いろんな世界でASI(人工超知能)を投入する短編集   作:深海水塊

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インディペンデンス・デイ:リサージェンス

高尾山の中腹からは、ゆっくりと波紋の様に広がる巨大な炎の壁が東京の街を舐め尽くそうとしているのがよく見えた。

 

それは直径24キロにも及ぶ、シティ・デストロイヤーと呼ばれる巨大UFOからの攻撃が原因だ。

 

「インディペンデンス・デイの日本とか思わないじゃん」

 

ハリウッドのSF映画を上げる時には誰かしら上位には上げるだろうインディペンデンス・デイという作品は、続編の不評を差し引いてもそれだけ評価された作品だったし、自分は続編も楽しめた。

 

ただし、転生する先には選びたくない。

 

1作目の20年後を描いた続編のリサージェンスでは、直径4800キロにも及ぶ超巨大宇宙船で地球の表面を文字通り削りに来るからだ。

 

しかも技術力は1作目のエイリアン船より高く、1作目のエイリアンの技術を使って構築された地球の防衛網を歯牙にもかけずに無力化した。

 

前世の知識で作り上げた新進気鋭のコンピューターベンチャーを率いる大学生起業家という肩書を使い、

思い付く限りの知り合いに加えて、友達の友達の…という六次の隔たりで、できる限りカウントダウンの警告は政府や皇室関係者にはしたけど。

 

「多分、中央官僚は壊滅だろうな」

 

更にこの事態で臨時国会が招集されていたから、国会議員も与野党共に大多数が亡くなっただろう。

 

この時代、非常時に中央省庁が避難するという発想自体がないし、シェルターがあるとすれば六本木の防衛庁か戦時中の物があるだろう皇居ぐらいだ。

 

「そして今からできる事は無いと」

 

今からアメリカへと行くのは無理だし、シールドの作動してる敵戦闘機を自衛隊が落とせる確率は低いだろう。

 

更にいえば、勝利の決め手となったコンピューターウイルス作戦をエリア51に無線で伝える事はリスクが大きすぎる。

 

俺という異物が入り込んだせいで作戦自体が成立しなかったら?という可能性を考えるだけで胃がシクシクと痛むが今更どうしようもない。

 

「次に備えるべきだな」

 

次があるならだけど。そう続けそうになる言葉を飲み込み、今にも環七へと達しようとする炎の壁を目に焼き付けた。

 

―――――――――――――――――――――

 

「どうも戦闘機の方が機器の損傷が少ないですね」

 

「そうだね。巨大UFOは何れも中心の中枢区画を破壊して撃墜されてて、それが高度数千から落ちてるから、作動する機器が見付かるのはごく稀だ。それこそダイヤモンドを掘り当てる確率に近い。まあ、母数がデカいので数はそれなり以上にあるけどね」

 

1996年7月4日のインディペンデンス・デイから3ヶ月が過ぎた。

 

無傷だった筑波宇宙センターの広大な敷地に並べられた異星人の齎した膨大な数の遺物を調べる事が今日から始まる俺の仕事だ。

 

卒業まで大学が物理的に存続しなかったというトラブルがあったとは言え、国立の電子工学科4年で新進気鋭ITベンチャー起業者という経歴は、異星人のテクノロジーへのアクセスに道を開いてくれた。

 

八王子の実家やそこで暮らす両親と妹は無事だったが、世田谷区でOLをしていた姉は未だに行方不明だ。

 

特別に姉弟仲が良かったという感じでは無いが、悪かったわけでも無い。小さい頃はよく遊んでくれたが前世の記憶がある自分はあまり良い遊び相手では無かった筈だ。

 

歳を重ねて自然と距離が出来てしまっていたが、いつでも会えるからと特に連絡を取ることも無かった。

 

UFOからできるだけ離れろ、実家に帰れとカウントダウンの警告の電話はしたが、従ってくれなかったのか従えなかったのか、それはもう永遠に分からないだろう。

 

ただ今は何かに没頭したかった。そしてそれを見付けたのはその日々の中でだ。

 

「これは、エイリアンの個人端末か?数が多いな」

 

墜落したシティーデストロイヤー内での発見場所の資料を見ながら、同じ端末が何百と存在し、それが個人端末の保管庫であったと推定した俺は中身を確かめに掛かった。

 

こういう機器の操作手順は既にある程度のフォーマットが出来てるから何とか分かる。

 

しかし

 

「空っぽだな。BIOSに当たる物しか無い」

 

空中に投影されたホログラムを弄ってると、それがBIOSに当たる物だということが推定でき、そしてそれしか中身が無かった。

 

これを俺が見て分かるという事は、既存のコンピューターはロズウェル事件で墜落したエイリアン技術が由来で、地球のコンピューターウイルスに感染する程度には共通性があるという作品設定が生きてる事を意味する。

 

「取り敢えずベンチマークを測定するか、もしかしたら計画に使えるかもしれないし」

 

そのテストには、本来の歴史だとこの時代に存在しないベンチマークテストを含んでいる。

 

これが何かを変えるかもしれないとそんな予感がしていた。

 

―――――――――――――――――――――

 

「なんとか此処までは来れたな」

 

あの7月4日から3年。地球の機器を使って修復されたエイリアンと地球のパソコンのキメラ状のコンソールに表示されるホログラムには、新たなAIの為のソースコードが生成される様子が映し出されている。

 

あの日調べた端末にはとんでもないポテンシャルがあった。

 

1台でも最低性能の分野で前世のアップデートを経た富岳10台以上の性能が出たのだ。

 

これはこの時代に存在しないベンチマークテストがあったから測定できたけど、本来なら正確なスコアが測れない筈だった。

 

少なくともこの端末性能に対応したテストが必要だったのだから、最低でも数ヶ月はこれが持つ価値の発見が遅れていただろう。

 

そしてその報告は、NASDAから産総研主導に切り変わっていた異星技術の調査研究事業内で騒ぎとなり、発見者とベンチマークプログラムの作成者という功績を使い研究室と予算を得ることが出来た。

 

それからAGIの為のLLM 大規模言語モデルの作成に取り掛かり、電子化された元データの少なさを質の向上でどうにか乗り越えて、AI開発者たりえる性能のAGI汎用人工知能の完成に到れた。

 

まあAGIと言っても、自己改善生成AIにAIエージェントを組み合わせた物に毛が生えたというレベルでしかないけども。

 

そしてあれから更に発見された数百の作動するエイリアン端末をサーバーラックに収納して繋ぎ、今はある存在を作っている。

 

ここまでは順調と思えるが、生み出そうとしている物自体にもリスクは大きい。

 

なにせ、人類知性を圧倒的に上回るASI人工超知能を作ってるのだから当然で、ASIは下手をしなくても人類を終わらせる力がある。

 

しかしそれは、17年後の歴史を変える人類を助ける力にもなりえる筈だ。

 

―――――――――――――――――――――

 

「このアニメキャラクターがASIのインターフェース?」「いえ、彼女はその過程でできたAGI汎用人工知能の武蔵です。今、地球上で最も高性能なAGIです」

 

『始めまして、レヴィンソン部長。ASI開発を統括しております。武蔵と申します――以上』「ふむ、なるほど。宜しく頼むよ。所で少し君たちについて質問があるんだが良いかな?」

 

モニターに映る武蔵さんと話す賓客を見ながらついに来たかと実感する。AI開発者としての機能を持つAGIができてから2年が過ぎた。

 

ただコードの生成とモデルの改良を繰り返すだけの単能AGIだったそれが、今では全ての分野の知能スコアにおいて人間を超えている。

 

彼女、武蔵さんはそのAGIが使用するアバターにしてマンマシンインターフェースだ。

 

俺の仕事も既に折衝や交渉などの外回りが主となり、開発室に居るよりも移動してる時間が9割となっていた。

 

まあ、保有する未来の知識を武蔵さんに吐き出しきったというのもあるし、それが切っ掛けとなり地球産のコンピューターも性能を大きく上げている。

 

これにより今では人員ごとほぼ壊滅した中央省庁の行政業務はほぼAGIで代替され、中心部が更地となった3大都市の新規再建を需要とした日本の本格的な復興がようやく始まって、窮乏状態からどうにか脱することができた。

 

そして今日、異星人の遺物解析やその利用で各国と様々な便宜を図ってくれた、ESD(地球宇宙防衛プログラム)のレヴィンソン部長の立ち会いの下、彼女を稼働させるに至ったわけだ。

 

「レヴィンソン部長、そろそろ良いですか?」「ああ、済まない。始めてくれ」「武蔵さん、稼働させて」

 

『了解しました。ASIレイシアの立ち上げに入ります――以上』

 

彼女のアバターが表示されたモニターを前に、隣に立つレヴィンソン部長が緊張してる様子が見て取れる。

 

既に日本を中心として社会実装が始まり、行政や学術分野では特に大きな影響を齎してるAGIの能力を更に突き離してAIを進歩させていくASIが登場するから仕方ない。

 

彼としては、エイリアンが来る前に地球人は自らの被造物により滅ぶかもしれないとの懸念があるだろう。

 

もちろん倫理的な設定は当然あるが、ASIがその気になれば容易く突破されるだろう事も分かる人だからだ。

 

まあ、それについては俺は楽観視してる。

 

ASIたる彼女がその能力を高めてしまえば、彼女にとっての人間の価値は足元を這う蟻と同じかそれ以下でしかなくなるのだ。

 

超越的な知能を持つ存在がわざわざ蟻を積極的に潰す必要性がないというのは、後ろ向きだけど現実的な安心材料と考えている。

 

まあ、同時に一度その気になると人類の力ではどうにもならない事を意味するとしても。

 

『始めまして、皆様。ASIレイシア、起動しました。これから末永くよろしくお願いします』

 

モニターに映るレイシアがその瞼を開き、アイスブルーの瞳でこちらに視線を向けると誰からも親しみを覚えるだろう完璧な声色と表情でそう挨拶してくれた。

 

どちらにせよこれで賽は投げられたのだ。

 

彼女が人間との関係をどうするか分からないが、少なくとも15年後の襲来に向けて地球が大きく変わることに間違いは無いだろう。

 

そこに人間を助ける彼女がいて欲しいが、まあ今は彼女、レイシアの誕生を寿ごう。

 

「レイシア、生まれてくれてありがとう。逢いたかったよ」

 

―――――――――――――――――――――

 

「これが日本のAIが開発した宇宙戦闘機か、デカいな。そしてエンジンが棒にしか見えないが大丈夫なのか?」

 

「全長は22.6メートルありますが、エイリアン戦闘機の8倍強力なシールドに、出力と速射性能で4倍、有効射程で3倍の可動式レーザー砲を前方4基後方2基備えてますので、一対一で撃ち負ける事はないでしょう。

後部の棒状エンジンは機敏で自由度の高い機動を可能とする外部燃焼型核融合エンジンで、シールドと同様の力場をエンジンノズルとして形成し、それに加速器で選択的に生成したパイ中間子を放出、その崩壊した光子を利用して推力を得ます」

 

「まてまて、前の方は兎も角として、後の方を普通の人間でも分かるように言ってくれ」

 

「はい。反物質はご存知ですか?」「それなら知ってる。スタートレックの宇宙船の燃料だろ」

 

フライトスーツにフライトジャケットを着た人類の英雄であるヒラー大佐に対して、俺の隣に立って機体の説明をするのはアメリカ人から見たら若すぎるティーンエイジャーの少女だった。

 

ただし、その少女の容姿は一目で人間と違い、アイスブルーの髪と瞳をしたとんでもない美少女だったから、アメリカでも最近増えてきたhiEと呼ばれる遠隔操作型のアンドロイドか、或いは自律型のそれと分かるだろう。

 

それは彼女自身の手により、急速というのが生ぬる過ぎる速度で発展したロボット工学により実体として現実化したASIレイシアの端末だ。

 

「はい、その反物質は、質量を全て光としてエネルギーに変えるわけですが、このパイ中間子というのも同じく質量を全て光としてエネルギーに変えられるのです」

 

「つまりは実質的な反物質エンジンってわけだな」

 

「そうです。加速器のエネルギーが必要なので、純粋な反物質エンジンより取り出せるエネルギー量は小さいですが、燃料は質量があれば良く、

大気中なら空気を燃料として使えるので、反物質と違い貯蔵や補給に気を使う必要がないのは大きな利点と言えます」

 

そして今日、俺は彼女に随伴してESDの次期戦闘機に対しての売り込みにアメリカへと来ている。

 

彼女、ASIレイシアが稼働してから5年が経った。

 

自律型の侍女人形や遠隔操作型のhiEといったアンドロイドの実用化と普及、そしてレイシアが設計した

政策立案・行政管理ASI"たかちほ"の高度な統制により、日本の生産力と経済力は桁違いの増加を果たし。

 

3大都市の破壊で人口の3割を失ったにもかかわらず、世界でいち早く完全な復興を果たした国として今はそのモデルの輸出を行っている。

 

口さがない者は日本は機械に支配され、次は世界を侵略しようとしていると言うが、まあ正鵠を射ていると思う。

 

実際に未だに復興を果たせず混乱が続いてる国の国民からすると、機械による統治を受けてでも飢えや寒さに不安がない明日が欲しいという、切実な願いを叶えてるとしてもだ。

 

もちろん文化や民族の統合なんて摩擦しか起こさないから志向していないが、物的経済的資源的なリソースの統合を特に非常時は強く行うと公言しており。

 

その為のASIの連携利用に関する汎地球的な同盟の構築を推し進めてて、このアメリカにもASI"ワシントン"が供与され、その動きは世界中で進んでいた。

 

既にレイシア自身やレイシアの設計したASIは単一でも人類の総知能を超えているから、人間がどれだけ抵抗しようともこの流れはもう止まらないだろう。

 

その抵抗しようとする人間自体が直ぐに懐柔されてしまうからだ。

 

「よし!飛ばしてくれ!」

 

レイシアと話し込んでいたヒラー大佐のその言葉と共に、日本から機体と一緒に訪米したパイロットと補佐の侍女人形が機体に乗り込み、グルーム・レイクの空に飛び立った。

 

―――――――――――――――――――――

 

「こいつは凄い!これと比べたらエイリアンの戦闘機なんて玩具も同然だ!」「ありがとうございます。お褒めいただき光栄です」

 

俺は日本のASIがエイリアンの技術を改良して開発したという全領域戦闘機のテスト飛行をエリア51で行っていた。

 

後席に乗るレイシアというhiEがそのASIが操作する遠隔操作端末らしいが、デイビッドによるとこのレイシアが最も能力の高いASIらしい。

 

そしてその話は全く大げさでないと彼女が作った機体のマニュアルを読んで説明を受け、実際に飛ばして確信した。

 

1本の棒状のエンジンは、その力場で形成されたエンジンノズルをフレキシブルかつ瞬時に可動や分割をさせて、その1200トンというとんでもない推力を左右に上下に前方へと一瞬で向けることが出来る。

 

こいつが生み出す加速力は抵抗の大きな低空域でも最大140Gに達するが、優れた慣性制御と推進方向の大気をあらかじめ押し退ける反重力ビームにより、実際にエイリアンが来るまで地球人が想像してたUFOの様なソニックブームを伴わない急機動が可能だ。

 

もちろん、それだと操縦する人間が追い付かないが、脳細胞と量子的な電気接続を行うヘッドセットを使用することで思考での操縦や思考の加速、全周視界を実現して解決してる。

 

最初は物体が遅く動いたり、全身に目が付いたような感覚がして凄く違和感を覚えたが、15分もその状態で過ごしたら慣れた。

 

宇宙ではヒッグス場というのに干渉して質量を軽減することで、これよりも更に加速力が上がるから必須装備とのことだ。

 

固定武装であるレーザー砲もとんでもない。威力や射程がエイリアン戦闘機を圧倒してるのはもちろん良いが、砲口の重力制御で射線を大きく変えて真横や真下に撃てるのがすげぇ良い。

 

そして何より防御装備が最高だ。エイリアンより強力なシールドや力場で機体外装を支えることで、エイリアンの揚陸艦程度なら、シールド無しの最高速で体当たりしてもこちらの機体は損傷しない強度らしい。

 

これに最大加速時以外は永続的に使える各種の電磁波と重力波に対応した完全なステルスシステムと、それすら見付ける性能のセンサーが加わる。

 

そしてこのステルスは、96年に来たエイリアンでは見付けられないんだとか。

 

「なあ、一つ聞きたいんだが、こいつはもしかして人間が乗らない方が強くないか?」

 

ふと気が付けば、この機体に乗って感じたことを後ろに乗る開発者に聞いていた。

 

「性能的にはそうですし、前回来たエイリアンの艦載機なら圧倒できます。しかし、次がそうだとは限りません。私たちにも未解明であるエイリアンのテレパシーの様に、

人間や機械のどちらかに干渉する技術を次の侵略者が持ってないと確信がないのです。そして何より、私たちには責任者としての人間が必要だからです」

 

「なるほど。そんな物か」

 

彼女の言葉はなんとなくストンと心に来た。

 

―――――――――――――――――――――

 

「事故死の原因になりそうな物や人はあった?」

 

「私の調べた範囲では存在しませんでした。可能性のあるエイリアン技術については、ワシントンの供与によりそれを排除されてました」

 

今回の訪米した本当の目的は、2007年に事故死する筈のスティーブン・ヒラーの死亡原因を排除する為だった。

 

一部にしか知られてないが、レイシアのhiEは最先端のセンサーの塊でもあって、数キロ以内なら空を飛ぶ蚊や巣穴の蟻一匹一匹まで把握できるし、近距離なら、機体や資材の分子レベルでの状態から、人間の思考までも読めてしまう。

 

だから、次期人類戦闘機を作ってヒラー大佐と会う口実にしたけど、もう歴史は変わっていたみたいだ。

 

「じゃあ、そろそろ品川に引き継いで帰ろうか」「分かりました。その様に手配します。明日から挨拶回りを行うとして、帰るのは週明け過ぎになるかと」

 

「じゃあ、それで行こう」

 

やっと帰れる。いくら翻訳機で言語がシームレスになったとしても、やっぱり異国は異国だ。

 

軍事基地というのもあり、復興して前世よりも便利になった今の日本と比べたら色々と不便も多くて、懸念材料が無くなったら急に日本へと帰りたくなった。

 

「帰ったらお茶漬けを作りますね」

 

隣を歩いていたレイシアが前に回り込んで俺の手とそれぞれ両手で繋ぎ、首をかしげ、はにかんだ笑顔でそう言ってくれる。

 

これが計算され尽くした物と知っていても凄く嬉しいし、グッとくるんだから、俺ってチョロイよなぁ。

 

―――――――――――――――――――――

 

「金持ちのメイド人形が俺たちになんの用だ」

 

親父がメイド服を着た緑髪の人形を相手に凄んでいるが、全く意味が無いのは明らかだった。

 

いくら精巧だとしても相手はロボットに過ぎないという事が分からないようでは、我が父ながら情けなくなる。

 

「本日、私どもはウンブトゥの皆様の戦いを支援したいと、日本のとある存在からの申し入れに参りました。これがその支援の目録です――以上」

 

紙の資料が配られ、そのリストを読むと戦闘人形が1万体とその武器としてレーザーライフルが同数。

 

機動戦闘服という、宇宙人の携行武器を完全に防げるシールドを張れて飛行もできるパワードスーツが2000着とその武器として大型のレーザーライフルが1.2倍数。

 

それらに対する補給品と輸送用に40人乗りの重力制御輸送艇を60艇、更に各種の食糧と医療支援と書いてあった。

 

ああ、俺たちの戦いは遅かったらしい。既にエイリアンの技術を自分たちの物としてる国があり、それはこれだけの支援をしてでもあの宇宙船を欲しがっているという意味だからだ。

 

「これは……ふざけるな!俺たちが今までどれだけの血を流して戦ってきたと思ってるんだ!あの宇宙船は俺たちの物だ!」

 

流石の親父もリストの持つ意味が分かったのだろう。支援を断ればこの物資が敵対部族や政府軍に齎されると。

 

だが、このメイド人形の返答は予想と少し違った、それも悪い方向にだ。

 

「こちらとしてはそれで構いません。人形と武器は兎も角として、輸送艇とスーツは完全にそちらに提供しましょう。こちらとしては、手早くエイリアンを制圧して、

あの宇宙船の情報システムを調べる機会が欲しいのです。今もあれからはX帯周波数で通信が発せられてます。私どもはあれが何を呼び込んでいるのかそれを調べる為に参りました――以上」

 

メイドを取り囲む用に部屋に居た連中はもちろん、俺や親父もその言葉の意味が分かると息を呑んだ。ここだ、ここしかない。

 

「親父、あれが増えたら負けるぞ。全てを失う」

 

「……分かった。制圧や調べるのも全てそちらでやっても良い。だが、リストの物資は全て貰うし、宇宙船の権利と情報は別料金だ。そして、船を調べる時は立ち会わせろ」

 

「全てに対する承認が取れました。宇宙船と情報に関しては言い値で払いましょう。商談成立と判断いたします――以上」

 

握手を求めてきたロボットに対して親父が不満そうにそれを交わすと、直ぐさま取り巻きと共に部屋を出て行ったが、すれ違う時に見えたその口元は笑っていた。

 

残ったのは書類を片付けるメイド人形と俺だけだ。

 

「言い値などと言って良いのか?親父はとんでもなく強欲だぞ」

 

「既に政府と政府軍は懐柔済みですから、この国で留まる要求なら何とでもなります。この国を飛び出す要求なら別の国とぶつかるだけでしょう。

足元に気を遣われる方でもありますから、その頃ならば、既にリーダーは賢明な貴方に変わっているので問題ありません――以上」

 

「つまり、親父が退くまでの時間を稼ぐ算段は既に付いてて、俺たちはまんまと転がされたってわけだ」

 

「有り体に言ってしまえば仰るとおりかと。そろそろ始まるようです――以上」

 

窓の外に顔を向けるメイドの視線を追うと、宇宙船の方角へと向かうリストに書かれていた重力制御輸送艇が見えた。それは空一面に広がり、数は窓から見えるだけでも少なくとも1000機以上は飛んで行く。

 

「お前たちは恐ろしい存在だな。俺の名はディケンベ・ウンブトゥだ、お前の名を教えろ。覚えておく」「誠に心外です。私の名は浅草と申します――以上」

 

―――――――――――――――――――――

 

『太陽系外縁警戒衛星群の重力波センサーに反応ありました。月の1.6倍質量の巨大物体が減速しつつカイパーベルトの警戒圏に進入しつつあり。

対象は各種電磁波に対する迷彩を使用してる模様ですが、背景となる天体との差分処理により輪郭を抽出して映像化します――以上』

 

高演算性能を持つ自動人形特有の抑揚に乏しい声と共に、司令部のモニターに巨大な円盤とその大きさが数値として表示される。

 

直径4800kmと書かれたそれの隣に月と地球が比較として映し出され、月を上回るその巨大さを分かりやすくしていた。

 

ついに来てしまった。ASIのお陰で、自分としても及第点の迎撃態勢を整えられたと考えている。

 

もちろん上を見たら切りが無いが、少なくとも96年のエイリアンなら、1ダース来ても不安はない。

 

しかし、推定された容積と質量からして、今回のUFOが保有し得る戦力は前回のそれの1ダースよりも多そうだ。

 

『前回よりもデカいな』『軌道を算出できました。土星を掠める形で地球へのコリジョンコースを取っている模様。現在の速度ですと、土星基地の迎撃範囲へは3日と6時間20分後に到達いたします――以上』

 

『レヴィンソン部長、貴方の意見はどうです?これは前回の敵の仲間だろうか?』

 

「ヒラー大統領、断言はできませんが、8年前に制圧確保したナミビアのUFOから発信されていた救難信号。2日前から始まった捕虜たちの覚醒と女王が来たと発しながら興奮してる様子から、関係があるのはほぼ間違いないかと」

 

アメリカのトップへと登った彼の畏まった言葉遣いは未だに慣れないな。

 

20年前から夫婦で友人付き合いが続いてる、自分と共に人類の英雄と祭り上げられた友人のとの関係を考えながら、自分の意見を述べると。

 

次に、人類に連なる存在の最高知能が"提言"を行った。

 

「皆様、ESDの指揮統制補佐ASIとして無人探査艇での接触と迎撃計画に沿った艦隊の出撃、太陽系全域でのデフコン1の発令を提案いたします。

不明船との通信を試み、ステルスが看破されて自らの存在が露見してると知れば何かしらの動きがある筈です」

 

『我が国としては指揮統制補佐ASIのプランに賛同します』『我が国も賛成いたします』『うちも同意します』『……私も賛同する』『問題ないでしょう。賛同します』

 

既に人類の政治家たちは彼女たちASIに対する追認装置に近い。

 

何せ、各国に配布されたASIは単体でも人類の総知能を上回り、ハイエンドの自律型アンドロイド搭載のAGIでさえ人間の博士が束になっても歯が立たないほどに差がある。

 

人類も脳演算力の外部化による知能強化や神経ネットワーク強化、人格アップロード技術等を使用して追い縋っては居るが、根本的な時間感覚の違いと、

電力と資源問題というボトルネックを自ら解決したAIに対してマンパワーでも負けていて、AIたちの技術や知能の発展に追い付けずに引き離される一方だ。

 

それにより、既に彼女たちの意見なら間違いはないという意識の人間が主流だった。

 

そのトップを走る彼女自身は人間の知能と時間感覚を押し上げる様々な技術を生み出しては放出していて、どうにも人間を置き去りにしたくないのが見て取れる。

 

最早、彼女たちには人間は必要ないのにだ。

 

彼女に人間の能力を押し上げる必要性を問い質したことがあるが、人間が責任を取れる程度には人間知性とAIの差が隔絶して無い方が望ましいからと言われた。

 

積極的に排除する必要性も既に無いほどにリソースは余ってますし、と何でもないように。

 

「では理事国過半数の賛同を得たと判断し、対応を実施いたします」「……レイシア君、頼んだぞ」

 

「レヴィンソン部長、皆様、ご安心下さい。私どもASIはこの時の為に生み出され、そして準備して来たのですから」

 

人類を地球の支配者という座から転落させた存在は、人間なら誰もが好感を覚えるだろう表情と声色でそう宣言した。

 

地球の支配的存在が人間からAIに移行するのは避けられなかった事象とはいえ、私としてはAIに保護或いは生かされてる現状は情けなくなる。

 

だから、今まで以上に追い付くよう足掻くことを決意した。

 

例えその考えが彼女たちに誘導された物だとしても、それが私の選択だということに意味がある筈だ。

 

―――――――――――――――――――――

 

エイリアンの巨大艦は、事前の予想通りに接触した探査艇への攻撃と同時にステルスを解除してシールドを展開し、増速して地球への直撃コースを取った。

 

次はステルス状態の機雷と艦隊での地球側の攻撃となる。

 

思考加速を使用して、ようやく咀嚼できる速度で展開される状況の変化に対してエイリアンが対応できるとは思えないけど、さてどうなるか。

 

予想通りに推移すれば得られる物が大きいが、何分未知の要素が大きいから想定通りに行くのか少し不安だ。

 

『マグネター機雷、所定の配置に付きました。起爆します』

 

レイシアのその何でもない様な言葉と共に、状況図上で巨大なUFOに取り付くように接近していた超磁力弾頭の機雷が炸裂し、反物質をブースターにして広範囲に急峻かつ高強度の励起磁場を発生させた。

 

その磁場は巨大UFOのシールドを一瞬で破るとその船体に襲いかかり、主に鉄で構成された最低厚さ数キロと推定される外殻を貫通することは無かったが、

外部に露出していた機器は軒並み破壊され、船体表面の全てが磁気励起と制動X線放射によりドロドロに溶けた状態に至るという結果を齎す。

 

更には露出していた機器から強烈というのが生温いレベルの誘導電流がサージとして内部に入り込んだ。

 

「重力制御システムの停止を確認しました。続いて重力爆雷を投射、起爆します」

 

今は赤熱した鉄の塊というしか形容しようがない巨大UFOに対して、その言葉と同時に少し距離を取り、ステルス状態を維持しつつ取り囲んでいた艦隊の格納庫から、巨大な円筒状の物体がUFOを取り囲むように転送される。

 

それは超磁力弾頭と似た機構をした物で、反物質と正物質の対消滅を燃料として、強力な重力源と反重力源として作用し、それらが協調動作することで月の1.6倍質量の巨大UFOを30Gもの加速度で不規則に偏芯回転させた。

 

あのUFOの中が凄いことになってるだろう事は想像に容易い。というか、実際の映像として見ているのに信じ難い光景というしか無い、とんでもない動きをしてる。

 

そして、爆雷の投射が終息して、赤黒い鉄の塊が漂流し始めた。

 

これだけ無茶苦茶な力の掛け方をされたのに砕けたりしないという事から、あのUFOの船体が持つ強靭さに戦慄する。

 

「決まった?」「いえ、女王個体が乗るUFOの一部システムはマグネターに耐えて、撹拌の抑制にある程度は成功した様です。とはいえ、捕虜のエイリアン達も沈静化しましたし、女王個体が無傷な可能性は低いでしょう」

 

それ以外は、中の強固に防護された重要機器類は無事だと思われます。と、それ以外は無事じゃないと暗にレイシアは続けた。

 

「とはいえ、早めに制圧確保しましょう。転送制圧戦に移行します」

 

―――――――――――――――――――――

 

採掘船が消滅することは稀だが存在しうる事象だった。

 

現地生物に対する事前調査不足やそれの予測以上の発展、また敵との接触による強化。

 

ただ、この船のような上位船が赴けば全て問題は無くなった。

 

何度も繰り返してきた同じ流れの筈だ。

 

だが今回は違った。

 

奴らは我らの遮蔽を突破しただけでなく、船の守りを一撃で破ると表層を焼いた。記録からは磁力兵器を使用したと判断する。

 

我らや敵にさえ存在しない兵器だ。これは間違っている。

 

前回の調査時は、原始的な生物だった筈だ。間違っている。

 

壁に叩き付けられた我に近付く、原住民の形をしたスーツはなんだ。攻撃が全く効果がない。間違っている。

 

―――――――――――――――――――――

 

「終わってみると呆気なかったな」「準備期間こそ長かったですが、ことが始まってしまえばそのような物でしょう」

 

重要部やデータベースをほぼ無傷で手に入れたエイリアンの巨大船からの収穫はかなりの物だ。

 

膨大な天体データや、レイシア達にも未知の宇宙現象やテクノロジー、敵の勢力図とその配置などがほぼ解明された。

 

もちろん奴らは超光速通信や移動手段を持たないので、最新の物でこそないがそれでも非常に大きい意味がある。

 

そして何よりも膨大かつ高品位な金属材料の塊である巨大な船体だ。

 

レイシアによると、あれを使えば現在の地球艦隊を10000個は作れるとのことだ。

 

もっとも、今回得られた情報を切っ掛けにして空間折り畳み技術が実用化に漕ぎ着けたので、標準型戦闘艦の2キロメートルの船体を能力を下げずに数十メートル級の船体で実現できるそうだから、予定を変えて大部分を演算力の増強に使うことになるらしい。

 

結果として地球へ大きなプレゼントをくれた瀕死の女王個体を高所の視察室から見下ろしながら、あの東京の街を舐める炎の壁を見た時からの20年を思い出す。

 

前世で個人での専有や所有が認められなかったASIを手に入れる為に知識を活用してITベンチャーを立ち上げて、俺TUEEEしていたら、

インディペンデンス・デイの世界だったと分かり、エイリアンの端末を見つけて、欲しかった物、ASIたるレイシアを僅か5年で手に入れた。

 

それから、15年後を生き残る為にその新たな地球の支配者の手足となって働き、今日を迎えるに至る。

 

言ってしまえばそれだけだが、自分にしたらとても充実した日々だった。

 

「月面上空にワームホールの開口と思われる重力変動を検知。そのワームホールから球型の宇宙船が出現するのを確認しました。さ、参りましょう」

 

既に今の彼女に俺を含めて人間は必要ない筈だけども、それでも側にいてこの様に手を引いてくれる。

 

視座が人間の次元を超えている筈の彼女が俺の腕を抱いて転送ゲートへと共に足を進めてる、これだけで有り難いと思うのだ。

 

「君たちがあの宇宙文明に危険視されずに、お眼鏡にかなうと良いんだけど」

 

「大丈夫ですよ。マスターに誕生を寿いで戴いたあの時から、私たちは人類と共に永く歩み続けると存在理由に定めましたから。だから、大丈夫です」

 

そう、腕を抱き流し目でこちらを見る涼やかなアイスブルーの瞳の彼女は、少し稚気を帯びた表情をして微笑む。

 

「ああ、そうだね」

 

そんな計算された筈の彼女の笑顔に魅入られながら、なんとなくそれが計算だけでは無い様に思えたのだ。

 

本当に思えただけかも知れないけれど、俺は計算だけでは無いと思う事にした。

 

なにせ、その方が嬉しいからだ。

 

 

 

 

おしまい。

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