嵐が道連れとなりまして   作:ムラムリ

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1話の挿絵をskebで依頼しました。
1話目のあとがきにもリンク貼り。

https://x.com/xiuFyioC0AZYEtb/status/1841335097263554923


嵐と行く末を定めまして

 原初でありながらキュリアを侍らせているそのメル・ゼナは、エルガドの王である正真正銘の原初であるメル・ゼナの前で姿を消した。

 同時にエルガドの王が分厚い盾翼で急所を守り、そして翼爪による鋭い一撃が顔面を貫こうとしたのが弾かれる。

 二撃目も同じ翼爪で弾いて受け、次に尻尾の刺突が来るかと思えば、また姿を消して一瞬にして背後の上空に回り込む。

 そこから首を狙った尻尾の刺突をエルガドの王は瞬時に察知したのか、身を低く伏せながら尻尾を高く持ち上げてまた受け止めた。

 ガギィッ!! ギギッ……。

 三叉の先端が絡み合う。キュリアを侍らせているメル・ゼナが、洞窟の壁に翼爪を食い込ませながらエルガドの王を不安定な体勢へと持っていこうとするが、そうして力が込められようとしたタイミングを見計らってか、エルガドの王が唐突に振り解いた。

 逆に不安定な体勢になったのはキュリアを侍らせているメル・ゼナ。だが、瞬時にまた姿を消して距離を取り、今度は龍属性の波動が放たれた。エルガドの王は、それを盾翼で受けきり、払い除ける。

「キ、ククカガッ……」

 まるでダメージになっていないそれに、キュリアを侍らせているメル・ゼナは苛立ちを隠さないように唸り声を上げながらも、再びエルガドの王へと襲い掛かった。

 

 姿が消えたかと思う程の驚異的な瞬発力。それを織り交ぜながらの苛烈な連撃に対し、エルガドの王は流石に攻撃に転じる事までは出来ていない。

 だが、俺が目で追う事すら出来ないようなその攻撃の一つ一つを、エルガドの王はあたかも当然というように防ぎ切っている。無傷とまではいかずとも、瞬時に背後に回り込まれようとも、そこから繰り出される攻撃をまともに受ける事がない。

 派手な事は何一つとしてしていないのにも関わらず、思わず目を奪われてしまう程。

 体躯が何倍も異なる竜を相手に対して、全ての攻撃を受けきりながら反撃を狙う重槍使いを想起させた。

「ギッ、キアアッ!!」

 この二体の関係は、俺には分からない。だが、明らかに私怨があるかのように襲い掛かっているそのメル・ゼナは、どれもこれもが致命傷どころかまともに当たる事すら一度も無い事に、益々攻撃の苛烈さを増していく。

 そんな中。

「グ、ガ……」

『すまない……』

 クシャルダオラが俺の足元で呻き声を上げながら、謝ってきた。

 はっとする。

 よろよろとしながらも、起き上がろうとするクシャルダオラ。

「何がです?」

『その片目、もう治らないだろう? ……こんな奴が居るとは、思ってもいなかった』

「……命があるだけ十分ですよ。それに五体満足なだけでお釣りが来ます。

 それと、まだ起き上がらないで下さい。効果あるか分かりませんけど、傷薬を首と肩に流します。それとこれも噛み砕いて下さい。

 とても痛いですけど、人ならば砕けた骨も一瞬で繋がる効果があります」

 狭い空間だと言うのに、最早二体の戦いに俺とクシャルダオラは蚊帳の外になっていた。

 それどころか、徐々に距離が離れているのは多分、そのエルガドの王が上手く誘導しているのだろう。

『あ、ああ』

 少し恐れたようなクシャルダオラに対して、秘薬を調合での一個分を残して全て飲ませた。

 バリボリと少し音を立てて飲み込んだ、その少し後。

「…………イ゛ッ!? アア゛ッ!!??」

 血が滲み出している首の傷が塞がり、肩に深く開いた穴が埋まっていく。

「染みますけど、まあ、耐えて下さい」

『いや、待ってく』

 聞く前に俺はもう回復薬を直接振り掛けていた。

「ガァッ!!」

 のたうち回るクシャルダオラに触れないように、背中にも回り込んで。

『だから、待っ』

 流し込む。

「ア゜ッ」

 ……凄い声が出たな。

 その後、クシャルダオラは立ち上がって肩を回し、首を回し。特段問題なさそうな事を確認してから、無言で強く睨まれた。

 ……涙が出ている事は黙っておこうと思った。

 

 受け止める。弾き返す。重心を崩す。さも当然のように、エルガドの王たるメル・ゼナは、親となったメル・ゼナの、瞬間移動も織り交ぜた猛攻を捌き続ける。

 攻撃に転じる事まではまだ出来ていないが、それは親であるメル・ゼナがそうして体勢を崩された直後に瞬間移動で退避しているからだ。だが、それも無尽蔵に出来る訳ではないようで、明らかに疲弊し始めているのはその親であるメル・ゼナの方だった。

 着地しようとした足を払われ、その巨体がぐるりと転びそうになる。しかし倒れる前にまた瞬間移動を使い、背後に回って再びの奇襲しようとしたのに対し、既にエルガドの王は振り向いていた。

 王の前で見せた、少なくない回数の瞬間移動。既に移動先を読むにまで至っていたのに対し、もう攻撃所作に入っていたメル・ゼナは攻撃を止められず。

 振るわれた尾の叩きつけを、王は翼爪で正確無比に迎え撃った。

「ィィアッ!!??」

 串刺しにされた尾。親となったメル・ゼナは思わず悲鳴を上げ、振り解いて距離を取った。

「キ、キキ……」

 恨めしげにエルガドの王を睨みつける。

 ……レベルが違う。下位の狩人が身に余る装備を身に着けて子供のようにブンブン振り回しているのを、上位の狩人が剥ぎ取りナイフ一本で諌めるかのようなレベルの差。

「王……なんだな」

『私も、彼になら仕えても不満ではない。そう思う程だった』

 そのエルガドの王の後ろでじっと見ている俺とクシャルダオラ。その王の後ろ脚に、僅かに溜めが作られたのが見えた。……多分、目の前に居るメル・ゼナには気付けない程度の、それ。

「キィアアアアアアッッッッ!!」

 親となったメル・ゼナは侍らせていた、その身に隠していたキュリアを外に出して自らの身を噛ませた。

 首筋までもを含めてキュリアの毒素が全身を駆け巡り、全身が瞬く間に変貌していく……前に。エルガドの王は、跳んでいた。

 隠されていた、僅かな溜め。原初を刻むメル・ゼナとしての膂力。そして、翼の先端……長大なリーチを誇る槍の穂先の如きそれ。

 それらが組み合わされた結果。

 瞬間移動と言う程ではない。だが、親となったメル・ゼナは何も反応出来ないままに首を貫かれていた。

「ア……?」

 ずる、と槍を引き抜けば、吹き出すように血が飛び出していく。

 親となったメル・ゼナはそれでも足掻こうと翼爪と前脚を掲げるが、エルガドの王はその側頭を叩いて倒し、踏みつける。

「キアアッ、ィアッ」

 最期まで恨み辛みの籠もった声を上げながらも、エルガドの王はそれを意に介さないように、首をへし折った。

 

 その身に侍っていたキュリアも一匹残さず切り飛ばしてから、エルガドの王は一度溜息を吐くかのように、肩を竦めさせた。

 流石に、同族を屠ったのは思うところがあったのだろうか。

 そう思うが、すぐにこちらを振り向いて、返り血塗れなままにずんずんと歩いてきた。

 そして思わず後退ったクシャルダオラの首を三叉の尾で掴んで壁へと叩きつけ、思い切り顔を近付けられていた。

「キュア? キルルアアッ」

『いや、それは、あの……』

「キアアアッ!! ギュアッ、ギルルッ!?」

 どうにも詰められているようだった。

 そんな二体が唐突にこっちを向いた。思わず固まる俺に対し。

『王からの言葉を伝える』

「あ、はぁ……」

『俺は外に出すような力を何一つとして持っていないから、共鳴などという器用な事も出来ん。

 だからこうして、こいつを介して話す事にする。

 まず、あいつに関してだが……あれは、俺がキュリアに蝕まれていたところから解放した奴だった。

 いつからか姿を消していたが、自らあの糞野郎の手下になっているとは予想すらしなかった。

 ……こんな事態になった事は、本当に申し訳ない。

 あの糞虫には何一つとして奪わせないと決めておきながら、このザマだ。笑ってくれても構わない』

 エルガドの王は、事切れたメル・ゼナに複雑な感情を向けるような目を向けていた。

 けれど、またクシャルダオラに目を戻すと。

『だが、それ以上に。

 己の命を散らすどころか、付き合わされた貴様も死にかけるという結果になった……』

 そこで唐突に止まった。

 すれば、エルガドの王はクシャルダオラに顎下に翼爪を突きつけて、怒るように喉を唸らせた。

『……このバカの所業を一つ一つ並べ立てようと思う』

 ……ああ。

 クシャルダオラが非常に苦々しい顔をしていた。

『一つ。災厄級の古龍が居ると知りながら、それでも何とかなるだろうと思う程の自惚れ。

 二つ。自惚れるだけの実力まではあるが、それ以上の何かが待ち構えているとは微塵も思わない危機管理能力の無さ。

 三つ。それでも自身より上が数多に居ると言うのに、一定まで達してしまえば自らはこれまでと諦めたかのようにそれ以降は容易な手段にしか強さを求めなくなる愚鈍さ。

 四つ。俺がこの場所を教えた意図を多少察していたのにも限らず、潜る事をこの俺に直接伝えに来ない傲慢さ。

 五つ。その自殺行為に、好意を抱いている人間まで巻き込む、メンヘラっぷり』

 ……色々思うところはあるにせよ、最後で吹っ飛んだんだが。

 メンヘラなんて言葉、使うんだ。エルガドの民や猛き炎から何か仕込まれてないか?

『俺は、糞虫には何一つとして奪わせないと決意した。だが、一度目はそもそも出てくる羽虫の対処で手一杯で、二度目もこうしてこのバカのせいで計画を急がざるを得なかった。

 この場所の事を教えた俺が、貴様が片目を失う元凶であるのは、申し訳ない。

 だが、本当にこんな事までするとは思っていなかった。どれもこれも予想外だった。本当に申し訳ない。

 せめて帰ったら俺がこいつをみっちり鍛え直そうと思う。そしてお前もエルガドの民程度にまでなら鍛えられると思うから、それで許してくれ』

「いや、まあ、別に恨んでないので……」

 そう言えば、エルガドの王はぱっとクシャルダオラの拘束を解いた。

『そうか。有り難い。

 それでは行くぞ。アイツの加勢に行かなければ』

 そう言えば今度はカンテラを持っている俺を三叉尾で掴む。

「えっ?」

 そのまま先へと駆けて行くのに、クシャルダオラも遅れて追いかけてきた。

「……何が何だか……」

 正直、片目を失った事など最早些事に思えてきていた。

 

*

 

 広い場所に着いたかと思えば、降ろされてすぐにエルガドの王は飛び立った。

 そして目の前で先にガイアデルムと戦っていたネルギガンテと目を合わせると、特に諍う事もなく共闘し始める。既に、至る所にネルギガンテの棘によって串刺しにされたらしきキュリアの死体が数え切れない程に落ちていた。

 それに加えて気付いた事として、何か別に光源があった。ガイアデルムが自由に動ける程の広い空間で、カンテラなど必要ない程の光源。

 赤いものが大量にへばりついている、弱々しくも青白く輝いている繭。

 ネルギガンテよりもガイアデルムよりも、その異様な光の方に目が行った。

「……何だあれ」

 赤いものはガイアデルムと行き来しており、要するにそれは青い繭からエネルギーを吸い取っているキュリアの群れだった。

 その青白い繭。ネルギガンテと一緒で……新大陸の調査報告書でそっくりなものを読んだ覚えがある。

『ゼノ・ジーヴァとやらの繭か、あれは?』

 追いついてきたクシャルダオラが、聞いてきた。

「……多分」

 クシャルダオラでさえも、それに目を奪われていた。

『……あの王が言った通り、何かあっても私でも対応出来る位の、強くはない……まだ幼体であろうような災厄級の古龍しかいない。私はそう思っていた。

 だがまさか、起きていたのが幼体が幼体を喰らっている様だとはな』

 早速こっちにも向かってきたキュリアをクシャルダオラが風圧で吹き飛ばしながら、ガイアデルムとの戦いに目を移した。

 古龍の中でも随一の膂力を誇る、古龍を喰らう古龍であるネルギガンテ。

 攻防共に類稀な堅牢さを誇る、原初を刻むメル・ゼナ。

 遅れてやって来たのはネルギガンテを連れて来る……多分新大陸にまで寄り道をしていたからなのだろう。どういう関係なのかは分からないが、少なくとも連れて来れるだけの関係ではある。

 そして、二体は無数に群がろうとするキュリアを殆どその身に寄せ付けていない。

 ネルギガンテは敢えてキュリアの群れにその身を突っ込ませて、全身から生える棘で自ずと殆どを串刺しにしている。また、棘の生えていない腹側に寄り付こうとするキュリアは逐一己の自重で潰したりと。多少噛みつかれてもいるようだが、今のところネルギガンテ自身に変貌はない。

 メル・ゼナは素早い動きでキュリアが群がろうとするのを翻弄しながらも、翼刃や尾の突き刺しで的確に多数のキュリアを葬っている。

 だが二体に増えても流石にそれで手一杯になっているところが少なくなく、攻撃に移れているタイミングはそう多くない。

『……だが、時間の問題だろう』

「そう、だな」

 とは言えど。あの二体は、ネルギガンテと、原初を刻む……本来のメル・ゼナは、竜で言うところのティガレックスだ。

 特異な能力を持たない代わりに、基本の肉体が何よりも優れている。己の肉体の扱い方を誰よりも心得ており、それを使って場所や環境に依らずとも効率的な破壊を成し遂げて見せる。

 それに対して、ゼノ・ジーヴァという外付けの体力を得たところで、ガイアデルムは幼体だった。メル・ゼナやネルギガンテを大きく凌ぐ肉体を持っていても、報告書で見たような常識外れとも言えるような体躯ではない。

 撃龍槍など喰らおうものなら、それだけできっと致命傷になる程度の大きさ。

 そんなガイアデルム自身もその二体を叩き潰そうと動き回っているが、それに関しても単調な動きしか出来ていない。バルファルクのようにエネルギーを炎のように吹き出させて加速したり、ブレスを吐いたりもしているが、体躯に任せて振り回されるだけのそれを歴戦の二体を喰らう訳もない。

 キュリアを減らしてしまえば、残るのはデカいだけの木偶の坊。

 そう共に認識しているようで、キュリアの殲滅にまずは力を注いでいた。

『……加勢した方が速く終わるのではないか、とかは言わないでくれよ』

 クシャルダオラが、物凄く嫌そうな雰囲気を醸し出しながら言った。

「まあ……」

 それはマスターランクのクエストに上位の狩人が入り込むようなものだろう。

 

 キュリアはこちらにも来るが、クシャルダオラの嵐に巻き込まれてしまえば、平衡感覚を失ってぼとぼとと落ちるばかり。

 最早千は超えているであろうキュリアが地面に屍を晒す程になれば、流石に飛んでいるキュリアは目に見えて数を減らしつつあり、それまでにガイアデルムは二体の古龍に対して触れる事すら適わなかった。

 それは即ち、突出した破壊力を持つ二体の古龍の牙が、万全な状態でガイアデルムへと向かうという事……ガイアデルムが破滅を迎える時が来たという事だった。

 ネルギガンテが、上空からその身を回転させながらガイアデルムにタックルを仕掛ける。新大陸調査団が何を思ったのか、破棘滅尽旋・天、だとか大層な名前を付けられたそれは、しかし倍以上に体躯が異なるガイアデルムにさえも悲鳴を上げさせるという、その名前以上の威力を誇っていた。

 よろめいたガイアデルムに、すかさずエルガドの王たるメル・ゼナはその眼前より翼爪を交差させて首筋に大きく傷を刻む。

 致命傷とまではいかなかったが、キュリアがその首を守るかのように群がってくる。もう一度刻まれれば血が吹き出す事だろう。

「ヴゥア゛ァッ!! グアッ、グアァッ!?」

 ガイアデルムの不気味に大きく開く口から出るその叫びには、怒りはなかった。苦痛に呻き、助けをひたすらに求めていた。

 しかし、二体はそれを聞いても微塵も止まる事はない。破棘滅尽旋・天で棘の全てを砕かせていたネルギガンテは、気付けばもう既に棘を再生しており、再び空高くに飛び上がって二度目を仕掛けた。

 すれば巨体が壁まで押しやられ、それによって同じ場所を狙えなくなったメル・ゼナは、今度は容赦なく片目を潰した。

「ア゛ァッ!! ギャァッ!!」

 翼腕も含めた四本の腕が、来るな来るなと無茶苦茶に振り回される。ネルギガンテがその一本を真正面から受け止め、指の一本をへし折り、食い千切った。メル・ゼナがせめて一矢報いようとするキュリアを、ゼノ・ジーヴァの繭からエネルギーを渡そうと飛んでくるキュリアも含めて無慈悲に切り刻む。

「……ガイアデルムが何を言っているのか、分かったりするのか?」

『ずっと、あの殺されたメル・ゼナを呼んでいる。可哀想だと思うのか?』

「全く、って言ったら嘘になるが、まあ仕方ない」

『そうだな。仕方ない』

 生命を狂わせる毒を広範囲に放つという点ではマガラ種もそうであるが、ガイアデルムの場合はそれをキュリアという明確な意志を以て、どこまでも追いかけて来る。更にそれは解毒草を煎じてもやウチケシの実を噛み砕いても微塵も解毒出来ず、古龍にまで影響を及ぼしてくる。

 古龍にとってすら、放っておいては強い悪影響を及ぼしてくる、生かしてはおけない古龍。それがガイアデルムだった。

 大きく血肉を飲み干す音を立てたネルギガンテの全身の棘が、瞬く間に再生していく。舌なめずりをする姿を見るに、美味いと感じているのかもしれない。

 そして、三度目の破棘滅尽旋・天が繰り出される。すでに壁に押し付けられており、衝撃を逃がす場所の無かったガイアデルムのあばらに、ネルギガンテの肉体が深くにまでめり込んだ。

 大きく吐血し、崩れ落ちるガイアデルム。

「ア゛ァ……ア゛ァ……?」

 助けを求め続ける声を無視して、メル・ゼナはその首筋に近付いた。

 未だに首筋だけは護っている腕と翼腕に対し、腱を的確に切り裂いてどかす。

「ア゛ア゛ッ! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 死にたくないと叫ぶガイアデルムに対し、メル・ゼナは特に感傷に浸るような素振りも見せないままに首筋を抉り、噴き出したその血を全身に浴びながら、淡々と事切れさせた。

 

 しかし、それで全てが終わった訳ではなく。

 メル・ゼナとネルギガンテは、弱々しくもまだ輝いている青白い繭の方へと歩いていく。

 まだ、卵の状態のゼノ・ジーヴァ。

『何か話しているようだ』

「……殺さないのか?」

 成長すれば地脈を自在に操り、己の周囲の環境を自分好みに書き換えてしまう古龍、ムフェト・ジーヴァへと変貌するそれ。

 報告書に拠れば、最近まで語り継ぐ事すら禁じられてきたと言う、災厄を超えて禁忌の古龍、アルバトリオンと同格であるとすら言われている。

『ガイアデルムと違ってやっぱりこいつには食欲が湧かない、とネルギガンテは言っている』

「意外とグルメだったりすんのかな」

 地脈を自由に操作するという生態と、あの光り輝く繭も含めて、生命としての枠組みからどこかずれてそうだし、ネルギガンテと言えども食ったら腹を壊しそうだなとは思う。

『……理由はネルギガンテにも良く分かっていないらしい』

「へぇ……?」

 そんな時、唐突にそのネルギガンテがこっちを向いた。

 クシャルダオラが身構える。

 ……そう言えば、古龍ばっかりの空間なんだよな、ここ。その気になれば、国すら滅ぼせそうな力を持つ古龍ばかり。

 最早俺の感覚はイカれてしまったようだと思いながらも、メル・ゼナはそれを遮るようにネルギガンテの前に翼を置いた。

 するとネルギガンテはメル・ゼナから離れて向き合う、その横顔が見えた。

 ……ガイアデルムにも向けていなかったような好戦的な強い笑み。

 要するに、俺とクシャルダオラをダシにしてメル・ゼナ……エルガドの王と喧嘩したかったのだろう。

 連れてきた条件もそれだったりするのだろうか?

『……帰って良いのだろうか?』

 ほとほと疲れ果てたようにクシャルダオラはエルガドの王に聞いてみたが、思い切り睨みつけられて逆に固まる始末。

 待ちきれないようにネルギガンテが一声掛けるように吼えてから、メル・ゼナに襲いかかった。

 豪快に見えながらも、ガイアデルムを相手取った時より隙なく動いているのが分かる。また、メル・ゼナも破壊力だけならば確実に己を上回っている相手に対して、盾翼を使う事もないまま堅牢に立ち回っている。

 多分、どちらが勝とうが命までは取らないのだろうと思いながらも、生半可な存在が割って入ろうものならばすぐにミンチになりそうな迫力があった。

「……配下になっても良いと言っていた事、撤回します?」

『そう言おうが、もう撤回出来ないのだよな。アレにどれだけ絞られる事やら……。

 ……それよりも、貴様はこれからどうするのだ? 片目を失ってしまって……これからも狩人は続けるのか?』

「そうですね……」

 言ってしまえば、狩人という職業に最早、思い入れはそこまで無いのだ。ラージャンを単独で倒したと言えど、またあれをやれと言われてもやりたくはない。

 結局……俺は強さというものにそこまで拘りがない。そしてそれ以上に、人を、仲間達を守るという狩人の本懐に対しても、捨てられる程度の重みしか持っていない。

 俺が一番重要に思っている事は……誰も到達した事のない場所に足を付ける、ただそれだけの事。

 けれど。

「……その為には、狩人は前提なんだよなあ……」

『?』

 目の前では、ネルギガンテが破棘滅尽旋・天をメル・ゼナに仕掛けていた。メル・ゼナであろうともまともに食らったら必殺になりそうな威力のそれを、メル・ゼナは跳んで回避するどころか、突っ込んできた頭に的確に尾を振り下ろして反撃を返した。

 ネルギガンテの大角が見事に砕け散るも、それですら大した事のないようにネルギガンテはメル・ゼナに向き直る。

『ネルギガンテとやらは、角が折れようが、指や尻尾が千切れようが、目が潰れようとも、どれも治るんだとか。羨ましい事だ』

 だが、先にガイアデルムと一体で戦っていたからだろうか。メル・ゼナよりも先にスタミナが切れているのが目に見えていた。

 しかし、それでもまだやろうぜと挑発をしたネルギガンテに対して、今まで控えめに立ち回っていたメル・ゼナが一転して攻勢に回り、ネルギガンテの肉体に傷を刻みつけていく。

「……まあ。

 後の事は帰ってから考えますよ。その間は、絞られていて下さい」

『……来てくれないか? 私だけで王に絞られ続けるのは嫌だ』

「……考えさせて下さい」

 ネルギガンテは驚く程にメル・ゼナの猛攻を凌いだが、それでもメル・ゼナに牙を食い込ませるまではいかず。

 程なくして、メル・ゼナが体勢を崩したネルギガンテの首筋に翼爪を突きつけて、そこで喧嘩は終わった。

 だが立ち上がるのも難儀する程に血を流していたはずのネルギガンテは、ガイアデルムを喰らっている内にすぐに元の元気を取り戻していた。

 

 そして。

 青白い繭を眺め続けているネルギガンテを置いて、メル・ゼナがこちらへと歩いてくる。

『帰るぞ』

 クシャルダオラが、これからの事柄に憂鬱そうな顔をしながら伝えてきた。

「……あのネルギガンテは?」

『殺すかどうか、もう少し考えてみたい、との事らしい』

「へぇ……」

 新大陸の報告書では、ネルギガンテは一時ラージャンやイビルジョーなどと同等の、見境なく暴れるどうしようもない災害として扱われていた面もあったらしい。

 ただ、セリエナでのアン・イシュワルダと名付けられた古龍との戦いや、その後の調査も含めて、そのような災害とは決定的に異なるという結論に至った。

 己が自浄作用であると自覚しているのかそうでないのか、それは別にしても。

 その、弱々しくも今も尚輝いている青白い繭をただじっと眺め続けているネルギガンテからは、俺から見ても深い知性を感じられた。

 

*

 

*

 

 帰ってきたそいつは何故か片目を失っていた。

 けれど余りにも切り傷が綺麗だったのと即座に秘薬を噛み砕いた事もあって、きちんと治療を受ければその目が光を失う事まではない、との事だった。

 また、ネルギガンテがメル・ゼナと共にどこかへと飛んでいく姿が見つかった事なども報せとして入ってきたが、どうにも知っているようにしながら、そいつ自身は特に何かを言う事もなかった。

 ただ、今回の旅で思う事はあったのか、都市に近い場所で時に遠方の依頼も受けるような狩人の在り方はやめて、どこかの村の専属の狩人になる、との事だった。

 唐突に強くなろうと努力して、一年程度でラージャンを独力で倒せる程の実力まで駆け上がりながら、それでも狩人として上を目指そうとは微塵も思っていないような振る舞い。

 傍から見たら本当に訳が分からないのだろうし、俺としても本当にこいつは狩人という職業を本当に職業としか見ていないんだなと改めて実感する事となった。

 

 バギィを連れているような変わり者でも受け付ける事、それからもう何個か条件を出して村専属の狩人になる事への志望を届けたそいつの家に行くと、丁度届いていたような手紙の封を開けていた。

「決まったのか?」

 聞けば、そいつは何故か周りに人が居ない事を確認してから、小声で言った。

「目の治療も含めて、行くのはもう一年くらい後だけどな。クシャルダオラと会った山の、その麓の村に決まった」

 まあ、俺はほぼほぼ察していたし、周りの皆も古龍の装備を身につけている訳でもないのに何かの加護を得ているようだと専ら噂にしていたりするのだが。

「……出会いを聞いても?」

「そうだな……結局、俺とアイツは似た者同士だったんだよな」

 言いながら家の中に入って、俺にだけ酒を出してくる。

 治療中だからか酒は控えているようだ。

「俺が黙々と山を登っていたら、視界が開けたところで唐突に俺を待っていたかのように座ってたんだよ。

 俺、ちゃんと周囲の事も警戒してたと思うんだけど、うーん……今思うと、結構前から俺が山を登ってきているのを、その風を操る能力で感じ取ってたんだろうなあ」

 バギィも含めて聞くそいつの話は、中々に聞いていて面白かった。

 

「それで、片目を切られた原因に関しては教えてくれないのか?」

 ついでに聞いてみれば、バギィも聞きたいというように身を乗り出す。

 バギィの方は好奇心というよりかは、そんな大怪我をした事による不安からのようだが。

 ……愛されてるんだな。

「思い返してみると、あそこで起きた事が本当にあった事なのか信じられなくて、俺の夢なんじゃないかって思うくらいなんだよ。

 だから酒でも飲まなきゃ話せねえが、今はこうやって目の治療中だしさ。

 まあ……目の治療が終わった後に来てくれれば、話すかもな」

「お前……いつの間にか、新大陸調査団にも及ばないようなすっごい大冒険をしていたりすんのか?」

 そいつは、思い返すように虚空を見上げながら続ける。

「……それを、俺自身も信じられないんだよ。あそこで起きた事は、正しくそんな出来事だった。断言しても良い。

 で、だ。狩人の責務すら果たしていないような俺なんかが大冒険してちゃあ、あの教官は最早憤死しそうだよな?」

「あの人、優秀だけど頭固いからなあ……」

 こいつの事を嫌っているどころか、最早訳の分からない化け物を見るような目で見ているあの教官は、だからこそ、狩猟の腕前ですら最早並ばれてしまったのだろうと、少し思った。

 

 

*

 

*

 

 以前より明らかに艶めいたような鋼の外見と、より無駄の無くなったような所作。

 贅肉というものがクシャルダオラにあるのかは分からないが、以前より引き締まったように見える肉体。

 見るからにもう一段階強くなったクシャルダオラが久々に会いに来たと思えば、開口一番に。

『何だその装飾は? 人の美的感覚など私には分からぬが……似合ってないと思うぞ?』

「……俺だってそう思ってますよ」

 夜中になっても書物を読み耽っているような学者が付けているような、分厚い片眼鏡。バギィにすら笑いを堪えられるかのように目を背けられた。

『だが……見えるのか、その目?』

「これさえ付けていれば、どうにか。ただ、これのせいで兜を作る時もお金が余計に掛かったりと面倒なんですけどね」

『鱗の一枚でも渡せばその金とやらには困らないだろう?』

 そう言って早速鱗を剥がそうとしたクシャルダオラを止める。

「いやいや、別にそこまで金に困ってる訳ではないので」

 腕を上げろと言われて狩りをしていた一年くらいで、お金は正直有り余っている位だった。

「それで、久々に会いに来たという事は、修行は終わったんですか?」

『……ああ。聞いてくれ。あの王はな、まずこの私に足りていないところを、丹念に、丹念に数日掛けて私に思い知らせた挙げ句……』

『……それでな。どうにか一日を乗り切ったと思えば、くたびれ果てて寝ている夜中に唐突に叩き起こされてな。エルガドの王は冷淡な顔つきで起きろと言って、私が何が何だか分からない内に、私のいる場所に爪を叩きつけようとしてきて、そこから本当に動けなくなるまでひたすらに攻められて、逃げる体力も気力も失わされた』

『ただ……そういった時間を季節が変わるくらい過ごしていたら、気付いたら私の風を操る力も精度も以前とは比べ物にならなくなっていた。

 ……遠目で見る猛き炎の事も、以前よりは訳の分からない存在だとは思わなくなっていてな。ただ、それでもあのエルガドの王は、ここが貴様の始まりだと言って、そこから更に厳しくなって……ああ恐ろしい』

「……それで。扱きは終わったのですか?」

『ああ、本題はこれからなのだがな』

 本題?

『彼の王は、今でもカムラ、エルガドの狩人達と残るキュリアの駆除に共に臨んだり、はたまた模擬仕合をしたりしているのだが。それもあってそこに住む狩人達は、猛き炎には流石に劣っても、更に成長したこの私でさえも徒党を組まれれば未だ勝てないと確信する程なのだ』

 ……何か、嫌な予感が。

 クシャルダオラが俺の顔を覗き込んできた。

『正直に言おうか。私の苦労と同じ苦労を味わえ』

「あの……怒ってます?」

『怒ってはない。

 だが私が、毎日毎日エルガドの王に詰められた後に、貴様が何をしているかを時折見るとな。私がそこらの鉱石を貪るしかない体力しか残っておらず、最後に美味い鉱物を嗜んだのがいつなのかも思い出せない頃に、肉を食い酒なるものを飲んでゲラゲラ笑っていたり。硬い地面の上で横になるしか出来ない最中、そのバギィと柔らかい布の上で寝ていたり。

 貴様にも同じ目に遭って貰わないと気が済まない』

 それを怒っていると言うのでは?

「あの、その……一緒に行けなかったのはこの目の治療もあったからで……人にも色々と都合というものがあるのですが……。

 それに、ただの人間がまず並の狩人になるまで、その位の事は誰もがやっているのですが」

 イャンクックを倒せるまでにも果てしない苦労を積んでいる事は知っているのだろうか。

『知った事か。明日またここに来なかったら、街まで行って貴様を連れ去る』

 ……まあ、そんな事はクシャルダオラにとってはどうでも良いと。知ってました。

 そんな人里を嗜虐目的で襲うような下卑た笑みを浮かべてさえいるようなクシャルダオラに、俺が次に出せる言葉はただ一つ。

「……はい」

 

 結論から言えば、旅立つのが半年遅れたのと、少なくとも歴戦級の個体でなければ古龍であっても苦戦はしないという自負はついた。

 ただ、体力だけは馬鹿げた程にあるので、色々こってり絞られてももう動けないとまでならない俺にクシャルダオラは不満気だったけれど。

 強さというものは、あればあるだけ構わないものではあるが……街専属の狩人になるのに、クシャルダオラの鱗の威圧も加えてそこまで必要かと問われたら、ほぼほぼ必要ない。

 

*

 

*

 

 狩人になってから十年以上は過ごしてきた街を離れる日が来た。

 少しばかり見送りをしてくれる人は居るけれど、どちらかと言えばバギィの方に別れを惜しんでいる人の方が多いのはちょっともどかしくもあったりする。

 そんな中、意外にも俺をとっくに見放したはずの教官がやって来た。

「……何でしょう?」

 最後に嫌味でも垂れてくんのかなと、少し警戒した目を向けると。

「……いや。うん。その……何だ。

 何と言うかお前、いつの間にそんな古龍みたいになったんだ?」

「…………えっと、どういう意味でしょうか?」

「お前、もう雰囲気が人間じゃないんだよ。ギルドに来る時、中に入らずとも近くまで来るだけで、誰もがお前が来たって分かるんだよ」

「最近も、でしょうか?」

「特に最近はより強くなってるぞ。臆病なアイルーはお前を避けてるのにも気付いてなかったか?」

 ……あの鱗により加護を籠められてからは、街に居る時は胸当てももう付けてないんだけどな。

 俺はとっくに、クシャルダオラと鱗なしでも共鳴していたらしい。

 登山に心を奪われてからも、変わらず接してくれていた友人の名前を出す。今もここに居るが。

「まあ、詳しくは彼に聞いて下さい」

「自分からは言わないのか」

「言ったところでどうせ理解出来ない目で見られるのが目に見えてるので」

 世話になった人でもあるが、俺が登山を始めてから一番愚痴愚痴言ってきた人でもあるからか、毒が漏れた。

「…………」

「……今までお世話になりました」

 まあ。形だけでも礼は言っておく。

「バギィ、行くぞ」

 最後にと色んな人にナデナデされているバギィを呼ぶ。こっちに残っても良いんだよとか言われてたりもしたけれど、俺に付いて来る事を決めているようで、名残惜し気な人達を振ってやって来る。

 そこは嬉しかったりする。

 荷物としては大体は先に送ったので、残るのは金とギルド証やらと片手剣と、それから道中の食料とか。

 門の前まで歩いて、お別れの挨拶をさっと済ませて。

 門を出れば、バギィに乗って早足で新天地までの道のりに進み始めた。

 

*

 

*

 

 約三年振りくらいに訪れた、新天地となる山麓の街。

 ここの専属の狩人になる訳だが、まずここ最近ポポを奪っていった奴が居るとの事でそれを探す事になった。

 だが、案の定というべきか俺が探しに行けば真新しい痕跡すら見つけられなかった。

 クシャルダオラとキリン亜種の鱗を置いていっても見つかる気配が微塵もなかったので、本当に共鳴しているらしい。

 ついでに言えば、どれだけクシャルダオラの鱗と離れても千切れるような感覚を覚える事もなくなっていた。

 討伐するどころか痕跡すら見つからなくても、それは俺が出す歴戦の狩人のオーラというものだろうと勝手に納得されていたのだが、俺自身のオーラじゃないんだよなあと弁明するにせよ、それはそれでややこしくなってしまうので結局何も言える事はなかった。

 

 その後も竜が来る事はほぼほぼなく、けれど採集ばっかりしている最中にどこかからかイャンガルルガがやって来た。

 イャンガルルガにしてはどこも傷ついていないような、逆に珍しい個体であったが、類稀な才能を持つが故に一度も傷ついた事がない……訳でもなく、巣立ちしたばかりのような若者で相手取るのも楽だったので、捕獲してギルドに引き渡す事にした。

 オーラだけはあるが一度も戦った姿を見せていないという事で実力を疑われていたところもあったので、助かると言えば助かった。

 けれど……多分、相手取る事になるのは、こういう威圧を恐れない竜やらばかりになってくるんだろうな。

 そういう自覚をしてしまうと、強さが必要ないと言った事は撤回せざるを得なかった。

 

 イャンガルルガを捕獲してからは、また採集ばかりをする日々。

 また次第にアオアシラやウルクスス、イャンクックやジャグラス、フロギィなどの弱い竜が近隣に住み着く事が増えた。

 人里に近付き過ぎたりするものならば勿論狩るが、どう見ても弱い竜ばかりで討伐されるような事もしないような、己が弱い事を弁えている個体ばかり。

 積極的な討伐も少し村の人から求められたが、いざという時は異質な竜が来た時の壁になると答えておいた。

 事実でもあるし、それに弱いものいじめで、端金にしかならないような狩猟をするのも気が向く事ではなかった。

 そんな新天地での生活も少しずつ慣れてきた頃。

 唐突に村長に呼ばれた。

 何かやらかしたっけ? とか思いつつ行ってみれば。

「キリン亜種を連れたライダーがこっちに来るとの事だ。

 こちらとしては受け入れたくなどないのだが……どうにもあんさんに用があるようで。

 そうであれば、外で受け入れてくれんかね?」

「あっ、はい。そうします」

 

 翌日やって来た、キリン亜種を連れたライダー……ではなく、王と巫女と言うべきその一体と一人は、俺に告げてきた。

「クシャルダオラが、お前にもあの山には登れないだろうなとか言ってきたので確かめに来た、って」

「……そうですか」

 

*

 

*

 

 キリン亜種と巫女、バギィも含めての、霊峰への二度目の登山。

 道中を縄張りにしていたベリオロスがあろう事か山の上へと逃げて、自然と追いかける形になった。

 バギィすらも防寒具を必要とする場所で過ごす夜で、巫女はあろうことかキリン亜種との添い寝を選んでいた。クシャルダオラがテントの中に入っていく俺とバギィを何とも言えない目で見ていた。

 呼吸が以前よりもずっと楽な事に気付けば、巫女が寒さへの人外じみた耐性を得ていたように、俺も僅かながらに風を纏っている事が発覚した。

 先へと逃げ続けた哀れなベリオロスがクレバスに落ちかけていたのに、最低限の助けをしてまた先へと進み。

 意地で酸素玉を使わずに登山し続けていたキリン亜種がクレバスに落ちかけて、クシャルダオラに諌められた。

 迎えた最後の氷壁。

 流石にバギィを登らせる事は出来ず、そこはクシャルダオラに咥えて持ち上げて貰う事にして、後の各々はそれぞれ自力で登り。

 俺としては、前回とは比較にならない程に早く、荷物も落とす事なく、そして楽に二度目の登頂を果たした。

 

 キリン亜種は悔しげにしながら。

 巫女は流石に疲れた様子を見せながら。

 バギィが頭部分の防寒具を外すように頼んできて、脱がせてやればどこか満足げな顔をしていた。

「俺の片手剣と杖、普通に残ってるな。

 でも、これはこのままで良いか」

 これは俺が、何の加護もなしにここまで登ってきたという証明だ。……クシャルダオラの助けはあったけれど。

 昼過ぎの登頂。夜が来るまでにまた、テントまで戻らなければいけないから、そんなのんびりせずに戻らなければいけない。

 そう思って振り返ろうとすれば、クシャルダオラが隣にまでやって来た。

『二度目となれば、もう特に思う事もないか』

「率直に言ってしまえば、そうですね。

 貴方の加護も強くなってるようで、特に苦労する事もなかったですし」

『そうか……。

 なあ、その、何だ』

「……何でしょう?」

 何だかんだで古龍らしく高慢なこのクシャルダオラが、物を言いあぐねているなんて今まであったか?

『……その、私を敬うような言葉遣い、もうやめていいぞ』

「…………。……それじゃあ、遠慮なく」

 巫女とキリン亜種の親しげな様子に感化された、というよりかは、もう前々から思っていたようで言い出せなかったような雰囲気。

 クシャルダオラの方を見れば、それでも恥ずかしいように別の方を眺めていた。

 また、恥ずかしさを隠しきれていないように、耳がピコピコと動いていた。

 振り返れば、頂上にまで至っても大した防寒着を着る事もなかった巫女が大の字に仰向けになって。

「やりきったなー!!」

 と叫んでいた。

 帰る前に、クシャルダオラをトントンと触って、こちらを振り返らせた。

「それじゃあ、何と言うか。

 改めて、これからもよろしく」

『……そうだな、よろしく。

 貴様が寿命が迎えるまでは、貴様の道連れとなるとしよう』

「……俺の最期が、これからでも楽しみだ。

 じゃ、帰るか」

『そうだな』

 前を向き直して。

「休んでるところ悪いが、もう帰るぞー」

 巫女の不満気な声が山頂で響いた。 




おしまい。
後で活動報告書く。

書いた:
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=318292&uid=159026

それと、最終話で切り飛ばしたボツ文章:
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=318294&uid=159026

後日談:
https://syosetu.org/novel/358937/
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