盾の勇者の原作全部(なお書籍版本編のみ)読んだモブ憑依オリ主が、設定資料集のSS盛り合わせ展開に右往左往する話。※Privatterにも投稿しています。


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『盾の勇者の成り上がりクラスアップ 公式設定資料集』はいいぞ(ダイマ)


原作全部読んだけど、こんな展開ひとつも知らない。

 俺の名はウェルト。

 メルロマルクの片田舎で生まれ育ち、幼少期はウサピルとかを追っかけて野山を駆け回り、いたってのんきに暮らしてきた。しかしある時、近所のチョコ農家のおっさんの試作品に追いかけられて崖から転落、そのショックで前世の記憶に目覚めた。まぁこれ自体は、この世界ではそこまで珍しくない。異世界から転移・転生してきた勇者の末裔、みたいなのは、貴族、王族、有力者の血筋をたどれば、ほんっとゴロゴロいるのである。

 だが、少し待ってほしい。

 俺が生まれ変わった先が、『盾の勇者の成り上がり』の世界だった。これはちょっといただけない。

 何年か前にネット配信でアニメを観て、興味がわいて原作全部読んだから知ってる。この世界に転生してくる奴ときたら、どいつもこいつもド屑揃い、調子に乗ってやらかして悲惨な末路をたどっていた。かく言う俺だって、できた人間だとはとても言えないが、そこまで大それたことをしでかすつもりはない。破滅まっしぐらの運命に、甘んじるいわれはないのである。

 今世の俺にはチートなスキルもスペックも無いが、幸い原作知識がある。設定資料集とかスピンオフまではチェックしてないけど、小説既刊22巻までは全部目を通した。メインキャラでウェルトなんて名前の人物はいた覚えがないので……いなかったよな?……もしいたとしてもきっと、いなくても変わらないくらいの一般通過モブだったんだろう。

 原作無双なんて考えない。世界観的に、それをやったら絶対すぐ死ぬ。

 でも波に巻き込まれてもあっさり死ぬかもしれないので、ある程度は鍛えておこう。もし原作キャラと出会ったとしても敵対せずに、ちょっと親切な一般通過モブに徹する。下手に係わって死なないくらいにすみやかに距離を取ろう、そう心に決めていた。

 ……まあ、思うようにはいかないよね。この世界に安全圏なんてないんだ。

 波にはめちゃくちゃ巻き込まれたし、メインキャラとの距離は全然取れないし、原作知識はからきし役に立たなかった。

 だって、『盾の勇者の成り上がり』なのに、俺の出会った原作主人公ときたら――

 

「イナズマスピアー! ……ふう、この辺の敵、結構強くなってきたよな。えっと、君たち、錬のパーティーの人だよね? 錬は一緒じゃないの?」

 

 手に余る魔物相手に苦戦していた俺たちの前に現れ、ほわほわした笑顔でこちらを振り返る尚文の手に握られてるのは、盾じゃなくて槍。

 そう、なんでか知らんが、尚文が槍の勇者なのだ。まずこの時点でおかしい、しかしこれはまだ序の口だ。

 

「彼らはメルロマルクに雇われた冒険者ですからね。盾の勇者を冤罪にかけて貶めた国の者です。同じように、剣の勇者を裏切り、ひとり残して敵前逃亡でもしてきたのではないですか?」

 

 剣を振って血飛沫を払い、鞘に納めながら、ラフタリアが冷ややかに俺たちを睨む。

 

「いや、まさかそんな。錬様は別行動中で、俺たちはレベル上げしてただけですよ」

 

 妙に喧嘩腰なラフタリアに、俺は慌てて弁解する。原作にかかわるつもりなどさらさらなかったので、城から勇者の同行者候補として招集がかかった時は無視を決め込んでいたのだが、盾の勇者冤罪事件の時にひと揉めあったらしく人員の大幅入れ替えが発生、冒険者ギルドから脅し交じりの催促を受けて、しぶしぶ参加したら剣の勇者パーティーに配属になったのだ。どうあがいても巻き込まれ決定である。クソッ、レベル上げたいからってまじめに冒険者なんかやってるんじゃなかったぜ。

 

「どうだか……」

「いや、ありうると思うよ、ラフタリアちゃん。錬って最初からソロプレイヤーっぽかったからな」

「ナオフミ様はああ仰っていますが、私の目を欺けるとは思わないことです」

 

 尚文が見かねたようにフォローしてくれるが、ラフタリアはそう言い捨てると、くるりと背を向けて歩き去っていく。

 

 こっっっっわ。

 

 霊亀戦の元康パーティーじゃあるまいし、さすがにそんなことするわけない。……逃げなかったせいで原作では錬のパーティーメンバーは全滅したわけで、それはそれで困るんだけどな。今の剣パは俺たちな訳だし。

 ラフタリアの後ろ姿を呆然と見つめる俺に、睫毛を伏せたマインが悲しげに話しかけてくる。いや、なんでお前がここにいんの?

 

「ごめんなさいね。あの子、奴隷狩りでとても酷い目に遭ったらしくて……私たちメルロマルクの者は皆、亜人の敵対者だと思っていて、勇者様にしか心を開かないのですわ」

「そ、そうなんですね」

 

 いやその辺の事情は知ってるけども、それにしたってあそこまで警戒心強くはなかったよな。いったい何があったんだ?

 

「いつか私たちにも親しんでくれるとよいのですけれどね」と寂しげに笑うマイン、これがまたおかしい。マインがこんな真人間なわけないだろ。

 そこへ、両手を真っ赤に血に染めたメルティが仕留めたグリフィンを引きずりながらやってきた。とどめは抜き手で心臓を一突きだったのをこの目で見たけど、こんなグラップラーな子だったかな……。

 

「姉上、これの解体をお願いしてもいいですか?」

「メルティったら、相変わらずグリフィンには手厳しいわね」

「だって姉上、フィロリアルの天敵なのよ」

 

 姉妹でほのぼのと物騒な会話をしながら、マインはグリフィンを細かくして素材にしていく。

 

「勇者様、槍に素材を吸わせたらそろそろ行きましょう。早く盾の勇者様を見つけて、保護して差し上げなくては」

「勝手に勇者召喚なんてしでかした上に、盾の勇者様に冤罪をかけて放逐だなんて! 私たちが帰ってきたからにはもうこんなことは許さないわ。姉上、槍の勇者様、この国の膿を徹底的に洗い流しましょう!」

「う、うん、そうだね」

 

 メルロマルク王女姉妹にテキパキと仕切られて、勇者一行は去っていく。尚文、完全に主導権握られてるじゃんよ。

 しばらくして合流した錬は、ずっと微妙な顔をしていた俺たちを見て怪訝そうな顔をしていたが、なんと説明したものやら……。

 

 

 

 数日後、錬がドラゴン退治の依頼を受けてきた。覚えのあるイベントに、やっと俺の原作知識が火を噴くぜ!と、錬にアドバイスしようといそいそと口を開きかける。

 

「あの、錬様。退治したドラゴンの処理についてなんですけど……」

「あれ? ひさしぶりだね、錬」

 

 背後から気安く声を掛けられ、俺はちょっと嫌な予感を抱きながら振り返った。

尚文と、メルロマルク王女姉妹にラフタリア。その後ろに、マントのフードを目深にかぶって、妙にびくびくした様子の元康がいる。もしかして、とは思ったが、やっぱり元康が盾の勇者だったみたいだ。

 

「尚文か」

 

 目当てのクエストを横取りされるのではないか、とでも考えているのか、やや警戒した顔の錬が、ドラゴン退治は先に自分が受注したと言葉少なに説明する。本来、尚文と錬がドラゴンクソ村を訪れるタイミングが重なることはないんだけど、パーティーメンバー入替えとかがあったせいで、錬のスケジュールが原作とズレた結果かもしれないな。

 尚文は、不愛想な錬の態度を特に気にした様子もなく、軽く頷いている。

 

「そっかーじゃあこっちは錬に任せて、俺たちは南の村に行ってみるかな。元康から聞いた情報なんだけど、食糧不足を解決する錬金術師の遺産があるんだって」

 

 バイオプラントの話やんけ。

 尚文がいるなら問題ないとは思うけど、一応注意しておくか、と思うより早く、ラフタリアの厳しい視線が元康に飛ぶ。

 

「本当に大丈夫な情報なんですか? 封印されてるということは、何か問題があってそうなっているのではないですか?」

「いや、でもゲームでは……」

「全てがゲームという物の通りなら、そもそも貴方がこんな目に遇うことはなかったはずですよね。貴方はよく思い付きで行動しますけど、もうちょっと慎重になった方がいいのでは?」

 

 ラフタリアにこんこんと説教され、元康は所在なさげに小さくなっている。これまさか、元康は盾の勇者への迫害に怯えてるんじゃなくて、ラフタリアに怯えてるんじゃないだろうな? なんか、ラフタリアがずっと怖いんだけど、こんなんだったかな……いや元康に対してはこんなもんだったかも……。

 

「そうですわね、民に広める前に、検証してみる必要はありますね。知りあいに商家の子がいますから、彼女に頼んでみましょうか」

 

 マインが頬に手を当てて思案している。こちらはこちらで、まともなことしか言わなくて違和感がやばい。一体何を企んでいるんだ?

 マインはその後も「ドラゴン討伐のあとは素材をたかる冒険者がよくいますけれど、そういう手合いはきちんと処理せずドラゴンゾンビ化させることがあります。無視した方がよろしいですわよ」と至極まっとうなアドバイスをして去っていった。きっとこちらの信頼を完全に得てから、大きく裏切るつもりなんだろう。マルティ=S=メルロマルク、恐ろしい女である。

 錬はアドバイスを聞き入れることにしたようで、親ガエリオンの死骸のほとんどを剣に吸わせて素材化していた。クソ村の連中は錬の聞こえないところでケチだのなんだのと文句を言っていたが、疫病が流行るよりマシだろ。

 しかし、せっかく原作知識を持ちあわせていても、口を挟める隙がなかったな。

 なんとか介入できたのはウィンディアの保護くらいか。責任を感じている錬と、親ガエリオンを殺されて怒り悲しむウィンディアの間でだいぶギクシャクしたが、どうにかうまいこといってほしいものだ。あと子ガエリオン、卵から孵ってしばらくしたら「なのー」とか鳴き出したんだが、子ガエリオンの鳴き方って確か「キュア」じゃなかったっけ? 

 

 

 次に尚文一行と出会ったのは、女王帰還の時だった。とはいっても、メルロマルクの姫たちがきっちり勇者を補佐して成果を上げているので、国際会議でも「だいたい三勇教のせい」とみなされて原作ほど問題にもならず、三勇教の処分とオルトクレイの更迭でおしまい。バイオプラントの調整と販売もうまいこといっているらしい。実に平和である。

 

 しかし、やることが……やることが少ない!!

 

 俺はほぼ何にもしていないのに、原作乖離が激しすぎて原作知識の振るいようがない。

 しょうがないので原作剣パみたいに霊亀戦で死なないよう、地道に修行をがんばることにした。

 リーシアは原作通り、樹のパーティーを追放されたらしく、尚文たちと一緒にいた。尚文がリーシアのステータスを確認し、腑に落ちないように首をかしげている。

 

「どうかされましたか?」

 

 俺が声をかけると、考え込んでいた尚文はうーん、と困ったように笑った。

 

「樹がリーシアさんを弱いって言ってパーティー追放したんだけど、ステータス見せてもらったら、全然悪くないんだよね。Lv.100のメルティちゃん程じゃないけど、俺とも比べてあまり変わらないくらい」

 

……俺が読んだ原作では、メルティはそこまで高レベルじゃないし、リーシアのステータスにはあまりの低さに尚文がドン引いていたはずだけど、さすがにもうこの程度じゃ驚かないぞ。

 

「本人の性格のせい、ですかね? 内向的で戦いに向いてないから的な?」

「そうかも。あ、ちょっと思いついたことがあるから、試してみてもいいかな? おーい、リーシアさーん!」

「は、はい」

 

 悪戯を思いついたみたいな顔で、戸惑うリーシアを呼び寄せた尚文は、指輪に紐を通してリーシアの顔の前に垂らす。

 

「あなたは段々眠くなるー」

 

 ゆらゆらと振り子のように揺らす尚文を見て、俺は笑いをかみ殺した。

 

「さすがにそれで催眠術かかるほどチョロくはないんじゃないですか?」

「そう思うけどねー。でも物は試しだし? リーシアさんは世界最強の変幻無双流の使い手でー、強い者との闘いを求めて止まない狂戦士で……」

 

 尚文の子供だましのような催眠術もどきで、リーシアの瞼がゆっくりと重くなり、頭がカクンと垂れ下がる。え、もしかして効いて……!?

 

「ハアッ!」

 

 リーシアの体が一瞬沈み込んだ後、目にも止まらぬ速さで掌底を打ち出した。油断していてた俺は、盛大に吹っ飛ばされて床をゴロゴロ転がる。見れば尚文も一撃もらったらしく、体をくの字に折り曲げている。

 

「アハハハハ! ナンだかカラダの奥から力が漲ってくるヨウデス!誰にも負ける気がしマセン!」

 

 リーシアは天を仰ぎ、雄たけび交じりの高笑いをあげている。正直、怖い。

 

「どう思う? 成功かな?」

 

 尚文が脂汗を流しながら、腹を抑えて俺を見た。

 

「いやー、これはどう見てもダメでしょう……」

 

 たまたま通りがかってこの現場を目撃したらしい元康は、電動ハブラシみたいに小刻みに震えてるし、尚文への狼藉を見たラフタリアは据わった眼でチャキッと剣を鞘走らせている。

 ただでさえ変になってるキャラ多過ぎなので、これ以上増やさないでほしい。

 

 

 

 この後も、霊亀が拍子抜けするくらい楽勝だったり、尚文がテリスに作ってやったアクセサリーが出来が良すぎたせいでテリスがラルクを裏切ってこっちに寝返ったり……なんかこう……色々と俺の理解を超える展開が続いた。もう原作知識もなにもあったものではなく、狐につままれたまま世界は救われたし、いつ正体を現すか、とビクビクしながら見守っていたマインは最後までただの本当に良い人だった。嘘だろ。

 釈然としない気分で尚文の村で過ごしていたある日、ホーと名乗るフィロリアルの親玉みたいな奴が村に遊びにやってきた。そいつが、ふと俺に目を留めて眉を顰める。

 

「魂が腐っているわけじゃないけどー……君、この世界にいちゃいけない存在だよね?」

「でしょうねえ。俺もほんと訳が分からないので、帰れるものなら帰りたいですけど」

 

 ホーいわく、俺の迷い込んだのは本来の世界線じゃないらしい。並行世界が混線した場所があったので、不審に思って見に来たら俺がいたそうだ。元の世界に戻してくれるというのでありがたくお言葉に甘え、今は帰ってきて「小説になろう」連載版や設定資料集含め、今度こそ原作全部読み直しているところである。全く記憶になかったが、ウェルトの名前もちゃんと出てきているのを見て、脱力したよね。すっかり名もなきモブオリ主に憑依したんだと思い込んでいたが、普通に錬の初期パーティーメンバーじゃねえか! 俺の見てきた謎展開も、設定資料集に収録されたSSにあるのを発見したときは苦笑いするしかなかった。本当に、よく死なずに帰ってこれたものだと思う。

 

 

       ◆ ◆ ◆

 

 

 盾の勇者の世界から戻ってきてしばらく後。

 俺は知人にエイウェリアオンラインというVRゲームに誘われた。サービス開始から一緒にやろうぜ!と言われ、ログインして待ってたのだが、肝心の相手が来ない。

 

「まさかとは思うが、寝てるんじゃないだろうな!」

 

 青筋を立てながらメッセージを飛ばそうとするが……何かおかしい。ふと気付くと、グラフィックがやたら鮮明なものに変わっているし、手を握ったり開いたりしてみても、感覚がリアルすぎる。今の技術でこんなダイブ型のVRゲームなんて作れないだろう。嫌な予感がひしひしとするな……。

 

 あたりを見回すと、他のプレイヤーたちも異変に気づいて慌て始めている。そんな中、とても聞き覚えのある声と台詞が耳をついた。

 

「……力の根源足る剣の勇者が命ずる。理を今一度紐解き、我が剣をここに」

 

 友人らしき少年と一緒にいる天木錬を見つけてしまい、嫌な予感は否応なしに膨らんでいく。

 

「錬様……?」

「ウェルト!? どうしてお前がここに!?」

 

 歩み寄って声をかけると錬が眼を瞠ったが、こっちこそそう言いたい。今度こそ原作全部読んで来たけど、こんな展開絶対なかったぞ。今回は俺、いったい何に巻き込まれたんだ!?




槍文様と愉快な仲間たち
・尚文にしか心を開かないラフタリア
・清楚マイン
・Lv.100メルティ
・盾康
・催眠リーシア
・最高品質アクセをもらったテリス

原作全部読んだ後は、魔獣戦記ブレイブスター(仮)もよろしくね。

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