心の軌跡~白き雛鳥~   作:迷えるウリボー

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15話 憎き仇の前奏曲①

 太陽が冷え始めた大地に温もりを与えてくれる、初冬の昼下がり。翡翠の公都バリアハート。

 帝国東部クロイツェン州の中心都市。人口は三十万人。周辺に広がる丘陵地帯では毛皮となるミンクが多く生息し、領内にある七曜石の鉱山からは良質な宝石が採れることでも有名だ。街の南にはそれらを加工する職人通りがある。

 何より帝国の人々にとっては、『貴族の街』という認識が有名らしい。

「ーー遊撃士の建物への襲撃事件か。三ヶ月も経つけど、よく覚えてるよ」

「その時の話、詳しく聞かせてもらえますか?」

「ふーん、今さらその話をするんだね。君ら、遊撃士なの?」

「はい、そうですけど」

 職人通りの一角、先程アネラスとカイトが見ていた宝石店。その品々を物色している、アネラスより幾分年上の青年に声と話している。

 カイトとアネラスは、まずは会話を交えなければ現状理解のしようもないと、手当たり次第に通行人に声をかけていた。

 ちなみにジンは、この場にいない。調査の効率化を図るため、彼は一人バリアハートの東にある『双竜橋』に向かい帝国軍人に対し情報を得に行っていた。

「まあ、あれだけの打撃を受けても行動できるってのは褒めて然るべき点だよね」

「ははは、ありがとうございますぅ……」

「それで、教えて頂けますか?」

 ものの見事に意気消沈するカイトを制し、アネラスは問う。

「大丈夫、教えるよ。……と言っても僕は建物が破壊されたその場に居たわけではないけどね。何せ爆発が起きたのは深夜だっていうじゃないか。起きてたのは領方軍ぐらいだと思うよ」

 バリアハート支部が襲撃されたのは、最初の帝都支部襲撃から約一日経った深夜だった。流石にその時は、連続して協会支部が襲われる事など夢にも思わなかっただろう。

「じゃあ、具体的な目撃者はいないってことてすか……」

「ま、そうなるだろうね。僕ら一般人から言えることは、次の日の街の様子が慌ただしかったことぐらいさ」

 それと帝国時報社の速報くらいかな、と生気のなさそうな青年は付け加えた。

 ただ、バリアハート支部の建物の被害は『内部の半壊』だ。街の騒ぎが大きかったのは変わらないが、その伝播は遅かったのだという。

 帝国時報の速報は、帝都支部に引き続き様々な地方の協会支部襲撃の報が載せられた。ここへきて、様々な立場の人間が理解した。

 明らかに遊撃士協会のみが襲われている、ということを。

「逆に言えば、『領邦軍』なんかはよく調べていると思うけど。オーロックス砦にでも行けばいいんじゃないかい?」

「う、また軍人かぁ……」

 青年の言葉に、カイトはあからさまに顔をしかめた。何せ、苦手意識の塊である帝国の軍人である。

「それで……領邦軍の方なんですね? 『正規軍』ではなく」

 アネラスとしては呻くカイトを励ましたいところであったが、調査を怠るわけにもいかない。念を押して、青年に聞いてみた。

「うん、領邦軍だ。正規軍ではなく」

 正規軍と領邦軍。カイトとアネラスは青年より前に話を聞いた幾人から得た用語だった。

 正規軍とは、国における定義に基づく軍隊を指す。国外から認知される帝国軍とは帝国内における正規軍であり、その規模や主力兵器など幾つかの違いはあれど大枠を捉えるならリベール王国軍と同じものと考えても指し違いない。かつて王都で出会ったオリビエの知人ミュラーは、話を聞く限りは正規軍に属するらしい。

 そして領邦軍とは、『国内各州の大貴族がその財力を用いて軍隊を編制した、領地の治安維持と防衛を担う組織』である。有り体に言えば『私兵』なのだが、莫大な財力故に大規模な組織が産み出されるのだという。

 つまりは、元貴族であったダルモアがその財で王国軍に負けない規模の私兵を持つことか……話を聞いた時、そう少年は考えた。

 だが、いまいち漠然としていた。貴族とは、どういうものなのか。結局のところ、それが分からない少年には想像ができなかった。

とはいえ、異国の人間であるカイトとアネラス、そしてこの場にいないジンには正規軍も領邦軍も関係ない。カイトの苦悶の表情は、そこに起因している。

「んじゃ、頑張ってねー。僕ら平民には関係のないことだけどさ」

 あまり言葉のよろしくない青年は、それでも最後まで律儀に答えてくれていた。

「結局何人かに聞いてみたけど、次の日の様子とか、事の顛末ぐらいしか分からなかったね」

 店内へと消えていく青年を見ながら、アネラスは静かに言いきった。

「……そうですね。よく聞くのは、『領邦軍に話を聞け』ぐらいで」

 青年は言葉こそ悪いが、それでも情報を与えてはくれていた。酷いのは他にも情報を求めた人々で、多くは皆一様に「他を当たれ」という指摘だったのだ。遊撃士など、全く興味がないと言うように。

「流石に一日目からこれだと、気が滅入ります……」

「カイト君、めげずに頑張ろうっ」

 その後、二人は何とか調査を続けた。

 それでもやはり、やはり手帳に記載すべき情報を話してくれた人は少なかった。

 そして数刻後。双竜橋から戻ってきたジンを向かえ、三人はオーロックス峡谷道を歩いていた。

「……そうか。残念ながら双竜橋でも、大した話は聞けなくてな」

 大昔から存在した砦。そこに至る峡谷道も新しくないが、時折整備しているらしく歩きにくくはなかった。

 双竜橋でも遊撃士に対する態度は変わらなかったらしい。共和国人であることは明かさなかったものの、異国風の旅装と遊撃士であるという肩書きからまともに相手をしてくれなかったそうだ。

「それで、お前さんたちが聞いてきたのは大きく二つか」

 そう言ったところで、道から外れた所を闊歩していた魔獣を発見する。

 四肢を地につけた狼が六体。ダルモアが飼っていた二匹の魔獣よりは小振りだが、それでも素早さと数の多さが驚異になるのは否めない。

 ジンは巨体を敏捷に動かして早々に一匹を蹴り飛ばした。間髪いれず噛みついてきた二匹目三匹目と相対していた。

 アネラスの得物は太刀。同系統の得物を持つ者と相対する時刃は武道の様相を見せるが、ここではそうも言っていられない。自らを狙う牙を紙一重で避けては、確実に体幹を切り裂き体力を消耗させていく。

 カイトは、小柄な体躯を生かした機動性という意味では、他の二人にも退けをとらない実力を持つ。結果として体力を犠牲としつつも、少しずつ一匹の動きを鈍らせていく。

 実力者であるジンが真っ先に仕留めると、アネラスは浅い傷を作りつつも八葉の剣術を用いて退けた。カイトは戦況のせいでアーツを使えず、体術と銃術を駆使して辛くも敵を絶命させる。

 カイトの実力は、まだまだ一人前とは言い難い。それでも激戦を潜り抜け、少しずつ戦いも様になってきている。街道の難度の低い魔獣であれば先輩から安心して任させるようになってきており、今なら何時かのキングスコルプなど簡単に倒せるだろう。

「はい。聞いた中での一つ目は『オーロックス砦の領邦軍に話を聞くこと』。そして……」

 魔獣を撃退したさせた後、一息ついたアネラスが言う。先程の問答に対する返答だが、律儀に頷いてから続ける。

「レイラさんたちから受け取った中に記されていた、バリアハート支部における唯一の犠牲者のことです」

 

 

――――

 

 

 ジンと合流するほんの少し前のことである。住宅街で話を聞いていた二人は、偶然出会った儚げな婦人から一つの事実を聞いていた。

「私は、正直今の世論があまり好ましいと思ってないの。

 確かにあの事件で少なくない数の犠牲者がでたけれど……それまで遊撃士さんは、帝国の人々を色々と助けてくれたわ」

 この帝国に来て既に六時間程は経過しているが、リベールでは日に三回は聞けそうな言葉を始めて受けとることができた。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると、私たちも頑張れます」

「ふふ、頑張ってね。……バリアハート支部はね、数こそ少ないけれど皆精力的に活動していたの。でも、『カイル君』が亡くなってから、皆意気消沈してしまってね」

「カイル君?」

 調査において最初に聞いた犠牲者の名。話から察するに遊撃士協会関係者だったらしいが、カイトとアネラスはすぐにその正体に気づけなかった。

「あら、支部の建物に入ったのよね? 聞いていない?」

「いえ、特には。書類をもらって、それで遊撃士の一人が亡くなったってことは知りましたけど……」

 目の前の年の若い婦人は、遊撃士を信頼してくれているようである。その雰囲気に負けることなく淑やかに目を伏せてから、僅かに気落ちした様子で答えてくれた。

「丁度……あなたより少し年上だったかしら。確か十八歳ぐらいなのだけれど」

 カイトを見て、さらに続けた。

「――『カイル・リゼアート』。活発で働き者で、事件の起こる少し前に遊撃士になった、レイラさんのたった一人の家族だった子よ」

 

 

――――

 

 

「まさかたった一人の犠牲者が、レイラの弟だったとはな」

「あの時レイラさんは、どうして何も言わなかったんでしょうか。それに、マルクスさんも」

 ジンは目を瞑りながら答え、アネラスが疑問符を挙げた。

 カイルは姉であるレイラに憧れて、遊撃士になったらしい。婦人が言ったように精力的で、事件当時も帝都襲撃で出払った熟練遊撃士に変わって街の簡単な依頼を受け持ち続けていたそうだ。そして深夜まで働き、支部にそのまま泊まってしまったそうだ。運が悪かったとしか言いようがなかった。

「故人に一番近しい家族だったんだ。亡くなってからまだ数ヶ月……あまり話したい話題でもないだろうさ。無用に傷を抉るのもいいことじゃない」

 その意味では、あの場でカイルの話を聞けたことは幸運だった。少年と少女は話を聞いた後どちらからでもなく目を瞑り、黙祷を捧げていた。

「……」

 一方のカイトは、戦いでずれた手甲脛当てを調整しつつも、終始無言でいる。

 帝国に来た戸惑い。バリアハートを見ての感動。遊撃士の現状を聞いての動揺、現状を実感してのやるせなさ。カイルの話を聞いての悲しみ。様々な感情が入り乱れて、少年は既に心が疲れ果てていた。そのせいで、あまり好きではない魔獣との戦闘の方が気晴らしになっていたくらいだ。

 加えてこれから向かうのは領邦軍……正規軍とは違っても、至る所から『軍』の名を冠する組織の詰め所なのだ。ため息が出ないわけがない。

 今のところは、目を見張るような内容が明かされているわけではない。しかし遊撃士とは違う立場から物事を見ている組織なら、あるいは新たな見解も得られるのかもしれない。

「――というわけで、着いたぞカイト。オーロックス砦だ」

「あ……」

 見えてきた。夕日に映える、中世の要塞が。

 右に左にうねる整備された道の奥。峡谷から一転、やや開けたようにも見える空間に、それは存在していた。グランセル城とまではいかないが、それでもエルベ離宮ほどの広さはすっぽりと収まりそうな景観だ。大体が二階建てほどの高さの壁面。自分たちから見て左側にある城壁塔は五階建てほどはあって、そこからは兵士がこちらを見ているのかと思える。所々に見受けられる旗には、緑を基調とし二匹の天馬(ペガサス)が支える翼の紋章がある。黄金の軍馬を掲げる帝国の国旗とも違うようだ。

 それでも数々の円柱状の鉄塔がその威厳を顕わにしているようで、正規でなくとも軍事施設であることを思わせる。

「……レイストン要塞とも違う、中世の古城を利用した要塞。中々の威圧感だな」

「ル=ロックル研修場にあったグリムゼル小要塞みたいな感じだね……」

 アネラスが発したのは、レマン自治州の遊撃士の研修場の一施設だ。しかし想定されたダミーでもない。

 ジンとアネラスは落ち着いて、カイトはやや圧倒されながら、正面の扉までの道を歩いていく。

「……おい、お前たち」

 世論から考えて、居心地が悪くても別に存在することが違法という訳ではない。そんな三人は、場慣れしたジンを先頭に堂々と正面の扉に向かった。結果はやはり、扉を守護する兵士たち二人からの質問である。

「バリアハートから歩いて来たのか? 軍関係者でもなさそうだし、何者だ?」

 いつか見たミュラーの紫色の軍服ではなく、青い色に所々白の線が入った軍服を着ている。その所作は高圧的というよりは格式ばったものとなっている。

「俺たちは遊撃士だ。現在、三か月前の協会支部襲撃事件の再調査をしているところでな」

「遊撃士だと?」

 ジンは一度自らの襟を強調させた。そこに在る正遊撃士の紋章は、夕陽を反射させ光と共にその存在を兵士たちに知らしめた。

「こんな状況で俺たちがアポなしで赴くのも失礼なことは承知している。それでもどうか、調査に協力してはくれないだろうか」

 アネラスとカイトも後ろから自らの紋章を見せた。正遊撃士と準遊撃士、比較的新しい二人の紋章を。

「支える籠手の紋章……確かに遊撃士のようだが」

「しばらく見ないと思っていたが、微妙な時期に現れたものだな」

 黙考した後、二人は順々に喋りだす。遊撃士と言う存在を嫌う訳でもなく、かと言って皮肉るわけでもない。妙に淡々とした受け答えだった。

「我ら領邦軍は日夜クロイツェン州の防衛を担っている。遊撃士風情に割く時間などない。……と言いたいところなんだけど」

「俺たちは末端の末端だからな。取り敢えず、上に報告するからそこで待っていろ」

「……感謝するぜ」

 二人の兵士は扉の中へと消えていった。

「意外とすんなり通してくれましたねぇ」

「ああ。多少の賄賂もくれてやるつもりだったんだが」

「わ、賄賂って……」

 先輩二人のただならぬ会話に、少年は思わず突っ込んだ。そんな会話をさも当然のように話すあたり、国家絡みの事件に身を投じているとそんな単語が当たり前のようになってくるのか。

「ちょっとした硬貨さ。麻薬を渡そうってわけじゃないさ」

 逆にジンは教えてくれた。内政に踏み込めない遊撃士が自分の力で国家、政界に挑む時は、邪道も必要であるということを。

「……お前たちか。突然やって来た遊撃士風情というのは」

 さほど待たずに、新たな兵士がやって来た。どうやら小隊長らしく、他の兵士が身につけている丸みある兜ではなく明るい青の帽子をかぶっている。

「突然の訪問を失礼する。遊撃士のジン・ヴァセックだ。後ろにいるのは、同じく遊撃士のアネラスとカイト」

 少年少女が小さく会釈をする。

「聞けば、去る日に起きた遊撃士協会襲撃事件の調査を、今頃のこのことしているとか言うが?」

「ちょいと事情があってな。後輩指導を兼ね、また遊撃士としての至らなかった部分を把握するために再調査をしているところだ。どうかその調査に、協力をしてはもらえないだろうか」

 ただでさえ遊撃士の心象が悪い現在の帝国。だからこそ『反省している』ことを仄めかして下手に出た願い方。それを堂々と、そして真摯に口にするあたり、さすが簡単に国家に囚われないA級遊撃士だ。

 しかし小隊長は、それをあざ笑うかのように一瞥する。

「その殊勝な心掛けを始めから尽くしていれば、我らクロイツェン州の被害も少なく終わったと思うのだがな」

「……」

 人知れず、少年の目つきが強くなる。

「ルナリア自然公園、ケルディック。どちらも我が領土の大切な財産だ。そこをみすみす猟兵団に荒らされ、貴様らは大した働きもなかった。その被害を考えれば、辺鄙な紋章を捨て支部を畳むことがもっともな反省だと思うが?」

 さすがの言い様に、三人は怒りを覚える。度を過ぎた罵りだ。多少のなじりを受けるとは覚悟していたが、幾らな何でも酷すぎる。

「……ふざけるなよ」

「なに?」

「やめろ、カイト。気持ちはわかるが」

「遊撃士協会は、あんたたち軍に助けを求めていたんだ! それに返答もせずサボって、今更被害者ぶり……恥ずかしいとは思わないのかよ!?」

 とはいえ制止したジンも怒りはある。無理に止めようとはしてこなかった。どうやらここでの調査はあきらめているようだったが。

「餓鬼が、口を慎め。貴様らの失態であることは変わらない事実。何よりここでその身を捉えてくれてもかまわんのだぞ」

 そんな謂れもない容疑をかけられて、今度はアネラスが沸点に到達する。背後の兵士たちが銃剣を手に持ったのを見て、少年少女は思わずその手を得物に近づけてしまった。

「ふん、一般人ごときが武具を手にするからだ。者ども、取り囲め!」

 流石に粗すぎる。問答である。ほんの五秒秒ほどで十名もの兵士に囲まれてしまい、カイトは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「二人とも、すみません。流石に見過ごせなくて……」

「なに、構わないさ。口が滑ったのは反省点だが、流石にこれは奴らが悪い」

「うんうん、特務兵に似た意地の悪さを見たね。取り敢えず、どうやって切り抜けるかを考えようっ」

 とはいえ、ここは大人しく矛を収めるのが先決だろう。ブルブランとの戦いの時からどうにも口が早くなってしまったなあと思いつつ、両手を挙げようとした時。

「――止めたまえ。領邦軍の顔に泥を塗る愚か者よ」

 苛烈な言葉。しかし声の質と量はとても穏やかで甘やかな青年のそれ。

 その源は、先ほど小隊長が出てきた扉の奥からだ。

「な、あ……」

「ル、ルーファス様!?」

 小隊長は呻き、兵は微かに声を荒げる。僅かに聞き取れたルーファスという人名、それが声の主らしい。

 その出で立ちを見て、最初にカイトが想起したのは砦のいたるところにある旗の紋章だった。紺の外套を羽織りつつも、中に身につけているのは褪せた深緑の、留め金も豪華な衣。首元に存在する紫のアスコットタイはさらに中心に空色の宝石をあしらっており、貴賓さが伺えた。

「しかし、この者どもは我ら領邦軍を貶める暴言を――」

「私が聞く前にどのような会話があったのか、それは問題ではない。罪もない者を貴様らの都合で裁くことが最大の恥だと言っているのだ」

 なおも制する、長い糸のような金髪を持つ男性。端正な顔立ちはヨシュアにも負けず『美』という形容が似合いそうな青年で、青色の瞳は威風堂々とこの場を牛耳っている。

「この者たちは、私が預かる」

「なっ……遊撃士風情を、ルーファス様が相手にするなどと」

「――足労の民を相手に、『風情』とは何事かっ!」

 強い響きは、その場の兵を沈黙させた。青年は兵を威圧のみで退け、中心の遊撃士三人を見据えて来る。

「我が領邦軍が、なにかと迷惑をかけたようだ。謹んで、非礼を詫びよう」

 所作こそ一礼もしないものの、そこには確かに謝罪の雰囲気があった。

 三人にとっては、救世主ともいえた人物。彼の言葉に、一同は耳を傾ける。

「私はルーファス・アルバレア。クロイツェン州を統治するアルバレア家の嫡男に当たる者だ」

 貴族と平民。未だカイトが理解し得ない制度の、その上に在る公爵家。

 後にカイトが知ることとなる、『四大名門』の存在。その一角との、これが最初の邂逅だった。

 

 

 


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