ヒンメルはフリーレンを知らない【閲覧環境で結末変化】 作:ニヒツ
「はぁ、そんなに舞台の裏側を見たいなら存分に見ていってください」
『楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)』
見てはいけないものを見てしまった『あなた』は、永遠の楽園に囚われてしまった。
【エンド⓪:楽園】
「ヒー老人。今日も精が出ますね」
「ああ、まだまだ若い子達には負けないよ」
この村には『老人』がいる。
身長は低く、頭は綺麗に禿げ上がっている。
そして、立派な髭がトレードマークの『老人』だ。
彼はいつの間にかふらりと村へやって来て、そのまま居着いてしまった。
しかし、彼の面倒見の良さ と 人を助けずにはいられない性格に、自然と村人達は彼を受け入れた。
そして、なんと言っても圧倒的な
普段はヨボヨボに見えるのだが、一度剣を握ると人が変わったように覇気がみなぎる。
村を襲った魔物の群れから強そうな魔族まで、瞬く間に切り伏せてしまう。
村人達もすでに、彼がただの優しい老人だとは思っていない。
おそらくのっぴきならない事情があるのだろうと考え、深く詮索しないようにしていた。
彼は自分の名前だけではなく、過去の出来事すら何も語らない。
でも、強くて優しい彼をみんな大好きだった。
村人達はいつしか彼を『ヒー老人』と呼ぶようになった。
彼がいつも自分の名前を名乗ろうとする時、「ヒー? ひん? なんだったかな」と言うため、ヒー老人である。
「お爺ちゃん、早くしてよ。ハゲなんだからこだわったって意味ないよ」
「ハゲなりのこだわりがあるの」
今、ヒー老人は鏡に向かっている。
少しでもカッコ良くしようと身なりを整える。
今日は孫娘の結婚式である。
孫と言っても養子だ。
ヒー老人が村に受け入れられてすぐ、近隣の村を魔族が襲った。
その際、生き残った子供を引き取ったのだ。
彼女の名前は
なんでも、昔々に魔王を倒した『勇者一行の魔法使い』から付けられたよくある名前だそうだ。
魔族に家族を喰われたショックから家の外を極端に嫌い、外に出られなくなった女の子。
ヒー老人は根気強く彼女に寄り添った。
彼女の好きな花をプレゼントしたり、興味を示した魔法について話してみたり、いつのことかもあやふやな冒険譚を語って聞かせた。
いつしか彼女は外へ出られるようになり、元来の明るい性格を取り戻していった。
そうして、村で一番有望な青年を射止め、今日旅立った。
再び静かになったヒー老人の家。
孫との生活を振り返り、思い出に浸るヒー老人。
その夜、彼は『とある夢』を見た。
「僕達の冒険はこれで終わりだ」
「
不思議な夢を見た気がする。
ヒー老人はなにか懐かしいものを見たような気がした。
しかし、夢の内容を詳しく覚えている方が稀である。
彼は夢のことなど頭から振り払い、買い出しに出かけた。
ある日、いつものように買い出しへ出掛けていたヒー老人。
しかし、彼の目にいつもと違う光景が目に入る。
「お嬢さん見ない顔だね。この村ははじめてかい?」
ヒー老人は何かを探して、キョロキョロしている女の子に声をかける。
そうして、その容姿に驚いた。
雪のように輝く艶のある長い髪。
ちょっぴり太めのマロ眉。
涼しげな表情。
小柄な身体。
ついこの間、
唯一の違いは『長く尖った付け耳?』だけだ。
彼女はヒー老人を一目見る。
目を細め、より詳しく見ようと近付く。
そして一言。
「老いぼれてる……」
「言い方ひどくない?」
孫娘に似た少女との出会いは最悪だった。
しかし、どうやら誰かと勘違いしているようで、彼女はヒー老人の顔を再び凝視した。
「別人じゃないかな」
「いや、やっぱりヒンメルでしょ。ボケた振りはフォル爺だけで十分だよ」
ボケ呼ばわりとは随分酷い言われようだ。
自分は至って健康である。
先日も魔物を3頭退治して来た。
健康の秘訣はやはり適度な運動だ。
「フリーレンという名前に聞き覚えはある?」
あるに決まっている。
つい先日まで一緒に住んでいた孫娘の名前だ。
ボケるにしても先日見送った孫娘の名前を忘れるわけがない。
「これは予想外だなぁ。予定を変更して、しばらく滞在しようか。
ヒー老人が反論する間もなく、あれよあれよと孫にそっくりな少女と一緒に暮らすことになってしまった。
村の友人達からは、『子離れできず、そっくりの子供を拾って来た』とからかい半分に笑われ、生暖かい目で見られるようになった。
噂を聞きつけた孫娘からは、驚愕半分納得半分の不思議な反応をされた。
見た目だけでなく、名前まで同じと分かった時には、2人ともそっくりの顔で見たことない驚き方をしていた。
2人の珍しい表情はヒー老人の宝物として、記憶の中に大事に仕舞われた。
しかし、不思議な少女である。
友人達への説明が大変だと考えていたところ、彼女が何やら話すとみんな何か納得して帰っていく。
楽でいいのだがちょっと怖い。
「私は少女じゃないよ。エルフのお姉さんだよ」
彼女は少女ではなく、エルフのお姉さんらしい。
冗談のように聞こえるが、ヒー老人よりも年上だとか。
彼女とはまだ数日程度の付き合いだ。
それでもそんな分かりきった嘘をつく人ではない。
実際にそうなのだろう。
彼女のことは年上なので『フリーレンさん』と呼ぶことにした。
すると猛烈に機嫌が悪くなり、『フリーレン』と呼ぶように訂正された。
孫娘と被るのでその呼び方は避けたいのだが……。
「私の方が先についた名前なんだけどなぁ」
フリーレンとの生活はとても楽しいものだった。
1人だけだった家の中で、フリーレンは毎日旅の話を聞かせてくれた。
ところどころ、聞いたことのある話もあった。
旅先で聞いた童話や伝承を私に分かりやすいように手を加えて話してくれているのだろう。
まるで自分が物語の登場人物になったようでとても楽しいひと時だった。
彼女の話してくれる物語には、『ハイター』『アイゼン』『フリーレン』、そして『ヒンメル』と言う名前がたびたび出てくる。
『ヒンメル』とは私のことであり、『ハイター』は幼馴染の生臭坊主で、『アイゼン』は友人のドワーフで、『フリーレン』は彼女のことらしい。
私達は10年の旅の末、魔王を討ち果たし、最後の勇者として各地で祀られているようだ。
まさか自分が勇者だったとは驚きだ。
まるで信じてしまいそうな出来だった。
彼女の創作話はとても面白く、私をワクワクさせてくれる。
でも流石に私が『勇者』と言うのは分かりやすい作り話だ。
私にそんな勇気はない。
そんな勇気があればここにはいない。
私も勇者ヒンメルの銅像は何度も見たことがある。
近くの街へ孫娘と一緒に出かけた時だ。
立派な剣を掲げた
今の自分とは身長すら違う。
いくら年老いて腰が曲がったとはいえ、そこまで身長が低くなることはないだろう。
それに『僕の方があの銅像よりもっとカッコいい』だろう。
必死に物語を語ってくれるフリーレンの姿は、その日あった話を楽しそうに話す孫娘の姿と重なる。
ヒー老人はそれを再び見ることができて、とても嬉しかった。
「……このままだと埒が明かない。あれを試すしかないかな」
あれから数ヶ月たった。
今ではフリーレンも村に馴染んだようで、孫の幼い頃のように村の友人達から可愛がられている。
このまま幸せな日々が続けばいいと思っていた。
「この村を出て旅を再開するよ」
永遠に続くと思っていた幸せは、唐突に終わりを告げた。
しかし、改めて考えると当たり前である。
彼女は旅人であり、この村に立ち寄ったのも一時的なこと。
探し人もいるようだし、僕のわがままで彼女の時間をこれ以上もらうわけにはいかない。
「何を言ってるの? ヒンメルも一緒に行くんだよ」
ヒー老人は驚きのあまり、入れ歯が落ちた。
「前来たときとだいぶ街並みが違うな……」
「王都にも旅をしていたのかい?僕ははじめて来たよ」
フリーレンは50年前の凱旋以来の王都だった。
その後ろをあちこち見上げながら街並みを珍しそうに眺めるヒー老人。
そんな彼になぜか町人たちが次々と挨拶していく。
「ヒンメル様、採れたての野菜が入ったよ。一個おまけするからどうです?」
「ヒンメル様、この間は息子と遊んでいただきありがとうございました」
「ヒンメル様、おかげさまで元気な子が産まれたよ。今度抱きあげてください」
「ヒンメル様、あのね」
「ヒンメル様、あの時はどうも」
「ヒンメル様」
「ヒンメル様」
「ヒンメル」
ヒー老人は身に覚えのない話にうろたえながら生返事を返していく。
「フリーレン、僕はなぜこんなにもここの人たちに慕われているんだい?」
「それは50年前に魔王を倒したからじゃないかな。それにしても覚えている人が多いね。人間ってもっと忘れっぽいと思ってたけど」
ふたりは少し不思議に思いながらもとある通りに差し掛かる。
「確かここら辺……」
「……フリーレン?」
「ヒンメル……」
そこには『勇者ヒンメル』がいた。
「その人誰?」
「……わかんない」
【エンド②:双子】
「フリーレン様、早かったですね。まさか私が生きている間に再び『剣の里』へお越しいただけるとは思っていませんでした。マジ驚愕」
雪の降る中、剣の里を訪れたフリーレンたちを老婆が歓迎する。
「ちょっと事情があってね。今から剣のところへ案内してもらえるかな」
「ええ、いいですよ。サクッとやっちゃってください。
「フリーレン、君のお友達は変わった話し方だね」
ヒー老人は『里長』の見た目と口調のギャップに風邪をひきそうになりながら、フリーレンたちに続いて雪山へ立ち入った。
「こんなものかな」
「流石ヒンメル。魔物退治はお手のものだね」
勇者の剣に誘き寄せられた魔物と山の主を軽く捻り、ヒー老人は残心の後に納刀する。
フリーレンの出る幕はなく、改めて衰えていないヒンメルの剣技に満足そうに頷く。
それを見ていた里長は、魔王を倒した
「私たちが守ってきた勇者の剣ってなんなんですかね。私たちアイデンティティ喪失」
そして、里長がヒー老人へ近づく。
「これまでの数々の無礼をお許しください。あなた様こそが『
里長も言いたいことは色々ある。
しかし、それらすべてを飲み込み、自分の過ちを認めてヒー老人へ謝罪した。
その背後ではフリーレンがなぜか満足げである。
「いえいえ、なんのことかわかりませんが頭を上げてください。ほら、寒いですから洞窟の中で暖まりましょう」
洞窟の中には、1本の剣が刺さっている。
フリーレンと里長はもちろんそれを知っている。
今回、フリーレンが剣の里へ寄ったのは、この剣を見せればヒンメルの記憶が戻らないかと考えた結果だ。
正直可能性は低い。
それでもやれることは全部やる。
その覚悟がフリーレンにはあった。
幸いにも時間だけはたくさんある身だ。
じっくり旅を続けて行こう。
「なあ、フリーレン。さっきの戦いで剣が少し欠けてしまったんだ。この剣、かなり握り心地がいいからそのまま持っていってもいいだろうか?」
ヒンメルが剣を軽く振り、その重心と長さを確かめている。
どうやらとてもしっくりきているようで、持って帰りたいようだ。
「ダメだよ。それは勇者の剣と言って、この里の大事な宝なんだ。この里は良質な剣もたくさん売っているから後で武器屋に寄って行こう」
「……」
「それは確かにまずいね。似たような剣があれば良いなぁ」
ヒー老人は元の場所へ剣を戻し、吹雪のおさまった洞窟を出る。
「今回もダメだったか……。ヒンメルの記憶はどうやったら戻るんだろう」
「……」
「そう言われても知らないものは知らないからなぁ。何か美味しい物でも食べれば思い出すかもしれない」
ヒンメルの記憶を取り戻す旅は続く。
「あれ?……私の見間違いですか? マジ耄碌」
祠には、刺さる
【エンド③:真の勇者】
■ おまけ
著者:ニヒツ
メイン作品『シュラハトくん見逃して』の登場人物。
アウラによって不死の軍勢にされたが『勇者』に救われた。
彼らを幸せにするため、旅へ同行している。
趣味で『物語』を作っており、魔族の怖さや勇者ヒンメルの記録を後の世に残す活動もしている。
本作はフリーレンの情操教育用に彼が作成した『物語』である。
フリーレンがヒンメル生存中に人間へ興味を持つようになるかは、彼の活躍にかかっている。
関連作品:『最弱の七崩賢』、『エルフに呪われた一族』、『ふたりはフリーレン』、『幼馴染』などがある。
■ 次回
再会
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エンド⓪:
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エンド①:フィアラトール
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エンド②:双子
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エンド③:真の勇者
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エンド④:
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エンド⑤:幼馴染
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エンド⑥:亀毛
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エンド100:フリーレン様