中枢塔の頂上。地上千メートルの浮遊都市のさらに頂。恐らく、この世界で最も空に近い場所。
「……来たか」
待ち受ける剣帝レオンハルト。レーヴェは、左手に金と黒の大剣を携えて待っていた。
「意外と早かったな。もう少しばかり待たされるかと思ったぞ」
その近くまで、四人はやって来た。
こんな風に彼のいる場所までやって来た。近い状況だと、エステルとカイトが思い出すのは女王宮での戦いだ。
だが、何故かあの時ほど険吞とした空気にはならない。いっそ久しぶりに友人に会ったような気軽さで、エステルは剣帝に声をかける。
「ま、あたしたちも少しは成長してるってことよ。貴方のお仲間にはてこずらされたけど、それでも全員で乗り越えてきたわ」
獅子の果敢を冠する青年は笑う。
「フフ……言うじゃないか。どうやら他の者もそれなりに自信を得たらしい。そうだな、カイト・レグメント?」
「ああ……」
今でこそ敵対している二人。だがカイトにとってはどうにも気まずいことに、彼や彼の弟たちの恩人でもあった。
「あの変態紳士には苦労させられたよ。でもオレはそれを正々堂々倒した。ここに立つ資格くらいはある」
「なるほど、資質は資格へと昇華したというわけか」
女王宮での戦いの時、最も弱かった少年。修羅を行く剣士は彼に資質を見い出し、しかしそれが変化するか否かを見極めようとしていた。そして今、結果は目の前にある。
「そして、アガット・クロスナー。貴様はどうする? 剣を折られるか、覚悟を示すか」
「残念ながら下の四人はいまいち燃えなかったんでな。ボースでの借り……今こそ返すとしようじゃねえか!」
アガットは他の先輩遊撃士の誰よりも、クーデター事件や古代龍事件での因縁があった。過去の一騎打ちではアガットが惨敗している。数々の苦難を乗り越えた赤髪の偉丈夫は、今ここで剣帝に追い付き超えることを宣言した。
仲間たちは、誰も自分たちの勝利を疑わない。今までの数々の成長が、困難な壁を乗り越えるための糸口となることを知っているから。
剣帝はその自信を肌で感じ取る。だからこそ、彼らに向かって黒と金の大剣を振りかぶる。
「この剣帝を彼らと同じには考えないことだ。正面からの対決において、俺を凌駕するものはそうはない。たとえS級遊撃士や、《蛇の使徒》といえど」
実質仲間たちの誰よりも強く、カシウスやワイスマンにも負けはしないという宣言。
エステルは瞑目し、しかし赤い瞳に輝きを燈す。
「あなたの強さは嫌というほどわかってるわ。でも、あたしたちも理由があってここまで来た。《輝く環》による異変を止めて、混乱と戦火を防ぐために」
エステルは思い出す。ヨシュアと共に準遊撃士の紋章を得た日のこと。父の背を追いかけ、王国中を回ったこと。クーデターを防いだこと。大切な人を追いかけたこと。混迷の大地を駆けたこと。
旅の道程には、常に仲間がいた。沢山の、志を共にする人たちがいた。その人たちに助けられてきて、ここにいる。
「だから……退くつもりはないわ」
「理由としては悪くない」
剣帝はカイトもアガットもエステルも認めた。ここにいる理由を問い、そしてその志が資格たり得るかを判断する。
そして、この場にいる最後の一人へ目を向ける。
「だがヨシュア。お前の理由は違うようだな?」
「やっぱり……レーヴェはお見通しなんだね」
ヨシュアは一歩前に出た。思いつめたような、張り詰めた空気を醸し出し、その言葉を紡ぎだした。
「僕は……自分の弱さと向き合うためにここまで来た」
姉の死から逃げたこと。執行者として教授の駒となり続けてたこと。すべては自分が弱いからだと、ヨシュアは語る。
ヨシュアもまた、沢山の人間に助けられてきた。エステルを筆頭とした人の輪のおかげで、光の世界に戻ってきた。そんな大切な人たちに報い、彼らを守るために、ヨシュアはこの場に来ているのだ。目の前に立ちはだかる剣帝と、すべての元凶たる教授に向き合うために。
「ヨシュア……」
エステルがわずかに涙ぐんだ。自分の下を離れた人が、今こうして共に歩もうとしていること。嬉しくないはずがない。
そしてそれは、ヨシュアの義姉だけでなく兄貴分も同じだった。
「巣立ちの時か……もうカリンの代わりに心配する必要も──なさそうだ」
剣を起こし、切っ先を向ける。心配し、巣立ちを見届け、そして嬉しさを醸し出して。
剣帝から、紅い《気》が滲み出る。否応なく緊張と恐怖を呼び起こすそれは、言葉を出さなくとも判る。手加減もない、本気だということを。
「ちょ、ちょっと! どうしてそうなるのよ!? ヨシュアのことを心配しておいてどうして──」
「いいんだ、エステル」
動揺するエステルをよそに、ヨシュアは自らの双剣を構え、そしてレーヴェに向けた。
「覚悟だけじゃレーヴェは納得してくれない。その覚悟を貫き通せるだけの力を証明しないとだめなんだ」
「フフ、そういうことだ。エステル・ブライト」
エステルが棍を構え掲げた。アガットが重剣を振りかぶり切っ先を剣帝へ。そしてカイトは自分の双銃を見て、そして一秒の沈黙の後にホルスターから取り出す。
レーヴェが告げる。
「俺にも俺の覚悟がある。もしお前たちの覚悟がオレの修羅を上回っているのなら……」
そして、ここへきて初めて声を荒げた。これが戦闘の合図だと、今までの穏やかとも言える雰囲気を振り払うように。
「力をもって証明してみるがいい!」
「うん……!」
「望むところよ……!」
ヨシュアが、エステルが決意をあらわに。
「受けてみろ、剣帝!!」
アガットが気合を込めた。
「さあ──再戦だ!」
カイトが叫ぶ。
仲間は四人。しかし因縁は中枢塔に来た全員が持つのだ。
その仲間たちの思いを乗せた、再戦という意趣返しの宣言だ。
四人は散開する。
一番の因縁はヨシュア。しかし張り切るエステルとアガットが前へと駆け、ヨシュアは一先ず戦況を見守る。
カイトは後ろへ下がり、朱色の波を纏った。戦場を俯瞰しつつ、他の三人との戦闘スタイルの違いから支援に徹することを決める。
アガットの重剣がレーヴェの脳天に迫る。威力は負けず、しかし速度はレーヴェに劣る。一度鍔迫り合い、即座に弾いて逆に足元から大剣が迫った。
今度は、アガットの下顎に大剣が触れる前に、ヨシュアが入り込む。質量は圧倒的だが双剣の連撃の前に軌道をそがれ、レーヴェはアガットとヨシュア二人を牽制しつつ踏み込みも見せずに跳んだ。
息をつく間もなく、ヨシュアが迫る。レーヴェは影を断つような少年の連撃を防ぎ、体術も駆使してヨシュアを弾き飛ばした。
二人の仲間の猛攻の間、その針の穴を縫うように銃弾が繰り出される。赤の波を炎の残滓のように燻らせたまま、少年は一定の距離を保ちつつ援護を続けた。
それを見たレーヴェは一度目を見開き、同じく重剣と双剣の合間を縫って不可視の突風をアーツ使いへ。女王宮でのクローゼの様子を思い出した少年は、体ごと回転させることでそれを辛くも交わして見せた。
今度はエステルが果敢に前へ。女王宮、そしてグロリアスでのレーヴェとの一幕。あの時とは違い、少女の気合に迷いは少しも見られない。
瞬間、カイトの赤色の波が収束して吹き荒れる。赤い波は仲間へと伝播し、各々三人に体奥底からの活力を生み出した。ラ・フォルテの魔法は仲間の攻撃力を底上げする。そして間髪入れずに青の波を纏った。
ヨシュアの正面からの特攻。かつてリシャールの肩口を切り裂いて見せた漆黒の牙がレーヴェに襲い掛かった。理ではなく修羅へと至った男は、予想でもなく判っていたわけでもなく、しかし平然と巨大な二つの牙を抑えにかかる。ヨシュアの片腕を双剣ごと大きく弾き、しかしレーヴェもわずかに脇が開いた。
速度が違いすぎる故に、赤髪の偉丈夫はヨシュアと同時に攻撃の一振りを開始していた。
「──ぅぉおらぁ!」
ダイナストゲイル。重剣を縦横無尽に振り回すだけの、しかし質量故に強大すぎる攻撃。魔法により膂力を増した偉丈夫は咆哮を上げてレーヴェの体を粉砕しにかかる。
一撃目、躱された。二撃目、レーヴェの剣に衝突し両者の勢いが止まった。
怒涛の三撃目。レーヴェは二撃目の衝撃故か未だ大剣を下ろしたまま。がら空きの脳天に初撃と同じような重剣の振り下ろし。
その時。
「なかなかやるが、俺の修羅を止めるほどではない」
偉丈夫と漆黒の牙、二人の視界の片隅に映るもう一人の剣帝が重剣をアガットごと横なぎに弾き飛ばした。
剣帝の本体はその隙にヨシュアへ迫る。
「くっ」
呻くヨシュア。本体はヨシュアの攻め手をその猛攻で防ぎつつ、分身はさらにアガットへ向かう。
「アガットさん!」
収束するカイトの青の波。発動したブルーインパクトがアガットとレーヴェの分け身の間に炸裂し、その隙に立ち上がろうとするアガットをエステルが守りに入る。
カイトの視界の隅で、銀色の煌めきが吹き荒れた。それはヨシュアへの猛攻を続ける剣帝による並戦駆動。
「まずい……!」
並戦駆動、それは少なく見積もっても人一人分の戦力を加えることとなる技術だ。加えてその魔法は属性が判っても誰に向けるものか判らない。ヨシュアへの追撃かもしれない、分け身への手助けかもしれない、カイトへの牽制かもしれない。
いずれにせよ言えること。それは本体の猛攻を止め、並戦駆動を止めなければならないこと。
カイトは黒い煌めきを纏う。そしてヨシュアとレーヴェに近づきつつ、銃撃での牽制を行って少しでもヨシュアの余裕を生もうと奮起した。
視界の端で起き上がったアガットとエステルにより何とか分け身の攻めを相殺してるのを見届け、クロックアップ改を自身に向け放つ。さすがに外付け装備を持っているため駆動時間は自分に軍配が上がる。そしてレーヴェの魔法が発動する前に今度は翡翠の波を纏った。
そして速度を二段階上げた少年は、圧倒的早さを武器とするヨシュアと、まさしく修羅と見紛うレーヴェの猛攻に割り込む。
「……離れろ!」
ヨシュアから離れろ、並戦駆動の集中故に全ての言葉は出ず、単語だけが辛うじて空気へ乗った。
カイトは、それを稚拙だと理解しつつ、それでも諦めず体術を剣帝へ。むなしく弾き飛ばされるも、それでも翡翠の波は霧散しない。
レーヴェはそれでもヨシュアへの攻撃を止めない。ヨシュアは全身を使って守り、避けるのが精一杯の完全な守勢。
「並戦駆動をものにしたか。まさかここまで食らいつくとは思わなかったぞ、カイト・レグメント」
瞬時に立ち上がった少年の耳に届いたのは、意外にもレーヴェの称賛。だがこの場で攻勢のまま褒められても冗談にしか通じない。
そんな文句を乗せてカイトはレーヴェを睨む。カイトは果敢にレーヴェへ迫り、レーヴェはヨシュアへ魔獣がごとき連撃。両者の白銀と翡翠の波が収束したのは同時だった。
シルバーソーンがカイトとヨシュアへ。エアリアルがレーヴェへ。
三人とも放たれた魔法の効力は知っている。誰もが魔法から逃れるために避ける。いや、ただ一人は違う。
「なっ」
カイトは口を開き。
「……!」
ヨシュアは目を細め口を歪めた。剣帝へが後ろへ下がることなくむしろ竜巻の中に突っ込み、そしてそれを潜り抜けてヨシュアへと再び接近した。
幻の波動と竜巻が重なって阿鼻叫喚の空間が生まれる中、象牙色のコートをはためかせたレーヴェは残像を生むかのような素早さでヨシュアを切り刻む。
漆黒の少年の二の腕と肩口が切り裂かれる。
「ヨシュア!」
まずい。負傷自体はよくあるものだが、この強敵相手には少しの掠り傷すら致命傷になりえる。カイトは彼を癒すべく紺碧の波を纏った。
しかしそれを簡単に許す剣帝ではない。ヨシュアの反撃の一振りをいなし、地を蹴りカイトに詰め寄る。剣を振りかぶる様子を見せ、それに防御姿勢をとった少年の腰を蹴り上げた踵で穿つ。姿勢が崩れたところを見逃さず、少年の手元を大剣が閃く。
少年が視界にとらえたのは、驚愕にも屈さず何とか駆動を保っている青の波、そして左手に持っていた親の形見の導力銃の銃口の尖端二リジュ。
(銃が……!)
切られた。左手に残るは導力機構は残るものの、パーツ不備によって暴発の可能性を秘めた残骸のみ。
咄嗟に右手の銃で至近距離の剣帝を捉えた。銀髪をかすめ、剣で弾かれ、しかし肩口に何とか炸裂。
それでも、剣士の勢いは止まらない。
「だが未だ魔法で戦うというものの本質を掴めてはいまい。それはお前が遊撃士であるからだ」
並戦駆動。それを扱うレーヴェとカイトは、獅子型魔獣のような荒々しさを想起させる戦いとなる。その様は確かにカシウスのような《理》というより、ひたすらに戦いを重ねる《修羅》という言葉が似合っているように感じる。
だが、少年は遊撃士だった。今回のような未曽有の事態ならともかく、何度も繚乱や混迷の中を駆け巡るわけではない。だからこそレーヴェは、並戦駆動を使うカイトに厳しく当たる。
何とか態勢を整えたヨシュアがこちらに近づく前に、レーヴェはカイトの脇腹を切り裂いて見せた。激痛がカイトを襲い、さらに少年の鳩尾に正拳突き。体重のないカイトは容易に吹き飛ばされ、努力虚しく青の波が霧散する。
「本当の意味で並戦駆動を成すなら、修羅に至るほどの鋼の意志を持ち合わせていなければならない。それがお前にできるか? カイト・レグメント」
一度突き放されたヨシュアがようやくレーヴェに近づいた。双剣と大剣による剣戟が繰り広げられ、それでもレーヴェは全く隙を見せない。
「所詮お前たち遊撃士は人を守るだけの存在だ。《理》に至りでもしなければ、《修羅》に届く道理はない」
強者としての宣言に、何とか立ち上がったカイトは表情を歪めた。それでも諦めずに青の波を纏う。
そしてカイトは、エステルとアガットを見た。
彼らははひたすらにレーヴェの分身へと攻撃を繰り返している。少女の棍はカシウス譲り、この場ではある意味最も《理》に近しい戦い方。そしてアガットはレーヴェにすら勝る膂力の持ち主。彼の攻撃が炸裂すればさすがの剣帝も立ってはいられない。
「っ! 行くわよ!」
剣帝の周囲を駆けまわり、牽制も含めつつ幾度もレーヴェの脇をかすめる。
そしてアガットは、エステルの援護をしつつ必要に応じて一撃必殺を叩き込もうと奮起する。
「喰らい、やがれぇ!」
剣帝の分け身の強さは、本体に比肩する。それでもエステルとアガットは、それぞれ譲れない意志を持って辛くも剣帝との拮抗を保っていた。
少なくとも二人とも、ただ強い敵に翻弄されていただけの存在ではないのだ。剣帝はそれを肌で感じた。
ヨシュアの助けもあって、カイトは何とか青い波をレーヴェから守り切った。まずは自分を癒し、次にヨシュアを癒すべく再び青の波を。ここに至って再び、レーヴェがカイトに切っ先を向けた。やはりアーツを使って援護をしてくる存在は少なからず厄介なのだろう。今度は並戦駆動の集中力全てを逃げに徹して、確実に魔法を駆動させることを試みる。
最初の袈裟懸けの一振りを側方へ避け、そして一目散に逃げ脚。追ってきた零ストームの突風も何とか転がって掠めるに留める。しかしそれで逃げ切れるほど剣帝は甘くない。
窮地のカイトを助けたのはヨシュア。未だ癒しの魔法はかからずとも、決死の表情でカイトを追うレーヴェと平行に走る。そして何度も剣帝を攪乱すべく双剣を振るう。
足元への突き、細かいステップだけで躱された。喉元への暗技、いとも容易く弾かれた。双剣を同時に振り下ろす断骨剣、それを受け止めむしろ勢いを利用されて剣帝は遠のく。
剣帝を追うべく足に力を籠めるヨシュアに、背を向けた剣帝は急旋回で正面に見据えた。驚くもつかの間、レーヴェは急激に狙いを変え魔人がごとき一閃を放った。常人が見たら残像すら残せそうな速度で、ヨシュアの体を双剣ごと破壊しようとする。
激しい鉄塊の衝突音が響いた。ヨシュアは咄嗟に両の双剣で大剣を受け止めた。ギリギリと剣の刃がせめぎ合う嫌な音がしてヨシュアは辛うじてレーヴェと鍔迫り合う。
「どうしたヨシュア。唯一勝るスピードを活かさずに、どうやって勝利をつかむつもりだ?」
ただ漫然と不出来を責めるような、恐ろしい声色。ヨシュアは冷や汗をかく。
しかし確かに、ヨシュアは先ほどこの戦場で一番の速度を持つにもかかわらずレーヴェに追い付くだけで負けていた。それはあくまでカイトを狙うレーヴェを牽制する目的があったからだが、たかがその程度の戦略では剣帝など倒しえないということだろう。
両者の剣がミシミシと音を立て、何とか拮抗しているはずなのにヨシュアは押される。靴が地面を擦り、膝が屈して折れようと震える。
不意にヨシュアの体に清涼な感覚が流れ込み、血の気が増した。視界から外れていて気付かなかったが、カイトがアーツを発動させたのだ。
そのまま銃や体術が飛んでこないのを考えるに、前衛は自分にまかせて完全にアーツでの援護に徹するつもりのようだ。ヨシュアにとっては少々心細いが、アーツを得意とするカイトの力量を考えれば決して安全本位の選択ではない。
未だ冷や汗をかくヨシュアは、この不自然な静寂に体と心を預ける。
「ねえ、レーヴェ」
咄嗟に動いたのは口だった。
「……どうして教授に協力しているの」
「なに?」
「前に……カリン姉さんの復習が目的じゃないって言ったよね。この世に問いかけるため……それはいったい、どういう意味なの?」
過去、グロリアスでレーヴェは、ヨシュアにそう言っていた。
様々な決意を胸に秘め、もはや迷いはないとはいえ、それでも気になるのは同郷であるレーヴェの意志。銀色の意志の向かう先だ。
怪盗紳士も、痩せ狼も、殲滅天使も、幻惑の鈴も。それぞれ理由があって教授の計画に参加していた。だが、まだ剣帝の理由だけは聞けていなかった。
ブルブランのように自らの趣向を気にするわけでもない。古代龍事件で龍の暴走を制御していた以上、ヴァルターのような血に飢えた戦闘狂というわけでもない。ルシオラと同じく同郷に対する想いがあるとはいえ、今は同郷の覚悟を確かめるために殺そうとしている。レンのように子供ではなく、執行者としても大人としても成熟もしている。
そして何より、計画の主催者である教授すら倒しえるというレーヴェ。彼は今、何を思ってここにいる。
まだ、剣と剣は鍔迫り合う。レーヴェは口を開いた。
「……大したことじゃない。人という存在の可能性を試してみたくなっただけだ」
「人の可能性──」
瞬間、大剣に込められた力が爆発的に増した。ヨシュアは反射的に弾かれ、両者の距離が大きく広まる。
しかし一瞬で弓を射て、零ストームをヨシュアへ。焦ったヨシュアは突風を諸に受ける。その隙を突いてレーヴェが近づく。離れていた場所でカイトが発動させたブルーアセンションがレーヴェを包む。
しかしレーヴェは神速の一閃を放ち、ブルーアセンションを
「時代の流れ、国家の論理、価値観と倫理観の変化」
突き、払い、斬りこみ、回転切り、両腕での振り下ろし。どれも重剣に匹敵する勢い。
「とにかく人という存在は大きなものに翻弄されがちだ」
蹴り、正拳、双剣を弾き、鳩尾に柄を押し込む。ヨシュアは呻き、地に膝をつけた。
「そして時に、その狭間に落ちて身動きとれぬまま消えていく」
跪くヨシュアの脳天に剣を構え、言い放つ。
「俺たちのハーメル村のように!」
ヨシュアが危ない。この窮地を脱せねばと、カイトはソウルブラーを放つ。だがそれすらも剣帝はその大剣を持って時の波動を弾き飛ばす。
変わらずレーヴェはヨシュアに告げる。
「この都市にしても同じことだ。かつて人は、こうした天上都市で満ち足りた日々を送っていた。だが大崩壊と時を同じくして人々は地上へと落ち延びた」
カイトはじりじりと距離をとり、レーヴェを睨む。ヨシュアの問に対する、少し、ほんの少しだけ激昂したようなレーヴェの所作。それはカイトに、たとえ並戦駆動ができたとしても一人で突っ込むという選択肢を即座に排除させた。
「そして都市は封印され、人々はその存在を忘れてしまった。まるで都合が悪いものを忘れ去ろうとするかのようにな」
剣帝がそう言った時、凄まじい衝突音がカイトの後ろで響いた。
その直後、少年に向かって発せられた声。
「カイト!」
「エステル?」
エステルとアガットが、カイトの視界に映りこんだ。
「分身、倒したの?」
「何とかね。どうも釈然としなかったけど」
「野郎の分身、急に勢いが弱まりやがった。どんな理由か知らねえが……」
二人はそれでも沢山の大小の傷があった。本体との戦いに集中して殆ど見ることはできなかったが、それでも激闘だったというのは理解できる。
ともあれ、二人はまだ戦えるらしい。カイトは状況を説明し、少女と偉丈夫は苦虫を嚙み潰したように呻く。
誰も欠けずにアルセイユへ戻るには、たとえレーヴェがヨシュアに語り掛けているだけだとしても、この状況がまずいことは変わらない。
「真実というものは容易く隠蔽され、
鳩尾を押し込まれた苦しみは多少なりとも治まったと思うが、未だヨシュアは顔を地に向けていた。その表情は見えず、両手の剣を握りしめていることから辛うじてその意志が死んでいないことだけは見て取れる。
「だが輝く環は圧倒的な力と存在感を持って人に真実を突き付けるだろう」
エステルが棍を、アガットが重剣を構えた。カイトも久しく握りこんだままだった左手の導力銃の残骸をホルスターにしまい、右手の銃もまたしまい込んで、腰のホルスターから火薬式拳銃を取り出し両手で構える。
これ以上剣帝の意のままではいられない。何故分け身が力を弱めたかは知らないが、それでも今は好機に他ならない。エステルとアガットが駆け、カイトも赤の波を纏いつつ火薬式拳銃の一弾を放った。
「国家という後ろ盾を失った時、自分たちがいかに無力な存在であるか。自分たちの便利な生活がどれだけ脆弱なものであったのか。自己欺瞞によって見えなくされていた全てをな」
レーヴェは銃弾を避け、エステルとアガットを迎え撃った。二人の攻撃でも大した攻勢は生まれず、レーヴェはほとんどその場から動かずに二人の攻撃の数々をいなす。
ヨシュアが問いただした答え、レーヴェが絶望した人間の脆弱さは、ヨシュア以外の三人にも突き刺さる。
エステルも、カイトも、アガットも。誰もが自分の弱さや社会の闇に絶望したことがあった。各々自分の力や周りの仲間たちの存在に助けられてここまで成長することができたが、何もそれが人間のすべてではない。
ましてや、三人はレーヴェほど地獄を見てはいない。親兄弟を失っても、三人にはまだ頼れる存在や理解者がいた。怒り、恨むという逃げ道があったのだ。
親を、兄弟を、愛する人を、知り合いをすべて無残な形で殺され、たった一人の忘れ形見さえも心が壊れる。そしてその事実は、未来永劫表に出ることはない。それも、国家の都合というこの上なく憎たらしいものによって。それを知るレーヴェ自身は、まだカイト程度の歳だったのだ。何ができる力もなかった。
他にいるだろうか。レーヴェと同じくらい国家の闇に裏切られ、理解者がすべて死にあるいは遠くへと離れる感覚。それを味わった者、真に対等な立場でレーヴェと語らうことができる者はいるだろうか。
「二人とも、離れて!」
迷うままに、カイトは赤の波を収束させた。スパイラルフレアは離れた仲間二人を巻き込まず、その場から動かなかったレーヴェに幾多の炎の弾丸を浴びせた。
それでもレーヴェは動かない。炎を浴びたレーヴェは仁王立ち、両腕に顔を抱えたまま動かない。少しだけ、両膝が曲がる。
この期を見逃すまいと、さらにエステルとアガットが近づく。
その二人を制したのは、意外にも剣帝ではなかった。
「だめだ、二人とも!」
急に顔を上げたヨシュアは、迷いの見える表情で叫ぶ。
たたらを踏むなどという隙を見せはしなかったが、驚いた二人は目を細め剣帝を注視した。
未だ炎の焦げ跡を纏う剣帝。
いや、違った。纏っていたのは紅い気だった。
「受けてみろ。《剣帝》の一撃を」
一秒が引き延ばされる。一瞬の中で青年が呟く声だけが聞こえた。
膝を曲げた。足首をたたんだ。下半身の全ての関節を曲げて力を込めた。
全身の関節を伸ばし、回転しながら大剣で切り刻む。放出した鬼のような気が、炎となって飛び散る。
エステルとカイトは見覚えがあった。女王宮での戦いにおいて、彼に負ける決定打となった一撃、鬼炎斬。
浅くない斬撃を受けながら、エステルとアガットは吹き飛ばされた。
ヨシュアがエステルへ、カイトがアガットへ駆け込む。
剣帝は残心を解かないが、それでも圧倒的な力を見せつけて四人を
隙を見せることになっても、攻撃を受けた二人の傷は浅くなかった。死地にいることを覚悟し、少年二人はティアラルのアーツを組む。
「先ほども言った、所詮お前たちは人を守るだけの存在だと。俺が求める真実の前に、お前たちは障害でしかない」
レーヴェは言う。その程度、たかが人の域を出ない仲間たちには自分に届かないと。
「小手調べはここまで──そろそろ全力で潰してやろう」
状況はまだ絶望的。ならば、どんな資質と資格を示せばこの修羅を行く剣帝に届くのか。彼の意志を止めることができる、彼を止めるだけの経験と資質を持った人間。それは誰だ。
カイトははっとした。それを体現するにうってつけの人間が、この場にはいたのだ。
カイトはその人物をみた。偶然にも、その人物もまた少年を見ていた。
レーヴェの会話を聞いた末のこの目線。両者ともに、互いの意図に気づいた。表情には出さず心の中で「いけるか?」と考えたことにすら、気づかれた気がした。
「まだだよ、レーヴェ。まだ話は終わってない」
エステルとアガットの回復を済ませ、ヨシュアが立ち上がる。双剣を構える。
「そうだ。ヨシュア、お前もそれなりには覚悟を持つようだ。だがそれでも足りない」
レーヴェは言った。ヨシュアの後ろで立ち上がり、態勢を整える三人には目もくれない。ただひたすらに己が告げた真意を確かめるために動いている。
そして今こそ、お前たちに対してその返答を待つ時だと。お前たちという存在を試させてもらうと。
「本当に俺の覚悟を止めうるか。全力で覚悟を──」
「違う!」
ヨシュアが叫ぶ。恐らく、レーヴェの話を自ら途中で遮ったのは、ハーメル村で生きていた頃から数えても初めてだった。
「戦いももちろんそうだ。けど、まだ聞きたいことを聞けてない」
「何をだ?」
「人間は弱い存在だ、それを思い知らせるのがレーヴェの目的なの?」
「そうだ」
弟分の強い声に多少驚いたものの、それでもまだ青年の銀の意志は揺るがなかった。
「欺瞞を抱える限り、人は同じことを繰り返すだろう」
騙すこと。それは真実から目をそらすことに他ならない。時が過ぎれば人々から記憶は消え去れり、歴史から学ばぬまま同じ過ちを繰り返す。
「第二、第三のハーメルの悲劇がこれからも起こり続けるだろう」
何度も歴史は繰り返し、理不尽に人々を殺す。
「何人ものカリンが死ぬだろう」
何度も人を陥れる。
「それを防ぐために、俺は見食らう蛇に身を投じた。そのためには修羅と化しても悔いはない」
それが、レーヴェの覚悟。レーヴェがここに立つ理由だった。彼もまた、守る者のために戦っていた。
だが。エステルは、アガットは、カイトは。それに一つの疑問を呈する。
戦闘中。だがこの場でぶつかるのは単に武力だけではない。だからこそ、レーヴェは隙だらけのヨシュアを叩こうとしない。剣には剣を、言葉には言葉をぶつけようとしている。
そしてヨシュアは、体をわなわなと震わせた。
「……それこそ」
ヨシュアは顔を上げる。その瞳には、烈火のごとき怒りがあった。
「それこそ、欺瞞じゃないか!」
レーヴェは驚き、即座に迫った双剣の一撃を受け止める。不思議と、すぐに反撃できなかった。
「どうして気づかないの、レーヴェ」
ヨシュアが攻撃を続ける。レーヴェはまだ、攻勢に出れない。
「どうして僕たちがここまで来れたか、気づかないの」
「……それは」
突然の、ヨシュアからの問いかけ。その答えを、剣戟を受け止めながら考える。
その時、ヨシュアでない少年の声が戦場に響く。
「エステル、アガットさん!」
火薬式拳銃を構えたカイト。未熟者だった少年は、剣帝の気圧に負けず、ここでの自分の役割を果たすために叫ぶ。
「ヨシュアの援護だ!」
そして黒色の波を纏い、動きだす。
エステルとアガットもまた、その動きを今までと変えた。アガットはやや悔しさをにじませ、それでもあくまでヨシュアを支える先輩として動く。エステルは、ヨシュアを誰よりよく知る家族であり、恋人として。
「……全員で来るか。望むところだ!」
剣帝は跳んだ。エステルに向け落ち際に大剣を叩きつける。間髪入れずにアガットの重剣に斬撃を喰らわせた。カイトの銃弾を耳元に掠め、さらにヨシュアの双剣を真正面から弾く。火花と残響が散る。
ヨシュアの腕が上がり、しかし同時に時の外套がヨシュアを包む。カイトの援護も合わせ、驚異的な速度で姿勢を修正したヨシュアは再度レーヴェに近づき。
影が絶たれるほどの速度で剣帝の背後に回り込んだ。
「僕も弱い人間だから、レーヴェの言葉は胸に痛いよ」
声の方向を頼りに、レーヴェは見向きもせずに体を回転させて鋭い斬撃を与えた。それはアガットの重剣すら巻き込み、しかしエステルの攻撃は防げず膝に払いを受ける。
「でも人は大きなものの前で無力であるだけの存在じゃない」
ヨシュアもまた跳躍して、速度でなく威力を重視した一撃を放った。レーヴェはそれを受け止め、腕にわずかな痺れを感じる。
剣帝は違和感を感じた。全力で執行者という壁を超えて教授の前まで辿り着く、そう信念を掲げ殺すつもりで自分に刃を向けた攻撃とはどこか違う。
ヨシュアだけではない、カイトも、エステルも、アガットも。攻撃の質が、今までと違う。ヨシュアの瞳に怒りが灯った、その時から。
断骨剣を放ったヨシュアはそのまま空中で回転、姿勢を整え着地、双連撃。レーヴェは全力でそれを叩き潰しにかかる。
しかし、カイトのブルーインパクトがレーヴェの肩口を掠める。勢いはそがれ、再び兄と弟は鍔迫り合った。
一言、ヨシュアが告げる。
「あの日、僕を救ってくれた姉さんのように」
レーヴェの鼓動が、初めて疲労以外の理由で早鐘を打った。
「っ……」
どこか、剣帝にの体が鉛のように重くなる。
ヨシュアは今、なんと言った?
両者、剣を荒々しく弾いて後退した。ヨシュアは側方に駆け、アガットが遠くから剣帝に向けて重剣を振り下ろす。
重剣に宿った燃え盛る炎が生き物のようにうねり、雄たけびを上げながらレーヴェに衝突。
エステルが気を込めた捻糸棍を、カイトがオリビエに託された最後のハウリングバレットを放った。三様の攻撃が、初激の炎をさらに高ぶらせる。
灼熱に包まれた中で、それでも剣帝の活力は衰えない。たとえ弟の言葉に一瞬の迷いを感じても、鋼の意志はまだ死なない。
たとえ燃え盛る劫火だろうと、砕き散らすのみ。
カイトは悪寒を覚えた。瞬時に琥珀の波を纏う。
周囲が一瞬にして冷える。剣帝を中心に、足元のすべてが凍え、絶対零度へと誘われていく。
「跳べ!」
アガットの咄嗟の声。三人が跳躍する。だが重剣を氷漬けにする犠牲を払い滞空時間を稼いだアガットと、自身もブルブラン相手に同じことをしたカイトとは違い、エステルが間に合わず諸に足元を閉じ込められる。
瞬間、アガットとカイトは氷の世界に着地した。少年は絶対防御の波を少女一人に纏わせた。三人全員を守る暇はなかった。
「──滅!!」
象牙色のコートをまだらに焦がせた剣帝が、儀式のように大剣を氷の大地に突き刺す。剣を中心に亀裂は稲妻模様を描いて広がり、やがて亀裂しか見えなくなった氷の大地はその全てを無機質な地面ごと爆砕させた。それらがすべて氷と鉄の弾丸となって、下から凄まじい速度で遊撃士たち三人を襲った。
吹き飛ばされ、三人とも激しい酩酊感と出血を生じる。絶対防御で氷漬けにされた足が砕けるのは防いでも、エステルもまた弾丸による攻撃を受けることとなった。
剣帝は息を切らし、白い呼気を吐きながら周囲を見渡す。辺りは一瞬の静寂に包まれ、不意にエステルたちが上ってきた昇降機から駆動音がした。
エステルの仲間たちが集まってきた。しかしそんな事実より、レーヴェは目の前の敵に意識を移す。
重剣の先三十リジュを氷に折られた赤髪と、血のメイクを施しても何とか顔だけは上げる少女。うつぶせに動かなくとも青の波を纏い、まだ死んでいないと自己主張する茶髪の少年。
ヨシュアが、いない──。
「僕を守った姉さんのことに、レーヴェが気付かないはずがないんだ」
「くっ」
背後遠くから聴こえた声。怒りと悲しみと決意、そのどれもが響く声。
咄嗟に振り返る。だがいない。いや、視界の下端から迫る影が──。
銅鑼が地に落ちたような衝突音が、剣帝の顔元で響いた。
「ぐぅ……!」
鼻先十リジュに、ヨシュアの双剣が迫っている。初めて、ヨシュアの攻撃が剣帝を押している。何故だ。何故、力が出ない。
そのわずかな逡巡を理解しているかのように、ヨシュアが言った。
「レーヴェ自身が、自分に嘘をついているからだ」
「何、を……」
いや、違う。そんなはずはない。
ヨシュアが口を開く。
「あんなにも姉さんを大切に思っていたレーヴェが、人の強さに目を向けない……それはやっぱり欺瞞だ」
青の波を収束させ、セラスで活力を取り戻したカイトは上体を起こし、何とか顔を上げた。
茶髪の少年は見た。ヨシュアの呟いた、少年には聞こえなかった言葉を聞いた剣帝の顔が、余裕をなくし歪んだのを。
少年自身が何度も見てきた、残虐な過去に抗おうとしている人間の顔。過去、何度も仲間たちがその表情をして、そして仲間と共に笑顔に変えてきた顔。
そして、剣帝は体を回転させてヨシュアの剣を流した。鍔迫り合いを止め、息を切らし、それでも抗おうと剣を構えて仁王立つ。
距離をとったレーヴェとヨシュア、彼我の距離は十アージュ。
「カリンは特別だ! あんな人間がそう簡単にいてたまるものか!」
それはまるで、慟哭のような印象を心に響かせる。剣帝を冠する鋼の男が、まだ子供だった時の。世界の理不尽に抗おうとした、修羅に落ちる前の本心。
「だからこそ人は試されなくてはならない! 弱さと欺瞞という罪をあがなうことができるのかを!! カリンの死に値するかどうかをっ!!」
カイトはその烈火の形相に、戦闘中であることを忘れた。その魂の鼓動に、初めてレーヴェという男を見た。
少年の視界の端。もはやエステルとアガットも臨戦態勢に入れず、兄弟の魂の声に耳を傾けるのみ。
そしてそれは、たった今昇降機から姿を現した、すべての仲間たちもまた。
「だったら、それは僕が証明して見せる!」
その場にいた全員が、ヨシュアという少年の魂の咆哮を聞き届けた。
カリンが救い、ワイスマンが繕い、カシウスが解き放ち、そして大切な人と共にあるこの魂。愛も、悪意も、導きも、多くの感情を巻き込んで、そして太陽と共にあるこの魂。人を守る遊撃士としての心得、そして人を殺す暗殺者としての技。
「姉さんを犠牲にして生き延びた弱くて嘘つきな僕が、エステルたちと出会うことで自分の進むべき道を見つけられた!」
経験も仲間も希望も絶望も、全てを背負ったヨシュア・アストレイだからこそ、修羅を歩く剣帝に届く。
「レーヴェのいるここまで辿り着くことができた!!」
今こそ、剣帝に示す。
修羅を行く銀の意志に負けない、金に輝くの絆の翼を。
「人は──人の間にいる限り、ただ無力なだけの存在じゃないっ!!」
凄烈で高貴で、脆く儚く、しかし
剣帝の顔に、驚愕が浮かぶ。その隙を見逃さず、ヨシュアは脚に力を込めた。
殺すためではなく、超えるために。
今までのどんな動作より
レーヴェがその命を守るべく、胸に剣を掲げた時。
ヨシュアはその指先と、剣の
漆黒と金の大剣が、高く高く、空を舞った。
レーヴェ戦、決着。
場面転換を一度も入れずに、15000字近くを書ききったのは初めてかも。
次回、五章最終話「空を見上げて」