主人公のハヅキくんはお年頃の男の子。
彼女の一人でも作りたい、そんな気持ちで思い人に告白をしようとしますが……。

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好きな子に告白しようと頑張ると必ず邪魔が入ってきます

 

 いい雰囲気、というものがある。

 

 片付いている、とは言えないかもしれない埃っぽい床、少し滑りそうなところはあるけれど、屋上という場所のシチュエーションは完璧だと思う。

 

 映画を見終わったような雰囲気、本当に映画を見たわけではない。ただ、綺麗な景色を見て、互いに感慨深さを抱いている空気がある。そんな、少し甘い空気。

 

 天上に広がるのは綺麗な星空。田舎であっても都会であっても、共通して変わることはない夜空の残影。ひとつひとつに小さな穴を空けたような恒星の欠片。

 

 今、ここには僕と彼女の二人きり。

 

 今日に至るまで、僕はいろいろな準備をしてきた。幼馴染の女友達に相談して、いろいろなことを試行錯誤してきた。

 

 そりゃあ失敗とかも多くあったけれど、今日という日を迎えることができたのならば、そんな失敗は後悔にさえなりはしない。経験は僕の糧になる。

 

 だから、もしここで失敗しても、大丈夫。

 

 僕は息を吐いた。

 

 二人っきりの空間。

 

 心地のいい沈黙。

 

 あとは言葉を吐いて、思いを伝えるだけ。

 

 彼女に、僕の気持ちを知ってほしい。

 

「あ、あのさ!」

 

 僕と彼女だけの空間、緊張して上ずった声が大きく響く。そんな声に彼女は一瞬びっくりしてしまったようで、背中が少し弾むのが見えた。

 

 な、なに? と戸惑う様子を見せながら、彼女は僕のほうを見つめ返す。

 

 視線が交じり合う。人の目を見ることは苦手だけれど、彼女の目には吸い込まれる要素がある。だから、視線を逸らすなんてことはなくて、静かに、僕は彼女を見つめ返して──。

 

「も、もしよかったら僕と──」

 

 言葉を──。

 

「つきあ──」

 

 告げ……、ようとした時──。

 

 

 

「──おおっとぉぉぉ!? ここでハヅキがイロハさんに告白の言葉を告げるようだぁー!? さて、声が少しだけ小さくなってきているような気がしますが、その行方はいかにぃぃぃ?!」

 

 

 

 ──唐突に実況が入り始めた。

 

 

 

 勢いのいい声音、明るめの女性の声が景色とはミスマッチに響き始める。声のほうに視線を向ければ、暗がりだからわからないけど、屋上の扉のほうにメガホンをもった女性らしき影が見える。

 

「え」と戸惑う目の前の彼女。先ほどの僕の声よりもびっくりしているようで、目を大きく見開いている。同じく混乱して戸惑いの声しかあげられない僕が重なる。そのあと、吐くべき言葉を僕は見失ってしまった。

 

「ここで沈黙につながったぁ! ここから告白の言葉を告げることは難しそうですが、ここからハヅキはどう事を運んでいくのでしょうかぁぁぁ?!」

 

「え、ええと……」と僕は言葉を吐く。彼女に伝えたかった言葉を思い出しながら、なんとか言葉を探そうとするけれど、いきなりの実況に混乱して、どうにも適切な言葉が出てこない。

 

 な、なにをするんだっけ。ええと、ああ、そうだ。告白しなきゃいけないんだ。

 

「ぼ、僕と、つ、つ、付き合って──」

 

「ここで意を決してハヅキが言葉を告げたぁ──」

 

「いやうるさいよ!! ちょっと静かにしててよ!! いいところなんだからさぁ!!」

 

 あまりのメガホンから響く声のうるささに、僕は空気も関係なく叫びをあげる。

 

 僕の声が響くと、「う」とメガホンの女の子が一瞬呆けた声をあげるけれど、そんなことは関係ない。

 

 もう、こうなったら勢いだ。

 

「ぼ、僕と付き合ってください!!」

 

「いや、無理でしょ……」

 

「……ですよね」

 

 ──そうして、僕の告白は失敗に終わる。

 

「ここでハヅキの告白が失敗に終わってしまったぁぁぁ! なぜ彼の告白は失敗に終わってしまったのだろうかぁ?!」

 

 いや、お前のせいだよ。

 

 そんな突っ込みを実況にしたかったけれど、告白が失敗に終わってしまった僕には気力が残っていない。

 

「ここまでの実況はヤマダハナコが務めましたぁ! 皆様、ご清聴ありがとうございましたぁぁぁ!」

 

 ──どうでもいいとしか思えない実況の紹介で、その日の告白は終わりを告げた。

 

 

 

 

 恋人がほしい、そんな願望を抱くのは年頃の男子として当たり前な欲求だと思う。好きな子とデートをしたり、一緒に話したり、その先は──、とか、いろいろな想像を働かせると、恋人を作りたくて仕方がなくなる。

 

 今日だって、友人からはのろけ話を聞かされた。一か月前、大失敗の告白を経て、友人は気を利かせるように、どうでもいい話を続けていてくれたけれど、ここ最近に至っては配慮を忘れたように恋人の話しかしない。

 

 そんな話を聞かされれば、僕だって恋人が、彼女がほしくなる。だから、あの失敗を経て新たなチャレンジをすることにした。

 

 

 

 

 図書室の夕陽が窓から穏やかにさしてくる。揺れるカーテンの影、くぐもっている部屋の空気。それに重なる本をめくる音。ぺらり、ぺらりと、どこまでも沈黙が重なる。でも、気まずい沈黙ではない。

 

 そんな空気の中、僕と一人の女の子が長い机を挟んで座っている。

 

「──面白いです」

 

 彼女は僕の描いた物語を見てそうつぶやく。僕はそれに安堵の息を吐きながら、ありがとう、と返す。

 

 ──僕はこの一か月、傷心の気持ちのまま図書室に通っていた。フラれた傷を癒すために、心の穴を埋めるように物語を取り込みまくった。 

 

 そんな時に出会ったのは、図書委員の女子。

 

 いつも僕が本を読んでいるときに、目の前の机に座って一緒に読書をしてくれる。

 

 特に会話はなく、静かにページをめくる音だけが響く。彼女は決まって分厚い童話の本を読んで、僕は図書室に新しく入荷した本を読んでいた。

 

 放課後はいつもそんなことの繰り返し。

 

 そんな日々を過ごしていた中で、彼女は僕に話しかけてきた。

 

「本、好きなんですか?」

 

 僕はそれにどうこたえようか迷った。本というものが好きかどうかでいえば微妙だ。ただ、家に帰りたくないという気持ちと、傷を癒したいという気持ち。不純ともいえる気持ち。

 

 でも、彼女の質問を無碍にするのもどうかと思い、僕はそれに頷いた。彼女はそれに微笑んで「私が書いた話を読んでくれませんか」と、言ってくれたのだ。

 

 それからは彼女の物語を読んだり、彼女に触発されて物語を書いてみたり。初めての試みで恥ずかしさもあったけれど、この一か月で僕は物語を書き上げることができた。

 

 そうして、今日は書いた物語を彼女に見てもらっていた。

 

 幼馴染は、僕の書いた物語を面白いと言ってくれた。だから、大丈夫。

 

 ──もし、彼女が僕の物語を『面白い』と言ってくれたら、告白するって決めていた。

 

 彼女は僕の傷を癒してくれた。彼女の物語で、僕の空白を埋めてくれたのだ。

 

 僕は今日、彼女に告白する。

 

「あのさ」と図書室に響かないほどの音量で彼女に話す。

 

 彼女と視線が交わり、心地のいい時間。

 

 一か月前の失敗があるからこそ、声は震えない。

 

 やはり、失敗は糧になる。

 

「君が好きだ」

 

 僕はすらすらと言葉を──。

 

「付き合って──」

 

 吐くことができた──。

 

「ほし──」

 

 ──はずなのに。

 

 

 

「──ここで忍者がドロンと登場! おっと! ここは図書室のようでござるなぁ!」

 

 

 

 ──いきなり黒子のような服装をした忍者というか、くのいちが目の前に現れた。

 

 

 

 目の前も目の前、いきなり僕の書いたものを読んでいた彼女と、僕の間。つまり長机に、このくのいちは立っている。

 

 え?! どこから?!

 

 そんな僕の突っ込みは唖然としたせいで声に出せなかった。

 

「え……」と戸惑う図書委員の彼女、それに重なる僕の混乱の声とも言えない音。

 

 沈黙、吐き出される言葉は唐突なくのいちの登場によりかき消される。先ほどとは違って気まずいとしかいいようがない空気。

 

「おっと、いい雰囲気のようだったでござるな! それならば邪魔するのも悪いで候! 某《ソレガシ》はこれにて退散! ドロン!」

 

 目の前のくのいちはそういうと、ドロンと……、普通に机から降りて図書室の扉のほうへと歩いて行って消えていった。

 

「……」

 

「……」

 

 どうしようもない気まずさ。言葉を話すこともはばかられるような、そんな真空のような空気。

 

 そんな中で──。

 

「──ごめんなさい」

 

 ──僕が告白に失敗した回数を増やすセリフが、彼女から吐かれた。

 

 

 

 

 それからも──。

 

 

 

 

 アミューズメントパークのバスケットコートにて。

 

「このスリーポイントシュートが入ったら、付き合ってくれ!」

 

 女子バスケ部の彼女にそう宣言し頷く彼女。

 

 僕はずっと練習していた時のようにフォームを整えて、ゴールのほうへとシュートを放ったが──。

 

 

 

「──そこだぁぁぁ!!」

 

 

 

 勢いのいい女子の声、その声とともにいきなり目の前に現れたユニフォームを着た深くマスクを被った女の子。そんな子がしっかりとジャンプで僕の放ったボールをとらえる。

 

 バシィン! とボールが叩かれる音。

 

 それじゃ! とユニフォームを着た女子はコートから退散。

 

「ええと、ごめんね!」と喧騒の中で届く、確かなバスケ部彼女の言葉。

 

 

 

 

 サンセットというべき夕焼けの中にある海の風景。

 

 いい雰囲気、としかいいようがない空気。デート後に来る場所として、告白する場所として最適すぎる場所。

 

「今日は一緒に遊んでくれてありがとう」

 

 砂浜を好きな女の子と一緒に歩きながら、僕は彼女に言葉を紡ぐ。彼女はそっと頷いて、楽しかったよ、と返してくれた。

 

 今日こそは。

 

 今日こそは、今日こそは、今日こそは!

 

 なぜか毎回邪魔が入るけれど、この砂浜には確実に僕たち二人しかいない。忍者が降ってくるような天井もないし、いきなりスポーツ選手が入ってくるようなこともない。

 

 ……大丈夫、不安要素はない。

 

「あのさ!」から、いつも通り僕は言葉を続ける。

 

「君が好きだ! 僕と付き合──」

 

 そうして言葉を吐こうとした。

 

 吐こうとした、けれど──。

 

 

 

「──ぶわぁぁぁ! 大漁大漁! やっぱ海はいいでござ──、いや、海はいいですわねぇ!」

 

 

 

 いきなり、海のほうから出てくる変な語尾をしたシュノーケルを付けたダイバー……、というか銛を持った海女が現れた。

 

「なんで!?」

 

 しまった! 流石に海の中から邪魔されるだなんて考えていなかった!

 

「お、カップルさんかい?! さっきあそこでとれたチンアナゴとナマコ、君たちにあげるよ! それでは某《ソレガシ》──、じゃなくてアタイは帰ろうかしらね!」

 

 そうして海女さんは僕たちに対して無遠慮にナマコとチンアナゴを放り投げる。それを避けるようにしたけれど、狙いが完璧だったのか、一緒にいる彼女の手に当たる。

 

 うわぁ! と悲鳴があがる。阿鼻叫喚としかいいようがない図。告白とかそういう場合じゃなくなって、結局そのあとも僕はフラれてしまった。

 

 

 

 

 それから、何度も何度も告白を繰り返した。

 

 ある時はお祭り後の花火大会の人混みで。

 

 ある時はさつまいもを焼いている最中に。

 

 ある時は告白すれば結ばれると言われているクリスマスツリーの下で。

 

 そして、その度に必ず邪魔が入った。

 

 その度に僕の告白は失敗し、彼女を作ることができなかった。

 

「どうして! なんでなんだ!」

 

 自室の中、僕はイライラしながら独り言を吐く。

 

 いい雰囲気になって、絶対に成功するという場面で、必ず邪魔が入るのだ。どうして、という気持ちが拭えるわけもない。

 

 

 

「──ういーす、元気してるー?」

 

 

 

 そんなときに入ってくる、間延びした女の子の声。聞き馴染みのある声。女友達である幼馴染の声。

 

「……元気なんて出せないよ。いつも相談に乗ってもらってるのに、成功した試しがないんだ……」

 

「え、あ、あー。そ、ソダネー」

 

 彼女は気まずそうに言葉を吐く。そりゃ気まずいよな、って思わずにはいられない。

 

「本当にいつもごめんよ……」

 

「べ、ベツニダイジョブダヨー? ゼンゼンソレガシ、キニシテナイシ?」

 

「……ありがとう」

 

 僕は彼女にそう言葉を吐いた。

 

 彼女は気まずそうに視線を逸らす。僕はそんな姿に微笑ましくて、にこやかに彼女のことを見つめ──。

 

「──ん?」

 

 

 

 ──今、こいつ、なんていった?

 

 

 

『ゼンゼンソレガシ、キニシテナイシ?』

 

 ……ソレガシ、ってここ最近も聞いたような気がする。

 

 ある時は図書室、ある時は砂浜、そしてこの前のクリスマスツリーの下で……。

 

『ほーほーほー! メリークリ〇〇ス! ア、マチガエター! メリークリスマス! 某が君たちに──、じゃなくて、わたくしサンタクロースが君たちにプレゼントをあげようではないか! プレゼントは大人になってから使うんだぞー! ほーほーほー!』

 

 あの空気をぶち壊す下ネタと、ろくでもないプレゼントのせいで告白はまた失敗に終わったのだ。

 

 

 

「……おい」

 

 僕は声音を低くして幼馴染に声をかける。

 

 ひゃい、と弱気になった声が返ってくるが、気にすることはなく僕は言葉を続ける。

 

「もしかしてお前なのか?!」

 

「へ、へい?」

 

「毎回! 僕の! 告白を! 邪魔したのは! お前なのかって聞いてるんだよ!!」

 

 ──どうして、僕は気づかなかったのだろう。

 

 告白するときには必ず邪魔が入った。必ずだ。偶然ではない、必然のような邪魔が。

 

 屋上で告白した時も、図書室で告白した時も、バスケットコートで告白した時も、そのすべての告白のシチュエーションは女友達である幼馴染と計画をして、そうして決行していた。

 

 それ以外には誰にも話していない。男友達にも内緒にして、綿密に計画を練っていたのだ。

 

 それを邪魔できるのは、──目の前にいる幼馴染しかいないのだ。

 

 

 

 

「すいませんでした」

 

 幼馴染は僕に対して土下座をしながら言葉を告げた。

 

「……なんでこんなことをしたのさ」

 

 僕が彼女にそう聞くと、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らす。

 

「だ、だってぇ」

 

「だって?」

 

「──は、ハヅキが好きなんだもん」

 

「ハヅキが好きなんだも──、ってえぇ?!」

 

 素っ頓狂な声をあげてしまう。彼女の言葉をそのまま反復して、頭の中できちんと把握する。

 

「そ、それなのに毎回毎回私以外で彼女作ろうとするし! しかもそれを私に相談してくるし! めっちゃ嫉妬したの! だから邪魔しました! あと、邪魔してるのに今日まで私のことに気づかないのも正直イラっとしてました!」

 

「だ、だからって……」

 

 僕は戸惑いを隠すことができない。

 

「それなら告白とかしてくれればいいのに──」

 

「女の子は告白したいんじゃなくて、告白されたいものなの!! そこで勝負が決定するの!!」

 

 勢いで僕の言葉はまくられる。彼女はどうしようもないくらいに頬を赤く染めて、こちらを睨んでいる。

 

「え、ええと、その……、すいませんでした……」

 

 そんな視線に耐えることもできるはずはなく、僕は彼女に謝罪を申し上げることしかできなかった。

 

 

 

 

「それで?」

 

「それで、とは?」

 

「いや、私、今告白したと思うんですけど」

 

「……ああ、それ、か」

 

 僕は彼女の言葉を耳に浸しながら、しっかりと彼女の目を見て、こたえる。

 

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 そんなこんなで僕は、念願である恋人を作ることができましたとさ。

 

 

 

END


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