BlueArchive ~Another Hope~ 作:笹の船
次の更新も未定ですが、進められるときに進めていきます。
「災厄の狐?」
悟飯がセナに問いかけたその時だった。
悟飯、そしてその場にいた全員が強烈な気配を感じた。
最も動きが早かったのはセナだった。
先程鎮圧した不良から回収したのだろうアサルトライフルで威嚇射撃をする。
「君は確か……」
「先生、お下がりください。彼女が災厄の狐、狐坂ワカモその人です」
セナの言葉に、一方のワカモは困ったような声を上げた。
「……ヴァルキューレの生徒ではないようですね? ああ、困りましたね……どうしてこんなにも邪魔者が多いのでしょうか……。私はただ——」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか。弧坂さん、君は確か——」
悟飯の呼びかけに、ワカモの動きが一瞬止まる。その時だった。
「隙ありィ! キリノ、今ッ!」
「はっ、はははいぃ! 災厄の狐さん、覚悟……!」
そして数回、銃声が響いた。
悟飯には見えていた。その銃弾全てがワカモにではなくあらぬ方向へとすっ飛んでいたのが。
しかし、それすら織り込み済みだったのかフブキがこちらに発破をかけてくる。
「先生、今がチャンス! 一気に——」
しかし、続く言葉が紡がれることはなかった。
何故なら一発も弾を受けていないはずのワカモがフラフラとその場に倒れ込んでしまったからである。
「……え?」
それは誰の声だったのか。災厄の狐とさえ呼ばれるはずの札付きの生徒があっけなく沈黙。
誰にとっても予想外な肩透かしなこの展開に、その場の全員が一瞬動きを止めることしか出来なかった。
だが、結局はフブキとキリノがワカモを拘束し連行することに。
悟飯としても不可解極まりなかったが、少なくとも既に破壊活動やヴァルキューレの生徒への被害も出ているという事なのでその場は二人に任せることにした。
七囚人ワカモの移送、という事でヴァルキューレも厳戒態勢に入っており、フブキとキリノはそちらの応援に行く必要があるとのことでパトロールの続きはセナとの二人で続行することに。
パトロールをつづけながら、悟飯はワカモについて考えを巡らせていた。
彼女の行動が余りにも不可解だったからだ。破壊活動などをしてまで悟飯たちの前に現れたにしては戦意がなかった。
「……先生? どうかされましたか?」
そんな様子を気取られたのか、セナが振り返った。
「……ん、いや。なんでもないよ氷室さん。さあ、パトロールの続きをしようか」
「……? はい。そろそろ死……いえ、負傷者が見つかれば——」
「はは、俺はそんな人いてほしくないけどな」
上手く笑えただろうか。相手は子供だ。そう分かっていても、地獄の十数年の記憶が彼女の安易な言葉を軽く流してくれない。
と、ちょうどその時だった。
他の学園の生徒だろうか。どうやら、何かの依頼を終わらせたところのようだ。
街の住人から感謝されたのを丁寧に、しかしビジネスライクにあしらっている姿を見かけた。
「すみません、俺はシャーレの孫悟飯です。ええっと、ハッピーバレンタイン! ……で、いいのかな?」
「シャーレ……? ああ! 最近話題のお方ですね! どうもわざわざご挨拶をどうも!」
「孫悟飯先生、だよね。噂は聞いてるよ。あ、私はミレニアムサイエンススクールの
硬すぎず、けれど馴れ馴れしすぎず。実にビジネスライクという言葉がぴったりの口調で自己紹介をしてきたチヒロに悟飯は微笑む。
「ああ、よろしく各務さん。キミは今日はどうしたんだい?」
「私? 私はヴァルキューレ警察学校からの依頼で色々システムの整備とか、セキュリティの点検とかかな」
「へぇ……大変だね、こんな日に。お疲れ様」
悟飯のねぎらいの言葉にチヒロは小さく肩をすくめながら返事をした。
「そんなんでもないよ。ヴェリタス……ウチの部活に来た正式な依頼だし、部長が今忙しいから私がしっかりしないとってだけ」
それに、とチヒロは小さく微笑みながら続ける。
「バレンタインデー、だからさ。大切な日でしょ。今日という日を安全に、大事にすごせるようにね。その為ならこの位はさ」
「なるほど。立派だね、各務さん」
「そんなんじゃないってば……それより、先生は? そっちの子は……ゲヘナの子だよね? 二人っきりで……あー、その」
言い淀むチヒロに悟飯はなんだか変な勘違いをされているような予感がした。
しかし、そこへセナが助け舟を入れてくれた。
「先生とパトロールを行っております」
一瞬安堵する悟飯。しかし、続く言葉が問題だった。
「死体確保のために」
一瞬でチヒロの表情が険しくなる。悟飯も同じく険しくなりそうな表情筋を全力で抑えながら、笑いながら否定をした。
「死体のくだりは気にしないでほしい。至って普通のパトロールさ」
「そう……? まあ、いいけどさ」
やや訝しげにこちらを見てくるチヒロに、悟飯は乾いた笑いを返すので精いっぱいだった。
だが、そんな気まずい時間も長くは続かない。
悟飯の懐に入れてあった携帯端末が着信を告げる音をけたたましく鳴らした。
これ幸いとスマホを取り出し通話に応答した悟飯だったが、今度はまた別の理由で険しい表情をすることになる。
『せ、先生!』
電話をかけてきたのはヒビキだった。その声色から、すぐに異常が発生したことが察せられる。
「
『ヴァルキューレの護送車両が爆発して、”災厄の狐”が脱走したの! それと同時になんか色んな奴らが襲ってきて——うわっ!?』
電話口の向こうで銃声が飛び交い、
「合歓垣さん!?」
『こ、こっちは何とか大丈夫! でも先生、気を付けてもしかしたらそっちに——』
ヒビキが言い終わるよりも早く、悟飯たちのすぐ傍で爆発が起こった。
悟飯にはもう見なくても気配で分かっていた。その爆炎と煙の向こうから誰が来るのか。
「合歓垣さんは自分たちの方を優先するんだ。こっちは——」
傍に控えていたセナとチヒロが銃を構え、戦闘態勢に入る。
悟飯もまた、襲撃者の方を鋭く見据える。
「俺達で何とかするよ」
煙の向こうから人影が現れる。
黒を基調とした着物を連想させるデザインの制服を身にまとった、狐耳と尻尾が特徴の女生徒。
災厄の狐、狐坂ワカモその人だった。
「ふふふ……匂いがしますねぇ……」
「先生、もしかして今日って厄日だったりしない?」
アサルトライフルを構えながら、チヒロがやや呆れ気味に問いかけてくる。
そんなチヒロを無視するように、襲撃者の生徒はまた一歩こちらに近寄ってきた。
「決して、決して逃がしません……!」
恍惚さすら孕んだような熱い声色に、悟飯は苦笑いを浮かべる。
「俺達、まだそんなに会ったこともないはずなんだけどな。なんだか随分と……目を付けられたらしい」
「ああ、そんな。先生ったら寂しいことを言わないでください。私達は出会うべくして出会ったのです。ですが……」
ワカモの声色が一気にトーンダウンする。
「……やはり、今回も邪魔者がいるようですねぇ」
「来るぞ、二人共。気を付けるんだ」
悟飯の指示に、セナとチヒロが小さく頷く。
その様子すら忌まわしそうに、ワカモは小さく肩を震わせ口を開いた。
たとえ仮面でその内側が見えずとも、気に入らないと言わんばかりの声を出す。
「邪魔者には……ご退場してもらいましょう……!」
ワカモの気配が膨れ上がる。衝突は避けられない。
「来るぞ、戦闘開始だ!」
悟飯の合図と同時にセナとチヒロが発砲する。
そして、戦闘が始まった。