【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯

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【134】 声の出処

「ぶへ〜、んっかれた〜」

「たしかに。思えば、今朝起きた瞬間からずっとイベントの連続だったからねぇ。助手クンの体力じゃかなりお疲れだろうさ」

 

 襲い来る疲労感に身を任せベッドに体を投げ出すと、ベッドの縁に腰掛けた悪王寺先輩が乱れた髪をサラサラと直してくれる。

 肌の下を滑ってゆく清らかなシーツの肌触りに、頭頂部に感じるこそばゆさ。冬目前で本来なら肌寒く感じるくらいの気温も、エルフ&世界樹の友情タッグ不思議パワーにより穏やかな気候に保たれている。

 ちょっと人に許される快楽の範疇を超えてますねコレ。ローマ皇帝より贅沢してる自信があるわ。なんせ古代ローマには悪王寺先輩がいらっしゃらねぇからなぁ。その時点で勝ちが確定してしまう。

 僕がもし時の皇帝だったなら、この人の不在を泣きながら宮殿よりデカいセンパイの巨像製作を慰めとして指示したことだろう。大暴君として歴史に名を残すな。

 

 へへへ……だらしなくてすんませんね。

 

「なぁに、頑張った男の子にご褒美を上げるのも、年上のお姉さんの甲斐性ってものだよ。ホラ、もっかいお膝に頭乗せるかい?」

 

 さっきの続きをしようよとでも言うみたいに、シーツに埋めていた顔をころりと転がされ、ふわりと持ち上げられたかと思えば柔らかなモノに頭を預けていた。

 センパイの少し高めの体温が、後頭部にじんわりと伝わってくる。

 

「んふ、やわっこい」

 

 ついでとばかりに頬を揉んだり、鼻先を摘まんだりと、可愛らしいイタズラをした先輩は、凛々しいお顔を緩めてふにゃりと微笑んだ。

 さ、さっきの僕はこんな事をしてもらってたんですか!? ハレンチ警察に捕まっちまう!!

 

「あ、ボクの飲みさしでよければジュースもあるよ。口開けて……ああ、そうか、こっちの世界にはストローが無いんだったね。それじゃあ仕方ない、ボクが口移しで──」

 

 果実水の入った木製のコップをこちらへと差し出そうとして、どこかわざとらしく困ったフリをした彼女は、いい事を思い付いたとばかりに一口ジュースを口に含み、そのまま顔を近づけて……瞬間、僕の脳内でハレンチ裁判官がハートマークの描かれたピンクのガベルを打ち鳴らし、「凌遅刑」と判決を言い渡した。起訴も結審も早。

 

 お゛あ゛ぁ゛〜〜〜! ダメ人間になるッ!! 起きます!!

 このまま流れに乗ってたら、ポンポンポンと堕落の階段を一足飛びで駆け下りる事になり、最後には自分では何もできない幼児退行した男子高校生が出来上がってしまうとすんでのところで気付いた僕は、バキバキに割れたシックスパック(になる予定)の腹筋を酷使し上体を起こした。

 

「あ、起きちゃった……まったく、旦那クンはつれないなぁ。このボクがせっかくご奉仕してあげようってのに」

 

 顔の持って行き先を無くした先輩は、仕方なくジュースを飲み下し残念そうに頬を膨らませる。ごがが、中性的な顔立ちの王子様系女子にそんな事されたら人生狂うくらいときめいちまう。

 いやね、センパイのご提案はめちゃくちゃ魅力的ですし、僕も正直そんなモーションかけてもらって天にも昇る気持ちなんですけど、いかんせんTPOの全てがそれを許さないっつーか。

 

 扉とかで隔てられてないリビングルームでそれぞれ寛いでいた"ショウヨウ"全員の瞳孔が、完全にこちらに固定されているからな。レース開始の合図を待つランナーと同じ目をしている……。

 何がこえーって、僕がいっぺんボコボコにされてからみんな過保護モードが常時ONになっちゃってるとこあって、下手するとそのままなしくずしで少年誌では描写できない行為にまで発展しかねないことなんだよね。

 一人タガが外れたら最後、もはや誰一人止まる者が居らず、悪徳の宴が開かれるような気配を感じています。なんかちょっと一周振り切れた感じがある。

 

 ……まあ、みんながそうしたいなら僕に否やは無いスけど……でもせめて初回はそれぞれその人とふたりきりで、相手の事だけを考えての方が良い気がしたりもするし……。

 それになにより、流石に今そうなるのはマズいのだ。

 おっぱじめたところに真剣な面持ちした叔父さんが部屋入ってきたら、いかな僕とはいえペラが回らない自信がある。

 その状況でペラペラ喋れるのってNTRモノの竿役だけなんだよな。口プの先達として見習うべきか? 黙ってた方がマシな場合もあんね、黙っとくわ。

 

 

 結局あの後、静かに考え込んでしまったエルフさんたちの中からアラノスさんたちが出てきて、一度エルフのみで話し合いたいのでお待ち頂きたいと僕らは割り振られた宿舎へと帰ってきていた。

 

 彼らがどのような内容の会議を行っているかは、僕にはわからない。

 エルフさんの気持ちになったところで、いくらなんでも積み重ねてきた人生の経験も、これから過ごしていく時間の長さも違い過ぎる。

 伝統や慣習というものは、長く続けば続く程変えることは難しくなる。人ですらそうなのだから、その十倍以上の時を生きる彼らの場合、どれほど大変かは想像すらつかないほどだ。

 

 けれど多分、心配は要らないのだろうなと思う。

 なぜならその「エルフのみ」の中に、ハーフエルフさんたちも入っていたから。

 ……まあ心配すべきは、会議が終わるのを待ってたら冬が明けてた、とかの方かもしんないな。

 

 

 

 

 

 

 が、その心配は杞憂であり、三日後の夕餉の席で、僕らはヴェルナードさんやラナスティルさんを引き連れ現れたアラノスさんから、話し合いの結果を聞くことができた。

 エルフさんの時間感覚的に三日で済んだら十分上出来です。よっぽど急いでくれたらしいな。

 ただ三日間部屋でそういうことができなかったこともあり、里の外まで散策に出かけた時はみんなから凄まじいスキンシップ(強弁)を受けたが、それはこっちの問題なので……もし誰かに体を見られたら、全身虫に刺されたという言い訳で乗り切るぞ。

 

「合議制存続の方は早々に結論が出たのです。我々エルフを真に想って仰って下さったあのお言葉に、心動かされぬ者はあそこに居りませんでしたから。……結局風の方の言う事を聞いているだけとご指摘を受けたらば、実際その通りではございますが」

 

 数日ぶりに夕食の席に姿を見せたアラノスさんは、苦笑いを浮かべてグラスを傾けた。

 

 そうは言うがあの心酔ぶりから突然自主独立へ方向転換するのは、きっとなかなか容易な事ではなかっただろう。

 それがたとえまだまだ盲信と地続きな結果であっても、踏み出すにいたった勇気は素晴らしいものであることに変わりない。

 

 薄く切られた鳥のグリル木の実ソース和えを口に運びながら、僕は内心で拍手を送った。ウンメっすね。

 明星先輩はコレがお気に召したようで、ふぐ刺し一気にいく時みたいな食べ方をしている。こら僕としてもぜひ作れるようになっときたいな。

 ソースのレシピももちろんだが、この柔らかでジューシーな肉質を維持する火入れの仕方を学びたいとこだね。

 

 

「なにお前飯も作ってんの? もうヒモじゃないだろそれ、家政夫とかそういうのじゃないか」

 

 僕の思考を読んだ隣の席の闇無君が、パリッと揚げられた葉野菜を土台にしたピザを齧りながら呆れた顔で話しかけてきた。

 それ多分マジでカロリーモンスターなんだけどめちゃんこ美味しいよね、女性陣が手を伸ばそうとしてはひっこめてるのがさっきから何度も目に入ってるし。

 体重計が無いからかあんまりカロリーを気にしなくなった彼女らすら、思わず恐怖して尻込みしてしまう程の圧倒的な熱量は圧巻の一言だよ。みんなにゃ悪いが僕ももう一枚いっちゃお。うめぇ~~~~。

 ちなみに彼とは今バフ繋がってないので、これは普通に読心です。

 当たり前のように人の心を読むんじゃないよ、何でもできるにも程があるだろ。

 

 

 ……てか『もう尻に敷かれてんのかコイツ』みたいな顔してるけどさぁ。

 僕別に尻に敷かれてる感じは無いっつーか……まぁむしろ敷いてもらえるならそれはそれで嬉しいかもだけど。

 いや違う違う、いやらしい意味じゃない。女の子と見まごう美形しといて急に男子高校生らしいとこを見せるな。ギャップに弱いんだから僕は。落とそうとすな。

 

「してない、勝手に落ちるな。つか『当たり前のように人の心を読むな』はお前が言っていい言葉じゃないだろ」

 

 ハイ、そこはごめんなさい。

 で、話は戻すけどそもそも女子ってのは、ラグやクッションだってデザインや機能性選んで使いたいもんじゃん。

 そんな彼女たちのお眼鏡にもしもかなったってんなら、僕だって少しは自惚れていいかもしんないでしょ?

 人間、嫌いな物をわざわざお尻の下に敷こうなんて思わないからね。

 

「ま、確かにお前は尻に敷かれる心配よりは、二度と家から出してもらえなくなる心配をした方が建設的か。それは置いといても、こんな文明度じゃあ料理作るったって大変だろ。それだけやってヒモ判定はちょっと理不尽なんじゃないか」

 

 いやまあ毎日じゃないからさぁ、やっぱ家事って連日連夜終わりなくやるのが大変なワケじゃん。

 たまに宿の看板娘からお許しが出た日に作らせてもらってるだけで、そうなってくると趣味とかよね。

 

「夜まで家事やる事ないだろ。で、コレも再現できそうなのか? なら俺にも食わせて欲しいんだけど」

 

 いやこれはどうかなぁ、ピザ窯とか要りそうだし……。

 なによりエルフさんの料理って、気軽に精霊魔法とか使ってそうなんだよなぁ。

 レシピの①が『まず火の精霊と契約します』になりかねないもん。三分間クッキングの為に三十年の修行が必要になるわ。

 

「そんなの賢人にやってもらえばいいんじゃないか。たしか今秋の無償奉仕期間なんだろ」

 

 シーズンものにするのはやめたげてね。春も開催されそうだからそれだと。

 

 

 

 僕らガキどもが小声でわちゃわちゃ話しているのは、エルフの意思決定に人間は口出ししませんよという表明でもある。

 内政干渉をしたいわけじゃなく、ただエルフである先生が考えを伝えて、それを受けたエルフの国が民意をもって舵取りした、という体裁を最低限保つためだ。

 今となってはそんな事エルフさん側も気にしないだろうけれど、ネリッサさんからの報告を受けた帝国上層部が何を考えるかまではわからないからね。

 

「あの時は熱くなり過ぎて、つい語気を強めてしまい申し訳ありませんでした……改めてこれからを考え直す契機として頂けたなら、不幸中の幸いと申しますか……」

 

 自分の言葉を思い出してか、先生は恥じ入るように頬を染めて身を小さくする。

 いや小さくはなってないんだけど。

 山脈は依然変わらず峻厳にそびえたっているんでね。山がそこにあるもんな。僕はマロリーの言葉の意味を魂で理解した。

 

「いえ、厳しいお言葉であったからこそ気付けたのです。我々がいつの間にか、これまでの歩みすらをも放り出そうとしてしまっていたことに。それに、きっとみな、嬉しかったでしょう」

 

 彼の瞳が優しく細められる。

 これまでの苦労が報われたみたいな、柔らかな微笑み。

 

「過ちを叱られてはしまいましたが、積み上げてきたこの国を風の方に認めてもいただけたのですから」

 

 その顔を見ていて、僕は思う。

 ……エルフにとって、たとえば精霊女王が神であるのなら、風の方は父祖というか、現代日本人的な価値観で言えば「親」に近いのかもしれない。

 そんな相手から良くないことは怒られたが、良いところは認められた。

 それはもしかしなくとも、誰にとっても嬉しいことだろう。

 

「また、他種族との婚姻に対する掟や罰則も撤廃することになりました。結局のところ、これまでそうやってきた唯一の理由は、風の精霊からの乖離を恐れただけのものでしたし……実際に魔王という脅威を前にすると、他の種族と手を取り合わねば太刀打ちできないと、理解させられたのもあります。もしも精霊魔法や弓に頼らないハーフエルフが最初から我が国に居たならば、小さなワームが湧いた時点で対処できていたでしょう」

 

 だから叱られたところを改めて、新しい形を模索しようとしている。

 その話し合いであれば三日くらい平気でかけるし、待たせるのが心苦しいから三日でまとめ上げてみせた。

 僕なんかよりずっと大人な先生は、彼らのそういった機微もご承知ゆえに、困ったような笑顔で話を聞いているんだろうね。

 

 たった一人の人間が別の種族そのものに影響を与えてしまうことが、良いことなのか悪いことなのかは正直わからないし、別の世界の人間が正しさを押し付けるみたいなのは、たぶん褒められた話ではないのかもしれない。

 

「ただ、件のハーフエルフたちがただちに生まれた里に戻ってくる、ということはありません。いくら過去の迫害や世界樹への侵略を互いに水に流そうと、我らにも彼らにもどうしたって負い目やわだかまりが残ります。なにより彼らはすでに他の国に根を張っていますからね」

 

 つまるところ、結局法律の文章が変わっただけで、なにか大きな変化がこの国にすぐに起こるわけではないということだ。

 けれどそれでも、きっとケルセデクやそこに住まうエルフさんたちは、しっかり前を向いて地面を踏み締め、少しずつ前へと進んでゆくのだと思う。

 停滞よりも前進の方が、伝統よりも革新の方が優れていると言い切れるほど、僕は未来を見通せるわけではないけれど……今のままじゃダメだとエルフさん側も思っていたのなら、今まさになにかが変わるタイミングではあったのだろう。

 

 

 ムズかしー話だよ、こんなもん。数学や物理と違って正解の無い問題だからな。

 そしてどんだけ考えたって正しい答えなんてないからこそ、逆説的に最後のラインはとどのつまり「納得」できるかどうかなんだよね。

 国を救った対価としてルールを一つ変えた。

 捨て置くのも寝覚めが悪かったから口を挟んだ。

 可哀そうな目に遭う人を減らしたいから横槍を入れた。

 べつに理由はどれでも良くて、そしてたぶんどれだって非難できるし褒め称えることができてしまう。つまりはどれも答えになり得て、マルでもありバツでもある。

 答えがない設問に書き記した回答を正解とするか不正解とするかは、それを認知している人の心が決めるからだ。

 

 だから『これでいいんだ』と自分さえ納得させられれば、極論問題というものはなくなってしまう。

 問題意識があるから、問題というものは見えてしまうワケで。

 僕が先生にできることは、彼女がこの件について腹落ちできるようにすることくらいだろう。

 僕ら生徒たちがこの改革の結果として"幸せ"になれば、おそらく彼女は「こうして良かった」と考えてくれる。

 いろいろと思うところはあれど、割り切って飲み込めるくらいに天秤は傾くはずだ。

 

 そして、僕なんかのことを親戚だと言って良くしてくれる叔父さんたちが、生まれで誰かを蔑むことが無くなるならば……それだけでも個人的にゃとても喜ばしいことなのだから。

 そのことを、後で彼女に伝えておかねばならない。

 

 

 

 一つの社会を形作っていた規範が変わるということは、その水面に大きな波紋を生み出すだろうけれど……ま、きっと良い方向に転ぶと信じようじゃないか。困難が予想できるからとハンドルを切らなければ、いつかは壁にぶつかってしまうもんな。

 身内が「他の種族とも仲良くしよう」と心機一転し、以降も国の運営にかかわってくれているのならば、その行く末を信じるのが甥であり孫でもある僕の役目なはずだ。

 なんせウチのお耳の長い叔父さんもお祖父ちゃんも、僕なんかの話を聞いて漢泣きしてくれるような人情味あふれた良い人たちなんだから。

『そう思うかの?』

 そりゃもちろん、もし違ったら世界樹の下に埋めてもらっても構わないですよ!

 

 ……あ? 今の脳内通信、誰?

 

『ほ、お主程の男がそこまで言うなら……こ奴らにもワシの事を話してしまってかまわんじゃろう』

「なに?」「え」「あん?」「は?」「なんスか?」

 

 突如聞こえてきたまったく聞き覚えのない声に、この場にいる全員が反応し声のした方を振り向く。

 そんなみんなの視線の先に居たのは、自分の口から別人の声が発されたことにビックリして目を丸くした僕であった。

 

 ぼ、僕の喉からとろけるような甘々のじゃロリボイスがァ!?

 これで地球に帰ってからもASMRで一山当ててみんなを養えるぞ!!! 

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