なんてことない、ひとくちサイズのお話です

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よっす

pixivでも作家やってるリョウ猫ってもんです

細かい話は後だ、てかいる?


不備があればコメントにて指摘していただければ幸いだ

……それでは、どうぞお楽しみください


月桂樹と青い木蓮

ウマ娘中央トレーニングセンター学園、その食堂の隅

 

ある1人の女がいた

 

女の名は、マギーといった

 

曰く、彼女はウマ娘なのだと

 

曰く、彼女はトレセン生ではなかったのだと

 

故に、トゥインクルシリーズの登録は無く

 

しかし、フリースタイル・レースは行っていたのだと

 

そこで華々しく活躍したが

 

ある日、レース中に怪我を負ったのだと

 

それは、あまりに重く

 

……故に、彼女には左腕が無いのだと

 

マギー「…ご馳走様」

 

蕎麦を食べ終えたマギーは、そのまま片手でひょい、と丼を持ち上げた

 

箸は器に入っている、湯呑みはまだ机に置かれているため後ほど運ぶのだろう

 

全てを運び終えると、マギーは足早にその場を立ち去った

 

「これ以上ここにいる意味は無い」。まるでそう吐き捨てるように

 

その後ろ姿を目で追うウマ娘が1人いた

 

名を、サクラローレルといった

 

ローレルはマギーの担当である

 

二人は互いに支え合い、レースでの勝利を重ねていった

 

今は3週間後の有馬記念を控えている

 

ローレル「ごちそうさまでした」

 

食器を返却し終えると、そのままローレルもマギーの後を着いていった

 

ローレル「トレーナーさんっ」

 

まるで友人に向けるような、朗らかな笑顔で声を掛けた

 

マギー「何かしら、ローレル。今日のトレーニングのことなら、ダート走の予定だけれど」

 

ローレル「…聞きたいこと、先に言われちゃいましたね」

 

まるで未来予知でもしているのだろうか

 

 

ただ、ここ最近のサクラローレルがわかりやすいだけである

 

…3冠ウマ娘、ナリタブライアン

 

 

サクラローレルのナリタブライアンに対する執着は凄まじく

 

『ナリタブライアンを自分の手で終わらせる』というその確固たる意志は、最早殺意といっても過言ではないだろう

 

そして、今年の有馬記念こそがブライアンを討つ最後のチャンスだった

 

マギーは、そんなローレルと初めてあった時何を感じたのだろうか

 

じきにそれが明かされることを、ローレルはまだ知らない

 

……

 

……………

 

 

…数日の時が流れた

 

その日はスタミナトレーニングを行っていた

 

マギー「そろそろあがりなさい」

 

ローレル「すいません、あともう一往復だけでも!」

 

マギー「駄目よ。これ以上はあなたの身体が壊れるわ」

 

ローレル「でも!」

 

マギー「ローレル」

 

ローレル「……はい」

 

マギー「あなたの目的はナリタブライアンに勝つことでしょう?その前にあなたが壊れては…走れなくなっては意味が無いわ」

 

ローレル「…ごめん、なさい」

 

マギーの言う通りである

 

目標達成の為に研鑽を重ねるのは良いことだ。しかし、それで目標達成が不可能になってしまっては無意味である

 

マギー「そうね…明日は一日休みにするわ。友人と出かけるなりしておきなさい」

 

ローレル「はい!」

 

その夜

 

マギー「ふぅ…」

 

暗い部屋の中、マギーは1人ベッドで横になり1つため息をついた

 

マギー(彼女の実力は相当のもの…このままなら彼女はブライアン相手でも引けを取らない…いいえ)

 

マギー(きっと、圧勝するわ。間違いなく)

 

それは、勝利への確信

 

絶対的な自信、それにしっかり見合う実力

 

…ただ

 

それは、マギーの本能を刺激するには十分だった

 

マギー(…狩りたい)

 

マギー(私の手で、彼女を終わらせたい)

 

その後の動きは早かった

 

マギーはLANEですぐさまローレルにメッセージを送った

 

マギー『ごめんなさいローレル、明日のことだけれど』

 

マギー『放課後、VRウマレーターまで来てくれないかしら』

 

有馬記念まで、残り12日

 

評決の日─VERDICT DAY─が、やって来る

 

翌日、放課後

 

言われた通り、ローレルはVRウマレーターまでやって来た

 

内部に展開された空間は中山レース場、おおかた有馬記念のシミュレーションでもしているのだろう

 

ただ、異様だったのは

 

観客はいない

 

掲示板に光はない

 

…他に走るウマ娘の姿も禄にない

 

ただ、1人だけ

 

ゲートの前、愛おしそうに左腕を撫でるウマ娘がいた

 

黒のスーツとロングパンツに、所々青のラインが入った衣装

 

華やかさは欠片程度しか存在しない、機能性に重点を置いた勝負服

 

近づいてみれば、そのウマ娘の左耳には青色でハート型の葉と木蓮の蕾を模したピンがついており

 

なおかつ、左胸にはソレと同じものが青の糸で刺繍されていた

 

???「ちゃんと来てくれたのね」

 

その声を聞き違えるものか、その顔を見間違えるものか、と言わんばかりにローレルは答える

 

ローレル「はい、来ましたよ」

 

ローレル「…トレーナーさん」

 

ローレルのトレーナー。即ち、マギーがそこにいた

 

だが、何かが違う

 

見た目だけではない、マギーの中の『何か』が

 

???「いいえ、今の私はあなたのトレーナーではないわ」

 

???「ブルーマグノリア。それが、今の私よ」

 

改めて、解説しよう

 

ブルーマグノリア

 

かつてフリースタイル・レースにて名を馳せたウマ娘

 

その強さは『向かうところ敵なし』と言えるほどだった

 

…しかし

 

マグノリア「なっ…!?」

 

ガシャァン!

 

ウマ娘A「マギー!」

 

ウマ娘B「しっかりしてマギー、マギー!」

 

その日の前日は嵐だった

 

ぬかるんだ地面は、容易く転倒を誘発する

 

しかも不幸なことに、そこがコーナーだった

 

勢いのままにブルーマグノリアは柵に突っ込んだ

 

柵は前日の嵐で一部が破損していた

 

……左腕は、その折れた柵に突き刺さっていた

 

ウマ娘B「腕…早く救急車…マギーの腕が……!」

 

空は、残酷なほどに晴れ渡っていた

 

マグノリア「初めてなの、勝負服なんて着るの。だからかしらね、こんなに高揚するのは」

 

ブルーマグノリアに勝負服は無い。彼女が着ているのは、所詮データのみの組立部品─Assembly─

 

けれどそれは、確かに彼女のためだけに拵えてあったのだ

 

ローレル「トレーナーさん……いえ、マグノリアさん」

 

マグノリア「何かしら、ローレル」

 

ローレル「どうして、走ろうと?」

 

マグノリア「あなたが、私と同じだから」

 

ローレル「同じ…?」

 

きょとん、とした顔でローレルはマグノリアを見つめる

 

どこが同じなのだろう、という疑問の答えは問いかける前に返ってきた

 

マグノリア「あなたにとってのナリタブライアンが、私にとってのあなただったの」

 

ローレル「ブライアンちゃんが?」

 

マグノリア「あなたは、ナリタブライアンを自分の手で終わらせようとしている。それは、ナリタブライアンが時の流れで衰えてしまう前に、いっそ自分の手で殺してしまいたいと。そう、思っているからでしょう?」

 

ローレル「ま、まぁ……(流石に殺しはしませんけど…)」

 

マグノリア「私もそう。あなたがこれ以上敗北するのを許すことができない。これから先、あなたにも衰えが来るわ。私はそれが許せない。」

 

ローレル「だからここで、私に勝つんですか」

 

マグノリア「えぇ、そうよ。今度は、途中で止めたりしない。最後までよ」

 

その目は、まるで闇そのものであるかのように黒く、濁っていた

 

ローレルは理解した

 

ローレル(そうだ、私とトレーナーさんは同じだ)

 

ローレル(私はブライアンちゃんを終わらせたい。トレーナーさんは、私を終わらせたい)

 

ローレル(そのために、この舞台が整えられた)

 

ローレル(今から始まるのは、ただのレースじゃない)

 

ローレル(………どちらが死ぬかの、殺し合いだ)

 

ローレル「トレーナーさん、何があなたを駆り立てるんですか」

 

理由はわかった

 

しかし、なぜここまでしてそれを成そうとするか、それがわからなかった

 

だから、問いかけた

 

マグノリア「昔話をしてあげる。世界が破滅に向かっていた頃の話よ」

 

ローレル「…へ?」

 

予想外の、返答だった

 

マグノリア「神様はウマ娘を救いたいと思っていた。だから、手を差し伸べた 」

 

マグノリア「でもそのたびに、ウマ娘の中から邪魔者が現れた。神様の作ろうとする秩序を、壊してしまう者」

 

マグノリア「神様は困惑した。ウマ娘は救われることを望んじゃいないのかって」

 

淡々と、『昔話』は続く

 

マグノリアは空虚を見つめ、誰に語りかけているわけでもなく言葉を紡ぎ続けている

 

一言、挟み込む間も与えないかのように

 

しかし今、隙ができた

 

それを逃すほど、サクラローレルは甘くはなかった

 

ローレル「あれこれ指図されたくない、それだけでしょう?」

 

聞く耳持たず、とさえ表現できる様子だった

 

返事があるかは、一か八かだった

 

けれど

 

マグノリア「そうかもね」

 

返事は、あった

 

マグノリア「でも神様はウマ娘を救ってやりたかった」

 

マグノリア「…だから、先に邪魔者を見つけ出して、殺すことにした」

 

ローレル「ころ……」

 

サクラローレルは神話の類に疎い

 

だから、その言葉に一瞬戸惑った

 

神様というのはそんなに残酷なのか、と

 

瞬間、どこからともなく音楽が響いてきた

 

その場を盛り上げるように。これが、一種の映画か何かであるかのように

 

マグノリア「そいつは、『レイヴン』って呼ばれたらしいわ。何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げるウマ娘」

 

マグノリア「これは、本当の話よ。ずっと昔の、私の何代も前のおばあちゃんが見た出来事」

 

ローレル(…どれだけ、昔だったんだろう)

 

ローレル(気が遠くなるくらい、ずっと昔なのかな。もう何百年も、前の話なのかな)

 

マグノリア「最初の黒い鳥、そのウマ娘が生まれるのを見たのよ」

 

ローレル「マグノリアさんは、それになりたいって言うんですか」

 

意を決して、問いかけた

 

マグノリア「本当は、そうなのかもね」

 

返答は、肯定だった

 

…話はまだ続くらしく

 

マグノリア「でも、私は」

 

マグノリア「……私は、もう負けたくないだけ。何にも、誰にも」

 

自然と二人はゲート内に入っていた

 

もうすぐ始まる、似た者同士による殺し合い。その開幕を感じ取っていた

 

内側にはブルーマグノリア、サクラローレルは外側だった

 

マグノリア「始めましょう。殺すわ、あなたを」

 

それが、開戦の合図だった

 

『ガコンッ!』

 

有馬記念 中山 芝 2500 右 晴 芝 良

 

それがこのレースの条件だった

 

ブルーマグノリアの作戦は先行型、そのピッタリ後ろをサクラローレルが追う形となった

 

抜かさず。けれど、飛ばしすぎず

 

ブルーマグノリアが最も得意とする走りだった

 

そのままのペースで二人はどんどん進んでいく

 

存在する駆け引きは『いつ仕掛けるのか』、それだけだった

 

イレギュラーは存在しない

 

その、はずだった

 

マグノリア「くぅっ…!」

 

ローレル「マグノリアさん…!」

 

第4コーナー直前、ブルーマグノリアが苦痛に顔を歪める

 

ぎゅう、と左腕を抑え込んだのは、痛みに耐えるためだったのだろう

 

脳というのは不思議なもので

 

時折、存在しない部位が痛むことさえある

 

俗に言う、幻肢痛というものである

 

一瞬、ブルーマグノリアのスピードが落ちた

 

しかし。しかし、だ

 

ブルーマグノリアは、尚も前を見据えていた

 

マグノリア「まだよ!私は…私はまだ走れる!」

 

マグノリア「ここが!この戦場が、私の魂の場所よ!」

 

勝利への執念

 

それは、ウマ娘なら程度の差こそあれど誰もが持っているものだ

 

それが、ブルーマグノリアは大きかった

 

しかし道半ばで断ち切られた

 

その未練、もはや他者が推し量ることはできないだろう

 

ローレル(だから…)

 

ローレル(だから、私があなたを終わらせます。今、ここで!)

 

サクラローレルが加速していく

 

ブルーマグノリアを置き去るように

 

追いすがろうとするが、追いつけない

 

サクラローレルは、強かった

 

…今のブルーマグノリアの肉体は、AIが生成した全盛期のものと同じスペックだった

 

それを、サクラローレルは超えていった

 

例え痛みがなかったとしても、同じような展開だったのだろう

 

…だが

 

ブルーマグノリアは、それを許すようなウマ娘ではなかった

 

マグノリア「ハァァァァァァァァッ!」

 

ローレル(そんなっ…!?速い、もうここまで…!)

 

サクラローレルの真後ろ。そこまで、ほんの一瞬で追いついた

 

ローレル「負けて…たまるかァァァァっ!」

 

二人だけのデッドヒート

 

それはさながら、ナイフの鍔迫り合い

 

勝者が敗者の首を引き裂く、ただそれだけのための

 

ローレル(負けたくない…)

 

マグノリア(負けたく、ない…!)

 

ローレル&マグノリア(勝つのは…私だ!)

 

ローレル「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

全力の、絶叫

 

持てる力の全てを出し切る、最後の一押し

 

ローレル&マグノリア「勝つのはっ…!」

 

ローレル「私だぁぁぁ!」

 

マグノリア「……あなたよ」

 

ローレル「ッ……!」

 

ゴールの直前、サクラローレルは後ろを振り向いた

 

自分のすぐ後ろ、そこにつけていたブルーマグノリアは

 

……優しく、微笑んでいた

 

勝者は、サクラローレルだった

 

マグノリア「フゥ…フゥ……」

 

ローレル「ケホッ…フゥー……ハァー………」

 

マグノリア「……ローレル」

 

ローレル「私は、理解しました」

 

ここまでの全てを思い返しながら、サクラローレルは語る

 

ローレル「トレーナーさんの中にいる恐ろしいものを…それが、私もそうだってことをわかったんですよ」

 

初めて会った日のこと

 

ローレル「私たちはずっと、レースの中で生きてきた」

 

初めて、G1に勝った日のこと

 

ローレル「あなたのようなウマ娘であっても、散っていくのを。だから…」

 

今、こうして走っていたときのこと

 

ローレル「トレーナーさん、私はあなたを救いたくなった。でもそれには力不足で、何より思い上がりだったみたいです」

 

誰もいない空を見上げ、サクラローレルは語り続ける

 

ローレル「好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく」

 

サクラローレルは、ブルーマグノリアの方へ向き直す

 

ローレル「それが、私たちのやり方だって。そう仰っていましたよね、トレーナーさんっ!」

 

それは、とびきりの笑顔だった

 

マグノリア「あなたは優しいわね、ローレル」

 

優しく微笑んだまま、そう返す

 

マグノリア「私は選ばれなかった。でも…」

 

マグノリアの身体にノイズが走る

 

マグノリア「……えぇ、これで良かったのよ」

 

マグノリアの姿が、消失した

 

続くように、ローレルもログアウトを行った

 

……空は、別れにふさわしい青空だった

 

 

そして、決戦の日

 

コースへ向かう地下バ道、サクラローレルを待ち受けるように2人のウマ娘が佇んでいた

 

片方は、ナリタブライアン。もう片方はマヤノトップガン

 

どちらも、このレースに勝利している強敵だった

 

だが

 

ブライアン「なっ…!?」

 

マヤノ「ひっ……」

 

両者、一瞬身が竦んだ

 

目の前にいるのが、ウマ娘であると認識できなかった

 

まるで、巨大な烏の化け物であるかのように感じていた

 

しかし感じたのは、錯覚ではない明確な『殺意』

 

気を抜けば、今すぐにでも心臓を抉られるのではないか、とさえ感じられた

 

けれど、その目はいつものように明るく

 

顔を上げれば、普段とさして変化のないサクラローレルだった

 

ローレル「……?どうしたの?」

 

ブライアン「…いいや、なんでもない」

 

マヤノ「そうそう!なんでもない、よ…?」

 

ローレル「…そっか!」

 

3人、並んでコースへと歩んでいく

 

ローレル「あ、そうだふたりとも」

 

サクラローレルが二人を呼び止める

 

その瞬間、僅かその一刹那

 

その目は、あの日のブルーマグノリアのように黒く、濁りきっていた

 

ローレル「昔話をしてあげる」


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