「映画面白かったですねー」
満面の笑みを浮かべる千早愛音――快活な性格を表すかのような明るいピンク色のロングヘアーと白縹色の瞳が印象的な少女――は隣へ一瞥を投げかける。「面白かったね」短く整えた赤味のある茶髪と幼さが残る利発的な顔立ちが程よく噛み合う少年――大崎太一は満足そうに頷く。
帰路の途中、二人は今日観た映画の感想を述べ合う。アクションシーンがよかった、ロマンスシーンはついうっとりした、ミステリーシーンは小難しい顔をした。概ね好評であり、実に充足したと口を揃える。
そういえば……何気なく愛音が話題を切り換えていく。主役の探偵さん、何だか太一さんだなーって思ったんですよね。
えー僕あんなに格好良くはなれないよ。苦笑いを零す太一。じゃあ愛音は優秀な助手の人だね、そそっかしいところも似てたし。
そそっかしいってひどくないですかー? けれど嬉しそうに笑う愛音。依頼人の女の子は……そよりんかなー。
家庭環境とかお嬢様だとか似ているところあるもんね。太一は納得したように相槌を打つ。
あと寂しがり屋さんなところもそっくり。意地悪そうで、しかし優しい笑みを零す愛音は遠回しで伝えてくるところも、と付け加える。
愛音はそよちゃんのこと、よく知ってるね。太一さんほどじゃないですよ。僕だって知らないことだらけさ。でも知らないことを知りたがるの太一さんじゃないですか。
「って太一さんと話してたんだよねー」
数日後、喫茶店にて愛音は覿面の相手に帰宅途中で盛り上がった話題の内容を伝える。聞き手は件の話柄に登場していたことに驚きつつも、普段通りの柔和な微笑を崩さない長崎そよ。爪をいじりたくなるような退屈な話、裡は大して面白くないこと聞かされてささくれ立つ――二人だけ楽しそうでいいね。
「ところで愛音ちゃん」
むくれる内心を隠して、無理やり話を切り出す。「太一さんのこと好きなの?」彼女が彼の話をしているとき、声音が一段と高くなって弾む。普段、他人のことを面白がってからかっているから、自分も同じ立場になってみればいいのに。
「……好き、なんだと思う」即答するかと思いきや、数秒間を空けて――しかも曖昧な返事。思わず驚嘆する。
「まだ自分でもよく分からなくてさ」
珍しくアンニュイな表情に変化する愛音。「はっきりと好きって言えないんだよね」いとも簡単に自分の迷いを口にし、ちっとも単純ではない心模様をつらつらと述べる。友達としての好きでも、異性としての好きでもできそうな感じ――ぼんやりと好きな人は言えば、彼の名前も入るぐらいの。
「じゃあ結局好きなんだね」
苛立って、穏やかにそよはまとめる。「好きだけどさ……」煮え切らない愛音は「本当に好きって言っていいのか分からないんだよね」と生真面目に悩み出す。ため息が零れる、散々他人のこと煽ったり、からかってたりしているくせに。
「どっちでもいいんでしょ」ティーカップを握る手が震える。声に刺々しさが増す。
「どっちでもいいってわけじゃないんだよ」真剣に向き合って、選ぼうとする愛音の双眸は未だに揺れる。
「愛音ちゃん、妙なところで真面目だよね」いつも面倒事は逃げ出すくせに、と不機嫌になっていく。
「私はいつだって真面目ですー!」愛音は子どもっぽく言い返す。確かに彼女の前では時々ふざけることはあるけれども。
はいはいと聞き流しながら澄まし顔のそよ、あーあ彼女の恋も上手くいかなければいいのに。似たようなことで迷っている自分と重ねて、重ねるのが嫌になる。私は好きな人がいて、好きって言える状況じゃないのに――悩める彼女を羨ましく思った。