【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
八月には間違いなく投稿再開できるので、それまでは時間があれば閑話の投稿になるかと…。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「たくさん……もらい、ました……ね」
いやー、そうだねぇ。こんなにもらったらお返し困っちゃうな。
そもそも木へのお返しって何が喜ばれるんだ? ふ、腐葉土とか……?
「愛、では……?」
愛かぁ……ならまあ、なんとか……。
「にしても……切り離された葉、とは、思えない……艷やかで静かで、生き生きとした、表皮……とても、綺麗です」
目黒さんはまるでゲームのアイテムみたいな見た目の、アメリカのステーキくらい分厚い見事な葉っぱをうっとりと撫で、ほぅ……と感嘆の息を漏らした。
動植物に触れる時は普段よりも饒舌なチャームポイントも健在だ。Super Love……。
世界樹から何を受け取ったのか改めて確認しなきゃと思い立ち、宿舎のリビングのテーブルにあの時受け取ったものを広げてたら、興味を持った委員長や目黒さんが見せて見せてと寄ってきてくれたのだ。やったぜ。
一人で見てても寂しいかんね。みんなで見よみんなで。
しかし生命がかかってたとはいえ、随分な大盤振る舞いをしてくれたものだ。
机の上には琥珀みたいな透明感のある球体やら、ロープにもなりそうな蔦やら目黒さんの撫でてる葉っぱやらいのちのきのみっぽい種やらがゴロゴロと転がっている。
3倍にして返すにゃちと大元の価値があり過ぎるんだよな。てかこれ種植えたら世界樹もう一本生えちゃわない?
詳しくはわかんないけど、こういうのって絶対金銭に換算できないタイプの価値があるじゃんね。
僕の大好きな人たちの住まうこの世界を支えてくれていた大切な存在からの贈り物である時点ですでにプライスレスなのに、普通に国家予算くらい価値ありそうなもんをこの量渡されたら困んのよ。
普通一周に一個しか手に入らないタイプのキーアイテムをぽいぽい渡されたら、ゲームバランスぶっ壊れちまうぞ。
「たしかに素晴らしい鮮度ですね、未だ生きているかのようです」
「う、うん……凄い、ね………」
「薬草としても解毒草としても、錬金時の触媒としても、比類無き良質な素材と言えます。やはり理想的な素材とは『生きている素材』なので」
「えぇ……余すこと、なく……きちんと……使わないと、ダメ……です、ね」
委員長の結構ヒヤヒヤする言い回しにも、目黒さんは茎の断面の導管を眺めながら普通に頷いている。
同じ物を見ても感じ方の方向性の違いが顕著な二人なんだが、目黒さんは生き物を狩った後の利用に理解があるんだよな。
前にも感じた様に、彼女が本質的に好むのは『生命の連環』なのだろう。
食物連鎖の螺旋を強かに生き抜く生命の美しさとひたむきさ。いつかは誰かの命の礎となる事すら含めて、その在り方を愛している。
……そんな連環から外れた人間という存在を、だからこそ日本に住んでいた頃の彼女がどう思っていたのかは、本人にしかわからない。
ま、こっちの世界ではおよそ人に属する全ての種族がその連環に組み込まれているから、目黒さん的にも絶賛見極め途中ってところか?
最近は自発的に会話に参加する事も増えてきて、大変良い傾向です。
無理してまでは人付き合いしなくても良いけどさ、自分だけが所属するパーティーとは別のコミュニティってのはあって損じゃないからね。
ここでの悩みや相談を打ち明けれる場所がある方が、なんつーかいろいろと生きやすいもんだし。
そんな風に考えていると、全部は伝わっていないがなんとなくの雰囲気は伝播したのか、手元の葉っぱからこちらへと彼女が視線を向けた。
「……でも、悩みも相談も、全部……あなたが、聞いて、くれる、でしょ……う?」
それはもちろん。困った事でも将来の不安でも、僕で良ければ全部相談に乗るよ。
いや将来の不安の相談相手にヒモを選ぶのはかなりリスキーな気がしないでもないけど。そもそもソイツが不安の種なんじゃないか?
「う、ううん……希望、の……種、だと、思い……ます」
そう言って彼女はこちらへ手を伸ばすと、大きな手のひらで僕の顔をゆっくりと撫で、耳裏の髪をわしゃわしゃと毛づくろいした。
おっ、ふぁっ、ひょ、っぷぁ、んひ。
くすぐったいっつーか、『愛されてんねぇ!』と強引に理解させられるコミュニケーション。
鹿野ちゃんで手慣れてるだけあって、僕の犬撫でを遥かに上回る人撫でテク……!
あまりの手練手管に自認が犬と人でなしの間を揺れ動き、気を抜いたら舌出して放熱しそうになる。これからは鹿野ちゃんが遠吠えする時は共鳴することにしよう。
大きな愛しい手に身を委ねていると、後ろからもう一本の手がつむじ付近に触れるのがわかった。
「こ、こうですか?」
「うん……毛並みに沿って、指で梳くみたいに……びっくりさせると吠えちゃうから、ゆっくりと、嫌がる部分は避けて……」
友達の家で初めて犬を撫でる子と、飼い主さんみたいな微笑ましいやりとりにホッコリしちまうね。
ゴールデンの動物バラエティ番組で放映しても良いようなワンシーンだが、その実態は住所不定(宿住み)無職(というかヒモ(より悪いわ))の男を飼育してるグループの日常風景なんだよね。なんかの闇バイトですか?
どちらかっつーと本怖夏特番の方が趣旨あってるかもな。
彼女らが一通りヒモ撫でを満喫し終えて解放されたため、作業に再び取り掛かる。
えーっと、この宝石みたいなのは、と。
テーブルに散らばる素材の中から、コロコロした琥珀っぽい塊を手に取る。
ひのふのみのよの……20個くらいあんね。
周囲が樹脂みたいに固まっていて、明かりに透かして見ると中が液体みたいになっているのがわかった。
おわー、やっぱめちゃめちゃキレイだ。
「なんだか……神秘的、です、ね」
ね、このままインテリアとして飾っておきたいくらいだよ。
たぶんライトとか良い感じに当てたら、スーパーオシャレ間接照明になるぜ。デザイナーズマンションにあっても違和感の無い、ラグジュアリーで上質な温もりを演出できちまう。家買ったら部屋に置こっかなぁ。
たぶん中身は樹液か蜜かなんかだと思うんだけど……。
『お、坊は賢いのぉ。その通り、これは世界樹の蜜じゃな。外側の樹脂を割れば飲めるぞ』
へー! やっぱそういうのなんだ!
えー、どんな味なんだろ。ちょっと興味あんね。
『飲んだらそれなりに寿命なりなんなり伸びるんじゃないかのぅ』
そんなフィルルエルさんの言葉を聞いて、僕と目黒さんは揃いも揃って思わず手の中のソレを取り落としかけた。
わっとっとっとっとっ!
これ飲んだら寿命伸びんの!?!!?!?
と、とんでもねぇ
どうすりゃいいんだよ人類の永遠の夢をこんなにいっぱい!!
『あとで全員で「カンパイ」とかいうのをすれば良いのではないか? 別に寿命がちょいと伸びて困ることもあるまいに。ワシもアオ坊と長く過ごせる方が嬉しいしのぉ』
……え、えぇ……ま、まぁ、ちょいとくらいなら、良いのか?
いやでもこの「ちょいと」って、元風の方現世界樹の精霊の「ちょいと」なんだよな。それって2000年くらい伸びたりしません?
もういろいろとわかんねぇな、ここまで来ると……。
「……私達だけでは判断しかねますので、後程クラン全員で相談しましょう」
言葉を喪った目黒さんと僕が琥珀の中で揺れる蜜に釘付けになり固まっていると、ズレ落ちたメガネを押し上げた委員長が問題の先送りを提案した。
まぁ、そうね……うん……なるようになるだろ。
「……むむっ? なんだかたった今閃いたのですが、これを使ってプランテラエリクシルのような工程を経て錬金すれば、更に良い物を作れる予感がしてきました。是非試し──」
あーっ! それも相談の上で、ね!?
数の限られた物資の使い道は会議経ないと勝手に決めらんないもんなァ!?
そ、それよりもこの蔦なんか素敵じゃない? 職人の仕事が光る逸品です。これはいいものだ……!
一瞬前までは手の中のブツのヤバさに共感してくれていたハズの委員長が、雷にでも打たれたかのような天啓を得て更にハイレベルな何かを作り出すことを目的に据えかけたので、慌てて別方向へと話を逸らす。
自分の行動について他者がどう考えるかまで考えを回せるようになった彼女だが、目的が出来てしまうと前後の文脈すらブッた切って即座に狂気の目的達成プロセスへと移行するクセはまだ抜けていなかった。
……でもまあそこらへんは正道の個性というか持ち味であって、別に無理して変えなきゃいけないようなトコじゃないと思うんだよな。
あなたはいつだってレベルの高い想像を超える発想をオールウェイズ出してくれるから、たぶん日本に帰って一緒に暮らしてても毎日慌てちゃうくらい賑やかになって、退屈とは無縁で生きていけるんだろうな。
全部が全部みんなと同じようになんなきゃいけないワケじゃないんだ。
君が幸せに暮らせるだけの社会性というか協調性というか、"丸み"みたいなものを手に入れられたら……たぶん、それだけで良いんじゃあないかなぁ。
彼女の意識を逸らす為に咄嗟に手に取った蔦をにぎにぎしながら、僕はそんな事を思った。
みちみちに詰まって頑丈そうなのに、スゲー手触り良いんだよね。
貰った時は高所から落ちてきたせいで、鞭で打たれたのかと思ったけど。プレゼントに鞭打ちは高度過ぎる。
手の中で蔦をもて遊んでいると、横から伸びてきた大きな手がスッと抜き取ってゆく。
おっ……お、おぉ……?
しゅるしゅるとされるがままにしていると、気付けば両手首が縛られてしまっていた。
顔を上げると
数秒間の沈黙の後、彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。
それだけでなんとなく言いたい事はわかる。
ん、こういうのしてみたいんだね。
そんじゃまた今度痛くない縛り方を練習してみよっか。
やりたい事を示してくれたのが嬉しくて笑顔でそう返すと、彼女はこっくりと力強く頷いてくれた。
足元の影が揺らめいてて、今からもう楽しみにしてくれてるのがわかる。かわいいね。
「なるほど……勉強になります」
ならなくていい。これは特殊な事例だから。それぞれ好きなことしたらいいだけなんで。
その後も種だの実だのといった、のきなみ表に出したら国宝指定受けちゃいそうな激ヤバ国指定天然記念物を仕分けていく。
実はボゥギフト帰ったらメイちゃんにガレットにしてもらおうと決まり、種は目黒さんが育ててみたいというので鉢植えで育ててみることになった。
世界樹って観葉植物にしてもいいのか? まぁバレなきゃかまへんか。
そうして一段落したところで、委員長がふと思い出したように呟く。
「……混ぜっ返すようで悪いのですが、そもそもが青海君のバフを目的とした貢納なのですから、世界樹へ更に返礼をする必要は無いのではありませんか?」
貢納て。まー、そこよね。そこはね、ちょっと僕思うとこあってさぁ。
だってさぁ、ヒモなんだからバフはかけて当たり前じゃん?
それをなんか恩着せがましく「え、もう返しましたよね?」みたいな顔しちゃうのは、なんか違うっていうか。
なぜか目黒さんが「何言ってだコイツ」という顔をしているのが髪越しにも分かったが、実際こういうので大事なのは自分がどう思っているかだ。
おっと、勘違いして欲しくないがなにも相手の気持ち無視して押し付けて、自己満足しようってんじゃあないぜ。
僕が大切な相手に返したいのは、僕自身の気持ちのこもった物だってこと。
バフにだってできるだけの気持ちを乗せてるつもりではいるが、その性質上どうしたってオート反射的な、機械じみた応答である部分は否定できない。
僕が踏ん張って出してるわけじゃなく、自然と発されるそれにドカ盛りメニューのごとく無理矢理気持ちを後乗せしてる感じだ。本質的には愛込めと同じような事をしている。おっと、急におぞましい話になったか? 養え養えキュン♡
ようするに初発からして自発的に放出したわけじゃないモンで済ませようってのは、いささか義理に欠けるんじゃねぇかと思っちゃうってコト。
『えぇ……? 世界樹からしたら普通に命の恩人なんじゃけど……? とはいえ、本人がそう言うのならあちらとしても受け取るに否やはなかろうが』
あ、受け取ってもらえそうなんだ。じゃあまあ贈るべ。プレゼントなんかなんぼしてもええですからね。
でもさ、さっき自分で捻りだした案を否定すんのもなんだけど、腐葉土ってのはちょっと違う気すんだよな。
だって今って委員長のスーパー肥料で栄養たっぷりだろうし、あんまり栄養過多なのも良くねぇでしょ?
それに今はこうして抜け出してるとはいえ、世界樹の精霊の人格というか性格的な部分って多分フィルルエルさんが主体なワケで。やっぱ女の人はカロリー気にするだろうし、食べ物って結構好み分かれるからさぁ。
定番銘菓とかならネームバリューで許してもらえるけど、エルフの里にご当地腐葉土が存在するかって言われると多分無いし。
『おっ、坊は気が使えて偉いのぅ。婆孝行な子じゃて。でもワシもうこっち来とるし、世界樹自体に性別は無いぞ』
あ、そうなんスか?
じゃあますます返礼品の幅が広がっちまうな。
僕の周りの大人の男性ってたいてい酒が最適解なんだが、流石に木にお酒はなんか害とか出そうだし却下だろ。
「ではまず青海君が貰って嬉しいものを考えてみるのはいかがでしょうか?」
お、すごい! なんか"答え"っぽいアドバイスだ!
確かに相手が木だからって変に考え込むのも良くない気はするんだよね。
「うん? なんだい助手クン、贈り物の相談かい? 良い贈り物が思い浮かばないなら、物じゃなくて行動でも良い気はするけどね」
おぉ! 確かにそれはそうかも!
デート……は一歩も動かないし、お家デートしようにも屋外だしアレだけど、別に物にこだわらなくてもいいんだよね。
でもパッと思いつくのはゴミ拾いとか雑草抜くとかなんだけど、神聖な森だからゴミなんか元々無いし、雑草というか普通に自生してる植物だし、害虫駆除はもうしちゃったし……。
植物に喜ばれる行動、ちょっと動物には難し過ぎる。
「あらあら、みんなで集まって何の話かしら?」
「なんでも助手クンが贈るプレゼントについての会議だって、聖ちゃん」
「捨て置けねェ」
「おわー!? なんか今センセ光んなかったスか!? 敵襲っすか!?」
「青海が贈るプレゼント」についての討論だと嗅ぎつけた他の女性陣も、いつのまにやら続々と参戦。
途中参加してきた王城さんが持参した美味しい飲み物片手に、ああだこうだと腹を割った議論は白熱。
「価値とは値段なのか?」「消え物の無難な安牌さ」「贈り物である事より、"初めての"である事こそが肝要なのでは?」「初心に立ち返る必要性がある」「なら手作り」「質か量か」「質じゃない?」
──そして窓の外が白むまで行われた真剣なディスカッションの結果、見事朝まで続いた「それ正解」を一致させたみなは、燃料が切れたように寝床へと倒れ込むのだった。
「んぁ……」
窓から差し込む陽光の眩しさがまどろみの薄布を引き裂き、ぼんやりと意識が現実に引き上げられる。
もう朝ぁ……? なんか……なに? いつ寝たっけぇ……? てか……なにしてたんだっけ……?
どうしてか委員長と悪王寺先輩が一緒に寝ころんでいる布団からもぞもぞと這い出れば、陽はすっかり昇りきって正午を迎えようとしている頃合い。
他のみんなもまだ適当なベッドで、ごった煮みたいに死屍累々潰れていた。
普段の冒険や戦闘の翌日でもピンピンしてるみんながこうなるなんて、一体昨夜何があったんだ……?
なんか、それはもうものすごい、国の行く末を決める議会かよっつーくらいプライオリティの高い円卓会議があった……ような、気がするんだけど……。
すげー曖昧な記憶を必死に手繰り寄せようとするが、まったくおぼつかない。
寝相で壁をよじ登っていた鹿野ちゃんが、中空で寝返りを打ちベッドに落ちてポヨンと跳ねた。熟睡してる彼女は無論それくらいでは起きない。
頭をぽりぽり掻きながらふと枕元を見ると、くしゃくしゃの紙が落ちていた。
手に取って開いてみる。
「あー……」
そこにはたった一言、『ミサンガ』とだけ書かれていた。
木のどこに付けんだよ。