ホシノに同級生を生やしたらメンタル追撃された件

アウラ要素はタイトルくらい。気晴らしに書きましたが、内容が思い付いたら続くかもしれません。

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ユメ先輩はもう居ないじゃない

 

 

 初めて会った時から、気に食わない奴だった。

 

 いつも澄ました顔で何に対しても興味無さそうで怠惰で我が儘で、でもたまに先輩と一緒に悪ノリして迷惑をかけてくる……殴りたくなることは数え切れなかったし、実際に殴り掛かったことも何度かある。

 

 先輩は仲良くしてほしいと涙目で嘆いていたが、どうにも反りが合わず、向こうから態度を改めない限りは決して歩み寄ってはやらぬと心に決めていた。おまけにあれで一丁前に実力はあるのが余計に腹が立つ。勿論、訓練では決して勝ちは譲らなかったが。

 

 そんなどうしようもなくムカつく、だけど、唯一の同級生だった。

 

「──何ですって?」

 

 そいつの震えた声なんて、初めて聞いた。

 

 顔を見れば端正なその貌が酷く歪んでいた。澄まし顔以外の表情も出来たのかと()は驚く。

 

「じょ、冗談でしょう? 有り得ないわ」

 

 冷や汗を掻き、目に見えて動揺しているそいつのその有り様に普段なら噴き出していたかもしれない。

 

 けれど、私は張り裂けそうな胸の痛みを我慢し、か細い声で再度告げる。

 

「──ユメ先輩が、死んだ」

 

 先日、行方不明になっていた先輩が、変わり果てた姿で発見された。

 

 死因は砂漠の暑さと水分不足による衰弱死。あまりにも呆気無く、たとえヘイローがあろうと人というのはこうも簡単に死ぬのだと今の今まで忘れていたことを、思い知らされた。

 

 諸事情でアビドスから離れていたそいつからすれば今この瞬間まで寝耳に水だったことだ。

 

「なん、で」

 

 そいつの口からぽつりと溢れる。

 

 まだ詳しい経緯について言っていなかった私は、改めてそれを説明しようとし──胸ぐらを掴まれた。

 

「!?」

 

「あんたがッ……あんたが居ながらなんでよッ!?」

 

 そのまま壁に叩き付けられる。華奢な身体には似合わぬ馬鹿力であり、背中に激痛が伝わった。

 

「あんたは私よりもずっと強いじゃない……ッ!? なのに、一体なんで──」

 

「────」

 

 私は、何も言えなかった。

 

 初めて、そいつの荒げた声を聞いた。初めて、そいつが涙を流す姿を見た。初めて、そいつに怒りを向けられた。

 

 何もかもが初めて見て、聞いて、感じることばかりで、知らなかった。

 

 知ろうともしていなかった。

 

 その時に、やっと理解した。

 

 ──そいつが、私のことを信頼してくれていたことに。大切な先輩の身を託せるくらいに。

 

 それなのに、私は、あの人を守るどころか。

 

「……なさい」

 

 もしも私があの時、水筒を買うことを許可していたら。

 

「ごめん、なさい」

 

 もしも私があの時、砂祭りのポスターを破らなかったら。

 

「私の、せいで──」

 

 もしも私がずっと、傍に居てあげたら、ユメ先輩は死ななかった。

 

 ドジな人だった。騙されやすい人だった。能天気で夢見がちな人だった。

 

 だけど、それでも、あんな風に死ぬべき人ではなかったはずだ。もっと生きて笑うべき人だったのだ。

 

 それなのに、私が──。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 何度も謝る。喉が潰れるまで、ずっと。

 

 そんな私をそいつは黙って見据える。それとは対照的に胸ぐらを掴む手は震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「ゲヘナに転校するわ」

 

「え?」

 

 あれからどれくらいの月日が過ぎただろうか。あまりにも唐突に、そいつは私にそう告げてきた。

 

「な、何で?」

 

「何でって……こんな借金だらけの学校に居てもしょうがないじゃない。前に知り合った奴が推薦してくれるらしくて丁度良いと思ったのよ」

 

 淡々と、さも当然の事のようにそいつは言ってのける。

 

「どうせ廃校になるし、あんたもさっさと転校したら良いじゃない。オデュッセイア海洋高校とか良いんじゃない? あんた、魚とか好きだったでしょ?」

 

「そ、そんなの無理に決まってるでしょ!」

 

「? 何でよ?」

 

 信じられなかった。不思議そうな表情を浮かべるそいつの心情が、微塵も理解出来なかった。

 

 捨てると言うのか、この場所を。他の奴らと同じように、よりにもよって彼女が──。

 

「だ、だって! ここはユメ先輩が……あの人が、残してくれた場所だ!」

 

「──だからこそよ」

 

 その表情はあの時とは違う。

 

 どこまでも冷淡で、無関心で、虚無に満ちたものだった。

 

「ユメ先輩はもう居ないじゃない」

 

 冷たく、告げられたその言葉が、鋭く研いだナイフのように胸に突き刺さる。

 

 私は、それに対して何と答えただろうか。少なくとも今もあの言葉は理解し難いものだった。

 

 けれど、これだけは分かる。

 

 この日、私は先輩だけでなく、唯一の同級生すらも失ったのだ。

 

 他ならぬ自分が何もかもを、致命的に間違えてしまったから──。

 

 これは私、小鳥遊ホシノの消えぬ“罪”だ。





同級生「ユメ先輩は危なっかしいけどしっかり者のホシノおるから大丈夫やろ!」なお

因みに一言“行かないで”と言えばたぶん同級生は残ってくれた。

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