予報しよう。今日の天気は俺次第 作:報予気天
「――――と、いう訳で!第……何回か忘れてしまいましたけど定例会議を始めていきましょう☆」
綺麗なウィンクを決めて、十六夜ノノミは開始を告げる。
部屋に集まっているのは
「今回は、タクス君が居ますから改めての近況報告会にしましょう☆」
「といっても、ノノミ先輩。特に何かあるの?」
「そうですねぇ……あ、タクス君が本格的に動き始めて街が綺麗になった所が増えましたね」
セリカの言葉に、両手を打ち合わせながらノノミはそう答える。
事実、ここ最近のアビドス自治区は急速に綺麗になっていた。具体的には、降り積もった砂が取り払われて劣化はしているものの隠れていた街並みが分かる様になってきた。
自然、腕を組んで下座に腰掛けるタクスへと視線が集まる。
「ん?期待している所悪いが、俺に修理を任せられても困る。ウェザー・リポートは、あくまでも天候を操るだけだ。建物を修理する天候など無い」
彼はそう言い切ると、ムッツリ黙り込む。
一種の万能さにも似た能力を示すからこそ、その能力の及ばない不便さという物が露となる。
破格な現象の一つとして、ファフロツキーズが挙げられるが、コレはあくまでも過去の事例があるからこそ成立する事。
「うへー、やっぱりその辺は業者とかに任せた方が良いよねぇ……そんなお金ないけど」
「ん、タクス何かない?」
「……」
シロコの言葉を受けて、タクスは顎を撫でる。
振り返るのは、自身の脳内。真っ新な己の記憶ではなく、知識として備え付けられた部分の方。いわば、百科事典を引くに近い。
主となるのはやはり、
「……事例として、金属が降った、というものもある」
「金属、ですか?色んなものが降ってくるんですね」
「ああ。この金属を限定し、金を降らせれば或いは……」
「!そんな事が出来るのなら、速くやっちゃいましょ!」
椅子を蹴り倒す勢いでテーブルに手を突きながら立ち上がるセリカ。
アビドス自治区には、砂嵐問題だけでなく膨大な借金が存在する。
その額、実に九億六千二百三十五万円。オマケに借りた相手が悪く、月々の利子の返済だけでいっぱいいっぱい。
タクスの言う事が可能なら、直ぐに借金返済に取り掛かれる。セリカはそう考えたのだ。
だが、
「うーん……」
「それは……」
ホシノとノノミは乗り気ではないらしい。
二人の先輩の反応に、セリカは首を傾げる。
「え、何か問題があるの?」
「問題、というか……まず、天木君の言う通りの事が出来るのなら確かに借金返済には役立つと思うよー?でも、急に返済額が増えれば、まず間違いなく相手側の興味を惹いちゃうと思うんだよねぇ」
「それに、金というのは希少金属だからこそ価値があるんですよ、セリカちゃん。うちの借金をすべて返済する量の金が市場に流れたら十中八九相場が崩れちゃいますね」
「純度の問題もある。あくまでも金属が降った事例を歪ませようというんだ。それが必ずしも高純度の金であるとは限らない」
「オマケに、そこまで事が荒れれば天木君を表に引っ張り出す事になっちゃうよ。他の学校と事を構えるのは得策じゃないよねー」
三人それぞれから理由を告げられ、しょんぼりとセリカは椅子に座り直した。
苛烈な部分もある少女だが、同時に世間知らずというか素直というか。まだまだ成長途中。どうしても物事を単発で飲み込みがち。
セリカに代わって、おずおずと手を挙げたのはアヤネだった。
「あの、金の売買は少額なら可能なんですよね?」
「そうですねぇ。相場を崩さない程度に、且つ純度が高ければ言う事無しです」
「天木さんのお力で、金属を降らせることが可能なんですよね?」
「ああ」
「でしたら、利子+α程度の額になるよう調整したらどうでしょうか?希少金属を売ったお金を返済に充てつつ、相手側にも不審に思われないようにしながらこちらも動けると思うんですけど」
借金というのは返す目途が付くと視界が広がる感覚を覚える。
同時に、額が大きすぎる場合の
先の通り、アビドス高校の借金は膨大。これを一発で返してしまった場合、まず間違いなくホシノやノノミが懸念したように周囲に小さくない影響を与える事だろう。
だからこそ、小さく分割して敢えて少しずつ返済していく。これによって着実な返済をしながら同時にアビドスを復興するための行動も起こす事が出来るだろう。
アヤネの言葉を受けて、一応の指針が決まった。
「それじゃあ、天木君。先ずは出来るかどうか確かめてみようか。おじさんも、捕らぬ狸の皮算用なんて嫌だからねぇ」
「ああ、了解した」
ホシノの言葉を受けて、タクスは椅子から立ち上がると窓の方へと足を進めた。
鍵を開け大きく開け放つ。砂漠の乾いた風が吹き込んできた。
「ウェザー・リポート」
呟き、右手を窓枠の外へと掌を空に向けて差し出した。
影が差す。風を切る音が聞こえ、タクスの右手に軽い衝撃音。
「……」
無言で振り返ったタクスは、その足でテーブルへと近付くと五人の視線を一身に受けたままその右手に握る物を置いた。
光を反射し、キラキラと光る。
それは、古来より人々を魅了してやまない魔性の輝き。
「成功、だろうか」
「みたいですねぇ……ちょっとお借りします」
首を傾げるタクスに断りを入れて、ノノミがその輝きへと手を伸ばす。
金塊。掌に収まる程度の大きさで、石の形そのままの成形されていない形。
「……恐らく、純金で良いと思います。確りと鑑定はしていないので計りかねますけど、純度もかなり高いのではないかと」
「うへー、本当に何でもありだねぇ。そう言えば、天木君は自分のご飯もそれで賄ってるんだっけ」
「腹に溜まれば何でも良いからな」
「ええっ!?天木さん、金属を食べるんですか!?」
「アヤネちゃん?違いますよ?ホシノ先輩が言ったのは、空からお魚やお肉が降ってくる現象の事ですから。流石のタクス君も金属を食べたり……しませんよね?」
「しないが?体構造は人間だ。食べる物もお前たちと何ら変わらないぞ、十六夜ノノミ」
窺うようにして見てくるノノミに、窓を閉めて戻ってきたタクスは無表情にそう返す。
能力こそ異質だが、天木タクスの肉体強度はこのアビドス、ひいてはキヴォトスにおいても貧弱に入る事だろう。
これは、生徒たちには神秘と呼ばれる力が宿り。その証左は、頭の上に浮かぶヘイロー。
彼女らにとって拳銃弾程度はお遊びの範疇であり、銃撃戦も余程の事でなければ命の危機には程遠い。
そして、タクスにはヘイローは無い。銃弾一発が致命傷に繋がりかねない代物だった。一応、彼も対抗策があるが、それでも不利である事は間違いないだろう。
脇道に逸れたが、資金源はゲットした。後は、これをどう処理するか。
「ん、ノノミの所が買い取る?」
「うーん、難しいですね」
「だねぇ。買い取りは出来るだろうけど、企業って一枚岩じゃないしさ。下手に情報が漏れるとよくないよぉ」
「そっか……じゃあ、どうする?」
沈黙。とはいえ、答えが無い訳ではない。
「…………まあ、足が付かなくて尚且つ紛れるならあそこしかないよねぇ」
「え……そ、それってまさか……!」
ホシノの呟きに、セリカが顔色を悪くする。シロコを除けば後の二人も似たような反応だ。
ただ一人、このキヴォトスという街の情勢に疎いタクスを除いて。
「何の話だ、小鳥遊ホシノ」
「あー、天木君は知らなかったねぇ。この街には、こわーい場所があるんだよ」
「ブラックマーケットと呼ばれる無法地帯の事です。主に、学校を退学になったスケバンや傭兵、あくどい商売をする裏企業等々。連邦生徒会でも手を出す事の出来ない場所なんです」
「成程。そこならば、非合法に手に入れた金を売る事も出来る、と」
「ちょ、本当に危ないのよ!?むざむざ行ける所じゃないんだけど!?」
「だがな、黒見セリカ。奥空アヤネが言った様な方法で資金を得るのなら、換金しなければならない。場所を選んでいる場合ではないだろう」
「むぐっ……で、でも本当に危ないのよ?それに、天木は自分で言ったじゃない。拳銃でも危ないって」
「リスクは何事にも必要だろう。十六夜ノノミ」
「はい?何ですか、タクス君」
「今の金のレートを調べてくれ。そのブラックマーケットの商人には相場の二割減の値段で売り飛ばす事にする」
「ん、何で?」
「飛び込みでは、純金だろうと出所不明では買い取ってくれないだろうからだ。そうでなくとも、買い叩かれる可能性が高い。後は、交渉の材料にする為だ」
ドアインザフェイスという手法がある。
最初に困難、ないしは高めの要求をし本命の要求を二の矢三の矢として放つという物。
当人に関する記憶はマルッと抜けているというのに、妙な範囲の知識を持つタクス。
舞台は無法地帯へと移っていく。