「みんな!」
驚きというか、嬉しさが滲み出た。少しの時間ではあるが、全員遊撃士として情報部のクーデターに立ち向かった仲間たちだ。
「ちょ、ジャンさん! これは!?」
「さてはジャン。お前こいつに俺たちが来ること、教えてなかったな?」
カイトの声を遮ったのは、赤髪の偉丈夫アガット。問われた青年受付は、少々にやついた表情で傍観にふけるのみだ。
「久しぶりねカイト! 準遊撃士の紋章、なかなか似合ってるじゃない!」
四人は次々と支部へと入り、エステルは少年を労った。少年が遊撃士資格を得てから今まで会っていないので、ジャン経由で新人が生まれたことを聞いたのだろう。
「やっほー、カイト君! 王都以来だね!」
「アネラスさんまで……」
師であるカルナと行動を共にする少女アネラスがいるというこの組合わせは意外でもある。もう女性と言っても違和感は無いだろうが、それ以前に頭の大きなリボンが少女然とした雰囲気を醸し出している。
「っていうか、本当にどうして? 何か、大がかりな依頼でもあるんですか?」
「依頼、というより自発的な調査ね」
シェラザードが一歩前に出て、そう言った。
「四人は、これから遊撃士としての依頼をこなしつつ、王国全土を渡り歩いてもらうんだ。というのも……」
ようやく答え合わせだと言うように、ジャンが口を開く。そして一呼吸おいて発せられた単語やその意味は、少年に期待と不安を抱かせた。
「結社、『身喰らう蛇』の動向を調査するためにね」
一同は、事情を初めて知ったカイトのために噛み砕いて説明をしてくれる。
『身喰らう蛇』、またの名を『ウロボロス』。一般人が知ることはまずない、裏社会に出没する秘密結社だという。
『盟主』とよばれる存在の下に幹部や戦闘部隊が集まり、自分たちの目的のために大陸各地で暗躍を続ける謎の組織。
遊撃士は民間人を守るために五十年程の歴史の中で幾度か交戦を繰返し、敵対してきた。しかし未だに組織の規模や目的など、ありとあらゆる情報が掴めていないのだという。
「そしてヨシュアは、過去にその結社に属していた……」
途中でエステルが、口を開いた。先程ジャンが挙げた遊撃士協会を去った二人。一人はカシウスで、もう一人はヨシュアだった。
普段のエステルからは考えられない程の静かな声だ。そうなってしまった境目の日を、少年は思い浮かべる。
クーデター事件の事後処理も粗方の目処がたち、生誕祭は無事に執り行われた。その頃にはエステルとヨシュアは正遊撃士へと昇格。同時にカシウスの脱退も知られてはいたが、それもあくまで前向きなものだった。
生誕祭のとある日。カイトが緊張しつつクローゼと街を見て回り、エステルとヨシュアをからかった日の夜。
唐突にヨシュアは、エステルに別れを告げたという。自分は悲しい出来事により心が壊れ、その心を魔法使いに施されて人形となり、数々の非道を働いてきた。そんな自分が太陽のような少女と共にいては、自分を殺し、そして少女も影に染めてしまうからと。
同時にヨシュアは、エステルといて幸せな『夢』を見れたという。そして出会った頃から、エステルのことが好きだったとも。
「そっか。そうだったのか……」
そんな悲しい出来事が起きていることなど知らなかったカイトは、細かい事情を知らずに今日まで過ごしていた。しかし蓋を開けてみれば、あの日何故エステルが眠りこけていたのか。何故ヨシュアの雰囲気がおかしかったのか。何故、次の日エステルは誰にも挨拶を言わずにロレントへと帰ったのか。それが理解できた。
そして今、少女は黒髪の少年を連れ戻そうとしている。姿を消した事実に一度は打ちのめされてしまっても、彼ともう一度話さなければ納得がいかないと、彼に関係の深い結社の調査をすることでそれを成そうとしている。
「エステルは……すごいな」
同時にエステルはアネラスと共に、この二ヶ月の間国外に出ていた。ル・ロックル研修場という場所で遊撃士として求められる高度な技術を学んできたのだ。
せっかく自分も遊撃士になれたのに、もう距離を拡げられた感じだ。頼もしいと感じる反面、少しだけ悔しい。
「ううん。私が頑張れてるのは、私だけの力じゃないわ」
しかし呟いた一言を、エステルは否定した。まるで今までの旅路と想いを噛み締めるように、ゆるゆると語り出す。
「私は今まで、ヨシュアに助けられてばかりだったの。だから今度は一人前になれるように修業に出た。それで確かに強くなったけど、まだまだどこか未熟な私がいる。
昔からシェラ姉には遊撃士の心得を教えてもらってるし、アガットからは突っ走らないことを学んだし、アネラスさんがいなければ研修も頑張れなかった。父さんにも……一緒にクーデターを解決した人たちにも支えられてる。だから、私が凄いんじゃないの」
日々を過ごしているなかで助けられている自覚は、もちろんカイトにもある。けれどそれを言葉にして原動力とすることはできるだろうか。
「少しだけ訂正。エステルらしい、凄さだよ」
「ふふっ。ありがとう、カイト」
そんな新人たちの会話を、先輩たちは優しく見守っている。そして恐らくいずれ誰かから放たれる言葉は少女によって少年に届いた。
「私にはまだまだ皆の助けが必要。……だからカイト、あなたの力も借りたいの」
「え……?」
どういう意味だと少し黙考してから、ジャンを見る。少年を驚かすために黙っていた青年もまた、ゆるゆると語る。
「君さえ良ければ、四人の調査に同行させようと思っているんだ。さっきも言った通り、カシウスさんの抜けた大きな穴を埋めるために、若手にはもっと成長してほしいからね」
エステルたちはル・ロックルで対テロ、拠点防衛、戦闘技術、交渉術やら諸々の能力向上を図ってきた。しかし準遊撃士になったばかりのカイトに正遊撃士でも苦戦する研修はまだ荷が重い。
「そこで純粋に現場になれるために、僕は君が尊敬し信頼する人から学んでほしいと考えた。推薦状も渡したし、君をルーアンに縛り付ける理由はないからね」
カイトの同行の目的は、言わば先輩を交えた実地研修だ。
少々早いと思っていた推薦状も、そうと考えれば納得がいく。別段怒りはしないがもっと早く言ってくれればと、頬を僅かに膨らませた。
「そこまで色々と用意してくれて、このチャンスを見逃すわけないじゃないですか」
「……と、いうことは?」
ジャンの問いに、自信を持って胸を叩いて見せる。
「もちろん、行きます! オレも調査に同行させてください!」
「改めてよろしくね、カイト!」
同じようにエステルが声を張り、先輩たちが頼もしげに頷く。
そんな中、しばらく沈黙していたアガットがカイトに聞いてきた。
「さて、そうとなれればもう一つ決めることがあるぞ。お前は俺とシェラザード、どっちに付いていくんだ?」
聞けば、これから四人は二手に別れるのだという。ここルーアンを出発地として順に各都市を調査していくエステルとシェラザード。その二人と同じように各都市を回るが一地方に留まる期間は短く、『身喰らう蛇』の調査とともに未だ捕まっていない情報部の残党の調査なども兼任するアガットとアネラス。
「僕としては、カイトに任せるけどね。どっちもいい経験になるだろうし」
「うーん……」
「俺としては、お前は俺側について来いと言いたいがな」
「えっと、アガットさん。それはどういう?」
両極端な赤毛の青年たち。
「わかってるとは思うが、お前の戦闘技術はまだまだ未熟だ。調査ついでに、俺がみっちりと稽古してやるよ」
「わーお……」
「アガットあんたねぇ……遊撃士は戦いだけじゃないでしょうに」
一匹狼ぶりがわかる発言に、少年少女は軽く身震いしてみる。
結果的には、どちらも違った経験が得られるだろう。はてさてどうしようかと考え、やがてはその場の五人が考えなかった提案を申し出た。
「我が儘なんですけど……いいとこ取りはできないですか?」
アガットは怪訝な、残る四人は問題ないというような顔をした。
「オレはまず、アガットさんのほうに行きたいと思ってます。けれどエステルたちが最初に調べるルーアンは、オレの故郷……。さっきの『結社』が何かをしでかすなら、まずはこの街を自分の手で歩いて行きたいんです」
もちろん、忙しさは倍増するだろう。両グループの調査状況を把握しなければいけない以上、準遊撃士としては忙しすぎるとも言えるが。
「……まあ、いいんじゃないかな。この際だ、先輩たちを存分に活用するといいよ」
「じゃあ……」
「しゃーねぇな。仕事がダブるから手を抜くなんてことはさせないぜ。覚悟しとけよ?」
「はい!」
準遊撃士カイト。新世代型戦術オーブメントを手にしたこの日、彼の初めての大きな調査が幕を上げた。
――――
「ーーさてと、それじゃあ二人とも。改めてよろしく頼むわね」
行動の方針が決定した後。アガットとアネラスは近日中の再会を約束して、ルーアンを後にした。
ボースへと空の航路を行く飛行船を見えなくなるまで見届けた後、三人は改めて調査への奮闘を誓う。
「こちらこそ、シェラさん」
結社の調査とは言うが、いきなり某アジトに潜んでいる組織を叩けと言うわけでもない。何せ、リベールの遊撃士協会も動向を掴みかねているのが現状なのだ。
そんな中、この三人にこそ調査してほしいとジャンが申し出た依頼はこんなものであった。
「『白い影の調査』……これ、その結社と関係あるんですか?」
ルーアン各地で、偶然ではないような同じ存在であると思われる白い影を見たという相談が届いた。市長選が近いこともあり、市民の動揺を抑えるためにこれを調査、解明せよ。
「どんなに些細な事柄であっても、それは実は大きな事件の前兆かもわからない。私はこの件に不穏を感じたジャンの感覚に任せるべきだと考えるわ」
白い影が現れたという報告は三ヶ所。エア=レッテンの関所、ここルーアン市、そしてカイトの家であるマーシア孤児院だ。
「それにポーリィも影を見たって言ってるんでしょ? 家族のために仕事をする、いい機会じゃない」
確かにポーリィはそんなことを呟いて回っていた。そもそもそのことをジャンに伝えたのはカイトなのだ。別段重要なものだとは考えていなかったが、印象には残っている。
「まあ、ね。……それにしても、エステル」
「ん?」
「怖いものが嫌いって……意外と可愛い所があるんだね」
「違うちがーう! 得たいの知れないものに気を付けてるだけー!」
小さなやりとり。その中に少年は違和感を感じた。
いつものように自分のからかいに反応する少女だが、どこか違う。共に過ごしてきた時間は家族のそれより短いが、それでもクーデターを解決した仲間だ。多少の感情の機微なら感じ取れる。
やはり、ヨシュアがいないからなのだろう。五年も過ごしてきた姉弟であり相棒である想い人が、突然目の前から、自分の意思で姿を消した。それはひょっとしたら、クーデターの時カイトが感じた心の虚無感より何倍も辛いことなのかもしれない。
だとすれば、今エステルを支えている意志が強くても、一人で抱え込むには苦しすぎる。少年にできることなどたかが知れているが、それでもほんの僅かでも、力になりたい。
「へへ、まあいいや。まずは、『レイヴン』のところだったかな?」
「くっ、カイトのくせに……。まあいいわ。うん、最初は倉庫に行くわよ!」
マーシア孤児院のポーリィを除いた目撃者。それはルーアン市では不良グループ『レイヴン』の一人、そしてエア=レッテンの関所ではそこに詰める兵士の一人だ。
最初にレイヴンに、最後にポーリィに聞いて回ろうと三人は決める。
「やる気、出てきたみたいね。それじゃ、行きますか」
シェラザードの言葉に「おうっ!」と二人声を重ねる。三人はルーアンの地面を歩き始めた。
カイトはまだ、考える。事情は多少なりともあるはずだ。それでも、ヨシュアにはほんの少しの怒りを禁じ得ない。エステルを始めとして、先輩遊撃士たちにも、自分にも……そして自分の姉にだって、心配をかけているのだから。
何はともあれ、小言を言うには彼を見つけなければ。そのためにエステルの旅を手伝って、そして強くならなければ。
やることは沢山だ。それでも少年は、深く息を吐いて気を引き締める。
カイトにとっては修行という意味合いを含めた日々が。エステルにとっては結社の影の先に立つヨシュアを探すための旅が。
軌跡を辿り、あるいは作る。そんな旅が、始まる。
――――
「んー、それにしてもシェラさん」
「何かしら?」
「これってやっぱり、白い影は幽れ」
「アーキコエナイキコエナイ、絶対に聞こえないっ!」
配布されてから一ヶ月と少しの遊撃士手帳は、まだまだ新品の様相を崩してはいない。しかしそれはここ一ヶ月の依頼が物資の配達や魔獣退治など単調なものが多かったからだ。
今日のように目撃証言や仮説、状況を事細かに記す依頼であれば、すぐに新品ではなくなるだろう。
「まあ……今の所はその線が濃いわよね。まだまだ認めたくない誰かさんもいるけれど」
手帳のメモを睨みながら、カイトはシェラザードの意見を飲み込む。当然、幽霊そのものを認めたくない剣聖の娘は無視である。
「となると、ポーリィの証言によっては確定……なのかな」
ルーアン市とエア=レッテンの関所での調査は無事に終えた。……いや、無事にといっても何事かはあったのだが。
レイヴンの溜まり場に入ると、だらけてはいるものの妙に大人しくなった彼らがいた。ダルモアの事件や武術大会で多少なりとも心を入れ換えたのか、口調はともかく雰囲気は比較的優しい青年たちとなっていたのである。
そんな彼らに事情を説明すると、証言の対価として彼らと一戦を交える事となった。てっきりシェラザードが振り撒いた色気にやられたのかと感じた遊撃士一行としては、逆に気が抜けたものである。
彼らはまた強くなっていたが、それでも大した苦もなく――カイトは銃術と体術のみで――勝利し、目撃証言を得ることができた。
『深夜の二時頃だったよ。妙な白いマントを羽織った影が空中を歩いてて、俺に向かって会釈したと思ったら北東の方角へ飛び去っていったんだ』
目撃者は、現在ルーアンで最も有名な人であろう、選挙に出馬しているノーマン氏とポルトス氏。前者の息子がレイヴンに入り浸っている時に目撃したものだった。
金持ちの息子が不良グループに入り浸る。不良に向いていないのは本人も自覚しているらしく、エステルと揃って白い影の不気味さに戦いていた。
一方、エア=レッテンの関所ではこのような証言である。
『深夜、まあ眠かったからいつ頃かは記憶にないけど。ほら、あそこに滝があるだろ? あの周辺を白いマントをした影がステッキを持ちながらくるくる回ってたんだよ。それで……そう、最後は北の方向に飛んでったんだ』
この兵士は驚きのあまり影に向けて発砲したらしい。結果は当たるというか、すり抜けた。ますます『幽かな霊』と言いたくなる現象だ。
しかもこの兵士は寝ぼけていたと思われて隊長に大目玉を喰らったという。カイトは心の中で静かに合掌しておいた。
「ふぇー……カイトも私と同じだと思ってたのに……」
「これでも、五人兄弟の兄貴分だからね。怖がってたらあいつらを面倒見れないし」
メーヴェ街道を歩く最中、エステルの弱音におどけて見せる。
カイトも全然平気というわけではないが、彼の下には腕白なくせにお化けに怖がる三人の子供たちがいたのだ。孤児院で眠る深夜に起こされて彼らの相手をしていたので、殆ど強制的に苦手は克服されていた。
ちなみに目撃者であるポーリィは、幽霊を幽霊と思わないために全く怖くないようである。
「子供、といえばさ。『レンちゃん』だっけ? あの親子、いい人たちだったよね」
「あー、それはそう思うわよ。おませな年頃だったし、可愛かったわねぇ」
関所を辞する時、三人に声をかけた親子がいた。外国から旅行に来たという件の少女レンと、その両親である。
紫の髪と金の瞳。十一歳程かその年頃によく似合う白黒のフリルのドレス。
加えて両親も物腰柔らかく、理想的な家族に見えた。
両親の記憶が微かに残る少年は、彼らの様子を微笑ましく見つめていた。
「ま、いいか。それじゃ二人とも、ようこそマーシア孤児院へ!」
話ながらの街道散歩は意外と早く過ぎるものだ。カイトの言うように、すぐ目の前には少年の家がある。
やや呆けた様子で家の前まで歩くエステル。
「……あははっ。新しくなったぐらいで、形は前のまんまかも」
「そりゃそうだよ」
「皆で決めましたからね。形は、変わらずに建てようと」
最後の声は、三人のものではなかった。裏庭から顔を出した、カイトの第二の母。テレサ院長は、柔らかく微笑む。
「お帰りなさいカイト。……そしてエステルさん、お久しぶりですね」
「テレサ先生……」
「ふふ、数ヶ月ぶりですね」
放火事件に関わったエステルとしては、無事再建した孤児院は感慨深いものだろう。先程彼女が呟いた通り、建物の木材や幅、構造、趣向に至るまで殆ど同じように再現されている。
「初めまして、テレサ先生。この子たちの先輩で、シェラザード・ハーヴェイと言います。孤児院の再建、おめでとうございます」
簡単な挨拶。その後少しの世間話を経て、本格的に調査の話へ。
「ポーリィが見た……『白いオジチャン』のことですね? カイトが遊撃士協会に伝えてくれた」
「うん。あの時はオレも楽観視してたけど、同じ影の目撃情報が多数あるんだ。だからポーリィにもう一度聞いておきたくて」
「そういうことなら、是非聞いてあげてください。エステルさんに会えば、子供たちも喜びますから」
そんなわけで、子供たちに会うことに。カイトは今頃日曜学校にマノリア村にでもいるんだろうなと考えたが、意外にもそうではないらしい。
「子供たちが日曜学校の先生を気に入ったらしくて。今日はここでやっているんですよ。まだ少し、時間はかかるかと思いますが」
言われてカイトは、部屋の窓から授業の邪魔にならないようそおっと覗いてみる。中には弟たち四人の他、数人の子供たちがいた。意外にも全員が大人しく耳を傾けていて、目を輝かせている。
その理由は授業内容にあるらしい。机に積まれた大量の本。その一冊を、白い法衣に緑の髪を逆立てた神父……のような人物が読み聞かせているようだ。
心なしか神父の顔は疲労が溜まっているような気がしたが。
「うーん、確かに時間はかかりそう……あれ?」
と、観察し終えて三人の元へと戻る少年は疑問符を浮かべた。
けれど一秒で察しがついた。泣き顔のエステルがテレサ院長に抱きついている。包容力のある母親に泣きつく理由なんて、大体分かりきっている。
「泣くのを我慢なんて、しなくていいんですよ。大切な人が、目の前から居なくなってしまったんですから」
「テレサ先生っ……」
子供たちは授業に集中しているし、しばらくそのままでも大丈夫だろう。
今はただ、言われた通りに泣いてほしかった。
しばらくの間エステルは、静かに顔を歪めていた。