しかし、その性格は相当難があるようで……
作者がウザい娘好きなのでご容赦ください
あと提督も負けず劣らず酷いです。
「卯月でーす。うーちゃんって呼ばれてま~す。よろしくぴょん」
着任のあいさつに来た睦月型駆逐艦「卯月」を前にして、提督と秘書艦の高雄は表情を凍りつかせた。
「こ、これはまた、なかなか」
「きょ、強烈ですね」
駆逐艦という艦種は個性の強さが特徴といってもいい。特に睦月型は見た目幼い子供のようである。それでも艦娘としての適性に問題はない、はずだった。
「まあいい。仕事さえしてもらえればいいさ。ようこそ卯月。この鎮守府は自由な規律を大事にしている。居心地は保障しよう」
平静を装って握手のため手を差し出す。
卯月はその手をぐっと力強く握ると、勢いよく上下に振った。
「司令官、よ・ろ・し・く・だ・ぴょ~~ん」
「いたいいたいいたたたたたた」
見た目は少女でも卯月は艤装をつけたままである。深海棲艦との戦いのため、艤装を付けた艦娘は超人的な力を持つ。
「あれ~? いたかったぴょん?」
「ふーふー、艤装を付けたときの力加減は早く覚えるように」
赤くはれ上がった手を大事にしながら卯月をたしなめた。
「ねえ、しれいかん~~」
卯月が顔を近づけてきて、まじまじと見つめてきた。
「な、なんだ?」
「よく見ると、結構カッコいいかも~」
「そ、そうか。ウチの艦娘たちは恥ずかしがり屋が多くてそんなこと言ってくれなくてなあ。いやあ、まいったな」
高雄を見ると目をそらして聞いていないふりをしていた。
「いやあ、卯月はいいコじゃないか」
「な~~~~~~んて、ウっソぴょ~~~ん、あはははは。普通こんなの騙されないぴょん。鏡もってないのかぴょん?」
提督を小馬鹿にしながら指をさして笑う。
提督の身体が小刻みに震え始めた。左手を強く握りしめ高く振り上げる。しかし、振りおろそうとした瞬間、後ろから手首をつかまれた。
「ダメですよ、提督」
「止めるな、高雄。鬼の規律を忘れたか!」
「さっきと言ってることが違いますし、何より規律違反を厳正に処罰するなら、提督はとっくにサメの餌になってます」
自由な規律は艦娘のためでなく、提督のためのものである。
「セクハラを繰り返す提督がなぜ無事なのかをお忘れなく」
「あれは艤装のチェック!」
「ああ、もう。相手は駆逐艦ですよ」
「女子供であろうと容赦せん!」
「それは提督が大人げないだけです。いえ、そういう意味ではなく、相手は『駆逐艦』
ですよ」
「だから」「ですから殴りかかっても返り討ちにあうだけですって」
そこで提督の動きが止まる。
卯月は提督を前にしてこれ見よがしにシャドーボクシングをしていた。ワンツーを「ぴょんぴょん」の掛け声に変えている。
先述の通り、駆逐艦といえども生身の提督がかなう相手ではない。
「うぐぐぐぐ」
歯を食いしばり目を血走らせて卯月を睨む。しかし、へらへらと笑うだけだった。
「提督、大人の対応、大人の対応です。いいですか、提督が子どものレベルに合わせてはいけません」
「ぐぎぎぎぎぎ」うなる提督
「どうどうどう」なだめる高雄
「ぷっぷくぷー」挑発する卯月
高雄が提督と卯月の間に強引に割り込む。
「卯月、着任のあいさつ御苦労さまでした。本日中に所属先を決めますので自室で待命していてください」
「りょうかいだぴょん。びしぃっ」
卯月の様になっている敬礼。そのまま何も言わずに執務室から出て行った。
提督はその姿が見えなくなると怒り狂うわけでもなく椅子に深く腰を落とした。
「よく我慢できましたね。まあ子どものすることですからそのうち付き合い方もわかるようになりますって」
「我慢? しないよ。もっといい方法思いついた」
提督は瞳の瞳孔が開いたまま執務室の扉をじっと見ていた。
そして、身体の奥底からにじみ出るような粘着質の声で命令する。
「神通を呼べ」
「そうなるんじゃないかと思っていました。では呼んできます」
駆逐艦はすべていずれかの水雷戦隊に所属する。そして水雷戦隊には原則として、1~2隻の軽巡洋艦が指揮・教育役としてつくことになる。
その中でも軽巡洋艦神通は控えめな性格に反して、一切の妥協を許さない鬼教官として駆逐艦たちから恐れられていた。
「泣く駆逐艦も黙る神通のもとで存分に教育されてくるがいいわ」
執務室から高笑いがしばらくやむことはなかった。
一週間後、――
「サー、イエッサー」
低音域が強化された卯月が提督の前に立っていた。目が据わっていて合わせるのが辛い。
「お、おう。ずいぶん印象が変わったな……」
「神通からは大変優秀な駆逐艦だったと報告が来ています。問題児と聞いて少々厳しくしたが、ミスもなく大変従順だったとのことです」
高雄は淡々と説明するばかりで何を考えているのかわからない。
「えっと卯月」「サー、何でしょうか」「い、いや、別に」「わかりました!」
提督の言葉に間髪いれず大きな声で反応する卯月にたじろぐ。
「おい、神通の教育はどうなってるんだ。さいとうたかをの漫画に出てきそうな濃い顔にしろなんて言ってないぞ」
「腕が鳴る、と神通は言ってました」
「サーとかウチじゃ他に誰も使わないじゃん。ここはホテルモスクワじゃないんだからさあ」
卯月が一歩前に出る。
「御不満があれば直接おっしゃってください。上官が白といえば黒も白になります。いいえ、白にして見せます」
「え、うん。心強いよ……。じゃ、じゃあさ普段の言葉づかいは元に戻そうか」
卯月は無表情無反応だった。
その圧倒的な存在感に提督の身体から汗が噴き出てくる。
「ほら、それじゃ他の駆逐艦との生活にもこまるだろ、な?」
「……了解、……した、ぴょん」
語尾は元に戻ったのにその強い存在感は衰えない。むしろ明確な敵意となって提督を襲う。
「うーちゃんを~、怒らせたぴょんね~~~」
赤い目がギラリと光り、尋常ではない怒りのオーラを漂わせている。
「ひっ、お、落ち着け」
「た~だ~では済まさないぴょーん」
「わ、わかった。卯月の所属は第一水雷戦隊にしてやろう、比較的やさしい阿武隈の部隊だぞ」
「うーちゃんの、うーちゃんの心の傷は~~~」
「高雄、助けて!」
「身体で痛い目を見ないとわからないのですから一度やられてください。卯月、ほどほどにするなら一発だけ見ないことにします」
「はーい」
事前に打ち合わせでもしてきたんじゃないかと思うくらい、高雄の言うことは素直に聞く。
「ふっふっふ、司令官~、うーちゃんの46㎝3連装砲をくらうぴょん!!」
「いやいや、お前が持ってるのは10㎝こうか――」
その時、執務室の扉が勢いよく開かれた。
「遅くなったな」
「な、長門。いいところに来た。卯月を止めてくれ」
我が艦隊のエース長門が現れた。こころなしか輝いて見える。
「いいや~、ちょうどいいところだぴょん」
「……まさか」
長門の装備する46㎝3連装砲の砲身が提督へと伸びた。
「すまない、提督」
「な、なぜだ……」
苦々しい顔をしながら長門は口を開いた。
「言うことを聞けば睦月型の全員と一緒にお風呂に入れると言われたのだ!! こんな話断れるか! いや、断れない!!」
「断われよ!」
「では、提督なら断れるのか!?」
「あー、それは……」
「そこは断りましょうよ、人として」
呆れと諦めから高雄は提督と距離を取り傍観している。
しかし、卯月め。長門の隠していた性癖をこの短期間で見抜いてやがる。やはり侮れない。
「ふっふっふ、ぴょん」
卯月の指が提督へと向けられた。
「うて~~、うて~~」
長門の砲身が震えたかと思うと提督の体は吹き飛ばされた。
弾はこめられていなかったが、46㎝砲の爆音はそれだけで執務室を無惨なものに変える。
書類と埃が舞い散り、視界がゼロになった。
「長門さん、一時撤退だぴょん」
「うむ、承知した」
どたどたとした足音が消えていく。
「提督、生きてますよね?」
「……かろうじて」
高雄もあおりを食らったようで身体中がほこりまみれだった。
「けふんけふん。それで提督、卯月はどうしますか? カーンカーンカーンですか」
解体?
生ぬるい。
「いや、高雄。今を持って君を秘書艦から解任する」
「はあ!?」
「このまま恨みを晴らさずにいられるかっ。卯月を秘書艦にしてコキ使いながら、復讐の機会を狙うことにする」
「正気ですか?」
高雄の顔をちらりと見る。同情を引くように涙を浮かべ、か弱い顔を作った。
「……もし――」
「もし困ったことになっても私は二度と秘書艦をやりませんからね」
「あ、そう」
見透かされていたか。
「さらに言っておきますが、私にも名誉というものがございます。突然、秘書艦を解任されれ、しかもその後釜が睦月型の新入りでは鎮守府内の噂の的になるでしょう。ですから今の提督の話は『きっちり』みんなに話すことにします」
「いやー、それはイカンよ。そんなことされたらさー」
「秘書艦になりたいなんて思う艦娘はいなくなるでしょうね」
これは相当怒らせてしまったようだ。つい感情的になっただけなのに訂正できる雰囲気じゃない。
「やっぱりさ――」
「では卯月に今の話を伝えてきます。引継ぎは明日には終えますので明後日からは新体制に移れますよ」
高雄はすでに執務室の扉に手を掛け出て行くところだった。
その眼は下衆をみるかのようで、浮かぶのは純粋なる軽蔑。本音を言えば、実に刺激的で快感だった。
「た、高雄、俺を見捨てない、で……本当に出て行っちまった。……片付けくらい手伝ってくれもいいのに」
散らかった執務室に一人取り残され途方に暮れた。
考えるのも面倒になり、部屋の片づけを始める。
しばらくして頭が冷えてくると現状の悪さに心が沈んでいくようだった。
許してもらえるかはわからないが、高雄には明日謝ろう。今回に限らず、これまでも苦労をかけ過ぎた。
ムキになりやすい性格も直そう。
初めて着任した時の、尊敬される提督になりたい、その言葉が不意に頭に浮かぶ。
今の自分はむしろなりたくなかった提督像じゃないか、本当に反省することばかりだ。
「失って気づく」そんな中学生が好みそうな音楽の歌詞に、いい年こいて共感してる自分が情けなくてしょうがない。
今からでも遅くはない。改善しよう。
だが、その前に――
「あの卯月に仕返ししてからなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
もとはと言えばあいつがすべて悪い。
提督に歯向かうなんて艦娘としての義務はどうした。
卯月にはどちらが上か、しっかりと叩きこまねばならない。
それができなければ、俺は前には進めない。
「これは、俺と奴との、戦争だ!」
――この後、提督と秘書艦の争いが昼夜関係なく続くことになる。
あまりに低レベルな争いに半分の艦娘が閉口し、残り半分は面白がって観察していた。
それも3か月を過ぎたころから、すべての艦娘がうんざりし始める。
するとその頃から二人の争いはパタッと無くなり始めた。
関わるのも嫌なので誰も触れないでいると、
ある日、卯月の手に指輪がはめられていた。
祝砲だと言われ、大和の砲身から提督と卯月が仲良く打ち上げられたことは言うまでもない。
卯月とケッコンカッコカリを終えたので勢いで作りました。
本当は3話くらいやるつもりでしたが大したオチでもないので、
最後はさっと流しています。