隻腕のシド・カゲノー   作:読者0

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めちゃんこ短くなった
許してちょ


吐き出す

「う、うう」

 

気絶していたクレアは自室で目を覚ました。

 

「お嬢様!」

 

控えていた侍従が話しかけてくるけれど、全く頭に入ってこない。

屋敷に帰って来てからの記憶がない。

凄く大事な事を忘れている気がする。

でも思い出そうとすればするほど頭が痛くなる。

 

「シド.....シドは?」

「あ....その」

 

侍従が黙るのを見て思い出した。

 

「シド!!」

 

ベッドから飛び起きて部屋を飛び出す。

裸足で走りながら弟の部屋を目指す。

 

(違う違う違う違う....違う!!絶対に違う!!そんな訳ない!絶対に違う!!あれは夢なのよ!悪い夢なのよ!!)

 

悪い夢であって欲しいと願う。

でももうそこまで現実は迫っている。

 

「シド!」

「あ、姉さん」

 

そして現実はやってきた。

悪夢だと思いたかった。

でもそれはどうしようもなく理不尽で変えようのない現実だった。

 

「う、うぇぇ」

 

吐いた、吐いてしまった。

受けいれられない現実を前にして、心が耐えらなかった。

内容物が口から溢れ出てくる。

手で押さえてもどんどんと出てくる。

 

「姉さん大丈夫?」

「シド...うぇぇ」

 

心配してくれた弟が背をさすってくれている。

でも止まらない、止められない。

吐き出せるものなんて胃の中にはないのに吐き気が収まらない。

 

「ごぇんねぇ.....ごめんねぇ」

「え、ああ大丈夫だよ。こんなの全然大した事じゃ....」

「ごめんねぇ....駄目なお姉ちゃんで」

 

 


 

姉さんにゲロぶっかけられた。

ゲロ自体はなんとも思ってない。修行の際に無理したり、耐久訓練で打ち所が悪かった時に一杯吐いた。それこそ数え切れないほど吐いた。

内容物じゃなくて胃液だけぶちまけた事だってある。

服が汚れたのも特に何も思わない。

服には特にこだわりがあるわけでもないし、何十着とある同じデザインの服の内の一着が駄目になっただけでそれも特に何とも思わない。

ただ血縁にゲロぶっかけられた事にはちょっとダメージを受けた。

僕を見てから吐くもんだからまるで僕が「吐くほど気持ち悪いもの」にでもなった気分だ。

いい気分ではない。

 

「シド.....シド」

 

さっきから姉さんが抱きついて離れてくれない。

ちゃんと綺麗にしてから抱きついてるから汚いとかそういうのはない。

ただ抱きついてきてから2時間もそのままのは流石に長すぎるし。

なんか辛そうだから押しのけるのも罪悪感が凄い。

 

「起こさないと駄目だよな」

 

そしてトイレに行きたい。

凄く行きたい、漏れそう。尿意のタイミングが悪い。

 

「姉さん起きて」

 

揺すってみるけど起きない。

 

「起きてよ姉さん」

 

もう一度揺すってみると起きた。

 

「僕トイレに....」

「ごめんなさい!!」

「ぐへぇ」

 

起こしたのは失敗だった。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!駄目なお姉ちゃんでごめんなさい!!もう絶対にこんな事させないから!」

「う、うん。それよりも」

「もう離れないから!!絶対にこんな事起こさせないから!!」

「は、離して欲しい....です」

「ごめんね!!苦しくなかった!!ごめんね!!ごめんね!!」

「うん、大丈夫だから。トイレに行かせて欲しいんだ」

「トイレね、分かったわ。行きましょう」

「付いてくるの?」

 

異性が近くにいる状態でトイレできる程、図太くないぞ。

排泄の音を身内に聞かれるとかどんな拷問だよ。

 

「どうしても?」

「お願いついていかせて、我儘言ってるのは分かってる。でももう駄目....駄目なの」

「駄目なんだ」

「ちょっと離れるのももう無理なの、頭がおかしくなりそうなの。少しでも離れたら...私の目の届かない所で同じ事が起きたら.....私耐えられない」

「うん、分かった。分かったよ」

「ありがとう、ありがとう」

「取り敢えずトイレ行かせて」

 

尿意がもうそこまで来てるんだ。トイレ行かせて。

 


 

ごめんね。

ごめんね、駄目なお姉ちゃんで。

ごめんね、肝心な時に傍にいなくって。

駄目なお姉ちゃんでごめんなさい、酷い事してごめんね。

 

「んん」

 

腕の中で身じろぎする弟の体は軽い。

前に帰って来た時よりも体は成長しているのに、軽くなった。

腕一本分の重さ、その重さが罪としてのしかかってくる。

もっと早くに帰ってきていればこんな事にはならなかったのに、どうしてもっと早く帰ってこなかったんだろう。

後悔ばかりだ。

 

「今度はちゃんとお姉ちゃんが守ってみせるから」

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