かって陽炎型航洋直接教育艦の名は最新鋭の改インディペンデンス型戦闘艦に引き継がれた。
そして新生晴風の指揮を執るのは知床 鈴。
かって逃げ回ってばかりだった鈴は優秀な晴風艦長として海を行く。
支えてくれる多くの仲間達と共に・・・
*巨大有害生物担当チームをブルーマーメイド版に仕様変更しようと思って、
鈴を主人公にした設定を考えたのですが、それではもったいないと思い突発的に考えたものです。
*こんなの鈴じゃないと思われる方が居たら申し訳ございません。
硫黄島からほど近い海域にある岩礁に1隻の貨物船が座礁していた。
その上空に1機の偵察用飛行船が現れ飛びながらその映像を後方に居る母艦に送り始める。
後方でその映像を受け取るのはブルーマーメイド横須賀基地所属の改インディペンデンス型戦闘艦『晴風』。
明かりと言えばディスプレイや計器類の放つ僅かな光しかない戦闘指揮所の中央にある艦長席に座って指示を出しているのは知床 鈴二等保安監督官。
かって横須賀女子で使われ鈴達が乗艦していた陽炎型航洋直接教育艦『晴風』は現在は退役し記念艦として横須賀女子で保存されている。
そして新たに就役した改インディペンデンス型戦闘艦にその名が引き継がれ、かって航海長として乗艦していた鈴が艦長に選ばれたのだ。
この状況に鈴は未だに困惑と戸惑いを感じていた、現状から逃げる事しか頭になかった自分が思い出深い晴風の艦長になった事で。
もちろん鈴の晴風艦長就任をかっての仲間達は心から喜んでくれた。
その作戦立案能力を買われハワイにあるブルーマーメイドの本部に勤務している岬 明乃。
横須賀女子の優秀な指導教官として後輩達の指導に当たっている宗谷 ましろ。
ブルーマーメイド安全監督室情報調査隊でその情報収集力と分析能力を発揮している納沙 幸子。
など今それぞれの場所で活躍している仲間達が鈴の晴風艦長就任時に再び集結し盛大なパーティーを開いてくれたくらいに。
だから鈴は仲間達の応援に奮起し新生晴風の艦長として努力を惜しまないと誓い行動して来た。
ブルーマーメイドとして海に生き、海を守り、海を往く事が出来る様になったのは今も昔も応援してくれる仲間達がいたお陰だと思って。
「艦長、ドローンが目標を確認しました、座標L11、距離30キロです。」
ディスプレイを見ていたセンサー担当の乗員が報告する。
「映像をこちらにもお願いします。」
艦長席に座って居る鈴が指示を出す。
すると指揮所前面に据え付けられたディスプレイに座礁している貨物船の映像が写しだされる。
「進路をL11へ機関半速。」
「進路をL11へ取ります。」
「機関半速。」
操舵担当と機関担当が復唱し晴風を岩礁に接近させて行く。
「艦長、予定海域に到達しました。」
1時間後航海担当が航法ディスプレーから振り向いて報告する。
「機関停止、臨検班は甲板に集合、本艦は警戒態勢を維持願います。」
艦後方のミッション・ベイにM4カービンとタクティカルベスト姿の臨検班が集合する
「さあ出発しましょう。」
班長の指示で各員がスキッパーに搭乗すると艦尾の門扉が開き臨検班は船に向かって行く。
到着すると班員の1人が素早く甲板に上がりロープを固定し班員達が次々に甲板に上がって行く。
上がった班員が慎重に船室のドアに近づき様子を探る。
「班長、やはり鍵が掛かっています。」
「解除出来ますか?」
「少々お待ちください。」
鍵を確認した班員がベストから道具を出すと解除に掛かる。
この辺は慣れているので数分も掛からず鍵は解除される。
解除を終えた部員が顔を見て来たので鈴は頷き返すとドアが開けられ突入する。
「こ、このおお!!」
その直後男2人が鉄棒らしきものを持って先頭に居た班長に襲い掛かって来る。
班長はその攻撃をカービン銃で弾き返すと、それによりバランスを崩した男をストックで壁に叩きつけ昏倒させる。
「こ、このう!」
続いて襲ってきた男も班長は鉄棒を回し蹴りで弾くとストックで腹部に一撃を加え同じ様に昏倒させる。
倒れ込んだ男2人は後続の班員達によって素早く拘束される。
「お見事です班長。」
「いえ、野間教官に比べればまだまだですよ、このまま制圧しますので続いて下さい。」
班長はかって晴風の見張員で今は呉の海洋学校で教官を務める野間 マチコに訓練を受けていた。
マチコはシュペー救出作戦時に見せたあの見事な体術を見込みのありそうな生徒達に教えていたのだった。
その後も班長と班員達は船内を進み抵抗する者達を次々と制圧して行く。
やがて船内の制圧を終えるとブリッジへ踏み込む臨検班。
「ブルーマーメイドです、そのまま動かないで!」
カービン銃をブリッジに居る者達に突きつけると全員手を上げる。
「これで全員ですか?」
船長らしい男に班長が尋ねる。
「そ、そうだ・・・」
船長はそう答えるが臨検班を率いるベテランの班長を誤魔化す事は出来なかった。
「嘘を付くならなおさら罪状が増えます、正直に・・・」
その時だった甲板に居た班員の叫び声が聞こえて来た。
「班長!船からボートで逃げ出して行く連中が・・・」
すぐさま外へ通じるブリッジのドアを開けて班長は飛び出す。
逃亡図る小型ボートが見えたが班長は慌てた様子も無く持っていたカービン銃を構えボートのエンジン部を狙う。
息を止めカービン銃の引き金を引いて銃声が響くと、ボートのエンジンが音を立てて弾け火を噴いて停止する。
すぐさま班員達が逃亡を企てたボートへスキッパーで向かい確保すると船に戻って来る。
それを確認後班班長は乗員の男達を晴風へ連行する様指示を出すと捕らえたボートに向かう。
「こちらです班長。」
ボートを調べていた班員が作業を中断すると姿勢を正して班長を迎える。
「何か見つかりましたか?」
「はい、見て頂けますか。」
そう言って班員は鈴に班長に散らばったラベルの貼られていない箱の一つを渡してくる。
班長は渡された箱を開封し中に入っているのが何かのパーツである事を確認する。
「・・・」
それを暫く見詰めてから班員達に指示を出す。
「全ての箱を回収し晴風へ、あと艦長に報告を。」
「はい班長。」
指示を受けた班員達が箱の回収に入り、1人が報告の為晴風に通信を送る。
「非合法の電子パーツですか?」
指揮所で報告を受けた鈴が副長に問い掛ける。
「はい、どうやら以前情報調査隊から情報のあった違法パーツの密輸船だった様ですね。」
その後の取り調べでブルーマーメイドの監視を逃れる為、わざわざ危険な海域を取ったところ座礁してしまったとの事だった。
「情報調査隊の納沙二等監察官へ通信を。」
「はい艦長。」
1時間後通信を受けた調査隊の幸子から連絡が入る。
「連絡をありがとうございます知床艦長、お疲れ様でした。」
「いえ任務ですから納沙二等監察官。」
調査隊のオペレーションルームで幸子はディスプレーに写る生真面目な表情の鈴にほほ笑む。
冷静にそして淡々と返す鈴にやはり彼女は変わったなと思いながら。
海洋学校時代は常にびくびくとしていて自分自身に自信が持てず、逃げる時だけは生き生きしていた鈴が今では優秀な艦長になった事に幸子は心から喜んでいた。
まあそう言うと鈴は乗員と晴風が優秀でそんな存在に常日頃から助けられているからだと言うが。
いくら優秀な乗員と晴風が有ったとしてもそれを指揮する艦長が無能だったらそれはただの宝の持ち腐れだと幸子は思っている。
それは明乃やましろなど教育艦時代の仲間達も常日頃からそう認識しており、だから鈴が晴風の艦長であることを当然だと考えていた。
「密輸船と乗員の確保は今後の捜査の進展を助けてくれます、これで密輸組織の実態に迫れますね。」
国外内に組織を持ち幾多のダミーを駆使してブルーマーメイドやホワイトドルフィンに尻尾を掴ませなかった連中を検挙出来ると喜ぶ幸子。
「それは良かったです、私も貢献出来て嬉しいですね。」
ドヤ顔で言う幸子に鈴は微笑み返しながら答える。
今後は国内においては警察と税関、国外ではICPOや他国のブルーマーメイド等と連携して捜査が行われると幸子は今後の流れを鈴に説明する。
「場合によっては知床艦長に再びお力をお借りするかもしれません、その時はよろしくお願いしますね。」
「もちろんです納沙二等監察官。」
表情を真面目に戻しそう言った後、幸子は業務用ではないタブレット(彼女が海洋学校時代から使っている)を指さしてくる。
その意図を察し鈴が自分のスマホを見ると幸子からのメールが着信していた。
『久々にクラス会でもしようかと思って皆に声を掛けてます、都合が付けば鈴さんもね。』
業務中の私的メールは規則違反だが、幸子は気にもせず送ってくる事が多い。
苦笑しつつ鈴は頷いて見せる。
「それでは知床艦長、失礼します。」
「はい。」
通信を終え受話器を置くと鈴は海上を映しているディスプレーを見ながら、明乃達と久しぶりに会えるなと喜びに浸る。
「・・・通常の哨戒に戻りましょう、各員配置について下さい。」
「「「はい艦長。」」」
だが直ぐに表情を引き締めると乗員達に指示を出す。
鈴と新生晴風は今日も海を行く、かって仲間達と廻った海をこれからも。