待を確信にするためにも、デクは更なる調査を続ける。
「オールマイト……………!!!!」
そして、ゴミの中にあったとある新聞紙を見た瞬間、彼は遂に確信を得た。その新聞紙の写真に写っていたのは1人の人物だった。触角ののように上に飛び上がった2本の前髪に彫りの深い顔立ち、ピチッとした全身タイツのような服装に浮かび上がる山のような筋肉。アメリカンヒーローのような出で立ちをしたその姿はデクにとって特別な存在であった。彼が抱いた"ヒーロー"への憧憬、その原点とも言える人物であったからだ。
そして、デクは遂に確信に至った。自身が転移してきた世界が何処かであるかを。
「帰ってきた……帰ってきたんだッ!!僕が産まれた世界の日本に!!」
少年は歓喜の声を上げた。喉が張り裂けんばかりに吼えたのだった。
──本名、緑谷出久。
──通称、デク。
──職業、格闘大会の賞金やお尋ね者の捕縛及び用心棒の報酬などを生業とするストリートファイター。
多くの出会いと戦いを糧に、彼はついに悲願であった自身が産まれた世界への帰還を叶えたのであった。
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◎補足説明
・時系列的にはSF5~6(シャドルー崩壊少し手前辺りでデク転移→ナイジャールの格闘大会が終わって少し経った辺りで帰還)
・デクのサイコパワーの親和性はベガを除けば最高クラス。これが無個性に起因するのかは不明。
・親シャドルー派の一部の人間はデクのことを把握してるが、下手に敵対するとバックにいる彼の師たちとの全面抗争になりかねないので迂闊に手を出せないでいる。
・SF6のマイユニット(プレイヤー)とデクは別人。デクが格闘大会に参加したかどうかは皆さんの想像にお任せしますが、話の大筋に変化はありません。
Q:次回以降の予定は?
A:確かみてみろ!