エニアグラム家が治める領地内で、ライは一年近く療養と鍛錬に時間を費やしていた。その甲斐があってか、ギアスの暴走は落ち着き、彼の表情にも明るさが戻っていた。
そしてある日、彼は屋敷でノネットに呼び出された。
「最近は調子も良さげだな、笑顔もこちらに来た当初より増えたしな」
「ノネットさんや屋敷の皆さんのおかげです、本当に感謝しています」
「私も感謝しているよ。お前が来てくれたから、張り合いのある稽古ができるようになった。お前自身も、随分逞しくなったな」
「はは…あまり稽古の事は、思い出したくはないですけどね。少しトラウマになりそうなくらい、キツかったですし」
「だがそれは昔の話。今では私の動きに、見劣りしないぞ」
「ありがとうございます。ところで、話とは何です?」
するとノネットは、頷いた。
「うむ。お前は私の両親に、何度か会ってるよな」
「はい、ご隠居された方々ですね。そのご両親が、何か?」
「それがな、お前の事をかなり気に入ってしまってなあ。是非とも、我が家の養子にお前を迎えたいとの事だ」
「えぇっ、それは本気で仰ってます!?だって僕は記憶がなくて、IDもロイドさんが強引に作ったものだし、養子に迎えるメリットなんて…」
動揺するライに、ノネットは笑って言った。
「それを知った上で、お前の人格や能力に惚れたのさ。周りから好奇の目で見られるとか関係なく、お前を迎え入れたいと言っていた。敢えてメリットを挙げるなら、コーネリア殿下の親衛隊の中でも、新進気鋭の若者が家に名を連ね、格が上がる事かな」
「ノネットさんは、いいんですか?僕が身内になるのは」
「大いに結構だ、優秀な『旦那』がいてくれるのは、鼻が高いからな、ハッハッハ」
「ん…え?ええーっ、旦那って言いましたか!?まさかそれ、婿養子ですかぁ!?」
「ん?そうだぞ、何を驚く」
ライはテーブルを叩いて立ち上がった。
「養子って言うから、貴方の義弟になるのかと思ったんです!」
「ああ、そっちか。いや、両親も結婚しろと以前からうるさくてなあ。そこへお前が来たから、色々観察したらしい。で、こいつなら私に合うからどうだ、ってなわけだ」
「いやいや、話が飛躍し過ぎです!いきなりノネットさんと結婚しろって、言われたようなものじゃないですか!ていうか、貴方も受け入れたんですか?」
「まあな。最初は面食らったが、お前となら色々楽しくやれそうだと…」
「聞き捨てなりませんな、エニアグラム卿!」
力強く扉を開け、コーネリアが乱入してきた。
「殿下!?ど、どうして…」
「おや、どうかされましたか?」
「貴方が!こいつと!結婚するなどと!文をよこしたからです!
こいつは私の部下だ、結婚相手は然るべき相手を紹介します。それを勝手に、貴方が決めないでいただきたい!」
「いやいや、私は両親の願いを聞き入れたまで。世界を飛び回ってばかりで、寂しい思いをさせた両親への親孝行ですよ。それすら殿下は、お許しにならないと?」
「あの、いずれにしても僕の意思は…」
消え入りそうなライの声はスルーされ、二人の押し問答は続くのだった。溜息をつく彼の明日はどこにあるのか、誰にもわからない。