軍事帝国アドラーは今、一部の者達から最悪な時期。
数多の民衆と兵士達からは最高の時代と呼ばれていた。
「総統閣下、此方スラム開発計画です」
「わかった、アオイ。コールレイン中佐を」
「失礼ですが、総統閣下。
コールレイン中佐は戦死なさいました。
生きているとしても、閣下とは違い今は次元の外です」
「…コールレイン中佐のスラム開発計画を進めろ。
マフィア、ギャング、薬物密売組織、
其れ等は殲滅して構わん。住民に関しては社会復帰及び、
軍の寄宿学校へ」
「犯罪者はいかがなさいますか」
「……コールレイン中佐は恐ろしいな。
記載がある」
「強制労働所、しかし休憩、食事、
それらを十二分にとらせ管理するか……
反抗的な場合、処刑も辞さない」
「コールレイン中佐、彼が居れば苦労はより減りましょう。
いずれ、回収する必要があるかと」
現在、メルビン・コールレインの英雄再臨計画により
クリストファー・ヴァルゼライドは復活を全世界に知らしめた。
そして、数多の兵士達から求められた英雄が、
再び総統の座に就いた。
変わったことは『誰かを護る』ではなく、
『国を護る』と言う事。メルビン・コールレインが、
『掬う英雄』ならば、己は『切り捨てる英雄』。
だが、今求められるのは『掬う英雄』だ。
アドラーを強固にし、国民達を守れる英雄。
スラムを改革し、生きられる世界を作る英雄。
「中佐、待っているぞ。お前の仕事もある」
英雄ではなく、悪の敵。
だが、確かな完全無欠のヒーロー。
クリストファー・ヴァルゼライドは今、
アドラーの総統として日夜停滞した国家の改革に
勤しんでいるのだ。
「……たのもー」
「お嬢さん。
ここは道場でも無ければ、お嬢さん見たいな子供がくる所
……いや、ちゃんと言おうかロキ・ファミリアが
近付くべき場所じゃない」
アドラー地区の入り口で子供がアドラー地区の警備隊に
声を掛けていた。
少女の名前はアイズ・ヴァレンシュタイン。
年齢9歳のレベル3。人形姫と呼ばれる新進気鋭の冒険者だ。
「俺が今、保護者代わりだ」
「…ベート・ローガ。
コールレイン隊長にまた文句でも言いに来たか」
「うっせ……近くに居たら殴り込もうとするこのガキを」
「ガキじゃない」
「くっそ……」
ベート・ローガ。【ヴィーザル・ファミリア】団長。
15歳の若手である。平原に住む狩猟部族の出身だが、
オラリオに来た後、神ヴィーザルと出会い冒険者となった。
そして窮地に陥った際、夢に見た『完全無欠のヒーロー』。
メルビン・コールレインが助けてくれたのだ。
だからこそ、だからこそベート・ローガは苦しんだ。
「何で助けてくれなかった!
アンタは英雄なんだろ!アンタは……
なのに……なのに……どうして」
それは子供故の癇癪、だが……
メルビンはその言葉を、涙を知っていた。
「助けられなくて、済まない。
お前の手を取りこぼして済まない」
「え………」
その時、ベート・ローガは見てしまった。
『完全無欠のヒーロー』がどういう存在なのかを。
『光の奴隷』が何れ程歪で、壊れているのかを。
自分の八つ当たりを、心から受け入れ、メルビンは
ベートに光を見せた。見せてしまった。
理解できなかった、理解が拒んだ。
その精神性は、呑み込まれた瞬間抜け出せなくなる。
ベートはメルビンの様に光に憧れるのではなく、
弟の、ゼファーの様に光を、絶滅光を拒絶し否定したのだ。
「メルビンに…あの人に恨みなんかねぇよ。
弱い俺が悪いんだからな、でもな……俺は駄目だ。
あの人みたいな『英雄』には絶対なれない」
「ベートさん?」
「……ガキは知らなくていい。
その、此奴が剣を教えて欲しいんだとよ。
最初、殴り込もうとしてた猪娘だ」
「…苦労してるな」
「苦労ってか。
まぁ……あの考え方や生き方は俺には無理だが、
その弱い奴を強くするって考えは納得できる。
弱い奴から死んで行く。俺もそれを理解してる。
だが、此奴の場合駄目だ。頭が猪過ぎる」
「猪じゃない!」
「んご……て…てめぇ……」
いくら歳下といえど、
ステータスが上の存在に鳩尾に一撃を貰うとベートも
耐えられない。だが、一人の男としての矜持で、
ギリギリ意識を保たせる。
だが、どうしてもしゃがみ込むのは耐えられない。
「…お前、本当苦労してるな」
「俺……別に、此奴のファミ…リア……じゃ ねぇ」
「……お前達、何をしている」
そんな騒ぎをしていると、メルビンが困惑顔で現れる。
それを見た隊員は即座に敬礼する。
「コールレイン隊長、お疲れ様です!」
「ゼブ、ベート・ローガにアイズ・ヴァレンシュタイン。
その2人が何故いる?どういう組み合わせだ」
「はっ!自分が聞いた限りですと……」
ゼブと呼ばれた隊員は先程までの流れをメルビンに話す。
メルビンはそれを聞くと、頭に手を当てて困惑顔を
余計に深めていく。
「ベート・ローガ、その……大丈夫か?」
「……何でベートさんを?」
「箱入娘のお世話、ご苦労だったな」
「…俺、本当なんでこんな事に」
ベートは口は悪いが、
子供を見捨てられる程擦れていない。
自分が弱いからと力を切望していたが、
その力を手に入れた先がメルビン達、
『光の奴隷』となるのなら自分はその切望すら捨てられる。
そう、捨てられるのだが、こんな面倒事というか、
巻き込まれるのはナンセンスだ。
「私を鍛えて」
「何言ってる」
「おい、猪娘。お前、本当に」
「私は強くなりたい、貴方は最強。
最強に鍛えられればきっと強くなる」
「…アイズ・ヴァレンシュタイン。
俺は少なからず、いや俺はロキ・ファミリアとは
《敵対関係》に当たる存在だ。
俺は奴等に対する怒りを忘れてはいない。
最悪、お前が仲間から捨てられるぞ」
「…それはヤダ」
「俺を師事するとはそう言う事だ。
諦めろ、せめて保護者を呼んでこい」
「判った、ベートさん。ありがとう。
メルビンさん、おじさん、さようなら」
「おじっ…おじさん?!」
いくら敵対関係にあるとしても、
子供を巻き込む大人は居ない。
ゼブはおじさんと呼ばれた事にショックなようだが、
メルビンは子供の言葉だから気にするなと言う。
「ベート、お前は」
「あ……、俺は付き添いで来ただけだからな。
さっさと彼奴等の所に」
「……ベート、このオラリオで近いうちに争いが起こる。
ファミリアとの抗争ではなく、オラリオという都市を
破滅に導く程に危険な争いが、確実に起こる」
「何が言いたいんだ、アンタ」
「俺はお前達を護る、それが俺の。
『断罪者』の使命であり、責務であるからだ。
逃げるを恥だと思うな。生き残ることが、最重要だ。
死んでしまえばおしまいだ」
「…死なねぇよ。俺も、俺らしく生きたい。
アンタみたいな『破綻者』じゃねぇ。
俺は一人の男、ベート・ローガとして生きたいんだからな。
『英雄』なんかになるかよ」
ベートはそうぶっきらぼうに言うと、
自身のファミリアのホームへと帰路につく。
「……ベートの事、随分と気に掛けていますね」
「…あの目は、俺の弟と同じ目をしていた。
ベートは強くなるぞ、きっと俺を超えるだろう。
俺を超え、己の道を進むだろう。ゼファーの様に」
ゼブは、ゼファーと呼ばれた相手をすぐに理解した。
メルビンが父親の様な微笑みを見せる相手は家族のみ。
そして、何度も噂話に聞いている。
メルビンには弟が居ること、弟と殺し合った事。
最後には、和解とはいかなくとも友好的には戻れたこと。
そして、メルビンと殺し合える程の実力者であること。
「隊長の弟君に迫る…ですか?…想像できませんな」
「……私もだ」
だが、メルビンはベート・ローガをそう思っている。
確信しているのだ。
アレは折れた、折れたが突き進む。
そして、自身の喉仏に喰らいついた弟と同じ存在になる。
「伝令!!敵襲!
ロキ・ファミリア副団長及び傘下の冒険者数名が
完全装備でアドラーに向けて」
「各員第2種戦闘態勢。市民の避難の準備もしておけ!
今回、俺が最悪先陣を切る!
ゲールマンに指揮を任せると伝えろ!」
「了解しました!」
アイズ・ヴァレンシュタインが
消えたと思えば新たな火種が飛んできた。
メルビンは怒りを確かに燃やしながら、
アドラーとオラリオの境界に立つ。
金色に輝く光の障壁が出現する。
其れ等はアドラーを守護せんと仇為す者を
触れた瞬間焼き尽くす物。
「呼んできた」
「アイズ・ヴァレンシュタイン。
貴様……宣戦布告したいのか」
「なんで?」
「………」
理解できないのか、子供特有の純粋さにメルビンは
仮想敵の前だと言うのに固まってしまう。
恐らくメルビンを一番悩ませているだろう少女。
アイズ・ヴァレンシュタイン。
彼女は何故アドラーとロキ・ファミリアの仲が
最悪なのか知らない。
そもそもアイズ・ヴァレンシュタイン自体、
アドラーに度々遊びに来る程度には住民に知られている。
無論、周りに監視はされているが子供であり無邪気すぎる。
「メルビン・コールレイン。
先ず、アイズの非礼を詫びさせて欲しい。
我々、ロキ・ファミリアはアドラーと戦争等とは考えていない」
「なんで戦争?」
「……アイズ」
「……だいたいわかった」
メルビンは頭を痛め、理解を示したが光の障壁は解かない。
「リヴェリア、貴様…己の娘も見れんのか」
「む…娘ではない!アイズは仲間だ!」
「…なら、随分と哀れだ。
アイズ・ヴァレンシュタインは俺に剣を教えろときた。
貴様ら、ロキ・ファミリアにはまともに戦える剣士は、
もう居ないらしい」
メルビンの皮肉を込めた言い方にリヴェリア以外の顔が歪む。
元はと言えば、ロキ・ファミリアの戦力がリタイアしたのは、
メルビンのせいである。
ゼウスとヘラの失踪の日、オラリオを敵に回し勝利した
単独にして、軍団。
それによりベテランになれるだろう存在が死ぬか、
現役復帰は不可能となったのだ。
「貴様らが責任転嫁しているようなら言ってやる。
貴様らの主神も殺してやろうか、
そもそもオラリオからアドラーに対する進行。
それを情で助けてやっているのだ」
「コールレイン、おま」
「よせ、此処で一回でもメルビンに拳を振ってみろ。
今、オラリオで我々は即座にスケープゴートにされる。
お前のその行動で、皆の命が消えるんだ」
「…すみません副団長」
「やすい挑発に乗るかとおもったが…良いだろう。
先ず、事の発端を話す」
メルビンは部下を制し、
挑発にもならないリヴェリアを敵軍指揮官と称え、
事の発端を話し出す。
「アイズ、お前という」
「だって、強くなりたいから」
「それでよりにもよってこの男の……」
「鍛えてやるのは吝かでもない。
弟子は何人か居るものでな。だが、貴様らとアドラー。
我々が友好的だと思われるのは癪だ。
立場を明確にしろ。
リヴェリア、貴様が俺に頭を下げあの時の行動は不当である。
そう、此処で宣言しろ。そうすれば教えてやる」
「待て!それは…」
「では、アイズ・ヴァレンシュタインの最初のひと言。
たのもーだったか?宣戦布告と見なすぞ」
「……貴様、子供をダシに」
「俺から母親を、妹を、家族を奪った貴様らには
言われたくないな。己の利益の為、嘘を吹聴し」
「何やってんだい」
リヴェリアとメルビンが一触即発になりかけていると、
フリュネが大戦斧を担いで現れた。
「何しに来た、フリュネ」
「いや、あんたらが戦争しそうだっのをみてね。
話は聞かせてもらった。隊長、どうせ剣を教えるだけだろ。
アンタ、負けないんだから良いだろ」
「……だが、
アイズ・ヴァレンシュタインがアドラーに刃を」
「いや、やる気になればオラリオを5分で滅ぼせるだろ。
そんなアンタに比べたら、
アイズとかいう小娘はアメンボ以下。
てか、ロキ・ファミリアなんてアンタと
アタシが組めば15分だ」
「時間が延びているようだが」
「そりゃあアタシがあえて、足を引っ張るからさ。
アンタも素直に謝罪しな。
元はと言えば、ロキが売った戦争だ。
休戦協定を結ぶなりにしても、
アンタラは敗者なのは変わらんよ。
オラリオ中が知ってる事実だ」
「…フリュネ、貴様は我々を侮辱」
「……副団長様は馬鹿だ。
言うがね、とっくにオラリオは割れてんだ。
アンタラやギルドという泥舟か、
ワンマンアーミーが鍛えた最強の軍隊と手を結ぶか。
日和見、中立。私やガネーシャは手を結んだ。
お前らとじゃない時点で察しなよ」
「………メルビン・コールレイン。
一度、ファミリアに戻り会議をさせて貰う」
「謝罪の対価は、ロキの首と言いたいが……
正直、もう興味もない。フリュネの言う通りだからだ。
そうだな、子供に罪など無い。貴様らを赦すかは、
貴様らの行動次第とするが……来い。
アイズ・ヴァレンシュタイン」
「まて、アイズに何をするつもりで」
「強くなりたいのだろう。
アイズ・ヴァレンシュタイン」
「うん」
「…良いだろう、貴様を
ー
残された時間は数少ない。
《絶対正義》と、《絶対悪》。
2人の英雄がぶつかり合うのは近い。