おみくじが導く悲劇の物語。

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おみくじ

「なあなあ、今年も行くだろ。○○神社」

 

「当たり前だよ小暮くん。中村も来るよな」

 

「う、うん」

 

 僕は中村優也。高校2年生だ。よく遊ぶ友達は、ばりばり陽キャイケメンの小暮くんと、フツメン使いっ走りの白井くんと、あと一人いる。

 

「私も行くわ。新年一発目にやることと言えばおみくじよね」

 

 彼女だ。安藤麻衣。誰にでも気さくで、誰にでも優しい同級生。

 

「明日の、日の出後でいい?元旦は生中継で観たいし」

 

「おお。じゃあ7時30分に神社で集合な」

 

「分かったよ小暮くん、中村もいいな?」

 

「う、うん」

 

 いつも大体こんな感じで、安藤さんに惚れている小暮くんがなにか計画するのを、白井くんがイエスマンの才能を発揮して全肯定して、僕にも強制的に全肯定をさせるという意志決定の仕組みが構築されていた。

 

 これが果たして友達と呼べるかどうかについては疑問だが、僕は不満ではない。

 

 犯罪を強要されたり、殴られたりすることがないんだから、友達どうしでカーストがあっても全然許容できる。

 

「遅れんなよ、白井」

 

「じゃーねえっ!」

 

 一方的に話を切り終えた小暮くんと安藤さんは、カバンを持ってそそくさと下校し始めた。

 

 クラスでは、あの二人が付き合っているんじゃないかという噂がまことしやかに流れている。

 

「……行こうぜ、中村」

 

 二人の様子が気に入らなかったのか、白井くんは大げさにカバンを持ち上げ、さっさと教室のドアに向かって歩いていった。

 

 今日は12月26日。学校に登校する最後の日だった。

 

 

 ※※※

 

 

 そして、来る1月1日7時30分。○○神社にお参りする時間がやってきた。

 

「遅いぞ白井」

 

「ごめん。……っていうか中村、お前がもたもたしてたからだろ」

 

「ごめん」

 

 前日の雪で凍結した地面なかなか面倒で、来るのが遅れてしまったのは僕と白井くん。

 

 早速小暮くんと白井くんにどやされてしまう。

 

「まあいいじゃない。とりあえずおみくじ引きに行きましょう」

 

 安藤さんが助け舟を出してくれ、僕たちはお参りをし、おみくじを引いた。

 

 今年の運勢が決まると言っても過言ではないこのおみくじ。なんとしてでも大吉が欲しい。

 

 皆と幸せな日々を過ごせるためにも、大吉じゃなきゃダメなんだ。

 

「せーので開けるぞ」

 

「うん」

 

「せーのっ」

 

「大吉きたっ!」

 

「大吉だ……」

 

「やったああああっ!」

 

 三者三様の喜びが神社内にこだました。

 

 一方、僕はというと……。

 

「凶だった……」

 

「どんまいどんまい中村、なにもこれですべて決まるわけじゃない」

 

「そうそう、忘れちゃいましょこんなおみくじ」

 

「……」

 

 白井くんが必死のカバーを入れ、安藤さんも援護してくれる。

 

 でも、小暮くんの様子がおかしい。黙りこくっている。

 

「なあ、中村」

 

「なに?」

 

「俺と付き合ってくれ」

 

「え?」

 

「だからその、恋愛的な意味で俺と付き合ってくれ」

 

「ええええええっ!?」

 

 と叫んだのは安藤さんだった。

 

「と、とりあえずなんで?」

 

「俺は大吉だった。そして、中村は凶だった。そんなのはあってはならないことだ。俺を差し置いて中村だけ不幸になるというのは」

 

 待って、本当に意味が分からない。

 

「大吉の人間が側にいれば、中村の凶具合も和らぐ。俺が大吉だったのは、中村を救うためだったんだ。中村と付き合えることが、俺にとっての大吉なんだ。だから中村、その、俺と付き合ってくれ」

 

 小暮くんは頬を赤らめ、僕の方をちらちらと見ながら意味不明なことを言っている。

 

 なにこれ。僕が理解できないのがおかしいの?

 

「だ、だったら、安藤さんと付き合うよ。もし付き合う必要があるならね。本当は付き合う必要はないんだけどね」

 

「嫌よ私、中村なんて絶対に嫌!」

 

 おっと?この場を切り抜ける冗談のつもりだったのに、そんなに激しく拒否されると傷つく。

 

「私の大吉は小暮くんのためなの!大吉どうしでくっつくのが自然でしょう?だから小暮くん、この後時間空いてる?」

 

「空いてるわけないだろ!俺は中村と愛を育むんだ」

 

 育みません。

 

「そう。じゃあ、こうするしかないわね」

 

 ん?また展開がきな臭いことに……。

 

 安藤さんが手元のハンドバッグから取り出したのは、ぎらついた光を反射する包丁だった。

 

「こんなこともあろうかと持ってきていたの。……中村かくごおおおお!!」

 

 安藤さんがナイフを両手に握りしめ、僕に向かって振りかぶってくる。

 

「やめろっ!」

 

 そこで小暮くんがすかさず、得意な空手を活かして回し蹴りを放った。

 

 蹴りは安藤さんの手を直撃し、ナイフはすっとんでいった。

 

「なんで!なんで!じゃまするの!?」

 

「中村を殺そうとしたからだろうが!」

 

 絶叫どうしがこだまする。

 

「いいか安藤、俺はお前をなんとも思っていない。俺には中村……」

 

 そう言っている最中、小暮くんの背中から刃が侵入した。

 

「なに勝手なこと言ってるんだよ!麻衣は俺のものだ!」

 

 今まで事態を静観していた白井くんだった。

 

 叩き落とされたナイフをいつの間にか拾い、凶行に及んだのだ。

 

「俺の大吉は、麻衣と一つになるための確定演出だったんだよ!小暮、死ねやああっ!」

 

 白井くんはそう言い、小暮くんの背中に刃物を何回も刺し続ける。

 

「や、やめた方が……」

 

「あ?」

 

 殺人鬼の白井くんが、おもむろに顔を上げて僕の顔を睨む。

 

「そう言えば、もう一人邪魔者がいたな。死ね」

 

 小暮くんをめった刺しにしたことで興奮しているのか、のらりくらりと白井くんが歩いてくる。

 

 だが、その後ろから…。

 

「白井くん危ない」 

 

「お前が死ねよ……」

 

 般若のような表情の安藤さんが別のナイフを持ち、白井くんの心臓を刺し貫いた。

 

「なに小暮くん殺してんだよっ!カスがっ!クズが!」 

 

 普段の言動とはあまりにもかけ離れている今の安藤さんは、ひたすらに白井くんの死体の尊厳を踏みにじっていた。

 

「あ、そういえば……」

 

 ひとしきり気が済み、般若のお面がこちらを向いた。

 

「小暮くんが刺されてるとき、なんで止めなかったんだよ。お前見殺しにしてたよなあ?」

 

 そう言いながら、今度は安藤さんが迫ってくる。

 

 一歩。また一歩と。

 

「お前がどれだけ罪重いことしたか分かる?死んでつぐな……」

 

 安藤さんの薄い胸から刃が生えた。

 

「なに中村に危害を加えようとしてんだよ…!」

 

 最後の力を振り絞って、自分に刺さっていたナイフを安藤さんに突き刺していた。

 

「殺す……俺の大吉は、中村と付き合うためのものだ……」

 

「嫌……、私の大吉は、あなたと愛し合うためのもの……」

 

「違う……、俺の大吉は、麻衣と一つになるためのものだ……」

 

 深い傷を負った三者三様が、自らの煩悩を宣言して事切れる。

 

「……」

 

 あー。僕の凶は、皆と仲良くなれる日はもうないって意味だったのか。

 

 僕はその場に座り込み、ため息をついた。

 

 遠くから聞こえるサイレンの音は、僕以外誰も生者がいない神社の境内によく響いていた。 


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