妹転生?!ファンとしてお兄様を幸せにします!分割版   作:tom200

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これにて完結となります。



四葉継承編 達也ver.㊱

 

 

「いくらガワだけ取り繕ったって、中身が好きだって言ってんのよ」

 

 

 

その剣は、鮮やかな軌跡を描き仮面を真っ二つに斬り落とす。

 

「いくら言葉で武装していても、深雪さんは優しい人です」

「見た目とのギャップに時々びっくりすることがあるけどそこも良い」

「四葉が恐ろしいのは変わりない。でも、深雪も達也くんも私たちにとってはかけがえのない友人なのよ。勝手に奪おうとしないでよね」

 

追撃は彼女の心の武装まで剥がしていった。

エリカの手が深雪に届き、頭をくしゃりと撫でると大粒の涙がぽろん、と頬を伝うことなく零れ落ちた。

溜め込んだ量が多かったのだろう。

その後、静かに流れる涙が頬を伝っていく。

 

「まったく、泣き顔まで完璧ってどういうことよ。この、絶世の美少女!」

「全然悪口になってねーぞ」

「しょうがないでしょ、悪いところが完璧すぎることなんだから」

 

ニカッと笑うエリカが新年の挨拶をし、レオが妙なところに引っかかってツッコんではエリカに怒られ、美月が真正面で言葉を受け取り慌てるのを幹比古がフォローを入れて、落ち込んだほのかを雫が支えて――もう、いつもの調子の仲間たちの姿がそこにあった。

 

「――き」

 

いつもの気の抜けた会話を目の前で繰り広げるのを、眩しそうに見つめる深雪がうっすらと口を開いたかと思うと押しとどめていた感情が漏れ出た。

言うつもりはなかったのだろう、それは本当に小さな一言で誰もが聞き取れなかったようだが、聞き逃すことは無い。

 

(終幕したというのならもういいな)

 

深雪の肩を抱き、涙を拭ってやりながら深雪に魔法を掛けてやる。

 

「大丈夫、言ってごらん」

 

その言葉は彼女に息を吹き込み、滑らかに動かす。

涙を流したばかりの瞳は再び潤いを湛え、睫毛が動くたびに小さな雫を飛ばして煌めく。

上気した頬は白い肌によく映え、小さな唇は弧を描いて。

 

「みんな、だいすき」

 

全世界を魅了する笑みと素直な気持ちを乗せた透明な声で告白をした。

 

「「「「「「知ってる」」」」」」

 

観衆が惚けてしまっている中、彼らが至近距離で見惚れていたのは一瞬、気合をもって立ち直ると堂々と言葉を返した。

 

「よかったな」

 

深雪の喜びが伝わってきて、自身の頬が緩んでいるのが分かる。

これまで張っていた気が緩んだのか、身体の力が抜けて寄り添うように身を預ける深雪と視線を絡ませていると、エリカがつかつかと深雪の下へ近寄って小声で耳打ちした。

 

「次からはちゃんと事前に舞台に招待しなさいよね」

 

深雪の計画は思った以上に彼女にばれていたようだ。

そのことに深雪は悪だくみをしていると言わんばかりの表情で返すが、エリカも受けて立つ、と似た笑みで返す。

 

「一年の時にお兄ちゃん、なんて演出入れるくらいだものね」

「効果的だったでしょう?」

「本当、あくどいことを思いつく女王様ね。でも、善を振りかざす統治者より私は好きよ」

「私も、演出だって分かっていてもこうして舞台に上がってきてくれるエリカが好き」

「あら。ならあたしたち、両思いね」

 

心が通じ合った会話が微笑ましく思えたのだが、最後の言葉は聞き捨てならなかった。

顔が触れそうなほど近かった二人の距離を引き剥がす。

 

「ちょっと、達也くん。無粋が過ぎるんじゃない?」

 

無粋だろうが空気を読まないだろうがなんと言われて構わないが、この場を譲るわけにはいかない。

 

「エリカは俺のライバル、ということで良いんだな?」

「「はい⁇」」

 

エリカだけでなく、深雪も疑問の声を上げるが、これは宣言しておかねばなるまい。

 

 

「俺は今絶賛婚約者を口説き中なんだ。皆の知っているとおり(・・・・・・・・・・)俺は深雪に片思い中でな。深雪の許可を得てアタック中なんだ」

 

 

まだ、ただの形だけの婚約者であることを告げると全員絶句したのち騒ぎだした。

一番に動いたのは予想外だがほのかだった。

深雪を奪い取られる。

取られる前に行動を起こせなくはなかったが、今は流れに身を任せることにした。

 

「それで、どういうこと?達也さん」

 

雫から睨まれるが、そのままだ。

 

「俺は年末、深雪に恋をしている自覚を持ったが、さっき皆が心配していたように深雪にとって俺はただの兄貴でしかなかった。だから恋をしてもらえるよう誠意努力中なんだよ」

 

だから、どうか邪魔をしてくれるな。

丁度ここにはほとんどの生徒が揃っている。これは学校全体に向けた宣戦布告でもあり、牽制だった。

 

「そりゃあ…」

「ヤバいわね…」

 

流石直感の鋭い二人が真っ先に危機感を覚えたようだった。

 

「一応学校では禁止になっている」

「禁止って深雪さんから?」

「いや、学校側からだな。節度を保て、と」

「「「「「ああ」」」」」

 

これも伝えておかないと勘違いをする輩が出るかもしれないのでこの場で公表しておく。

節度を保つことで兄妹の時より関係が悪くなったと勘違いされ、アタックする奴が湧かないとも限らない。

できることなら四六時中傍で牽制したいものだが、それでは深雪も困るだろうからやらないが。

俺にだってそれくらいの常識も良識もある。

 

「それは賢明な判断だわ」

「学校で風紀の乱れはいかんよな」

「北山、北山さん、今からでも委員長代わらないか?代わってください」

「やだ」

 

風紀委員長である幹比古が雫に座を譲ろうとするが素気無く断られていた。

 

「だって、さっきもナチュラルに肩抱いてた」

 

…待て。肩を抱くのも節度のない行動になるのか?

五十里先輩は、抱きつかれていたりしたはずだが。

 

「お兄様、ダメですよ。節度は守りませんと」

「泣いた深雪をそのままにするわけにはいかなかったんだ」

 

帰ったらどこまでが許されるか再度確認が必要だな、と考えながら従順に頭を下げておく。

 

「仕方が無いですね」

 

優しく諭すように注意する深雪も可愛いな。

深雪にならいくら注意されても全く不快になることはないだろう。

甘すぎ、とエリカから忠告されるがそうかしら?と小首を傾げる。

 

「なんか、敬語でお兄様って聞き慣れないかもって思ったけどすごいしっくりくるな」

「本当、これが自然ってくらい耳馴染みが良いわね」

「俺にはどちらでも構わないんだがな。もちろん、お兄ちゃん呼びもまたやってもらいたいものだが」

「達也様、調子に乗りすぎです。深雪様からお離れ下さい」

 

深雪の腰を引き寄せようとしたら今度は水波が物理的に叩き落としてきた。

水波はその立ち位置に立つつもりか。

しばし視線をぶつけ合うが、引く気はないようだ。

 

「ありがとう水波ちゃん」

「…私も、水波と呼び捨てで構わないのですよ」

 

そしてちゃっかり要望を入れるが、それはおそらく叶わないだろう。

四葉家次期当主としてならそうなるだろうが、学校や友人の前などの内々では深雪にとって可愛い妹分であることは変わりないからな。

しかし、ここで俺が引き下がりでもしたら学校で水波にずっとブロックされ続けるということか?

 

「水波」

「達也様は節度をお守りください」

 

節度のマニュアルでもあるのだろうか。水波のはその中でも相当チェックが厳しそうだ。

 

「なんつーか、さ。四葉ってそんなに怖いモンなのか?」

「口酸っぱく気をつけろって教わったんだけどね」

「僕なんて名前を聞いただけで震えるくらいには怖い存在だったはず、だったんだけど」

 

なんて話に、さっそく深雪の計画の効果が表れ始めたようだ。

緊張が和らぎ、年末のような明るさを取り戻したところで予鈴が鳴り、全校生徒がここにいる状態にパニックが起こるのではと思われたが、幹比古が動くより早く深雪が振動系魔法で自身に注目させると的確に指示を出していく。

動揺していた生徒たちだったが、深雪に向けての不信感などもう見えなかった。

 

『はい、女王陛下!』

 

一高はどうやら本当に一国家となったらしい。

女王の指示に従い順に校舎に入っていくのを見送っているとエリカから声がかかる。

 

「達也くん、深雪」

 

同時に振り替えると笑みを深くして、

 

「これからも、よろしくね!」

 

――ああ、本当に恵まれている。

彼女だけでなく、皆笑みを浮かべて待ってくれている。

深雪と一瞬視線を合わせて返答した。

 

「ああ、よろしく」

「よろしくね、エリカ」

 

 

――

 

 

こうして、深雪主演による孤高の女王編は終わりを迎えた。

その日から昼食も皆で共にし、普通に授業を受け、放課後には各々クラブ活動や委員会の仕事に精を出す。

日常が戻ってきた。

泉美は深雪が笑みを取り戻したことに歓喜し、纏わりつくのをピクシーと水波にブロックされるというトラブルはあったがそれ以外は通常運転に戻った。

だが、しばらく駅まで一緒に下校する難しいと断った。

朝の登校時は複数の生徒がいるが、下校は時間もバラバラで生徒会役員はクラブ活動も終わった後に帰宅することが多い。

直接的に狙ってくるとは思わないが、学校が始まって一週間経っても観察する視線はまだ多い。学内ならともかく学外での付き合いはしばらく控えた方が良いだろう。

現在、生徒会室の人間は深雪と自分のみ。水波は教室に忘れ物をしたと取りに戻っていた。

窓の外、下校する生徒たちを見つめている深雪に寄り添うように立つ。

 

「深雪の望んだとおりになったか?」

「はい。十分すぎる結果です」

 

嬉しそうに微笑む深雪を抱き寄せようとして、ふと思い出す。

 

「節度の定義が厳しすぎやしないか?」

 

肩を組むのも対象になるのかと不満を口にすると、くすくすおかしそうに笑った深雪の方から身を寄せられて腕に頭と肩が触れた。

 

「手を繋ぐくらいなら問題ないでしょうが、腕を組むのは如何なのでしょうね」

「それもダメなのか?」

 

流石にそれは冗談だろう、と訴えればどうでしょう、と楽しそうに笑う。

空元気ではない、自然な笑みに言葉とは裏腹に口元緩んだ。

 

「ですが、皆が優しすぎて少し心苦しくもあります」

 

窓に映る表情には笑みはそのままに、申し訳なさそうに眉だけが下がっていた。

嬉しいけれど複雑、といったところか。

 

「皆が優しいのは深雪が優しいからだろう」

 

そう言うと深雪の顔が直接こちらを見上げた。視線が絡み合う。

その美しいかんばせに引き寄せられそうになるのを堪えて自身の見解を答える。

 

「深雪が優しいから、その優しさに報いようとする。そういうことじゃないのか」

「…そう、だと嬉しいですね」

 

照れながら、擽ったそうに頬を緩ませる深雪が可愛すぎて我慢が利かずに結局抱き寄せてしまった。

 

「お兄様」

「まだ修行が足りないんだ」

 

咎める声に、すまない、と謝りながらも離さなかった。

まだ修行を初めて十日も経っていない。少しくらいは大目に見て欲しい。

 

「もう、お兄様ったら」

 

そう言って許してくれる寛大な深雪に感謝だな。もう少し力を込めて密着してから一つ気になっていたことを訊ねた。

 

「そういえば、随分と深いところまで話していたんだな」

 

何のことだろう、と見つめ返す愛らしさにこのまま愛でていたい気持ちもあるが、問いたださねばならない。

 

「雫とのことだ。俺にも隠していたことを雫には話していたんだな」

「あ、あれは!」

 

雫は知っていた。

深雪が何を願い、俺の為に何かしようとしていたことを――俺を救おうとしていたことを彼女はずっと前から深雪から聞いていたという。

 

「あれは、その…」

 

口ごもり、言い淀んで俯く深雪の頬に手を添え強制的に上を向かせた。

揺れる瞳がとても憐れで、そうさせているのは自分だというのに胸が締め付けられるようだ。

 

「二人きりの秘密だったのだろう。どんな状況でそうなったかは分からないが――とても羨ましいと思った」

 

そしてずるいと嫉妬した。

 

「子供じみた独占欲と思ってくれていい。深雪のすべてを知りたいと、俺が知らない深雪を他の誰かが知っていると思うと面白くないんだ」

 

今回の雫もそうだが、叔母上との関係も。

恐らくまだ知らぬ深雪の姿があるだろう。

好きな相手のすべてを知りたいなんて、傲慢な考えだ。自分だって見せていない部分があるというのにすべてを曝け出せ、だなんて。

だが、この正直な告白は深雪の心に届いたようで、顔が徐々に赤みを帯びてきた。

 

「俺も、二人きりの秘密が欲しい」

「お兄様と?それは一体…きゃっ」

 

深雪の体を抱き込んで窓の横の壁に回り込む。これで外からは見えなくなった。

元々視線など向けられてもいなかったが、隠れてこっそり、というのが秘密にとっては重要な要素だろう。

 

「学校内では節度を保たなければならないが、今、ここには二人しかいない」

 

ようやく俺が何をしたいか理解した深雪は今度こそ真っ赤に染まり上がったが、腕の中で小さな抵抗をする。

 

「でも、あの!ここにはピクシーが」

「ピクシー、サスペンドモードに移行しろ。すぐに起こすから再起動できるように待機だ」

「はい、マスター」

「お兄様!」

「これで本当に二人きりだ」

 

ピクシーが座った音で、観念したのか俺のジャケットを握りしめ、少しだけですからねと呟く。

 

「努力しよう」

 

 

 

その後ピクシーが起きた時には深雪がぐったりしていたのですぐにスキャンが始まり、そこに水波が合流し現状を一瞬で把握したのか一方的に責められたが、今日くらい浮かれてもいいだろう。

深雪の頭を悩ませる案件が一つ片付き、笑顔が戻ったのだから。

 

 

――

 

 

次の日の昼、深雪は豪華な昼食を用意し、その重箱を俺が運ぶことでこの一週間のことをチャラにしてあげる、と罰(運ぶだけの俺には罰とも呼べないようなものであるが)を与えられた。

真冬の屋上でシートを広げて弁当を囲む。

まるでピクニックだが、そう思えるのは深雪が冷気を遠ざけ春の温かさの気温を保っているからだ。

この複雑な魔法式を息を吸うように、事も無げに片手間でやってのけ、平然と微笑んで取り皿を配っている深雪に皆引き気味であったが、深雪だから仕方がない、と諦めて腰を落ち着けていた。

 

「深雪、嬉しいのはわかるが」

 

昨日もそうだが、こうしてまたみんなで食事できることが嬉しくてたまらないのだろう。

終始ニコニコと微笑む深雪が可愛らしいが、少々浮かれすぎだ。美月が眩しすぎて直視できないと目を逸らし、レオでさえ頬を掻いて困っていた。

注意をするが、深雪も人目が無いことで抑えが利かないようだ。

 

「お兄様。皆で食べるときくらいはお許しください。私も久しぶりでテンションが上がっているのです」

「俺と二人の時より嬉しそうだな」

「もう、あまり意地悪なことをおっしゃらないでくださいませ。――お兄様は何か食べたいものはございますか?」

「深雪の作ったもの全て」

「あら、でしたら全部一つずつになってしまいますよ」

 

深雪の作ったものならば多少無理してでもすべて食べたい。

そう言えば、照れて頬を染めながらも嬉しそうに皿に盛りつけてくれた。

皿の上にのせられるよりも盛り付けているお前が美味しそうだ、とは流石に控えたが。

 

「…おいエリカ、邪魔するんじゃなかったのかよ」

「これ、邪魔しても無駄死にしそうじゃない」

「馬に蹴られそうですね」

「エリカ、頼むよ。手を出しそうになったら叩き落としてくれ」

「風紀の乱れを正すのはミキの仕事でしょ」

「僕の名前は幹比古だ!」

 

外野が騒がしいが、修行中のこの身にはありがたい。

他人の目があれば抑えが利くからな。

深雪が勧めたことでようやく食事に手を付け、美味いと絶賛の声が上がる。

そうだろう。深雪の料理は美味しいからな。

 

「あ~、この深雪を見ると戻ってきたって感じね~」

「あの四葉のご令嬢モードも素敵だったけど、やっぱりこっちがいい」

「ありがとう雫」

 

雫の言葉にも照れる深雪のはにかむ笑顔が可愛らしい。今は嫉妬よりもよかったなと思えるのは婚約者というより兄として隣にいるからだろう。

この切り替えが可能になったのは昨日の夜からだ。まだ完全ではないし、これからも完全なコントロールというのは無理だろう。深雪のことに関しての衝動が無くなることは無いのだから。

だが、こうして兄であることを強く意識することで深雪の喜びを自分の幸せと感じられる。

 

「ねえ、いつも四葉ではあんな感じなの?」

 

ほのかの質問は、あの時の澄ました深雪の態度についてだった。

一朝一夕の演技とは思えなかったということのようだ。

 

「え?あそこまで高慢ちきではないけれど、表情はアレをずっとキープしている感じかしら」

「疲れない?」

「疲れるわよ。でもそもそも私たちは四葉から隔離されて暮らしていたから日常でもなかったの」

 

穏やかでない言葉に一瞬動きを止めたが、深雪が何でもないように語っていることから戸惑う視線が飛び交う。

この辺は昨日のうちにどこまで話すか決めておいたので、問題ない。 

四葉は謎の一族とされているが、完全秘匿されているのは技術の部分であり、事情については探ればすぐに想像がつくことだ。

隠し立てするほどのことでもないと判断した。

下手に調べて目を付けられるよりいい、ということもある。

深雪は昨日の答え合わせを含めた、四葉であることを公表したからこそ語れる事情を掻い摘んで説明しだした。

 

「別に発表したのだから隠すようなことでもないし、皆も察しがついているだろうけど、四葉と知られたら襲われる危険があったから隠れていたのよ。四葉はいろんなところから恨みを買っているというのももちろんあるんだけど、――四葉が一つの国を滅ぼしたって言うのは知ってるのよね?」

「そりゃあ、まあ」

「そんなに昔の歴史じゃないしね、その国名が変わったのも」

「その国が滅んだ理由は私怨ということになっているけれど、きっかけはあちらの国にうちの一族の人間が攫われたのよ。それも子供が生める年齢になったばかりの女の子を、ね」

 

それがどういうことに繋がるか、高校生ともなれば想像は易い。それぞれ表情は青ざめ、引きつり、眉を顰める。

 

「一族は国に訴えたけれど、たった一人の女の子のために戦争の火種になりそうなことをできないと突っぱねられた。でもその一族は愛情深い一族でね、その子一人のために命懸けで救出に向かったの。多くの犠牲が出たわ。当たり前ね。一国に対したった数十名で対抗したのだから。

多大な犠牲は払ったけど救出はできた。だけど国はこのことを危険視した。一国を落とした実力を恐れて。私情だけで動いた彼らに罰を与えなければ国の示しがつかない、決して美談にして英雄になんてしてはならない。そのほかにもいろんな思惑があったのでしょうね。この過去は人の口に上らないよう緘口令が敷かれた。とはいっても魔法で禁止されたわけでもなければ署名させられたわけでもない、ただの口約束だから知ってる人は知っているお話なのだけど。吉田君が言ったように、まだそんなに古い出来事でもないから当時を知っている人も当事者も現役だから」

 

深雪はできるだけ明るい口調を心掛けて語ったが、内容の重さは変わらなかったようだ。

皆箸を置いて視線を下げたので、これ幸いと重箱に箸を伸ばす。

信じられない、という視線を感じなくもないが、せっかく深雪が温めてくれた弁当が冷めるだろう。

深雪も時間が無いからどんどん食べないと、と再度勧めて全員再稼働を始めるが箸の進みが遅い。

 

「何が言いたかったかというと、そういった誘拐事件があったからうちの方針として女子は特に厳重に守りましょうってことになっているの。とはいえ全員ではないのよ。うちは人員がそんなにいないから」

「…深雪、軽くしゃべってるつもりだろうけど」

「ヘビーすぎるわ。何なのよ。そんなの警戒して当然じゃない」

 

つまり、深雪が素性を隠して護衛を付けて生活をしているのは、過去にあった悲惨な事件を繰り返さないための策であったということ。

正直、この四葉の対応が非難される理由はないと思っている。

国が守ってくれないなら自分たちで、と警戒することはむしろ正当防衛と言えるだろう。

エリカたちもそう思ってくれたのか、同情的な視線を向けられたのでおかしな発想でもなかったということだ。

 

「確かに親が耳タコになるくらい一人で帰るときは気を付けるように言うわけだわ」

「お前がか?」

 

雉も鳴かずば撃たれまいに、と思うがレオなりに空気を入れ替えてくれた、と思っておこう。

 

「それにしても、その話を聞くとますます四葉ってそんな恐ろしいって感じに聞こえないな」

「…いや、レオ。流石にそれは楽観視しすぎだよ。たった数十人で国を亡ぼす切っ掛けを作ったんだよ。十分恐れるべき――、とごめん」

「幹比古が謝ることじゃないさ。実際強すぎる力って言うのは恐怖をもたらす。十師族のバランスも崩れてるしな」

 

幹比古の言うことは正しい。

国家を無視して動く組織など、危険視されて当然だ。そこに、いかな理由があろうとも。

 

「愛情深い一族、のわりに達也さん冷遇されたの?」

「愛情が深すぎてこそ、だけれどそのお話はトップシークレットだから」

 

ほのかの質問は、深雪が口元に指を立ててストップをかけた。

俺の事情についてはほとんど話せない内容ばかりだからな。

四葉に生まれながらにして異端児として扱われ、一族の忌み嫌われ者として扱われてきた過去など、話す必要も無い。

だが、一つだけ四葉に生まれたことを思わせるものを自分も持ち合わせていたらしいことに気付いた。

 

「まあ、そう言う意味では俺も四葉なんだろうな」

「お兄様?」

 

不思議そうな顔を向ける深雪をじっと見つめ、

 

「深雪が妹であろうともこんなに愛していたわけだから」

 

言葉の意味を理解し朱を走らせたことに手を伸ばしたところで雫に手を叩き落とされた。

 

「風紀、執行」

 

避けることも止めることもできたが、どんな反応が返るか様子見として受けてみたのだが…思った以上に深雪が雫の対応に感激している風に見える。

大げさすぎやしないか?それに、八つ当たりにも感じられた。

どうやら深雪に恋をしてもらうまでここのライバル関係は変わらないらしい。

しばしにらみ合っていると、その空気を和らげるため、デザートも作ってきたの、と最後の重箱を開く。

そこには三色団子が綺麗に並べられていた。

 

「三色団子には魔除けや邪気払いの意味もあるから」

 

との深雪の言葉に、エリカがたくさん食べろと突き出してきて、一人一本までだと注意され、残念と大げさに肩を落として笑いを誘っていた。

その中心で深雪が笑っている。

この光景に自然と笑みが浮かび、この幸せを噛みしめる。

 

(深雪が笑っていられるこの世界を守ろう)

 

どんな困難が待ち受けていても、災厄が降りかかろうとも――深雪を守り抜く。

 

「お兄様、お願いします」

 

空になった重箱を片付け、申し訳なさそうに差し出す深雪に、構わないよ、と受け取る。

 

「深雪の願いを叶えることが俺の喜びだ」

「もう、お兄様ったら」

 

くすくすと笑う深雪を、空いた手で撫でていると「おーい、置いてくわよー」とエリカの声がかかる。

急ぎましょう、と深雪から手を掴まれてドアを開けて待つ仲間たちの下へと並んで駆け出した。

なんて事のないこの日常の風景の一コマだが、俺は心に深く刻み込んだ。

 

 

END

 




ここで一旦完結とします。

ここまでお読みいただきありがとうございました!
読み返せば気の遠くなるような長文…最後まで付き合っていただけて感無量です。

この作品を書くきっかけは些細なもので、単純にお兄様をハッピーエンドにするにはどうすればいいか、と友人と語り合ったのが始まりでした。
魔法科はさらっと原作を読んだ程度で、お兄様受けのBLを遠い昔に読んだ程度のファンとも呼べない自分でしたが、友人がたつみゆ教だった為刷り込まれ、深雪ちゃんにお兄様を幸せにしてもらえばいいのでは、と結論に至ったものの、ただ原作なぞるだけでは、と兄妹の立場を逆転させることを思いつきました。先にお兄様が妹を愛してしまえばいいのでは、と。
そしたらいつの間にか妹が成主になってました(←
自分がシリアスに向かないのでギャグ要員が欲しかったんです。原作深雪ちゃんも読みようによってはギャグ要員なのですが、もうちょっとはっ茶けていただきたかったので。
そして、二人を逆転させると決まった時には四葉継承編で妹は告白だけで終わったけど、お兄様だったら最後まで頂いちゃってるはず、とオチが決まり書き始めて一月も立たないうちに九校戦までの流れが書き終わっておりました。
その時点で20万文字超えててなにをしているのか自分でもわかりませんでしたが、せっかくここまで書いたのだから友人以外にも見せたい、と投稿する流れに。
それがまさかこんなだらだらと続くとも思わなかったのですが…無事完結できて良かったです。
初めに決まっていたオチでは四葉本邸で最後まで、だったのですが書いている途中でこのお兄様は敵地でやらないか、と修正が入りました。
深夜様のビデオの件では映像終わった直後、葉山さんが『ドッキリ大成功』の札を持っている予定だったのですが、それも無くなりました。
とまあ、最初に思った構想から変更は多々ありましたが、流れはほとんど変わりなく最後まで辿り着けました。ノリと勢いってすごいですね。

もちろん、皆様が色々反応を返してくださったこともモチベーションになりました。
誤字修正は特にありがたかったです。何度見直しても見落とすので…


昨年ここまでで完結した話ですが、調子に乗って師族会議編まで書きました。
なので、もう少し続きがあるのですが、加筆修正が多々あるのでUPにはもうしばらくお待ちいただければ、と思います。

改めて、ここまで長い作品を読んで下さりありがとうございました。
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