時渡りの聖戦士達との出会いにユバール族は歓喜に沸いた。寝物語で聞いていた伝説の英雄達が今、目の前に居るのだからそれはもう興奮が止まらなかった。
そして、一族との再会を祝した宴を開催しようと族長達は当代最高の踊り手アイラを呼ぼうとしたが、当の本人はさっき怒りに身を任せて休息地から出て行ってしまったと思い出したのだった。
「それなら、俺達が迎えに行きますよ」
「っ!? いや、お客人であり大恩あるアレン殿達にそんな事は些事をさせる訳には……!?」
「でも、身内だからこそって事もあるとは思うわよ? 気持ちの整理とかをする為に1人になったのに、貴方達が来たら再燃しかねないと思うわ」
「そうだね……。僕達は今の所はすれ違っただけの旅人なので、心の整理を着かせる話し相手くらいにはなれるかと思います」
「オイラ達に任せるぞー!」
「ガウッ!!」
「そう言う事でしたら、アイラをよろしくお願いします」
目を丸くして驚きながらも確かにと納得した族長は、他の一族の者達と顔を見合わせるとアイラの両親や祖先が眠る海が見える丘へ居るだろうとアレン達へ伝えたのだった。
日が沈んだ夜の空。海が見える丘に辿り着いたアレン達はそこに佇む長髪の女性アイラの後ろ姿が、かつて一緒に冒険したキーファの面影を見て思わず手を伸ばしそうになってしまう。
「誰っ!?」
「あっ……」
「いや……」
「あら、な〜んだ。さっき私達の村を訪ねて来た旅人達じゃない。てっきり、村の誰かが追いかけて来たのかと思ったわ……。
こんにちは。いや、今はこんばんわかしらね。私はユバール族のアイラ。旅の人達が私に何か用?」
「俺達には用事は無いですよ」
「族長さんに貴方を呼んで来て欲しいって頼まれたのよ」
「まぁ、尤も僕達の方から行きますよって提案したんですけどね」
「オイラ達が迎えに来たぞー!!」
「ガウッ!!」
「あはは! そうだったのね。まぁ、さっきは私もやり過ぎちゃったから族長様も気を遣ってくれたのかしらね……」
恥ずかしそうに照れるアイラは頬をかきながら誤魔化す様に足元の小石を蹴った。
その仕草や表情がとてもキーファに似て見えてしまいアレンは彼女を放っては置けずにいた。
「初対面の俺達が質問するのもアレだけど、どうしてさっきは飛び出したのか聞いても良い?」
「……どうして、そんな事を?」
「興味本位、と言う訳では無いけど……。強いて言うならアイラさんがさ、俺達の親友が思い悩んでいた時みたいにとても悲しそうで苦しそうだったからお節介が焼きたくなったのかな……?」
「っ!? そう……。その人は貴方達みたいな友達が居て幸せね」
「迷惑に思われて居なければ良いとは思っているだけだよ……」
「でも、そうね……。それじゃお言葉に甘えさせて貰おうかしら」
「胸を貸してあげるわ!」
「どんと来い!!」
胸を張ったマリベルとガボを見たアイラは少しだけ笑みをこぼして自身の胸の内について語り始めた。
「ふふっ。ありがとう……。さっき私が飛び出したのは族長様との意見の対立、かな……?
神を復活させる為の儀式を皆んながどれだけ待ち望んでいるのかは私も良く理解しているわ。
けれど、今はその時では無いの。儀式の成功には大地のトゥーラを弾きこなす弾き手いなきゃダメよ。
私がこの身全てを演奏に委ねる事が出来る……。それ程のトゥーラの弾き手がね……。
一族の悲願を果たす為にも絶対に必要な事だけど……。それを族長様は分かってくれないのよっ……!!」
「確かに……。アイラさんの言い分は正しいと思う。踊り手が全力を出せない演奏は見る側としても致命的なノイズだと思う。
特に神様の復活に捧げる演舞であればこそ、全身全霊を出し切りたいって言う激情は演者の性として至極当然だよ」
「そうっ! そうなのよ!! 貴方、良く分かっているわね!!」
「まぁ、俺もトゥーラは嗜むからね。特に相方が超一流の踊り手だったから尚更気持ちは分かるよ……。
尤もな話……。恥ずかしながら俺の技量じゃ、最後まで
「へぇ〜。それは個人的にとても気になるわね……。でも……。あっ! そうだわ!!
ねぇ! 貴方達、後で族長様のテントに来てくれる? この話の続きはそこでしましょう。悪いんだけど、お願いね!」
何かを思い付いた様にして明るい表情を浮かべたアイラは強引にアレン達との会話を中断して急ぎ休息地へ走っていった。
その強引な後ろ姿にアレン達は呆然としつつも、幼き日からエスタード島で一緒に暮らして来たキーファの後ろ姿と重なり苦笑しながら後を追ったのだった。
休息地に着いたアイラは族長達に直談判してアレン達の旅に着いて行こうと説得を試みたが、それはあえなく失敗に終わった。
彼女はその時初めてアレン達が自身の寝物語に聞いていた時渡りの聖戦士達である事を知らされたからだった。
出鼻を挫かれた彼女は落ち込みながらも、ユバール族の踊り手として族長達と共にアレン達の宴を開いたのだった。
「ホッホッホ。聖戦士の皆様、ユバール族の宴は楽しんで頂けましたかな?」
「えぇ、それはとても。過去のユバール族の皆さんも凄かったけど、現代の皆さんも凄いですね」
「ホッホッホ! それはそれは……!!」
「嬉しい限りですわっ……!!」
「実際に我々の先祖と会って来たアレン殿ならではのお褒めの言葉。とても光栄に思いますぞ」
「あはは……。いや、本当にそんな恐縮な態度じゃなくて良いんですからね? 自分達は年下ですし、何よりももっと仲良くしたいのでね……」
「いえいえ、そんな……」
「聖戦士殿達に、それは……」
「あ〜……まぁ、その内慣れて頂けたら幸いです。それで、さっき話した件ですが……」
「皆と話し合った結果、アレン殿達のご厚意を受けようかと思います」
「ご決断、ありがとうございます。これでバーンズ王も、とてもお慶びになるかと思います。
しばらくの間はテントになってしまいますが現在建造中の住宅が出来次第、順次案内が出来るかと思いますのでお待ち頂ければ幸いです」
「何から何まで至れり尽くせり、ありがとうございます」
「いえいえ! グランエスタード王家の皆様は神の復活後、ユバール族の皆さんを国民として迎え入れる準備も兼ねていますので、先の話ではありますがご一考の程よろしくお願いします」
「本当にありがたや……」
神の復活と言う悲願から国を持たずに一定の場所に留まらないユバール族ではあるが、別に安住の地が要らない訳では無かった。
寧ろその逆であった。ただ、過去の経験から神の復活を阻止しようとする輩が彼等を狙う関係上、1箇所に留まっては他の人達に迷惑が掛かってしまう恐れから放浪し続けていた。
しかし、長い年月を経て仮初とは言え神を必要としない平和な時代に果たして、自分達が厳しい掟を守ってまで神の復活をする必要があるのかと疑問に考える者も出て来た。
それは決して間違った考え方では無かった。族長達も若き日に頭の片隅に過った考えであった。
だから、今回アレン達が提案したエスタード島への一時的な保護と言う名の移住は彼等からしても有難い話だった。
時渡りの聖戦士達との再会を果たしたと言う事は自分達の使命の終わりが見えて来たと言う事に他ならない。
国を持たない彼等にとってグランエスタード王国からの提案は、放浪の民である彼等にとって念願だった安息の地を得られると言う事に他ならない話だったのだ。