【完結】インターネットミームしか喋れないTS強化人間 作:むにゃ枕
極彩色の空間に一人の少女がいた。ありのままの姿を曝け出す少女は、虹色の向こうへと手を伸ばす。
【本当に、あなたの対価はそれで良いの?】
「構わない。だって、わたしは人を殺しすぎた。ようやく人の温かさを知ったのに、わたしの中にはたくさんの死者の無念が渦巻いている。わたしは、生きるべきじゃないから」
女がいた。リリアンは直感的にそれを死神だと思った。黒衣に黒髪。容姿は整っているが、死そのものであることは否定できない。
死神の黒髪には、刻が混じっている。死神は、刻の代弁者でもあり、異物であるリリアンの監視者でも有った。
【バカね。後ろを見なさい】
「後ろ?」
そこには、アムロ、カミーユ、シャアが手を差し伸べているのが見えた。
「向こうに行くのはわたしだけで良いのに。余計なことをする。巻き込まれたら無事ではいられないのに」
【あなたは、一人じゃない。まだ、わからない?】
死神が、差し示す方向には、現実世界のガーベラを助けようとするガルバルディβの姿が有った。
「なんで……わたしなんかを……」
【分かったでしょ? あなたは必要とされているのよ。でも奇跡には対価が必要なの】
死神が、リリアンの心臓に手を伸ばす。
【あなたの支払う対価は何かしら?】
「わたしの支払う対価は……わたしのちから。生きて、わたしはレクトに会う。そして、自分の言葉で思いを伝えたい」
【賢明な選択ね】
刻は対価を受け取った。そして奇跡が実行される。サイコフレームの光が、アクシズを包み込み、地球から離していく。その光は、地球からのみではなく、遍く地球圏へと降り注いだ。
とある病院で、寝たきりの女に意識が戻る。眠れない兵士が、静かにベッドの中へと導かれる。狂気に呑まれた男の目に、理性の光が戻る。
その光は、ちょっとした奇跡を地球圏へ惜しげもなく与えた。
【あなたの選択に、祝福があらんことを】
女の声が聞こえた。奇跡を体験した者の中には、少なからずそんなことを言う人間がいた。
発光現象を起こしたガーベラには、原型がなかった。結晶化し増大したサイコフレームが、機体を繭のように包みこんでいた。
「リリアン。無事でいてくれ。頼む。リリアン」
レクトは、ガルバルディβで、コクピットブロックを覆うサイコフレームの結晶を丁寧に剥がす。
コクピットから降り、強制排除コマンドを打ち、ガーベラのコクピットを無理矢理開く。
サイコフレームの浸食は、コクピット内にまで広がっていた。糸状に結晶化し、蛹のようになったヒトガタ。それをレクトは剥がす。
リリアンのノーマルスーツは、サイコフレームと一体化していた。無理矢理、それを引きちぎりヘルメットのバイザーを開く。
「ありがと。レクト」
少女が笑った。リリアンの笑顔をレクトははじめて見た。
「良かった。お前が生きていてくれて本当に良かった」
「もう。泣かないで。酸素がなくなっちゃうよ」
リリアンは、バイザーを閉じレクトと共にガルバルディβのコクピットに入る。
「わたし、もうニュータイプ能力をなくしちゃったみたい。だから、優しくしてよ」
「当たり前だ」
「愛してるレクト。あっ、違う、恋愛的なアレじゃなくて家族的なアレだから。レクトは、わたしのこと、ずっと見捨てなかった。ずっとわたしを愛してくれた。ありがとう。大好きだよ。お父さん」
「俺もだ。リリアン」
後にアクシズ動乱と言われる一連の紛争は、これにて終了した。
アクシズ動乱の結果を受け、地球連邦軍は外郭新興部隊ロンド・ベルを設立。ブライト・ノアを初代艦隊司令に任命した。
アムロ・レイは、ブライトの右腕として、治安戦に活躍することとなる。また、カミーユにより保護されたティターンズの強化人間、フォウ・ムラサメとロザミア・バダムもロンド・ベルの一員となった。
クワトロ・バジーナは、連邦軍を退役。妻のナタリー・バジーナと共に平和に暮らしている。ナタリーとクワトロの間には三人の女の子が産まれた。
カミーユ・ビダンは、ファ・ユイリィが妊娠したため、彼女と籍を入れた。カミーユの両親は孫の顔を見て、家族関係を改めた。カミーユは、アナハイムのテストパイロットとして意欲的に働いている。
ジェリド・メサ、ライラ・ミラ・ライラは、なんやかんや有り、結婚することとなった。
ジオン共和国は、アクシズの残党を取り込むことなく、穏健派により運営されることとなった。
ミネバ・ザビは、反ハマーン派により、ハマーンの支配前にアクシズを脱出。その後、アナハイム・エレクトロニクスにより匿われ、成長後はジオン共和国穏健派の旗印となり政治的な象徴となっている。
ミネバは、たまのお忍びが唯一の趣味となっている。また、幼馴染のバナージ・リンクスを憎からず思っているらしい……
UC0100を迎えても、サイド3は平和だった。アクシズ・ショック以来、ジオン残党は瓦解。極小規模なテロリストはいたものの、地球圏は平和を享受していた。
フォン・ブラウンのアナハイム・エレクトロニクスのオフィス。そこでリリアン・レイドは、退屈な事務書類と闘っていた。ニュータイプとしての能力が刻の向こうに消えたリリアンは、多少変わったところのある普通の女性になっていた。
ちょっとファザコン気味なところはあるものの、普通の子よ。彼女の同僚はそう評する。
かつて、インターネットミームしか喋れなかった強化人間は、もう普通の女の子に戻ったのだった。
「お父さん、あんまり甘いもの好きじゃないんだよね」
強化の代償として失った味覚や嗅覚は、すっかりリリアンに戻ってきている。おかげでリリアンは、ちょっと食べ物にうるさくなってしまった。
ちょっとしたスイーツを自分へのご褒美として買ったリリアンは、家路を急ぐ。
「あれ、お父さん」
「リリアン」
「この時間に帰りなの珍しいね」
駅ホームで出くわすレクトは、リリアンの顔を見て笑いかける。宇宙世紀は今日も平和だった。