彼は、ひょんなことから魔人ブウと暮らすことになったが、その日々には、とある苦労があるという…
*キャラクターの解釈を勝手にしています。若干キャラ崩壊かも
私はミスターサタン。
誇り高い世界チャンピオンであり、世界中にその名を轟かせている。
立てば猛獣が恐れ、座れば鬼が息をのみ、歩く姿に悪魔が震え上がる。全ての人間が憧れるスーパースター。
元・人類最強である。
元、である。
というよりも、元から別に最強という訳ではなかった。世界を知らずに、自分が最強だと思い込んでいただけ、井の中の蛙であったのだ。
初めて自分が最強ではないと知ったのは、たしかセルと戦ったときだったか。
いや、あれは戦いとは言えなかった。
セルは、ものすごく、ものすごーく手加減した一撃で、私を吹っ飛ばしてしまったのだ。
今思えば、アリが象を倒そうとしていたようなものだった。
とても屈辱的だったのを覚えている。なんせ、あの場にいた者の中で、アナウンサーやカメラマンの次に弱かった人間が、このミスターサタンだったのだから。
人類最強の存在であった、このミスターサタンが、だ。人類最強はおろか、地球人最強ですらなかったのだ。
まぁ、今から思えば、サイヤ人だとか、人造人間ではない上に、気のことすら知らなかった(今も使い方は知らない)のだから、弱いのは当たり前のことだったのだが、それにしたって、あんまりな話だと思った。
あの一瞬にして、今までの最強が、ただの凡夫に成り下がったのだから。それからは、虚勢を張るだけの日々だ。
ただ、そんな私が、意気消沈せずに生きているのは、悟空さん達が、世界に自己アピールをしないことと、
「サタン!ご飯まだか!」
「あっ、はーい!今持っていきますからね~!」
私が、魔人ブウのお世話をしていることにあるのかもしれない。
悪い方の魔人ブウとの苛烈な戦いが終わってから、早半年。
良い方の魔人ブウ、もといブウさんは私とともに生きていく成り行きとなった。
そのことに後悔がないと言えば、嘘になる。
ブウさんは、殺しをしないと約束してくれたが、とはいえ、自分よりも圧倒的なその力はやはり怖いのだ。
ただ、それ以上にブウさんとの共同生活は、とっくに最強ではなくなり、虚飾家となった私の空虚な生活を充実させた。
「サタン!これ美味いぞぉ。もっと作ってくれ」
「そう言うと思って、おかわりを沢山つくっておきましたよ」
世界を壊す力を持つ脅威の存在、魔人ブウ。そんな最強の存在をお世話することが、今の私の役割であり、微かに誇りにもなっている。
もう最強ではなくなったとはいえ、こうして世界に貢献できていることが、私の誇りを慰めていた。
ただ、ブウさんとの生活にて、困ってしまう状況がよくある。例えば、このような状況だ。
「なぁサタン、このニュースの場所、どこだ?」
ブウさんは、テレビに映る映像を指さし、尋ねてくる。
そこには、凶悪犯が人質をとって、西の都のビルに立てこもっている場面が生中継されていた。
「えっと、ここからずっと西、あっちの方に行ったところですね」
そう言い、分かりやすいように方角を指さす。
というか、画面上部に「西の都」と書いてあるのだが、どうやらブウさんは、この前教えた文字の読み書きをもう忘れてしまったらしい。
「そんなこと訊いてどうしたんです?」
「こいつ、悪いやつ。だから殺してくる」
ブウさんは、そう言いながら扉の方へ向かう。急いでブウさんの前に立ちはだかり、止める。
ブウさんが暴れれば、人々がブウさんに殺された恐怖を思い出してしまう。
自分は悟空さんたちと比べて、ずっとずっと弱い。でも、だからこそ自分にできることはやるべきだ。それが、偽物の最強としての、せめてもの責任だ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!ダメですよ、ブウさん!人は殺さないって約束してくれたじゃないですか!」
「でも、アイツは悪いことしてる。死ぬべきヤツだ」
「でも…ブウさん…」
「悪い方の俺は、悪いヤツだから殺された。悟空から聞いた話だと、フリーザってヤツも、セルってヤツも悪いヤツだから殺されたんだろ?そいつらと、アイツ、なにが違うんだ?」
ブウさんは純粋な方だ。だから、こういう質問も平気でしてくる。
こんな質問をされる度、少々冷たいだけで、ビーデルは本当に育てやすい良い子だったんだな、と思う。ブウさんが悪いってわけじゃないが。
「あの人はですね、まだ良い人になる可能性があるんです」
「良いヤツになれる?悟空たちに殺されたヤツらは違ったのか?」
「そういうわけでもないと思いますよ。でも、そいつらは、めちゃくちゃに悪すぎた。どうしよもないから、殺すしかなかったんです」
「そっかー。それじゃあ、アイツは良いヤツになるんだな!」
「ええ!きっと!」
そんなこと、分からない。
「地球人はですね、ときどき悪いヤツもいますけど、みんな本当は良い人なんですよ」
嘘だ。地球人であろうと、ブウさんの愛犬を撃ったヤツみたいに、どうしようもないクソ野郎もいる。
ただ、そんな汚い部分は、純粋な性格のブウさんには、あまり見せたくない。それは、ブウさんの暴走を防ぐためでもあるが、それ以上に、ブウさんには幸せに生きていて欲しいのだ。だって、
「そうか、地球人は羨ましいな」
だって、こんなに素敵な笑顔を見せてくれるのだから。
「ブウさんも、もう地球人ですよ」
「俺が?俺は、肌色はピンクで、ぜんぜん死ななくて、なんでもお菓子にできるんだぞ。ぜんぜんお前らと違うぞ」
「いえいえ、ブウさんは地球人ですよ。私たちの仲間なんですから」