元銀眼の魔女の死神代行の話   作:ラキアー

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 とりあえず、今回は2本だけ投稿とします。

 これにて、尸魂界篇、終了です。


【#41】元銀眼の魔女の死神代行、現世に帰還する

 

 「うわあ・・・!」

 

 一護の肩の上で、井上織姫は言葉を詰まらせた。

 

 風の音がすごい。景色が早送りじみてすっ飛んでいく。

 

 あの時。恋次とルキアの危機を察した一護が、ケガをものともせずに瞬時に姿を消した。

 

 瞬歩だ、と後で見舞いにいったルキアが教えてくれた。死神の使う歩法だ、と。

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)に来て、12日。瀞霊廷で離ればなれになってたのはたった3日ほどだ。その間に、一護は恐ろしいほど強くなった。こんな瞬間移動じみた移動を、あっさりできるほどに。

 

 こんなにそばにいるのに、遠い。

 

 井上が少し寂しく思った直後、一護が立ち止まって、「ついたぞ」というぶっきらぼうな言葉とともに井上を下ろした。

 

 「大丈夫か?」

 

 「うん。凄いね、黒崎君!あっという間だった!」

 

 「・・・まだまだだ」

 

 井上の言葉に、一護は特に照れた様子も見せずに首を振って見せた。

 

 「言っておくが、俺よりも夜一さんの方がすごいからな」

 

 「夜一さん!猫なのに、人間になれるだけじゃなくて、瞬歩もできるんだ!」

 

 一護の言葉に、井上がとんでもないことを口走った。

 

 ・・・どうも、彼女は夜一を猫の方が本性と思い込んでいるらしい。まあ、勉強はできるが、どこかしらずれた感性を持っている井上らしいといえば、それまでなのだが。

 

 そして一護は、夜一に散々からかわれたことに対するささやかな仕返しに、井上の勘違いに対する訂正を放棄することに決めた。

 

 ともあれ。

 

 西流魂街の外れ、民家は少なく、草原や木々の多い場所の向こう、相変わらずの旗持ちオブジェと花鶴大砲が目立つ空鶴邸に向かって、一護と井上は歩きだした。

 

 花鶴大砲の下では、トレーニング中なのか上半身裸の岩鷲と、空鶴がおり、その少し離れたところで鼻を押さえるルキアがいた。

 

 微妙に空鶴がいら立った空気を漂わせているあたり、何か彼女の気に障ることをしたのだろう。空鶴は何というか、乱暴なのだ。

 

 「やはりここだったか」

 

 言いながら一護は草を踏んで、どこかすっきりした様子のルキアに歩み寄った。

 

 一応、入院中も何度か顔を合わせたが、白い入院着や襦袢でも黒い死覇装でもない、小さな花柄の小袖を着ているのは新鮮だった。

 

 「一護・・・井上・・・」

 

 「用事は済んだようだな?

 帰るぞ。明日には現世への門を開けてもらえるらしい」

 

 今朝、浮竹から聞いたことをルキアに伝える。

 

 瀞霊廷から空鶴邸までは、徒歩で丸一日かかる。馴染みの死神に送ってもらったのかもしれないが、朝から出立したのならば聞いてないだろうと思い、一護は言った。

 

 「まだ、体調も万全じゃねえだろう。明日に備えて早めに休んだ方がいい」

 

 「ああ・・・そうだな・・・」

 

 一護の言葉に、ルキアはうなずいてゆるりと振り返ってきた。

 

 「お前には、一番に言わねばと思っていたところだ。

 私は、尸魂界(ここ)に残ろうと思う」

 

 二人の狭間を風が吹き抜けた。

 

 目をしばたかせる一護を、ルキアは黙って見つめた。

 

 ややあって、一護は目を伏せて柔らかく言った。

 

 「そうか・・・よかった・・・」

 

 「え・・・」

 

 「いや、お前が自分でそう決めて・・・残りたいと心から思えたなら、いいんじゃねえか。それで」

 

 一護の言葉に、ルキアは笑みを返し、ややあって驚いたような顔をした。

 

 一護が、笑っている。口元を緩めるというより、ふわりと笑みを浮かべている。出会ってから初めて、一護がはっきりとした笑顔を浮かべて見せたのだ。驚くなという方が無理だった。

 

 少し離れたところにいる岩鷲と空鶴もまた見えたのだろう、驚いた顔をしている。

 

 「? どうかしたか?」

 

 「いや・・・」

 

 目をしばたかせた一護は元の無表情仏頂面に戻り、ルキアは少し残念に思った。

 

 「おいテメー!そんな顔できるんじゃねえか!何なんだよ?!あの無表情仏頂面どこいきやがった?!ぐえ?!」

 

 「そんだけ元気に喚けるなら、あと2000回いけるな?」

 

 「ひぃぃぃ?!増えてる?!無理だってば!!姉ちゃん!マジ勘弁・・・!」

 

 空鶴に背中から蹴倒された岩鷲が再び喚くのを尻目に、一護の背後にいたため見えなかった井上が「何何?どうしたのー?」と首をかしげる。

 

 「う・・・む・・・。何でもないのだ。さて、帰るぞ!」

 

 「世話になったな、岩鷲。空鶴さん。元気でな」

 

 「あ。お世話になりましたー!」

 

 「おう。達者でなー。さぼんな!夕飯までにノルマ達成できなかったら、徹夜だからな!」

 

 「ひいいいぃぃっ!」

 

 空鶴の怒声と岩鷲の悲鳴をBGMに、三人は帰途に就いた。

 

 

 

 帰り道、一護はこっそりルキアの様子を盗み見た。

 

 もう、空座町で見かけていた時の彼女の様子になっている。あの、泣きそうなのをこらえた顔をしていた空気は、どこにも見当たらない。

 

 もう大丈夫なのだ。

 

 

 

 

 

 翌日。よく晴れた空の下。

 

 残骸となっている双殛の磔架のふもとに、穿界門は設置されていた。

 

 浦原が作成していたそれとは違い、瓦屋根の付いたそれはちゃんとした門の形をしていた。正式な穿界門、と称されるだけあって立派な作りだった。

 

 生身の井上、石田、茶渡のために霊子変換器もちゃんと組み込んであるらしい。

 

 そこで、一護は浮竹に呼び止められると、彼にちょっとしたものを渡された。

 

 ルキアとも別れの言葉を交わす。

 

 「それじゃ、朽木さん、元気で・・・」

 

 「ああ。

 チャドも石田も井上も・・・皆、元気でな」

 

 「あ・・・そ、そうだ!

 これ!石田君から朽木さんへ!」

 

 うなずいたルキアに、井上が元気よく石田作のワンピースを押し付けていた。なぜか大事に着てあげてね!と念押ししている。

 

 「じゃあな、ルキア」

 

 「ああ」

 

 一言別れを告げ、一護は他の皆に続いて穿界門に向かう。

 

 「ありがとう、一護」

 

 その背に、ルキアの言葉が投げかけられた。

 

 一護は小さく振り向いたが、すぐに前を向いた。

 

 それはこちらの台詞だ、と声にも出さずに彼は思った。

 

 見送る隊長格の死神たちとルキアの視線を尻目に、一護は穿界門をくぐる。

 

 

 

 降り続いた形のない雨は、ようやく上がった。

 

 

 

 穿界門を超えて、一護たちは再び猫の姿の夜一の先導の下、断界を走る羽目になっていた。

 

 正式な門の割に、正式なルートは通らせてくれないのか。

 

 夜一によると、一人一匹地獄蝶を付けてないと正規ルートは通れず、地獄蝶を扱えるのは死神だけである。仕方がない。

 

 幸い、今回は拘突に襲われることもなく、無事に門の出口にたどり着いた。

 

 だが、門を抜けた先は空座町の上空で、足場はなかった。

 

 硬直したのはほんの一瞬で、すぐさま落下し始めた一同はたまらず悲鳴を上げる。

 

 アスファルトにたたきつけられる!と身をこわばらせた一同を、わきから放たれた布じみたものがくるんで搦めとり、そのまま彼方へ吹き飛ばす。

 

 なんだなんだ?!と騒ぐしかできない一同は、「ジン太!ホーム」という少年の声が、「鉄裁デスキャッチ!」という怒声にかき消され、そのまま洗濯機に叩き込まれたようなひどい回転を味わう羽目になった。

 

 ややあって、何かに着地すると同時に、ようやく布らしきものを剥がされた。

 

 「お帰りなさーい♪みなさん♪」

 

 一同は、一反木綿のような空飛ぶ巨大な紙切れのような物に乗っており、その先頭に座っていた浦原がのほほんと、言った。

 

 一同をくるんでいた布らしきものをはぎ取ったのは(ウルル)だ。どうやら、穿界門が開かれる場所も、浦原にはわかっていたらしく、手荒いながらも保護と出迎えに来てくれたらしい。

 

 「・・・浦原さん」

 

 「・・・お帰んなさい、黒崎サン。

 聞いてますよね、アタシのこと」

 

 「・・・ああ」

 

 一護が姿勢を正すと、浦原は静かに尋ねてきた。

 

 一護がうなずくと、浦原は振り向いて徐に帽子を取って深々と頭を下げた。

 

 「本当に、すみませんでした・・・!」

 

 一護は一拍黙したが、ややあって軽くため息をついて言った。

 

 「謝らなくていい。訊かなかったのはこちらだ。

 別に怒っているわけでもねえ。

 あんたはあんたなりの考えがあったわけでもある。

 手助けしてくれて修行を付けてくれたのは事実だ。感謝している。

 だから、謝らなくていい」

 

 皮肉や嫌味を言うこともできたが、一護はとりあえずそう言った。

 

 浦原には体よくつかわれた形だが、一護の求める最良の結果――ルキアを助けるという目的は達成できたのだ。

 

 それに、一応罪悪感はあったのか、こうして謝ってくれたのだ。それで良しとすべきだろう。もっとも、いまだに腹の底では何を考えているか、一護は今一つつかみかねているのだが。

 

 謝ってくれただけ、ルヴルよりだいぶマシである。

 

 「俺に何も言わなかったのは、言えば俺がビビって逃げると思ったからか?言わなくても勝手に察すると思ったからか?そこまで察しはよくねえぞ」

 

 「・・・ご想像にお任せしますよ」

 

 帽子をかぶりなおして言った浦原に、一護はそっぽを向いて座りなおしながら舌打ちをもって返答とした。

 

 「それから、ルキアにだけはちゃんと謝ってやってくれ。

 多分、あいつも俺と似たようなことを言うだろうがな」

 

 そっぽを向いたままの一護の言葉に、浦原は帽子を手で押さえて目を伏せながら「・・・はい」と静かにうなずいた。

 

 そのまま飛んでいると、不意に石田が口を開いた。

 

 「そういえば、黒崎。

 尸魂界(むこう)を出るとき、浮竹さんに何か渡されてなかったか?」

 

 「ああ、これだ」

 

 懐から取り出して、一護は皆に見えるように見せた。

 

 手の平サイズの五角形の木の板だ。さげられるように紐が付いていて、中央にはどくろとバツ印を模したマークが刻まれている。

 

 「何だそれ?」

 

 一斉にのぞき込む他のメンバーに、一護は淡々と答えた。

 

 「許可証だそうだ」

 

 「許可証?」

 

 「死神代行戦闘許可証。通称:代行証」

 

 訊き返す石田にうなずいて、一護は渡してきたときの浮竹の説明を口にした。

 

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)にも死神代行の発生に対応した法律が、一応存在している。

 

 現れた死神代行が尸魂界(ソウル・ソサエティ)にとって有益であると判断された場合、古来から必ずこの代行証を渡す決まりになっているのだ、と。

 

 そうして、一護はそれを渡された。いろいろ役立つだろうから、いつも持っておくようにしろ、とも言われている。

 

 一護の言葉を聞いているのかいないのか、石田は黙って代行証を眺めている。聡い彼のことだ。また何か思いめぐらせているのだろう。

 

 「このマーク、どっちかというと代行禁止って感じのマークだな・・・」

 

 いやなことを言う茶渡に、一護は言うなよ、という代わりに鋭い一瞥を投げた。

 

 「あ!石田君!石田君ちの近くじゃない?この辺!」

 

 「あ・・・ほんとだ!浦原さん、僕、この辺でいいです!」

 

 「はいはーい♪」

 

 井上の指摘に石田が言うと、浦原はうなずいて乗り物の高度を下げる。

 

 「じゃあな、石田。また何かあったらよろしく頼む」

 

 「何を言ってるんだ?忘れたのか、黒崎」

 

 眼鏡を押し上げて立ち上がり、小さく振り向いて石田は言った。

 

 「君と僕は死神と滅却師(クインシー)・・・。

 次に会うときは、敵同士だ」

 

 「・・・そうか」

 

 一護の短い相槌に、石田はミニマントをなびかせて「じゃあな!」と飛び降りた。

 

 「素直じゃないね」

 

 井上の言葉に、一護は無言のまま頷いた。

 

 まあ、クレアもたいがい素直でなかったし、一護も素直な人間かと言われると疑問符が付くので、あまり石田のことをどうこう言えないのだが。

 

 「まあ、ああいうとこが石田君のいいとこだよね」

 

 「そうだな」

 

 笑って頷く井上と茶渡を、一護は微妙な気持ちで眺めた。二人ともできた人間だ。なんだか、一護の方が子供のような気分になる。

 

 実際ガキだろ、と昔の仲間たちなら、一護のことをそう笑うのだろうが。

 

 と、井上も新しく借りたアパートの近くに来たので、降ろしてもらう。

 

 茶渡もまた彼の家の近くで降ろしてもらい、一護もまたクロサキ医院の近くで降ろしてもらった。

 

 「それでは、黒崎サン。また何かありましたら、ご連絡を♪」

 

 「ああ。じゃあな、浦原さん」

 

 乗り物を翻させる浦原に軽く手を振って、一護は屋根伝いに移動し、自室の窓の前に降り立った。

 

 日の位置、暑さの具合などから、まだまだ朝早い時間らしい。

 

 ガラス窓から覗き込めば・・・浦原の仕業だろう、一護の肉体に入ったコンが寝巻代わりのシャツとジャージを着用し、よだれを垂らして実にだらしない様相で寝入っている。

 

 ドンドンとノックしたが、コンは寝入ったままだ。イラっとした一護は、そのままドンドンドンッと強く窓を叩くと、何事か喚きつつコンがはね起きた。

 

 そして、窓の前にいる一護に気が付いた。

 

 「やっと帰ったか一護ぉ!よっしゃあ!これでこのウゼーオメーの身体ともオサラバだぜ!」

 

 急ぎ窓を開けながら、コンが感涙しながら叫んだ。

 

 「つーか、オメーが帰ってきたってことは!

 お帰りなさいっ!姐さー・・・ん?」

 

 抱き留めんばかりに両手を広げるコンは、ややあってはっとした顔をして窓の外をきょろきょろと見まわす。

 

 「姐さんは?」

 

 「尸魂界(むこう)に残った」

 

 「ああ?!何だそりゃ?!じゃ、テメー一体何しに尸魂(ソウ)

 

 つっかかろうとしたコンが入った一護の肉体の額を、一護が持った代行証が軽くたたいた。

 

 同時に、その後頭部からコンの本体となる薄緑色の丸薬が零れ落ちた。

 

 なるほど、と一護は代行証を眺めながら思う。

 

 確かに、浮竹の説明していた通り、この代行証には、ルキアの手袋――捂魂手甲のように魂魄を剥がす能力もあるらしい。

 

 そのまま一護は肉体に戻って、コンの丸薬を拾い上げて言った。

 

 「悪いな。明日には文句ぐらい聞く。今日ぐらいはゆっくり休ませろ」

 

 そうして、一護は代行証と丸薬を机の上に放り出すと、改めてベッドに横になった。

 

 見慣れた天井が、ひどく懐かしいように思える。

 

 体感時間にして、おおよそ12日。長かったような、短かったような。実に濃密な時間であったのは確かだ。

 

 ぼんやりと一護が、ここしばらくのことを思い返していると、俄かに下が騒がしくなる。

 

 ピクっと眉を動かしながら一護がはね起きた時だった。

 

 「グッモーニン!イッチゴー!」

 

 息子の部屋に入室と同時にベッドに向かってドロップキックを放つ一心を、一護は問答無用で窓から叩き落した。

 

 「ギャー?!一護さん?!父ちゃんクレイジースクリューをよけるばかりか、ちょっ、落ちっ、たす、助けて!!」

 

 「相変わらずで安心した。そのまま落ちてしまえ」

 

 かろうじて窓枠にしがみついてジタバタともがく一心に、一護は冷然と吐き捨てた。

 

 「いやああああ?!お慈悲を!」

 

 「こらー!お父さん、お兄ちゃん!やめなさい!ご近所迷惑でしょ!」

 

 「お?今日は久々に派手だねー」

 

 「花梨ちゃんも見てないで止めてよー!」

 

 ギャーギャーわめく父親を舌打ちとともに無視する長男。駆け付けた双子の妹の片方がたしなめ、もう片方がからかうように笑う。

 

 今日も、空座町の一角にある、クロサキ医院は騒がしい。

 

 




 なお、この話はもう少し続くことになる。





 次回は、破面強襲篇・・・を開始する前に、以前アンケートでお伺いした、蒲原さんのお話をやります。
 よかったらまた、お付き合いくださいませ。
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