飛鳥馬トキのアビ・エシュフを観たエンジニア部が、アレを都市の電力とかいうトンデモ力技ではなく、もう少し汎用性を持たせた装備として実装できないかと考え、アリスの深層意識Keyを本人をオーバーライドすることなく、しかし戦闘に有用な物として引き出せないだろうかと試行錯誤していると、深層意識アリスと接触し、ア◯スギアみたくなんやかんやあって、最後はNT-Dのように暴走し、封印される話


この話はC103およびサンアカ4で頒布されたミレニアムデベロパーズに掲載させて頂いた作品の再編集版となっております。

とても面白い話が他にたくさんありますので宜しければこちらをご覧ください!告知動画↓
https://www.youtube.com/watch?v=Y14Fgsd7C8I


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時計じかけの花のパヴァーヌ編のすぐ後の時系列となります。


エンジニア部アリ◯ギア開発秘話

皆がアリスを受け入れ、ひとまず平和な日常が帰ってきたある日。

 

「ウタハ先輩! 面白いものを手に入れましたよ!」

「どうしたんだいコトリ、そんなに汗だくになって。君がこのあいだ作っていたミニンギャルド君改はどうしたんだい?」

この間戦闘したアヴァンギャルド君の乗り心地(走破性)がなかなかよかったとのことで、50ccクラスまでダウンサイジングし、キヴォトス中を乗り回して度々注意されていたのだが。

「たまたま通りかかったブルーペ○ロ1号機と目が合った瞬間暴走して大変なことになったんで放ってきました!」

「えぇ?」

「そんなことより見てくださいこれ!」

 

そう言ってコトリが差し出してきたのはなんてことはある不揮発メモリーだ。

うちで作ったヴェリタス専用のやつだな。

 

「何だねこれは。新しい発注書かい?」

「違います! これ! この中にアビ・エシュフの設計図が全部入ってるんですよ!!!」

「アビ・エシェフというと、あれか。飛鳥馬トキが乗っていたパワードスーツだな?確か今は機能停止の状態で要塞都市エリドゥごと差し押さえられていると聞いたが……」

「えーとですね、その全容把握や解析にヴェリタスが噛んでるらしくて、それでちょーっとデータを分けてもらったといいますか……」

「本当は?」

「ヴェリタスに頼んでクラッキング掛けてもらいました!」

ドヤ顔で言ってのけるコトリに頭痛を覚えながら溜息を吐く。

「はぁー、そんなところだろうとは思っていたけど。まあ、折角閲覧の機会を頂いたんだ。刮目させて頂こうじゃないか」

 

コトリが専用のリーダーにデーターカードを差し込む。

 

この不揮発メモリはミレニアム共通規格とは別にヴェリタスが依頼してきたもので、エンジニア部の自信作の一つだ。

なんとデータの空き容量が本体の色でわかるのだ。しかも約1680万色に変化する。

そしてその本体の外装は反応式相転移金属(Trance Phase Metal)を採用しており、たまたま整備で預かっていたカリンの対戦車ライフル(ホークアイ)による至近距離からの2発までは、内部データの読み込みに成功している。

ついでに非常時に備え、|非可塑性スイッチを破壊すると内部のデータは溶解液で基盤ごと薬品焼却できる機能付きだ《この機能だけは依頼内容にあった》。

リーダー/ライターも専用規格となっており、(もっぱ)ら内部での使用のみを想定している。

これ1ダース作るのに半期の予算が飛ぶほど高価なシロモノになってしまったが、ヴェリタスが材料費製造費諸経費まで全部払ってくれたので技術的にはプラスになっている。

 

閑話休題(それはさておき)

 

作業場一杯にホログラムで設計図が展開されていく。

 

「おぉー! ここの関節部はこうなっていたんですね! ふむふむ。おぉーここはこうで……」

興奮しっぱなしのコトリだが、確かにこれは圧巻ではある。

細部を見ていくと、やはり運用理念というかパワーを前提にした大胆かつ強固な設計が見て取れる。エンジニア部の予算では到底思い付かない材質や構造を採用しているところも見受けられる。

ふむ、これはしかし良い教材ではあるが、やはり実用面を考えると無駄が多いと言わざるを得ないな。ただ有用な兵器には間違いないし、何か考えてみるとするか。

「コトリ」

「は、はい!」

「ヒビキはどこにいるか知らないかい?」

「ヒビキさんはさっき倉庫に何か取りに行ってました!」

「そうか。帰ってきたらこれについて話し合おうか。これは次の半期の予算を注ぎ込む価値がありそうだからね」

「了解ですっ!」

 

***

 

「さて、こうして集まってもらったわけだが。みんな、配ったデータに目は通したかな」

「うん」

「はーい!」

「では今回の議題は、このアビ・エシェフの設計図及び諸元についてだ。まず前提として、これをこのまま図面どおり組み上げるのは予算的にもリソース的にも残念ながら不可能だね。しかしこれを見てわかるとおり、技術的に吸収すべきところも多い。なのでエンジニア部で再現できる範囲で個人装備のパワードスーツを作ることにしたいと思う。皆、何か意見はないかな」

 

我先にとコトリが手をあげる。

「はい!」

「なにかな?」

「今自分が作ってる、ミニンギャルド・ナハトのフレームを流用できたりしませんかね?」

「うーん。アレは無人機ベースだから難しいとは思うけど、案としてはありかな。」

「むむむ、確かに。」

 

「はい」

「ヒビキくん」

「これは、誰を乗せる想定で作ろうか」

「あぁなるほど。確かにそれは考えてなかったね」

「アビ・エシェフは飛鳥馬(あすま)トキさんの身体能力を想定して開発されてますね!」

 

人を選ばない汎用兵器として開発するにしても、叩き台として試験機の運用データがあった方がより良いものが作れるだろう。

それに、そっちの方が―――

「絶対楽しい、かな」

「ですね!」

「なら身体能力の高い人にテストして(犠牲になって)貰いたい、と思うんだけど」

「そうだね。C&Cの美甘ネルくんとかどうかな」

「確かにいいと思います!」

有視界戦闘で彼女の右に出るものはいないだろう。コールサイン00(ダブルオー)はミレニアムの最高戦力としての”約束された勝利”である。

それに彼女は、オリジナルとも言えるアビ・エシェフと直接戦闘をした経験があるから、とても有意義な意見ももたらしてくれるだろう。

「じゃあ早速ネル先輩に連絡して来てもらいますね!」

 

「まって」

 

「どうしたんだいヒビキ」

「ネル先輩よりも適任がいると思う」

「そんな勿体ぶって言わなくとも、案として誰でも歓迎だよ」

めずらしく少し言い淀むヒビキ。

「……手を出していいものか悩むんだけど、、、アリス(ALー1S)―――いやKey(ケイ)はどうだろう。」

「!!!」

「…Key、か。初回起動時の部室の修繕費は大したものになっていたね」

「エリドゥでの情報制圧力も桁外れのものだった」

「あのまま乗っ取られていたらと思うとゾッとします……」

そして何よりは『ATRAHASIS』を実行しようとする「無名の司祭」の存在。ケイはあくまでも彼らの意向を実現しているだけなのであれば、こちらの思惑通りに動くどころか彼方(あちら)の思惑に利用されてしまう可能性もあるだろう。寧ろそちらの可能性の方が高い。

 

「無線回線による制圧力なら偶にしか使わない第三電波暗室で対応できると思うけど、私たちの目的の為だけにあんな地下深くまで連れていくのも少し気が引ける、と思う」

まあそれはそうだ。あくまでも我々の活動に過ぎない。それに、既知/未知の危険が既に盛りだくさんだ。

 

「危険性もそうですけど、今はどの媒体に潜んでいるんですかね。モモイさんの携帯ゲーム機から全て移動したのでしょうか」

「うーん。現在のところ沈黙しているようだが、アリスの中にいると見て間違いないかな。一度アリスの中に完全に移行しているのだから、隙を見てまた戻るなんて器用なことをする前に、内部に潜んでいれば見つかるリスクも減るからね」

「それはそう」

「ふーむ」

しばしの静寂

 

「そういえばそろそろアリスくんのスーパーノヴァの定期メンテだね。その時にそれとなく検査ついでに調べてみるのもありかもしれないな」

「そうですね、まあそこら辺の事情は実際に会ってからでもいいかもですね!」

まあ案外なんとかなるかもしれないし、まずはやってみないことには何も始まらない。

 

「そうと決まれば早速取り掛かろうか」

「分担はどうしましょうか?」

「基礎設計は私が引くから、ヒビキは材料の選定・取り寄せ、コトリは第三電波暗室の現状把握と復旧、アリスとのコンタクトを」

「わかった」

「了解です!」

 

こうしてエンジニア部半期の予算を掛けた新たなプロジェクトが始動する。

 

その名もV作戦である。

 

***

###

 

ミレニアム某ゲーム開発部部室

「それロン!」

「えっお姉ちゃん早くない!?」

「アリス、またやられてしまいましたー」

「……聴牌はしてたけど……」

立直(リーチ)一発(いっぱつ)平和(ピンフ)純全(じゅんちゃん)三色(さんしょく)一盃口(いーぺーこー)! ドラはないから倍満……だね!」

「ひゃー! 飛ばされてしまいました!」

タン、タン、タン

麻雀に夢中で気付かなかったが、廊下から足音が聞こえる。

「やばっ、ユウカかも! お姉ちゃん牌片付けて!」

「わかった! アリス、点棒とサイコロお願いっ!」

「あっユズ、ロッカーに逃げないで手伝ってください! わわっサイコロが落ちてしまいました!」

蜂の巣をつついた様な騒ぎのゲーム開発部。ただおやつを賭けて遊んでいただけだとバレたら、またユウカに怒られてしまうので必死である。

ガラガラガラ

「こんにちわ~! おや? そんなに慌ててどうしたんですか?」

「わ! なんだコトリじゃん!」

「びっくりしたぁ、ユウカがまた査察に来たのかと思ったよ」

「誰かさんが大騒ぎするから大変だったよまったくー」

「いやそれはっ、そもそもお姉ちゃんがいきなり麻雀大会しようなんて言い出すから!」

|ぎゃいぎゃい《いつものようにモモイとミドリがケンカを始める》

そんな二人を(わき)に、アリスがコトリに話し掛ける。

「それで、コトリさん。ゲーム開発部に何か任務があったのではないですか?」

「おっとそうでした! アリスさん」

「はいアリスです!」

少し申し訳なさそうにコトリが要件を述べる。

「そろそろスーパーノヴァの定期メンテなので、もしよろしければエンジニア部に今から足を運んで頂きたくですね、ちょっとお時間よろしいです?」

やけに礼儀正しいコトリだが、アリスは特に気にしていない。

「はい、喜んで! 武器の研磨ですね! またアリスの剣が強くなります!」

平常運転のアリスに少し苦笑いしながらコトリは頷く。

「はは、まあ大体そんな感じですかねー」

「?」

「と、とにかく参りましょう!」

「はいっ! ではユズ、行ってきまーす!」

「きっ、気を付けてね」

「はい!」

「ではアリスさんを少しお借りしますね」

 

ガラガラガラ、たん

 

扉の音で我に返るミドリ。

「?あれ、アリスは?」

「……こっ、コトリさんとエンジニア部に。武器のメンテだって」

「えぇー!? 私の優勝賞品のハーゲ◯ダッ◯は!?」

「お姉ちゃんうるさい。「んなっ」……まあ武器のメンテだったらそんなに時間は掛からないでしょ。そんなことよりお姉ちゃん、明日までの分のシナリオはできたの?」

「うっ……それは今からやるかも……」

「そう言って昨日の課題レポートまだ出してないじゃん」

「だってそれは――

まだやいのやいのやってる姉妹(モモイとミドリ)を尻目に、少し不安そうなユズだった。

 

***

###

 

「ウタハ先輩! アリスさんをお連れしました!」

「了解、ちょっとそこで待って貰って。ヒビキ、電波暗室の稼働状況はどうかな?」

『ECM、ECCM最大強度で出力中。内部からの電信遮断率99.8%以上を維持。外部からの電磁的干渉もほぼ完全に遮断できています』

「了解。こちらでのモニタリング状況と合致。それじゃあとりあえず一旦上がって来てもらおうか」

『わかった。ECM、ECCM解除、ブレーカー解除、アース接続。じゃあ5分後に』

「うん。じゃあコトリ、アリス。先に会議室に行こうか」

「わかりました! アリスさん、ではこちらに」

「えっ? 武器のメンテナンスではないんですか?」

「うん、勿論メンテナンスもするさ。それとは別に、少し頼みがあってね」

「ではアリスさん、こちらへどうぞ!」

「は、はい。わかりました……?」

アリスは戸惑いつつもひとまず会議室へと向かう。

 

「さて、改めて今回の計画を説明する。今計画は二段階に分かれている。まず初めにアリスの中にいるであろうケイ(Key)の分離。そして外部接続戦闘ユニットの試験運用だ。それに伴い、アリスには二点協力していただきたい。おまずはケイとの対話。これが叶えばアリス自身の身の安全を担保することにも繋がる。二つ目はそのケイの憑代及びアリスの外部接続戦闘ユニットの試験運用。これについては完璧に我々(エンジニア部)の願望になってしまうのだが、まあ新しい装備が増えると思ってもらえたら幸いだ。どちらにせよアリスにしか扱えないものとなるだろうからな。とりあえず以上だ。どうかな、アリスくん」

 

「えっと、ケイはやはり私のうちに居るのでしょうか……そうすればまた私は暴走してみんなにっ……」

「そこについては安心したまえ。我々エンジニア部が誇る電気暗室の内部にいさえすれば例えケイといえど外部への干渉はできないからね」

「そう、なのですか。……アリスは未だ不安です。アリスの中のアリス(わたし)がいつまたアリスの大切な仲間を危険な目に遭わせないかどうか。またモモイが私の手で……」

「アリスさん! 大丈夫です! その為にも我々エンジニア部はその危険を取り除くのです! ついでにそれが我々にとって面白いことになればまたそれもよし、そうならなくても、アリスさんの安全が少しでも保証されるならそれもまた我々の目指すところでもあります! ここは泥舟に乗った気分でどうか我々を信じてもらえませんかね……?」

「コトリさん……」

「まあ確かに絶対安全とは保障できない現状ではあるけど、私達は最善を尽くすことを約束するよ。それに他でもない君の協力が得られるなら、思考段階で放棄していたあんな装備やこんな装備がテストし放題……それはそれとしてだね、どうかな、この話。我々としては是非とも受けてもらいたい。」

「アリスは……アリスは、また誰かを傷つけてしまうのが怖い、です。だから、その危険がなくなるならアリスはやります!」

「そうか――ならばエンジニア部の面子にかけて、保証できない安全を保証(・・・・・・・・・・・)しよう」

「!!……はいっ!」

と会議室の扉が開き、ヒビキが入ってくる。

「部長、ただいま戻りました。この後は?」

「ではアリス君、私と一緒に電波暗室へ入ろうか。そこでケイとの接触を試みる」

「はいっ! ではアリスは、アリスは未来を切り拓きます!」

「アリスさん、頑張ってください!」

「うん。応援してるよ」

 

***

 

「そういえば装備の名前はどうしようか」

「薮から棒にどうしたんですか」

「いやなに。何事に於いても、名前というものは、それ相応の意味を持つからね」

「また先輩はそうやって煙に巻く……」

「うーん、名前ですか。アリスさんの装備(ギア)ですからアリスギアとかどうですか?」

「それは流石に安直じゃない?」

ヒビキが苦言を呈す。

「いや、名前はわかりやすい方がかえっていいのさ。よし、ケイの転送作業をするよ。同時にフレームの組み立てと本体の電磁シールド加工も進行するからね」

「「了解」です!」

 

***

 

「アリス、状態はどうかな?」

『はい! いつでもいけます!』

モニタ越しにもアリスさんの気合いの入り具合が伺えます。私たちも3ヶ月間、充分に準備してきました。あのあと無事にケイを取り出すことに成功し、ケイはコアユニットとして量子ゲート記憶結晶へ封印されてます。ギアの制作中にケイとコミュニケーションも取れ、なんだかんだ協力してくれました。

これから起動試験です。

既にアリスさんはギアを装着した状態で第一試験場に入っています。パワーアシストがあるとはいえ全備重量は3tを大幅に超えるのにアリスさんは涼しい顔をして立っています。改めてですが凄いですね。

「これよりアリスギアの起動試験を開始する。APU起動、コアユニット封印解除」

「了解! APU起動。コアユニット励起、ケイさん聞こえますか?」

スピーカーから試験場内の音が聞こえる。

『ケイ、覚醒しました。ジェネレータ起動。各モジュール接続良好、アリスとのクロッシング開始』

こちらからのモニタリング情報と相違はなさそうです。起動シークエンスを続行。

「ジェネレータ定格出力で稼働中。APU停止。ではアリスさん。まずはその場で浮上してみてください」

『はっはい!』

管制室のメインモニタにはガチガチに緊張した面持ちのアリスが映し出されています。

「シミュレーション通り、上方向の入力をイメージするだけで大丈夫ですから!」

『わかります! アリスいきます!』

サブモニターに表示されている下部スラスターの推力値が上昇し、アリスの体が持ち上がり、離床。接続している有線ケーブルがだらんと垂れ下がる。

「離床確認。アリスさん、どうですか?」

『すごい……すごいです!アリス飛んでます!』

「アリスさんいいですか? シミュレーションでも説明しましたが、そのギアのモーメント制御は基本的に新たに変数を代入することで成り立ちます。つまり! 新しく値――移動の大きさをイメージすることで以前の命令を

「コトリ」

「あっ失礼しました! つまりですね、新たにイメージを追加しなければ、直前の入力を実行し続けるので、動作の終わりはきっちりイメージしてください!」

『はい! 今アリスは上昇しています!』

「今は微速上昇という命令をしたままなので、今度は空中でのホバリングをイメージしてください!」

上昇を続けていた加速度が急に0になる。

『わわっ!急に止まりました!』

「あくまでもイメージ通りなので、ゆっくりとしたイメージを心掛けてください!」

『わ、わかりました!』

最初はぎこちない挙動をしていましたが だんだん慣れてきたようで、てくてくと脚を動かしながら器用に空中を闊歩しています。

「アリスさんどうですか? そろそろ攻撃兵装のテストを――」

「試験場内部に強力なエネルギー反応を感知! なおも増大中!」

試験場内をモニタリングしていたヒビキが突然声を張り上げました。横を見ると、ちょうどアリスが居る付近の熱量グラフが急激に上がり続けています。

「直ちに実験中止! アリスくん、状況を報告してくれ! アリスくん!」

確認したウタハ先輩が中断命令を出し、私もギアのシャットダウンプロセスを開始。

映像ではアリスさんはうつ伏せに倒れています。動いてはいるようですが何か変です。

各部データチェック。各種センサー正常に作動中、ジェネレータプライマリ出力、ゼロ? フレーム内部温度、正常域。……正常?

「先輩! ちょっとこれ見てください!」

「なんだ!」

「ジェネレータが停止してます! しかもフレーム内部温度は正常値です!」

「っ!確かに正常だ。しかし外部からの観測情報は既に120℃を超えているぞ!? どういうことだ……?」

『――制室! コトリさん、ウタハさん! 聞こえますか! こちらアリスです!』

「アリスくん状況は? 君は大丈夫かい?」

『あ、ウタハ先輩! 現在急にギアが動かなくなって墜落しちゃってるところです! どうしますか!』

「ケイはどうなっている?」

『それが、起動してから全く応答がないんです! 存在は感じるんですけど……』

ウタハ先輩はおそらくケイの謀反を疑っているのだと思います。確かにこの状況で一番可能性の高い原因はそれだろうと頭ではわかります。でも、そうじゃない気がします。この3ヶ月一緒に開発してきたことによる仲間意識もありますが、それ以上に、この状況に対する違和感がどうにも拭えないのです。

『――あっケイですか!? ……はい?私はアリスですよ。所属ですか? ゲーム開発部所属の、アリス(・・・)アリス(ALICE)ですよ? ――あれ? 『しまったっ!』 私は。私自身は』

『管制室!即ちに私のマスター回路を切断してくr

 

『私の。私たちの。同類(なかま)

 

その声は、赤子のようで老人のようで少女のようで淑女のようでした。

管制室の刻が止まる。

いつのまにかモニタに、メインジェネレータの出力とは別の出力が表示されています。これは、コアユニットから?

《EMISSION》? これは一体……

重苦しい空気のなか、ウタハ先輩が問う。

「――おい。どうした。何があったんだ」

『……管制室。こちらケイです。起動時に何らかの不運(アクシデント)で、間違ったもの(・・・・・・)に接触してしまいました。そして正しいアリスに連絡(コンタクト)が取れた際に、これは私の判断ミスなのですが、アリスはALICEを自覚してしまった』

「ALICEとはなんだ!?」

『高次人工知能。ムーンシャード計画の発案により人類を救った存在。そして、アリスギアを創った(・・・・・・・・・)存在』

何の話をしているのかさっぱりわかりません。ムンシャード計画? シャーレの類似機関でしょうか。それに、アリスギアは私たちが作ったものです。

「何を言って……」

『そんなことより(コアユニット)の回線を切断してください。ALICEはコアユニットを中継して干渉してきています。向こうの目的がわからない以上、先ずは

バツン!

「ウタハ先輩! アリスギアとの有線回線が切断されました!」

全てのモニタリングデータがNOSIGNALに変わりました。何が起こったんでしょうか。でも回線切断への対策はしてあります。ケイがもし謀反を起こした時のためのものでしたが、設定しておいて良かったです。

「アリスギア、機能停止していません! 映像では上昇を開始! 地面ごと上昇しています!?」

ヒビキの報告でメインモニタの映像を見ると、アリスの周辺の床材が球面でくり抜かれています!?

「全ての権限はアリス(・・・)が優先だ。故にコアユニットとの接続も維持されているのだろう。ケイに対する安全策(セーフティ)として無線を完全にシールドしたのは悪手だったか。……いや、結局同じか。あれが何かはわからないが、中が見えるのにも関わらず床をくり抜いているということは、選択的透過性を持っているのだろう。となれば電波程度なんなく遮断できるだろうね」

ぶつぶつと何か独りごちていますが、間違いなく緊急事態です。

「先輩! どうするんですか!?」

「C&Cに連絡して制圧して貰おうかとも思ったけどね。アレ、通常兵器が通用するのかな」

「それは……」

「しかも、このプロジェクトは予算ちょろまかしてやってるから、申請通してないんだよね。またユウカに怒られちゃう」

んな……!? この後に及んで!

「そんなこと言ってる場合ですか! このままアリスが戻らなかったらユズさんやモモイさんミドリさん、ミレニアムのみなさんになんて言い訳するんですか!? それに地上に出たらミレニアムが、いや、キヴォトス全体が危ないですよ! それでも先輩が何もしないというなら私が体を張ってでも止めます!」

「……」

「あっコトリ!」

アリスさんはエンジニア部のエゴで始まったこのプロジェクトに、それでも自分を変えようと参加してくれたんです。こんなところで誰にも知られることなく終わっていいはずがないです。そうですよね。アリスさん!

 

***

###

 

コトリは管制室を飛び出して行った。

ウタハ部長は何も言わずに見送った。

私は呼び止めたが扉は閉まっていた。

コトリは先の部長の言葉をそのまま受け取ったようだが、明らかにさっきの発言は本意ではないように思える。

今回の計画は確かにいつも通りエンジニア部の好奇心で始まったものだが、部長の熱の入れようはいつにも増して強かった。

それに、アリスに対する目線も、最初はあからさまな好奇心だったが、3ヶ月の作業の間に愛娘を見るような慈愛に満ちた目に変わっていた。やはり策は用意してあるのだろう。

「何も訊かないのかい? アリスのことも、コトリのことも」

お見通しってところですか。

「……私は部長を信じてますから」

「それは信じてない間じゃないかな?」

……

「ふふ、冗談だよ。不安なのはわかる。未知のものだからね。怖くて当然だ」

「……」

「正直なところ策はない」

「えっ」

「だが、希望はある。というかこれは確信に近い。彼女(ALICE)は、護りたいんだろう。カゴの中の鳥をね」

どういう意味だろう。

「そのまんまさ。見てごらんあの球体を。あれは強い拒絶と共に、内側を護っている。そして内側からのものは通すだろう。あ、ほらくり抜いた地面を落としている」

映像では、アリスが一度くり抜いた積層セラミックの床材を球体の外へと投下している。

「だからね、多分あれはアリスの純粋な想いに惹かれた誰かが、その(こころ)に思わず手を差し伸べたのだろうね。気紛れに、それでいてこの上なくピンポイントに」

そんな非科学的な話があるか……と思ったが、現在目の当たりにしている光景は間違いなく非科学的な現象だ。そして正面からぶつかるしかない。そのために敢えてコトリを煽ったのか?

「ほら、勇者様のご登場だ」

そう呟いた部長の横顔は嬉しくも寂しい、まるで他人の英雄譚を眺める少女の色をしていた。

 

***

###

 

「はっはぁっはっはっ」

地下の実験場へ下るリフトがとても長く感じられます。いっそのこと、この斜面を滑り降りてしまおうかと考えましたが、流石に尻餅では済まないと思って我慢しました。

リフトの終着点が見え、10mを切ったところで飛びおり、走ります。私は運動が得意な方ではないですが、今は、今だけはキヴォトスで一番早いです。

第一試験場の扉のコンソールを操作し、緊急解放のレバーを引いて圧力ハッチを開け、転がり込むように試験場に入りました。

見上げると、アリスさんは空中に漂っていました。合計4t近くある重量をホバリングさせているのでかなりの風圧です。

「アリスさんっ!」

目線だけがこっちを見る。

目が、紅い。

ふっと吸い込まれそうになります。

『私が護るから』

「――っ! アリスさん!!」

『みんなを護るから』

違う! これはアリスさんじゃない、別のものです!

「よくわかりませんが、私たちのアリスさんを返してください!」

『もう何も怖くない。怖くはないよ』

駄目です、意思疎通ができていません!

もっと接近すれば……

『コトリ』

「……部長」

スピーカーから部長の声が聞こえる。

『アリスの意識は、おそらくALICEとやらに護られ、下手したらキヴォトスより安全なところにいるかもしれないね。……コトリはどうしたい?』

「えっ? ……どうしたいって。アリスさん自身の意思を、尊重するべきだと思います。今回だってアリスさんが勇気を出して参加してくれました。……でも、それで私たちの前からいなくなるのは――嫌です。アリスさんは私たちの仲間です! 友達です!私たちはこの3ヶ月、一緒に居続けるためにも頑張って来たんです! 私は、アリスさんと一緒に居たいです!」

「はいっ! アリスもですよ!」

「……えっ?」

『良かったですねっ、アリスさん!』

『わーい! 再会だーっ!』

『これは、愛の告白、でしょうか』

「えっ、あっいや、これはですね……」

 

***

 

結局アリスギアは封印。

第二倉庫の奥で眠ってます。

ウタハ部長によると、あの接触は基本的に想定していたもので、ケイとも打ち合わせ済みだったらしいです。アリスの意識が飛ばされたのは予想外だったらしいですけど。そのせいで私が少し恥ずかしいことになりましたが、結果的にアリスと仲良くなれたので良かったです。

アリスはすっかり日常生活に戻っています。あの時最後聞こえた声は、成子坂製作所?というところの方々だそうで、アリスは2ヶ月もの間、お世話になっていたそうです。あの一瞬に1ヶ月経っていたというのはとても不思議ですが、とても楽しそうに話すアリスを見ると良かったと思います。

ケイはというと、そのままアリスギアに封印するつもりだったのですが、アリスが連れて行くと言い張ったので、アリスへ戻りました。これには流石のウタハ部長も面食らっていました。でも、私はいいと思います。3ヶ月接してみて、悪くない人? だと思いましたから。騙されてるだけかもですけど!

あとこれは余談ですが、第一実験場の床材の修理で、来季の予算が飛びそうとのことでヒビキが頭を抱えていました。あの実験室は何年も掛けて作っているので総費用は目が回るくらいになっているらしいです。

ま、今回も色々ありましたが、楽しかったです!

以上エンジニア部議事録今日の分でしたっ。

 

おしまい




この度はお読みいただきありがとうございました。

初めての二次創作小説でしたので、勝手がわからないことばかりでしたがどうにか完成しました。

普段はカクヨムおよび小説家になろうでオリジナル小説を掲載しているので、もしよろしければそちらもよろしくお願いいたします。

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