魔法少女にはなりません ~転生したらアズールだった件~   作:月想

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お待たせしました。
お待た(ry
なんかもう2ヶ月に1回くらいに思ってもらった方がいいかもしれません。
エタらないから許してちょ☆←


第50話『残滓』

チュンチュンという、歌うような鳥のさえずりで目を覚ます。

窓から差し込む朝日が眩しくて、ボヤけていた意識が段々と目覚めていく。

 

「...いよいよね。」

 

私はベッドから起き上がり、寝間着を脱いで"旅"の支度を済ませる。

 

「バッチリだわ!」

 

鏡に映った自分の姿を見て、感嘆の声を上げる。

白い肌を必要最小限の機能美で覆ったコバルトブルーの鎧。

谷間や太もも、お尻が無防備にも見えるが、そこは鎧に宿る"魔法"がサポートしてくれている。

一見マントが付いた水着のようだけど、その性能は確かなものだ。

少しキツいけど、こういうものらしいので問題はない。

 

「あぁ、私の可愛いアズール。いってらっしゃい。どうか無事に...。」

「ありがとう、お母さん。大丈夫、いってきます!」

 

お母さんに見送られ、私はついに旅の始まりを迎える。

背中に背負った剣と盾は、勇(・)者(・)の(・)証(・)。

私は今日、勇者として世界を救う旅に出るのだ!

 

「おはようございます、アズール。」

「!......」

 

玄関の扉を開くと、そこには手のひらサイズの小さな"妖精"が待っていた。

深い紫のような黒髪に、悪戯っぽい表情。

私の大切な...

 

「っ...」

「アズール?...どう、しました?」

 

突然ポロポロと流れる涙。

わけが分からなくて、でも悲しくて。

嬉しくて。

止まらない涙を必死に拭って、無理矢理に笑顔を作る。

 

「ご、ごめんなさい...何か、嫌な夢を見た気がして...っ」

「...大丈夫。私が、側にいますよ?」

 

小さな手を私の頬に触れさせ、優しく微笑む妖精。

自分でも分からないくらいに幸せが溢れて、胸がいっぱいになる心地だ。

彼女の温かさを噛み締めるように頭を撫でて気持ちを返すと、もう涙は流れなくなっていた。

 

「そうよね。あなたが私から離れるわけがないわ。ごめんなさい、ベーゼ。」

「...ええ。そうですよ、アズール。」

 

気を取り直し、私の昔からの親友で相棒のベーゼを胸元に入れてあげる。

暑くないのかと聞いたことがあるけど、これが一番幸せなんだとか。

カルガルーの赤ちゃんみたいな気持ちなのかな?

まあ、ベーゼが嬉しいならそれでいい。

 

「うぇへ...たわわ...いぃにおぃ...///」

 

街の人たちに挨拶しながら、目指すのは大きくて立派なお城。

門番に二つ返事で玉座まで通してもらい、この国の"女王様"に謁見する。

 

「よくぞ来ましたわね!勇者アズール!この国、この世界の命運はそなたの剣に懸かっているのですわ!」

「はっ!必ずや魔王を撃ち倒し、姫と世界を救ってみせます!」

 

私より胸が小さいが威厳のあるシアン女王に激励と非常に少ないお小遣いを貰い、旅立ちの挨拶は完了する。

 

「必ず、帰って来ましょう。」

「はい、もちろんです!」

 

生まれ育った街を背に、私とベーゼの長く険しい冒険が始まる。

どんなことが起こっても、必ずや使命を果たしてみせるわ。

だって!

 

「私は勇者、アズールだもの!」

 

――――――――――――――――――――

 

「賑やかな街ですね。」

「そうね、魔王の影響がまだ出ていないのかしら。」

 

モンスターと戦いながら歩き続け、いくつかの村を越えて。

私たちは新しい街へとやって来た。

たくさんの人々が娯楽や買い物を楽しんでいる様子で、その活気ある姿は世界の危機などとは無縁に思える。

 

「あ、見てくださいアズール!たわ...じゃなくて美人さんですよ!」

「え?...へぇ、あれが噂の。」

 

通りの端、不自然に人が集まる箇所を注視すると、その奥に煌びやかな衣装を身に付けた"踊り子"がいるのが見えた。

確かにスタイルもよく、ヴェールに隠れた顔もかなり可愛く見える。

私の方が美人でおっぱい大きいけど。

 

「ロコのダンスでメロメロになってもいいのよ~?」

「たわわ!たわわ...!///」

 

魅惑のセクシーダンスは通りすがりの人々、そしてベーゼでさえも魅了していく。

セクシーを売りにしてはいるが、しっかりと技術も感じられる。

きっと凄まじい努力を重ねて来たに違いない。

そう頷きながら、彼女のパフォーマンスに集中していると。

 

「いやんっ!?///」

「ぎぴっ!?」

『うっし捕まえたぜェ!』

 

突然、影(・)か(・)ら(・)腕(・)が(・)伸(・)び(・)て(・)私の胸をまさぐり。

谷間に挟まっていたベーゼを握りそのまま影の中に引き摺り込まれてしまった。

 

『この妖精、アタシが頂いたァ!』

「ベーゼ!?待ちなさいっ...!!」

 

高笑いする影は、そのまま泳ぐようにして街の奥へと逃げていく。

目的は分からないけれど、大切なベーゼを連れ去られるわけにはいかない。

剣を構え、私は影の追跡を開始した。

 

『しつこいヤツだなっ!』

「こんなものっ!」

 

影から飛んでくる短剣のようなものを弾き飛ばしながら接近。

物理的な攻撃が届くか不明な為、もう片方の腕に稲妻の魔力を宿らせる。

 

「返してもらうわよっ!!」

『やべっ!?』

『ヴォワ・フォルテッ!』

「なぁっ!?」

 

追い詰めた影に魔法を炸裂させようとした瞬間。

私の背後に正体不明の衝撃が走る。

盾を背負っていたことで傷を負うことはなかったけど、身体は宙を舞い無防備に地面へ激突してしまった。

 

「うっ、ぐ...っ」

「隙だらけよあんた!ざまあないわねっ!」

『ナイスだロコォ!』

 

痛みに耐えながら振り返ると、そこには先ほどの踊り子が。

ハメられた…最初からグルだったのね...!

気付くのが遅過ぎた。

ダメージで立ち上がれない私を嘲笑いながら、影は何かの呪文を詠唱。

影を囲うように、渦巻き状の真っ暗な穴が出現する。

 

「しまっ...ベー、ゼ...!」

「アズール!助けてっ...!」

「さっさと帰ってロードさまに報告よっ!」

『おうっ!こりゃ大手柄だぜ!!』

 

逃げられる。

必死に手を伸ばすが、ベーゼには到底届かない。

 

そんな私を見下して踊り子が高笑いを発し、影が作った穴へと自ら吸い込まれていく。

影もまた追従するように穴へ入り、数秒と経たずその入り口は閉じてしまった。

 

「ベーゼ...ごめんなさいっ...必ず、私がっ...」

 

打ちひしがれる私。

俯き地を叩くその頭に、ヒラヒラと何か生暖かい布が被さってきた。

踊(・)り(・)子(・)が(・)着(・)て(・)い(・)た(・)衣(・)装(・)だった。

 

「......え?」

 

頭が追い付かない。

とりあえず触ってみると、人肌の温かみを感じた。

匂いも、悪くない。

 

"おどりこのふく"を手に入れた!

 

何やら特別なメロディーが聴こえたような。

そんな気がした。

 

...特に意味はないのだけど。

強いて言えば、好奇心でしかないのだけど。

ちょっとだけ、胸の当たるカップ部分を舐めてみた。

 

「...しおあじ。」

 

しょっぱかった。

報いは必ず受けさせるが、それでも。

彼女は一生懸命踊っていたようである。

 

――――――――――――――――――――

 

「ベーゼ、どこなの...?」

 

あれから数日。

拐われたベーゼを捜して山や荒れ地を越えたけれど、未だに少しのヒントも見つからない状況だ。

 

少し休もう。

このまま旅をしていてもどうにもならない。

そう思って、近くに見えた村に立ち寄った。

 

「みんな、安心して?あたしは大丈夫だから...」

 

またしても人集り。

しかし、今度はセクシーな踊り子を眺めているような幸福感は感じられず、どこか悲壮に満ちた雰囲気に見えた。

気になってその中心に向かってみると、そこにはピンクい髪をドリルツインテに纏めた同い年くらいの女の子がいた。

服装から見るに、この街の神職者なのだろう。

 

「何かあったのですか?」

「うわすっごくエッチ...!?///」

「私は勇者アズール。魔王打倒の為、旅をしています。何か、お困りですか?」

「勇者さま!?じ、実は...!」

 

私の威光に希望を見出だしたようね。

そのシスター、マゼンタは勇者である私に助けを求めてきた。

 

何でも、最近村に近隣を支配する"鬼"がやって来るようになり、物を壊したり作物を傷つけたりと、悪さをしに来るのが常となってしまったとか。

非力な村人では到底逆らうことも出来ず、ついには"生け贄を差し出せ"とまで要求されているらしい。

その生け贄に、マゼンタが選ばれてしまったというわけだ。

 

「なるほど。ならば、この私がその鬼を退治してみせましょう。」

「ホントですか!?これこそ神の救いです...!勇者さま、よろしくお願いします!」

 

ベーゼを一刻も早く救いたいところだけど、勇者として困っている人々を見捨てることは出来ない。

鬼退治を引き受け、同行を申し出たマゼンタの案内で鬼の寝床を目指すこととなった。

 

「よ、よう来たなマゼンタっ...て誰やねんこの痴女!?」

「私は勇者アズール!邪鬼サルファよ!お前にマゼンタは渡さないわ!」

 

岩山の頂上で、件の鬼サルファと対峙する。

生け贄に釘付けだった目をこちらに向け、その身体に雷の魔力を纏うサルファ。

 

「勇者やと?無駄にデカい乳しおって...うちとマゼンタのお話タイム邪魔して、ぶっ飛ばされる覚悟あるんやろなぁ!!」

 

怒気を放つサルファは私に急接近。

叩きつけられる拳を盾で受け止め、すかさず剣を振りかぶる。

それが拳に弾かれ、容赦のない乱打が襲って来る。

防ぎ、振り、避けられ、叩きつけられる。

一進一退、魔法を纏った接近戦をひたすらに続ける。

 

「しつこい女や...!」

「それが取り柄ですもの!」

 

しかし、いつしか私は劣勢気味に。

攻撃を捌き切れず、サルファの拳が胸をかすった。

 

「ぁんっ...!?///」

「っ...たゆんたゆんぶらんぶらん一々やかましいわっ!?嫌味かこの乳牛!?」

 

何故か集中力を切らしたサルファは、急に隙だらけ。

願ってもないチャンスに、頭より先に身体が動いた。

 

「そこよ...!」

「なん、やとっ...!?」

 

鳩尾に剣の束が突き刺さり、目を見開いて驚きを表す。

ガクリと地面に腰を落とす彼女の首に、刃を見せつけるようにして突き付ける。

 

「あなたの負けよ、サルファ!」

「っ...煮るなり焼くなり、好きにせぇっ...」

 

潔く負けを認める鬼。

 

何故こんなことをしたのかと問い詰めると、その理由は非常にピュアなものであると分かった。

全てはマ(・)ゼ(・)ン(・)タ(・)を(・)手(・)に(・)入(・)れ(・)る(・)為(・)の(・)悪(・)知(・)恵(・)だったのだ。

以前森でマゼンタを見掛けて以来、サルファはマゼンタに見事惚れてしまった。

村への破壊行為は全てマゼンタを捕らえる為の布石。

純粋な恋心の発露を、間違った方向に向かわせてしまったという真相だった。

 

「二度と悪さをしないと言うなら、命は見逃しましょう。」

「うぅっ...すんまへん...。」

 

正座で反省するサルファには、最早こちらを害する力は残っていない。

彼女の謝罪を信じ、私は剣を収めることにした。

 

「...少し、じっとしてて?」

「ぇ...?」

 

その場を立ち去ろうとしたけど、戦いを見守っていたマゼンタが急にサルファに接近。

杖を掲げて呪文を唱えると、サルファの傷がスゴい速度で回復していく。

 

「ど、どうして...?」

「分からないけど...こうしなくちゃいけない気がして。もう悪さしちゃダメだよ!」

「ま、マゼンタ...!///」

 

慈愛のシスター、マゼンタ。

鬼をも虜にするその優しさに舌を巻き、私たちは村への帰路に着く。

また1つ、勇者として強くなれた気がする。

あなたにも見せたかったわ、ベーゼ。

 

――――――――――――――――――――

 

夢の中で、誰かの声が聞こえる。

 

「...ノダ...メザ...サ...ャ...」

 

何を言っているかは、分からない。

でも、何だか。

私はこの声を、どこかで...。

 

――――――――――――――――――――

 

「アズール、ここだよ!」

「ええ。お願いだから、無事でいてちょうだいね...。」

 

サルファから守ったお礼ということで、マゼンタが旅の仲間に加わった。

優秀なサポート要員を得た私は、とある情報を元に旅を続け。

ついに今日、山の中に隠れるようにして立つこの"砦"までやって来た。

 

「サルファが言っていた話、本当だといいけれど。」

「ウソを吐いてる感じじゃなかったけどなぁ...。」

 

"ロード団という盗賊が、向かい側の山に砦を構えて縄張りとしている。"

 

私の目撃情報に対するサルファの答えがこれだった。

確かあの全裸踊り子もロ(・)ー(・)ド(・)という言葉を口にしていたはず。

信憑性は高いが、もし違っていたらと思うと身が竦む。

 

「行くわよ、マゼンタ。」

「うん!」

 

不安を押し潰し、魔法で入り口を破壊する。

きっとベーゼはここにいる。

そう信じて、中から飛び出してくる賊や魔物を返り討ちにしていく。

ただひたすら奥へ。

真っ直ぐに進んでいると、ついに最奥と思われる大広間に辿り着いた。

 

「げっ!?アイツこの前のヤツじゃんか!?」

「何でバレてんのよ!?追跡出来ないんでしょ!?」

「あなたたち...!」

 

待っていたのは見知った顔。

ベーゼを連れ去った踊り子と、影を操る盗賊で間違いなかった。

情報は正しかった。

ならば。

 

「ベーゼ...!?」

「アズール...?アズールっ!あぁ、アズール!私はここですっ!」

 

最早懐かしい声と姿に思わず涙が溢れる。

無事でいてくれた。

鳥籠に囚われてはいるけど、傷を負った様子はない。

漸く見つけた、私の大切なベーゼだった。

すぐに助けようと駆け寄る。

しかし。

 

「危ないっ!」

「っ!?」

 

目の前を身の丈にも及ぶ"大剣"が遮る。

大剣は独りでに動き出すと、宙を飛び持(・)ち(・)主(・)の手に戻っていく。

 

「貴様が勇者か。」

「っ...あなたがロード団の長ね!」

 

長い黒髪に鋭い目付き。

これまた黒の甲冑に身を包んだ女。

その迫力は今まで対峙した誰よりもすごい。

一目で強いと分かった。

 

「イミタシオだ。ロードと呼ぶ部下も多いが、名乗るくらいはしてやろう。」

「それはどうも、ご丁寧に。私はアズール。ベーゼを返してもらいに来たわ!」

 

イミタシオは私の言葉を鼻で笑うと、部下二人を下がらせて自ら剣を構えた。

 

「ならぬ。貴様は知らないだけだ。この妖精の本性を。」

「ベーゼの本性?...何を、わけの分からないことを。彼女は私の大切な仲間よ。返さないと言うのなら、力ずくで取り戻すわ!」

 

元より話し合いで解決するつもりはない。

ベーゼを連れ去った罪は必ず償わせる。

剣と盾を構え、私はイミタシオに対峙する。

 

「ふん。ならば、貴様の旅はここまでだ!」

 

軽々と振るわれる大剣。

受け止めるのではなく受け流すように盾を使い、魔力を纏わせた剣で胴体を斬りつける。

 

「効かぬわ!」

「くっ...!」

 

鎧の防御力以上に、魔法が掻き消されていような感覚。

活路を見出だせないまま防戦一方の戦況が続く。

 

「アズール、あたしも...!」

「魔法など、私には効かぬのだ!!」

 

マゼンタの放った風の魔法も、鎧に近付くと霧散してまったくダメージにならない。

このままでは、負ける。

そんな時、目に止まったあ(・)る(・)光(・)景(・)が私の中に天啓を生んだ。

 

「これしかない...!」

「何をやっても無駄だと!」

 

大剣を間一髪で回避し肉薄。

後ろに回り込み"目的"の部位に狙いを定める。

ヒントになったのはマゼンタの魔法。

否。

"風"だ。

風が巻き上げたイミタシオの腰巻き。

その下に、確かに見えたのだ。

 

「そこよぉぉっ!!」

「ひぅっ!?///」

 

白くて綺麗な、丸いお(・)尻(・)がね!

キンキンに冷やした鞘でイミタシオのお尻をさわさわ。

冬のおトイレを10倍くらいにした冷たさがお尻を襲い、イミタシオは情けない声を上げてバランスを崩す。

すかさずその隙だらけの身体を押し倒し、魔力を込めた右手を振りかぶる。

 

「ええんか!ええんかこれがぁ!」

「いぎっ!?や、やめっ!?ぎゃあぁぁぁ!?!?///」

 

バシン!バシン!と。

砦に響き渡るイミタシオのケツ太鼓。

何故お尻丸出し仕様だったのかは分からないが、弱点があってよかった。

痛いだけで命を奪うことなく無力化出来るし、なんて勇者的な攻略方法なのだろう。

我ながら自分の才能が恐い。

 

「あなたが!泣くまでっ!叩くのを止めないっっ!!」

「泣いてるからっ!?泣くからお尻だけはもうやめてくれぇぇーーっ!?!?///」

 

まだまだ元気なようね。

疲れるけど、これもベーゼを取り戻す為。

そこから30分程、私の勇者的お尻ペンペンは続くのだった。

 

「ぅっ...ぅぅ...っ///」

「あのぉ~...ヒール、かけますね...?」

「うわぁ、ロードさまだっさ...。」

「悪のカリスマ、憧れてたんだけどなァ...。」

「ベーゼっ!」

「アズールっ!信じてました、ずっと...!」

 

飛び出したベーゼを掌に迎え、頬擦りで再会の抱擁を済ませる。

二度と離したりしない。

そう決意して、彼女の定位置である谷間に入ってもらう。

次からは咄嗟に挟む力が入るように乳圧の訓練をしよう。

 

「たわわぁ...いいにおい~...///」

 

これで心置きなく魔王討伐の旅に戻れる。

ベーゼとマゼンタと共に、私は必ず世界に平和を取り戻してみせる。

クビを洗って待っていなさい、魔王!

 

――――――――――――――――――――

 

夢の中で、また誰かの声が聞こえる。

 

「目覚...だわ...小...ちゃ...」

 

前より、少しだけはっきりと。

でも、やはり誰なのかは分からない。

知っているような、知らないような。

私に頼み込むようなその声を、更にはっきり聞こうとして。

そして結局、より深い眠りに落ちてしまった。

 

――――――――――――――――――――

 

『ぐえっへっへっ!みんなぐちゃぐちゃドロドロのR18キャラにしてやりますのぉ!』

 

そこからは激しい戦いが続いた。

何故か付いてきたイミタシオを仲間に加え、魔王軍との生死のかかる戦闘の日々。

 

『え?まさかこれ回想ですの?わたくしの出番これで終わり!?扱いがあいっかわらずひっでぇですのせめて一揉み!?後生ですのぉ!?』

 

魔王軍幹部であるパンタノペスカのスライム沼を乗り越え、私たちはついに魔王城の麓までやって来た。

関所が設けられているが、勿論それは外敵を駆逐する為だけの扉。

外敵である私たちが、すんなり潜り抜けられるわけがなかった。

 

「魔王様の反逆者とはぁ~...悲しいですねぇ…。」

「どうでもいいけど...飛ばす、ね...?」

 

門番として立ち塞がるのは二人の死神。

二振りの鎌を遮るようにして構え、私たちに交戦の意思を伝えてきた。

 

「聞いたことあるよ!魔王のお城を守る"血塗れのベルゼルガ"と、"粉砕のシスタギガント"!」

「ギガント...確かにでかいわね...。」

 

私より更に巨大な胸を見て納得してしまう。

あれはまさにギガント。

擬音は間違いなく"たゆん"ではなく"だぷん"である。

 

「マゼンタは下がっていろ。私とアズールでやる。」

「なんか急に仕切りだしたわよ...?」

「脈絡なく付いてきた割には態度がでかいですね。」

「せめてヒソヒソ言え!私はお前を心配してだな!?」

 

勝手に決められたことには文句があるけど仕方がない。

とりあえず、付いてきただけの女ことイミタシオと並んで剣を構える。

 

「......えへ///」

「......ふふっ。」

「んん?」

 

何やら不気味にニヤつく死神たち。

普通なら悪役あるあるの不敵な笑いで済ませるのだけど、それとはまた別な気がする。

 

「笑っていられるのも今のうちだけだ!」

 

視線が自分に向かっていることに気付いたのか、イミタシオは勇ましく声を上げ、死神を斬り伏せんと刃を振るう。

 

「悲しいですねぇ...。」

「えへ...///」

「くっ!?」

 

二人は大剣を軽々と避けると、鎌を踊るように使いこなし攻撃を始める。

息も吐かせぬ連携に、次第にイミタシオは防戦を強いられていく。

 

「見てないで手伝え!?」

「えー。しょうがない女ね、まったく。」

 

自分が飛び出したのだからもう少しくらい頑張ってくれてもいいのに。

所詮お山の大将ね。

...まあでも、首が飛ぶのは見たくはないか。

嫌々ながらに魔法を使い、氷の弾丸を何発も放つ。

 

「えへ、えへへ...///」

「ふふっ、うふふ...。」

「やっぱり、おかしい。」

 

弾丸は軽く打ち消されてしまうが、それなりの鬱陶しさはある。

一人くらいこちらに矛先を向けるはずが、どうやってもイミタシオからあの二人は離れようとしない。

 

「アズール。もしかしたらですが...」

「ぁ...ベーゼの囁きすっご...///」

 

少しトリップしてしまったが今はそれどころではない。

ベーゼのアドバイスを実行すべく、私は大魔法を行使。

イミタシオと死神たちの間に氷壁を作って戦闘を中断させる。

 

「助かった...やるならもっと早くにだな」

「ベルゼルガにシスタギガント!あなたたちに提案があるわっ!!」

「...?」

「提案、ですかぁ...?」

 

不機嫌そうに、でも一応鎌を収める二人。

怪訝な顔を向けるイミタシオに近づき、その両手を氷で拘束する。

 

「は?」

「こ(・)の(・)女(・)を(・)あ(・)な(・)た(・)た(・)ち(・)に(・)あ(・)げ(・)る(・)わ!だから私と仲間を通してちょうだい!!」

 

空間に衝撃が走る。

一方は意味不明。

もう一方は、"歓喜"。

理解が追い付かないのか、誰も声を上げない数秒間。

聞こえなかったのかと不安になり、言い直そうとした時。

 

「「いい(です)よ(ぉ)。」」

 

二人同時の快諾が返ってきた。

素晴らしい、完璧な読みだわベーゼ。

 

「はぁ!?おまっ、どういう!?」

「あたしはいいけど...そっちは、ちゃんと仕事したら...?」

「いえいえ血に餓えているならどうぞ勇者たちをお譲りしますぅ。私はあの方で満足しますからぁ。」

 

急にバチバチと睨み合うベルゼルガとシスタ。

思った通り。

彼女たちは間違いなく、イ(・)ミ(・)タ(・)シ(・)オ(・)を(・)気(・)に(・)入(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)のだ。

 

「よく分かりませんが、どうやら一目惚れのようですね。」

「攻撃が集中していたのも、早く戦闘不能にして持ち帰ろうとしていたからなのね。」

 

でなければ頬を赤らめながら戦いなどしない。

死神と言えど、やはり中身は乙女ということらしい。

漸く事態を理解し逃げ出そうとするイミタシオを踏みつけ、拘束を更に厳しくする。

 

「ま、待てっ!?お前それでも勇者かぁ!?」

「そうよ。私は勇者。私こそ正義。正義の為に身を捧げられることを光栄に思いなさい。」

「発言が悪役でしかないけどぉっ!?」

 

互いに傷つかない方法があるならそれが一番だ。

何と慈悲深い、勇者的選択なんだろうか。

イミタシオを二人の方に投げ捨て、何か言いたそうなマゼンタの手を掴む。

 

「えへっ...子どもは、何人...?///」

「たくさん愛してあげますねぇ...?///」

「えこわっ!?やめて触らないで脱がすなやめんむぅっ!?///」

 

振り返らず、私たちは魔王城へ繋がる門を進んでいく。

後ろから聞こえる悲鳴が、やがて快感に喜ぶ声に変わることを祈って。

イミタシオは犠牲になったのだ。

平和の為の、その犠牲にね。

 

――――――――――――――――――――

 

また、声が聞こえる。

 

『目を覚ますのだわ、小夜ちゃん。』

 

今度は、ちゃんと聞こえた。

でも、分からない。

目を覚ますって、どうするんだっけ。

小夜って、誰だっけ。

 

"あなた"は、誰だっけ。

 

――――――――――――――――――――

 

「アズール?...ねぇ、アズールったら!」

「っ...?」

「どうしちゃったの?もしかして疲れちゃった?少し休憩する?」

 

マゼンタの声で我に帰る。

今、何か夢を見ていたような。

疲れているのかと身体の感じを確かめるが、特に問題はなさそうだ。

 

「ごめんなさい、少しぼーっとしていただけよ。」

「大丈夫ですか?あなたに何かあったら、私は...」

「大丈夫。何も問題ないわ。」

 

心配するベーゼの頭を撫で、マゼンタに笑顔を見せる。

止まっていい時間なんてもうないのだから。

 

「気ぃ抜いたらアカンえ?もう魔王さんのお膝元やねんから。」

 

余裕そうに注意してくるのは、わざわざここまで援護にやって来てくれたサルファだ。

明らかにマゼンタ目的なのは視線を見れば一目瞭然なのだが、私は大人なのでわざわざ指摘したりはしない。

 

「マゼンタ、サルファ、それにベーゼ。これが最後の戦いよ。平和の為、姫の為。必ず魔王を打倒しましょう。」

 

仲間たちに、そして自分に今一度激励を送る。

気合いのある返事に勇気付けられ、私は最後の扉に手を掛ける。

 

「行くわよっ!」

 

勢いよく開け放ち、武器を手に中へ飛び込む。

目の前には広く豪奢な飾りつけの空間。

真ん中に長い階段があり、その先には禍々しい玉座があった。

 

「あ~ん?んだぁ?おめーらはよぉ~。」

 

気だるげかつ興味なさそうにこちらを見下す、二本角の悪魔。

間違いない。彼女こそ、世界を混沌に陥れている諸悪の根元。

 

「魔王、レオパルト...!」

「あぁん?さまを付けろよデコスケやろー。」

 

私を睨み付ける視線はそれだけで圧力を生む。

私の中の勇者の血がそれを跳ね除け、今こそ決着の時と心を燃え上がらせる。

 

「あなたを倒してマキナ姫を取り戻す!覚悟なさい、レオっ!」

「気安く呼んでんじゃねーぞこの乳豚がよぉー!」

 

魔王の怒号と共に数多の爆発が私たちを襲う。

マゼンタが魔法で障壁を発生させ、直撃を防いでくれる。

 

「今だよ、アズール!サルファ!」

「ええ!」

「おう!」

 

障壁を纏いつつ私とサルファは突撃。

魔王が生み出した射出口から放たれる弾丸をサルファの雷が相殺。

私が進む道を切り開いてくれる。

 

「魔王、覚悟っ!!」

 

一気に階段を駆け登り、魔王を間合いに捉える。

剣に魔力を全力集中し、渾身の一振りを繰り出す。

 

「ちっ...!」

 

斬撃自体は防がれたが、魔王の顔に初めて焦りの色が浮かんだ。

やれる。このまま戦えば、勝てる!

そう思い、再び魔王へ接近しようとした時だった。

 

「あぐぅ...!?」

「うがっ...!?」

「!?マゼンタ、サルファっ!?」

 

突然うめき声を上げて倒れ伏す仲間たち。

私自身も突然身体が動かなくなり、その場に膝を突いてしまう。

何が起きているのかと動揺しながら、ベーゼはどうなのかと胸元を視線だけで確認するが。

 

「い(・)な(・)い(・)...!?」

 

ずっと一緒にいたはずのベーゼが、いなくなっていた。

"途中ではぐれた?"

"それとも、知らず知らずのうちに攻撃を受けて吹き飛ばされてしまったの?"

言い知れぬ喪失感に苛まれる私の背後から、魔(・)力(・)の(・)刃(・)が(・)振(・)る(・)わ(・)れ(・)る(・)音が聞こえた。

 

「これで終わりです...マジア、アズール...!」

 

――――――――――――――――――――

 

あぁ、忌々しい。

私の脳裏に焼き付いて離れないあの姿。

その声を聞く度に、頭の中からまるで針を刺されたような痛みが走る。

不愉快で、不快。

なのに、愛おしい。

 

「あり得ませんね。」

 

私は魔法少女を愛している。

でもそれは彼女たちの正義を蹂躙する喜びからで、特定の誰かを特別視するなどあり得ない。

魔法少女はあくまでも獲物。

意識するような個人ではないのだ。

 

「なのに、何故...?」

 

何故私はこんなにも彼女が気になるのか。

水神小夜。

マジアアズール。

認めよう。確かに彼女は素晴らしい。

獲物としては。

凛々しく、強く。

決して折れないその心は理想の魔法少女だ。

だからこそ潰し甲斐がある。

それだけのはず。

それだけの、はずなのに。

 

「...欲しい。」

 

彼女を、私は欲している。

獲物でも、ヒロインとしてでもなく。

私を愛して欲しい、私が愛したいと際限なく欲望が湧いてくる。

あり得ない。

決して、あってはならないことだと思った。

 

「では、終わりにしましょう。」

 

だから、決めたのだ。

マジアベーゼとして、エノルミータの王として。

選択を誤る前に、終わらせてしまおうと。

 

「マジアアズールを、殺す。」

 

そう思ってからは早かった。

学園から帰るトレスマジアを追跡し、アジトを突き止め。

気を抜いていた彼女たちを奇襲した。

ネロアリスの能力で、基地の人間全てをま(・)る(・)ご(・)と(・)物(・)語(・)の(・)中(・)へ(・)閉(・)じ(・)込(・)め(・)た(・)のだ。

こうなってしまえば命を握っているのは私たち。

私はレオパルトと共に、物語の中へ自ら足を踏み入れた。

望み通りの役回りで、マジアアズールを確実に始末する為だけに。

勿論、私たちに精神支配は及ばない。

 

私が選んだのは、アズールの供をする妖精。

無条件に信頼されているという、あまりに裏切りやすいポジション。

すぐにでも寝首を掻いてやろうと、そう思っていた。

 

『ご、ごめんなさい...何か、嫌な夢を見た気がして...っ』

 

でも、出来なかった。

分かってしまったからだ。

何故か分からないけど、でも。

アズールは、確かに私を...。

気付けば、大丈夫だと励ましていた。

側にいると、側にいさせて欲しいと思っていた。

 

『アズールっ!信じてました、ずっと...!』

 

だから、彼女が助けに来てくれたことを、喜んでしまった。

物語で決まっていることだと分かっている。

でもきっと、彼女ならそうでなくとも来てくれたのだと。

頭でなく、心で分かってしまった。

 

『......』

 

妖精化を解き、眠る彼女の首に手を向ける。

一思いに握るだけ。

その為に私はここへ来たのだ。

やれ、早く。

やってしまえ!

 

『......アズールっ...』

 

出来なかった。

起こさないよう、彼女の身体を優しく抱き締める。

幸せだと、思ってしまった。

痛い。痛い、痛い、痛い。

頭が、心が。

痛くて痛くて堪らない。

わけが、分からない。

こんなの、意味不明過ぎる。

 

『これで終わりです...マジア、アズール...!』

 

だから、これでいい。

この一振りで全てが終わる。

おかしいのは、これで最後に出来る。

痛む心を必死に騙して、押し殺して。

私は自らの手で、彼女を終わらせようとした。

 

――――――――――――――――――――

 

「っ!?」

 

正体を現したマジアベーゼの黒刃を、間一髪で遮る氷の刃。

アズール、否。

マ(・)ジ(・)ア(・)ア(・)ズ(・)ー(・)ル(・)は立ち上がり刃を拮抗させながら、ベーゼと向かい合う。

 

「バカな...ここで、その姿になれるはずが...!?」

「なれるのよ...相手がアリスなら、私はね...!」

 

驚愕するベーゼを弾き飛ばし、アズールは刃を玉座に投擲。

空間がひび割れ、中から眠りに落ちたままの"華美なドレスを着た少女"が現れた。

 

「マキナ姫っ!」

 

アズールは飛行し、その少女を抱き留める。

彼女こそ魔王に拐われていたマキナ姫。

その役割を与えられていた、"ロボ子"だったのだ。

 

「なぜっ...どうしてこうも完璧に仕組みを理解しているのですっ!?」

「察するところまでは正解だったのだろうけど。この子の、ロボ子の友だちを想う気持ちを甘く見たわね、ベーゼっ!」

 

ギリギリではあったが、ロボ子の"SOS"は確かにアズールへ届いていた。

 

彼女はずっと望まない命令に従わされていた。

主であるアリスを操られ、ロボ子もまたベーゼの操り人形になったと思われていたが。

実は、彼女自身は間接的な支配を受けていたに過ぎず、僅かに自我を残している状態だったのだ。

アリスもベーゼもそれには気付いていたが、いざとなれば如何様にでも対処出来ると思ってしまった。

現実では、結局支配をはね除けることなど事実として出来ないからだ。

だが、"ここ"は違う。

 

「物語の中。つまりアリスが思い描いた、心(・)の(・)世(・)界(・)なら違うのよ。心の世界なら、ロボ子の想いだって強くなるんだから!」

 

役回りで自由を奪われながら、それでも増幅した意思の力を使い続けた。

ネロアリスの魔力を上回る力を秘めたアズールへ、"気付いて欲しい"とメッセージを送り続けた。

その強い願いが、マジアアズールの記憶と意思を呼び覚ましたのである。

 

「こんな強行手段に出るなんて...基地にはヒロインじゃない普通の人たちもたくさんいたのよ!それをこんな、無理矢理な不意打ちに巻き込んで...あなたらしくないわ、ベーゼ!」

「っ...黙りなさいっ...あなたに、あなたに何が分かると言うのですっ!!」

 

アズールの糾弾にいつもの余裕を無くし、ベーゼは無茶苦茶に闇の魔力を放ち乱れる。

眠ったままのロボ子を抱き抱え、何とか回避するアズールだが。

 

「手伝うねベーゼちゃん!」

 

エノルミータとしての姿に戻ったレオパルトが、ベーゼに合わせて砲撃を開始。

次第に回避が間に合わなくなり、ついに弾丸の一つがアズールに着弾してしまう。

 

「あぐぅっ!?」

 

ロボ子を庇い背中に傷を追うアズール。

派手に吹き飛ばされ、地面に激突するとロボ子から手を離してしまう。

 

「クスクス...」

「っ...アリ、ス...!」

 

苦しむアズールの真上から、今度はこの世界の主たるネロアリスが、真化した状態で姿を現した。

蠱惑的な笑みを浮かべ、ロボ子に魔力を流し始める。

眠ったまま苦悶の表情を浮かべるロボ子。

支配を完全なものにしようとしている。

させてはならないとアズールは立ち上がるが、敵もまた好きにさせるつもりはなかった。

 

「あなたの相手は私でしょうっ...!」

「あぁっ!?」

 

しなった鞭が鋭くアズールの身体を痛め付ける。

裂ける服、赤く腫れ上がる肌。

何度も何度もぶつけ、その度にアズールの悲鳴が広間に木霊する。

普段のベーゼなら涎を垂らし、身を捩るような快感の瞬間。

しかし、彼女の顔には一縷の喜びも浮かんではいなかった。

そこにあったのは怒り。

そして、何より明確な"悲しみ"だった。

 

「どうしてっ...なんで...!?」

「ベーゼ、ちゃん...?」

「なんで、こんなっ...くそっ...くそくそくそっ!くそぉっ...!!あなたなんかっ...アズールなんかっ...!あなたのせいでっ!私はっ...!あなたさえいなければっ...!!」

 

悪の首領ではなく、一人の少女としての慟哭。

否定し切れない感情を、理性が必死に押さえ付けようとして。

収まりきらない怒りや悲しみを、まるで子どものようにその対象へぶつけることしか出来ない。

 

「!......なぜ、止めるのです...?」

「っ...え、えとっ...んと...」

 

痛々しいその八つ当たりを止めたのは、誰よりベーゼを慕うはずのレオパルトだった。

部下の非礼に静かに凄むベーゼ。

レオパルト自身も戸惑った様子で、少しの沈黙の後震える手をベーゼから離した。

 

「なんか...ヤ(・)だ(・)っ(・)た(・)、から...」

「は...?」

「っ...レオ...あなた...」

 

傷ついたアズールを見るその瞳に、うっすらと流れる涙。

本人も理解できない感情を抱いていたのは、ベーゼだけではなかった。

その事実に驚愕し、言葉を失う。

それが彼女の中で、何か決定的なモノを壊ししまった。

 

「...くっ...くふふっ...ふふっ!あははっ!あはははははっっ!!!」

「べ、ベーゼちゃん?」

 

突如として笑い出し、その手に膨大な魔力を集中させるベーゼ。

矛先は無論、アズールただ一人。

 

「っ...!?」

「さよなら、小(・)夜(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)。」

 

もう何も考えたくない。

身勝手な暴走から、アズールを手にかけようと魔力を放つその瞬間。

自らの口から出た、意味の分からない言葉に揺さぶられた。

狙いは外れ、余波でアズールを吹き飛ばしたに留まる。

 

「うぐっ!?...っ...」

「小夜...ちゃん...?なんで、そんな...私は...マジアベーゼは、こんなっ...!」

 

頭を抱えて踞るベーゼ。

傷つき衣装もほとんど千切れてしまった状態で、それでもアズールは立ち上がった。

ロボ子を洗脳されかけ、最愛の三人が今まさに自分を殺そうとしている。

その絶望の中でも、確かに感じたモノがあったから。

立ち上がらずにはいられなかった。

 

「やっぱり...無くなってなかった...」

「何を、言って...?」

「ちゃんと、残ってたんだ...私の、一番大切なモノ...っ」

 

もう自分の中にしかないと思っていた感情。

どれだけ届かなくても、いつかは必ず取り戻してみせると思ったモノ。

届かない現実に、何度も諦めてしまいそうだったモノ。

それが今、確かにベーゼたちにはある。

その事実が嬉しくて、嬉しくて。

溢れる涙を拭い、とびきりの笑顔を見せる。

 

「うてな!キウィ!それに、こりす!私は、私はあなたたちを"愛"してるっ!たとえ忘れてしまっていても、殺したいと言われたとしても!私たちの愛は、確かにまだここに残ってる!!」

 

彼女たちと小夜が過ごした、かけがえのない日々。

一度は失ったはずの思い出でも、思い出せない言葉があったとしても。

紡いだ愛は決して消えることはない。

 

「だから、覚悟しなさい!今よ!今この瞬間が私の望んだいつかっ!愛が燃えて燃え上がって、誰にも負ける気がしない今なら!この今の為にっ!」

 

文字通り燃える魔力に包まれながら。

アズールは今までにない輝きを放つ。

 

普通なら歓喜するはずのヒロインの覚醒。

それに今、ベーゼは心からの恐怖を感じている。

レオもアリスも、アズールから目を離すことが出来なかった。

 

「私はマジアアズールになったんだから...!!」

 

銀を基調とした鎧にマント。

勇者時の装いに似たビキニな胸元に十字を携え、どこか聖職者然とした印象の衣装に身を包んだアズール。

マジアアルジェントの力を受け継いだ、アズールV2の本領発揮形態。

それがこの、"破邪の祓魔士"であった。

 

「真化...!?この、土壇場でっ...!?」

「チョーシ乗んなぁ~っ!!」

 

我に返ったレオが咄嗟に集中砲火を仕掛けるが、アズールは土と氷の壁を作り出し奇襲を防ぎ切る。

両手にそれぞれ炎と水の刃を掴み、真っ直ぐベーゼたちの元へ駆け出す。

 

「ビッ!」

 

アリスがロボ子の洗脳を中断し、下僕の人形たちを次々にアズールへと差し向ける。

大切なこりすの友だちを傷つけることに苦い顔をしながら、それでも心を鬼にして目の前の障害を斬り捨てるアズール。

しかしその影から見えたのは、人形ごと彼女を消し飛ばそうとする真化したレオの銃口だった。

 

「おっちねぇーっ!!」

「死なないわ、あなたたちの為にもっ!」

 

シュトラールの閃光を迎え撃つ、全ての属性を織り混ぜた虹の光剣。

容易くレーザーを斬り飛ばし、その余波は近くにいたレオとベーゼにも及んだ。

 

「なっ!?これ、はっ...!?」

「なんか、めちゃくちゃヤな感じっ...!?」

 

苦しむ二人だが、それは肌を焼かれた外傷からではない。

先ほどまで感じていた不快感、それが何(・)倍(・)に(・)も(・)強(・)く(・)感(・)じ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)からだ。

アズールの攻撃はまさに"破邪の一撃"。

ベーゼたちを取り戻す為に力を得た彼女の攻撃は、呪いを剥ぎ取ることにこそ効果を発揮する。

僅かに触れただけで、彼女たちの洗脳に多大なダメージを与えていたのだ。

 

「ベーゼちゃん早くっ...!?」

「ま、待ちなさいっ...!私は、まだっ...!?」

 

本能的に危機を感じたレオがゲートを開き、自らとベーゼをその中へ押し込む。

追おうとする身体を冷静に制し、アズールは人形たちに守られているアリスへと即座に狙いを変えた。

 

「...!?」

「おうちに帰る時間よ、こりすっ!」

 

腰に携えていた蛇腹剣を抜き放ち、人形たちを貫きながらネロアリスの身体を拘束することに成功する。

勢いのまま引っ張り、近づいてくるアリスの身体。

そのままアズールは右拳に破邪の力を漲らせ、彼女の持つ"大きな絵本"を殴り抜いた。

 

「...!」

「"まずは、このふざけた物語をぶち壊すっ!!"

ってね。」

 

物語世界の核となっていた本を破壊し、周囲の景色が真っ白に溶けていく。

気絶した仲間たちも消え、アズールが抱き上げたネロアリスは次第に杜乃こりすの姿へと戻っていった。

 

「悪い夢は終わったの。おかえりなさい、私の大好きなこりす。」

 

すやすやと寝息を立てるこりすを抱き締めると、言い知れない幸福感が彼女の心を満たした。

 

うてなとキウィは取り戻せなかった。

それでも、この手の中の温もりが、次こそは必ずと希望を与えてくれる。

また一歩進めた喜びを噛み締めて、アズールもまた物語から解放されるのだった。

 

――――――――――――――――――――

 

「ふぅ、疲れた疲れた。帰ってええ?」

「ダメだよ!今日も作戦会議するって言われてるし!」

「う~...さむさむ...。」

 

学校の授業を終え、最早お決まりとなった秘密基地への通勤。

トレスマジアの三人はそそくさといつもの定位置に向かう。

 

「...!」

 

そんな彼女たちを、正確には小夜を待っていた者が一人。

遊んでいたゲームのコントローラーを真珠に預け、人形モードのロボ子を抱いて駆け寄るこりす。

椅子に座った小夜の膝に、特に断ることなく自らの腰を掛ける。

 

「ただいま、こりす。たまネモにいじめられたりしなかった?」

「コクリ!」

「人聞き悪いわね訴えるわよシッター代寄越しなさいよ。」

「遊ばれてたの真珠の方だけどな。」

 

自然にこりすを抱き締める小夜。

嬉しそうに甘えるこりすも合わせて、何ともハートフルで微笑ましい光景だ。

冗談にツッコみながらも、誰一人として嫌な顔はしていないのがその景色の尊さを物語っている。

 

「前より圧倒的にベタベタになったわよね。」

「いいんじゃねーの?これで急に抱き枕にされる心配なくなったわけだし。」

「こりすちゃんが幸せなら、私はそれでいいのだわ。」

 

いつの間にか等身大姿になったロボ子。

とても人形とは思えない幸福そうな表情でこりすたちを見守る彼女を、はるかと薫子は物珍しそうに見つめる。

 

「ホンマにお人形さんなんやねぇ...。」

「ロボ子ちゃん...うーん、ぼこちゃんは違うしぃ~...」

 

人間としか思えないその姿に改めての感想を呟く二人。

はるかに関してはあだ名を付けようとしているらしいが、あまりに拡張性のない名前に難航している様子だ。

そんなやり取りを見たからか、小夜は思い出したように一つの提案を始めた。

 

「そのことなんだけど。いい加減、ロボ子じゃ可哀想だと思わない?」

「今更過ぎない?」

「言うな真珠。大人の事情ってヤツだ。」

「イソイソ...」

「こりすちゃん?」

 

ロボ子が名前とは如何なものか。

今更過ぎる気もするが、だからと言って遅いということもない。

小夜に促され、こりすは隠し持っていた手作りの帽子をロボ子に手渡す。

 

「これ...私の、なのだわ...?」

「コクリ!」

 

戸惑いながら、それでも嬉しそうに受け取るロボ子。

帽子を色々な角度から眺め、やがて気付く。

フロント左部分に、文(・)字(・)の(・)書(・)か(・)れ(・)た(・)ア(・)ッ(・)プ(・)リ(・)ケ(・)が付いていることに。

それこそが、こりすがずっと考えていた自分の本当の名前であることに。

 

さっきまで見ていただけのぽかぽかした何かが、今は自分の中にあるように感じる。

その不思議な感覚を抱きながら、ロボ子は帽子を被り新(・)し(・)い(・)自(・)分(・)を皆に紹介する。

 

「私は、"マキナ"なのだわ!」

 

彼女の名前はマキナ。

少女の願いと魔法が叶えた、奇跡の生命。

杜乃こりすの、一番のお友だちである。

 

「...と、上手くまとめて終わりたかったのだけど。」

「ええ感じやったのに茶々入れはるねぇ。」

 

抱き合うこりすとマキナ、彼女の名前を笑顔で口々に呟くたまネモにはるか。

そんないいフィナーレをキャンセルし、小夜はトランスアイテムを構える。

 

「いい加減起こしてあげましょう。今の私たちなら、きっと出来るわ。」

 

ついに真化の力を覚醒させたトレスマジア。

奪われた仲間たちも取り返し、残るはうてなとキウィのみ。

 

最終決戦の、その前に。

正義の味方として、目覚めさせなければなるまい。

眠り続ける、恩人たちを。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

◼️□Next episode◼️□

 

「みっちゃんは!」

「みち子様は!」

「「どっちと"結婚"」」

「するの!?」「するんですか!?」

 

「え、入籍は確定なんです...?」




6月に上がるか、7月に上がるか。
全てはモチベーション次第です←
気長に待っていてください。
エタりませんから。たぶん。


※8月24日追記
お待たせしてすみません。
現在体調を大きく崩しており、数日入院することとなりました。
鈍らない為に他の作品を上げることが多くなっておりますが、エタるつもりはないので安心してください。
9月中には投稿しますので、もうしばらくお待ち頂けますと幸いです。
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