マンハッタンカフェに「蒸血」って言って欲しいだけだった 作:通りすがりのエボルトだ、俺の一部になれ
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:クロスオーバー マンハッタンカフェ エボルト ウマ娘トクサツダービー
『ブラックホールブレイク!』
――地球から遠く離れた、広大な星の海原に漂うとある惑星の命が、たった今終わりを迎えた。
同時に、
「さぁ…… 俺の
恒星の周りをのんびりと漂っていた惑星の目の前に現れし超重力の特異点――ブラックホール。
唐突に訪れた死の運命に抗えるはずもなく、星の表面は割れ、崩れ、地殻の奥底から血のように溢れでた溶岩すらも、空間すら歪める黒点に吸い込まれて消えていく。
それを恍惚そうに見下ろしているのは、赤黒い体色をした怪人であった。
(これで俺の力は極限に達したァ……! 時は満ちたなァ……!!!!)
両肩に固着した砲台のような一つ目の生物をざわめかせ、禍々しい装飾が施された巨大な籠手を装備した手で彼が撫でたのは、腰に装着された仰々しい器具。
惑星系を模したかのような丸いディスプレイの奥に赤い光を灯し、その隣のスロットには赤と鈍色の2本のボトルがセットされ、ディスプレイの上部にあるジョイント部には白と黒の刺々しいパーツが刺さる。片側の側面には回転式のレバーが取り付けられたそれこそ、彼の力の源にして、目の前の惨事を起こしてみせた究極の
それをひとしきりなぞった彼の手は、余韻すら飲み込み、静寂へ収束していく超重力の塊へ伸ばされた。
「遂に……!! 地球へ戻る時が来たァ!!!」
金色の輝きを湛えた四つの瞳が、さらにその妖しき輝きを増す。
聞こえるはずがない彼の声が真空に溶け、怒りと狂気と狂嬉の笑いが、惑星の残滓すらない静かな海に波紋を呼んだ。
――彼の名前は“エボルト”
かつて、“仮面ライダー”に敗北した、星を狩る地球外生命体。
紆余曲折を経て復活した彼の力は、度重なる犠牲の末、たった今全盛期を超えた。
それは、エボルトが地球へ舞い戻る合図であった。
(……随分待たせたなァ、戦兎。
瞬間、彼の身体は、後方に穿たれ渦を巻いた空洞に取り込まれ、消失した――
その時、彼が開いたワープホールに入る前に、エボルトは一つ、見落としをしていた。
彼の腰に巻き付いたエボルドライバー、その上部に取り付けられた白と黒の破滅の引き金――エボルトリガーに
◇◇◇
太陽系第3惑星にして、豊かな水を湛えた青き命の星――地球。
青白く光っているような大気のベールに包まれた惑星の周囲には、白磁の衛星――月が周回し、いつか、太陽がその寿命を終えるまで、その関係は分たれないと思われていた――
そんな、仲睦まじい兄弟の星を一望できる暗黒の空間に、破滅渦巻く穴が穿たれ、エボルトは姿を現した。
「……」
青い海に緑の大陸。ひしひしと感じられる生命の息吹を全身に受け、エボルトは思わず感嘆のため息をつく。その感覚は、この星で過ごした末に身についたものであった。
(……郷愁の念に駆られるってのはこのことか?)
地球で過ごした10年間――かつて、火星に根づいていた超文明を灰燼に返してやった引き換えに肉体を失い、長い間隙の後、火星探査に訪れた一機の無人探査機と出会って始まった因縁。
その後に訪れた火星探査の任を胸に抱えていた宇宙飛行士のうち一人、
己の肉体を再生させるために、星を狩る力の源――パンドラボックスの力を再生させるために、彼の地球での活動が始まったのである。
火星からくっついてきた因縁に振り回され、たくさんの遠回りを強いられた。その遠回りの過程で、彼の手によって生み出されたものこそが、仮面ライダー。
『お前は正義のヒーローを演じていたに過ぎない…… 仮面ライダーごっこをしていただけなんだよ』
全ては究極の力を取り戻すためだけの偽りのヒーロー。
自分が用意した敵と競わせ、自分が演出した悲劇に悶え苦しませ、乗り越えさせた。ちょうど、人間が家畜を手塩にかけて育てる感覚で。
仮面ライダーは与えられた代役を見事にこなしてみせた。
『最っ悪だ…… ここまでコケにされてたとはな……』
――だが、エボルトが作った偽りのヒーローは、いつのまにか本物になっていた。
『けどな…… 俺たちの信じた
愛と平和、LOVE &PEACE。エボルトにはわからなくて、くだらなくて、簡単に踏み潰せると思っていた理想を掲げ、所詮は盤上の駒と思っていた仮面ライダーは生きて、抗い、いつのまにか厄介な存在となっていて。
『今の俺は…… 負ける気がしねえ!!』
『心火を燃やして…… ブッ潰す!!』
『大義のための…… 犠牲となれ……!!』
『――さぁ、実験を始めようか』
感情を得て尚、エボルトが語る“力”は一つ。
『破壊こそ“力”だ!! お前の正義など、俺が壊してやる……!!!』
あの時、究極の力を得た己をエネルギー源とし、“エボルトの存在しない世界”を生み出す仮面ライダーの決死の作戦を前に、彼との最終決戦で吼えた言葉。これが揺らぐことは無い。
一方、彼の感情は知っていた。仮面ライダーが掲げる理想も、また“力”なのだ。
『この俺が滅びるだと……!? そんなことがあってたまるかァ……!!! 人間風情がァァァ!!!!!』
だからこそ、一度は敗北した。
『があっ……!! なぜだ……!? 人間、如きにィ……!!!』
『まだわからないか?
復活を遂げて、エボルトの存在しない新世界へ足をつけた途端に出会った厄災、己の兄――キルバス。エボルトが純粋な力と力のぶつけ合いにおいてただの一度として勝てたことのない相手。
そんな相手にすら、人間は、仮面ライダーは勝利してみせたのだ。
正義を信じる心。意志を貫き通す“力”。それも確かに存在している。
だからこそ、エボルトはこの星に帰ってきたのだ。
「久しぶり…… でもないか」
指でつけば簡単に壊せるはずの星を見下ろし、エボルトはフッと声を漏らした。
四つの視線を逸らし、赤黒い怪人態が向けられたのは地球の兄弟。
(手始めに…… 軽く挨拶しないとなァ?)
メタリックブルーが煌めくエボルドライバーのレバーグリップに手を添えたエボルトは、その力を振るうべく指先に力を込め――
「……は?」
エボルトは、目の前がはたと明るくなったことにたじろぎ、
◇◇◇
「なっ……!?」
上下左右の概念なんて宇宙にはない筈なのに、なぜか地面に足をつけている。確かな重力を感じる。
爽やかな風が吹き抜けて行って、エボルトの腰に意匠された布のような外殻を揺らした。
おもてを上げれば、そこには夕暮れのような空が広がって、幻想的に渦巻いた巨大雲が聳えていた。
(幻覚…… 戦兎の策にハマった……)
その時、エボルトは確かに、自分の後ろで足音がしたのを捉えた。
「――やぁ、初めまして。子羊くん」
「……」
気配がない。しかし、女の声がした。
最大限の警戒を払い、エボルドライバーのレバーに手を添えたエボルトは、ゆっくりと身体を後ろへ向ける。
そして、彼が見たものは、声の通りの女で、赤い髪に露出の多い服装、何より、忌々しい
「俺の名前は“ダーレーアラビアン”。この世界で神様をやってる、――ウマ娘さ」
凛々しい声ではにかみながら言う存在は、その場に留まりながら言葉を続けた。
「ここは、別世界の宿命と“名”を受け継いだ子達――ウマ娘が、平和に楽しく暮らしている世界」
「
「貴様をここに引き込んだのは他でもない。貴様は、この世界に
そして、立ち尽くしていたエボルトは、いつのまにか取り囲まれていることに気がついた。
三角の陣形で取り囲むようにして、青いジャージを着た、赤いのと同じように頭に耳を生やした存在が、黄色の軍服のような服装を纏った、頭に耳を生やした存在が、突き刺すような視線を向けていることに、エボルトが気付かぬはずはなかった。
「こんなの始めてなんだよ。……君は何者?」
赤い髪をした存在――ウマ娘、ダーレーアラビアンは一歩踏み出し、温和な笑みを湛えたまま口を開いた。
「……ヘタな芝居はやめたらどうだ?」
それを見て、尚エボルトは不敵な態度を崩さないでいた。
「さっきまでは何にも感じなかったが…… 今は感じるよ。――俺に対する
翠の瞳に光が走るのも構わず、エボルトはそれを鼻で笑ってすらみせた。その奥で巡らせる思考を悟らせぬために。
(コイツらの言葉を鵜呑みにするなら、ここは俺の世界とは異なる
実際、世界線を超える方法が無いわけじゃない。宿敵が親より受け継いだ、一度は己を打倒した計画を思い出しながら、ふと、エボルトの手は、今尚膨大なエネルギーを汲み出し続けているエボルトリガーに触れる。
(俺の
本来は惑星間の迅速な移動を可能にするだけの力が、新たに世界線すら飛び越えることを可能にした。
その結論に至って、エボルトは高揚せざるを得なかった。
「質問に答えてやる」
上擦った声を奏でると同時に、彼の右手はエボルドライバーのレバーグリップを強く握りしめ、そして、力強く回転を始めさせた。
「――俺の名はエボルト!! あらゆる惑星を吸収して、自らのエネルギーに変える地球外生命体だァ……!!!」
破滅を予感させるメロディがドライバーから鳴り響き、エボルトの身体に赤いオーラが沸き立つ。神聖な空気が張り詰め、足元の芝生が靡いて、ちぎれた。
――しかし。
「神だとかなんだとかしらねェが、戦兎達の前に貴様らを滅ぼして――」
「そうか」
瞬間、エボルトの生存本能が震えて――
「……かっ!?」
気づけば、彼は膝をついていた。音もなく、痛みもなく。
練り上げたエネルギーは霧散し、それどころか、エボルドライバーから青白い稲妻が唸りをあげて――
究極の力を食い荒らすように、エボルトの身体を這って、包む――!
(……ハザードレベルなんて感じなかった、バカな!? こんな呆気なく!??)
怪人の姿が溶け、白と黒のアーマーを身につけた
「っえぇい……!!」
四つ這いとなったエボルトが見上げた先にあったのは、妖艶で冷たい、三女神達の微笑みだった。
「――俺たちは、この世界の平穏を守っていたいんだ。……君は、この世界では、力も、思想も、何もかもが噛み合ってない」
「抵抗は無駄だって、今の一瞬でわかったでしょう?」
「わかったのなら――」
「「「尻尾巻いて、自分の世界へ帰ってくれないか?」」」
侮蔑、嘲り、そして明確な拒絶の意思。
下等生物に噛み付かれた時と同じ
「……っふざけるなァァァァァ!!!!!!」
急激に引き上げられたエボルトの身体エネルギーが瀑布の如く溢れ出した。
そして、その輝きは一瞬地球を照らして、消えた。