「はい、スタート!」
雄英高校ヒーロー科、実技試験が始まった。市街地を模した会場では、ヒーロー志望の受験生たちが市街地内を走り仮想敵を探し回り、次々とスクラップへと変えていく。ほとんどの者がわき目も振らずに一目散にロボットを破壊し、個人プレーによってポイントを稼いでいく。
倍率300倍の狭き門、それがヒーロー科である。受験生の誰もがその門を潜り抜ける為に必至だ。
それだけに、あるいはだからこそヒーローとしての素質が問われる。
ヒーロー社会においてヒーローは目立たなければならない。ヴィランに対して抑止となるためにもその存在を誇示しなければならないからだ。その結果として、まるでスターかのようにマスコミからも取り上げられる。
だからこそ暗に問うのだ。お前はヒーロー足りえるのか。
倍率を気にして椅子取りゲームに興じるようではヒーローとして不適格だ。たとえ序列が生まれようとも、たとえ限られた敵を取り合うような制度であろうとも。立ち向かうべき敵を前に手を取り合えないならばヒーローではない。
自己顕示欲に囚われて同業者を蹴落とすような精神では、個性を持て余したヴィランに対抗するうえで邪魔にしかならない。
確かにわかりやすく目立つのは象徴として君臨する為にも、ひいては平和をもたらすためにも大事だ。しかし目的をはき違えて世界の平和よりも自分の評価を気にするようなヒーローがいれば連携にも不備が生まれてしまう。
些細なことでも積み重なれば、ヒーローたちの手からすり抜けていったヴィランたちによって、いつか社会は荒廃してしまうだろう。
そんな中、突如として謎の巨大要塞が現れ、街や仮想敵を飲み込んでしまう。そして出久たちの前に、見た目はオールマイトにそっくりだが真逆の信念を持つ敵・ダークマイトが立ちはだかる。
「ひとつ問おう! 新時代には何が必要だと思うかね?」
仮設された市街が食いつぶされるように崩壊していく。
試験における目玉だった0ポイントの巨大仮想ヴィランすらも上回る巨大要塞によって、何もかもが飲み込まれていく。
「そう!」
その巨大要塞の上にいる"一人"の男は、その場の"全て"に問いかける。
自らの信念を誇示するように。敬愛するオールマイトに捧げるように。
「破壊だ」
すべてを破壊しながら、自らの問いかけに答えを為しながら。
(((オールマイト……!?)))
見た目はオールマイトにそっくりだが別にオールマイトとは無関係な一般受験生の狼藉を前に、しかしヒーロー科志望の面々は驚くほどに落ち着いていた。
雄英高校と受験生の間にある認識の差が、不幸なすれ違いを生んだためである。
本来ならば想定外極まりない個性の暴走であり、人命の観点からも試験継続は不可能。直ちに雄英高校からの避難勧告があるはずであった。
しかし謎の巨大要塞によって全ての放送機材が破壊されてしまったこと、ダークマイトの象徴ともいうべき構文を聞き逃させないかのように、ダークマイトの言葉から意識を逸らしうる音波がシャットアウトされ受験生に対する周知を行うことが出来なかったこと。
『これは予定された出来事なのか?』
やることが派手な雄英高校であるが故に、受験生には事故と試験の区別が出来なかった。
またアレの容姿も問題であった。
明らかにオールマイトを意識した見た目で、明らかにオールマイトが言わないことを宣言する。
オールマイトが雄英高校の教師となったらしい、という噂が流れる中でオールマイトのパチモノっぽい奴が試験会場に現れる。
その因果関係によって逆に、受験生の誰もがアレを"雄英の関係者"と勘違いしてしまった。
『これは実技試験で予定されたイベントである』
構文の力ァ!によってダークマイトと化した受験生が個性的な言葉を放ちながら試験を滅茶苦茶にしました、などというダークマイト真実よりも『ロボットを破壊するとか事前に説明された試験のルールは嘘で、災害のような暴威を前にしたときのヒーローとしての行動力を求められている』という考察のほうが信ぴょう性を見いだせるが故に、受験生の意識を個性の暴走や人為的な災害から"雄英高校が受験生たちのハートに問いかける試練"へと塗り替えてしまったのだ。
『実技試験の課題は真の0ポイントヴィラン"ダークマイト"に対処することだ』
それは不幸なすれ違い。しかし、ただの勘違いなのだとしても雄英が与えた困難を前に受験生たちは結束する。
たとえ門を潜りすらできていなくても、彼らは雄英高校ヒーロー科に受験するヒーローの卵だった。
それらがナンバーワンヒーローの期待に満ちた眼差しを前に、ただの受験生でいられるだろうか?
いいや、立ち止まるなんてあり得ない。立ち止まるならヒーローなど目指さない!
精神はさらに一歩先へと進化する。ただの受験生からヒーローの卵へ、そしてさらに一歩先へ、自らの殻を破り捨てる!
小さなヒーローたちの心に、オールマイトからの熱き激励が、一つのメッセージが伝わって来た!
「次は俺たちだ……!」
Plus ultra!
ダークマイト出現から僅か数分にも満たない時間で、受験生たちは自らのやるべきことを見出し三つのグループに分かれながらヒーロー活動を開始していた。
「瓦礫だ! そこ頭上注意!」
「危ねェ!?」
「あたしの個性なら……!」
「すまん、そこ任せた!」
一つは自らのやるべきこととして、崩壊した市街地の中で二次災害を抑えるグループ。
「個性『洗脳』行けそうか?」
「――無理だな。受け答えをしているようでしていない」
「対策もバッチリかよ!?」
「正直最初はヴィランっぽいと思ったけどさ、0ポイントヴィランと比べたら霞むわ」
「ふ、いいからダークマイト対策考えるぞ」
一つは自らのやるべきこととして、目の前のヴィラン・ダークマイトを抑えるグループ。
「世界よもう大丈夫! 俺が来た!」
そして最後の一つがダークマイト。自らが新時代の象徴となるために力による破壊をもたらすグループ。
一つのグループを除き、拙いながらも確実に出来ることをこなしていく。否、それまで出来なかったことすらも限界を超えて成し遂げていくヒーローの姿がそこにはあった。
「SMAAAAASH!!」
「回復系の個性!」
「また!? っていうかアレでも駄目なの!?」
「拳が駄目でも脚を使って! 限界を、超えて――! SMAAAAAAASH!!!」
一度で砕け散る拳の一振り。限界を超えた個性の行使すらも通過点に、誰もがより高みへと。
少しずつ、着実に押しとどめていく。
本来は対抗など出来ないはずの無理を押し通して。
誰もが思った。「これは無理だ」と。
誰もが思った。「だからやるんだ」と!
ここを乗り越える、その一心が。思考の余分を切り捨てた極限状態が、振るう"個性"を押し上げていく!
「「「わぁぁぁあああ!!!」」」
異様な熱狂、まるでその場に至るべき頂きへと無理やり押し上げるように、その力は燃え上がっていく!
「この力で、俺はオールマイトを超える!」
「関係ない人たちを巻き込むなんて事、オールマイトは絶対にしない!!!」
そして若きヒーローが一丸となってダークマイトを食い止める中、雄英のプロヒーローも崩壊した現場へとたどり着く。
まさかオールマイトの後継者ってアレじゃないよな、いやまさかなという空気も洒落にならない破壊を前に切り替えて直行した先にあったのは、ヒヨッコですらなかった子供たちが成長し歯を食いしばって堪える姿だった。
「もう大丈夫」
「私が来た!」
混沌を極めた国立雄英高等学校ヒーロー科実技試験。
試験終了まで、あと――
この世界線では最終決戦直前にもう一度ダークマイトが出てくるらしい。