その血が歩む道すじ   作:亞忌羅

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 はてさてどうしたものか。


百十七話

「(なんの為にこんな事をーー)」

 

 いつの間にか天元が現れていた、天元が擬似的に造られた羂索の領域の外殻を解体し始める。

 ━

「(このタイミングで天元が出てきた? なんのために? お前には何もでき……! 成る程、外殻を作った理由はこれが目的か……だから晴蓮から先に領域を使わなかったのか。やられたね)」

 

 

 ━━━━━

 

 ━━━━

 

 ━━━

 

 ━━

 

 ━

 

 

「奴を殺せればそれでいい。弟達や半身である母の呪いの為に、そして悠仁の未来の為に」

 

 少し沈黙し「分かった、だがその前に私達の計画(プラン)を聞いてくれ」と返す。

 ━

「成る程、領域の解体か」

「その後のタイミングならむしろ君の手は必要だ」

「イヤ、やはり始めは俺一人で出るべきだ」

 

 その言葉に驚き「どうしてだ」と聞くと「領域は強力だが展開後術式が焼き切れ暫く術式の使用が困難になるリスクがある、九十九も天元もそこを突くつもりだった訳だが俺という伏兵を想定していたら加茂憲倫(のりとし)は領域を展開しないんじゃないか?」と言われ何も言い返せなかった。

 ━

「俺が一度加茂憲倫(のりとし)に敗れたとしてもそれにより『九十九との一対一(タイマン)である』という意識を植えつける事ができる」

「成る程、それは良い案だ。だが空性結界を操れるであろう羂索の領域がそう簡単に解体させられると思っているのか?」

 

 三人が話し合う中、凛とした透き通る声が聞こえる。

 ━

「やはり封印されていなかったか、晴蓮(・・)」

「俺がそう簡単にヤられるかよ。

 それと、やっと気づいたか脹相(ちょうそう)」

「悠仁の師、加茂晴蓮か。ああそうだ、あの後お前があの時に言っていた意味が漸く分かった、だから今は悠仁の為に戦う」

「それは良かった。一つ聞きたいんだがいいか?」

「なんだ」

「悠仁君の傍に居なくていいのか?」

「俺も居れるのなら傍に居たい。だが、ここに居れば元凶が現れる。ならここで待ち、迎え撃つ」

「そうか」

「随分と砕けた喋り方だね」

「こっちが素だよ、話し方次第で人に与える印象が変わるからな。じゃあこれからの事を話し合おうか」

 

 

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「やるね、晴蓮。まさか外殻を作られて解体させられるとは思わなかった、でもお互い術式は焼き切れている。肉弾戦かい?」

「お前は何度忘れれば気が済むんだ」

「【比翼扇(ひよくせん)・一重(ひとえ)】」

「【比翼扇(ひよくせん)・二重(ふたえ)】」

 

 声がする方へと振り向くと手刀を振る二人の晴蓮が結界の刃を放つが羂索は難なく躱し、「全く、君は本当に厄介だね」と軽口を言うと「だから封印したんだろ?」と返され、それに対し「結果的には失敗しているけどね」と言い返す。

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「それと勘違いしているようだから教えてあげるよ」

「何をだい」

「カッコいいお兄ちゃんってのはな、最後までカッコいいんだよ」

 

 背後の空性結界が紐解かれ(ほどかれ)二人の戦闘に割って入る人影が一人、それは先程まで戦っていた脹相(ちょうそう)だった。

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「今更出てきてーー。(体が重い! 何が)」

「【死の恐怖(スケィス)。この世界の俺が焼き切れてても別世界の俺達は焼き切れてない】」

 

 別世界の晴蓮の隣には三つ目で十字架を持った巨人がいた。

 ━

「これ、は………」

「重いだろ? 濃密な死の気配ってのは物理的干渉(圧力)をするんだよ」

「本……当に、デタラメだね……君は」

「褒め言葉として貰っておくよ」

「親殺し、いきまぁす!!」

 

 脹相(ちょうそう)の穿血(せんけつ)が羂索の眉間を貫いた。が、次の瞬間羂索の顔が剥がれ落ちる(・・・・・・・・・・・)。

 ━

「クソったれが、改造術式で他人を自分(・・)に改造していたか。だから領域の押し合いではなく無効化を選んだのか」

「その通りだ晴蓮。そして私の目的は果たせた」

「何?」

「私がここに来た理由は天元の魂の輪郭を知る事(・・・・・・・・・・・)だ、本体の輪郭さえ知れれば草木に宿る天元の魂を集められる。

 集めた魂で形を作る天元は偽物だがそれで充分だ、それにやり方次第で本体を引き寄せられる、結果は私の勝ちだよ晴蓮」

「漸く得心がいったよ、お前が無防備にここに来るとは思っていなかった。

 だが魂の輪郭を知れたのはお前だけじゃない、俺も漸くお前の魂の輪郭を知れた。次からはモザイクのように視えないし、お前の未来(世界)も視えるようになった。だから言おう、お前は死ぬ」

「そうか、それは残念だ。できれば日本人一億総呪霊を見たかったね。でも、計画の失敗とは言わないのかい?」

「当然計画も破綻するさ、一億総呪霊なんてモノは発生しない」

「なら宿儺はどうなる、今の君に視えているのか?」

「これ以上教える必要はどこにも無い」

「ハハハ。それ、答えを言っているようなモノじゃないか」

「どうだろうな、ここに九十九由基が居ない時点で察せよ羂索」

「だがこちらには禍求夜(カグヤ)の術師が居る」

「なんだ、知らんのか」

「……何がだ」

「禍求夜(カグヤ)は死んだ、甚爾さんの手によってな」

「そうか、それは残念だ。ではもう一つの手を打とうか」

 

 口撃のし合いはお互いが舌打ちで幕を下ろし、羂索と改造されていたどこかの術師は強引な捻じ曲げの過負荷で泡を吹き倒れている。

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「逃げられた上にやられたな」

「だが羂索は死ぬのだろう?」

「死ぬがお前も死ぬ、今の内に俺の式神にでもなっておくか? そうすれば少なくとも意味消失はしないだろうよ」

「それが好ましいのならするといい」

「アンタは相変わらずつまらん奴だな」

「昔からの腐れ縁(・・・・・・・)だろう?」

「イヤな腐れ縁だ、降伏してやるよ天元」

「式神へと降ろう古馴染。ところで、団和(・・)はどうなった」

「現代には居ないさ」

「居ないだけか?」

「そうだ」

「なら眼(・)はどうだ」

「腹立つから教えてやんねぇ」

「それは答えを言っているのと同義だろうに」

 

 あり得ない会話、晴蓮は天元に『腐れ縁』と言い、天元は晴蓮に『古馴染』と言った。それが意味する事は加茂晴蓮が何かしらの……時間遡行を使い遥か過去にて天元と会っていた事の証だった。

 ━

「一つ、疑問点が残る」

「なんも無いだろ」

「あの男は何故あの改造術式ではなく無為転変(むいてんぺん)を使ったのかだ」

「ああその事か」

「その言い振りからして分かっているようだな」

「今のは厳密に言えば改造じゃない」

「どう言う事だ」

「あの術式は存在そのものを汚染するんだよ」

「汚染?」

「存在を汚染し根本から在り方を捻じ曲げる、だが無為転変(むいてんぺん)は魂に触れて肉体、或いは脳を改造する。死滅回游の為に必要なのは脳(魂)を弄る事だ、在り方を捻じ曲げれば当然母体は死ぬ」

 

 羂索に見えていた何者かを見ながら「あんな風にな」と言うと肉体は溶けていき塵一つ残っていなかった。

 ━

「成る程な、変える肉体が溶けてしまえば意味がない」

「お陰で手掛かりが何一つ無いけどな」

「彼には見つけられないのか?」

「してもらっているとも」

「それでもか」

「他人を自分に改造できるのなら、自分を他人に誤魔化せるだろうよ」

「見た目だけを弄るか」

「俺にできるんだ、奴にもできるさ」

「君も大概だな」

「『最優』なんでね」

「加茂晴蓮。お前に聞きたい事がある」

 

 目を閉じ「何をかな」と聞き「お前からは兄弟達とは違う繋がりの様なモノが感じられる。何故だ」と言われ一つ息を吐き「君達が生まれる原因を作ったのは俺だからだ」と意味が分からない事を言ったが、天元は何かに気づいたのか「過去で何をした」と聞かれる。

 ━

「俺は過去を転々とした、その時一人の女性と出会った」

「子を設けたか」

「行きずりの関係だった……ああイヤ、どちらかと言えば『押しきられた』の方がただしいかもな。

 ソイツは俺が呪術師だと知った途端に襲ってきた」

「その娘も呪術界の関係者か」

「だろうな」

「詳しくは知らないと?」

「本名を名乗る訳ないだろう?」

「相手もか?」

「聞いた事が無い名前だったな」

「ならお前はなんと名乗っていた」

「滅んだとされる端白間(はしらま)だな」

「莫迦な事を」

「事実滅んでいたんだ、名乗ろうが問題はないと思ってたんだよ」

「そのお前にその人物が迫り俺達の母親が生まれたと言う事か」

「その通りだ、君の母親………俺の娘は一目見てすぐに分かった。そして気づいた、全ての元凶は俺だとな」

 

 重々しい沈黙が流れるがそれを破ったのは「それは違う」と言う脹相(ちょうそう)だった。

 ━

「全ての元凶は加茂憲倫(のりとし)だ、お前じゃない」

「そう言ってもらえると助かるよ」

「他には何をした」

「……端白間(はしらま)の保護をしようとしたが無理だった、あの一族は滅ぶ運命なんだろうな」

「そうか。でだ晴蓮、これからはどうするつもりだ」

「目下の目的は羂索の発見だな」

「私は何をすればいい」

「取り敢えずここで待ってろ、俺の式神になった以上いつでも呼べる。来ないだろうが羂索がここに来てもすぐに逃がす事ができる」

「そうか、与幸吉はどうする」

「ここに居る与君は傀儡、彼には悪いが壊れても問題はない。が、一応隠しておけ」

「ではそうしよう」

「加茂晴蓮」

「うん? 何?」

「俺はどうすればいい」

「そうだね……」

 

 脹相(ちょうそう)の役目を考えていると耳に付けていた与幸吉の小型呪骸(じゅがい)から「先生、宿儺が虎杖悠仁から加茂恵に体を移した」の言葉が聞こえる。

 ━

「どうした」

「宿儺が体を変えた」

「そんな事が可能なのか?」

「可能だからそうなったんだろ」

「誰に変わった」

「俺の甥」

「加茂恵か」

「恐らく宿儺は初めから恵君に変えるつもりだったんだろうな、だから宿儺は悠仁君の心臓を治した。悟君が言うには『何かを話した気はするけど思い出せない』だそうだ」

「縛りか」

「どんな縛りかは分からないが、縛りの事を忘れる縛りでも科したんだろうよ」

「それよりいいのか? 君の甥が宿儺に乗っ取られたんだろう?」

「俺が何もしてない訳ないだろ」

「何をした」

「恵君の生得領域内に呪物化した俺を入れてある、今頃生得領域内で殺し(呪い)合ってる筈だ。暫くは時間を稼げる」

「暫くと言う事は加茂恵の中に居る君は敗けるのか?」

「所詮は分体、今の宿儺に勝てる可能性はない」

「何本取り込んでいる」

「一応十五本」

「一応?」

 

 どうするか逡巡し「悠仁君には生まれた時から宿儺の指が入っている、つまり本当の本数は十六本だ」と苦々しい表情で答える。

 ━

「その事を知っている者はいるのか?」

「俺しか知らん。知らない方が都合が良かった」

「何故だ」

「羂索に悟られたくないからだよ、悟られれば何をされるか分からないからな」

「加茂晴蓮、悠仁はどうなった」

「宿儺と戦闘真っ最中。だから参加しに行く」

「俺も行く」

「初めから来てもらうつもりだよ、悠仁君には君という存在が必要だ。まあでも、俺達にやる事あるか分からんけどな」

 

 どう言う意味なのかを考え「九十九由基か」と答えに辿り着く。

 ━

「今頃星の怒り(ボンバイエ)炸裂中だ」

「下手をすれば死ぬと思うが」

「手加減くらい分かるでしょ」

「アレに手加減ができると思わん」

「………多分大丈夫だ、多分」

 

 

 ━━━━━

 

 ━━━━

 

 ━━━

 

 ━━

 

 ━

 

 

「まさか加茂君の言った通りになるとはね」

「恵………」

「今は心配ないさ、中で加茂君と殺し(呪い)合の真っ最中だ」

「師匠と?」

「なんでも別世界の自分の分体を呪物化させて呑ませていたらしい、本当になんでもできるね、彼は」

「いつの間に……」

「本当にいつだろうね」

 

 悶える加茂恵を見守る虎杖は中の晴蓮が勝つ事を願っていたが加茂恵の顔に特徴的な模様が浮かびあがる。

 ━

「つくづく侮れん呪術師だな、加茂晴蓮と言う男は」

「敗けたか。虎杖君、ここからが本番だ」

「ウス!」

 

 飛んでいる来栖華(天使)に「天使は術式の準備をしてくれるかい?」と声を掛けると「分かっている。お前達は宿儺を弱らせろ」と返ってくる。

 ━

「フッ、しぃ!!」

 

 術式によって呪具化した式神・凰輪(ガルダ)を丸め仮想の質量を乗せて蹴り飛ばすが、宿儺は満象(ばんしょう)を召喚し大量の水で押し留め、更に虎葬(こそう)を満(ばん)象(しょう)が放つ水の中に丸めて召喚し砲弾の様に使い凰輪(ガルダ)を弾く。

 ━

「馬鹿げたデカさだね、出力の違いでこうも変わるのか」

 

 虎杖は晴蓮から渡されていた腕輪に呪力を流すと大鎌に変わり宿儺に斬りかかる。

 ━

「宿儺、恵の体は返してもらう」

「やってみせろ小僧」

 

 何かに驚いている宿儺に今度は凰輪(ガルダ)を鞭の様に叩きつけ、仮想の質量が付与された一撃で腕は圧し折れ足場が崩れる。

 ━

「面白い術式持っているな」

「それはどうも、折角だし潰れていくかい?」

「ハッ、大言壮語を吐くじゃないか」

「なら味わってけ」

「星の怒り(ボンバイエ)」

 

 仮想の質量を乗せた拳や蹴りを落ちながら繰り出すと虎葬(こそう)が割って入り頑強な肉体で持ちこたえる。

 ━

「(あの式神、硬いな。恵君を殺さない様に加減しているのもあって攻めきれない)」

「宿儺ぁあぁあ!」

 

 虎杖も大鎌をデタラメに振り攻撃すのに対し宿儺は解(カイ)を連続で放ち近寄らせない。

 ━

「(あの大鎌、さっき受けた時に魂を揺さぶられた、受けるのではなく近寄らせない方がいいな)やはりお前はつまらんな」

「うるせぇ!!」

 

 宿儺の言葉に惑わされずに攻撃を続け、宿儺は迫る大鎌の刃を掌の中で解(カイ)を連続で発生させる事で刃を直接受けないようにし、カウンターを喰らわせる。

 ━

「クッ……は、はぁはぁ」

「大丈夫かい?」

「はい」

 

 その時、宿儺の腕を貫通し腹部に(・・・)直撃する。

 ━

「これは…………構築術式か、面白い使い方をするな」

「余所見してんじゃねぇよ」

「!?」

 

 避け様とするが体が重く避けられずに刃威音(はいね)を振り下ろし叩き斬られる。

 ━

「(この女、呪力がない!? それになんだこのーー)」

「考え事とは余裕だな」

 

 真希の在り方への一瞬の驚きが隙となり全力の一撃が直撃し殴り飛ばされる。

 ━

「ククク、あの男と同じ在り方か。少しは楽しめそうだ」

 

 真希に向き直り肉弾戦を仕掛け様としていると、どこからか狙撃される。

 ━

「構築術式の奴か、二度はーー」

「気ぃつけろ、真依の銃弾は防いだだけじゃ躱しきれねぇ」

「何をーー」

 

 その瞬間弾丸を握っていた手から数えきれない程の刀身が突き破る。

 ━

「!?」

「だよな、驚くよな、だからこうなるんだよ」

 

 驚きによる隙を見逃さずシン・巌流・〈閻魔大車輪(エンマダイシャリン)〉が終わると長巻が大鎌へと変わりそのまま〈蒼天大車輪(ソウテンダイシャリン)〉を連続で喰らわせる。

 ━

「グッ、カ…………」

 

 更に長巻を投げ〈獅子連撃(シシレンゲキ)〉からの胸を掴み地面に叩きつけ、更に〈双極・明王烈破拳(ソウキョク・ミョウオウレッパケン)〉へと繋げ殴っていると拳を受け止められ、「成る程、お前は厄介だ」の言葉と共に捌(ハチ)が炸裂し真希は飛び退く。

 ━

「イッテぇ」

「今ので膾斬りにならんか、肉体が頑丈なのかそれとも別の要因か」

「どっちだろうな」

「まあいい、どのみち膾斬りにするだけだ」

 

 手を振りながら真希に近づくと「やあ宿儺、ご機嫌いかがかな?」の声が聞こえると何もない所から蹴りが襲いかかる。

 ━

「加茂! 晴蓮!!」

 

 突如として現れた晴蓮に驚くがすぐさま反応し足を掴もうとするがすり抜け晴蓮はそのまま地面に着地する。

 ━

「どこから来た、などとは言わん。言うだけ無駄だからな」

「そうか、ああついでに言っといてやるよ」

「………何をだ」

「移動できるのは俺だけじゃない(・・・・・・・・・・・・・・)」

「悠仁の友の体は返してもらおう」

 

 宿儺の真後ろに立ち両手を合わせる。この距離なら穿血(せんけつ)は確実に当たる距離、しかし宿儺の足が影に沈み躱される。

 ━

 出力は落ちてなさそうだが、真希や悠仁君を見る限り対人相手には……イヤ違うか、仲間に対しての出力は下がっている。中で抵抗しているのか、なら、今が攻め時!! 

 

「中々にいい登場だ、だが当たらなければ意味がない」

「そうか、なら俺の速さについてこい宿儺」

「ハッ、お前の術式は知っている。であれば対処はーー」

 

 瞬間、宿儺が吹き飛ぶ。

 ━

「固有時制御・(Time alter・)九倍速(square triple)。

 うん? なんだって? 何か、言ったかい?」

 

 術式反転『固有時制御・(Time alter・)九倍速(square triple)』の初速速度は『マッハ1.47』、人間が視認できる領域を完全に逸脱した速度であり、人の体である宿儺にも見えない速度の攻撃だった。

 ━

「今、何をした」

「言うと思うか? それよりいいのか宿儺」

「……聞いてやろう」

「上、準備万端らしいよ」

 

 その言葉に何かを思い出したのか空を見上げると来栖華(くるすはな)が呪力の励起を終わらせており、術式を使う。

 ━

「光よ 全てを浄化し給う光よ 罪・咎・憂いを消し去り 彼の者を導きたまえ」

 

 空が光に包まれる。遍(あまね)く全てを照らす光が来栖華(くるすはな)の腕の中に集まり何かの形を成す。そしてーー

 

 

出

力

最

大

 

「邪去侮の梯子(やこぶのはしご)」

 

 表現しがたい何か、式神が舞い光の柱が宿儺を包み襲う。

 ━

「華(はな)……」

 

 宿儺が……否、加茂恵が呟いた。そして「ありがとう、もう大丈夫だ」と語り掛ける。

 ━

 終わった? イヤ、まだだ!! 

 

「来栖(くるす)君! まだ近寄るな!!」

 

 二人が抱き合った瞬間に宿儺の顔が膨れ上がり来栖華(くるすはな)を噛み砕こうとする。が、宿儺の腕の中に来栖(くるす)はいなかった。

 ━

「あの呪いの王がハニー・トラップに頼るとは思わなかったよ」

「あ、え。へ……」

「何をした、今のはただ速い(・・)だけじゃない」

 

 抱き抱えた来栖(くるす)を降ろし「言う訳ないでしょ、常識で考えろよ呪いの王」と吐き捨てる。

 ━

「来栖(くるす)君、下がっていなさい」

「で、でも!」

「目の曇った君は足手まといだ」

 

 目を見開き唇を噛み締めていると頬に口が現れ「礼を言う加茂晴蓮」と天使が喋り、更に「華(はな)、君は下がっているんだ」と現実を突きつける。

 ━

「逃げられると思うなよ宿儺」

「お前を殺すのは骨が折れそうだ」

「物理的に折ってやるよ」

 

 両者相対しお互いの指が動いた瞬間に宿儺の後ろから呪力の起こりが発生し「ほぅ」と宿儺が呟くと何者かが呪術を使う。

 ━

 

「出力最大・霜凪(しもなぎ)」

 

 

「出力最大・火天」

 

 

 宿儺の後ろからは凍てつかせる氷の波が、晴蓮の隣からは天を焼く炎の波が衝突し水蒸気爆発が発生する。

 ━

「チッ、宿儺様、お早く」

「構わん。アレを少しでも止められればそれでいい」

「逃がすかよ」

 

 水蒸気の中から凄まじい速度で晴蓮が現れ宿儺を殴ろうとするが、裏梅が割って入り守ろうとする。しかし、横から何者かが裏梅の頭を掴み地面に叩きつける。

 ━

「剡漿:(えんしょう:)火惨漿掌(かさんしょうしょう)」

 

 燃える掌打を宿儺に打ち込むが、宿儺は影に片足を沈ませる事で躱し振り返り拳を振り抜く。

 ━

「器用な真似をするな、意味はないがな」

 

 宿儺の拳はすり抜け、そしてすり抜けた腕を掴み顔面を蹴る。

 ━

「ぎ……貴様」

「出力、落ちてんだろ。恵はそこまでヤワじゃない」

「ハッ、分からんぞ?」

「お前には今ここで死んでもらう」

「お前にやれるのか?」

「引き剥がす程度、容易いモノだよ」

 

 晴蓮と宿儺の激しい打撃戦を繰り広げるがお互いが痛打を極められず長引いていると「出力最大・直瀑(ちょくばく)」の言葉と共に足下に円形に出現させた氷塊で晴蓮を凍らせる。

 ━

 火産霊((ほむすび(火の呪霊))がやられた? イヤ、繋がりは感じられる。つまり逃げてきたと、ならその程度の奴か。警戒する必要はないな。

 

「宿儺様、お早く」

「まさかこの程度で俺を止められらとでも思ってるのか?」

「幾重にも重ねればいい」

「諦めろ、無意味だ」

 

 小指を引き千切り裏梅に放り投げ「爆獄漿・(ばっごくしょう・)局(きょく)」と呟くと局所的な爆炎が起きる。

 ━

「クッ……」

「行くぞ裏梅」

「はい」

「逃がすかよ」

 

 水蒸気に紛れて鵺(ぬえ)を召喚し飛び去っていく二人に手刀を向け、振り下ろすと刀身状に燃え盛る爆炎が二人に迫るが、裏梅が巨大な氷塊を降らせまたもや水蒸気爆発が発生する。

 ━

「使う呪術を間違えたか。火産霊((ほむすび(火の呪霊))、無事か?」

「『なんとかな』」

「宿儺だけでも面倒だと言うのにもう一人面倒なのが増えたな」

「『なんとかならんのか?』」

「できるに決まってるだろ」

「『したらばどうするつもりだ』」

 

 千切った指と炭化した腕を治しながら頭を搔き毟り「考え中」とだけ返す。

 ━

 

 

 

 ━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「コガネ、総則(ルール)追加。死滅回游の新規泳者(プレイヤー)の参加を打ち切ってくれ」

『却下されました、総則(ルール)7に抵触します』

「そうはいかないよ」

『却下されました、総則(ルール)7に抵触します』

「日本には天元が呪霊の発生抑制と補助監督役の結界術の精度を底上げする為に数多の浄界(じょうかい)がある。

 その中で要となる四つの浄界(じょうかい)皇居を中心とした浄界(じょうかい)。東京遷都候補地だった高専地下薨星宮の浄界(じょうかい)。

 京都御陵浄界(じょうかい)。そしてーー」

 

 言葉を遮る様に「ここ、日本を分断する巨大浄界(じょうかい)。飛騨霊山浄界(じょうかい)。だろう? 羂索」と何者かの声が響く。

 ━

「見かけないと思ったらここに居たのか」

「ハルからの指示でな、必ずてめぇが来る場所だって書いてあった」

「それでも本当に来るとは思わなかったけどね」

「それだけ大事なモンがこん中にあるんだろ」

「彼から何も聞いてないのかい?」

「わざわざ聞く事でもないからね」

「なんとも彼らしいやり方だ」

「ハルを馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ」

「これでも付き合いは長いモノでね」

「その悪縁を俺が断ち切ってやるよ」

 

 首を横に振り「どうしたものかな」と呟いている羂索を無視して「『蒼』」を使う。

 ━

「おっと、怖い怖い。いいのかい? この体は晴蓮の友人の体だよ?」

「問題ねぇ、傷つけずに殺せばいいだけだ」

「ここは諦めるか、しかしどうしたものか………取り敢えずは……。コガネ、総則(ルール)追加だ、死滅回游の新規泳者(プレイヤー)の参加を打ち切ってくれ」

『却下されました、総則(ルール)7に抵触します』

「何をするつもりだ」

「死滅回游はこの天元が作った浄界(じょうかい)をベースに作られた梵界(ぼんかい)、死滅回游の管理者(ゲームマスター)は誰でもない。だが強いて言えば私でもコガネでもなく天元だ、勿論私が勝手に仕立て上げたけどね」

「結局はてめぇが原因じゃねぇか」

「そうだとも、私が作った。だが今言った通りベースは天元の結界、であればその結界を壊す事ができる存在が居たらどう思う」

「何が、言いたい」

「この虎杖倭助の生得術式、還魂(かんごん)操術は魂を(・・)隷属(・・)させる術式だ。あらゆるモノに宿る魂を隷属させ従える」

「隷属?」

「そう、隷属だ。共存共栄ではない」

「それがどうした」

「強がりはよせ、分かっているんだろう? 今の私が天元を操れる(・・・・・・・・・・)事を」

「!」

「あり得ねぇな」

「はははその通りだ、本物を隷属させる事には失敗した」

「ならどうするつもりだい?」

「造ればいい」

「何?」

「今の天元は『天地が自我』となっている。つまり、そこら中に散らばる天元の魂を集めれば本体に限りなく近い偽物(・・・・・・・・・・・)を造れる」

「(天元様が言っていたのはこう言う事か)」

「ねぇな」

「何故そう言える」

「ハルの手紙に書いてあった」

 

 不適な笑みを崩さず「何をかな」と問い掛け「ソレをするには『天元の魂の輪郭』を知る必要があるってな」と返される。しかし「私は本物(・・)を隷属させる事には失敗したとしか言っていない、それはつまり……私は天元に会った事を意味している、そして見さえすれば魂の輪郭程度分かるんだよ」と衝撃の事実を明かす。

 ━

「じゃあ、まさか!」

「還魂(かんごん)操術ーー『久延毘古(クエビコ)』」

 

 術式の行使。その瞬間周囲が光り、そして光が羂索の手中に集まり形を成していく。

 ━




 どうしよう、キャラが勝手に走り出して変な事になった。どうしよう。

━━
 この世界のAIDA(アイダ)はこういった事ができるって事で何卒。
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