第20回東方Project人気投票支援作品です。
どうかパルスィとぬえの順位が上がりますように、という願いを込めて。
ぬえパルという概念を知ってくれる方が増えるようにという願いを込めて。
pixivにも投稿いたしました、見かけたらよろしくお願いします。


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嫉妬心は正体不明を視る、正体不明と共に

水橋パルスィ、そう呼ばれている何の変哲もないような至って“普通”の妖怪。

橋姫という種族の怪ではあるが、何も四六時中いつでも橋に引っ付いているという訳ではない。

単なる好奇心、高鳴る嫉妬心。

そんな訳で登って来たのは人の里、道行く人には自身の正体なんざバレやしない。

例の如く暇に押し潰された彼女は、特に行く宛てもなく地上を歩く。

 

わざとらしく衣をはだけさせた女に対し、己の欲求に従い声を掛ける男。

 

見るからに仲睦まじげな夫婦、それを睨み付ける何やら不穏な空気を漂わせる老人。

 

気分転換のつもりで来たのだが、目に入るモノは地底とそう変わらない。

風景の華やかさは地上が勝っているかもしれないが、根本的に汚れている。

その上で情欲に溺れる人間達、なんと哀れで妬ましい事だろうか。

 

「だから言ったのにねぇ、そんなに楽しいモンじゃないって」

 

と、部外者目線で物を言う少女がもう一人。

猿の顔に狸の胴を持ち、虎の手足を持ちながら蛇の尾を持つ怪物。

それ即ち、語り継がれる怪物である大妖怪の鵺。

……とはまた別人、封獣ぬえである。

彼方は正体不明、此方も正体不明と考えれば同一視した所で然程問題ではない気がするが。

 

「あら、楽しくないだなんて一言も言ってないわよ」

 

何処へ行くか、何をするかと迷っていた所に便乗して来たのが二人が共にいる理由。

当然ながら着いて来る事に了承などしていないし、そもそも勝手に着いて来ているだけである。

それなのに引っ剥がされる事がないのは、二人の間に決して短いとは言えない程度の付き合いがあるから。

そしてただただ、追い払うのが面倒臭いから。

 

「趣味、悪いねぇ」

 

「趣味じゃないわ、そういう“在り方”なのよ」

 

息をするかのように嫌味を吐き、呼吸をするかのように嫌味を返す。

ある意味で噛み合いを見せながら、仲良く少女散歩中。

傍から見れば微笑ましい光景かもしれない、二人の正体さえ知らなければ。

とはいえ何かをしでかそうと企んでいる訳でもない、ちょっかいさえ掛けなければ見た目通りの可愛らしい少女でしかない。

触らぬ神に祟り無し、その通りである。

 

「で、自称大妖怪様が私みたいな下賤な妖怪に何の御用で?」

 

「これまた随分と皮肉が籠った言い方を……」

 

皮肉の籠った言い方しか出来ない、口先から出るのはまず初めに嫌味。

残念ながらコレは彼女の存在としての性質に関わる行動なので、何度言ったところで治るようなものではないのだが……

それはそれとして、一言は言っておきたい封獣ぬえ。

此方も嫌味は籠っているが、それと同時に彼女に対する心配なども混じっている。

 

「そんなに畏まらなくても良いじゃんか、私とパルスィの仲なんだし?」

 

「生憎様、私が貴方と仲が良かった事なんてないと思うのだけれど」

 

「うっわ、前会った時よりひねくれた?」

 

が、それを素直に受け入れる筈がない。

水橋パルスィはツンデレである、そして基本デレない。

詰まる所ただのツンである、冷たい言い方しか出来ない。

その心の内には他者を想う心があるのだが、それを知る者が果たしてどれだけいるだろうか。

少なくとも、目の前の彼女はソレを知らない。

 

「お兄さ〜ん、お団子二人前よろしく〜」

 

「あいよ〜」

 

流れるように座った団子屋の縁台、間を置く事もせずに即座に注文を言う。

それを見て嫌な予感を感じ取った金髪エルフ、諦めたような声色で問い掛ける。

 

「……確信を持った上で聞いておくけど……」

 

「ぁ、パルスィの奢りね?」

 

「だと思ったわ……」

 

この少女が他人に何かを奢る筈がない。

あるとしても、その対象は絶対に彼女ではない。

そんな訳で二人分の支払いが確定してしまったパルスィ、払えないなんて事はないが不機嫌にはなる。

感情に呼応するかのように、癖である爪噛みが始まりかけたのを見て少女は語る。

 

「まぁ、冗談はこれくらいにしておいて……」

 

懐に手を入れ、可愛らしく首を傾げながら。

 

「これ、なんだか分かる?」

 

取り出したのは、黒く黒く、黒い物体。

パッと見ただけでも明らかに“負”のオーラを漂わせているそれには、平面的な瞳が存在している。

瞳の模様ではない、そこに瞳が存在している。

 

「……(アレ)の所有物って事は分かるわ」

 

「だよね、そう思うよね」

 

そんな不思議な物体を作り出す者、心当たりは一人しかいなかった。

二人して同じ答えに辿り着き、二人して相槌を打つ。

じゃあコレは一体なんぞ、とそれに答えられるだけの知識は二人共持ち合わせていないのだが。

 

「何処で拾ったのよ、そんな怪しい物……」

 

少なくとも彼女本人から渡された、という事はないだろうという意図での質問。

だとしたら先程投げ掛けられた質問の意味が無くなるからである、当然の疑問だ。

おおかた、例のスキマ妖怪が何らかのドジをした所でタイミング悪くこの鵺が拾ったのだろうと……

が、返ってきた言葉は予想から大きく外れたもの。

 

「ん?パルスィのポケットから掠め取ったんだけど?」

 

「えっ、普通に心当たりないんだけど、怖っ」

 

一度もそんな物を見た事も聞いた事も、所持した事もないのだから当然驚く。

そのせいか、サラッと自身が盗難の被害に遭ったという事が頭から抜け落ちる。

それは別に良い、彼女からしてみれば自分の知らない何かが盗まれようが痛くも痒くもない。

 

この場で重要なのは、何故自分がそんな物を持っていたのか。

いつの間に、自分はそれを持っていたのか。

上記二つを踏まえた上で、何故私は気付かなかったのか。

考えれば考えるほど怖くなっていくその問題に対して、導き出された解答は……

 

「……いやまぁ、(アレ)なら出来るか」

 

「まぁ、(アレ)なら出来るだろうね」

 

残念ながら(アレ)の出来ない事を考えるという方が野暮であった。

考えた所で無駄である、出来るから出来るという結論しか生まれない。

そう解決した所で、少女が状況を説明する。

 

「アンタが目に入った時にさ、急に脈絡もなくポケットが膨らんだような気がしてね〜」

 

何の前触れもなく、唐突に。

怪現象にしか思えないようなその挙動を見て、悪戯好きの大妖怪が放っておく筈がない。

好奇心に身を任せ、首を突っ込んでみればやはり本人も気付いていなかったようで。

 

「なんだか面白そうな予感がしたし、悪戯も兼ねて声を掛けた時に盗んでみれば手に持っていたのは不可思議な物体であった……」

 

その予感は見事的中し、彼女の目線から見れば実に愉快な事が起きているではないか。

しかしながら、当の本人からしてみれば実に不愉快極まりないというか。

己が厄介方に巻き込まれているという自覚がある以上、あまり愉快に思えないというか。

 

「……痛い目見ないと分からないらしいわね、本当」

 

その怒りは、妬みは、全て拳に流れ込んだ。

言うならば八つ当たりである、少なくとも彼女を苛立たせる原因となった少女に対して容赦なく振り下ろされるその拳。

鬼でも何でもない彼女の物理攻撃などたかが知れているが、無警戒なその頭上に対し振り下ろされた拳は流石にそこそこの威力を発揮する。

 

「っ……迷いなくゲンコツって!!躊躇とか!?」

 

「盗人に掛ける情けなんて無いわよ」

 

「あぁ、非情!!」

 

自身の非を理解しているからこそ、寧ろ自分から非を作るような行動を望んでしていたからこそ。

文句はあまり述べずに受け入れたその拳、想像以上にクリティカルだったらしく。

僅かに腫れてしまったであろう頭を抑えながら、涙を堪えてそう騒ぐ……

当然ながら嘘泣きである、それに騙されるような橋姫ではない。

 

「まぁ、私の所有物って訳でもないし持っていても困る代物なんだけど……」

 

じゃあなんで殴った、とジト目で見た目返してくる大妖怪に対し気まずそうに目を逸らす橋姫。

数秒の静寂の末に、少女が溜息を溢して彼女の肩を突き向き直らせる。

 

「……それはそれとして、一応返しておくね」

 

悪戯をするにはもう十分、これ以上の使い方は自分にもよく分からない。

そんな物体を所持し続けるのも面白くはないし、彼女自身が必要としているかはともかく彼女の手に渡った物ではある。

何らかの意味があるのかも、とソレを差し出す。

 

「不思議な感覚ね、妖力の塊とも感情の塊とも概念の塊とも感じるような……」

 

受け取った彼女は様々な角度からソレを観察し、様々な触り方でソレに触れ。

何とも言えないその感触に顔を顰めながら、何となくの感情でソレを調べる。

その様子を見た少女は何やら嫌な予感を感じ取った、勘というヤツである。

 

「気を付けなよ、あの困ったちゃんの事だから変な細工をしてる可能性の方が高いし」

 

八雲紫という少女……少女で良いのだろうか?

彼女自体、物語のキーパーソンというか重要人物というかデウスエクスマキナというか。

関わると大抵碌な事がない、裏で暗躍しているような怪しい人物なのである。

故に、恐らく彼女の所有物かつ彼女の手によって仕込まれたソレが普通の代物の筈がなく。

 

「ソレを持ってる事でトラブルに巻き込まれて、気付いたら黒幕扱い!なんて可能性も……」

 

心配半分、面白味半分で語ったその言葉……

 

「注文の団子二人前……と、お連れの方は?」

 

「……忠告は既に遅く、彼女は姿を消したのだった……」

 

それが彼女に届く事はなく、縁台に残されたのは少女一人のみであった。

 

様々な予感が渦巻き、感情が昂る中で少女は思う。

一体彼女は何処へ行ったのか、何故私は巻き込まれなかったのか。

否、否、もっと単純な事である。

 

この団子のお勘定は、一体誰が払うのだろうか?

 

「……ごめんねお兄さん!!また今度お金払いに来るからさ!!」

 

そう気付いた瞬間には駆け出す少女、天狗程ではないが実に速い。

ただの人間がソレを追い掛ける事なんて出来る筈もなく、店員は唖然とした後にようやく何が起こっているかに気付く。

 

「ちょっ!!待ってくれよ、嬢ちゃ……」

 

が、既に一歩遅かったようで。

 

「……俺は“誰の”注文を届けに来たんだっけか?」

 

正体不明は、存在の痕跡を残さない。

 

 

◇◇◇

 

 

「神隠し、という言葉は当然ながらご存知かと」

 

スキマの中というのは実に奇怪なモノで、他者から見れば理解が及ばない、

故にその中に引き摺り込まれようと、本人は気付かないなどと言った事もザラにある。

それは幻想郷の民も、外の世界の民も同様である。

 

「人の子が突如として行方不明になる、私達にも関係のある言い伝えですわ……」

 

それが所謂神隠し、言い伝えの本質であろう。

とは言えど、他の要因や他の存在による“神隠し”と存在するため一概にそうとは言い切れないが。

 

「さて、本題に入りましょうか」

 

微笑む彼女の目の前には、身体の自由を奪われた金髪の妖怪。

当然ながら意識はない、ここまでで一言たりとも口を開いていないのがその証拠。

余談ではあるが、橋姫という存在は橋の守り神として神に数えられる事もあるらしい。

下賤な妖怪などと言ってはいるが、彼女の存在としての“高さ”は上澄みなのだ。

 

「怪が怪を、妖が神を隠す事は……」

 

そんな存在が、何の予兆もなく姿を消したらどんな影響が起こるだろうか?

 

「“神”隠し、なんて呼んだら洒落ていると思いませんこと?」

 

その日、地底と地上を繋ぐ橋が倒壊したと言う。


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