太陽と正十字 ~日本国召喚異聞~   作:ありさかいずも

80 / 80
共同演習

九月

 

五国連盟の各国に、共同演習への参加を求める文書が届いていた。

差出人はイルメリアとあった。

 

■ムー国首都 オタハイト 王城

 

八百五十万の人口を誇る大都市、ムーの首都オタハイト。

レンガ造りの建物と近代建築が入り混じった街並みを二階建てのバスが行き交い、人々の活気にあふれていた。

 

その中心に、かつてムーの政治と外交の舞台だった白い石造りの王城があった。

 

ムー国王ラ・ムーは、白亜の王城の一室で、化粧箱に収められた品を見つめていた。

 

銀白色のチタン合金で作られた、精巧な小型拳銃である。

しばらく前に日本とイルメリアに送り出した調査団が持ち帰った贈答品だった。

 

聞けば、チタンは加工が難しく、列強の技術をもってしても拳銃の製造は困難とのことであった。

まして精巧で実用に足るものとなれば、なおさらである。

 

調査団が帰国したとき、家臣の多くがこれを見て失笑した。

他国の王に、わざわざ拳銃を贈るなどとは。

 

だが、少数の者はそこに込められた意図に気付いていた。

——筒先を向ける相手を間違わぬように、と。

 

ラ・ムーは侍従長バスティアを呼び、静かに尋ねた。

 

「バスティアよ。近く五国連盟が共同演習を行うと聞く。我が国からも武官を送れぬものか?」

 

つい最近国交が結ばれたムーにも、共同演習への参加の呼びかけは届いていた。

王は国政に直接携わる立場にはなかったが、国の未来を案じずにはいられなかった。

 

 

■東京都江東区越中島 

 

保安隊庁舎

 

保安隊陸上部総監の立見栄一は、手にしていた書類を机に置いた。

 

【挿絵表示】

 

「共同演習、ですか」

海上部総監の大澤治三郎は、第三文明圏を描いた地図を見つめながら答えた。

 

「海上交通保護、臨検、避難民の誘導、上陸部隊との連携。どれも必要な訓練ではあります」

 

「問題は演習海域ですな」

 

大澤は、指先で地図を軽く叩いた。

 

「ル・ブリアスの沖です。パーパルヂヤが意識しないはずはないでしょう」

 

立見は、しばらく地図を見下ろした。

ル・ブリアスはパーパルディア皇国の占領下にあった都市でもあった。

その沖に、日本、イルメリア、クワ・トイネ、クイラの艦隊が集まる。

意味を持たないはずがなかった。

 

「牽制に見えるでしょうな」

 

「少なくとも、向こうはそう受け取るかもしれん」

 

「艦隊が出てくる可能性は?」

 

「ないとは言えん」

 

大澤は短く言った。

 

「だが、演習と称しているものを、こちらから戦争とは呼べん」

 

「では、演習として扱うしかありませんな」

 

「そういうことだ」

 

 ル・ブリアス沖への集結には明らかに政治的な意味がある。

 パーパルディアへの牽制にもなるだろう。

 

 二人に分かっていたのは、そこまでだった。

 

 

同じころ、首相官邸では武田首相が、白川次官から差し出された紙に目を通していた。

 

「武田さん、少し面白い話が入りました」

 

「今度は何だ?」

 

「例の花火です。日本製を指定したのは、専制公の一言だったそうです」

 

「一言?」

 

「『打ち上げ花火といえば、日本製ですわね』と」

 

武田は、眼鏡の奥で目を細めた。

 

「それで六万発か?」

 

「ええ。しかも一尺玉です」

 

「代金の出どころは?」

 

「言い出した方の自腹だそうです」

 

武田はしばらく黙った。

 

「白川君」

 

「はい」

 

「イルメリアでは、冗談に税金を使わんのか」

 

「その代わり、冗談を言うにも財産が要るようです」

 

白川は涼しい顔でそう言った。

 

武田は苦笑しかけたが、白川が次に置いた書類を見て表情を消した。

 

「それと、こちらが本題です」

 

「まだあるのか」

 

「五国連盟各国への共同演習参加要請です」

 

「場所は」

 

「アルタラス王国、王都ル・ブリアス沖」

 

武田は、紙面から顔を上げた。

 

「エストシラントからは」

 

「千キロ弱です。近いとは言えません。ですが、無視できるほど遠くもありません」

 

「パーパルヂヤが反応すると思うか?」

 

「可能性はあります」

 

「挑発か」

 

「紙の上では演習です」

 

白川は、指先で書類の一行を示した。

 

「海上護衛、臨検、救難、上陸部隊との連携。どれも必要な項目です」

 

「必要だから問題ない、というわけでもないな」

 

「はい。場所が場所です」

 

武田はもう一度書類を見た。

 

「イルメリアの意図をどう思う?」

 

「分かりません」

 

白川は、少しだけ間を置いた。

 

「ただ、無意味にこの場所を選ぶ国ではないでしょう」

 

「信用できるのか」

 

「文面は信用できます」

 

「文面は、か」

 

「ええ。書かれていない部分までは分かりません」

 

武田は書類を机に置いた。

 

「では、こちらも演習として扱う」

 

「はい」

 

「ただし、目は離すな」

 

「承知しました」

 

 

■ル・ブリアス沖

 

九月十五日

アルタラスの王都ル・ブリアス沖に、各国の艦艇が集結していた。

 

港には多くの市民が集まっていた。

彼らは船の名前も、各国の事情も知らなかった。

それでも、複数の国が参加していることはよく分かった。

 

日本は第三海上隊を派遣した。

大型海防艦『長鯨』、海防艦『柿』、『樺』、『蔦』、『萩』、運送艦『宗谷』と『筑紫丸』、正規空母『大鷲』である。

 

大鷲はイルメリアから日本へ譲渡された大型艦で、ムーの観戦武官、マイラスとラッサンも、これに同乗していた。

 

もっとも、必要な乗員数が多く、イルメリア側が扱いに困った艦を日本へ押し付けた、という見方もできたが。

 

マイラスは大鷲の艦橋から日本の艦隊を眺めた。

 

巡洋艦、海防艦、運送艦、空母。

日本は共同演習に必要な艦を、過不足なく出しているように見えた。

 

クワ・トイネ公国からは哨戒艦『マイハーク』と『エジェイ』、クイラ王国からは『バルラート』が参加していた。

 

【挿絵表示】

 

いずれも元は日本の海防艦である。

ムーの基準からすれば小型艦だが、自国の名で演習に加わることに意味があった。

 

イルメリア艦隊は、巡察艦『ミュロフォロス』を旗艦に、巡察艦二隻、海防輸送艦一隻、通報艦四隻、無人哨戒艦六隻、大型輸送艦二隻、高速補給艦一隻から成っていた。

 

ラッサンはその編成を、よく整えられた演習艦隊だと思った。

同時に、実際の行動に移っても形を崩さない編成でもあった。

 

【挿絵表示】

 

パーパルディア皇国が踏みにじった王都の沖に、今度は別の国々の艦隊がある。

それは、この海の主がパーパルディアではないことを示していた。

 

マイラスは、そこにイルメリアの意図を感じた。

 

 

一方、パーパルディア皇国にも報告は届いていた。

 

五国連盟艦隊、ル・ブリアス沖に集結——。

 

皇国軍海将のアルデは地図を開いていた。

皇都エストシラントから千キロ弱。

皇国の近傍ではないが、無視できるほどの距離ではなかった。

まして、そこは皇国が支配し、つい先日失った領土、アルタラスである。

 

「演習?ル・ブリアス沖で?」

 

作戦参謀マータルが驚いたように言った。

 

「ならば、こちらにも見物する権利がありますな」

 

別の男が笑った。

 

まだ命令はなかったが、パーパルディアはすでに動き始めようとしていた。




・巡察艦:小型巡洋艦。独行での長期哨戒、威力偵察が主任務です。

・通報艦:外洋哨戒と船団護衛が主任務の航洋コルベットです。

・海防輸送艦:比較的小型の強襲揚陸艦です。

・大型海防艦:巡洋艦、潜水母艦を改修した五千トン以上の艦艇です。

・哨戒艦マイハーク、エジェイ、バルラート:終戦時に残存していた第一号型、第二号型海防艦を改修したものです。
クワ・トイネ艦はライトグリーン、クイラ艦はサンドベージュに塗装されています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

環太平洋機構召喚 【リメイク前:自由連合召喚】(作者:暁司令官)(原作:日本国召喚)

中央歴1639年▼世界に無数の強(・)者(・)が降り立った。▼【八八艦隊】を我が物とする『日本帝国』▼日本帝国と同じく【ダニエルズ・プラン】を完遂させた『アメリカ』▼【G3型巡洋戦艦】【N3型戦艦】を建造した『イギリス』▼そして南北統一を果たした並行世界の『日本』と同じ世界から来た『オーストラリア』▼彼らが手を取り合い、向かう先に…


総合評価:238/評価:7.8/連載:20話/更新日時:2026年06月07日(日) 16:32 小説情報

日本国召喚 ~天照の咆哮~(作者:イーグル)(原作:日本国召喚)

2017年、日本は異世界に転移した。だが転移したのは史実とは、大きく異なる歴史をたどった日本だった・・・。▼転移して来たのは、物語開始から約100年前に日本近海に出現した未知の超巨大戦艦とその戦艦から得た技術によって大きく発展した日本だったのである。▼原作より、はるかに強力な力を手に入れた日本が異世界に殴り込みをかける。▼*2023年2月9日 題名を変更しま…


総合評価:3204/評価:8.62/連載:55話/更新日時:2026年05月02日(土) 08:00 小説情報

稲荷様は平穏に暮らしたかった。(作者:サード・アイ)(原作:日本国召喚)

▼異世界に召喚された日本国、しかし現代日本とは違い日本には500年近く日本を照らす稲荷神がいた。日本国民は異世界での今後の自分たちの生活に不安を募らすが稲荷神は持ち前の先を見通す力で日本国の行く末を照らしていく…▼と思っている日本国民と平穏に暮らしたいと思っていたが、異世界召喚で表舞台に出る羽目になった狐っ娘がヒーヒー言いながら頑張るお話▼この作品は小説家に…


総合評価:4773/評価:8.61/連載:102話/更新日時:2026年06月10日(水) 08:00 小説情報

【目指せ】Stellarisで生き抜くスレ【大日本宇宙帝国】(作者:ヒャル)(原作:Stellaris)

Stellaris世界に転生させられた転生者たち。▼他の星間帝国やいずれ来る危機に立ち向かうべく、彼らは遥かな宇宙へと雄飛する――▼その過程で戦争したり弱者をヒャッハーしたりするだろうけど仕方ないよね、パラドゲーだもの(▼参考にする為に実際にStellarisをプレイしながら執筆しています。


総合評価:3822/評価:8.34/連載:136話/更新日時:2026年06月12日(金) 20:00 小説情報

旧型サラミスで生きる1年戦争(作者:カズkaz)(原作:機動戦士ガンダム)

ありきたりな転生ものです。機動戦士ガンダムをそこそこに知っている主人公が旧型のサラミスに乗り込み、なんとか1年戦争を生き抜こうと奮闘する物語。▼思い付きで投稿していますので続かないかもしれません。▼箸休めにご覧ください


総合評価:2986/評価:8.3/短編:19話/更新日時:2026年05月31日(日) 22:19 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>