高校最後の夏、少年少女らは何を想うか——

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初めましての方は初めまして。それ以外の方はご無沙汰しております。
希望光です。
こちら、企画用小説として書かせていただきました。
本編どうぞ。


最後の夏

 照りつける日差しが強くなり始めた6月の下旬。俺はCiRCLEのカフェテラスでRoseliaのベーシスト、今井リサと共にコーヒーを嗜んでいた。練習を終え熱った体に冷たい飲み物、特にコーヒーを流し込むのが最高に心地よい。

 その感覚を楽しんでいると、不意に対面に座るリサがこちらへと問いかけてくる。

 

「ねー、洸夜達ってインターハイ行くの?」

「……インターハイ?」

 

 手にしていたコーヒーの入ったカップをテーブルの上に置きながら首を傾げる俺。彼女の口からインターハイの話が出るとは思っても見なかったがために。

 

「インハイ……まあ、行く……ねぇ」

「行くんだ」

「うん。地区は突破してるし」

 

 視線を彼女から逸らして答えた俺。高校運動部の花形とも言える夏の大会であるインターハイ。俺はバレーボール部に所属しているため勿論インターハイに挑む。なんなら先に述べた通り、地区大会を勝ち抜いているため都大会に出場する。

 

「へー。いつ?」

「3週間後とかだったはず」

「何で出るのに日にち曖昧なの」

「まあ、色々ございましてー」

 

 相変わらず視線を泳がせたまま返答する俺。覚えていないというか忘れた。祐治から詳細を聞いてたが頭の中に残っていない。仕方ないね、委員会やらバンドやらバイトやら詰め込まれてて受験シーズンも目前にした過密スケジュール中なんだから。雅人から生きてるのがおかしいって言われたくらいだもん。悲しい……。

 

「……忘れたんでしょ」

「そのようなことがあろうはずがございません」

「誤魔化しきれてないよそれ?」

「な、なんだってー?! ……暑い」

「バカなの……?」

 

 オーバーリアクションしたら夏の暑さに負けました。序でにその様子を蔑んだ目で見られました。南無三。冷静に考えたら、彼女のいう通り俺がバカなんだけども。

 

「……そいで、インハイの日程なんか知ってどうするん」

「応援に行こうかなーって」

「あーね……さいですかさいですか」

 

 納得したように頷いてみせる俺。応援に来てくれるっていうのは素直に嬉しい。嬉しいんだ……しかしなんというかその、困ったことがなぁ……うーむ。答えに悩んでいると、リサからジト目を向けられた。やめて、そんな目で見ないで。さっきの蔑んだ目の方がまだ耐えられた。

 

「何その反応。来て欲しくないわけ?」

「来て欲しくないわけじゃないけど……」

 

 机に両肘をつき頭を抱える俺。前述したけど来てくれるのは嬉しいし、来て欲しいか欲しくないと言ったら欲しいんです。だけど、ちょっと相反する点があって……そこがネックでぇ……埒が開かないし伝えちゃうか。

 

「来て欲しくないけど、何?」

「Roseliaのみんなで来るつもりでしょ?」

「そのつもりだけど。何か問題でもある?」

「大アリ。あーたらよく目立つのよ」

 

 俺の懸念それは、異常に目立つRoseliaの面々が揃って応援席にいるということ。ただでさえルックスが良い集まりなのに、ガールズバンドとしての知名度まであるんだから目立たないわけがないんですよ。ええ。

 

「そうなの?」

「そうだが?」

 

 率直な意見を述べたら首を傾げられた。まる。自覚してないのかよ。タチ悪すぎるっピ! あなたらというか、俺の周りの人間はもっと自分のことを理解するべきだと思いまーす。コラそこブーメランって言わない。俺のはアイスラッガーだ、2度と間違えるな。

 

「アイスラッガーがなんだか分からないけど、そう言うことじゃないと思うよ?」

「アイスラッガーってのは……って、ナチュラルに地の文を読むなよ」

「だから洸夜が顔に出してるんだって」

「ぴえん……」

 

 知りたくもない事実を突きつけられた俺は泣いてしまいましたとさ。リサのせいです。あーあ。うーん、これは責任転嫁。今なら処されても文句は言えないね。じごーじとくですよ氷川君。……はい落ち着いた。

 

「別にいーじゃん。応援来て欲しいんでしょ?」

「まあそれもそうだし、Roseliaできてくれたら祐治も喜ぶだろうからな……でも……」

「そう言わずに教えてよ。紗夜も応援行きたいって言ってたし」

 

 こ、コイツ……肉親の話を出してくるのは卑怯すぎするだろ。その話されたら引き下がれなくなるジャマイカ。……こりゃ俺の負けだな。残念。

 

「わーりましたよ……」

 

 大きくため息をつき項垂れた俺は、渋々といった具合でリサにインターハイの日程を伝えていくのであった——

 

 

 

 

 

 迎えた都大会当日。クソ暑いアリーナに立つ我ら倉中第一高等学校男子排球部。いやー、やっぱ都大会ってことで広いですねアリーナ。バレーコートだけで5面張って、各々の間隔が広めにあるとか強すぎるって! 

 とかなんとか言って現実逃避をしている俺。え、理由? 簡単ですよ。観客席(スタンド)に見知った顔がいっぱいいるからですよ。具体的にはRoseliaの5人とウチのベースとドラム。あとは何故かいるPastel*Palettesの5人と後輩組。マジでどうなってんの? 応援してくれてる人たちの半数以上が私的な知り合いになるのおかしいだろ。後パスパレ、どうやってきた。どうやってスケジュール空けた。意味がわからん。

 

「お兄ちゃーん! 頑張ってー!」

「ほら、応援されてるぞ、お兄ちゃん」

「じゃかましい……あ、ほら、燐子がこっち見てるぞ」

「……ミ゜」

「これから整列なんだからしっかりしてくれよ祐治(キャプテン)

 

 スタンドからこちらを見据える燐子の姿に撃沈する祐治と呆れた様子で声をかける雅人。試合を前にして緊張感がないって? 本当にその通りでございます。でもガチガチに緊張してるよりいいかなと……。

 

「んじゃあ、行きましょうか」

『オー!』

 

 祐治の掛け声に反応しエンドラインに並ぶ。そして、主審のホイッスルに合わせお辞儀しセンターネット沿いまで駆けて行く。

 

『おなしゃーっす!』

『しゃーっす!』

 

 互いに握手を交わし各々監督の元へと向かっていく。そうして今回の作戦を説明された後、スタメンはコートにその他はベンチへと移動する。ちなみに今回、俺はスタメンなのでコートに立ってます。スタートの配置としてはレフトに雅人、センターには俺と同学年の水戸、そしてライトにはセッターである祐治。以上3人が前衛(フロント)であり後衛(バック)セッター対角(オポジット)である俺がレフトに、センターには水戸の対角となる1年の大宮、ライトにはレフト対角でこれまた俺と同学年の赤城が入っている。

 なんて説明をしている間に主審によるポジション確認が終わったため、リベロである2年の前橋を含めた7人は自陣の中央に集まって円陣を組んだ。

 

「キャプテン、目標は?」

「もちろんストレート勝ちで」

「はいはい。がんばりまーす」

 

 大宮の問いにストレート勝ちを宣言するキャプテンと、そんなキャプテンからの視線を振られ緩く頷く俺。流石ウチのキャプテン、強気に出る。これはしびあこ不可避。間違ってもRoseliaのドラマーのことではない。

 

「よし——行くぞ!」

「「「「「「おー!」」」」」」

 

 円陣を終え、いよいよ試合に臨んでいく。さて今回はサーブ権は相手側から始まるため、こちらは守備である。各々がスタートポジションに着き、開始を待つ中、主審の甲高いホイッスルが鳴り響き相手4番からの強烈なスパイクサーブがこちらへと撃ち込まれてきた。

 

「オーライ!」

 

 大宮に変わって中に入っていたリベロの前橋が、凄まじい前回転を持ったボールをアンダーカットで受け、勢いを殺すように高めのパスに変える。そうして上がった一撃目。その真下にセッターの祐治が入るとほぼ同時に、レフトの雅人がコートの外側へと大きく開いていく。

 

「レフト!」

 

 雅人の迫真の呼び声に呼応するかのように、レフトへとトスを上げる祐治。やや長めのオープントスを貰った雅人は、1フェイク踏みつつ3テンポで助走をつけると、大きく踏み込みボール目掛けて飛び上がる。

 

「3枚!」

「カバー入れー!」

 

 赤城やベンチからの声を受けつつ、それぞれがカバーの体勢に入る中雅人はボールを大きくインパクトし、相手ブロックに叩きつける。そのボールは、ブロックで大きく弾んだかと思うと、相手バックセンター目掛けて飛んでいく。その様子を遠目に見ながらも、各自が本来守るべき場所へ移動した。ちなみに俺の場合、後ろにいる時はバックセンターを守る。だから何って話なんだけども。

 

「OK!」

 

 打ち上がったボールの下に入った、相手のバックセンターを守る7番が丁寧なオーバーレシーブをし、セッターへと送球する。それを受けたセッターは、即座にアタックへと入ったセンターアタッカーにトスを上げ、Aクイックへと変化させた。

 その鮮やかな速攻前に、予想こそしていたが対応が間に合わなかったらしい水戸がワンテンポほど遅れてアタックに飛びかかるも、ブロックをスルーして俊足のボールが撃ち込まれる。……落とすわけには! 

 

「……上がった!」

 

 咄嗟に反応し飛びついた俺が、相手のクイックを伸ばした右腕で引っかけなんとか直上に打ち上げるも、アタックラインより後ろ側に上げてしまう。流石に遠いか……? 一抹の不安を覚えた俺であったが、それを払拭するかのように、祐治がトスを上げるためにボールの下へと入ってきた。

 

「ナイス、反応ッ!」

「レフトもう一本!」

「ライト平行!」

 

 雅人、水戸がそれぞれアタックを呼ぶ中、トスを上げようとする祐治がこちらにアイコンタクトをしてくる。ああ……そういうことね。

 色々察した俺は数歩後ろに下がると、助走をつけ始める。そんな俺の手前、祐治によって上げられたトスは、レフトでもライトでもなく、センターに上げられた。それも高め、且つアタックラインよりも少し手前に。

 その球を見て、テンポをずらしながら助走しタイミングを合わせた俺は、アタックラインよりも手前で踏み切りボールへと喰らい付く。

 呼びにも無かったバックセンターからの攻撃に、相手は少なからず動揺しているようで、ブロックの動きが少しばかりぎこちなく感じられた。しかしながら、今の俺にそんなことは関係ない。ブロックが来ようが来まいが相手コートにボールを叩きつける。ただそれだけだから。

 

「3枚! 3枚!」

 

 雅人からブロックの枚数を貰いつつ思いっきりボールをインパクトする。

 それにワンテンポ程遅れて飛び上がった相手ブロッカー陣。内センターブロッカーの指先が俺のスパイクを捉えるも、勢いを殺せず軽く跳ねただけでコートの外へと飛んでいく。そのボールを7番が必死に追いかけるも間に合わずコート外の床にボールは落下した。

 

「っしゃあ!」

「ナイスキル!」

 

 主審のホイッスルを聞いたのちガッツポーズする俺と声をかけてくれた水戸。素直に得点取れた喜びが大きくてガッツポーズしちゃったぜ。後水戸の声かけも普通に嬉しい。最高。

 

「祐治ー! ナイストスー!」

「お兄ちゃーん! ナイススパイクー!」

「なんか日菜とリサだけやけに声通ってねぇか……?」

「そんな気がする……」

 

 サーブを撃ちに来た祐治にボールを渡しながら、ギャラリーの様子について話て苦笑し合う。そんなこんなの内に、ホイッスルがなり試合が再開する。祐治がサービスのトスを上げた後、正面からは「ジャンプ!」と声が聞こえてくる。その通りに、俺の後ろからはスパイク(ジャンプ)サーブが飛んでいき、リベロである相手の3番がそのボールをカットする。だが、カットされたボールは割れた——しっかりとした返球にならず、アタックラインよりも少し後ろ側、それも相手のライト側に飛んでいった。

 

「相変わらずエグいサーブ……」

 

 ぼやきながら、スタートポジションから定位置であるライト側に移っていく。さて、1発目が崩れた相手チームはと言うと、後衛を守るセッターによるトスは諦めたらしく、センターブロッカーである5番による2段トスでレフトにボールが運ばれていく。

 

「2段レフト!」

「2枚行くぞ!」

「あいよ」

 

 前橋から球種が叫ばれる中、水戸とブロックに着いた俺は息を合わせた2枚ブロックで相手アタッカーである1番のアタックのコースを絞らせていく。が、相手はそんなことはお構いなしに俺の左手と水戸の右手に当たる形で弾を放った。案の定俺達の手に当てられたボールはある程度の勢いを殺せたものの、シャットすることは叶わず後ろ側へと抜けた。

 

「ワンチ!」

「OK!」

 

 跳ねたボールに反応してくれた赤城が、アンダーレシーブで少し速めながらも完璧な位置調整でセットポジションに返球する。同時にブロックしていた位置から離れ軽くコートの外側に開いていく俺。雅人、水戸両名もまた、俺と同様に助走距離を取りトスを呼ぶ。

 

「レフト平行!」

「A!」

「C超!」

 

 雅人、水戸、俺の呼び声を聴きながらセットポジションでジャンプトスを行った祐治が上げたのは——Aクイック。

 既にセッターの前で待ち構える形を取っていた水戸がボールを反射的にインパクトし素早い攻撃を擊ち放った。が、そのボールに反応を見せ見事に打ち上げた相手リベロ。それ反応できるの普通にすごいな……。

 

「レフトオンリーだぞ!」

 

 祐治の声が響く中レフトに上げられた相手のトスに従い、再度レフトアタッカーに(はばか)るよう集結する俺と水戸。そうして2枚ブロックで相手アタッカーの妨害をするが、どうも俺の右傍が空いていたらしくそこを強打が抜けていく。

 

「ヤバ……!」

 

 冷や汗を垂らし抜けていったボールの行方を追っていくと、強打を取り損ねた祐治とコートに打ち付けられたボールを捉えた。やっちまった……! 短い主審のホイッスルが響いた後、俺は祐治の元へと駆け寄る。

 

「悪い……」

「コース絞れてるのに反応できなかった俺が悪い。次行くぞ次」

「そうそう。ワンカットすれば問題無いですよ」

 

 祐治と前橋の言葉に頷いた俺は、守備位置へと向かう。……持ってかれても、取り返せば良い。そうだな。内心で切り替えを入れていると、観客席からの声が聞こえてきた。

 

「洸夜! 切り替えて!」

「次だよ次ー!」

 

 声が多くて誰の声だかはっきり分からなかったものの、声援を受け気を引き締める。とりあえず1本集中、と。

 大きく息を吸い、吐ききったところでホイッスルが鳴り相手サーブが襲いかかってくる。フローターにより繰り出されたサーブは、大きく曲がりながら、左側を守る雅人の元へと向かっていく。

 

「オーライ!」

 

 アンダーカットでボールを上げる雅人だったが、その変化についていけなかったようでボールはネットに近い所へと向かっていく。マズい、後衛である祐治が上げるには厳しいラインかもしれない。

 思うが早く動き出した俺の元に、ほぼ同時にセットアップに入るべく走ろうとしていた祐治の声が聞こえてきた。

 

「スイッチ!」

 

 その声を聞くなりジャンプしてセットアップに移った俺は、背面をセンターネットと平行にして上体をCの字に軽く曲げながら真横に上げるイメージでレフトに向けて平行トスを行う。

 そのボールの行先ことレフトサイドでは、既にコート外に開いて助走を始める雅人がいた。そんな雅人は、自分で言うのも変だが割れた状態から完璧に上げた平行トスにしっかりと合わせ、2枚付いた相手のブロックを撃ち抜き相手コートにボールを叩きつけた。

 

「うっしゃあ!!」

 

 ホイッスルとほぼ同時に、歓喜の叫びを上げる雅人。それに続くようにして俺達も歓喜や賞賛の声を上げる。

 

「ナイスキル!」

「ナイスキナイスキー。流石ウチのエース」

 

 雅人とタッチを交わしながら赤城、俺と言った具合に声をかける。いやマジでナイスキル。あそこから決め切れるのほんとに凄いんよ。なんでかって言えば、普段から撃ち慣れてる正規のセッターのトスじゃないもので決めているので……もっと簡単に言うと、普段とは違う状況でいつもと同じことがでからってことなんですよ。分かりにくいですよね。はい。まあそんなわけで雅人はすごいということになります。

 

「褒めんな褒めんな。洸夜もナイストス」

「サンキュ。水戸ナイスサー」

「先に圧かけるなし」

 

 雅人の言葉に謝意を述べながら、次のサーバーである水戸にボールと共に声援を送ったら軽く怒られました。悲しいなぁ。でも水戸の言う通り過ぎるのでそれ以上は何も言えなくなりました。残念。

 後方から前方に広がる相手コートへと視線を戻した俺は、水戸の対角として前に出てきた大宮と雅人に両サイドを挟まれる形で、次の主審のホイッスルを待った——

 

 

 

 

 

 あの後、2セット先取して見事勝利を収めた俺達は、トーナメントを勝ち進み決勝まで駒を進めた。そして都大会最後となる決勝戦、その後の閉会式を終え荷物をまとめている途中、俺は一同の元をお手洗いに行くという名目で離れ、人気のない通路にへと足を運んでいた。

 

「自販がこの辺にあったような……」

 

 お手洗いを済ませた後、持参していた水筒の中身を空にしてしまっていた俺は飲み物を探して彷徨っていた。いやまさか2.2L入る水筒の中身を空にするとか思わないじゃん? で、試合の合間にこの辺通った時に自販機が見えた気がしたのだ買いに来た次第なのですが……お察しの通り、迷いました。多分こっちじゃなくて反対側の通路だったんだろうな、と自分に言い聞かせつつ来た道を引き返そうとした時、こちらに歩いてくる人影を捉える。

 

「……リサ?」

 

 何故リサがここにいるのか、と疑問に思いながらも彼女の元へ歩み寄っていく。近づいていくと、更に疑問点が増え始めた。彼女の目元が赤く腫れていたからだ。

 

「……洸夜ッ」

 

 こちらを認識した途端、顔を歪め飛びついき嗚咽を漏らし始めるリサ。本当にどうしたの貴方。何があったの。普通に心配になるんだけども。……あと正直、抱き付かれるのちょっと辛いです。だって汗臭いんだもん今……。

 

「リサ……どうした?」

「洸夜達が……負けちゃって……決勝まで行ったのに……!」

 

 震える声で訳を話してくれるリサ。それで彼女の目元が腫れている訳にも合点がいった。俺達は、この大会決勝まで駒を進めはしたものの、決勝戦において敗北を喫した。試合自体は3セット目までもつれ込んだものの、最終的に取られて試合終了と言った感じで。そのことに対してリサは、悲しんでいてくれたんだ。優しいよ、本当に。

 

「ありがとう。泣いてくれて」

 

 有り難かったり申し訳なかったりと複雑な思いを飲み込んだ俺は、優しく彼女を抱き返し礼を言う。あー、こんなに人が泣いてくれるのにあまり悲しくない俺ってもしかして心が冷たいのかな? 

 

「ううっ……洸夜達の夏、これで終わっちゃう……」

「えっ……」

 

 内心で心境の在り方について悩んでいたところ、リサの口から飛び出した言葉に驚くハメになった。えーっと、リサが泣いてる理由ってそういうことなの? あかん、これは俺達とで認識齟齬が起こってるやつだ。

 

「今井さん……泣いていただいているところ申し訳ないのですが、俺達のインハイ、まだ続くんですよ……」

「……え?」

 

 驚愕の声と共に顔を上げたリサ。驚くよな。そうだよな。だって俺達負けて優勝逃してるんだから。ハッキリ言ってここで終わってしまうって言われても否定はできない。もっとも——他の県での大会だった場合だが。

 

「都大会って言うのは、全国大会への出場枠が2枠あるんだ」

「2枠……じゃあ、洸夜達は」

 

 リサの問いかけに首を縦に振る。俺達の今回の成績は惜しくも準優勝、つまるところ2位である。なので優勝校と準優勝であるウチはそれぞれ全国大会に出場できるという訳だ。

 

「そうだったんだ……アタシ泣き損じゃん」

 

 瞳の端に滲んでいた涙を拭ったリサは小さく笑う。……泣き損なんてことはないけどな。さっきも言ったけど、リサの気持ちは嬉しい限りだし。

 

「そんなことない。正直、負けたこと自体は悔しいから」

「そっか……」

 

 普段なら言わないような自身の胸中を吐露する。言わないというかいう必要がないと、そう思ってるけど今回ばかりは言わなきゃいけない。そんな気がしたから、口にした。ただ、それだけ。

 

「そういうこと。だからまあ、さっきも言ったけどその、改めてありがとう」

「どういたしまして? それはそれとして、洸夜に騙されたからお詫びとしてアタシのお願い1個聞いてね」

「はえ?」

 

 意図していない形で告げられた彼女の言の葉に、変な声をあげ固まってしまう俺。お詫び……詫び……侘び寂び? というか俺騙してないんだけど……なーして? 

 

「——全国大会、勝ってね」

 

 訳がわからずに心の中で慌てふためいている最中、リサの口から出たお願いとやらは、激励の意をもった優しく俺自身が叶えてあげたいと思える物だった。

 

「もちろん」

「それから、今度のライブ絶対来てね?」

「おう待てぇ。お前今さっき1個って言ったじゃないか」

 

 首を縦に振って返答したところで、追加のお願いが飛んできました。待て待て待て。1個って言ったのに2個目が出てきてるじゃねぇか。というか言われんくてもRoseliaのライブは観に行くから安心してな? 

 

「洸夜、それにリサも。こんなところにいたのね」

「……友希那?」

 

 リサに色々物申したく思っていたら、Roseliaのボーカルがご降臨なされました。何しにきたんだこの歌姫。リサに用事かな? 

 

「友希那〜☆どうかしたの?」

「洸夜に用事がね。鹿島君が『帰れない』と怒っていたわ」

「あ……」

 

 視線を向けながらこちらへと告げられた台詞に俺は本日何度目かの硬直を起こす。そして我に返るや否、その場から走り出した。やった。やっちまった。戦犯だ! 

 

「やらかしたぁ!!」

 

 叫びながら通路を抜け荷物のある場所を目指し疾走する。チームメイトたちを長時間待たせてるってことになってるじゃないですかちょっと! 

 このあと走って荷物のところまで戻ると同時にチームメイトに対してスライディング土下座をかました俺であったが、祐治と監督それぞれから大目玉を食らうのであった。ちゃんちゃん。




閲覧ありがとうございました。

代表作→ https://syosetu.org/novel/298695/

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