イブキを連れてパトロールに行こうと思っていた棗イロハ。いつも通り虎丸に乗ろうと格納庫へ向かったのだが、そこに虎丸の姿はなかった。
代わりに代車が用意されたのだが…

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短編っていいね


「虎丸いまオーバーホールっすよ?」

「イブキ、一緒にパトロールに行きましょう」

「パトロール?うん、わかったー!」

 

 ゲヘナ学園2年、万魔殿所属戦車長、棗イロハはサボりたかった。ゲヘナが生徒会長に頂く羽沼マコトの無茶ぶり・難癖をのらりくらり、都合よく解釈するなどして上手く誤魔化した彼女は、これ以上何か仕事を割り振られては敵わないと、言い訳も兼ねてパトロールをしようと考えた。溺愛している丹花イブキを連れて、ゆっくり徐行で念入りに。そうだ、最近新しいクレープのお店ができた筈。偶然たまたま、そのお店を見つけて一緒に食べるのも悪くない。

 

 そうと決まれば、超無敵鉄甲”虎丸”が待つハンガーへ向かおう。砲身に下げる”巡回中”の札を取り、イブキと手を繋ぎながらハンガーへ。そういえば最近、虎丸の整備がどうとかで整備部隊の人達が騒がしかった。今朝は静かになっていたから、恐らくピカピカに整備された虎丸が待っている筈だ。

 

「すみません、虎丸使い…ま…」

「わぁ!なにこれー!」

 

 ハンガーには虎丸じゃないのがいた。いや、虎丸とそっくりなので部分的に虎丸と言えなくもないが、いつもの虎丸ではない。

 砲塔…大砲を搭載した回転する上部構造物は全く同じ見た目だが、それが載せられている車体が違う。

 元の虎丸より横幅が狭く前後に長い。砲塔の位置もかなり前よりで、前後の重量バランスに不安を覚えるレイアウトをしている。

 

 明らかにいつもの虎丸とは違う別の戦車が、さも「私は虎丸ですよ!」と言わんばかりの姿で鎮座していた。

 

「な、な、な、なんですかこの戦車は!虎丸は一体どこに」

「あ、棗先輩じゃないっすか」

 

 そこに現れたのは、虎丸の整備を担当している整備部隊の隊長だった。青いツナギをオイルで汚し、顔の汚れを首にかけたタオルでふき取りながら棗イロハに近づいてくる。

 

「あの、虎丸が見えないんですが」

「あれ、知らないんすか?虎丸いまオーバーホールっすよ?」

 

 え、オーバーホール?そんな話は聞いていない!

 

「昨日点検してたら足回りに不調が見つかって、床面引っぺがしたら老朽化箇所が出るわ出るわ。トーションバーも何本かヤバそうだったんで、この際トコトン整備しちゃおうってなったっす」

「え、は、え?」

「あ、でも安心してください、代車は用意したんで。そこの奴」

 

「ほら」と整備隊長が指をさす。その指は紛れもなく、目の前の”虎丸もどき”を指していた。

 

「まぁ砲塔同じなんで似たようなもんっすよ。いつもの感覚で撃って大丈夫っす。防御力も必要十分にありますんで。それと今流行りのハイブリッドってやつで環境にも優しいっす」

 

 いや砲塔同じだから似たようなものって、全然違いますよ。え、というか本当にこれが代車なんですか?確かにハイブリッドかもですけど、むしろそこが問題なのでは?棗イロハはそう思った。

 

「虎丸とそっくりなんだねー」

「まぁ姉妹みたいなもんっすからね」

「姉妹なんだー!じゃあどっちがお姉ちゃん?」

「え、お姉ちゃん?あー、多分こっちがお姉ちゃんっすね」

「お姉ちゃん!」

 

 確かこの戦車は虎丸と同時期に発売された戦車で、その信頼性の低さから売り上げが伸びず生産停止になった筈だ。そのハイブリッドがなんだで馬力が足りないとか、エンジンから火が出るとかそういう話を聞いた覚えがある。記憶にあるこの”虎丸もどき”の情報に更に不安が膨らむ棗イロハに整備隊長は気が付かない。

 

「んじゃ、自分は仕事があるんで!その”ぴー虎”は任せましたっすよー」

「ちょ、まだ話は、待ってください!!」

「お姉ちゃんは”ぴー虎”っていうんだー」

 

 ぴー虎 が 仲間 になった!

 

 

 

 

「どうしてこんなことに…」

 

 棗イロハは丹花イブキを連れてパトロールをしていた。これはゲヘナではよく見られる光景で、すれ違う人々も慣れたものだった。だが今日はやけに視線が集中する。いつもとは違う、まるで珍妙なものを見たような表情ばかりしている。

 

 それもその筈、棗イロハが今乗っている戦車はいつもの超無敵鉄甲”虎丸”ではない、超電動鉄甲”ぴー虎”だったからだ。誇らしげに掲げた砲身には”巡回中”の札が下げられ、機関部からはガソリンエンジンとは違うモーターの重低音が鳴り響いている。既に虎丸との違いをビリビリと発揮していた。

 

「というかこの子、凄く遅いです…」

「のんびり屋さんだー」

 

 ぴー虎は遅かった。それはもう遅い。虎丸が最高速度40km/hなのに対しこのぴー虎は35km/h。5km/hの差は小さく見えるかもしれないが、実際はとても大きな差だ。これは馬力が低いということで、停止状態から加速しきるのが遅い事を意味する。そして酷いことに、ぴー虎はそもそも最高速度に到達しきれないほど非力なのだ。戦闘出力を出せば一応、なんとか最高速度を発揮できるが、そんなエンジンに無理をいわせる状態を常日頃から維持するのは無理な話である。

 

「オイハヤクススメー!」

「チンタラハシッテンジャネーゾー!」

 

「くっ、虎丸ならこんな事には…」

 

 ぴー虎は遅すぎて交通の邪魔になった。棗イロハは「主砲をぶっ放してやろうか」と一瞬思ったが、悪いのは自分たちだし、イブキの教育にも悪いと虎丸の装甲のような鋼のメンタルで抑え込む。ぴー虎を路肩に寄せて後続に追い抜かせる。虎丸に比べて細い履帯が路肩を踏み砕いたが気にしない。ゲヘナではよくある事だ。

 

「まさか戦車に乗ってて煽り運転をされるとは思いませんでした…」

「みんな忙しそうだねー?」

 

 車道をちんたら歩くぴー虎はその後も煽られた。棗イロハは追い越される回数が2桁を超えたあたりで数えるのを止めた。

 

 

 

 

「イロハ先輩、エンジン熱くなってるよ?」

「あーもうですか、丁度いいです。そこの新しいクレープのお店で一旦休みますか」

「クレープ!?やったー!」

 

 ぴー虎は心臓であるエンジンに問題を抱えていた。より正確には、エンジンとモーターと発電機とラジエーターと足回りに問題を抱えていた。特にひどいものを挙げよう。

 ぴー虎は世にも珍しいモーターによる駆動を採用した戦車だ。小型のエンジン2基で発電してモーターを回すという、ハイブリットと言えなくもない機構を搭載していた。これの利点は変速機という装置をモーターで代用する事で、複雑なステアリング装置や変速装置全てを省略しつつ、電力の流量の調節だけで無段階に変速を可能にするという画期的なものだ。

 

 が、この装置で50tを超える車体を動かすのは困難を極めた。この大重量を動かすための大きな発電機とモーターを収める為に、車体は前後に伸びてさらに重くなった。

 また発電に使うエンジン自体にも問題があった。小さなエンジンスペース用の小さなエンジンでは非力で力が足りず、ついでに発熱を十分に冷やせずに故障が頻発、動かし過ぎたら壊れるので適度に冷まして休ませる必要があった。

 

 電気を使う事で面倒な操作や機材からの解放を目論んだこの戦車は、皮肉なことにその仕組みによって失敗してしまったのだ。

 

「想定以上にのんびりしたパトロールになってしまいましたが…まぁ、悪くないです」

「イロハ先輩!このクレープすっごくおいしい!」

「ふふっ、よかったですね…」

 

 ぴー虎の発電機は発電の際、強烈な電磁的ノイズを発生させる。これは無線機など電子機器の使用を困難にするので大変不評であった。

「こういうのも悪くないですね、邪魔も入ってきませんし」。棗イロハはマナーモードを示すスマホを見ながらそう思った。技術的な事がわからない人には十分な理由になる。

 クレープは大変美味だった。丹花イブキも大変満足していた。

 

 

 

 

 

 良い時間だし、そろそろ帰ろうか。(ぴー虎の遅さが原因の)渋滞を避ける為に裏道を選び、ゆっくり帰路についた棗イロハと丹花イブキ。棗イロハは虎丸では通る事のない道にちょっとワクワクしていた。周りに車もない、信号待ちもないと意外なストレスフリーに気持ちがいい。この辺りは人が少ないのか凄く静かだ。両側をコンクリートの建物に囲まれた道が続く。左右の視界が悪くて、人も隠れやすい。もしここで戦闘が起きたら嫌だなーと棗イロハがぼんやりしていた。

 

 

 目の前にいきなり人影が飛び出てきた。

 

「っ!」

「わっわっ!?」

 

 反射的にブレーキを踏み抜き停車する。幾ら頑丈なキヴォトス人とはいえ好き好んで轢きたい訳ではない。幸いぴー虎が鈍足だったので危なげなく停車できたが、それでも衝撃は衝撃。もしこれでイブキが首を痛めたらどうする。「もし痛めていたらただじゃおかないぞ」と元凶を睨みつけ相手を確認する。

 ヘルメットを被ったゲヘナ生徒がいた。風貌からして明らかにヘルメット団で、これは面倒な奴に巻き込まれたと悟る。

 

「はぁ、なんですかこれから帰るって時に…」

「今日は鈍足のポンコツ戦車とは聞いていたが、どうやら本当のようだ」

「はい?」

「いつもの戦車じゃないなら…怖くない!」

 

 視界の端で黒色の反射がきらめいた。

 

「くっ後進一杯!!」

「あわわっ」

 

 モーターが唸りを上げ、履帯がアスファルトを削り取らんばかりに蹴り弾く。停止していた57tの巨体が弾かれたように動き出す。

 左右の建物からロケット弾が飛んでくる。これに何とか後退が間に合い回避に成功する。ロケット弾が建物に着弾し爆発する。飛び散った破片と爆発の黒煙、埃が視界を悪くする。

 いつも集団でいるヘルメット団だ、今回も案の定伏兵として潜んでいたという事だ。しかし一瞬見ただけでも6発はロケット弾が飛んできた。一般的なヘルメット団のそれではない。

 

「スモーク散布!」

 

 砲塔の両側面に3基、合計6基のスモークディスチャージャーから発煙弾が発射され、ぴー虎の前方180度に真っ白な煙幕が展開される。

 姿を隠せて一安心…と一息ついたその時。展開したばかりの煙幕が何かに吹き飛ばされ、そしてぴー虎に衝撃が走る。

 

「被弾!」

「ひゃっ!」

 

 煙幕を吹き飛ばしたもののは正体は砲撃だった。幸い砲弾は車体側面に浅い角度で命中し弾き返されたが新しい脅威に流石の棗イロハも驚きを隠せない。

 ぴー虎の重量は57t。生半可な砲弾じゃビクともしない。しかし今の砲撃はなんだ。鐘の中に入れられて打ち付けられたかのような振動と音、側面に刻まれた”8cm”近い弾痕。そして今更、着弾に遅れて聞こえてくる聞き馴染んだ発砲音。

 

「この衝撃、それに今の砲撃音…8.8cmですか」

 

 棗イロハはこのは発砲音を大変よく知っていた。それも当然、この砲撃音は普段乗っている虎丸、そして今乗っているぴー虎が装備している8.8cm戦車砲と同じものだからだ。

 

(流石に8.8cm砲の戦車とは思えない。となると対戦車砲か対空砲の8.8cmでしょうが…)

 

 正直どのタイプの8.8cmでもその火力に違いはない。思ったより危険な状態だと棗イロハは冷や汗を流す。

 

「イロハ先輩!向こうに、えっと500mくらい先に大砲!」

「良く見つけましたイブキ」

 

 双眼鏡で見つけたのだろうイブキが前方を指さす。促されてそこを見ると、確かに大砲のようなものが置かれている。背が高い。対戦車砲ではなく対空砲の8.8 cm FlaK 36だろう。

 

 煙幕が晴れた事でヘルメット団のリーダーの姿も見えてくる。

 

「運がいいな、今のを避けるなんて」

「随分おしゃべりなんですね。喋りたがりですか?」

「…ふん、いつまで余裕な態度が続くか見ものだ!」

 

 一瞬だけ周囲を確認する。今いるここは、両側にコンクリートの建物が立ち並ぶ直線上。建物に突っ込んでも反対側に突破できそうにはないし、この直線から逸れる交差点は遠い。前はロケットランチャーを持った敵がいるから無し。後ろはぴー虎の足では交差点に辿り着く前に攻撃を受ける。

 

「その巨体を隠せる場所はこの直線にはない。初弾は煙幕のせいで外れたが、いつまで続くか…」

「…」

「フフフ、ゲヘナ最強の戦車長を撃破したとなれば、私たちパックパックヘルメット団の名声は一気に広がる!!」

 

 意外と可愛い名前なんだなと思ったが、今やられた事は全く可愛くない。停車して動けなくなった所を両脇からロケットランチャーで撃ち、更に追い打ちで8.8cm砲まで用意している。かなり殺意が高いキルゾーンだった。もしロケットランチャーの反射を見逃していたら撃破されていたかもしれない。全力で後退したのはそのキルゾーンからさっさと逃げる為だ。

 

 建物に潜んでいたヘルメット団達が建物から出てきてリーダーの前に銃列を並べる。当然、ロケットランチャーを持ったヘルメット団もいる。ロケットランチャーだけでも12基。一体どこで揃えてきたのやら。

 

「貴女たちの目的は私ですか」

「そうだ。お前を倒す事で名声を得れば、私たちの勢力もお金も増えるだろう!」

「そんな短絡的な」

 

 だが事実として、棗イロハはゲヘナ最強の戦車長であると自負している。もし倒したとなれば少なからずヘルメット団界隈に影響を及ぼすだろう。

 

「せ、せんぱい…」

「大丈夫ですイブキ」

 

 イブキが不安げな表情でイロハを見上げる。普段と違う状況、明らかによろしくない戦況。不安を覚えるのも無理もない。

 

「ではこれで終わりだ」

 

 確かにこの直線、隠れられる場所はない。スモークも実はさっき撃ったので全部で残弾なんてない。仮に回避できても、その隙をロケットランチャーに取られるだろうし、逆もまたしかり。どちらかを避ければ片方が命中する。

 回避不可能。その事実をゲヘナ最強の戦車長の脳は導き出していた。

 だけど、大丈夫。

 

「耳を塞いで、衝撃に備えてください」

「ふえ?」

 

「撃て!」

 

 その瞬間、ぴー虎に閃光が走り、次の瞬間には爆発に包まれていた。ロケットランチャーの爆発が複数重なり、その威力が衝撃波となって大気を揺らす。

 一瞬の静寂。暫くして、ヘルメット団の後ろから8.8cm砲の発射音が建物に反響しながら聞こえてきた。

 

「…やったか?」

「これだけ攻撃を重ねたんだ、撃破だ!」

「うちとったりー!」

「万魔殿恐れるに足らーず!」

「これでうちらの名声も鰻登り!色んな所から依頼がくるぞー!」

 

 パックパックヘルメット団達が喜びの声を上げる。風紀委員長ほどではないにしろ、最強の一角であることに違いはない。それを撃破できたのだから、その喜びは凄いものだろう。

 

「フフフ、ククッ…やった、やったんだ!私たちはゲヘナ最強の戦車長、棗イロハをやったんだ!」

 

 

 

 

 

「はぁ、おめでたい人達です」

「まだ終わらないよー!」

 

「なっ」

 

 倒したはず、打ちのめしたはずだ。なぜ棗イロハの声が聞こえる。リーダーは動揺する。

 12発のロケット弾と8.8cmの直撃だ。これだけの攻撃、例え超無敵鉄甲”虎丸”でも無事ではいられない筈だ。

 

 超無敵鉄甲”虎丸”では、無事ではすまない。

 

 黒煙が晴れ、胸に響くモーターの重低音が膨れ上がる。そこには無数の攻撃を受けたにもかかわらず、なおも健在なぴー虎がいた。多少煤けてはいるが、むしろそれが壮絶さを物語っている。

 ハッチが開き、中から棗イロハと丹花イブキが顔を出す。棗イロハはいつも通りの澄ました顔で。丹花イブキは自信満々な表情で胸を張っている。

 

「確かに、虎丸では耐えられなかったと思います」

「そうだ!何故だ、なぜ無事でいられる!」

 

「簡単な話です。この子は虎丸じゃない」

 

 

 

「ぴー虎、です」

「虎丸のお姉ちゃんだよ!」

 

 

 

 ここにいるのは虎丸じゃない。その台車である超電動鉄甲”ぴー虎”だ。虎丸のお姉ちゃんだったから、耐えられた。

 

「反撃開始、です」

「やーっ!」

 

「うぎゃああ!?」

「アバーッ」

「ぬわーっ!!!」

 

 8.8cm主砲を発砲する。装填された榴弾が爆発し、装甲に守られていない哀れなヘルメット団を吹き飛ばす。大丈夫、キヴォトス人はこの程度では死なない。

 

「ちょっ戦車砲を人に!?」

「知りません聞きません受け付けません」

「ばんば~ん!」

「痛い痛い痛いって!」

「機銃がー!」

 

 主砲を装填する合間に搭載されている機関銃がペチペチとヘルメット団を打ちのめしていく。苦し紛れに打ち返してきたライフルは装甲に阻まれ無力。ロケット弾もその正面装甲はその全てに耐えきる。

 

「クソ、8.8cm!早く撃て!」

 

 銃列の後ろにいたリーダーが苦し紛れに命令を出す。なにがぴー虎だ、8.8cmをしっかり当てれば今度こそ撃破できる。そう自身に言い聞かせたリーダーだったが

 

「おっと、また8.8cmですか」

「揺れる~気持ち悪い~」

 

 8.8cmは確かに直撃した。車体正面中央、キヴォトスに存在する大体の戦車の正面を貫通できる8.8cm砲だ、ここに当たれば撃破できる。そんな幻想は装甲にぶつかり砕け散った徹甲弾のように塵となった。

 確かに虎丸ならこの攻撃は貫通していた。虎丸の車体正面装甲は100mm、対し8.8cm砲は500mで110mmの貫通力を持っているので、運が良くない限り貫通してしまう条件だった。

 じゃあぴー虎の正面装甲は何ミリなのか。

 

 200mmだ。

 

 正確には100mmの上に追加で100mmの増加装甲なのだがそんな事はこの際どうでも良い。攻撃を無効化できるという意味では同じなのだから。

 

 

 

 ぴー虎は前進を続ける。

 

「砲撃」

 

 もはや隊列も意味をなさない。恐慌状態になったヘルメット団が散り散りに逃げていく。建物に逃げ込むヘルメット団に機銃を浴びせかけ、隠れたならそこへ砲撃を叩き込む。側面からロケットランチャーを撃たれては堪らないからと、ロケットランチャーを持っているヘルメット団を常に意識し、一つ一つ丁寧に、ゆっくり確実に潰していく。

 榴弾で吹き飛ばし、徹甲弾で建物裏に逃げたものを撃ち抜く。隠れられなくなったヘルメット団を機銃で掃射する。

 

「イブキ、行きますよ」

「あ、はい!狙って~?」

「とらま…ぴー虎、発射」

 

 発射された榴弾が500m先の目標へ着弾する。狙われた8.8 cm FlaK 36は砲弾によってひしゃげ、爆発によって粉々になる。爆発は近くに置かれていた弾薬を巻き込み周囲一帯を吹き飛ばした。

 

「な、な、な…」

 

 残るはパックパックヘルメット団リーダーのみ。仲間は容赦なく無力化され、切り札だった8.8 cm FlaK 36も撃破された。

 勝っていたはずだった。情報からいつもの虎丸じゃない事も分かっていた。どんくさい戦車と聞いて逃げられない場所で待ち伏せした。なのに、なぜ。

 

「なぜ、なぜなんだ」

「貴方の敗因は一つです」

 

「貴女はぴー虎を知らなかった。それだけです」

 

 ヘルメット団リーダーが最後に見たのは、自分に向けられた戦車砲だった。

 

 

 

 

「はい、はい。という事ですので、よろしくお願いします」

 

 マナーモードにしていたスマホで万魔殿に連絡をとり、襲ってきたヘルメット団の引継ぎをお願いする。ぴー虎で連れていくのは人数的に無理だし面倒くさい。押し付けられる事は出来る限り押し付けたいのが棗イロハの心情だった。

 

 今日はいつもと違った一日だった。虎丸ではなくぴー虎、という一点だけの違いだが、虎丸では起きないような非日常を感じられて…終わってみれば楽しかったと思える。

 いつも以上にのんびり、ゆっくり買い食いでもしながらパトロールするのも悪くない。それに足こそ遅いが、火力は同等、防御力は倍だ。戦闘力という意味では良いまであるかもしれない。

 案外悪くないな、うん、もう少し乗っても、いや虎丸と日によって乗り換えとかできたら嬉しいかも…と棗イロハは思った。気づけば、それなりにぴー虎の事が好きなっている自分がいた。

 

 いたと思っていた。

 

「…レッカーにも電話しますか」

「わっわっイロハ先輩!ぴー虎燃えてるよー!」

 

 棗イロハはイブキを抱えてそくさくとぴー虎から脱出する。

「やっぱり虎丸のほうが良いかも」。ぴー虎のエンジンルームは火花がビリビリと音を立てた。ぴー虎は心臓であるエンジンに問題を抱えていた。


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